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「代謝経路」の版間の差分

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'''代謝経路'''(metabolic pathway)とは、[[生化学]]において[[細胞]]の中で起きる連鎖的な[[化学反応]]のことである。それぞれの経路で、元となる[[化学物質]]が一連の化学反応によって修飾される。[[酵素]]はこれらの反応を[[触媒]]するが、適切に働くためにしばしば[[ミネラル]]、[[ビタミン]]やその他の[[補因子]]を必要とする。非常に多くの[[代謝物質]]が関わるため、代謝経路は非常に複雑なものになる。さらに、多くの独立した経路が1つの細胞内で共存する。このような代謝経路の集合は[[代謝経路網]]と呼ばれる。経路は、器官の[[恒常性]]を維持するために重要である。[[異化 (生物学)|異化]]経路と[[同化 (生物学)|同化]]経路はしばしば独立に働き、最終産物として新しい生体分子を作る。
'''代謝経路'''(たいしゃけいろ、{{Lang-en-short|metabolic pathway}})とは、[[生化学]]において[[細胞]]の中で起きる連鎖的な[[化学反応]]のことである。酵素反応の[[反応物]]、生成物、中間体は[[代謝産物]]と呼ばれ、[[酵素]]が[[触媒作用|触媒]]する一連の化学反応によって修飾される<ref name="Nelson">{{cite book|last2=Cox|author1=David L. Nelson|first2=Michael M.|title=Lehninger principles of biochemistry|date=2008|publisher=W.H. Freeman|location=New York|isbn=978-0-7167-7108-1|edition=5th|url=https://archive.org/details/lehningerprincip00lehn_1}}</ref>{{rp|26}}。ほとんどの代謝経路では、ある酵素の[[生成物]]は次の酵素の[[基質 (化学)|基質]]として機能する。ただし、副産物は廃棄物とみなされて、細胞から除かれる<ref>{{Cite book|title=Biochemistry and molecular biology|last=Alison|first=Snape|others=Papachristodoulou, Despo K., Elliott, William H., Elliott, Daphne C.|isbn=9780199609499|edition=Fifth|location=Oxford|oclc=862091499|year = 2014}}</ref>。これらの酵素が機能するためには、多くの場合、[[ミネラル|食事無機質]]、[[ビタミン]]、およびその他の[[補因子]]を必要とする{{cn|date=April 2022}}。


さまざまな代謝経路が、真核細胞内におけるその位置や、特定の{{Ill2|細胞区画|en|Cellular compartment}}におけるその経路の重要性に基づいて機能する<ref>{{cite book|title=An Introduction to Metabolic Pathways by S. DAGLEY|date=March 1971|publisher=Sigma Xi, The Scientific Research Society|edition=Vol. 59, No. 2|page=266|last1=Nicholson|first1=Donald E.}}</ref>。たとえば、[[電子伝達系]]および[[酸化的リン酸化]]は、すべて[[ミトコンドリア内膜|ミトコンドリア膜]]で起こる<ref name="Harvey">{{cite book|last1=Harvey|first1=Richard A|title=Biochemistry|date=2011|publisher=Wolters Kluwer|location=Baltimore, MD 21201|isbn=978-1-60831-412-6|edition=5th}}</ref>{{rp|73, 74 & 109}}。一方、[[解糖系]]、[[ペントースリン酸経路]]、および[[脂肪酸生合成]]は、いずれも細胞の[[細胞質基質]]で起こる<ref name="Voet, Voet, Pratt">{{cite book|first1=Donald|last1=Voet|author2=Judith G. Voet|author3=Charlotte W. Pratt|title=Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level|date=2013|publisher=Wiley|location=Hoboken, NJ|isbn=978-0470-54784-7|edition=4th|title-link=Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level}}</ref>{{rp|441–442}}。
代謝経路では、元の分子が段階的に修飾を受け、別の物質に変化する。最終産物は次の3つのうちいずれかとして使われる。
*代謝経路の最終産物としてすぐに消費される。
*次の代謝経路を開始する。
*細胞に貯蔵される。


代謝経路には2種類あり、エネルギーを利用して分子を合成する能力([[同化 (生物学)|同化経路]])と、複雑な分子を分解してその過程でエネルギーを放出する能力([[異化 (生物学)|異化経路]])を持つことを特徴とする<ref name="Campbell">{{cite book|last1=Reece|first1=Jane B.|title=Campbell biology / Jane B. Reece ... [et al.].|date=2011|publisher=Benjamin Cummings|location=Boston|isbn=978-0-321-55823-7|pages=[https://archive.org/details/campbellbiologyj00reec/page/143 143]|edition=9th|url=https://archive.org/details/campbellbiologyj00reec/page/143}}</ref>。これらの2つの経路は、一方から放出されたエネルギーを、もう一方が使い切るという点で、互いに補完し合っている。異化経路の分解プロセスによって、同化経路の生合成を行うために必要なエネルギーが供給される<ref name="Campbell" />。これらの2つの異なる代謝経路に加え、[[代謝経路#両性代謝経路|両生代謝経路]]があり、エネルギーの必要性や利用可能性に基づいて、異化または同化のいずれかを行うことができる<ref>{{cite book|last1=Berg|first1=Jeremy M.|last2=Tymoczko|first2=John L.|last3=Stryer|first3=Lubert|last4=Gatto|first4=Gregory J.|title=Biochemistry|date=2012|publisher=W.H. Freeman|location=New York|isbn=978-1429229364|page=429|edition=7th}}</ref>。
異化や同化の中間体と最終産物の濃度も特定の代謝経路の代謝速度に影響を与える。


