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「シダ植物」の版間の差分

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[[ファイル:Fern dsc06699.jpg|thumb|成長した[[ワラビ]]|260px]]
[[ファイル:Fern dsc06699.jpg|thumb|成長した[[ワラビ]]|260px]]
'''シダ植物'''は、以下の意味を持つ植物の一群である。
'''シダ植物'''(シダしょくぶつ、羊歯植物、歯朶植物)は、[[維管束植物]]かつ非[[種子植物]]である植物の総称、もしくはそこに含まれる植物のことで、[[胞子]]によって増える植物である。[[側系統群]]であることがわかっている。
# '''シダ植物'''(広義){{lang|en|pteridophytes}}: [[維管束植物]]のうち、[[胞子]]による[[繁殖]]を行う段階にある植物の総称<ref name="ebihara">[[#ebihara |海老原 2016]], pp.16-17</ref><ref name="murakami">[[#murakami|村上 2012]], pp.67-73</ref>。胞子による繁殖という[[共有原始形質]]によりまとめられていたため、[[側系統群]]である<ref name="murakami"/>。'''本項で述べる。'''
# '''モニロファイツ(首飾植物)'''{{lang|en|monilophytes}}: 維管束植物のうち、[[原生木部]]が[[中原型]]で[[首飾]]状の維管束配列を持つ[[単系統群]]<ref name="hasebe">[[#hasebe|長谷部 2020]], pp. 124-173 </ref>。上記の広義のシダ植物のうち、狭義の[[小葉植物]]([[ヒガケノカズラ科]]、[[イワヒバ科]]、[[ミズニラ科]])を除いたグループとなる。この群を指して「シダ植物」と呼ぶ<ref name="itou2012">[[#itou2012|伊藤 2012]], pp.116-129</ref><ref name="hasebe"/>ことも「シダ類」と呼ぶ<ref name="ebihara"/><ref name="iwanami">[[#iwanami|巌佐ほか 2013]], p.589</ref>こともある。詳しくは'''[[大葉シダ植物]]'''を参照。


本項における'''シダ植物'''(シダしょくぶつ、羊歯植物、歯朶植物、{{lang-en-short|pteridophytes}})はかつては'''シダ植物門''' division {{sname||Pteridophyta}}と[[門 (分類学)|門]]の階級に置かれていた<ref name="murakami"/><ref name="iwatsuki"/>。シダ植物という言葉は現在では学術的な場では使われなくなっているが、進化段階や[[生活環]]上の特性において未だ用いられることがある<ref name="ebihara"/>。そういった文脈では {{lang|en|ferns and ferns allies}} や {{lang|en|ferns and lycophytes}} と呼ばれる<ref name="ebihara"/>。これに属する植物を一般的に'''シダ'''(羊歯、歯朶)と呼ぶこともあるが<ref name="itou2012"/>、[[シダ綱]](側系統群、範囲は本文を参照)を指すことも多い。シダ植物は'''非種子維管束植物'''<ref name="itou2012"/>や'''無種子維管束植物'''<ref name="iwatsuki">[[#iwatsuki|岩槻 1975, pp.157-193]]</ref><ref>[[#iwanami|巌佐ほか 2013]], p.589</ref>とも言い換えられる。
側系統群を認める分類では、シダ植物は[[シダ植物門]]として、ひとつの分類群にまとめられることもあるが、[[単系統群]]のみを分類群とする体系では、シダ植物門と[[ヒカゲノカズラ植物門]]の2群に分かれる(加えて、[[トクサ植物門]]を独立門として置くこともあった)。


本項では、主にシダ植物の生活環および分類の歴史について概説する。
非単系統群であるが、共通する点も多く、ここでは、これらを総合して説明する。より一般的な'''シダ'''については[[シダ綱]]を、それ以外については各群の項目を参照。

== 特徴 ==
各シダ植物は、それぞれに性質の違う点もあるが、共通の性質はおおよそ次のようなものである<ref>田川(1959)p.1-2</ref>。
# [[維管束]]植物である(ただし、道管は仮道管)。
# [[種子]]を形成しない。
# [[配偶体]](有性世代)と[[胞子]]体(無性世代)という2つの世代があり、[[世代交代]]を行う。
# 胞子体が[[生活史]]の中心を占めており、胞子形成が主な散布手段となっている。
# 胞子体が主な生活形態だが、配偶体([[前葉体]])も胞子体から独立して生活している。

これらは、植物界にあって胞子体を発達させて[[維管束]]を持つようになった群のうち、[[種子植物]]以前の性質を共有するグループと言ってもよいものである。


== 系統関係 ==
== 系統関係 ==
{{see also|小葉植物|大葉シダ植物}}
[[陸上植物]]は[[車軸藻類]]と姉妹群の関係にある。[[陸上植物]]の中では[[コケ植物]]がまず現れ、[[苔類]]、[[蘚類]]、[[ツノゴケ類]]の順に古い起源を持つ。[[維管束植物]]は、ツノゴケ類と同一の起源から進化してきたと考えられる。
[[#wickett|Wickettら (2014)]]や[[#puttick|Puttickら (2018)]]による分子系統解析から、次のような系統樹が得られている<ref name="hasebe2">[[#hasebe|長谷部 2020]], pp. 1-4, 68-70</ref>。'''<span style="color:green">緑枠</span>'''で囲んだ範囲が「シダ植物」{{sname|"Pteridophyta"}}の系統的位置を示す<ref name="hasebe2"/>。


[[#伝統的分類|伝統的分類]]では、シダ植物は'''[[マツバラン類]](<span style="color:olive">無葉類</span>)'''、'''[[ヒカゲノカズラ類]](<span style="color:#8A2BE2">小葉類</span>)'''、'''[[トクサ類]](<span style="color:#008080">楔葉類</span>)'''、および'''[[シダ綱|シダ類]](<span style="color:#FF4500">大葉類</span>)'''の4群に大きく分類されていた<ref name="ebihara"/><ref name="murakami"/><ref name="itou2012"/><ref name="ebihara2012">[[#ebihara2012|海老原 2012]], pp.309-310</ref>。このうち[[シダ綱|シダ類]]は[[胞子囊]]が胞子体の表層の複数の細胞から生じ、完成した胞子囊が複数の細胞層の壁を持つ[[真嚢シダ類]](ハナヤスリ類+リュウビンタイ類)および胞子囊は単一の細胞から生じ、完成した胞子囊は1層の細胞層の壁を持つ[[薄囊シダ類]]が認められていた<ref name="murakami"/>。
初期の維管束植物は、[[茎]]が発達する一方で、[[葉]]の未発達な段階があったと考えられ、そこから小葉シダ類と大葉シダ類が別々に葉を発達させてきた。大葉シダ類からは、[[種子植物]]が現れる。小葉シダ類から[[ヒカゲノカズラ植物門]]が生き残り、大葉シダ類から[[シダ植物門]]の各種が生き残った。


分子系統解析の結果から「シダ植物」は明らかに側系統であり、従来独立して扱われていたマツバラン類およびトクサ類がシダ類と同じクレードに入るようになった<ref name="ebihara2012"/>。また、真嚢シダ類と呼ばれていたリュウビンタイ類およびハナヤスリ類も、ハナヤスリ類とマツバラン類が姉妹群をなすことで側系統となった。つまり、従来考えられていた4群ではなく小葉類および大葉シダ類(トクサ類 + マツバラン類 + ハナヤスリ類 + リュウビンタイ類 + 薄囊シダ類)の大きく2群に分けられるようになった<ref name="ebihara2012"/>。
[[シダ植物門]]には[[樹木]]のような形態を取り、時に[[高木]]になるものが含まれる([[木生シダ]])が、それ以外の類はいずれも小柄な植物である。しかし、それぞれに[[古生代]]には大きな樹木のようになった先祖があり、いずれも多くの種を抱えていたとされる。したがって、現在の状態はいくつかの系統の、それぞれごく一部のものが小型化して生き延びた姿とも見られる。


{{clade
下記の分類は、米倉(2009年)による<ref>[[米倉浩司]]、「高等植物分類表」、2009年</ref>。
|style=width:70em;font-size:100%;line-height:100%
* [[小葉類]] {{Sname||Lycophyta}}
|label1=隔膜形成体植物
** [[ヒカゲノカズラ植物門ヒカゲノカズラ類]] {{Sname||Lycoppdiophyta}}
|1={{clade
*** [[ヒカゲノカズラ目]] {{Sname||Lycopodiales}} - [[ヒカゲノカズラ]]、[[トウゲシバ]]、[[ヨウラクヒバ]]など
|state1=double
*** [[イワヒバ目]] {{Sname||Selaginellales}} - [[クラマゴケ]]、[[イワヒバ]]など
|1=[[隔膜形成体緑藻類]]([[車軸藻類]]+[[コレオケーテ類]]+[[接合藻類]])
*** [[ミズニラ目]] {{Sname||Isoetales}} - [[ミズニラ]]など
|label2=[[陸上植物]]
* [[大葉類]] {{Sname||Euphyllophyta}}
|2={{clade
** [[シダ植物門|大葉シダ植物]] {{Sname||Monilophyta}}
|label1=[[コケ植物]]
*** [[ハナヤスリ目]] {{Sname||Ophioglossales}} - [[真嚢シダ]]。マツバラン類に近縁。[[ハナヤスリ]]、[[ハナワラビ]]など
|1={{clade
*** [[マツバラン目]] {{Sname||Psilotales}} - 葉を持たない。[[マツバラン]]、[[イヌナンカクラン]]など
|1=[[ツノゴケ植物門]]
*** [[トクサ目]] {{Sname||Equisetales}} - [[トクサ]]、[[スギナ]]など
|2={{clade
*** [[リュウビンタイ目]] {{Sname||Marattiales}} - [[真嚢シダ]]。[[リュウビンタイ]]など
|1=[[苔植物門]]
*** [[ゼンマイ目]] {{Sname||Osmundales}}
|2=[[蘚植物門]]
*** [[コケシノブ目]] {{Sname||Hymenophyllales}}
}}
*** [[ウラジロ目]] {{Sname||Gleocheniales}}
}}
*** [[フサシダ目]] {{Sname||Schizaeales}}
|label2=[[維管束植物]]
*** [[水生シダ類|サンショウモ目]] {{Sname||Salviniales}} - [[サンショウモ]]、[[デンジソウ]]、[[アカウキクサ]]など
|2={{clade
*** [[ヘゴ目]] {{Sname||Cyatheales}}
|label1=[[小葉植物]]
*** [[ウラボシ目]] {{Sname||Polypodiales}}
** [[種子植物]] {{Sname||Spermatophyta}}
|sublabel1={{Sname||Lycophyta}}
|style1=background-color:#E6E6FA
|1={{clade
|1=[[ヒカゲノカズラ目]] {{Sname||Lycopodiales}}|barbegin1=green
|2={{clade
|1=[[イワヒバ目]] {{Sname||Selaginellales}}|bar1=green
|2=[[ミズニラ目]] {{Sname||Isoetales}}|bar2=green
}}}}
|grouplabel1='''<span style="color:green">「シダ植物」</span>'''<br />"{{sname||Pteridophyta}}"
|label2=[[大葉植物]]
|sublabel2={{Sname||Euphyllophyta}}
|2={{clade
|label1=[[大葉シダ植物]]|barend1=green
|sublabel1={{Sname||Monilophyta}}
|1={{clade
|1=[[トクサ目]] {{Sname||Equisetales}}
|style1=background-color:#7FFFD4
|2={{clade
|1={{clade
|1={{clade
|1=[[マツバラン目]] {{Sname||Psilotales}}
|style1=background-color:#FFFFE0
|2=[[ハナヤスリ目]] {{Sname||Ophioglossales}}
|style2=background-color:#FFDAB9
}}
|2=[[リュウビンタイ目]] {{Sname||Marattiales}}
|style2=background-color:#FFDAB9
|grouplabel2='''<span style="color:orangered">「真囊シダ類」</span>'''<br />"{{sname||Eusporangiopsida}}"
}}
|label2=[[薄囊シダ類]]
|sublabel2={{Sname||Polypodiidae}}
|style2=background-color:#FFE4B5
|2={{clade
|1={{clade
|1={{clade
|1={{clade
|1={{clade
|1= [[ウラボシ目]] {{sname||Polypodiales}}
|2= [[ヘゴ目]] {{sname||Cytheales}}
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|2= [[サンショウモ目]] {{sname||Salviniales}}
}}
|2=[[フサシダ目]] {{sname||Schizaeales}}
}}
|2={{clade
|1=[[コケシノブ目]] {{sname||Hymenophyllales}}
|2=[[ウラジロ目]] {{sname||Gleicheniales}}
}}
}}
|2=[[ゼンマイ目]] {{sname||Osmundales}}
}}
}}
}}
|label2=[[種子植物]]
|sublabel2={{Sname||Spermatophyta}}
|2={{clade
|1=[[裸子植物]] {{Sname||Gymnospermae}}
|2=[[被子植物]] {{Sname||Angiospermae}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}


