「職務著作」の版間の差分
ProfessorPine (会話 | 投稿記録) Goldstein & Hugenholtz (2013) を出典にスペイン、イタリア、カナダなど追記 |
ProfessorPine (会話 | 投稿記録) 村井 (2004) を出典に日本の判例追加。作花 (2018) を出典にイギリスパート新規。その他微修正。 |
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{{Pathnav|知的財産権|著作権|著作者|frame=1}} |
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[[File:THE OCTOROON at The Winter Garden, 1859.jpg|thumb|{{仮リンク|ダイオン・ブシコー|en|Dion Boucicault}}著・出演の戯曲『{{仮リンク|The Octoroon|en|The Octoroon}}』のシーン (1859年初演)。ブシコーと雇用主である劇場の間で戯曲の著作権が争われた。]] |
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'''職務著作''' (しょくむちょさく、{{Lang-en-short|work made for hire}}) とは、職務の一環で文芸・音楽・映像・ソフトウェアといった[[著作物]]を創作した場合、創作した個人本人ではなく、創作を指揮・監督した雇用主や[[アウトソーシング|業務委託]]者が[[著作権]]を有するとする[[著作権|著作権法]]上の概念である。また、このような著作物を'''職務著作物'''と呼ぶ。個人 ([[自然人]]) の対義語として[[法人]]が用いられることから、'''法人著作''' ({{Lang-en-short|corporate authorship}}) と呼ばれることもあるが、法人以外の団体組織も職務著作の概念に含まれる{{Refnest|group="註"|法人以外の団体組織には、たとえば政府など公共団体や{{Sfn|作花|2018|p=174}}、投資ファンドにみられる[[投資事業有限責任組合]]など[[組合#法人格を有しない「組合」|法人格を有しない組合]]がある。}}。 |
'''職務著作''' (しょくむちょさく、{{Lang-en-short|work made for hire}}) とは、職務の一環で文芸・音楽・映像・ソフトウェアといった[[著作物]]を創作した場合、創作した個人本人ではなく、創作を指揮・監督した雇用主や[[アウトソーシング|業務委託]]者が[[著作権]]を有するとする[[著作権|著作権法]]上の概念である。また、このような著作物を'''職務著作物'''と呼ぶ。個人 ([[自然人]]) の対義語として[[法人]]が用いられることから、'''法人著作''' ({{Lang-en-short|corporate authorship}}) と呼ばれることもあるが{{Sfn|村井|2004|p=195}}、法人以外の団体組織も職務著作の概念に含まれる{{Refnest|group="註"|法人以外の団体組織には、たとえば政府など公共団体や{{Sfn|作花|2018|p=174}}、投資ファンドにみられる[[投資事業有限責任組合]]など[[組合#法人格を有しない「組合」|法人格を有しない組合]]がある。}}。 |
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どこまでが職務の一環なのか、またどのような条件を満たせば職務著作とみなすのかは、各国の著作権法および判例によって異なる。 |
どこまでが職務の一環なのか、またどのような条件を満たせば職務著作とみなすのかは、各国の著作権法および[[判例]]によって異なる。 |
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== 職務著作の条件と対象 == |
== 職務著作の条件と対象 == |
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どのような著作物であれ、一般的にはその創作者たる個人に著作権が発生する{{Sfn|作花|2018|pp=166–167, 174}}。この原則を「原始的帰属」と呼ぶ{{Sfn|山本|2008|p=68}}。これに対し、職務上創作した場合は創作した個人 (被用者) ではなく、雇用主・委託主 (使用者) に著作権があると捉えるのが職務著作である{{Sfn|作花|2018|p=174}}。 |
どのような著作物であれ、一般的にはその創作者たる個人に著作権が発生する{{Sfn|作花|2018|pp=166–167, 174}}。この原則を「原始的帰属」と呼ぶ{{Sfn|山本|2008|p=68}}。これに対し、職務上創作した場合は創作した個人 (被用者) ではなく、雇用主・委託主 (使用者) に著作権があると捉えるのが職務著作である{{Sfn|作花|2018|p=174}}。 |
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世界の多くの国では、著作物を創作すればそれが未完成・未公表であっても、またアマチュアの私的目的の創作物であっても、著作権が自動的に発生する「無方式主義」を採用している{{Refnest|group="註"|世界170か国以上 (2019年10月時点) が加盟する著作権の基本条約である[[ベルヌ条約]]では<ref name=WIPO-1886Members>{{Cite web |title=Contracting Parties > Berne Convention (Total Contracting Parties : 177) |trans-title=ベルヌ条約 原条約加盟国数: 177 (閲覧時点) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=15 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-10-15 |language=en}}</ref><ref name=WIPO-1971Members>{{Cite web |title=Contracting Parties > Berne Convention > Paris Act (1971) (Total Contracting Parties : 187) |trans-title=ベルヌ条約 1971年パリ改正版加盟国数: 187 (閲覧時点) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ActResults.jsp?act_id=26 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-10-15 |language=en |quote=システムエラーにより16か国がダブルカウントされているため、正確には閲覧時点の加盟国数は171か国 (署名のみで批准未済のレバノンを含めると172か国) である。}}</ref>、[[s: 1971年ベルヌ条約パリ改正#5条|同条約 第5条 (2)]] にて無方式主義を定めているため。}}。つまり[[特許]]のように政府当局への登録・審査などの手続を必要としないことから、誰に著作権が発生したかが曖昧になり、創作した個人 (原始的帰属) と雇用主・委託主 (職務著作) の双方が著作権を主張して、後に対立することがある (詳細は[[#各国著作権法での取扱]]で後述)。 |
世界の多くの国では、著作物を創作すればそれが未完成・未公表であっても、またアマチュアの私的目的の創作物であっても、著作権が自動的に発生する「[[著作権#方式主義と無方式主義|無方式主義]]」を採用している{{Refnest|group="註"|世界170か国以上 (2019年10月時点) が加盟する著作権の基本条約である[[ベルヌ条約]]では<ref name=WIPO-1886Members>{{Cite web |title=Contracting Parties > Berne Convention (Total Contracting Parties : 177) |trans-title=ベルヌ条約 原条約加盟国数: 177 (閲覧時点) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=15 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-10-15 |language=en}}</ref><ref name=WIPO-1971Members>{{Cite web |title=Contracting Parties > Berne Convention > Paris Act (1971) (Total Contracting Parties : 187) |trans-title=ベルヌ条約 1971年パリ改正版加盟国数: 187 (閲覧時点) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ActResults.jsp?act_id=26 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-10-15 |language=en |quote=システムエラーにより16か国がダブルカウントされているため、正確には閲覧時点の加盟国数は171か国 (署名のみで批准未済のレバノンを含めると172か国) である。}}</ref>、[[s: 1971年ベルヌ条約パリ改正#5条|同条約 第5条 (2)]] にて無方式主義を定めているため。}}。つまり[[特許]]のように政府当局への登録・審査などの手続を必要としないことから、誰に著作権が発生したかが曖昧になり、創作した個人 (原始的帰属) と雇用主・委託主 (職務著作) の双方が著作権を主張して、後に対立することがある (詳細は[[#各国著作権法での取扱]]で後述)。 |
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各国の著作権法では条文上で職務著作を定義しているほか、個別の事案における「職務」の解釈は裁判所の司法判断に委ねられている。原始的帰属と職務著作を線引きする際の一般的な論点としては以下が挙げられ、各国で取扱に差異がある{{Sfn|作花|2018|pp=174–187}}{{Sfn|Leaffer|2008|pp=267–275}}{{Sfn|井奈波|2006|pp=10–12}}。 |
各国の著作権法では条文上で職務著作を定義しているほか、個別の事案における「職務」の解釈は裁判所の司法判断に委ねられている。原始的帰属と職務著作を線引きする際の一般的な論点としては以下が挙げられ、各国で取扱に差異がある{{Sfn|作花|2018|pp=174–187}}{{Sfn|Leaffer|2008|pp=267–275}}{{Sfn|井奈波|2006|pp=10–12}}。 |
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== 各国著作権法での取扱 == |
== 各国著作権法での取扱 == |
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=== 国際条約 === |
=== 国際条約 === |
