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個体数減少の最大の原因であった欧米による大規模商業捕鯨は現在は中断しているが、米・[[アラスカ]]州やカナダでも先住民([[イヌピアト]]系エスキモー族<ref>{{Harvnb|Hess|2003}}</ref>や[[ユピク]])に[[捕鯨問題#原住民生存捕鯨|原住民生存捕鯨]]の許可枠が与えられている。カナダ東岸では、20世紀初頭に姿を消してこの種の捕鯨は途絶えていたが、個体がちらほら目撃されるようになって1996年の1頭を境に[[ヌナブト準州]]で生存捕鯨が再開されている<ref>{{Harvnb|Dahl|Hicks|Jull|2000}}, p.196-</ref>。 |
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この捕獲(年に25〜40頭程度)は、個体数回復の妨げになるものではないと見られ、[[アラスカ]]沖における個体数は、商業捕鯨停止後は増加傾向にある。 |
この捕獲(年に25〜40頭程度)は、個体数回復の妨げになるものではないと見られ、[[アラスカ]]沖における個体数は、商業捕鯨停止後は増加傾向にある。 |
2021年5月13日 (木) 02:30時点における版
ホッキョククジラ | |||||||||||||||||||||||||||
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ホッキョククジラ Balaena mysticetus
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保全状況評価[1][2][3] | |||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) ワシントン条約附属書I
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Balaena mysticetus Linnaeus, 1758[3][4] | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ホッキョククジラ[5] | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Arctic right whale[4][5] Bowhead[3][4] Bowhead whale[3][4][5] Great polar whale[4][5] Greenland right whale[3][4][5] | |||||||||||||||||||||||||||
ホッキョククジラ(Balaena mysticetus)は、偶蹄目(鯨偶蹄目とする説もあり)セミクジラ科ホッキョククジラ属に属する鯨類。
他のセミクジラ科のクジラ同様、ホッキョククジラは、大西洋で16-17世紀頃から捕鯨の対象となり、近代捕鯨により全世界的にも個体数が激減し、1966年に商業捕獲が一時停止(モラトリウム)とされた。
北欧(スピッツベルゲン島海域)では、依然として絶滅危惧域を脱してはいないという主張はあるが、科学的根拠はない。ベーリング=チュクチ=ボーフォート海域(BCB)では、科学指導のもとで先住民生存捕鯨 (subsistence whaling)が行われており、この海域では捕鯨前の頭数近くまで達しているとの IWC 意見書 (2005年)が出ている。ベーリング海域や、米・アラスカ州やカナダのエスキモーなどの間で生存捕鯨が再開されている。(#生存捕鯨の節参照)
分布
ベーリング海個体群は5月に北極海へ移動し、アラスカ半島を経由して夏季はマッケンジー川河口(ボーフォート海)、秋季はチュコト半島北岸へ移動し、冬季はチュコト半島南岸で生活する[5]。オホーツク海には周年生息する[5]。例外的に日本では1969年に大阪湾に迷行した例[4]や、知床半島で2015年に目撃されており[6]、石狩湾にて化石も発見されている。[7]
形態
ホッキョククジラの体格はがっしりしていて暗色の体色をしている。全長18mに達するが、20~21mという記録の他にも、24.54m、重さ100tという捕獲記録や、イヌイットの証言でも24m以上の個体が存在するという[8][9]。雌は雄よりも大きくなる。クジラの肉の脂肪層は他のいかなる動物よりも厚く、平均43-50cmに及ぶ。背鰭はない[4][5]。強く湾曲した下顎と細い上顎をもつ。髭板の長さは3mを超え、これはヒゲクジラの中でも最も長い。この髭板は水中の小さな獲物を濾し取るために用いられる。