== 伝統的な分類 ==
== 特徴 ==
上記のように本項で述べるシダ植物は側系統群であるため、[[共有派生形質]]は存在しないが、共通の性質はおおよそ次のようなものである。
伝統的には、「シダ類」([[:w:Fern|Fern]])は、葉を持つもののみを含め、近縁の種は「シダ様植物」([[:w:Fern ally|Fern ally]])と呼んだ。前者には、[[真嚢シダ]]類と[[薄嚢シダ]]類とが含まれ、後者には、[[トクサ類]]、[[マツバラン類]]等が含まれる。シダ類とシダ様植物を合わせたものをシダ植物と言い、これらは言い分けられていた。
# [[維管束]]をもつ'''維管束植物'''である<ref name="tagawa">[[#tagawa|田川 1959]], pp.1-5</ref><ref name="itou2012-2">[[#itou2012|伊藤 2012]], pp.43-54</ref>。(⇔コケ植物は維管束をもたない)
# 陸上植物が持つ[[配偶体]](有性世代)と[[胞子体]](無性世代)という2つの[[世代交代|世代]]のうち、大型で複雑な形態に分化する'''胞子体が[[生活史]]の中心'''を占める<ref name="tagawa"/><ref name="itou2012-2"/>。(⇔コケ植物では胞子体は配偶体に寄生)
# '''配偶体([[前葉体]])と胞子体は独立'''して生活している<ref name="tagawa"/><ref name="itou2012-2"/>。(⇔コケ植物では胞子体が配偶体に寄生、種子植物では微小な配偶体が胞子体に栄養的に依存)
# 胞子体は'''[[種子]]を形成せず、胞子が散布体'''として働く<ref name="tagawa"/><ref name="itou2012-2"/>。(⇔種子植物では種子が散布体として働く)


=== 生活環 ===
下記の分類は、加藤編(1997年)による<ref>[[加藤雅啓]]編、「植物の多様性と系統」、1997年</ref>。
[[File:Alternation of generations in ferns.png|thumb|450px|'''シダ植物の生活環(世代交代)'''<br />diploid generation: [[複相]]世代、haploid generation: [[単相]]世代、(developing/mature) sporophyte:(未熟な/成熟した)胞子体、meiosis: [[減数分裂]]、spores: 胞子、mitosis: [[有糸分裂]]、prothallus (gametophyte): 前葉体(配偶体)、male/female gametes: 雄性/雌性[[配偶子]]、fertilisation: [[受精]]]]
* [[シダ植物門]] {{Sname||Pteridophyta}}
** [[リニア綱]] {{Sname||Rhyniopsida}}†
** [[トリメロフイトン綱]] {{Sname||Trimerophytopsida}}†
** [[ゾステロフィルム綱]] {{Sname||Zosterophyllopsida}}†
** [[マツバラン綱]] {{Sname||Psilotopsida}}
*** [[マツバラン目]] {{Sname||Psilotales}}
** [[ヒカゲノカズラ綱]] {{Sname||Lycopsida}}
*** [[ドレパノフイクス目]] {{Sname||Drepanophycales}}†
*** [[古生リンボク目]]<!--( 目)--> {{Sname||Protolepidodendrales}}†
*** [[リンボク目]]<!--( 目)--> {{Sname||Lepidodendrales}}†
*** [[ヒカゲノカズラ目]] {{Sname||Lycopodiales}}
*** [[イワヒバ目]] {{Sname||Selaginellales}}
*** [[プレウロメイア目]] {{Sname||Pleuromeiales}}
*** [[ミズニラ目]] {{Sname||Isoetales}}
** [[トクサ綱]] {{Sname||Equisetopsida}}
*** [[ヒエニア目]] {{Sname||Hyeniales}}†
*** [[プセウドボルニア目]] {{Sname||Pseudoborniales}}†
*** [[スフェノフィルム目]] {{Sname||Sphenophyllales}}†
*** [[トクサ目]] {{Sname||Equisetales}}
** [[シダ綱]] {{Sname||Filicopsida}}
*** [[クラドキシロン目]] {{Sname||Cladoxylales}}†
*** [[イリドプテリス目]] {{Sname||Iridopteridales}}†
*** [[ラコフイトン目]] {{Sname||Rhacophytales}}†
*** [[スタウロプテリス目]] {{Sname||Stauropteridales}}†
*** [[ジゴプテリス目]] {{Sname||Zygopteridales}}†
*** [[リュウビンタイ目]] {{Sname||Marattiales}}
*** [[ハナヤスリ目]] {{Sname||Ophioglossales}}
*** [[シダ目]] {{Sname||Filicales}}
** [[前裸子植物綱]] {{Sname||Progymnospermopsida}}†
*** [[アネウロフイトン目]] {{Sname||Aneurophytales}}†
*** [[アルカエオプテリス目]] {{Sname||Archaeopteridales}}†
*** [[プロトピチス目]] {{Sname||Protopityales}}†

== 生活環 ==
シダ植物の[[生活環]]は典型的な単複世代交代型であり、胞子体と前葉体の2期があり、それぞれが生活を営む。前葉体は雌雄同体(ひとつの体に造卵器と造精器を持つ)が一般的であるが、イワヒバ科や水生シダは雌雄異体である。この場合、胞子に雌雄の別がある。
[[ファイル:Onoclea sensibilis 3 crop.JPG|thumb|[[前葉体]]と発芽したばかりの本体([[コウヤワラビ]])]]
[[ファイル:Onoclea sensibilis 3 crop.JPG|thumb|[[前葉体]]と発芽したばかりの本体([[コウヤワラビ]])]]
シダ植物の[[生活環]]は典型的な単複世代交代型であり、胞子体と前葉体の2期があり、それぞれが生活を営む。胞子体は減数分裂を行って胞子を作り、これを散布体とするが、1種類の胞子を作る[[同形胞子性]]のものと2種類の胞子を作る[[異形胞子性]]のものがある<ref name="itou2012"/>。同形胞子性の植物では前葉体は雌雄同体で、1つの体に[[造卵器]]と[[造精器]]を持つ<ref name="itou2012"/>。異形胞子性の植物では[[大胞子囊]]から[[大胞子]]、[[小胞子囊]]から[[小胞子]]が作られ、前者は卵細胞を作る[[雌性配偶体]]に、後者は精子をつくる雄性[[配偶体]]となる<ref name="itou2012"/>。異形胞子性は同形胞子性から進化したと考えられており、[[大葉シダ植物]]では[[水生シダ類]]([[デンジソウ科]]、[[サンショウモ科]])が、[[小葉植物]]では[[ミズニラ科]]および[[イワヒバ科]]がそれぞれ異形胞子性である<ref name="itou2012"/><ref name="hasebe"/>。

{| class="wikitable" style="text-align:center"
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|-
100行目: 128行目:
! 体制
! 体制
| 根、茎、葉を持つ
| 根、茎、葉を持つ
| 一般に0.5 - 2cmのハート型の葉状体で、仮根を持つ
| 一般に0.5 - 2 cmのハート型の[[葉状体]]で、[[仮根]]を持つ<br />(ヒカゲノカズラ属・ハナワラビ属では塊状<ref name="asahi">[[#asahi|岩槻 1997]], pp.2-5</ref>)
|-
|-
! 生殖
! 生殖
111行目: 139行目:
|}
|}