これらの経路は生体内の[[恒常性]]を維持するために必要であり、経路を通る代謝物の{{Ill2|フラックス (代謝)|en|Flux (metabolism)|label=フラックス(流束)}}は、細胞での必要性と基質の利用可能性に応じて制御される。ある経路の最終生成物は、すぐに使用されることも、別の代謝経路を開始することも、後で使用するために保存されることもある。細胞の[[代謝]]は、相互接続された経路の精巧な{{Ill2|代謝経路網|en|Metabolic network}}から構成され、分子の合成と分解(同化と異化)を可能にする。
==概要==
それぞれの代謝経路は、中間体を介した一連の化学反応の連鎖から構成されている。1つの化学反応の生成物が続く反応の基質となる。代謝経路はしばしば一方向へ流れると考えられている。全ての化学反応は技術的には可逆であるが、細胞内の環境は[[熱力学]]的に一方向に反応が流れるのに適している。例えば、ある経路で特定の[[アミノ酸]]の合成が行われるとしても、分解は独立した別の経路で行われる。この「ルール」の例外となる例の1つは[[グルコース]]の代謝である。[[解糖系]]ではグルコースの分解が行われるが、解糖系のいくつかの反応はグルコースの合成([[糖新生]])では逆向きに使われる。


== 概要 ==
*解糖系は、最初に発見された代謝経路である。
#グルコースが細胞に入ると、[[アデノシン三リン酸|ATP]]によってすぐに[[リン酸化]]され、不可逆的に[[グルコース-6-リン酸]]となる。
#[[脂質]]や[[タンパク質]]のエネルギー源が不足した時には、解糖系の一部の反応が逆向きに進んでグルコース-6-リン酸を生成し、その後、[[グリコーゲン]]や[[デンプン]]として貯蔵される。
*代謝経路はしばしば[[フィードバック阻害]]を受ける。
*[[クエン酸回路]]等、回路の中を流れて循環する代謝経路もある。回路内では、全ての生成物が続く反応の基質となる。
*[[真核生物]]の異化経路、同化経路はしばしば互いに独立で、[[細胞小器官]]等の区画も離れている。必要な酵素や補因子も別である。


[[File:Net reactions for glycolysis of glucose, oxidative decarboxylation of pyruvate, and Krebs cycle..png|alt=Glycolysis, Oxidative Decarboxylation of Pyruvate, and Tricarboxylic Acid (TCA) Cycle|thumb|グルコース解糖系、ピルビン酸脱炭酸、クエン酸回路(クレブス回路)の各代謝経路の純反応|650x650px]]
=== 細胞呼吸 ===
{{Main|細胞呼吸}}
いくつかの独立した経路で、[[栄養素]]分子の異化によって、ATPやその他のエネルギーとして使われる小分子(例えば[[グアノシン三リン酸|GTP]]、[[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸|NADPH]]、[[フラビンアデニンジヌクレオチド|FADH]])へのエネルギーの伝達に関与する。


それぞれの代謝経路は、1つの化学反応の生成物が続く反応の[[基質 (化学)|基質]]となるなど、中間体によってつながった一連の生化学反応から構成されている。代謝経路はしばしば一方向に流れるものと考えられている。すべての化学反応は技術的には可逆的であるが、細胞内の環境は、反応が一方向に進む方が[[フラックス (物理学)|フラックス]]が[[熱力学]]的に有利であることが多い<ref>{{Cite journal|last1=Cornish-Bowden|last2=Cárdenas|first1=A|first2=ML|author-link1=Athel Cornish-Bowden|date=2000|title=10 Irreversible reactions in metabolic simulations: how reversible is irreversible?|url=http://academic.sun.ac.za/natural/biochem/btk/book/cornish-bowden.pdf|journal=Animating the Cellular Map|pages=65–71}}</ref>。たとえば、ある経路で特定のアミノ酸の合成が行われるとしても、そのアミノ酸の分解は別の経路を通じて行われる。この「ルール」の例外の一例として[[グルコース]]の代謝がある。[[解糖系]]ではグルコースの分解が行われるが、解糖経路のいくつかの反応は可逆的でグルコースの再合成([[糖新生]])が行われる。
これらの経路は、生きている全ての生物の中で起こっている。
# [[解糖系]]
* [[解糖系]]は最初に発見された代謝経路である。
# [[グルコース]]が細胞内に入ると、[[アデノシン三リン酸|ATP]]によってすぐに[[リン酸化]]され、不可逆的な[[解糖系#段階1: グルコースのリン酸化|第1段階]]で[[グルコース-6-リン酸|グルコース6-リン酸]]となる。
# [[嫌気呼吸]]、[[好気呼吸]]
# [[脂質]]または[[タンパク質]]のエネルギー源が過剰な場合、[[解糖系|解糖]]経路の特定の反応が逆向きに進んでグルコース6-リン酸を生成し、これが[[グリコーゲン]]あるいは[[デンプン]]として貯蔵される。
# [[クエン酸回路]]
* 代謝経路はしばしば[[酵素阻害剤|フィードバック阻害]]によって[[制御理論|制御]]される。
# [[酸化的リン酸化]]
* [[クレブス回路|クエン酸回路(クレブス回路、TCA回路ともいう)]]のように、回路内の各構成分子がその回路に後続する反応の基質となって、循環して流れる代謝経路もある(説明は後述)。
* [[真核生物]]の[[同化 (生物学)|同化]]経路と[[異化 (生物学)|異化]]経路は、しばしば互いに独立し、[[細胞小器官]]の区画によって物理的に分離されるか、異なる酵素や補因子の要件によって生化学的に分離されている。


== 主要代謝経路 ==
この他、ほぼ全ての生物で行われている経路には次のようなものがある。
* [[ベータ酸化]]
* [[糖新生]]
* [[アミノ酸の代謝分解|アミノ酸代謝]]
* [[尿素回路]]
* [[ヌクレオチド代謝]]
* [[グリコーゲン]]合成
* [[ペントースリン酸経路]]
* [[ポルフィリン]]合成
* [[脂質生成]]
* [[HMG-CoAレダクターゼ]]経路


