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2021年5月20日 (木) 23:10時点における版
規格争い(きかくあらそい、規格戦争)とは、同じ用途で非互換技術規格が並立状態にあること。特に電子媒体やインタフェース、ソフトウェアの分野で用いられる。
発生原因
自社が研究開発した技術規格を業界標準規格(優位規格)にせんとする開発者や企業の間で起こる争い。
開発者にとって全ての規格が同じになった場合、市場のコモディティ化が生じる。そうすると、競争の要因は価格だけとなり、特に低開発費・低価格を武器とする新規参入者や発展途上国との競争に晒される。
自社の採用する規格が業界標準規格になった場合、自社の投資(研究、開発、設備、社内教育、使用者間のコミュニティ)が更に活用でき、場合によってはその規格に含まれる技術に関して特許ライセンス収入が見込める。
しかし、そうでない場合には投資が無駄になったり、二重投資になる。場合によっては逆に特許ライセンス料を払う必要がある(ただし、対抗規格にも自社規格と同じ特許が使われている場合があり、規格争いで敗北してもライセンス料収入が入る場合はある)。
収束原因
規格争いが収束する原因には、以下のものがある。
- ある規格が優勢となり、業界標準規格となる。
- その原因にはその規格自体の技術的な優劣の他に参入メーカーが多かった、市場影響力の大きいメーカーが参入した、関連商品(例えばビデオ機器におけるビデオソフト)が多かったと言った外部要因もある。
- 複数規格の対応機器が主流になる(例:記録型DVDにおけるDVDスーパーマルチ)。
- 当初は対抗規格と見られたが、次第にその特性に見合った棲み分けができて共存するようになる(例:USBとIEEE 1394、IrDAとBluetoothなど)。
- 規格争い中に消費者が別の市場(異なる流通形態、次世代規格、既存方式など)に移り、元の市場が縮小して規格争いも低調になる。
- 流通形態が根本的に変わってしまい、消費者や市場が流れていった(例:音楽CDの後継規格争い中に、インターネットによるiTunes Storeによる音楽配信と、それをiPod・iTunesなどのデジタル音楽プレイヤーで視聴する形式が普及)。
- 規格争い中に次世代規格が登場し、消費者や開発者の関心がそちらに流れた(例:ビデオ戦争においてはDVD-RWとDVD-RAMが決着する前に、DVDの後継規格の勝者がブルーレイとなり、各陣営ともブルーレイに注力するようになった。この件では市場影響力が大きい上DVDまでのビデオ規格では敵対していたパナソニックとソニーが後継規格ではどちらもブルーレイ陣営であったことは特記に値する)。
- 代替手段の普及により消費者や開発者の関心が失われた(例:MOとZIPの争いは、CD-Rに押されて低調のまま推移し、ブロードバンドインターネットによるデータ交換環境の整備やUSBメモリの出現により、両陣営とも大きな普及は見られないまま収束した)。
- 規格争い中の技術が標準化され、各陣営がそれに従う(例:WebクライアントサイドスクリプトのJScriptとJavaScriptの争いは、標準仕様のDOM、ECMAScriptが策定され、両陣営が従ったことにより収束した)。
長所と短所
消費者と開発者の立場によって、長所にも短所にもなる。
- 消費者にとっては、選択した規格が負けた場合、その規格に対応する機器や媒体、ソフトウェアが次第に入手しにくくなって、いずれ使えなくなる。その規格で記録した情報にアクセスできなくなるばかりか、費やした費用が無駄になったり、「勝った規格」の機器を買い直す必要もあり[1]、最悪の場合、「負けた規格」で記録した情報を「勝った規格」への移行さえできない場合もある[2]。また、それを回避するために、大勢が決まるまで買い控えが発生する。
- 規格同士での競争があるため、規格自体の機能向上が期待できる。同時に、当事者の企業は多くの投資を余儀なくされ、低価格化しにくい。しかし、一方では規格争いで主導権を握るために開発者が低価格戦略に出ることにより、かえって低価格化が速く進むこともある。
- 選択していた規格が負けてしまった企業は、最終的には二重投資を承知の上で勝った規格へ転換するか、撤退かの二者択一を求められる。また製品の場合製造物責任法(PL法)により、製造終了後から数年間は修理・消耗品販売・製品回収などの責任を負うことが義務付けられている[要出典]ため、「負けた規格」を購入した消費者に対するアフターサービスも必要となる。
- 消費者にとって、「勝った規格」と「負けた規格」においての変換アダプター[3]または変換ソフトウェアや、双方の規格に両対応した製品[4]を導入する必要性が出てきて、消費者の二重投資になる可能性がある。
- 開発者にとっては、ニーズによってハードウェアであれば複数の規格に対応した機器を製造する必要があり[5]、ソフトウェアであれば複数の規格に対応したコーデックで開発する必要があり、二重投資が必要になり、その結果、製品価格の上昇につながりかねない。
- ソフトウェア開発分野において、開発環境が違う複数の規格をサポートする必要性が少なからずあるため、当該ソフトウェアの特定プラットフォームにおいて不具合が発生するリスクが多くなる。