== 体制について ==
=== 体制 ===
維管束植物は[[根]]、[[茎]]、[[葉]]を基本[[器官]]として持つが<ref>[[#hara|原 1994]], p.5</ref>、根、葉および[[茎頂]]は何れも小葉植物と大葉シダ植物でそれぞれ異なる構造や性質を持ち、また化石記録から、独立して獲得したものであると考えられている([[平行進化]])<ref name="hasebe"/>。
=== 葉 ===
;葉
葉の構造は、大きく[[葉|大葉]]と[[小葉]]に分かれる。前者は大きく広がった葉で、[[葉脈]]がその中で枝分かれする。シダ植物門のものと、種子植物はこれである。小葉は、小さく単純で、葉脈は主脈のみで枝分かれはない。[[ヒカゲノカズラ植物門]]のものがこれである。[[トクサ綱]]は当初は小葉であるとされたが、現在では大葉の1つと見られている。
:小葉植物は[[葉隙]]を持たず、[[葉脈]]が1本の[[小葉]]を、大葉シダ植物は葉跡の上側に葉隙を作り葉脈が複数ある大葉を持つ<ref name="hasebe"/>。ただしこの大葉は種子植物の持つ大葉と起源が異なり、独立に獲得したと考えられている<ref name="hasebe"/>。また、大葉シダ植物のうちマツバラン類は葉隙を作らず1本の維管束が伸びる小葉に似た葉状突起を持つ<ref name="hasebe"/>。トクサ類では[[被子植物]]のものとも異なる[[輪生葉]](楔葉)を持つ<ref name="hasebe"/>。[[ハナヤスリ類]]では'''担栄養体'''(栄養葉、{{lang|en|trophophore}})と'''担胞子体'''(胞子葉、{{lang|en|sporophyte}})の基部が合わさって'''[[担葉体]]'''(共通柄、{{lang|en|common stalk}})という軸を形成する<ref name="iwanami3">[[#iwanami3|山田ほか 1983]], p.524</ref><ref name="ebi">[[#ebihara|海老原 2016]], pp.9-15</ref>。
;茎頂
:小葉植物のうちヒカゲノカズラ科およびミズニラ科では胞子体の茎頂に複数の[[幹細胞]]([[茎頂分裂組織]])が形成されるのに対し、イワヒバ類および大葉シダ植物では1個の幹細胞([[頂端細胞]])が形成される<ref name="hasebe"/>。
;根
:化石小葉植物の[[アステロキシロン]] {{snamei||Asteroxylon mackiei}}や大葉シダ植物の[[マツバラン類]]は[[根冠]]のある'''根を持たず'''、[[地下茎]]を持つ<ref name="hasebe"/>。また、小葉植物のうちヒカゲノカズラ科の[[ヒカゲノカズラ属]] {{snamei||Lycopodium}}や[[アスヒカズラ属]] {{snamei||Diphasiastrum}}では[[静止中心]]様領域 QC-like areaを持つ[[根端分裂組織]] ('''Type I''')を、[[コスギラン属]] {{snamei||Huperzia}}や[[ミズスギ属]] {{snamei||Lycopodiella}}では静止中心様領域を持たず[[前表皮]] {{lang|en|protoderm}}と[[基本分裂組織]] {{lang|en|ground meristem}}が別々の層からなる根端分裂組織 ('''Type II''')を、ミズニラ科ではそれらが根冠と独立した層にならない根端分裂組織 ('''Type III''')、イワヒバ科では大葉シダ植物と同様に'''頂端細胞'''を持ち、それぞれ大きく異なった根端の形質を持つ<ref name="fujinami">[[#fujinami|Fujinami ''et al.'' 2017]], 1210-1220</ref>。これらのことから、根は小葉類の各タイプおよび大葉シダ植物で'''独立に獲得'''された(多数回起源である)と考えられている<ref name="fujinami"/>。
:[[イワヒバ科]]は葉を持たず根を専ら[[内生発生]]させる'''[[担根体]]''' {{lang|en|rhizophore}}を持ち、これは地上根と考えられたこともあったが、現在では茎でも根でもない特有の器官と考えられている<ref>[[#kato1999|加藤 1999]], pp.60-82</ref>。
;配偶体
:普通シダ類では配偶体は[[前葉体]]と呼ばれ、[[コケ植物]]に似て数 mmで、1層の細胞層からなる<ref name="asahi"/>。前葉体は[[葉緑体]]を持つため[[独立栄養]]であるのに対し、[[ヒカゲノカズラ属]](小葉植物)・[[ハナワラビ属]]([[ハナヤスリ類]])では配偶体は[[従属栄養]]で、塊状で葉緑体を持たず[[菌根菌]]と共生する<ref name="asahi"/>。


=== 構造 ===
== 分類歴史 ==
=== 伝統的分類 ===
シダ植物の茎は、ほとんどが[[肥大成長]]を行わない。[[維管束]]の配置は種子植物の[[真性中心柱]](木部と師部のセットが同心円に並ぶ)ではなく、中心に木部、それを師部が囲むという原生中心柱か、その変形、あるいはそれが同心円的になった網状中心柱という形を取る。ただ、ハナヤスリ類だけで真性中心柱が見られる。
分類学の父と呼ばれる'''[[カール・フォン・リンネ]]([[#linnaeus1753|1753]]; [[#linnaeus1754|1754]])'''は植物を花に基づき24[[綱 (分類学)|綱]]に分けたが、シダ植物はそのうちの第24綱、[[隠花植物綱]] {{sname||Cryptogamia}}に[[コケ]]や[[キノコ]]、[[海藻]]などと共に含められていた<ref name="inoue">[[#inoue|井上 1975]], pp.1-8</ref><ref name="christenhusz">[[#christenhusz|Christenhusz & Chase 2014]], pp.571-594</ref>。[[胞子囊群]](ソーラス)の形とその位置によりシダ植物 {{sname||Filices}}に16属174種を認めた<ref name="linnaeus1753">[[#linnaeus1753|Linnaeus 1753]], pp.1061-</ref><ref name="christenhusz"/>。[[ヒカゲノカズラ属]] {{Snamei||Lycopodium}}はコケ類 {{sname||Musci}} として分類されていたが、トクサ属およびミズニラ属はシダ植物に含められていた<ref name="linnaeus1753"/>。リンネの分類は[[人為分類]]で、明らかに離れた[[種 (分類学)|種]]を結び付けていた<ref name="christenhusz"/>。
; [[隠花植物綱]] {{sname|Cryptogamia}}
:; '''シダ類''' {{sname|Filices}}
:* [[トクサ属]] {{snamei||Equisetum}}
:* [[コウヤワラビ属]] {{snamei||Onoclea}}
:* [[ハナヤスリ属]] {{snamei||Ophioglossum}}
:* [[ゼンマイ属]] {{snamei||Osmunda}}
:* [[ミミモチシダ属]] {{snamei||Acrostichum}}
:* [[イノモトソウ属]] {{snamei||Pteris}}
:* [[ヒリュウシダ属]] {{snamei||Blechnum}}
:* [[ヘミオニティス属]] {{snamei||Hemionitis}}
:* [[ロンクティス属]] {{snamei||Lonchitis}}
:* [[チャセンシダ属]] {{snamei||Asplenium}}
:* [[エゾデンダ属]] {{snamei||Polypodium}}
:* [[ホウライシダ属]] {{snamei||Adiantum}}
:* [[マメゴケシダ属]] {{snamei||Trichomanes}}
:* [[デンジソウ属]] {{snamei||Marsilea}}
:* genus {{snamei||Pilularia}}
:* [[ミズニラ属]] {{snamei||Isoëtes}}


[[#SmithJE|James E. Smith (1793)]]は[[包膜]]の特徴を用いて20属を認めた<ref name="christenhusz"/>。Swartzはその分類を発展させ、胞子囊群と包膜の形質により[[#swartz1801|1801年には30属670種]]を、[[#swartz1806|1806年には38属720種]]を扱った<ref name="christenhusz"/>。この分類体系では人為的な制限があったが、30年近くこれに代わる分類形質は発見されなかった<ref name="christenhusz"/>。Desvaux (1827)は胞子囊群の形質をより詳細に研究し、デンジソウ科 {{lang|fr|Marsilées}}、ヒカゲノカズラ科 {{lang|fr|Lycopodiées}}、ゼンマイ科 {{lang|fr|Osmondées}}、リュウビンタイ科 {{lang|fr|Marattiées}}、シダ科 {{lang|fr|Filicées}}の5科79属1666種に分けた<ref name="christenhusz"/>。
胞子をつける[[胞子葉]]と、栄養葉の間であまり変わらないものから、連続的に、極端に2型性を持つものまである。後者では、栄養葉の上に胞子葉が乗っかっているように見えるハナワラビや、胞子葉がそれと見て分かるイヌガンソク、[[シシガシラ]]、[[クサソテツ]]などが観察しやすい。


[[チャールズ・ダーウィン]]による[[進化論]]以降、以下のような'''[[アウグスト・アイヒラー]] (1883)による分類体系'''が有名である<ref name="inoue"/><ref>[[#core|Core 1955]], pp.52-53</ref>。
=== 胞子嚢 ===
*[[隠花植物]] {{sname||Cryptogamae}}
[[胞子嚢]]は、これらの植物の生殖器官である。基本的には柄を持つ嚢状の構造で、その内部に減数分裂によって胞子を形成する。この胞子嚢の形成の様式に大きく2つある。
**[[葉状植物]]門 {{sname||Thallophyta}}
; 薄嚢性
***[[藻類|藻]]綱 {{sname||Algae}}
: 単独の細胞から始まり、完成した胞子嚢は単一の細胞層に包まれる。普通のシダ類はこの型。
***[[菌類|菌]]綱 {{sname||Fungi}}
; 真嚢性
**[[コケ植物]]門 {{sname||Bryophyta}}
: 数個の細胞が起源となって、垂直方向に分裂して、胞子嚢を形成する。完成した胞子嚢は、複数層の細胞層に包まれている。ヒカゲノカズラ類、ミズニラ類、クラマゴケ類、マツバラン類、トクサ類、ハナヤスリ類、それにリュウビンタイ類がこの型である。
*** [[苔類|苔綱]] {{sname|Hepaticae}}
*** [[蘚類|蘚綱]] {{sname|Musci}}
**'''シダ植物門''' {{sname||Pteridophyta}}
*** [[トクサ綱]] {{sname||Equisetineae}}
*** [[ヒカゲノカズラ綱]] {{sname||Lycopodineae}}
*** [[シダ綱]] {{sname||Filicineae}}
*[[顕花植物]] {{sname||Phanerogamae}}
**[[裸子植物]]門 {{Sname||Gymnospermae}}
**[[被子植物]]門 {{Sname||Angiospermae}}
***[[単子葉類]]綱 {{Sname||Monocotyledoneae}}
***[[双子葉類]]綱 {{Sname||Dicotyledoneae}}