このクジラは非常に骨太な頭蓋骨をもち、呼吸する際にこれを使って氷を下から砕いている。イヌイットの目撃例では、頭部で厚さ60センチメートルの氷を呼吸のために割ることもできるとされる[5]。唇には瘤状の隆起がない[5]。下顎先端に淡色斑が入る[5]。
生態
ホッキョククジラは、ヒゲクジラの中で唯一、生涯を北極海およびその周辺で過ごす種である。ベーリング海南西部で冬季を過ごしている様子がアラスカ沖で見かけられる。ホッキョククジラは春になると流氷の開口部を追って北へ移動し、オキアミや動物プランクトンを餌としながらチュクチ海やボーフォート海へ向かう。ホッキョククジラは泳ぐのが遅く、たいていは単独または最大6頭程度の小さな群で移動を行う。
ホッキョククジラは社会性で攻撃的ではなく、脅威を感じたときには氷の下に逃げこむ。一度の潜水で40分ほど海面下に潜っていられるものの、ホッキョククジラは深くまで潜水を行うとは考えられていない。このクジラを捕食する生物は人間のほかはシャチのみである。
ホッキョククジラは高度な発声能力をもち、移動・採餌および集団行動の際のコミュニケーションのために水中音を使用している。長く繰り返される音声を発することもあり、これは求愛の歌であると考えられている。ホッキョククジラの習性としては他に、水上に飛び上がって体を水面に打ちつけるブリーチング、尾びれで水面を打つテール・スラッピング、体を垂直にして水面から顔を出すスパイホッピングなどがある。繁殖行動は一つがいの間、あるいは数頭の雄と1-2頭の雌からなる騒がしい集団内で行われる。
繁殖は3月から8月にかけて観察される。繁殖活動は、クジラが10-15歳程度になった頃から行われるようになる。メスは3-4年に一度、13-14ヶ月間の妊娠期間の後に出産する。ホッキョククジラの新生児は全長4.5m、平均体重1,000kgほどで、最初の一年で9mほどに成長する。
ホッキョククジラの寿命は、かつては他のクジラと同程度の60-70年ほどと考えられていた。しかし最近の詳細な研究により、少なくとも数頭の個体は150-200年程度生きているという信頼のおける結論が得られた(別の報告によると、90歳の雌がなおも繁殖可能であるという)[10]。
その寿命の長さから、ホッキョククジラの雌は更年期障害に陥ると考えられている。大型の動物の観察(幼獣を除く)が、この仮説の支えとなっている[11]。
人間との関係
1500年代から大規模な商用捕鯨が開始され、生息数は激減した[3]。20世紀初頭には乱獲による資源枯渇に伴い、商用捕鯨は終了した[5]。商用捕鯨の終了に伴い、ハドソン湾・Foxes Basin・バフィン湾・デーヴィス海峡の個体群は増加傾向にあると考えられている[3]。
ホッキョククジラは、脂肪を含む肉・鯨油・骨および鯨鬚を目当てに捕鯨の対象とされてきた。ホッキョククジラはセミクジラと近縁で、泳ぎが遅く、死亡した後も水面に浮いているという捕獲に適した特性もセミクジラと共通している。このためかつてはセミクジラと同種とされ、英語の「right whale」はホッキョククジラとセミクジラの双方を指す(普通は「セミクジラ」と訳すがセミクジラ科全般の意味でも使用[12])[注釈 1]。
19世紀半ばに同種か別種か議論が分かれていたことが分かる資料として、作者が捕鯨船員経験がある小説『白鯨』(1851年発表)の第32章「鯨学」では、セミクジラの別名の一つに「グリーンランドクジラ(現在ではGreenland Whaleはホッキョククジラのこと)」というものがあげられているが、すぐ後の方で「イギリス人の言うグリーンランドクジラはアメリカ人の言うセミクジラと別種ではないかともいわれている(ただし、語り手は「特にそうは思えないが」と断っている。)」とも記述がある。
アラスカなどの先住民は古くからその捕獲を行ってきた。欧米による大規模商業捕鯨が行われる以前には、北極地方には50,000頭以上(推定)のホッキョククジラが存在した。商業捕鯨は1611年にスヴァールバル諸島やグリーンランド付近で開始され、各海域の資源を枯渇させると新たな海域に移動した。北太平洋では、商業捕鯨は1800年代半ばに開始され、その後20年間でホッキョククジラの個体数の60%以上が捕獲される結果となった。
個体数減少の最大の原因であった欧米による大規模商業捕鯨は現在は中断しているが、米・アラスカ州やカナダでも先住民(イヌピアト系エスキモー族[13]やユピク)に原住民生存捕鯨の許可枠が与えられている。カナダ東岸では、20世紀初頭に姿を消してこの種の捕鯨は途絶えていたが、個体がちらほら目撃されるようになって1996年の1頭を境にヌナブト準州で生存捕鯨が再開されている[14]。
ロシアのチュクチ族も、1997年にIWCに働きかけて、当時、年間7回の「ストライク(銛打ち回数)」枠を獲得した[注釈 2]。
この捕獲(年に25〜40頭程度)は、個体数回復の妨げになるものではないと見られ、アラスカ沖における個体数は、商業捕鯨停止後は増加傾向にある。