{{for|視覚化した主要代謝経路<!--additional infographics of major metabolic pathways-->|#外部リンク<!--#External links-->}}
非生物からエネルギーを合成する方法には次のものがある。
{{metabolic metro}}
* [[光合成]]([[植物]]、[[藻類]]、[[シアノバクテリア]])
{{Clear}}
* [[化学合成]](一部の[[細菌]])


=== 異化経路(異化作用) ===
==関連項目==

*[[代謝]]
'''[[異化経路]]'''({{Lang-en-short|catabolic pathway}})とは、エネルギー担体である[[アデノシン二リン酸]](ADP)や[[グアノシン二リン酸]](GDP)に[[高エネルギーリン酸結合]]の形で形成され、それぞれ[[アデノシン三リン酸]](ATP)と[[グアノシン三リン酸]](GTP)を生成し、エネルギーの純放出をもたらす一連の反応である<ref name="Harvey" />{{rp|91–93}}。最終生成物の自由エネルギーが低くなるため、それによって、この正味の反応は熱力学的に有利である<ref name="Clarke">{{cite book|last1=Clarke|first1=Jeremy M. Berg; John L. Tymoczko; Lubert Stryer. Web content by Neil D.|title=Biochemistry|date=2002|publisher=W. H. Freeman|location=New York, NY [u.a.]|isbn=0716730510|edition=5. ed., 4. print.|url=https://archive.org/details/biochemistrychap00jere}}</ref>{{rp|578–579}}。異化経路は、[[糖質]]、脂質、タンパク質などのエネルギー源からATP、GTP、[[NADH]]、[[NADPH]]、[[FADH2]]などの形で化学エネルギーを生産する[[発エルゴン反応]]系である。最終生成物は、多くの場合、二酸化炭素と水、およびアンモニアである。同化作用の[[吸エルゴン反応]]と相まって、細胞は同化経路の元の前駆体を用いて新しい[[高分子]]を合成することができる<ref>{{cite book|author1=Peter H. Raven|author2=Ray F. Evert|author3=Susan E. Eichhorn|title=Biology of plants|date=2011|publisher=Freeman|location=New York, NY|isbn=978-1-4292-1961-7|pages=100–106|edition=8.}}</ref>。共役反応の例は、[[解糖系|解糖]]経路における[[ホスホフルクトキナーゼ]]酵素による[[フルクトース-6-リン酸]]のリン酸化で、ATPの加水分解を伴い、中間体の[[フルクトース-1,6-ビスリン酸]]が生成される。この代謝経路での化学反応は熱力学的に非常に有利で、そのため、細胞内では不可逆的である。
*[[代謝経路網]]

*[[代謝工学]]
<chem>Fructose-6-Phosphate + ATP -> Fructose-1,6-Bisphosphate + ADP</chem>

==== 細胞呼吸 ====

{{Main|細胞呼吸<!-- en:Cellular respiration -->}}

すべての生物は、エネルギーを生産する[[異化 (生物学)|異化]]経路のコアセット<!--core set-->を何らかの形で持っている。これらの経路は、[[栄養素]]の分解によって放出されたエネルギーを、[[アデノシン三リン酸|ATP]]やその他のエネルギーとして使用される小分子([[グアノシン三リン酸|GTP]]、[[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸|NADPH]]、[[フラビンアデニンジヌクレオチド|FADH]]など)に変換する。すべての細胞は[[解糖系]]による[[嫌気呼吸]]を行うことができる。さらに、ほとんどの生物は、[[クエン酸回路]]と[[酸化的リン酸化]]によって、より効率的な[[好気呼吸]]を行うことができる。さらに、[[植物]]、[[藻類]]、[[シアノバクテリア]]は、太陽光を利用して[[光合成]]を行い、非生物から化合物を[[同化 (生物学)|同化的]]に合成することができる。[[File:Gluconeogenese Schema 2.png|thumb|糖新生のメカニズム|557x557px]]

=== 同化経路(同化作用) ===

前述の異化経路とは対照的に、'''[[同化経路]]'''({{Lang-en-short|anabolic pathways}})はポリペプチド、[[核酸]]、タンパク質、多糖類、脂質などの高分子を構築するために[[化学エネルギー|エネルギー]]の入力が必要である。同化作用の孤立反応は、正の[[ギブスの自由エネルギー|ギブス自由エネルギー]](+Δ''G'')により細胞内では不利である。そのため、[[発エルゴン反応]]との[[カップリング・ベスト II|カップリング]]による化学エネルギーの入力が必要である<ref name="Nelson" />{{rp|25–27}}。異化経路のカップリング反応は、同化経路の[[活性化エネルギー]]全体を低下させ、反応が起こるようにすることで、反応の熱力学に影響を与える<ref name="Nelson" />{{rp|25}}。そうでなければ、[[吸エルゴン反応]]は非自発的である。

同化経路は生合成経路であり、より小さな分子を組み合わせて、より大きく複雑な分子を形成することを意味する<ref name="Clarke" />{{rp|570}}。一例として、解糖系の逆経路は[[糖新生]]と呼ばれ、血液中のグルコース濃度を適切に保ち、脳や筋肉組織に適当量のグルコースを供給するために肝臓や時には腎臓で行われる。糖新生は解糖系の逆経路と似ているが、解糖系とは異なる3つの酵素を含んでいるため、この経路は自発的に行われるようになる<ref>{{cite book|last1=Berg|first1=Jeremy M.|last2=Tymoczko|first2=John L.|last3=Stryer|first3=Lubert|last4=Gatto|first4=Gregory J.|title=Biochemistry|date=2012|publisher=W.H. Freeman|location=New York|isbn=9781429229364|pages=480–482|edition=7th}}</ref>。糖新生の経路の一例を、右上の画像「糖新生のメカニズム」で示している。

=== 両性代謝経路 ===
[[File:Amphibolic Properties of the Citric Acid Cycle.gif|クエン酸回路の両性代謝特性を示す|thumb|506x506px]]