[[新エングラー体系|全植物を網羅した分類体系]]をつくった'''[[アドルフ・エングラー|エングラー]]と[[:en:Karl Anton Eugen Prantl|プラントル]] ([[#engler|1902]])'''はシダ植物を[[シダ類]] {{sname||Filicales}}、[[スフェノフィルム]]類 {{sname||Sphenophyllales}}(絶滅)、[[トクサ類]] {{sname||Equisetales}}および[[小葉類]] {{sname||Lycopodiales}}の4群に分けた<ref name="kato2005">[[#kato2005|Kato 2005]], pp.111-126</ref>。その後、'''[[#verdoorn|Verdoorn (1938)]]'''や[[#tagawa-iwatsuki|田川と岩槻 (1972)]]、[[#pichi|Pichi Sermolli (1977)]]などでは、上記のうち小葉類からマツバラン類を分離した4群(スフェノフィルム類はトクサ類と共に[[有節類]]とされた)に分けられた<ref name="kato2005"/>。
=== 胞子の二形 ===
{| class="wikitable"
シダ植物のほとんどは1種類の胞子を造り、それが発芽すれば、前葉体には[[卵]]と[[精子]]が形成され、受精が行われる。しかし、種子植物では花粉と胚嚢というように前葉体に雌雄の別があり、異なった部位で異なった形の胞子が形成されている。このような配偶体の明らかな二形性は、その元となる胞子の大胞子と小胞子の二形性に基づくものである。このような胞子の二形が見られるのは、現生のシダ植物ではクラマゴケ類、ミズニラ類と水生シダ類だけである。
! Engler & Prantl (1902)<ref name="kato2005"/> !! Verdoorn (1938)<ref name="kato2005"/>
|-
|
* 小葉類 {{sname||Lycopodiales}}
** [[有舌類]] {{sname||Ligulatae}}
*** [[イワヒバ類]] {{sname||Selaginellineae}}
*** [[ミズニラ類]] {{sname||Isoetineae}}
** [[無舌類]] {{sname||Eligulatae}}
*** [[ヒカゲノカズラ類]] {{sname||Lycopodineae}}
*** '''[[マツバラン類]]''' {{sname||Psilotineae}}
* トクサ類 {{sname||Equisetales}}
* [[絶滅|†]]スフェノフィルム類 {{sname||Sphenophyllales}}
* シダ類 {{sname||Filicales}}
| style="vertical-align:top" |
* 小葉類 {{Sname||Lycopodiinae}}
** イワヒバ類 {{sname||Selaginellales}}
** ミズニラ類 {{sname||Isoetales}}
** ヒカゲノカズラ類 {{sname||Lycopodiales}}
* '''マツバラン類''' {{sname||Psilophytinae}}
* 有節類 {{sname||Articulatae}}
* シダ類 {{sname||Filicinae}}
|}


1920年代以降、[[デボン紀]]の化石シダ植物の研究が進み、シダ植物の各綱の差はシダ類と裸子植物の差よりも大きいと考えられるようになった<ref name="tagawa"/>。'''[[#tippo|Oswald Tippo (1942)]]の分類体系'''はアメリカの一般的な植物学の教科書にすぐに受け入れられた<ref name="core">[[#core|Core 1955]], pp.52-53</ref>。この分類体系ではシダ植物が単系統ではなく、シダ植物と種子植物の間に明確な境界はないとした<ref name="core"/>。以下にその概形を示す<ref name="core"/>。
=== 前葉体 ===
* [[植物界]] {{sname||Plantae}}
一般のシダ類では[[前葉体]]は薄膜状で、やや[[ゼニゴケ]]を思わせる姿をしている。しかし、まったく異なった姿のものもいくつかある。やや異なった形のものとして、細長いリボン状やひも状のものがあり、普通のシダ類の一部に見られる。
** 葉状植物亜界 {{sname||Thallophyta}}
; 塊状
** [[陸上植物|有胚植物亜界]] {{sname||Embryophyta}}
: 地中性で塊のような姿の前葉体を作るものに、[[ヒカゲノカズラ]]類、[[マツバラン]]類と[[ハナヤスリ]]類がある。この型の前葉体は、[[菌類]]と共生関係を持つ。
*** [[コケ植物門]] {{sname||Bryophyta}}
; 内生型
**** [[蘚類|蘚綱]] {{sname||Musci}}
: 前葉体が胞子の膜外に伸び出さずに形成されるもので、[[クラマゴケ]]類がこれである。この形は種子植物の場合にやや近い。
**** [[苔類|苔綱]] {{sname||Hepaticae}}
**** [[ツノゴケ類|ツノゴケ綱]] {{sname||Anthocerotae}}
*** [[維管束植物門]] {{sname||Tracheophyta}}
**** '''[[小葉植物]]亜門''' {{sname||Lycopsida}}
***** [[ヒカゲノカズラ綱]] {{sname||Lycopodineae}}
****** [[ヒカゲノカズラ目]] {{sname||Lycopodiales}}
****** [[イワヒバ目]] {{sname||Selaginellales}}
****** [[リンボク目]] {{sname||Lepidodendrales}}
****** [[プレウロメイア目]] {{sname||Pleuromeiales}}
****** [[ミズニラ目]] {{sname||Isoetales}}
**** '''[[楔葉植物]]亜門''' {{sname||Sphenopsida}}
***** [[トクサ綱]] {{sname||Equisetineae}}
****** [[ヒエニア目]] {{sname||Hyeniales}}
****** [[楔葉目]] {{sname||Sphenophyllales}}
****** [[トクサ目]] {{sname||Equisetales}}
**** [[大葉植物]]亜門 {{sname||Pteropsida}}
***** '''[[シダ綱]]''' {{sname||Filicineae}}
****** [[コエノプテリス目]] {{sname||Coenopteridales}}
****** [[ハナヤスリ目]] {{Sname||Ophioglossales}}
****** [[リュウビンタイ目]] {{sname||Marattiales}}
****** [[シダ目]] {{sname|Filicales}}
***** [[裸子植物]]綱 {{sname||Gymnospermae}}
****** [[ソテツ植物]]亜綱 {{sname||Cycadophytae}}
****** [[毬果植物]]亜綱 {{sname||Coniferophytae}}
***** [[被子植物]]綱 {{sname||Angiospermae}}
****** [[双子葉植物]]亜綱 {{sname||Dicotyledoneae}}
****** [[単子葉植物]]亜綱 {{sname||Monocotyledoneae}}


'''伊藤洋 ([[#ito1968|1968]]; [[#ito1972|1972]])による伝統的な現生シダ植物の分類体系'''は以下の通りであった<ref name="ito1972">[[#ito1972|伊藤 1972]], pp.165-169</ref><ref name="murata">[[#murata|邑田・米倉 2010]], pp.103-104</ref><ref name="murakami"/>。このうち[[シダ類]]の科の分類はコープランドのものに基づき<ref name="ito1972"/>、日本では長らくこの分類体系が用いられることとなる。ただし、[[綱 (分類学)|綱]]の学名は1つ目が伊藤洋ほか (1972)、2つ目が邑田・米倉 (2010)によるもの。()内の科は伊藤洋ほか (1972)にはあるが邑田・米倉 (2010)にはないもの。また、「羊歯植物門」およびシダ綱以外の各目は伊藤洋ほか (1972)にはなく、邑田・米倉 (2010)にはある。
=== 特殊な体制 ===
;羊歯植物門 {{sname||Pteridophyta}}
シダ植物は[[維管束植物]]であり、いわゆる根・茎・葉があると言われる。しかし、この点から見直さねばならない例もある。
* [[マツバラン綱]] {{sname||Psilotinae}}, {{sname||Psilopsida}}
; 根も葉もないもの
** [[マツバラン目]] {{sname||Psilotales}}
: マツバラン類は、ほぼ全体が茎のみからなり、分化した根も明らかな葉もない。そのため、かつてはそれらが分化する前の原始的なものの生き残りと考えられた。現在では、より発達した群から退化的に生じたとの説もある。
*** [[マツバラン科]] {{sname||Psilotaceae}}
; 担根体
* [[ヒカゲノカズラ綱]] {{sname||Lycopodinae}}, {{sname||Lycopsida}}
: クラマゴケ類とミズニラ類に見られる構造で、茎に似ているが、葉を生じず、地中に向かって伸び、その上に根を生じる。クラマゴケ類ではほぼ根に見える細長いものであるが、ミズニラ類では短く詰まった形である。
** [[ヒカゲノカズラ目]] {{sname||Lycopodiales}}
; 担葉体
***[[ヒカゲノカズラ科]] {{sname||Lycopodiaceae}}
: ハナヤスリ類に見られる構造で、茎に見えるが限定成長を行い、その上に胞子葉と栄養葉をつける。
** [[ミズニラ目]] {{sname||Isoetales}}
*** [[ミズニラ科]] {{sname||Isoetaceae}}
** [[イワヒバ目]] {{sname||Selaginellales}}
*** [[イワヒバ科]] {{sname||Selaginellaceae}}
* [[トクサ綱]] {{sname||Articulatae}}, {{sname||Sphenopsida}}
** [[トクサ目]] {{sname||Equisetales}}
*** [[トクサ科]] {{sname||Equisetaceae}}
* [[シダ綱]] {{sname||Filicinae}}, {{sname||Pteropsida}}
** [[ハナヤスリ目]] {{sname||Ophioglossales}}
*** [[ハナヤスリ科]] {{sname||Ophioglossaceae}}
** [[リュウビンタイ目]] {{sname||Marattiales}}
*** [[リュウビンタイ科]] {{sname||Marattiaceae}}
** [[ゼンマイ目]] {{sname||Osmundales}}
*** [[ゼンマイ科]] {{sname||Osmundaceae}}
** [[シダ目]] {{sname||Filicales}}
*** [[フサシダ科]] {{sname||Schizaeaceae}}
*** [[ウラジロ科]] {{sname||Gleicheniaceae}}
*** [[コケシノブ科]] {{sname||Hymenophyllaceae}}
*** [[ワラビ科]] {{sname||Pteridaceae}}
*** [[ミズワラビ科]] {{sname||Parkeriaceae}}
*** [[シノブ科]] {{sname||Davalliaceae}}
*** [[キジノオシダ科]] {{sname||Plagiogyriaceae}}
*** [[ヘゴ科]] {{Sname||Cyatheaceae}}
*** [[オシダ科]] {{Sname||Aspidiaceae}}
*** [[シシガシラ科]] {{sname||Blechnaceae}}
*** [[チャセンシダ科]] {{sname||Aspleniaceae}}
***([[マトニア科]] {{sname||Matoniaceae}})
*** [[ウラボシ科]] {{sname||Polypodiaceae}}
***([[ヒメウラボシ科]] {{sname||Grammitidaceae}})
*** [[シシラン科]] {{sname||Vittariaceae}}
** [[デンジソウ目]] {{sname||Marsileales}}
*** [[デンジソウ科]] {{sname||Marsileaceae}}
** [[サンショウモ目]] {{sname||Salviniales}}
*** [[サンショウモ科]] {{sname||Salviniaceae}}
*** [[アカウキクサ科]] {{sname||Azollaceae}}