主な規格争い
家電機器
民生市場について記す。太字の項目は、商業的・歴史的にみて勝利したといえるもの。細い文字は引き分け、もしくは敗北。
- ビデオ関連規格(ビデオ戦争の項目も参照)
- ビデオテープレコーダ:VHS対ベータマックス
- 映像ディスク:LD対VHD
- 小型ビデオテープ:8ミリビデオ対VHS-C
- デジタルビデオテープ:DV対D-VHS
- 映像ディスク:Super Density Disc対MultiMedia Compact Disc - 製品化前にDVDとして統一。
- DVD関連規格
- DVD フォーラム規格(DVD-)対DVD+RW アライアンス規格(Plus, DVD+) - 下記参照
- DVD-RW対DVD-RAM - ただしほとんどのパソコン書き込み型DVDドライブはハイパーマルチであり、いずれも使用できることがほとんどである。
- 記録型映像ディスク:DVD-RAM/RW対MVDISC
- DVDの後継規格:Blu-ray対HD DVD
- オーディオ関連規格
- レコードの形状:円筒型(フォノグラフ)対円盤型(グラモフォン)
- 1877年にトーマス・エジソンが発明した円筒型レコード(フォノグラフ)と、1887年にエミール・ベルリナーが発明した円盤型レコード(グラモフォン)が競合したが、プレスによる量産が可能でありまた保管にも幅をとらないという利便性からグラモフォンの人気が高まり、フォノグラフは衰退していった。
- レコードの回転数:LP盤(33回転)対EP盤(45回転)対SP盤(78回転)
- DATレコーダ向け高解像度・超高音質記録方式:96kHzハイサンプリング(HS-DAT)対スーパー・ビット・マッピング(SBM)- 技術面では結局、引き分けに終わったものの、両者ともに今日のデジタルオーディオにおけるハイレゾリューションオーディオの源流となった。
- 大衆向けデジタルオーディオ向け録再メディア:MD対DCC
- 音楽CDの後継規格(次世代オーディオディスク):SACD対DVD-Audio - いずれの規格も音楽CDを置き換えるほどの普及はしていないものの、これらの経緯が後に登場するハイレゾ音楽配信サービスに活かされる事となった。
- 音声圧縮:MP3対AAC-LC対WMA対ATRAC - MP3が勝利。AAC-LCはMP3の後継規格であるがやはり競合に勝利した。
- カセットテープ:コンパクトカセット対エルカセット - コンパクトカセットが勝利。オープンリールテープと同一のテープ幅の磁気テープを採用したカセット規格として、「オープンリールの音質をカセットに」と言うキャッチフレーズで製造販売されたエルカセットだったが、オープンリールとの差別化の失敗やデッキの販売メーカーでの規格普及の足並みの悪さ、コンパクトカセットに高音質のメタルテープが登場したことやコンパクトカセットデッキの高性能化、さらにウォークマンの登場で外で音楽を聞けるようになったコンパクトカセットテープに対して、テープの規格上ポータブル化に適さなかったため、完全に敗北し発売開始から4年足らずで終売・消滅した。
- レコードの形状:円筒型(フォノグラフ)対円盤型(グラモフォン)
- メモリーカード
- 大型:コンパクトフラッシュ対スマートメディア対マルチメディアカード
- 中型:SDメモリーカード対メモリースティック対xDピクチャーカード
- SDメモリーカードを導入するメーカーが多く、メモリースティックを導入したメーカーはソニー及び数社で、ソニーを含むメモリースティック陣営も、互換性の観点からSD陣営に移行もしくはSD / MS又はSD / XD両対応になっていった。
- 小型:miniSDカード対メモリースティックDuo
- 後述の超小型に需要が移行した。
- 超小型:microSDカード対メモリースティックマイクロ対MMCマイクロ
コンピュータ関連
→「コンピュータ分野における対立」も参照
- バス規格:MCA対EISA対VLバス対PCI
- 大容量リムーバブルメディア:MO対HS対ZIP対各種リムーバブルハードディスク(左記のディスクメディアの中ではMOが最後まで残ったがいずれも普及率が低く、2000年にUSBメモリが登場するとたちまち駆逐された)
- DRAM規格:DDR SDRAM対RDRAM
- 小型フロッピーディスク:3.5インチ対3インチ
- ウェブ標準:W3C対WHATWG - W3CはWHATWGの仕様を取り入れたHTML5の策定を決定し、両者の対立は収束した。
- オフィス文書のファイル形式:OpenDocument対OpenXML
- Labelflash対LightScribe
- UWB:MB-OFDM対DS-UWB
- 無線LAN:IEEE 802.11対HomeRF
- クロスプラットフォームのHTMLレンダリングエンジン:Blink対Gecko
- 電子文書:PDF対DjVu対XPS(OpenXPS)対FlashPaper
- リッチコンテンツ:Shockwave対Flash対Silverlight対HTML5対Javaアプレット
- HTML5の表現力向上と軌を一にしてブラウザからのプラグイン排除が進んでいき、特にモバイル環境ではHTML5以外の選択肢はなくなっている。