世界全体での個体数は10,000頭程度で、商業捕鯨以前の 1/5 以下とする意見がある。これはおおよそ正しいとされるが、異説もある。実際の実況推計には、統計に大きな誤差幅や実施年度の時間差などがあり、加えて商業捕鯨前の頭数を再現するにも歴史的背景に不明な点があって、正確な記述は難しい。
2008年現在の IUCN 発表では、全世界生息数は公称 10,000 頭超過(保守的な数)であるが、同発表による三大個体群の統計平均推計数を粗合計すれば 20,000 頭超になる[注釈 3]。
また、IUCN 発表では、捕鯨開始前の推定生息数は 49,000-59,000頭の幅で推計されているが[15]、ここでも絶対確定できる数は 「少なくとも 24,000頭超過」であるという)。バスク人が西大西洋で捕鯨の対象にしていたクジラ種にホッキョククジラが含まれるかなどが不明点であるため、特定が困難とされる[3]。
米・カナダでは先住民によるホッキョククジラの生存捕鯨が若干数許されているため、日本捕鯨推進派からは、これは米国の「絶滅の危惧にある種を保護する」捕鯨政策の矛盾点としてとりあげられることがある(例:「ホッキョククジラの捕獲枠延長に反対する国家は、こうしたアメリカのダブルスタンダードを厳しく批判した」、元水産庁の捕鯨問題担当である小松正之の寄稿[16])。
2000年代に日本のメディアにおいてホッキョククジラを「北極セミクジラ」[注釈 4]と、英名を直訳した誤訳の報道をした上で「早急な保護が必要な絶滅危惧種」と婉曲な報道をし、米国の生存捕鯨をダブルスタンダードと印象付け、世論に反映させることとなった。
1975年のワシントン条約発効時から附属書Iに掲載されている[2]
- ベーリング・チュクチ・ボーフォート海個体群
- 20世紀初頭の商用捕鯨の終了に伴い、生息数が増加傾向にある[3]。正確な生息数は不明だが、2001年における生息数は8,200 - 13,500頭と推定されている[3]。
- LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[3]
- オホーツク海個体群
- 信頼できるデータがなく、生息数の推移は不明とされる[3]。
- ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[3]
- スヴァールバル諸島・バレンツ海個体群
- 信頼できるデータがなく、生息数の推移は不明とされる[3]。生息数は少ないと考えられ、近年は幼獣や若齢個体の目撃例もない[3]。
- CRITICALLY ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[3]
ギャラリー
-
シャンタル諸島にて
脚注
注釈
- ^ とくに区別する場合は前に分布域をつけてセミクジラは「southern~」、ホッキョククジラは「Greenland~」などと呼び分けたり、頭部形状からホッキョククジラを「bowhead」と呼ぶ。
- ^ Kerttula 2000,p.159(このときクロクジラは水揚げで120頭の枠を得た)
- ^ IUCN 2008年発表のベーリング=チュクチ=ボーフォート海域(BCB) が 10,500 (8,200–13,500) (2001年統計、Zeh and Punt 2005年発表), ハドソン湾 - フォックス湾 3,633 (1,382-9,550) (Koski et al. 2006) バフィン湾 - デービス海峡 7,300 (3,100–16,900)(Cosens et al. 2006)。カナダの調査はいずれも海域の一部のみを調査した暫定推計。これらの統計平均数のの単純合計が21,433
- ^ 2000年代から幾分か遡るが漫画『美味しんぼ』激闘鯨合戦でも「北極セミクジラ」と表記されている。
出典
- ^ Appendices I, II and III<https://cites.org/eng>(Accessed 15/01/2018)
- ^ a b UNEP (2018). Balaena mysticetus. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (Accessed 15/01/2018)