上記の各綱は異なる亜門に分類されることもある。以下に'''[[#iwatsuki|岩槻 (1975)]]における化石植物も含めたシダ植物の分類'''の例を示す<ref name="iwatsuki"/>。これ以前の考えでは、化石植物である[[リニア属|リニア]]や[[クックソニア]]など[[古生マツバラン綱]]に含まれ、マツバラン類はその生き残りだと考えられていたが、このころの考えではその直接的な系統関係は否定されていた(多系統であると考えられた)<ref name="iwatsuki"/>。また、裸茎植物の一群から小葉植物、有節植物、シダ類がデボン紀初頭から異なった群として分化してきたと考えられており、3群はそれぞれ直接的な系統関係がない独立な群と考えられた<ref name="iwatsuki"/>。なお、この各亜門は[[#tagawa|田川 (1959)]]ではそれぞれ[[門 (分類学)|門]]に格上げされており、それぞれ裸茎植物門 {{sname|Psilophyta}}、ヒカゲノカズラ門 {{sname|Lycophyta}}、[[トクサ門]] {{sname||Calamophyta}}、[[シダ門]] {{sname|Pterophyta}}と呼ばれていた。[[絶滅]]した分類群には†を付した。
== 人との関わり ==
;シダ植物門 {{sname||Pteridophyta}}
[[日本]]では[[ワラビ]]、[[ゼンマイ]]、[[クサソテツ]]など、[[山菜]]として利用されるものがいくつかある。その一部は、商品として流通するほど、広く利用される。[[ジュウモンジシダ]]、[[ナチシダ]]なども食用とされることがある。[[東南アジア]]などでは、オオタニワタリやミズワラビも使われる。ただし、それらの中には毒性を有するものも多く、ワラビなども生で摂取すると中毒症状が出る。可食とするためには「あく抜き」などと称する処理を行わなければならない。例えばブータンではイワデンダ科の ''Diplazium maximum'' や[[ナチシダ]]、[[ランダイワラビ]]などを食用とする。これらはいずれも毒性があって家畜が食べない。そのために肥沃な放牧場にはこれらがよく繁茂し、地元民は良質な食材を入手できるというシステムが成立している<ref>松本(2009)</ref>。
:* ''{{lang|la|incertae sedis}}''
:** †[[ノエゲラシア群]] {{sname||Noeggerathiales}} - †[[ノエゲラシア科]] {{sname||Noeggrathiaceae}}、†[[チンギア科]] {{sname||Tingiaceae}}
:* †[[原裸子植物]] {{Sname||Progymnospermopsida}}
:** †[[アネウロフィトン目]] {{Sname||Aneurophytales}} - †[[アネウロフィトン科]] {{Sname||Aneurophytaceae}}
:** †[[プロトピチス目]] {{Sname||Protopityales}} - †[[プロトピチス科]] {{Sname||Protopityaceae}}
:** †[[ピチス目]] {{Sname||Pityales}} - †[[ピチス科]]{{Sname||Pityaceae}}
:; [[裸茎植物亜門]](マツバラン類) {{sname||Psilophytina}}
:* †[[古生マツバラン綱]] {{sname||Psilophytopsida}}
:** †[[古生マツバラン目]] {{sname||Psilophytopsida}} - †[[リニア科]] {{Sname||Rhyniaceae}}、†[[ゾステロフィルム科]] {{Sname||Zosterophyllaceae}}、†[[古生マツバラン科]]{{Sname||Psilophytaceae}}、†[[アステロキシロン科]] {{sname||Asteroxylaceae}}
:* [[マツバラン綱]] {{sname||Psilotopsida}}
:** [[マツバラン目]] {{sname||Psilotales}} - [[マツバラン科]] {{sname||Psilotaceae}}、[[イヌナンカクラン科]] {{Sname||Tmesipteridaceae}}
:; [[小葉植物亜門]](鱗葉植物、ヒカゲノカズラ類) {{Sname||Lepidophytina}} ({{Sname||Microphyllophytina}}, {{Sname||Lycopodiinae}}, {{Sname||Lycophytina}}, {{Sname||Lycopsida}})
:* [[無舌綱]] {{Sname||Aglossopsida}}
:** †[[古生ヒカゲノカズラ目]] {{sname||Protolepidodendrales}} - †[[ドレパノフィクス科]] {{sname||Drepanophycaceae}}、†[[古生ヒカゲノカズラ科]] {{sname||Protolepidodendraceae}}
:** [[ヒカゲノカズラ目]] {{sname||Lycopodiales}} - [[ヒカゲノカズラ科]] {{sname||Lycopodiaceae}}
:* [[有舌綱]] {{Sname||Glossopsida}}
:** [[イワヒバ目]] {{sname||Selaginellales}} - [[イワヒバ科]] {{sname||Selaginellaceae}}、†[[ミアデスミア科]] {{Sname||Miadesmiaceae}}
:** †[[リンボク目]] {{sname||Lepidodendrales}} - †[[リンボク科]] {{Sname||Lepidodendraceae}}、†[[ボスロデンドロン科]] {{Sname||Bothrodendraceae}}、†[[シギラリア科]] {{Sname||Sigillariaceae}}
:** [[ミズニラ目]] {{Sname||Isoetales}} - †[[プレウロメイア科]] {{Sname||Pleuromeiaceae}}、[[ミズニラ科]] {{sname||Isoetaceae}}
:; [[有節植物亜門]](トクサ類、楔葉類) {{Sname||Sphenophytina}} ({{Sname||Articulatae}}, {{Sname||Equisetinae}}, {{Sname||Calamophytina}})
:* [[有節植物綱]] {{sname||Sphenophyllopsida}}
:** †[[ヒエニア目]] {{Sname||Hyeniales}} - †[[ヒエニア科]] {{Sname||Hyeniaceae}}、†[[カラモフィトン科]] {{Sname||Hyeniaceae}}
:** †[[プセウドボルニア目]] {{Sname||Pseudoborniales}} - †[[プセウドボルニア科]] {{Sname||Pseudoborniaceaae}}
:** †[[スフェノフィルム目]] {{Sname||Sphenophyllales}} - †[[スフェノフィルム科]] {{Sname||Sphenophyllaceae}}、†[[ケイロストロブス科]] {{Sname||Cheirostrobaceae}}
:** †[[ロボク目]] {{Sname||Calamitales}} - †[[アステロカラミテス科]] †{{Sname||Asterocalamitaceae}}、†[[ロボク科]] {{Sname||Calamitaceae}}
:** [[トクサ目]] {{Sname||Equisetales}} - [[トクサ科]] {{Sname||Equisetaceae}}
:;[[シダ類亜門]] {{sname||Pterophytina}} ({{sname||Filices}}, {{sname||Filicinae}}, {{sname||Filicopsida}})
:* [[シダ綱]] {{Sname||Pteropsida}}
:** †[[古生シダ目]] {{sname||Protopteridales}} - †[[古生シダ科]] {{sname||Protopteridaceae}}
:** †[[クラドキシロン目]] {{Sname||Cladoxylales}} - †[[クラドキシロン科]] {{Sname||Cladoxylaceae}}、†[[プセウドスポロクヌス科]] {{Sname||Pseudosporochnaceae}}
:** †[[コエノプテリス目]] {{sname||Coenopteridales}}
:*** †[[イリドプテリス亜目]] {{Sname||Iridopteridineae}} - †[[アラクノキシロン科]] {{Sname||Arachnoxylaceae}}、†[[イリドプテリス科]] {{sname||Iridopteridaceae}}
:*** †[[コエノプテリス亜目]] {{Sname||Coenopteridineae}} - †[[スタウロプテリス科]] {{Sname||Stauropteridaceae}}、†[[ツィゴプテリス科]] {{Sname||Zygopteridaceae}}、†[[ボトリオプテリス科]] {{Sname||Botryopteridaceae}}、†[[アナコロプテリス科]] {{Sname||Anachoropteridaceae}}
:** [[ハナヤスリ目]] {{Sname||Ophioglossales}} - [[ハナヤスリ科]] {{sname||Ophioglossaceae}}
:** [[リュウビンタイ目]] {{Sname||Marattiales}} - †[[プサロニウス科]] {{Sname||Psaroniaceae}}、[[リュウビンタイ科]] {{sname||Marattiaceae}}
:** [[シダ目]] {{Sname||Filicales}} - [[ゼンマイ科]] {{sname||Osmundaceae}}、[[キジノオシダ科]] {{sname||Plagiogyriaceae}}、[[ウラジロ科]] {{sname||Gleicheniaceae}}、[[フサシダ科]] {{sname||Schizaeaceae}}、[[コケシノブ科]] {{sname||Hymenophyllaceae}}、[[ヒメノフィロプシス科]] {{sname||Hymenophyllopsidaceae}}、[[ロクソマ科]] {{sname||Loxomaceae}}、[[ロフォソリア科]] {{sname||Lophosoriaceae}}、[[ワラビ科]] {{sname||Pteridaceae}}、[[ヘゴ科]] {{Sname||Cyatheaceae}}、†[[テンプスキヤ科]] {{sname||Tempskyaceae}}、[[タカワラビ科]] {{sname||Dicksoniaceae}}、[[コバノイシバカマ科]] {{Sname||Dennstaedtiaceae}}、[[ホングウシダ科]] {{Sname||Lindsaeaceae}}、[[シノブ科]] {{sname||Davalliaceae}}、[[ツルシダ科]] {{sname||Oleandraceae}}、[[ホウライシダ科]] {{sname||Parkeriaceae}}、[[シシラン科]] {{sname||Vittariaceae}}、[[イノモトソウ科]] {{sname||Pteridaceae}}、[[チャセンシダ科]] {{sname||Aspleniaceae}}、[[シシガシラ科]] {{sname||Blechnaceae}}、[[ツルキジノオ科]] {{Sname||Lomariopsidaceae}}、[[オシダ科]] {{Sname||Dryopteridaceae}}、[[ヒメシダ科]] {{Sname||Thelypteridaceae}}、[[メシダ科]] {{sname||Athyriaceae}}、[[マトニア科]] {{sname||Matoniaceae}}、[[ヤブレガサウラボシ科]] {{sname||Dipteridaceae}}、[[スジヒトツバ科]] {{sname||Cheiropleuriaceae}}、[[ウラボシ科]] {{sname||Polypodiaceae}}、[[ヒメウラボシ科]] {{sname||Grammitidaceae}}
:** [[デンジソウ目]] {{sname||Marsileales}} - [[デンジソウ科]] {{sname||Marsileaceae}}
:** [[サンショウモ目]] {{sname||Salviniales}} - [[サンショウモ科]] {{sname||Salviniaceae}}、[[アカウキクサ科]] {{sname||Azollaceae}}