'''{{Ill2|両性 (生物学)|en|Amphibolic|label=両性代謝経路}}'''({{Lang-en-short|amphibolic pathway}})とは、エネルギーの利用可能性または必要性に基づいて、異化または同化のいずれかになりうる経路のことである<ref name="Clarke" />{{rp|570}}。生体細胞におけるエネルギー通貨は[[アデノシン三リン酸]](ATP)であり、そのエネルギーを[[リン酸無水物|リン酸無水物結合]]に蓄積している。このエネルギーは、細胞内で生合成を行ったり、運動を促進したり、能動輸送を調節するために利用される<ref name="Clarke" />{{rp|571}}。両性代謝経路の例として、[[クエン酸回路]]や[[グリオキシル酸回路]]がある。これらの一連の化学反応には、エネルギーを生産する経路と利用する経路の両方が含まれている<ref name="Voet, Voet, Pratt" />{{rp|572}}。右はTCA回路の両性代謝特性を示す図である。

[[グリオキシル酸回路|グリオキシル酸シャント経路]]は[[トリカルボン酸回路|クエン酸回路]](TCA)の代替経路で、TCAの経路を変更することで、炭素化合物の完全な酸化を防ぎ、高エネルギー炭素源を将来のエネルギー源として保存する。この経路は植物[[や]][[細菌]]にのみ存在し、グルコース分子が存在しない状態で起こる<ref>{{cite book|last1=Choffnes|first1=Eileen R.|last2=Relman|first2=David A.|author3=Leslie Pray <!--rapporteurs, Forum on Microbial Threat, Board on Global Health, Institute of Medicine of the National Academies-->|title=The science and applications of synthetic and systems biology workshop summary|date=2011|publisher=National Academies Press|location=Washington, D.C.|isbn=978-0-309-21939-6|page=135}}</ref>。

==調節==

経路全体のフラックス(流束)は、律速段階によって調節されている<ref name="Nelson" />{{rp|577–578}}。これは、反応のネットワークの中で最も遅い段階である。律速段階は経路の初期に起こり、フィードバック阻害によって制御され、最終的に経路全体の速度を制御する<ref>{{cite book|editor-last1=Kruger|editor-first1= Nicholas J.|last1=Hill|first1=Steve A.|last2=Ratcliffe|first2=R. George|title=Regulation of primary metabolic pathways in plants : [proceedings of an international conference held on 9 - 11 January 1997 at St Hugh's College, Oxford under the auspices of the Phytochemical Society of Europe]|date=1999|publisher=Kluwer|location=Dordrecht [u.a.]|isbn=079235494X|pages=258}}</ref>。細胞内の代謝経路は、[[共有結合]]的または[[非共有結合]]的な修飾によって調節される。共有結合による修飾は化学結合の付加や除去を伴うが、非共有結合による修飾([[アロステリック制御]]とも呼ばれる)は[[水素結合]]、[[静電相互作用]]、[[ファンデルワールス力]]を介した酵素へのレギュレータの結合である<ref>{{cite book|last1=White|first1=David|title=The physiology and biochemistry of prokaryotes|date=1995|publisher=Oxford Univ. Press|location=New York [u.a.]|isbn=0-19-508439-X|pages=133}}</ref>。

{{Ill2|フラックス (代謝)|en|Flux (metabolism)|label=代謝フラックス}}とも呼ばれる、代謝経路の代謝回転速度は、[[化学量論]]的反応モデル、代謝物の利用速度、および[[脂質二重層]]を横切る分子の移動速度に基づいて制御される<ref name="Weckwerth">{{cite book|title=Metabolomics methods and protocols|date=2006|publisher=Humana Press|isbn=1597452440|location=Totowa, N.J.|pages=177|editor-last1=Weckwerth|editor-first1=Wolfram}}</ref>。その制御方法の分析は、[[核磁気共鳴分光法]](NMR)または[[ガスクロマトグラフィー–質量分析法|ガスクロマトグラフィー質量分析法]](GC-MS)による質量組成など、[[炭素13|炭素13標識]]を用いる実験に基づいている。これらの技術は、[[タンパク質を構成するアミノ酸]]の質量分布を、細胞内の酵素の触媒活性に統計的な解釈として統合する<ref name="Weckwerth" />{{rp|178}}。

== 代謝経路を標的とした臨床応用 ==

=== 酸化的リン酸化の標的化 ===

代謝経路は、臨床的な治療用途のために標的とすることができる。たとえば、ミトコンドリアの代謝経路網には、[[がん]]細胞の増殖を防ぐために化合物が標的とすることができるさまざまな経路がある<ref name="Frattaruolo">{{cite journal |last1=Frattaruolo |first1=Luca |title=Targeting the Mitochondrial Metabolic Network: A Promising Strategy in Cancer Treatment |journal=International Journal of Molecular Sciences |date=2020 |volume=21 |issue=17 |pages=2–11 |doi=10.3390/ijms21176014|pmid=32825551 |pmc=7503725 |doi-access=free }}</ref>。そのような経路の1つは、[[電子伝達系]](ETC)内の[[酸化的リン酸化]](OXPHOS)である。さまざまな阻害剤は、複合体I、II、III、IVで起こる電気化学反応を[[ダウンレギュレート]](低下)することにより、電気化学的勾配の形成を妨げ、ETCを介した電子の移動をダウンレギュレートすることができる。また、ATP合成酵素で起こる基質レベルのリン酸化を直接阻害し、がん細胞の増殖に必要なエネルギーを供給するATPの生成を阻害することもできる<ref>{{cite journal |last1=Yadav |first1=N. |last2=Kumar |first2=S. |last3=Marlowe |first3=T. |last4=Chaudhary |first4=A. |last5=Kumar |first5=R. |last6=Wang |first6=J. |last7=O'Malley |first7=J. |last8=Boland |first8=P. |last9=Jaynathi |first9=S. |last10=Kumar |first10=T. |last11=Yadava |first11=N. |last12=Chandra |first12=D. |title=Oxidative phosphorylation-dependent regulation of cancer cell apoptosis in response to anticancer agents |journal=Cell Death & Disease |date=2015 |volume=6 |issue=11 |pages=e1969 |doi=10.1038/cddis.2015.305|pmid=26539916 |pmc=4670921 }}</ref>。これらの阻害剤の中には、{{Ill2|ロニダミン|en|Lonidamine}}や[[アトバコン]]など、それぞれ複合体IIと複合体IIIを阻害するものがあり、現在、[[アメリカ食品医薬品局|FDA]]承認のための臨床試験が行われている<ref name="Frattaruolo" />。FDA承認されていない他の阻害剤も、[[in vitro]]で実験的な成功を示している。