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著作権の基本条約である[[ベルヌ条約]]では、[[s: 1971年ベルヌ条約パリ改正#2条|第2条]]で著作物を、[[s: 1971年ベルヌ条約パリ改正#3条|第3条]]で著作者をそれぞれ定義しているが、職務著作に関する特段の規定は設けていない。「ベルヌ条約の2階部分」{{Sfn|文化庁|2007|p=69}}とも呼ばれる[[WIPO著作権条約]]でも同様である<ref name=WCT-TextEn>{{Cite web |url=https://wipolex.wipo.int/en/text/295166 |title=WIPO Copyright Treaty (WCT) (Authentic text) |trans-title=WIPO著作権条約 (公式原文) |publisher=[[WIPO]] |date=1996-12-20 |accessdate=2019-10-15 |language=en}}</ref>。 |
著作権の基本条約である[[ベルヌ条約]]では、[[s: 1971年ベルヌ条約パリ改正#2条|第2条]]で著作物を、[[s: 1971年ベルヌ条約パリ改正#3条|第3条]]で著作者をそれぞれ定義しているが、職務著作に関する特段の規定は設けていない。「ベルヌ条約の2階部分」{{Sfn|文化庁|2007|p=69}}とも呼ばれる[[WIPO著作権条約]]でも同様である<ref name=WCT-TextEn>{{Cite web |url=https://wipolex.wipo.int/en/text/295166 |title=WIPO Copyright Treaty (WCT) (Authentic text) |trans-title=WIPO著作権条約 (公式原文) |publisher=[[WIPO]] |date=1996-12-20 |accessdate=2019-10-15 |language=en}}</ref>。よって、各国の著作権法での個別規定を見ていく。 |
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=== 北米 === |
=== 北米 === |
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#* 試験の解答資料 |
#* 試験の解答資料 |
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#* 地図帳{{Div col end}} |
#* 地図帳{{Div col end}} |
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# 注文・委託による創作 (b): 上記9カテゴリに該当しないが、「独立の契約者」(independent contractor){{Refnest|group="註"|米国の代理法におけるindependent contractorは、「独立の契約者」{{Sfn|Leaffer|2008|p=308}}または独立の請負人{{Sfn|山本|2008|p=76}}と訳される。}}によって創作された著作物 |
# 注文・委託による創作 (b): 上記9カテゴリに該当しないが、「独立の契約者」(independent contractor){{Refnest|group="註"|米国の代理法におけるindependent contractorは、「独立の契約者」{{Sfn|Leaffer|2008|p=308}}または「独立の請負人」{{Sfn|山本|2008|p=76}}と訳される。}}によって創作された著作物 |
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1つ目の分類では、署名による明示的な合意がない限りにおいて、従業員の創作物は職務著作物と推定される。たとえば広告代理店に正社員としてフルタイム勤務するグラフィックアーティストが、クライアントのために描いたデッサンの著作物は、基本的には勤務先企業である広告代理店に職務著作が認められる{{Sfn|Leaffer|2008|p=267}}。 |
1つ目の分類では、署名による明示的な合意がない限りにおいて、従業員の創作物は職務著作物と推定される。たとえば広告代理店に正社員としてフルタイム勤務するグラフィックアーティストが、クライアントのために描いたデッサンの著作物は、基本的には勤務先企業である広告代理店に職務著作が認められる{{Sfn|Leaffer|2008|p=267}}。 |
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2つ目と3つ目の分類では、従業員ではなく「独立した契約者」が注文・委託を受けて創作したケースである。ここでの独立した契約者とは、独立した雇用または職業の一環として役務を提供する者、かつ方法・手段ではなく達成すべき職務の結果に対してのみ、使用者の要求に従う者だと定義される{{Sfn|Leaffer|2008|p=308}}。1909年の改正法までは、独立した契約者であっても委託側に著作権を認めていたが、1976年の改正法によってこれを覆し、独立した契約者の置かれていた不公平な状況を改善している{{Sfn|Leaffer|2008|p=269}}。 |
2つ目と3つ目の分類では、従業員ではなく「独立した契約者」が注文・委託を受けて創作したケースである。ここでの独立した契約者とは、独立した雇用または職業の一環として役務を提供する者、かつ方法・手段ではなく達成すべき職務の結果に対してのみ、使用者の要求に従う者だと定義される{{Sfn|Leaffer|2008|p=308}}。1909年の改正法までは、独立した契約者であっても委託側に著作権を認めていたが、1976年の改正法によってこれを覆し、独立した契約者の置かれていた不公平な状況を改善している{{Sfn|Leaffer|2008|p=269}}。 |
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独立した契約者のうち、2つ目の分類 (9つのカテゴリ) では、当事者が署名した文書によって職務著作物として扱うことを明示的に合意していなければならない。単に譲渡契約を結んでいるだけでは不十分であり、明示的に職務著作に関する規定を書面上に設けなければならない{{Sfn|Leaffer|2008|p=267}}。ただし、この書面上で明確に「職務著作」という文言を必要とするか否かは、判例によって分かれている{{Sfn|Leaffer|2008|pp=269, 308}}。 |
独立した契約者のうち、2つ目の分類 (9つのカテゴリ) では、当事者が署名した文書によって職務著作物として扱うことを明示的に合意していなければならない。単に譲渡契約を結んでいるだけでは不十分であり、明示的に職務著作に関する規定を書面上に設けなければならない{{Sfn|Leaffer|2008|p=267}}。ただし、この書面上で明確に「職務著作」という文言を必要とするか否かは、判例によって分かれている{{Sfn|Leaffer|2008|pp=269, 308}}。裏を返すと、上述の9カテゴリ以外を独立した契約者が創作した場合 (つまり3つ目の分類) は、書面上での合意形成は不要で、原則は委託側に職務著作が認められる{{Sfn|Leaffer|2008|p=268}}。 |
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; 判例 |
; 判例 |
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米国の職務著作に関する[[判例|リーディング・ケース]]として、1989年最高裁による「{{仮リンク|CCNV対リード裁判|label=CCNV判決|en|Community for Creative Non-Violence v. Reid}}」が挙げられる{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}{{Sfn|山本|2008|pp=76–78}}。Community for Creative Non-Violence (CCNV) はホームレスをなくす活動を展開する慈善団体である。ホームレスの苦境を描いた彫像をクリスマスイベント用に準備するため、彫刻家ジェームズ・アール・リード (James Earl Reid) に制作を委託した。この彫像の著作権は、CCNVと彫刻家のどちらが有するのかが当裁判で問われた<ref name=CCNV-FindLaw>{{Cite web |url=https://caselaw.findlaw.com/us-supreme-court/490/730.html |title=United States Supreme Court COMMUNITY FOR CREATIVE NON-VIOLENCE v. REID(1989), No. 88-293 |publisher=FindLaw |accessdate=2019-10-16}}</ref>。 |
:米国の職務著作に関する[[判例|リーディング・ケース]]として、1989年最高裁による「{{仮リンク|CCNV対リード裁判|label=CCNV判決|en|Community for Creative Non-Violence v. Reid}}」が挙げられる{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}{{Sfn|山本|2008|pp=76–78}}。{{仮リンク|Community for Creative Non-Violence|en|Community for Creative Non-Violence}} (CCNV) はホームレスをなくす活動を展開する慈善団体である。ホームレスの苦境を描いた彫像をクリスマスイベント用に準備するため、彫刻家ジェームズ・アール・リード (James Earl Reid) に制作を委託した。この彫像の著作権は、CCNVと彫刻家のどちらが有するのかが当裁判で問われた<ref name=CCNV-FindLaw>{{Cite web |url=https://caselaw.findlaw.com/us-supreme-court/490/730.html |title=United States Supreme Court COMMUNITY FOR CREATIVE NON-VIOLENCE v. REID(1989), No. 88-293 |publisher=FindLaw |accessdate=2019-10-16}}</ref>。 |
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当裁判以前は、職務著作の範囲に関して以下4つの解釈が存在しており、判然としなかったが、CCNV判決により3番目が支持されることとなった{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}{{Sfn|山本|2008|pp=76–78}}。 |
:当裁判以前は、職務著作の範囲に関して以下4つの解釈が存在しており、判然としなかったが、CCNV判決により3番目が支持されることとなった{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}{{Sfn|山本|2008|pp=76–78}}。 |
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# 請負契約などの成果物も委託元が著作権を持つ (つまり従業員と外注に差はない) |