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Reilly, S.B., Bannister, J.L., Best, P.B., Brown, M., Brownell Jr., R.L., Butterworth, D.S., Clapham, P.J., Cooke, J., Donovan, G., Urbán, J. & Zerbini, A.N. 2012. Balaena mysticetus. The IUCN Red List of Threatened Species 2012: e.T2467A17879018. doi:10.2305/IUCN.UK.2012.RLTS.T2467A17879018.en. Downloaded on 15 January 2018.
- ^ a b c d e f g h 大隅清治 「ホッキョククジラ」『日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料』水産庁編、水産庁、1994年、584-591頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m 粕谷俊雄 「ホッキョククジラ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、146-147頁。
- ^ https://www.asahi.com/sp/articles/ASH6R5VQ2H6RIIPE026.html
- ^ http://www.city.ishikari.hokkaido.jp/soshiki/bunkazaih/2785.html
- ^ Bockstoce, J. R., and J. J. Burns (1993). "Commercial Whaling in the North Pacific Sector". In Burns, J. J.; Montague, J. J.; and Cowles, C. J. The Bowhead Whale. Special Publication No. 2: The Society for Marine Mammalogy.
- ^ Bernd Würsig, J.G.M. Thewissen, Kit Kovacs, 2017, Encyclopedia of Marine Mammals:3rd Edition, ISBN 978-0128043271, Academic Press
- ^ Bowhead Whales May Be the World's Oldest Mammals
- ^ Rare Whales Can Live to Nearly 200, Eye Tissue Reveals
- ^ 「【right】 ~whale」『ジーニアス英和大辞典』 大修館書店、2001-2004、[電子辞書]CASIO XD-ST9200
- ^ Hess 2003
- ^ Dahl, Hicks & Jull 2000, p.196-
- ^ IUCN 2008年発表の Spitsbergen 海域 24,000 Hudson etc.海域 12,000 Ohkotsk 2000 BCB 海域 10-20,000 の和
- ^ Komatsu 2002 Isana, Dec. 2002: "The countries opposed to the extension of the quota for bowhead whales harshly criticized the double standard of the United States"
参考文献
- Hess, Bill (2003) (preview). Gift of the Whale: The Inupiat Bowhead Hunt, a Sacred Tradition. Sasquatch Books. ISBN 9781570613821
- Dahl, Jens (2000). Nunavut: Inuit Regain Control of Their Lands and Their Lives. IWGIA. ISBN 9-788-790-73034-5, p.196-
- Kerttula, Anna M. (2000) (pdf). Antler on the Sea: The Yup'Ik and Chukchi of the Russian Far East. Cornell University Press. ISBN 9780801486852
- Komatsu, Masayuki (Dec. 2002). “What was achieved at the Shimonoseki IWC Meeting” (htm). Isana No.26 ., "The countries opposed to the extension of the quota for bowhead whales harshly criticized the double standard of the United States"