- 非接触型ICカード(NFC):MIFARE対Type B対FeliCa
- スマートフォンにおけるモバイル決済:NFC(MIFARE/FeliCa)決済 対 QRコード決済(→QR・バーコード決済を参照)
- ウェブブラウザにおける動画圧縮コーデック:H.264対WebM(VP8)
- デジタル映像入出力インタフェース:HDMI対DisplayPort
- リムーバブルハードディスク:iVDR対REV対RDX
- タブレットのOS:Windows 8 & 8.1/Windows10/Windows RT & RT 8.1(Surfaceなど)対Android対iOS(iPad)対Fire OS(Kindle Fire)
携帯電話
- 第2世代移動通信システム:GSM / GPRS対cdmaOne
- 第3世代移動通信システム:EDGE対W-CDMA(UMTS)対CDMA2000(→CDMA2000 1x)
- 日本においてはW-CDMA対CDMA2000 1x
- 第3.5世代移動通信システム:HSPA対CDMA2000 1xEV-DO
- 第3.9世代移動通信システム:LTE(FDD-LTE)対モバイルWiMAX[6]対AXGP(TD-LTE)対DC-HSDPA対
UMB[7] - 第4世代移動通信システム:LTE-Advanced対WiMAX2.1対AXGP(TD-LTE)
- モバイルブラウザにおけるマークアップ言語:cHTML対HDML(WML)対MML - XHTML(XHTML MP)の策定により収束。なお、各種マークアップ言語においては後方互換がある程度確保されている。
- スマートフォンのOS(多数のベンダーがあるもの):Windows Mobile(Windows Phone)対Android対Tizen対
Firefox OS(撤退)対Ubuntu Phone OS(撤退) - フィーチャー・フォンのOS:Symbian OS対Linux対REX OS(2018年内ライセンス終了予定)
- 非接触型無線タグ:NFC(Type A/B)対おサイフケータイ(Type F)対Apple Pay 対 Android Pay
- 無線アクセス(広帯域無線アクセス(BWA)):モバイルWiMAX対AXGP
放送、録音分野
- デジタルテレビ放送:ISDB対DVB対ATSC対DTMB
- 移動体デジタル放送:ワンセグ(ISDB-T)対DVB-H対DMB対ATSC-M/H
- 携帯端末向けマルチメディア放送:ISDB-Tmm(新規受付停止・サービス終了済み)対MediaFLO(日本ではISDB-Tmmと争い落選、米国ではサービス終了済み)対DVB-H対T-DMB
- アナログ放送:NTSC対PAL対SECAM
電気自動車(EV)の急速充電器
その他
注
- ^ 時には「勝った規格」へ転換するがために、「負けた規格」とは関連が薄い部位まで買い替えなければならなくなる。
- ^ 例えば、日本のデジタル放送をHD DVDに録画していた場合コピーガードが掛かってしまっているためにBlu-ray Discへの移行もできず、HD DVDプレーヤーの供給が止まってしまうとそのエアチェックを再生できなくなってしまう。
- ^ 例として、デジタル入出力インターフェースではHDMIとDisplayPortの場合、それぞれDVI-Dを基にしている。
- ^ DVD関連規格の場合、DVD-Video / DVD-ROM / DVD-Rを基にしているため、また、消費者の混乱を避けるため、早期にDVDマルチ(RW / RAM対応)・デュアル(RW / +RW対応)・スーパーマルチ/ハイパーマルチ(RW / RAM / +RW対応)が開発・発売された
- ^ 例としてVLバスとPCIが混在していた頃においては、VLバス対応ボードとPCI対応ボードの双方を製造する必要があった[要出典]。
- ^ モバイルブロードバンドの現状から、便宜上LTEとWiMAXの同率勝利とする。理由としてはLTEにおいてはNTTドコモのXiが従量制(厳密には7GBまでのプライスキャップ制・7GB超は128kbps制限又は、2GB毎に追加料金)移行及び専用の音声通話プランが必要であり、au(KDDI・沖縄セルラー電話連合)が+WiMAXでは従来の音声通話プラン及び定額制維持(ただし、au 4G_LTEでは専用の音声通話プラン及び7GB制限はNTTドコモのXiと同様)。またauの+WiMAXを提供しているMNOにあたるUQコミュニケーションズのUQ WiMAXやイー・モバイル(現:Y!mobile(ソフトバンク・ウィルコム沖縄連合))のEMOBILE LTE(現:Y!mobile LTE)では定額使い放題では(ただし2014年4月末まで、それ以降は10GB制限)あるが、前者は電波の届かない地域があり、後者はLTEエリア外ではDC-HSDPAでの通信となるなど課題が多い。
- ^ 当初は日本のKDDIおよび同社の連結子会社にあたる沖縄セルラー電話を含む国内外のCDMA2000系陣営が採用する予定だったが、2008年11月に日本のKDDIがLTEに正式参入を表明したのを受け、米・クアルコムが進めてきた第3.9世代移動通信システムのUMBは事実上規格取消しとなった。