# 請負契約などの成果物も委託元が著作権を持つ (つまり従業員と外注に差はない) |
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# 委託元に成果物の支配権があれば、請負契約でも委託元が著作権を持つ (つまり支配権がなければ外注先が著作者) |
# 委託元に成果物の支配権があれば、請負契約でも委託元が著作権を持つ (つまり支配権がなければ外注先が著作者) |
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# 給与をもらう正式の従業員に限定して職務著作とする (つまり従業員著作のみ職務著作) |
# 給与をもらう正式の従業員に限定して職務著作とする (つまり従業員著作のみ職務著作) |
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CCNV判決では、彫刻家リードが独立の契約者か否か、具体的に評価された。その結果、リードは2か月という限られた期間のみ雇われ、自身の工具を持ち、自身のスタジオで創作活動を行い、彫像完成のために自己判断でアシスタントを雇い、彫像という成果物に対して固定金額がCCNVから支払われたものの、CCNVから福利厚生を受けておらず、失業保険料の支払もCCNVから受けていなかったことが判明した。よって、リード側に著作権が認められた{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}。 |
:CCNV判決では、彫刻家リードが独立の契約者か否か、具体的に評価された。その結果、リードは2か月という限られた期間のみ雇われ、自身の工具を持ち、自身のスタジオで創作活動を行い、彫像完成のために自己判断でアシスタントを雇い、彫像という成果物に対して固定金額がCCNVから支払われたものの、CCNVから福利厚生を受けておらず、失業保険料の支払もCCNVから受けていなかったことが判明した。よって、リード側に著作権が認められた{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}。 |
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と同時に、委託側当事者が十分に著作者性に寄与していれば、[[共同著作物]]に当たる場合があるとも指摘している点に注意が必要である。連邦最高裁はCCNV単独の職務著作は却下したものの、CCNVとリードの共同著作か否かを判断するよう、連邦地方裁に差し戻している。これは、CCNVが彫像のスケッチや図面をリードに提供しているほか、制作中にスタジオを訪問して進捗を確認していたためである{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}。 |
:と同時に、委託側当事者が十分に著作者性に寄与していれば、[[共同著作物]]に当たる場合があるとも指摘している点に注意が必要である。連邦最高裁はCCNV単独の職務著作は却下したものの、CCNVとリードの共同著作か否かを判断するよう、連邦地方裁に差し戻している。これは、CCNVが彫像のスケッチや図面をリードに提供しているほか、制作中にスタジオを訪問して進捗を確認していたためである{{Sfn|Leaffer|2008|pp=270–272}}。 |
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:当判決を踏まえ、単なる作業者としての個人の貢献よりも、著作物創作の発意が雇用主・委託主にどの程度あるかが、職務著作の司法判断において重視されているとの指摘がある{{Sfn|Fisk|2003|pp=6–7|ps=-- [[アメリカン大学]]ロースクールの{{仮リンク|ピーター・ジャシー|en|Peter Jaszi}}からの孫引き。}}。 |
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; 職務著作の法制史 |
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:米国では、創作した個人優位の立場と、雇用主・委託主優位の立場が時代によって混在していた。19世紀初頭の判例では個人優位の立場をとっており、これは産業の発展を促すと考えられていたからである。職務著作物として当時問われていたのは、判例集や論文といった司法関連の出版物か、または演劇著作物であった{{Sfn|Fisk|2003|pp=7, 67}}。個人優位の立場の背景には、個人の創作活動の賜物には著作者の人格が宿っているとの人格権思想や、著作者個人の社会的な地位の向上があった{{Sfn|Fisk|2003|p=7}}。19世紀にはすでに、従業員と独立の契約者の明確な区分がなされるようになっている。ただし上述のCCNV判決 (1989年) の頃とは異なり、19世紀当時はまだ、従業員が指す範囲が広く、結果として独立の契約者が狭義に捉えられて権利保護されていた{{Sfn|Fisk|2003|pp=7–8}}。独立の契約者の概念を問うた19世紀の判例としては、米国の連邦著作権法では最古の最高裁判例である「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ウィートン対ピーターズ裁判|ウィートン対ピーターズ裁判]]」(1834年) などが知られている<ref name=Justia-Wheaton>{{Cite web |url=https://supreme.justia.com/cases/federal/us/33/591/ |title=Wheaton v. Peters, 33 U.S. 591 (1834) |publisher=[[Justia]] |accessdate=2019-11-14}}</ref>{{Sfn|Fisk|2003|pp=8, 69}}。 |
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:その後1860年頃から徐々に、雇用主・委託主側に職務著作を認める方向にシフトしていった{{Sfn|Fisk|2003|p=67}}。その転換期における判例として、[[劇作家]] 兼 俳優として名声を博していた{{仮リンク|ダイオン・ブシコー|en|Dion Boucicault}}の[[戯曲]]『{{仮リンク|The Octoroon|en|The Octoroon}}』(1859年初演) を巡る裁判が知られている。当判決ではブシコーを雇用した劇場側の職務著作は否定されている{{Refnest|group="註"|報酬の低さから、初演からたった6夜にしてブシコーは{{仮リンク|ウィンター・ガーデン劇場|en|Winter Garden Theatre (1850)}}での上演をキャンセルしている。しかし、劇場側はブシコーを雇用した上で戯曲を創作し、さらに別途俳優 兼 監督としてブシコーを雇ったことから、職務著作が劇場側にあるとみなし、ブシコー出演なしで劇場が『The Octoroon』の上演を継続した。これに対しブシコーが、上演差止と損害賠償を求めて提訴した事件である。雇用は書面ではなく口頭での合意であること、ならびにブシコーの創作性を認め、劇場側の職務著作の主張は棄却された{{Sfn|Fisk|2003|pp=33–36}}。}}。その一方で、1861年の「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#キーン対ウィートリー裁判|キーン対ウィートリー裁判]]」では、[[リンカーン大統領暗殺事件|リンカーン大統領の暗殺]]時に鑑賞していた題目としても知られる戯曲『{{仮リンク|われらのアメリカのいとこ|en|Our American Cousin}}』に関連する判例であるが、ここでは職務著作優位の立場に逆転している{{Sfn|Fisk|2003|pp=37–40}}。 |
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:そして20世紀初頭には、原則として職務著作を認めることとなっている{{Sfn|Fisk|2003|p=67}}。判例集や演劇著作物などが中心だった1834年のウィートン判決の頃から比べ、19世紀末から20世紀初頭にかけては広告の職務著作を問うケースが増え、商業メディアの産業振興などが念頭にあったとされる{{Sfn|Fisk|2003|p=7}}。こうして判例を踏襲する形で、{{仮リンク|1909年の著作権法改正|en|Copyright Act of 1909}}によって初めて職務著作が連邦著作権法上で成文化された{{Sfn|Fisk|2003|p=62}}。 |
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==== カナダ ==== |
==== カナダ ==== |
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カナダも英米法系の国に分類され |
カナダも英米法系の国に分類され、原則として雇用関係ないし委託契約に基づいて創作された場合、特段の合意がない限りにおいて職務著作とされる。ただし、新聞、雑誌、その他定期発行物に関しては職務著作ではなく、創作した個人に著作権が帰属する個別規定が設けられている (第13(3))。なお、カナダのようにジャーナリズム関連著作物を職務著作の対象外とする規定は、同じく英米法系のオーストラリア (第35条) やインド (第17条(a)) にも見られる{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=254–256}}。 |
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=== 欧州 |
=== 欧州 === |
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==== 欧州連合 ==== |
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[[欧州連合]] (EU) では、加盟国の著作権法の足並みを揃えるため、[[著作権法 (欧州連合)|著作権に関する各種指令]]を出しており、各国は[[国内法化]]して遵守する義務を負っている。職務著作に関連する指令としては、2009年の{{仮リンク|コンピュータプログラム指令|en|Computer Programs Directive}} (2009/24/EC) がある。第2条が著作者に関する条項であり、第2条-3にて職務著作を規定している。特段の合意がない限り、職務の一環または雇用主の監督の下で創作されたコンピュータプログラムは、その著作財産権が雇用主に帰属すると明記されている<ref name=EURLex-ComputerDirective2009>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2009/24/oj |title=Directive 2009/24/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on the legal protection of computer programs (Codified version) (Text with EEA relevance) |trans-title=2009年4月23日に欧州議会および欧州連合理事会によって共同採択されたコンピュータプログラムの法的保護に関する2009/24/EC指令 (成文化版) ([[EEA]]にも適用) |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] L 111, 5.5.2009, p. 16–22 |accessdate=2019-10-17 |language=en}}</ref>{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=254–256}}。 |