=== ヘムの標的化 ===

[[ヘム]]の生合成や吸収は、がんの進行の増進と相関していることから、複合体I、II、IVに存在する重要な[[補欠分子族]](接合団)であるヘムも標的とすることができる<ref>{{cite journal |last1=Hooda |first1=Jagmohan |last2=Cadinu |first2=Daniela |last3=Alam |first3=Md |last4=Shah |first4=Ajit |last5=Cao |first5=Thai |last6=Sullivan |first6=Laura |last7=Brekken |first7=Rolf |last8=Zhang |first8=Li |title=Enhanced heme function and mitochondrial respiration promote the progression of lung cancer cells |journal=PLOS ONE |date=2013 |volume=8 |issue=5 |pages=e63402 |doi=10.1371/journal.pone.0063402|pmid=23704904 |pmc=3660535 |bibcode=2013PLoSO...863402H |doi-access=free }}</ref>。さまざまな分子が、さまざまな機構でヘムを阻害することができる。たとえば、{{Ill2|サクシニルアセトン|en|Succinylacetone}}は、マウス赤白血病細胞において、6-アミノレブリン酸を阻害することにより、ヘム濃度を低下させることが示されている<ref>{{cite journal |last1=Ebert |first1=P. |last2=Hess |first2=R. |last3=Frykholm |first3=B. |last4=Tschudy |first4=D. |title=Succinylacetone, a potent inhibitor of heme biosynthesis: effect on cell growth, heme content and delta-aminolevulinic acid dehydratase activity of malignant murine erythroleukemia cells. |journal=Biochem Biophys Res Commun. |date=1979 |volume=88 |issue=4 |pages=1382–1390 |doi=10.1016/0006-291x(79)91133-1|pmid=289386 }}</ref>。また、HSP1やHSP2などのヘム隔離ペプチドの[[一次構造]]を改変することで、ヘム濃度をダウンレギュレートさせ、非小細胞肺がん細胞の増殖を抑制することができる<ref>{{cite journal |last1=Sohoni |first1=Sagar |last2=Ghosh |first2=Poorva |last3=Wang |first3=Tianyuan |last4=Kalainayakan |first4=Sarada |last5=Vidal |first5=Chantal |last6=Dey |first6=Sanchareeka |last7=Konduri |first7=Purna |last8=Zhang |first8=Li |title=Elevated Heme Synthesis and Uptake Underpin Intensified Oxidative Metabolism and Tumorigenic Functions in Non-Small Cell Lung Cancer Cells |journal=Lung Cancer Cells. Cancer Res. |date=2019 |volume=79 |issue=10 |pages=2511–2525 |doi=10.1158/0008-5472.CAN-18-2156|pmid=30902795 |s2cid=85456667 }}</ref>。

=== トリカルボン酸回路とグルタミン分解の標的化 ===

[[トリカルボン酸回路]](TCA)と[[グルタミン分解]]は、がん細胞の生存と増殖に不可欠であるため、がん治療の標的とすることができる。{{Ill2|イボシデニブ|en|Ivosidenib}}と{{Ill2|エナシデニブ|en|Enasidenib}}というFDA承認の2つのがん治療薬は、それぞれイソクエン酸デヒドロゲナーゼ-1(IDH1)とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ-2(IDH2)を阻害することにより、がん細胞のTCA回路を阻止することができる<ref name="Frattaruolo" />。イボシデニブは[[急性骨髄性白血病]](AML)および[[胆管がん]]に特異的で、エナシデニブは急性骨髄性白血病(AML)のみに特異的である。

胆管がんとIDH-1変異を有する成人患者185名からなる臨床試験では、イボシデニブに無作為に割り付けられた患者において、統計的に有意な改善が認められた(p<0.0001; HR: 0.37)。ただし、これらの患者には、倦怠感、吐き気、下痢、食欲減退、腹水、貧血などの有害作用が見られた<ref>{{cite web |title=FDA approves Ivosidenib for advanced or metastatic cholangiocarcinoma |url=https://www.fda.gov/drugs/resources-information-approved-drugs/fda-approves-ivosidenib-advanced-or-metastatic-cholangiocarcinoma |website=U.S. Food & Drug Administration |date=26 August 2021 |access-date=2022-05-20}}</ref>。AMLとIDH2遺伝子変異を有する成人199名を対象とした臨床試験では、患者の23%がエナシデニブ投与中に中央値8.2ヶ月の完全奏効(CR)<!--complete response-->または部分的な血液学的回復を伴う完全奏効(CRh)<!--partial hematologic recovery-->を経験した。試験開始時に輸血を必要とした患者157名のうち、34%はエナシデニブ投与期間の56日間に輸血を必要としなくなった。試験開始時に輸血を必要としなかった42%の患者のうち、76%は試験終了までに依然として輸血を必要としなかった。エナシデニブの副作用には、悪心、下痢、ビリルビンの上昇、そして最も顕著なものとして分化症候群<!--differentiation syndrome-->が含まれていた<ref>{{cite web |title=FDA granted regular approval to enasidenib for the treatment of relapsed or refractory AML |url=https://www.fda.gov/drugs/resources-information-approved-drugs/fda-granted-regular-approval-enasidenib-treatment-relapsed-or-refractory-aml |website=U.S. Food & Drug Administration |date=9 February 2019 |access-date=2022-05-20}}</ref>。