=== 分子系統解析による分類体系 ===
[[ヘゴ]]などの木性シダ類の幹やゼンマイ類の根塊が、[[洋ラン]]栽培など[[園芸]]用資材として利用される。
{{see also|小葉植物|大葉シダ植物}}
[[分子系統解析]]により、系統関係が明らかになってくるにつれ、[[維管束植物]]は'''[[小葉植物]]'''と[[大葉植物]]('''[[大葉シダ植物]]''' + [[種子植物]])という大きな[[クレード]]に分かれることが分かってきた<ref name="murata"/><ref name="hasebe2"/>。シダ植物における[[分子系統樹]]に基づいた分類体系の先駆けは'''[[#smith|スミスら (2006)]]の分類体系'''である<ref name="ebihara2012"/>。スミスら (2006)の分類体系では、大葉シダ植物のみを [[#hasebe1995|Hasebe ''et al.'' (1995)]]、[[#Pryer|Pryer ''et al.'' (2004)]]、[[#schneider04|Schneider ''et al.'' (2004)]]、[[#korall|Korall ''et al.'' (2006)]]などの分子系統解析に基づき分類した<ref name="smith">[[#smith|Smith ''et al.'' 2006]], pp.705-731</ref>。その後、'''[[#christenhusz|ChristenhuszとChase (2014)]]'''は[[#schuettpelz|Schuettpelz and Pryer (2007)]]、[[#lehtonen|Lehtonen (2011)]]、[[#rothfels|Rothfels ''et al.'' (2012)]]および[[#schneider13|Schneider ''et al.'' (2013)]]の分子系統解析に基づき分類した<ref name="christenhusz"/>。現在では、小葉植物、大葉シダ植物を包括的に扱ったcommunity-derived(研究者のコミュニティで広く受け入れられている分類を整理したもの)の'''[[#ppg|PPG I分類体系 (2016)]]'''が提案されている<ref name="ppg">[[#ppg|PPG I 2016]]、pp.563-603</ref>。


以下に上記の3分類体系の[[科 (分類学)|科]]までの比較を示す(Christenhusz & Chase (2014)では亜科まで)。和名は主に『岩波生物学辞典 第5版』 (2013)に基づく<ref>[[#iwanami|巌佐ほか 2013]], pp.1641-1644</ref>。ただし、各分類群を対応させるためSmith ''et al.'' (2006)ではトクサ綱とマツバラン綱の順番を実際の論文と逆に示している。
また、[[オオタニワタリ]]など、鑑賞価値の高いものは、古くから栽培されてきた。広くシダ植物の範囲では、イワヒバと[[マツバラン]]が、日本では[[古典園芸植物]]として、[[江戸時代]]より栽培が行われた。ただし、そのための採取により、これらはその個体数が減少し、[[絶滅]]に瀕している地域もある。
{| class="wikitable"
! Smith ''et al.'' (2006)<ref name="smith"/><ref name="ebihara-family">[[#ebihara|海老原 2016]], pp.26-27</ref> !! Christenhusz & Chase (2014)<ref name="christenhusz"/><ref name="ebihara-family"/> !! PPG I (2016)<ref name="ppg"/>
|-
|(なし)
|'''ヒカゲノカズラ類''' {{sname||Lycopodiophyta}}
|'''ヒカゲノカズラ綱''' {{sname||Lycopodiopsida}}
|-
|(なし)
| style="vertical-align:top" |
* [[ヒカゲノカズラ亜綱]] {{sname||Lycopodiidae}}
** [[ヒカゲノカズラ目]]{{sname||Lycopodiales}}
** [[イワヒバ目]] {{sname||Selaginellales}}
** [[ミズニラ目]] {{sname||Isoëtales}}
| style="vertical-align:top" |
* [[ヒカゲノカズラ目]] {{sname||Lycopodiales}}
* [[ミズニラ目]] {{sname||Isoëtales}}
* [[イワヒバ目]] {{sname||Selaginellales}}
|-
|'''大葉シダ植物''' {{sname||Moniliformopses}}
|'''シダ類''' {{sname||Polypodiophyta}}
|'''ウラボシ綱''' {{sname||Polypodiopsida}}
|-
| style="vertical-align:top" |
* [[トクサ綱]] {{sname||Equisetopsida}} ({{sname||Sphenopsida}})
** [[トクサ目]] {{sname||Equisetales}}
*** [[トクサ科]] {{sname||Equisetaceae}}
| style="vertical-align:top" |
* [[トクサ亜綱]] {{sname||Equisetidae}}
** [[トクサ目]] {{sname||Equisetales}}
*** [[トクサ科]] {{sname||Equisetaceae}}
| style="vertical-align:top" |
* [[トクサ亜綱]] {{sname||Equisetidae}}
** [[トクサ目]] {{sname||Equisetales}}
*** [[トクサ科]] {{sname||Equisetaceae}}
|-
| style="vertical-align:top" |
* [[マツバラン綱]] {{sname||Psilotopsida}}
** [[ハナヤスリ目]] {{sname||Ophioglossales}}
*** [[ハナヤスリ科]] {{sname||Ophioglossaceae}}
** [[マツバラン目]] {{sname||Psilotales}}
*** [[マツバラン科]] {{sname||Psilotaceae}}
| style="vertical-align:top" |
* [[ハナヤスリ亜綱]] {{sname||Ophioglossidae}}
** [[ハナヤスリ目]] {{sname||Ophioglossales}}
*** [[ハナヤスリ科]] {{sname||Ophioglossaceae}}
** [[マツバラン目]] {{sname||Psilotales}}
*** [[マツバラン科]] {{sname||Psilotaceae}}
| style="vertical-align:top" |
* [[ハナヤスリ亜綱]] {{sname||Ophioglossidae}}
** [[マツバラン目]] {{sname||Psilotales}}
*** [[マツバラン科]] {{sname||Psilotaceae}}
** [[ハナヤスリ目]] {{sname||Ophioglossales}}
*** [[ハナヤスリ科]] {{sname||Ophioglossaceae}}
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* [[リュウビンタイ亜綱]] {{Sname||Marattidae}}
** [[リュウビンタイ目]] {{sname||Marattiales}}
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* [[リュウビンタイ亜綱]] {{sname||Marattiidae}}
** [[リュウビンタイ目]] {{sname||Marattiales}}
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* [[ウラボシ綱]] {{sname||Polypodiopsida}} ({{sname||Filicopsida}})
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**** [[ウラボシ科]] {{sname||Polypodiaceae}}
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** [[サンショウモ目]] {{sname||Salviniales}}
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**** チャセンシダ亜科 {{sname||Asplenioideae}}
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**** シシガシラ亜科 {{sname||Blechnoideae}}
*** [[ウラボシ科]] {{sname||Polypodiaceae}}
**** subfamily {{sname||Didymochlaenoideae}}
**** キンモウワラビ亜科 {{sname||Hypodematioideae}}
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* [[ウラボシ亜綱]] {{sname||Polypodiidae}}
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** [[コケシノブ目]] {{sname||Hymenophyllales}}
*** [[コケシノブ科]] {{sname||Hymenophyllaceae}}
** [[ウラジロ目]] {{sname||Gleicheniales}}
*** [[マトニア科]] {{sname||Matoniaceae}}
*** [[ヤブレガサウラボシ科]] {{sname||Dipteridaceae}}
*** [[ウラジロ科]] {{sname||Gleicheniaceae}}
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**** [[デスモフレビウム科]]<ref>{{cite web|url=https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16F16391/|title=次世代シーケンサーを用いた倍数性シダ類複合体の進化史解明|author=[[海老原淳]]|website=KAKEN|accessdate=2021-03-27}}</ref> {{sname||Desmophlebiaceae}}
**** [[ヘミディクティウム科]]<ref>{{cite web|url=http://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/30_07_05_Hemidictyaceae.html|title=真正ウラボシ類II/ヘミディクティウム科|author=[[壁谷幸子|Kabeya, Y.]] and [[長谷部光泰|Hasebe, M.]]|website=陸上植物の進化|publisher=[[基礎生物学研究所]]|accessdate=2021-03-27}}</ref> {{sname||Hemidictyaceae}}
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
{{Commonscat|Pteridophyta|Pteridophyta}}
{{Commonscat|Pteridophyta|Pteridophyta}}
* {{cite book|last=Copeland|first=Edwin Bingham|date=1947|title=Genera Filicum, the genera of ferns|publisher=Chronica Botanica|place=[[ウォルサム (マサチューセッツ州)|Waltham]]|ref=Copeland}}
*{{Cite book|和書
* {{cite journal|last1=Christenhusz|first1=Maarten J. M.|last2=Chase|first2=Mark W.|date=2014|title=Trends and concepts in fern classification|journal=Annals of Botany|volume=113|pages=571-594|ref=christenhusz}}
|author = [[田川基二]]
* {{cite book|last1=Engler|first1=Adolf|last2=Prantl|first2=Karl|date=1902|title=Die Natürlichen Pflanzenfamilien1 (4).Pteridophyta|publisher=Velag non Wilhelm Engelmann|place=[[ライプツィヒ|Leipzig]]|ref=engler}}
|title = 原色日本羊歯植物図鑑
* {{cite journal|last1=Fujinami|first1=Rieko|last2=Yamada|first2=Toshihiro|last3=Nakajima|first3=Atsuko|last4=Takagi|first4=Shoko|last5=Idogawa|first5=Ai|last6=Kawakami|first6=Eri|last7=Tsutsumi|first7=Maiko|last8=Imaichi|first8=Ryoko|date=2017|title=Root apical meristem diversity in extant lycophytes and implications for root origins|journal=New Phytologist|volume=229|issue=1|pages=460-468|ref=fujinami}}
|year = 1959
* {{cite journal|last1=Hasebe|first1=M.|last2=Wolf|first2=P. G.|last3=Pryer|first3=K. M.|last4=Ueda|first4=K.|last5=Ito|first5=M.|last6=Sano|first6=R.|last7=Gastony|first7=G. J.|last8=Yokoyama|first8=J.|last9=Manhart|first9=J. R.|last10=Murakami|first10=N.|last11=Crane|first11=E. H.|last12=Haufler|first12=C. H.|last13=Hauk|first13=W. D. |date=1995|title=Fern phylogeny based on ''rbcL'' nucleotide sequences|journal=Amer. Fern J.|volume=85|pages=134–181|ref=hasebe1995}}
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|series = 保育社の原色図鑑
* {{cite journal|last1=Korall|first1=P.|last2=Pryer|first2=K. M.|last3=Metzgar|first3=J. S.|last4=Schneider|first4=H.|last5=Conant|first5=D. S.|date=2006|title=Tree ferns: monophyletic groups and their relationships as revealed by four protein-coding plastid loci|journal=Molec. Phylog. Evol.|volume=39|pages=830–845|ref=korall}}
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* {{cite book|和書|author=[[岩槻邦男]]・[[大場秀章]]・[[清水建美]]・[[堀田満]]・[[ギリアン・プランス]]・[[ピーター・レーヴン]] 監修|title=朝日百科 植物の世界[12] シダ植物・コケ植物・地衣類・藻類・植物の形態|publisher=[[朝日新聞社]]|date=1997-10-01|pages=1-93|ref=asahi}}
* {{cite book|author=[[岩槻邦男]]編|title=日本の野生植物 シダ|date=1992|publisher=平凡社}}
* {{cite book|和書|author=[[海老原淳]] 著; 日本シダの会 企画・協力|title=日本産シダ植物標準図鑑1 |publisher=[[学研プラス]]|date=2016-07-13|isbn=978-4054053564|pages=9-17|ref=ebihara}}
* {{cite book|和書|author=[[加藤雅啓]]|date=1999-05-20|title=植物の進化形態学|publisher=[[東京大学]]出版会|pages=60-82|ref=kato1999}}
* {{Cite book|和書|author=[[田川基二]]|title = 原色日本羊歯植物図鑑|date = 1959-10-01|publisher = [[保育社]]|series = 保育社の原色図鑑|isbn = 4586300248|ref=tagawa}}
* {{cite book|和書|author=[[新村出]]|title=[[広辞苑]] 第六版|publisher=[[岩波書店]]|edition=第6版|date=2008-01-11|page=1237|isbn=9784000801218|ref=kojien}}
* {{cite book|和書|author=[[日本植物分類学会]] 監修; [[戸部博]]・[[田村実]] 編著 著|title=新しい植物分類学Ⅱ |publisher=[[講談社]]|date=2012-08-10|isbn=978-4061534490}}
** {{cite |author=村上哲明|title=シダ植物(広義)|date=2012|pages=67-73|ref=murakami}}
** {{cite |author=海老原淳|title=陸上植物の新しい分類体系 シダ植物|date=2012|pages=309-310|ref=ebihara2012}}
* {{cite book|和書|author=[[長谷部光泰]] |title=陸上植物の形態と進化|publisher=[[裳華房]]|date=2020-07-01|isbn=978-4785358716|pages=1-4, 124-173|ref=hasebe}}
* {{cite book|和書|author=[[原襄]]|title=植物形態学|publisher=[[朝倉書店]]|date=1994-07-10|isbn=978-4254170863|page=5|ref=hara}}
* {{cite book|和書| author=[[邑田仁]]監修・[[米倉浩司]]著|title=高等植物分類表|publisher=[[北隆館]]|version=重版||date=2010-04-10|ref=murata}}
* {{cite book|和書|author=[[山田常雄]]・[[前川文夫]]・[[江上不二夫]]・[[八杉竜一]]・[[小関治男]]・[[古谷雅樹]]・[[日高敏隆]] 編集|title=岩波生物学辞典 第3版|publisher=[[岩波書店]]|date=1983-03-10|page=524|isbn=4-00-080018-3|ref=iwanami3}}