[[欧州連合]] (EU) では、加盟国の著作権法の足並みを揃えるため、[[著作権法 (欧州連合)|著作権に関する各種指令]]を出しており、各国は[[国内法化]]して遵守する義務を負っている。職務著作に関連する指令としては、2009年の{{仮リンク|コンピュータプログラム指令|en|Computer Programs Directive}} (2009/24/EC) がある。第2条が著作者に関する条項であり、第2条-3にて職務著作を規定している。特段の合意がない限り、職務の一環または雇用主の監督の下で創作されたコンピュータプログラムは、その著作財産権が雇用主に帰属すると明記されている<ref name=EURLex-ComputerDirective2009>{{Cite web |url=https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2009/24/oj |title=Directive 2009/24/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on the legal protection of computer programs (Codified version) (Text with EEA relevance) |trans-title=2009年4月23日に欧州議会および欧州連合理事会によって共同採択されたコンピュータプログラムの法的保護に関する2009/24/EC指令 (成文化版) ([[EEA]]にも適用) |publisher=[[EUR-Lex]] |work=[[欧州連合官報]] L 111, 5.5.2009, p. 16–22 |accessdate=2019-10-17 |language=en}}</ref>{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=254–256}}。 |
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==== フランス ==== |
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{{See also|著作権法 (フランス)#保護される権利者}} |
{{See also|著作権法 (フランス)#保護される権利者}} |
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{{仮リンク|知的財産法典 (フランス)|label=知的財産法典|fr|Code de la propriété intellectuelle}}に収録されている[[著作権法 (フランス)|フランスの著作権法]]では、その冒頭で「精神の著作物の著作者」と謳われていることから (L111条-1)、原則は個人が著作権を有すると考えられている (L113条-1)。単に雇用契約や発注契約を締結したからといって、自動的に雇用主・発注主に職務著作が認められるわけではなく、著作財産権の譲渡を規定した書面での合意が別途必要になる{{Sfn|井奈波|2006|pp=10–11}}{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=254–256}}。またこのような個別譲渡契約に、将来創作されるであろう著作物まで包括しても無効とされる (L131条-1)。しかしながら実務上では、無効のリスクを承知で雇用契約に包括的な著作財産権の譲渡を含めており、流動的である{{Sfn|井奈波|2006|pp=10–11}}。 |
{{仮リンク|知的財産法典 (フランス)|label=知的財産法典|fr|Code de la propriété intellectuelle}}の第1部に収録されている[[著作権法 (フランス)|フランスの著作権法]]では、その冒頭で「精神の著作物の著作者」と謳われていることから (L111条-1)、原則は個人が著作権を有すると考えられている (L113条-1){{Sfn|井奈波|2006|pp=10–11}}{{Sfn|Spitz|2014|p=55}}。単に雇用契約や発注契約を締結したからといって、自動的に雇用主・発注主に職務著作が認められるわけではなく、著作財産権の譲渡を規定した書面での合意が別途必要になる{{Sfn|井奈波|2006|pp=10–11}}{{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=254–256}}。またこのような個別譲渡契約に、将来創作されるであろう著作物まで包括しても無効とされる (L131条-1)。しかしながら実務上では、無効のリスクを承知で雇用契約に包括的な著作財産権の譲渡を含めており、流動的である{{Sfn|井奈波|2006|pp=10–11}}{{Sfn|Spitz|2014|p=55}}。 |
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; ジャーナリズムと職務著作 |
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: このように、一般的には個人優位の立場をとるフランスであるが、個々の著作物を集めた[[集合著作物]] ({{Lang-fr-short|œuvre collective}}、{{Lang-en-short|collective work}}) については、フランスでも企業・団体優位の職務著作が認められている{{Sfn|井奈波|2006|pp=12–13}}{{Sfn|作花|2018|p=175}}。特に、ジャーナリストが創作した著作物 (記事および写真、挿絵を含む) については、2009年6月12日法によって知的財産法典の第1部にL132-35条からL132-45条が新設され、ジャーナリスト個人と出版社間の権利関係が詳細かつ複雑に明文化されている。これは、個々のジャーナリストの寄稿を集めた新聞や雑誌は集合著作物であり、個々の寄稿とは別に集合著作物として著作権が発生するためである{{Sfn|Spitz|2014|pp=44–48}}。 |
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: 2009年法以前は、知的財産法典のL121-8条、および{{仮リンク|労働法典|fr|Code du travail (France)}}のL761-9条に基づき、ジャーナリストの創作した著作物にかかる著作財産権は、出版社に自動的に権利譲渡されると解されてきた。ここでの著作物には言語による記事だけでなく、写真も含まれていた{{Refnest|group="註"|関連判例として、Cass. civ. 1, 12 April 2005, 03-21095 を参照のこと{{Sfn|Spitz|2014|pp=44–48}}。写真の初回掲載時は勤務先から給与の形で写真撮影者に支払われていたが、退職後にも同一の写真が繰り返し再掲されたことから裁判となった<ref>{{Cite web |url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichJuriJudi.do?idTexte=JURITEXT000007052713 |title=Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 12 avril 2005, 03-21.095, Publié au bulletin |publisher=[[レジフランス]] |accessdate=2019-11-15}}</ref>。}}。ただし、フランスの最高裁にあたる[[破毀院]]の2001年判決により、この自動譲渡は新聞・雑誌への初期利用にのみ適用され、新たな表現形態で利用する際には、別途ジャーナリストの許諾が必要だとされた。ここでの「新たな表現形態」には他の新聞への記事転載や{{Refnest|group="註"|関連判例として、Cass. civ. 1, 23 January 2001, 98-17926 を参照のこと{{Sfn|Spitz|2014|pp=44–48}}。ジャーナリストが地方紙{{仮リンク|La Montagne|en|La Montagne (journal)}}に寄稿した内容が、別の地方紙{{仮リンク|Le Berry républicain|fr|Le Berry républicain}}上で複製されたとする事案である<ref>{{Cite web |url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichJuriJudi.do?idTexte=JURITEXT000007043789 |title=Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 23 janvier 2001, 98-17.926, Publié au bulletin |publisher=[[レジフランス]] |accessdate=2019-11-15}}</ref>。}}、同一の新聞・雑誌への再掲{{Refnest|group="註"|関連判例として、Cass. civ 1, 12 June 2001, 99-15895 を参照のこと{{Sfn|Spitz|2014|pp=44–48}}<ref>{{Cite web |url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichJuriJudi.do?idTexte=JURITEXT000007046745 |title=Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 12 juin 2001, 99-15.895, Publié au bulletin |publisher=[[レジフランス]] |accessdate=2019-11-15}}</ref>。}}も含まれる。また、紙媒体だけでなくインターネットへの転載も含まれる。仮に新聞・雑誌などの出版社が、ジャーナリストの労働組合との間で包括的な[[労働協約]] ({{Lang-en-short|collective agreement}}) を締結していたとしても、著作権法の制度上は出版社側への権利譲渡を保障するものではなかった{{Sfn|Spitz|2014|pp=44–48}}。 |
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: これらの判例に遅れること2009年法によって、報道著作物 ({{Lang-fr-short|titre de presse}}、{{Lang-en-short|press publication}}) に関して委細が成文化された。まず、報道著作物に該当する場合、2009年法によってプロのジャーナリストから出版社に対して自動的に権利譲渡されることとなった。この[[移転|権利移転]]はジャーナリストと出版社間の労働契約に基づいて行われる (知的財産法典L132-36条)。ここでの報道著作物の定義であるが、紙かデジタル媒体かは不問であり、ウェブ掲載だけでなくメールマガジンなどの個別配布も含まれる広範な概念である (知的財産法典L132-35条)。さらに、その報道著作物が出版社の実質的な編集監督下で創作されているならば、その出版社以外の第三者メディア媒体 (グループ企業内の別メディアブランドを含む) への転載も認められる。なお、ここでの「プロ」ジャーナリストにはアマチュアや[[フリーランス]]のジャーナリストは含まれないことから、プロのジャーナリスト以外の著作物については従前どおり、個別の譲渡契約の締結が必要とされる{{Sfn|Spitz|2014|pp=44–48}}。 |