グルタミン分解の第一反応において、加水分解的な脱アミド化を介してグルタミンをグルタミン酸に変換する酵素[[グルタミナーゼ]](GLS)も標的となりうる。近年、[[アザセリン]]、[[アシビシン]]、CB-839など多くの小分子がグルタミナーゼを阻害することで、がん細胞の生存率を引き下げ、がん細胞の[[アポトーシス]]を誘導することが示されている<ref>{{cite journal |last1=Mates |first1=Jose |last2=Paola |first2=Floriana |last3=Campos-Sandoval |first3=Jose |last4=Mazurek |first4=Sybille |last5=Marquez |first5=Javier |title=Therapeutic targeting of glutaminolysis as an essential strategy to combat cancer |journal=Semin Cell Dev Biol |date=2020 |volume=98 |pages=34–43 |doi=10.1016/j.semcdb.2019.05.012|pmid=31100352 |s2cid=157067127 }}</ref>。CB-839は、卵巣がん、乳がん、肺がんなど、いくつかの癌種で有効な抗腫瘍効果を示すことから、現在、FDA承認に向けた臨床試験が行われている唯一のGLS阻害剤である。

==参照項目==

* [[代謝]] - 生物における生命維持のための一連の化学反応のこと
* {{Ill2|代謝経路網|en|Metabolic network}} - 細胞の生理学的および生化学的特性を決定する代謝および物理的プロセスの完全な集まり
* {{Ill2|代謝経路モデリング|en|Metabolic network modelling}} - 特定の生物の分子メカニズムを可視化し理解を深める方法
* {{Ill2|代謝工学|en|Metabolic engineering}} - 細胞内の遺伝子や制御プロセスを最適化し、細胞が特定の物質を生産できるようにすること
* {{Ill2|KaPPA-View4|en|KaPPA-View4}} - オーミックスデータから代謝制御に関するデータを収録した代謝経路データベース
{{clear right}}

== 脚注 ==

{{Reflist|35em}}

== 外部リンク ==


==外部リンク==
{{Commons category|Metabolic pathways}}
{{Commons category|Metabolic pathways}}
* [http://biochemical-pathways.com/#/map/1 Full map of metabolic pathways]
*[http://www.biocyc.org BioCyc: Metabolic network models for hundreds of organisms]
*[http://www.genome.jp/kegg/ KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes]
* [http://www.astrojan.nhely.hu/protein/bohr1.htm Biochemical pathways, Gerhard Michal]
* [https://www.brenda-enzymes.org/pathway_index.php Overview Map from BRENDA]
*[http://metacyc.org/ MetaCyc: A database of non-redundant, experimentally elucidated metabolic pathways (900+ pathways from more than 800 different organisms).]
* [http://www.biocyc.org/ BioCyc: Metabolic network models for thousands of sequenced organisms]
*[https://web.archive.org/web/20050316052050/http://www.biochemweb.org/metabolism.shtml Metabolism, Cellular Respiration and Photosynthesis - The Virtual Library of Biochemistry and Cell Biology]
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*[http://nashua.case.edu/PathwaysWeb/ PathCase Pathways Database System]
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*[https://web.archive.org/web/20060218034732/http://www2.ufp.pt/~pedros/bq/integration.htm Interactive Flow Chart of the Major Metabolic Pathways]
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*[http://www.metabolicvisualizer.org/ A novel visualization for a Metabolic Pathway]
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2022年5月25日 (水) 21:24時点における版

代謝経路(たいしゃけいろ、: metabolic pathway)とは、生化学において細胞の中で起きる連鎖的な化学反応のことである。酵素反応の反応物、生成物、中間体は代謝産物と呼ばれ、酵素触媒する一連の化学反応によって修飾される[1]:26。ほとんどの代謝経路では、ある酵素の生成物は次の酵素の基質として機能する。ただし、副産物は廃棄物とみなされて、細胞から除かれる[2]。これらの酵素が機能するためには、多くの場合、食事無機質ビタミン、およびその他の補因子を必要とする[要出典]

さまざまな代謝経路が、真核細胞内におけるその位置や、特定の細胞区画英語版におけるその経路の重要性に基づいて機能する[3]。たとえば、電子伝達系および酸化的リン酸化は、すべてミトコンドリア膜で起こる[4]:73, 74 & 109。一方、解糖系ペントースリン酸経路、および脂肪酸生合成は、いずれも細胞の細胞質基質で起こる[5]:441–442

代謝経路には2種類あり、エネルギーを利用して分子を合成する能力(同化経路)と、複雑な分子を分解してその過程でエネルギーを放出する能力(異化経路)を持つことを特徴とする[6]。これらの2つの経路は、一方から放出されたエネルギーを、もう一方が使い切るという点で、互いに補完し合っている。異化経路の分解プロセスによって、同化経路の生合成を行うために必要なエネルギーが供給される[6]。これらの2つの異なる代謝経路に加え、両生代謝経路があり、エネルギーの必要性や利用可能性に基づいて、異化または同化のいずれかを行うことができる[7]

これらの経路は生体内の恒常性を維持するために必要であり、経路を通る代謝物のフラックス(流束)英語版は、細胞での必要性と基質の利用可能性に応じて制御される。ある経路の最終生成物は、すぐに使用されることも、別の代謝経路を開始することも、後で使用するために保存されることもある。細胞の代謝は、相互接続された経路の精巧な代謝経路網英語版から構成され、分子の合成と分解(同化と異化)を可能にする。

概要

Glycolysis, Oxidative Decarboxylation of Pyruvate, and Tricarboxylic Acid (TCA) Cycle
グルコース解糖系、ピルビン酸脱炭酸、クエン酸回路(クレブス回路)の各代謝経路の純反応