== 関連項目 ==
* [[維管束植物]]
** '''シダ植物(広義)'''(= [[シダ植物門]](広義); [大葉シダ植物 + [[小葉植物]]]; 側系統)/ [[大葉植物]](= 真葉植物; [大葉シダ植物 + [[種子植物]]]; 単系統)
*** [[大葉シダ植物]](= シダ植物門(狭義) = [[シダ類]](広義) = [[シダ植物綱]]; [シダ綱 + [[トクサ類]] + [[マツバラン類]]]; 単系統)
**** [[シダ綱]](広義)(= シダ類(狭義); 側系統)
***** [[真嚢シダ類]](<nowiki>[</nowiki>[[リュウビンタイ類]] + [[ハナヤスリ類]]]; 側系統)
***** [[薄囊シダ類]](= シダ綱(狭義); 単系統)


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[[Category:シダ類|*したしよくふつ]]
[[Category:シダ類|*したしよくふつ]]
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2021年3月27日 (土) 14:29時点における版

成長したワラビ

シダ植物は、以下の意味を持つ植物の一群である。

  1. シダ植物(広義)pteridophytes: 維管束植物のうち、胞子による繁殖を行う段階にある植物の総称[1][2]。胞子による繁殖という共有原始形質によりまとめられていたため、側系統群である[2]本項で述べる。
  2. モニロファイツ(首飾植物)monilophytes: 維管束植物のうち、原生木部中原型首飾状の維管束配列を持つ単系統群[3]。上記の広義のシダ植物のうち、狭義の小葉植物ヒガケノカズラ科イワヒバ科ミズニラ科)を除いたグループとなる。この群を指して「シダ植物」と呼ぶ[4][3]ことも「シダ類」と呼ぶ[1][5]こともある。詳しくは大葉シダ植物を参照。

本項におけるシダ植物(シダしょくぶつ、羊歯植物、歯朶植物、: pteridophytes)はかつてはシダ植物門 division Pteridophytaの階級に置かれていた[2][6]。シダ植物という言葉は現在では学術的な場では使われなくなっているが、進化段階や生活環上の特性において未だ用いられることがある[1]。そういった文脈では ferns and ferns alliesferns and lycophytes と呼ばれる[1]。これに属する植物を一般的にシダ(羊歯、歯朶)と呼ぶこともあるが[4]シダ綱(側系統群、範囲は本文を参照)を指すことも多い。シダ植物は非種子維管束植物[4]無種子維管束植物[6][7]とも言い換えられる。

本項では、主にシダ植物の生活環および分類の歴史について概説する。

系統関係

Wickettら (2014)Puttickら (2018)による分子系統解析から、次のような系統樹が得られている[8]緑枠で囲んだ範囲が「シダ植物」"Pteridophyta"の系統的位置を示す[8]

伝統的分類では、シダ植物はマツバラン類無葉類ヒカゲノカズラ類小葉類トクサ類楔葉類、およびシダ類大葉類の4群に大きく分類されていた[1][2][4][9]。このうちシダ類胞子囊が胞子体の表層の複数の細胞から生じ、完成した胞子囊が複数の細胞層の壁を持つ真嚢シダ類(ハナヤスリ類+リュウビンタイ類)および胞子囊は単一の細胞から生じ、完成した胞子囊は1層の細胞層の壁を持つ薄囊シダ類が認められていた[2]

分子系統解析の結果から「シダ植物」は明らかに側系統であり、従来独立して扱われていたマツバラン類およびトクサ類がシダ類と同じクレードに入るようになった[9]。また、真嚢シダ類と呼ばれていたリュウビンタイ類およびハナヤスリ類も、ハナヤスリ類とマツバラン類が姉妹群をなすことで側系統となった。つまり、従来考えられていた4群ではなく小葉類および大葉シダ類(トクサ類 + マツバラン類 + ハナヤスリ類 + リュウビンタイ類 + 薄囊シダ類)の大きく2群に分けられるようになった[9]

隔膜形成体植物

隔膜形成体緑藻類車軸藻類+コレオケーテ類+接合藻類

陸上植物
コケ植物

ツノゴケ植物門

苔植物門

蘚植物門

維管束植物
小葉植物

ヒカゲノカズラ目 Lycopodiales

イワヒバ目 Selaginellales

ミズニラ目 Isoetales

「シダ植物」
"Pteridophyta"
Lycophyta
大葉植物
大葉シダ植物

トクサ目 Equisetales

マツバラン目 Psilotales

ハナヤスリ目 Ophioglossales

リュウビンタイ目 Marattiales

「真囊シダ類」
"Eusporangiopsida"
薄囊シダ類

ウラボシ目 Polypodiales

ヘゴ目 Cytheales

サンショウモ目 Salviniales

フサシダ目 Schizaeales

コケシノブ目 Hymenophyllales

ウラジロ目 Gleicheniales

ゼンマイ目 Osmundales

Polypodiidae
Monilophyta
種子植物

裸子植物 Gymnospermae

被子植物 Angiospermae

Spermatophyta
Euphyllophyta

特徴

上記のように本項で述べるシダ植物は側系統群であるため、共有派生形質は存在しないが、共通の性質はおおよそ次のようなものである。

  1. 維管束をもつ維管束植物である[10][11]。(⇔コケ植物は維管束をもたない)
  2. 陸上植物が持つ配偶体(有性世代)と胞子体(無性世代)という2つの世代のうち、大型で複雑な形態に分化する胞子体が生活史の中心を占める[10][11]。(⇔コケ植物では胞子体は配偶体に寄生)
  3. 配偶体(前葉体)と胞子体は独立して生活している[10][11]。(⇔コケ植物では胞子体が配偶体に寄生、種子植物では微小な配偶体が胞子体に栄養的に依存)
  4. 胞子体は種子を形成せず、胞子が散布体として働く[10][11]。(⇔種子植物では種子が散布体として働く)

生活環

シダ植物の生活環(世代交代)
diploid generation: 複相世代、haploid generation: 単相世代、(developing/mature) sporophyte:(未熟な/成熟した)胞子体、meiosis: 減数分裂、spores: 胞子、mitosis: 有糸分裂、prothallus (gametophyte): 前葉体(配偶体)、male/female gametes: 雄性/雌性配偶子、fertilisation: 受精
前葉体と発芽したばかりの本体(コウヤワラビ

シダ植物の生活環は典型的な単複世代交代型であり、胞子体と前葉体の2期があり、それぞれが生活を営む。胞子体は減数分裂を行って胞子を作り、これを散布体とするが、1種類の胞子を作る同形胞子性のものと2種類の胞子を作る異形胞子性のものがある[4]。同形胞子性の植物では前葉体は雌雄同体で、1つの体に造卵器造精器を持つ[4]。異形胞子性の植物では大胞子囊から大胞子小胞子囊から小胞子が作られ、前者は卵細胞を作る雌性配偶体に、後者は精子をつくる雄性配偶体となる[4]。異形胞子性は同形胞子性から進化したと考えられており、大葉シダ植物では水生シダ類デンジソウ科サンショウモ科)が、小葉植物ではミズニラ科およびイワヒバ科がそれぞれ異形胞子性である[4][3]

名称 胞子体
(もしくは造胞体)
前葉体
(もしくは配偶体)
核相 複相 (2n) 単相 (n)
光合成 する する
体制 根、茎、葉を持つ 一般に0.5 - 2 cmのハート型の葉状体で、仮根を持つ
(ヒカゲノカズラ属・ハナワラビ属では塊状[12]
生殖 無性生殖によって胞子 (n) を作る (精子と卵細胞を作り)
有性生殖によって受精卵 (2n) を作る
次世代 胞子は発芽して前葉体となる 受精卵は成長して胞子体となる

体制

維管束植物はを基本器官として持つが[13]、根、葉および茎頂は何れも小葉植物と大葉シダ植物でそれぞれ異なる構造や性質を持ち、また化石記録から、独立して獲得したものであると考えられている(平行進化[3]