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: このように、2009年法は報道著作物の社会利用を促進する目的を帯びているが、同時にジャーナリスト個人の財産権を保護することでバランスをとっている。報道著作物には「参照期間」({{Lang-fr-short|période de référence}}、{{Lang-en-short|reference period}}) の制度が設けられており、この期間を超えて報道著作物を利用継続する場合、出版社側はジャーナリストに対して[[ロイヤルティー]]の分配、ないし追加給与の形で金銭的に還元する義務を負っている。ここでの参照期間であるが、著作権法で一律に定めているわけではなく、出版社と労働組合間の労働協約に基づくと規定されている{{Sfn|Spitz|2014|pp=44–48}}。 |
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; 集合著作物と共同著作物の違いと職務著作の関係 |
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: ビデオゲームも場合によって集合著作物とみなされることがあり{{Refnest|group="註"|関連判例として、Court of Appeal of Versailles, 18 November 1999, Juris-Data no. 1999-108392 を参照のこと{{Sfn|Spitz|2014|pp=53–54}}。}}、この場合は職務著作として企業・団体に優位に働くことがある。ただし何を集合著作物とするか、判例ではケース・バイ・ケースとなっている。集合著作物から個々の寄与分を分離可能であれば、その寄与分の創作者である個人に著作権が認められる。つまり、集合著作物ではなく[[共同著作物]]として扱われるため、必ずしも集合著作物のように企業・団体優位には働かない。たとえば、ビデオゲームに使用された楽曲はビデオゲームから分離可能として、独立の音楽著作物して作曲者側に著作権があると判示された判例が存在する{{Refnest|group="註"|関連判例として、Court of Appeal of Paris, 20 September 2007, Juris-Data No. 2007-353089、およびHigh Court of Paris, 30 September 2011, 77 RLDI No. 2548 (2011) を参照のこと{{Sfn|Spitz|2014|pp=53–54}}。}}。 |
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==== ドイツ ==== |
==== ドイツ ==== |
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写真著作物に関して特別規定を設けており、雇用契約あるいは委託契約に基づく写真は、雇用主・委託主に著作権が帰属する (第88条){{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=254–256}}。 |
写真著作物に関して特別規定を設けており、雇用契約あるいは委託契約に基づく写真は、雇用主・委託主に著作権が帰属する (第88条){{Sfn|Goldstein & Hugenholtz|2013|pp=254–256}}。 |
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==== イギリス ==== |
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欧州の中では数少ない英米法に分類されるイギリスであるが、イギリスの現行著作権法 ({{Lang-en-short|Copyright, Designs and Patents Act of 1988}}) では著作者人格権と著作財産権を分けて規定している。著作財産権 (最狭義の著作権) については、職務の一環で創作された著作物に関しては雇用主に職務著作を認める原則としている (第11条 (2))。その上で、著作者人格権は創作した個人に残ることから、雇用主が著作物の利用にあたって創作者個人の人格を毀損しないよう、制約がかかっている (第79条 (3) および第82条){{Sfn|作花|2018|p=176}}。 |
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=== アジア === |
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==== 日本 ==== |
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[[著作権法|日本の著作権法]]の第15条では、職務著作の条件を以下5点であると規定している<ref name=eGov-CopyrightA15>{{Cite web |url=https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048#140 |title=著作権法 最終更新: 平成三十年七月十三日公布(平成三十年法律第七十二号)改正 第十五条(職務上作成する著作物の著作者)|publisher=[[e-Gov法令検索]] |date=2018-07-13 |accessdate=2019-10-15}}</ref>{{Sfn|作花|2018|pp=176–177}}。 |
[[著作権法|日本の著作権法]]の第15条では、職務著作の条件を以下5点であると規定している<ref name=eGov-CopyrightA15>{{Cite web |url=https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048#140 |title=著作権法 最終更新: 平成三十年七月十三日公布(平成三十年法律第七十二号)改正 第十五条(職務上作成する著作物の著作者)|publisher=[[e-Gov法令検索]] |date=2018-07-13 |accessdate=2019-10-15}}</ref>{{Sfn|作花|2018|pp=176–177}}。 |
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# 発意性: 使用者 (法人など) の発意に基づき、著作物が創作されていること。 |
# 発意性: 使用者 (法人など) の発意に基づき、著作物が創作されていること。 |
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3点目の「職務上」の定義については、物理的に職場にいるか、また就業時間内かは問われない。帰宅後であっても職務の一環で従業員が創作したものであれば、職務著作が認められる。逆に就業時間内に職場で従業員が私的な趣味で創作したものは、職務著作に当たらない{{Sfn|作花|2018|p=180}}。 |
3点目の「職務上」の定義については、物理的に職場にいるか、また就業時間内かは問われない。帰宅後であっても職務の一環で従業員が創作したものであれば、職務著作が認められる。逆に就業時間内に職場で従業員が私的な趣味で創作したものは、職務著作に当たらない{{Sfn|作花|2018|p=180}}。 |
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; 判例 |
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{{ external media |
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| align=right |
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| width = 216px |
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| image1 = [https://www.saegusa-pat.co.jp/copyrighthanrei/1948/ RGBアドベンチャー事件で職務著作が問われたキャラクターの図案]<br />最二小判平成15・4・11 (判時1822号133頁収録、三枝国際特許事務所による抜粋・転載) |
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:日本の職務著作に関するリーディング・ケースとしては、2003年の最高裁判決「[[RGBアドベンチャー]]事件」が知られている{{Refnest|group="註"|最二小判平成15・4・11 (判時1822号133頁、および労判849号23頁収録)<ref>{{Cite journal |和書 |title=著作権判例百選 |url=http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641115422 |journal=別冊ジュリスト |author=[[小泉直樹]] |coauthors=[[田村善之]]、[[駒田泰土]]、[[上野達弘]] (編) |publisher=[[有斐閣]] |issue=第6版 |year=2019 |isbn=978-4-641-11542-2 |pages=48–49 ([[茶園成樹]]による解説)}}。</ref>}}{{Sfn|作花|2018|p=183}}。本件では、中国籍のデザイナー (原告) が[[観光ビザ]] (後に[[就労ビザ]]に切り替え) で訪日し、アニメのキャラクター図案を創作した事案である。創作物が職務著作になる旨を記した就業規則などの説明がなく、またタイムカードなどの勤怠管理も行われておらず、雇用契約が成立していたかが争点となった。二審の控訴裁では雇用契約が不成立とみて、作品の頒布差止と損害賠償を命じた。しかし最高裁では、[[ACCプロダクション]]社 (被告) の代表宅にて被告デザイナーが賄い付きで生活し、正当な水準の給与が支払明細書付きで支払われていたこと、また創作にあたって制作会社の実体的な指揮・監督下にあったことなどから、二審を差し戻して職務著作が認められた{{Sfn|村井|2004|pp=189–194}}。なお、本件は中国籍の個人と日本企業の争いであるが、[[著作権の準拠法]]の観点では特段の問題とはなっていない。一般的にはその著作物の利用地 (属地主義) に基づいて、どこの国の著作権法を適用して裁判を行うかが決まるが、本件の場合は被用者と雇用者の雇用関係を問うたため、日本の法律に準拠している{{Sfn|村井|2004|p=195}}。 |
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==== 中国 ==== |