それぞれの代謝経路は、1つの化学反応の生成物が続く反応の基質となるなど、中間体によってつながった一連の生化学反応から構成されている。代謝経路はしばしば一方向に流れるものと考えられている。すべての化学反応は技術的には可逆的であるが、細胞内の環境は、反応が一方向に進む方がフラックス熱力学的に有利であることが多い[8]。たとえば、ある経路で特定のアミノ酸の合成が行われるとしても、そのアミノ酸の分解は別の経路を通じて行われる。この「ルール」の例外の一例としてグルコースの代謝がある。解糖系ではグルコースの分解が行われるが、解糖経路のいくつかの反応は可逆的でグルコースの再合成(糖新生)が行われる。

  • 解糖系は最初に発見された代謝経路である。
  1. グルコースが細胞内に入ると、ATPによってすぐにリン酸化され、不可逆的な第1段階グルコース6-リン酸となる。
  2. 脂質またはタンパク質のエネルギー源が過剰な場合、解糖経路の特定の反応が逆向きに進んでグルコース6-リン酸を生成し、これがグリコーゲンあるいはデンプンとして貯蔵される。

主要代謝経路

主要代謝経路の地下鉄路線図風の地図



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主要代謝経路路線図様の地図。任意のテキスト (経路名、代謝物名) をクリックすると該当する記事に移動する。 一重線:ほとんどの生活型に共通する経路。二重線:ヒトには存在しない経路 (植物、菌類、原核生物などに存在する) 。 オレンジ色の節: 炭水化物代謝 紫色の節: 光合成 赤色の節: 細胞呼吸 ピンク色の節: 細胞シグナル伝達 青色の節: アミノ酸代謝 灰色の節: ビタミンおよび補因子の代謝。 茶色の節: ヌクレオチドおよびタンパク質の代謝。 緑色の節: 脂質代謝

異化経路(異化作用)

異化経路: catabolic pathway)とは、エネルギー担体であるアデノシン二リン酸(ADP)やグアノシン二リン酸(GDP)に高エネルギーリン酸結合の形で形成され、それぞれアデノシン三リン酸(ATP)とグアノシン三リン酸(GTP)を生成し、エネルギーの純放出をもたらす一連の反応である[4]:91–93。最終生成物の自由エネルギーが低くなるため、それによって、この正味の反応は熱力学的に有利である[9]:578–579。異化経路は、糖質、脂質、タンパク質などのエネルギー源からATP、GTP、NADHNADPHFADH2などの形で化学エネルギーを生産する発エルゴン反応系である。最終生成物は、多くの場合、二酸化炭素と水、およびアンモニアである。同化作用の吸エルゴン反応と相まって、細胞は同化経路の元の前駆体を用いて新しい高分子を合成することができる[10]。共役反応の例は、解糖経路におけるホスホフルクトキナーゼ酵素によるフルクトース-6-リン酸のリン酸化で、ATPの加水分解を伴い、中間体のフルクトース-1,6-ビスリン酸が生成される。この代謝経路での化学反応は熱力学的に非常に有利で、そのため、細胞内では不可逆的である。

細胞呼吸

すべての生物は、エネルギーを生産する異化経路のコアセットを何らかの形で持っている。これらの経路は、栄養素の分解によって放出されたエネルギーを、ATPやその他のエネルギーとして使用される小分子(GTPNADPHFADHなど)に変換する。すべての細胞は解糖系による嫌気呼吸を行うことができる。さらに、ほとんどの生物は、クエン酸回路酸化的リン酸化によって、より効率的な好気呼吸を行うことができる。さらに、植物藻類シアノバクテリアは、太陽光を利用して光合成を行い、非生物から化合物を同化的に合成することができる。

糖新生のメカニズム

同化経路(同化作用)

前述の異化経路とは対照的に、同化経路: anabolic pathways)はポリペプチド、核酸、タンパク質、多糖類、脂質などの高分子を構築するためにエネルギーの入力が必要である。同化作用の孤立反応は、正のギブス自由エネルギー(+ΔG)により細胞内では不利である。そのため、発エルゴン反応とのカップリングによる化学エネルギーの入力が必要である[1]:25–27。異化経路のカップリング反応は、同化経路の活性化エネルギー全体を低下させ、反応が起こるようにすることで、反応の熱力学に影響を与える[1]:25。そうでなければ、吸エルゴン反応は非自発的である。

同化経路は生合成経路であり、より小さな分子を組み合わせて、より大きく複雑な分子を形成することを意味する[9]:570。一例として、解糖系の逆経路は糖新生と呼ばれ、血液中のグルコース濃度を適切に保ち、脳や筋肉組織に適当量のグルコースを供給するために肝臓や時には腎臓で行われる。糖新生は解糖系の逆経路と似ているが、解糖系とは異なる3つの酵素を含んでいるため、この経路は自発的に行われるようになる[11]。糖新生の経路の一例を、右上の画像「糖新生のメカニズム」で示している。

両性代謝経路

クエン酸回路の両性代謝特性を示す

両性代謝経路英語版: amphibolic pathway)とは、エネルギーの利用可能性または必要性に基づいて、異化または同化のいずれかになりうる経路のことである[9]:570。生体細胞におけるエネルギー通貨はアデノシン三リン酸(ATP)であり、そのエネルギーをリン酸無水物結合に蓄積している。このエネルギーは、細胞内で生合成を行ったり、運動を促進したり、能動輸送を調節するために利用される[9]:571。両性代謝経路の例として、クエン酸回路グリオキシル酸回路がある。これらの一連の化学反応には、エネルギーを生産する経路と利用する経路の両方が含まれている[5]:572。右はTCA回路の両性代謝特性を示す図である。

グリオキシル酸シャント経路クエン酸回路(TCA)の代替経路で、TCAの経路を変更することで、炭素化合物の完全な酸化を防ぎ、高エネルギー炭素源を将来のエネルギー源として保存する。この経路は植物細菌にのみ存在し、グルコース分子が存在しない状態で起こる[12]