小葉植物は葉隙を持たず、葉脈が1本の小葉を、大葉シダ植物は葉跡の上側に葉隙を作り葉脈が複数ある大葉を持つ[3]。ただしこの大葉は種子植物の持つ大葉と起源が異なり、独立に獲得したと考えられている[3]。また、大葉シダ植物のうちマツバラン類は葉隙を作らず1本の維管束が伸びる小葉に似た葉状突起を持つ[3]。トクサ類では被子植物のものとも異なる輪生葉(楔葉)を持つ[3]ハナヤスリ類では担栄養体(栄養葉、trophophore)と担胞子体(胞子葉、sporophyte)の基部が合わさって担葉体(共通柄、common stalk)という軸を形成する[14][15]
茎頂
小葉植物のうちヒカゲノカズラ科およびミズニラ科では胞子体の茎頂に複数の幹細胞茎頂分裂組織)が形成されるのに対し、イワヒバ類および大葉シダ植物では1個の幹細胞(頂端細胞)が形成される[3]
化石小葉植物のアステロキシロン Asteroxylon mackieiや大葉シダ植物のマツバラン類根冠のある根を持たず地下茎を持つ[3]。また、小葉植物のうちヒカゲノカズラ科のヒカゲノカズラ属 Lycopodiumアスヒカズラ属 Diphasiastrumでは静止中心様領域 QC-like areaを持つ根端分裂組織 (Type I)を、コスギラン属 Huperziaミズスギ属 Lycopodiellaでは静止中心様領域を持たず前表皮 protoderm基本分裂組織 ground meristemが別々の層からなる根端分裂組織 (Type II)を、ミズニラ科ではそれらが根冠と独立した層にならない根端分裂組織 (Type III)、イワヒバ科では大葉シダ植物と同様に頂端細胞を持ち、それぞれ大きく異なった根端の形質を持つ[16]。これらのことから、根は小葉類の各タイプおよび大葉シダ植物で独立に獲得された(多数回起源である)と考えられている[16]
イワヒバ科は葉を持たず根を専ら内生発生させる担根体 rhizophoreを持ち、これは地上根と考えられたこともあったが、現在では茎でも根でもない特有の器官と考えられている[17]
配偶体
普通シダ類では配偶体は前葉体と呼ばれ、コケ植物に似て数 mmで、1層の細胞層からなる[12]。前葉体は葉緑体を持つため独立栄養であるのに対し、ヒカゲノカズラ属(小葉植物)・ハナワラビ属ハナヤスリ類)では配偶体は従属栄養で、塊状で葉緑体を持たず菌根菌と共生する[12]

分類の歴史

伝統的分類

分類学の父と呼ばれるカール・フォン・リンネ(1753; 1754)は植物を花に基づき24に分けたが、シダ植物はそのうちの第24綱、隠花植物綱 Cryptogamiaコケキノコ海藻などと共に含められていた[18][19]胞子囊群(ソーラス)の形とその位置によりシダ植物 Filicesに16属174種を認めた[20][19]ヒカゲノカズラ属 Lycopodiumはコケ類 Musci として分類されていたが、トクサ属およびミズニラ属はシダ植物に含められていた[20]。リンネの分類は人為分類で、明らかに離れたを結び付けていた[19]

隠花植物綱 Cryptogamia
シダ類 Filices

James E. Smith (1793)包膜の特徴を用いて20属を認めた[19]。Swartzはその分類を発展させ、胞子囊群と包膜の形質により1801年には30属670種を、1806年には38属720種を扱った[19]。この分類体系では人為的な制限があったが、30年近くこれに代わる分類形質は発見されなかった[19]。Desvaux (1827)は胞子囊群の形質をより詳細に研究し、デンジソウ科 Marsilées、ヒカゲノカズラ科 Lycopodiées、ゼンマイ科 Osmondées、リュウビンタイ科 Marattiées、シダ科 Filicéesの5科79属1666種に分けた[19]

チャールズ・ダーウィンによる進化論以降、以下のようなアウグスト・アイヒラー (1883)による分類体系が有名である[18][21]

全植物を網羅した分類体系をつくったエングラープラントル (1902)はシダ植物をシダ類 FilicalesスフェノフィルムSphenophyllales(絶滅)、トクサ類 Equisetalesおよび小葉類 Lycopodialesの4群に分けた[22]。その後、Verdoorn (1938)田川と岩槻 (1972)Pichi Sermolli (1977)などでは、上記のうち小葉類からマツバラン類を分離した4群(スフェノフィルム類はトクサ類と共に有節類とされた)に分けられた[22]

Engler & Prantl (1902)[22] Verdoorn (1938)[22]

1920年代以降、デボン紀の化石シダ植物の研究が進み、シダ植物の各綱の差はシダ類と裸子植物の差よりも大きいと考えられるようになった[10]Oswald Tippo (1942)の分類体系はアメリカの一般的な植物学の教科書にすぐに受け入れられた[23]。この分類体系ではシダ植物が単系統ではなく、シダ植物と種子植物の間に明確な境界はないとした[23]。以下にその概形を示す[23]

伊藤洋 (1968; 1972)による伝統的な現生シダ植物の分類体系は以下の通りであった[24][25][2]。このうちシダ類の科の分類はコープランドのものに基づき[24]、日本では長らくこの分類体系が用いられることとなる。ただし、の学名は1つ目が伊藤洋ほか (1972)、2つ目が邑田・米倉 (2010)によるもの。()内の科は伊藤洋ほか (1972)にはあるが邑田・米倉 (2010)にはないもの。また、「羊歯植物門」およびシダ綱以外の各目は伊藤洋ほか (1972)にはなく、邑田・米倉 (2010)にはある。

羊歯植物門 Pteridophyta

上記の各綱は異なる亜門に分類されることもある。以下に岩槻 (1975)における化石植物も含めたシダ植物の分類の例を示す[6]。これ以前の考えでは、化石植物であるリニアクックソニアなど古生マツバラン綱に含まれ、マツバラン類はその生き残りだと考えられていたが、このころの考えではその直接的な系統関係は否定されていた(多系統であると考えられた)[6]。また、裸茎植物の一群から小葉植物、有節植物、シダ類がデボン紀初頭から異なった群として分化してきたと考えられており、3群はそれぞれ直接的な系統関係がない独立な群と考えられた[6]。なお、この各亜門は田川 (1959)ではそれぞれに格上げされており、それぞれ裸茎植物門 Psilophyta、ヒカゲノカズラ門 Lycophytaトクサ門 Calamophytaシダ門 Pterophytaと呼ばれていた。絶滅した分類群には†を付した。

シダ植物門 Pteridophyta
裸茎植物亜門(マツバラン類) Psilophytina
小葉植物亜門(鱗葉植物、ヒカゲノカズラ類) Lepidophytina (Microphyllophytina, Lycopodiinae, Lycophytina, Lycopsida)
有節植物亜門(トクサ類、楔葉類) Sphenophytina (Articulatae, Equisetinae, Calamophytina)
シダ類亜門 Pterophytina (Filices, Filicinae, Filicopsida)

分子系統解析による分類体系

分子系統解析により、系統関係が明らかになってくるにつれ、維管束植物小葉植物大葉植物大葉シダ植物 + 種子植物)という大きなクレードに分かれることが分かってきた[25][8]。シダ植物における分子系統樹に基づいた分類体系の先駆けはスミスら (2006)の分類体系である[9]。スミスら (2006)の分類体系では、大葉シダ植物のみを Hasebe et al. (1995)Pryer et al. (2004)Schneider et al. (2004)Korall et al. (2006)などの分子系統解析に基づき分類した[26]。その後、ChristenhuszとChase (2014)Schuettpelz and Pryer (2007)Lehtonen (2011)Rothfels et al. (2012)およびSchneider et al. (2013)の分子系統解析に基づき分類した[19]。現在では、小葉植物、大葉シダ植物を包括的に扱ったcommunity-derived(研究者のコミュニティで広く受け入れられている分類を整理したもの)のPPG I分類体系 (2016)が提案されている[27]

以下に上記の3分類体系のまでの比較を示す(Christenhusz & Chase (2014)では亜科まで)。和名は主に『岩波生物学辞典 第5版』 (2013)に基づく[28]。ただし、各分類群を対応させるためSmith et al. (2006)ではトクサ綱とマツバラン綱の順番を実際の論文と逆に示している。

Smith et al. (2006)[26][29] Christenhusz & Chase (2014)[19][29] PPG I (2016)[27]
(なし) ヒカゲノカズラ類 Lycopodiophyta ヒカゲノカズラ綱 Lycopodiopsida
(なし)
大葉シダ植物 Moniliformopses シダ類 Polypodiophyta ウラボシ綱 Polypodiopsida

脚注

  1. ^ a b c d e 海老原 2016, pp.16-17
  2. ^ a b c d e f 村上 2012, pp.67-73
  3. ^ a b c d e f g h i j 長谷部 2020, pp. 124-173
  4. ^ a b c d e f g h 伊藤 2012, pp.116-129
  5. ^ 巌佐ほか 2013, p.589
  6. ^ a b c d e 岩槻 1975, pp.157-193
  7. ^ 巌佐ほか 2013, p.589
  8. ^ a b c 長谷部 2020, pp. 1-4, 68-70
  9. ^ a b c d 海老原 2012, pp.309-310
  10. ^ a b c d e 田川 1959, pp.1-5
  11. ^ a b c d 伊藤 2012, pp.43-54
  12. ^ a b c 岩槻 1997, pp.2-5
  13. ^ 原 1994, p.5
  14. ^ 山田ほか 1983, p.524
  15. ^ 海老原 2016, pp.9-15
  16. ^ a b Fujinami et al. 2017, 1210-1220
  17. ^ 加藤 1999, pp.60-82
  18. ^ a b 井上 1975, pp.1-8
  19. ^ a b c d e f g h i Christenhusz & Chase 2014, pp.571-594
  20. ^ a b Linnaeus 1753, pp.1061-
  21. ^ Core 1955, pp.52-53
  22. ^ a b c d Kato 2005, pp.111-126
  23. ^ a b c Core 1955, pp.52-53
  24. ^ a b 伊藤 1972, pp.165-169
  25. ^ a b 邑田・米倉 2010, pp.103-104
  26. ^ a b Smith et al. 2006, pp.705-731
  27. ^ a b PPG I 2016、pp.563-603
  28. ^ 巌佐ほか 2013, pp.1641-1644
  29. ^ a b 海老原 2016, pp.26-27
  30. ^ 海老原淳. “次世代シーケンサーを用いた倍数性シダ類複合体の進化史解明”. KAKEN. 2021年3月27日閲覧。
  31. ^ Kabeya, Y. and Hasebe, M.. “真正ウラボシ類II/ヘミディクティウム科”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2021年3月27日閲覧。

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関連項目