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中国も[[世界貿易機関]] (WTO) に加盟していることから、中国の知的財産法 (著作権および特許や商標などの[[産業財産権]]に関する法律の総称) も欧米型に近いと言われている。職務著作に関しては英米法の傾向とは異なり、中国では創作した個人優位の立場をとっている<ref name=ChinaLawBlog>{{Cite web |url=https://www.chinalawblog.com/2017/07/china-patents-copyrights-and-works-made-for-hire.html |title=China Patents, Copyrights, and Works Made for Hire |trans-title=中国の特許、著作権と職務著作物について |last=Dresden |first=Matthew (中国の知的財産権法専門) |publisher=Harris Bricken McVay Sliwoski, LLP (法律事務所) |date=2017-07-18 |accessdate=2019-11-09 |language=en}}</ref>。職務著作において原則は個人に著作権が帰属し、以下に挙げる一部の例外のみ雇用主・委託主に権利が認められる (著作権法第16条、およびソフトウェア保護規則第13条)<ref name=ChinaLawBlog/><ref name=FenwickChinaIP>{{Cite web |url=https://www.fenwick.com/FenwickDocuments/IP_Law_in_China.pdf |title=IP Law in China: Works for Hire |trans-title=中国の知的財産法: 職務著作について |publisher=Fenwick & West LLP (法律事務所) |format=PDF |accessdate=2019-11-09 |language=en}}</ref>。 |
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# いかなる著作物であれ、創作完成から2年以内は、雇用主・委託主以外の第三者に対して利用許諾を与えることはできない (すなわち創作した個人は雇用主・委託主に対して2年間の独占的利用許諾を与える)。仮に雇用主・委託主が創作した個人に対し、第三者への利用許諾を許可しても、許諾に伴うライセンス収入は個人と雇用主・委託主間で2年間シェアされる。 |
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# 工業デザインや製品デザインの設計書、地図などに限り、雇用主・委託主の資金や手段を用いており、かつ創作の指揮・監督がおよんでいる場合は、雇用主・委託主の職務著作を認める (書面による合意不要)。 |
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# コンピュータ・プログラムが従業員の業務上で創作されている場合、雇用主・委託主の職務著作を認める (書面による合意不要)。 |
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# 個人と雇用主・委託主間で特段の合意が存在する場合は、それに準ずる。ただしこの合意書は中国の各種法律に準拠しており、かつ中国語で記述されている必要がある。 |
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== 註釈 == |
== 註釈 == |
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=== 引用文献 === |
=== 引用文献 === |
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* {{Cite journal|和書|title=フランス著作権制度の概要とコンテンツの法的保護 |issue=一般社団法人 デジタルコンテンツ協会が2005年11月24日に開催したセミナー議事録の加筆版 |
* {{Cite journal|和書|author=井奈波朋子 |title=フランス著作権制度の概要とコンテンツの法的保護 |issue=一般社団法人 デジタルコンテンツ協会が2005年11月24日に開催したセミナー議事録の加筆版 |publisher=龍村法律事務所 |year=2006 |format=PDF |url=http://www.tatsumura-law.com/attorneys/tomoko-inaba/column/wp-content/uploads/2016/05/051124DCAJ.pdf |ref={{SfnRef|井奈波|2006}}}} |
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* {{Cite report|和書|author=財田寛子 (訳) |title=外国著作権法令集(55) — フランス 編 — |edition=2017年6月21日時点のフランス著作権法原文に基づく翻訳 |date=2018-03 |publisher=公益社団法人[[著作権情報センター]] |url=http://www.cric.or.jp/db/world/france/france.pdf |format=PDF |ref={{SfnRef|フランス著作権法条文|2018}}}} |
* {{Cite report|和書|author=財田寛子 (訳) |title=外国著作権法令集(55) — フランス 編 — |edition=2017年6月21日時点のフランス著作権法原文に基づく翻訳 |date=2018-03 |publisher=公益社団法人[[著作権情報センター]] |url=http://www.cric.or.jp/db/world/france/france.pdf |format=PDF |ref={{SfnRef|フランス著作権法条文|2018}}}} |
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* {{Cite book|和書|author=作花文雄 |title=詳解 著作権法 |edition=第5版 |publisher=[[ぎょうせい]] |year=2018 |isbn=978-4-324-10427-9 |url=https://shop.gyosei.jp/products/detail/9649 |ref={{SfnRef|作花|2018}}}} |
* {{Cite book|和書|author=作花文雄 |title=詳解 著作権法 |edition=第5版 |publisher=[[ぎょうせい]] |year=2018 |isbn=978-4-324-10427-9 |url=https://shop.gyosei.jp/products/detail/9649 |ref={{SfnRef|作花|2018}}}} |
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* {{Cite book |和書 |title=著作権法入門 2007 |author=文化庁 |publisher=社団法人 [[著作権情報センター]] (CRIC) |year=2007 |isbn=978-4-88526-057-5 |ref=harv}} |
* {{Cite book |和書 |title=著作権法入門 2007 |author=文化庁 |publisher=社団法人 [[著作権情報センター]] (CRIC) |year=2007 |isbn=978-4-88526-057-5 |ref=harv}} |
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* {{Cite journal|和書|author=村井麻衣子 |title=職務著作における雇用契約の存否判断 ― RGBアドベンチャー事件 ― |journal=知的財産法政策学研究 |issue=vol.4 |pages=183–203 |publisher=[[北海道大学]] |year=2004 |format=PDF |url=https://lex.juris.hokudai.ac.jp/coe/pressinfo/journal/vol_4/4_10.pdf |ref={{SfnRef|村井|2004}}}} |
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* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法の基礎知識 |edition=第2版 |author=山本隆司 |publisher=太田出版 |year=2008 |isbn=978-4-7783-1112-4 |url=http://www.ohtabooks.com/publish/2008/10/14201410.html |ref={{SfnRef|山本|2008}}}} |
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法の基礎知識 |edition=第2版 |author=山本隆司 |publisher=太田出版 |year=2008 |isbn=978-4-7783-1112-4 |url=http://www.ohtabooks.com/publish/2008/10/14201410.html |ref={{SfnRef|山本|2008}}}} |
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* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法 |last=Leaffer |first=Marshall A. |translator=牧野和夫 |series=LexisNexis アメリカ法概説 (5) |publisher=レクシスネクシス・ジャパン |origyear=2005 |year=2008 |isbn=978-4-8419-0509-0 |ref=harv}} |
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法 |last=Leaffer |first=Marshall A. |translator=牧野和夫 |series=LexisNexis アメリカ法概説 (5) |publisher=レクシスネクシス・ジャパン |origyear=2005 |year=2008 |isbn=978-4-8419-0509-0 |ref=harv}} |
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* {{Cite book|title=International copyright: principles, law, and practice |trans_title=国際著作権法: 法理、実定法と実務 |edition=3 |last1=Goldstein |first1=Paul |last2=Hugenholtz |first2=P. Bernt |publisher=Oxford University Press |year=2013 |isbn=9780199794294 |language=en |url=https://global.oup.com/academic/product/international-copyright-9780199794294 |ref={{SfnRef|Goldstein & Hugenholtz|2013}}}}<!-- 2019年10月に第4版が出版される予定 --> |