調節

経路全体のフラックス(流束)は、律速段階によって調節されている[1]:577–578。これは、反応のネットワークの中で最も遅い段階である。律速段階は経路の初期に起こり、フィードバック阻害によって制御され、最終的に経路全体の速度を制御する[13]。細胞内の代謝経路は、共有結合的または非共有結合的な修飾によって調節される。共有結合による修飾は化学結合の付加や除去を伴うが、非共有結合による修飾(アロステリック制御とも呼ばれる)は水素結合静電相互作用ファンデルワールス力を介した酵素へのレギュレータの結合である[14]

代謝フラックス英語版とも呼ばれる、代謝経路の代謝回転速度は、化学量論的反応モデル、代謝物の利用速度、および脂質二重層を横切る分子の移動速度に基づいて制御される[15]。その制御方法の分析は、核磁気共鳴分光法(NMR)またはガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)による質量組成など、炭素13標識を用いる実験に基づいている。これらの技術は、タンパク質を構成するアミノ酸の質量分布を、細胞内の酵素の触媒活性に統計的な解釈として統合する[15]:178

代謝経路を標的とした臨床応用

酸化的リン酸化の標的化

代謝経路は、臨床的な治療用途のために標的とすることができる。たとえば、ミトコンドリアの代謝経路網には、がん細胞の増殖を防ぐために化合物が標的とすることができるさまざまな経路がある[16]。そのような経路の1つは、電子伝達系(ETC)内の酸化的リン酸化(OXPHOS)である。さまざまな阻害剤は、複合体I、II、III、IVで起こる電気化学反応をダウンレギュレート(低下)することにより、電気化学的勾配の形成を妨げ、ETCを介した電子の移動をダウンレギュレートすることができる。また、ATP合成酵素で起こる基質レベルのリン酸化を直接阻害し、がん細胞の増殖に必要なエネルギーを供給するATPの生成を阻害することもできる[17]。これらの阻害剤の中には、ロニダミン英語版アトバコンなど、それぞれ複合体IIと複合体IIIを阻害するものがあり、現在、FDA承認のための臨床試験が行われている[16]。FDA承認されていない他の阻害剤も、in vitroで実験的な成功を示している。

ヘムの標的化

ヘムの生合成や吸収は、がんの進行の増進と相関していることから、複合体I、II、IVに存在する重要な補欠分子族(接合団)であるヘムも標的とすることができる[18]。さまざまな分子が、さまざまな機構でヘムを阻害することができる。たとえば、サクシニルアセトン英語版は、マウス赤白血病細胞において、6-アミノレブリン酸を阻害することにより、ヘム濃度を低下させることが示されている[19]。また、HSP1やHSP2などのヘム隔離ペプチドの一次構造を改変することで、ヘム濃度をダウンレギュレートさせ、非小細胞肺がん細胞の増殖を抑制することができる[20]

トリカルボン酸回路とグルタミン分解の標的化

トリカルボン酸回路(TCA)とグルタミン分解は、がん細胞の生存と増殖に不可欠であるため、がん治療の標的とすることができる。イボシデニブ英語版エナシデニブ英語版というFDA承認の2つのがん治療薬は、それぞれイソクエン酸デヒドロゲナーゼ-1(IDH1)とイソクエン酸デヒドロゲナーゼ-2(IDH2)を阻害することにより、がん細胞のTCA回路を阻止することができる[16]。イボシデニブは急性骨髄性白血病(AML)および胆管がんに特異的で、エナシデニブは急性骨髄性白血病(AML)のみに特異的である。

胆管がんとIDH-1変異を有する成人患者185名からなる臨床試験では、イボシデニブに無作為に割り付けられた患者において、統計的に有意な改善が認められた(p<0.0001; HR: 0.37)。ただし、これらの患者には、倦怠感、吐き気、下痢、食欲減退、腹水、貧血などの有害作用が見られた[21]。AMLとIDH2遺伝子変異を有する成人199名を対象とした臨床試験では、患者の23%がエナシデニブ投与中に中央値8.2ヶ月の完全奏効(CR)または部分的な血液学的回復を伴う完全奏効(CRh)を経験した。試験開始時に輸血を必要とした患者157名のうち、34%はエナシデニブ投与期間の56日間に輸血を必要としなくなった。試験開始時に輸血を必要としなかった42%の患者のうち、76%は試験終了までに依然として輸血を必要としなかった。エナシデニブの副作用には、悪心、下痢、ビリルビンの上昇、そして最も顕著なものとして分化症候群が含まれていた[22]

グルタミン分解の第一反応において、加水分解的な脱アミド化を介してグルタミンをグルタミン酸に変換する酵素グルタミナーゼ(GLS)も標的となりうる。近年、アザセリンアシビシン、CB-839など多くの小分子がグルタミナーゼを阻害することで、がん細胞の生存率を引き下げ、がん細胞のアポトーシスを誘導することが示されている[23]。CB-839は、卵巣がん、乳がん、肺がんなど、いくつかの癌種で有効な抗腫瘍効果を示すことから、現在、FDA承認に向けた臨床試験が行われている唯一のGLS阻害剤である。

参照項目

  • 代謝 - 生物における生命維持のための一連の化学反応のこと
  • 代謝経路網英語版 - 細胞の生理学的および生化学的特性を決定する代謝および物理的プロセスの完全な集まり
  • 代謝経路モデリング英語版 - 特定の生物の分子メカニズムを可視化し理解を深める方法
  • 代謝工学英語版 - 細胞内の遺伝子や制御プロセスを最適化し、細胞が特定の物質を生産できるようにすること
  • KaPPA-View4英語版 - オーミックスデータから代謝制御に関するデータを収録した代謝経路データベース

脚注

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外部リンク

Metabolic pathway diagram

Template:Metabolic pathways