* {{Cite book|title=International copyright: principles, law, and practice |trans_title=国際著作権法: 法理、実定法と実務 |edition=3 |last1=Goldstein |first1=Paul |last2=Hugenholtz |first2=P. Bernt |publisher=Oxford University Press |year=2013 |isbn=9780199794294 |language=en |url=https://global.oup.com/academic/product/international-copyright-9780199794294 |ref={{SfnRef|Goldstein & Hugenholtz|2013}}}}<!-- 2019年10月に第4版が出版される予定 --> |
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* {{Cite journal|last=Fisk |first=Cathrine L. (南カリフォルニア大学) |title=Authors at Work: The Origins of the Work-for-Hire Doctrine |trans-title=職務上の著作者: 職務著作の法理の起源 |journal=Yale Journal of Law and the Humanities |vol=15:1 |year=2003 |publisher=[[デューク大学]] |language=en |ref={{SfnRef|Fisk|2003}}}} |
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* {{Cite report|last=Reusch |first=Ute (訳) |title=Act on Copyright and Related Rights (Urheberrechtsgesetz, UrhG) |edition=Copyright Act of 9 September 1965 (Federal Law Gazette I p. 1273), as last amended by Article 1 of the Act of 1 September 2017 (Federal Law Gazette I p. 3346) |date=2017-09-01 |publisher=The Federal Ministry of Justice and Consumer Protection and the Federal Office of Justice |url=https://www.gesetze-im-internet.de/englisch_urhg/englisch_urhg.pdf |format=PDF |language=en |ref={{SfnRef|ドイツ著作権法条文|2017}}}} |
* {{Cite report|last=Reusch |first=Ute (訳) |title=Act on Copyright and Related Rights (Urheberrechtsgesetz, UrhG) |edition=Copyright Act of 9 September 1965 (Federal Law Gazette I p. 1273), as last amended by Article 1 of the Act of 1 September 2017 (Federal Law Gazette I p. 3346) |date=2017-09-01 |publisher=The Federal Ministry of Justice and Consumer Protection and the Federal Office of Justice |url=https://www.gesetze-im-internet.de/englisch_urhg/englisch_urhg.pdf |format=PDF |language=en |ref={{SfnRef|ドイツ著作権法条文|2017}}}} |
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* {{Cite book|last=Spitz |first=Brad (知的財産法・IT・メディア専門弁護士) |title=Guide to Copyright in France: Business, Internet and Litigation |year=2014 |publisher=Wolters Kluwer |isbn=9789041152879 |language=en |url=https://lrus.wolterskluwer.com/store/product/guide-to-copyright-in-france-business-internet-and-litigation/ |ref={{SfnRef|Spitz|2014}}}} |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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* [[著作者]] |
* [[著作者]] |
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* [[著作物]] |
* [[著作物]] |
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* [[映画の著作物]] - 共同制作を基本とすることから、共同著作物として特段の規定を設ける国がある (日本、フランスなど) |
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{{著作権 (法学)|state=expanded}} |
{{著作権 (法学)|state=expanded}} |
2019年11月16日 (土) 01:52時点における版
職務著作 (しょくむちょさく、英: work made for hire) とは、職務の一環で文芸・音楽・映像・ソフトウェアといった著作物を創作した場合、創作した個人本人ではなく、創作を指揮・監督した雇用主や業務委託者が著作権を有するとする著作権法上の概念である。また、このような著作物を職務著作物と呼ぶ。個人 (自然人) の対義語として法人が用いられることから、法人著作 (英: corporate authorship) と呼ばれることもあるが[1]、法人以外の団体組織も職務著作の概念に含まれる[註 1]。
どこまでが職務の一環なのか、またどのような条件を満たせば職務著作とみなすのかは、各国の著作権法および判例によって異なる。
職務著作の条件と対象
どのような著作物であれ、一般的にはその創作者たる個人に著作権が発生する[3]。この原則を「原始的帰属」と呼ぶ[4]。これに対し、職務上創作した場合は創作した個人 (被用者) ではなく、雇用主・委託主 (使用者) に著作権があると捉えるのが職務著作である[2]。
世界の多くの国では、著作物を創作すればそれが未完成・未公表であっても、またアマチュアの私的目的の創作物であっても、著作権が自動的に発生する「無方式主義」を採用している[註 2]。つまり特許のように政府当局への登録・審査などの手続を必要としないことから、誰に著作権が発生したかが曖昧になり、創作した個人 (原始的帰属) と雇用主・委託主 (職務著作) の双方が著作権を主張して、後に対立することがある (詳細は#各国著作権法での取扱で後述)。
各国の著作権法では条文上で職務著作を定義しているほか、個別の事案における「職務」の解釈は裁判所の司法判断に委ねられている。原始的帰属と職務著作を線引きする際の一般的な論点としては以下が挙げられ、各国で取扱に差異がある[7][8][9]。
- 職務の一環とは、雇用契約に基づいてフルタイムで就労する企業・団体の従業員のみか、またはフリーランスなど外部の委託・発注先まで含むのか
- 職務著作が認められるには、企業・団体がどこまで創作に関与する必要があるのか (創作プロジェクトの企画立案、創作費用の負担、創作者の管理監督度合いなど)
- 職務著作は自動的に認められるのか、または被用者と使用者の間で書面による明示的な合意が必要とされるのか
- 企業・団体が職務著作の単独権利者となるのか、または従業員や委託・発注先との共同著作となるのか
- 特定の著作物ジャンルにおいて、職務著作の個別規定はあるか (共同製作が一般的な映画の著作物、企業による開発が多いコンピュータ・プログラムなど)
世界の法体系は大陸法と英米法に分かれ、職務著作についても大まかな違いが見られるものの、各国でバラつきがある[10]。フランスやドイツなどの大陸法諸国は、著作権は個人 (自然人) の所有権であると捉えることから、個人が著作権を有すると考えられている[11]。一方の英米法諸国は功利主義に基づき、公共の発展のために著作物の産業を保護する思想であることから[12]、大陸法諸国と比較して職務著作が肯定的に捉えられている[10]。したがって、英米法諸国については、原則として雇用主に著作権が帰属するのが一般的である[13]。
さらに職務著作では、誰が権利を有するのかだけでなく、保護される権利の中身も通常とは一部異なる。
- 著作財産権の保護期間 -- 原始的帰属の場合、著作者の存命中および死後50年間ないし70年間とする国が多い。その著作物がいつ公表されたかや、そもそも公表されたかは不問である。一方の職務著作の場合は個人の死亡日を基点にできないことから、著作物の公表日を基点にして一定年数を保護期間に設定する[註 3]
- 著作者人格権の範囲 -- 氏名表示権を除き、職務著作には著作者人格権が認められない。
なお、ここで言う著作権とは、著作財産権と著作者人格権の総称である。著作財産権とは著作権者の「財布」が守られる権利であり、具体的には第三者に無断で著作物をコピーされない権利 (複製権) や、無断で著作物を流通販売されない権利 (頒布権)、無断で著作物を二次利用されない権利 (翻案権) などを含む。また著作者人格権とは著作者の「心」が守られる権利であり、無断で著作物を公表されない権利 (公表権)、公表する際に表示する氏名 (実名・変名・匿名) を選べる権利 (氏名表示権)、無断で著作物の中身を改変されない権利 (同一性保持権) などの総称である[16]。
各国著作権法での取扱
国際条約
著作権の基本条約であるベルヌ条約では、第2条で著作物を、第3条で著作者をそれぞれ定義しているが、職務著作に関する特段の規定は設けていない。「ベルヌ条約の2階部分」[17]とも呼ばれるWIPO著作権条約でも同様である[18]。よって、各国の著作権法での個別規定を見ていく。
北米
アメリカ合衆国
合衆国法典第17編に収録されている米国の連邦著作権法は、職務著作を以下のように分類している (第101条、第201条 (a)、第201条 (b))[19]。
- 従業員による創作: 被用者がその職務の範囲内で作成した著作物
- 注文・委託による創作 (a): 以下の9カテゴリのいずれかに該当し、かつ注文・委託によって創作するに際し、当事者が職務著作物として扱うことを署名付き文書で明示的に合意した場合
- 集合著作物の寄与分
- 映画その他の視聴覚著作物の一部
- 翻訳
- 補足的著作物
- 編集著作物
- 教科書
- 試験問題
- 試験の解答資料
- 地図帳
- 注文・委託による創作 (b): 上記9カテゴリに該当しないが、「独立の契約者」(independent contractor)[註 4]によって創作された著作物
1つ目の分類では、署名による明示的な合意がない限りにおいて、従業員の創作物は職務著作物と推定される。たとえば広告代理店に正社員としてフルタイム勤務するグラフィックアーティストが、クライアントのために描いたデッサンの著作物は、基本的には勤務先企業である広告代理店に職務著作が認められる[19]。
2つ目と3つ目の分類では、従業員ではなく「独立した契約者」が注文・委託を受けて創作したケースである。ここでの独立した契約者とは、独立した雇用または職業の一環として役務を提供する者、かつ方法・手段ではなく達成すべき職務の結果に対してのみ、使用者の要求に従う者だと定義される[20]。1909年の改正法までは、独立した契約者であっても委託側に著作権を認めていたが、1976年の改正法によってこれを覆し、独立した契約者の置かれていた不公平な状況を改善している[22]。
独立した契約者のうち、2つ目の分類 (9つのカテゴリ) では、当事者が署名した文書によって職務著作物として扱うことを明示的に合意していなければならない。単に譲渡契約を結んでいるだけでは不十分であり、明示的に職務著作に関する規定を書面上に設けなければならない[19]。ただし、この書面上で明確に「職務著作」という文言を必要とするか否かは、判例によって分かれている[23]。裏を返すと、上述の9カテゴリ以外を独立した契約者が創作した場合 (つまり3つ目の分類) は、書面上での合意形成は不要で、原則は委託側に職務著作が認められる[24]。
- 判例
- 米国の職務著作に関するリーディング・ケースとして、1989年最高裁による「CCNV判決」が挙げられる[25][26]。Community for Creative Non-Violence (CCNV) はホームレスをなくす活動を展開する慈善団体である。ホームレスの苦境を描いた彫像をクリスマスイベント用に準備するため、彫刻家ジェームズ・アール・リード (James Earl Reid) に制作を委託した。この彫像の著作権は、CCNVと彫刻家のどちらが有するのかが当裁判で問われた[27]。
- 請負契約などの成果物も委託元が著作権を持つ (つまり従業員と外注に差はない)
- 委託元に成果物の支配権があれば、請負契約でも委託元が著作権を持つ (つまり支配権がなければ外注先が著作者)
- コモン・ロー上の代理法の概念上、従業員とみなせれば、請負に基づく成果物も職務著作である (つまり独立の契約者 (independent contractor) による創作ならば、職務著作は認められない)[註 5]
- 給与をもらう正式の従業員に限定して職務著作とする (つまり従業員著作のみ職務著作)
- CCNV判決では、彫刻家リードが独立の契約者か否か、具体的に評価された。その結果、リードは2か月という限られた期間のみ雇われ、自身の工具を持ち、自身のスタジオで創作活動を行い、彫像完成のために自己判断でアシスタントを雇い、彫像という成果物に対して固定金額がCCNVから支払われたものの、CCNVから福利厚生を受けておらず、失業保険料の支払もCCNVから受けていなかったことが判明した。よって、リード側に著作権が認められた[25]。
- と同時に、委託側当事者が十分に著作者性に寄与していれば、共同著作物に当たる場合があるとも指摘している点に注意が必要である。連邦最高裁はCCNV単独の職務著作は却下したものの、CCNVとリードの共同著作か否かを判断するよう、連邦地方裁に差し戻している。これは、CCNVが彫像のスケッチや図面をリードに提供しているほか、制作中にスタジオを訪問して進捗を確認していたためである[25]。
- 当判決を踏まえ、単なる作業者としての個人の貢献よりも、著作物創作の発意が雇用主・委託主にどの程度あるかが、職務著作の司法判断において重視されているとの指摘がある[31]。
- 職務著作の法制史
- 米国では、創作した個人優位の立場と、雇用主・委託主優位の立場が時代によって混在していた。19世紀初頭の判例では個人優位の立場をとっており、これは産業の発展を促すと考えられていたからである。職務著作物として当時問われていたのは、判例集や論文といった司法関連の出版物か、または演劇著作物であった[32]。個人優位の立場の背景には、個人の創作活動の賜物には著作者の人格が宿っているとの人格権思想や、著作者個人の社会的な地位の向上があった[33]。19世紀にはすでに、従業員と独立の契約者の明確な区分がなされるようになっている。ただし上述のCCNV判決 (1989年) の頃とは異なり、19世紀当時はまだ、従業員が指す範囲が広く、結果として独立の契約者が狭義に捉えられて権利保護されていた[34]。独立の契約者の概念を問うた19世紀の判例としては、米国の連邦著作権法では最古の最高裁判例である「ウィートン対ピーターズ裁判」(1834年) などが知られている[35][36]。
- その後1860年頃から徐々に、雇用主・委託主側に職務著作を認める方向にシフトしていった[37]。その転換期における判例として、劇作家 兼 俳優として名声を博していたダイオン・ブシコーの戯曲『The Octoroon』(1859年初演) を巡る裁判が知られている。当判決ではブシコーを雇用した劇場側の職務著作は否定されている[註 6]。その一方で、1861年の「キーン対ウィートリー裁判」では、リンカーン大統領の暗殺時に鑑賞していた題目としても知られる戯曲『われらのアメリカのいとこ』に関連する判例であるが、ここでは職務著作優位の立場に逆転している[39]。
- そして20世紀初頭には、原則として職務著作を認めることとなっている[37]。判例集や演劇著作物などが中心だった1834年のウィートン判決の頃から比べ、19世紀末から20世紀初頭にかけては広告の職務著作を問うケースが増え、商業メディアの産業振興などが念頭にあったとされる[33]。こうして判例を踏襲する形で、1909年の著作権法改正によって初めて職務著作が連邦著作権法上で成文化された[40]。
カナダ
カナダも英米法系の国に分類され、原則として雇用関係ないし委託契約に基づいて創作された場合、特段の合意がない限りにおいて職務著作とされる。ただし、新聞、雑誌、その他定期発行物に関しては職務著作ではなく、創作した個人に著作権が帰属する個別規定が設けられている (第13(3))。なお、カナダのようにジャーナリズム関連著作物を職務著作の対象外とする規定は、同じく英米法系のオーストラリア (第35条) やインド (第17条(a)) にも見られる[13]。
欧州
欧州連合
欧州連合 (EU) では、加盟国の著作権法の足並みを揃えるため、著作権に関する各種指令を出しており、各国は国内法化して遵守する義務を負っている。職務著作に関連する指令としては、2009年のコンピュータプログラム指令 (2009/24/EC) がある。第2条が著作者に関する条項であり、第2条-3にて職務著作を規定している。特段の合意がない限り、職務の一環または雇用主の監督の下で創作されたコンピュータプログラムは、その著作財産権が雇用主に帰属すると明記されている[41][13]。
コンピュータプログラム以外の著作物については、各国の国内法で以下の通り対応が異なる。
フランス
知的財産法典の第1部に収録されているフランスの著作権法では、その冒頭で「精神の著作物の著作者」と謳われていることから (L111条-1)、原則は個人が著作権を有すると考えられている (L113条-1)[42][43]。単に雇用契約や発注契約を締結したからといって、自動的に雇用主・発注主に職務著作が認められるわけではなく、著作財産権の譲渡を規定した書面での合意が別途必要になる[42][13]。またこのような個別譲渡契約に、将来創作されるであろう著作物まで包括しても無効とされる (L131条-1)。しかしながら実務上では、無効のリスクを承知で雇用契約に包括的な著作財産権の譲渡を含めており、流動的である[42][43]。
- ジャーナリズムと職務著作
- このように、一般的には個人優位の立場をとるフランスであるが、個々の著作物を集めた集合著作物 (仏: œuvre collective、英: collective work) については、フランスでも企業・団体優位の職務著作が認められている[44][45]。特に、ジャーナリストが創作した著作物 (記事および写真、挿絵を含む) については、2009年6月12日法によって知的財産法典の第1部にL132-35条からL132-45条が新設され、ジャーナリスト個人と出版社間の権利関係が詳細かつ複雑に明文化されている。これは、個々のジャーナリストの寄稿を集めた新聞や雑誌は集合著作物であり、個々の寄稿とは別に集合著作物として著作権が発生するためである[46]。
- 2009年法以前は、知的財産法典のL121-8条、および労働法典のL761-9条に基づき、ジャーナリストの創作した著作物にかかる著作財産権は、出版社に自動的に権利譲渡されると解されてきた。ここでの著作物には言語による記事だけでなく、写真も含まれていた[註 7]。ただし、フランスの最高裁にあたる破毀院の2001年判決により、この自動譲渡は新聞・雑誌への初期利用にのみ適用され、新たな表現形態で利用する際には、別途ジャーナリストの許諾が必要だとされた。ここでの「新たな表現形態」には他の新聞への記事転載や[註 8]、同一の新聞・雑誌への再掲[註 9]も含まれる。また、紙媒体だけでなくインターネットへの転載も含まれる。仮に新聞・雑誌などの出版社が、ジャーナリストの労働組合との間で包括的な労働協約 (英: collective agreement) を締結していたとしても、著作権法の制度上は出版社側への権利譲渡を保障するものではなかった[46]。
- これらの判例に遅れること2009年法によって、報道著作物 (仏: titre de presse、英: press publication) に関して委細が成文化された。まず、報道著作物に該当する場合、2009年法によってプロのジャーナリストから出版社に対して自動的に権利譲渡されることとなった。この権利移転はジャーナリストと出版社間の労働契約に基づいて行われる (知的財産法典L132-36条)。ここでの報道著作物の定義であるが、紙かデジタル媒体かは不問であり、ウェブ掲載だけでなくメールマガジンなどの個別配布も含まれる広範な概念である (知的財産法典L132-35条)。さらに、その報道著作物が出版社の実質的な編集監督下で創作されているならば、その出版社以外の第三者メディア媒体 (グループ企業内の別メディアブランドを含む) への転載も認められる。なお、ここでの「プロ」ジャーナリストにはアマチュアやフリーランスのジャーナリストは含まれないことから、プロのジャーナリスト以外の著作物については従前どおり、個別の譲渡契約の締結が必要とされる[46]。
- このように、2009年法は報道著作物の社会利用を促進する目的を帯びているが、同時にジャーナリスト個人の財産権を保護することでバランスをとっている。報道著作物には「参照期間」(仏: période de référence、英: reference period) の制度が設けられており、この期間を超えて報道著作物を利用継続する場合、出版社側はジャーナリストに対してロイヤルティーの分配、ないし追加給与の形で金銭的に還元する義務を負っている。ここでの参照期間であるが、著作権法で一律に定めているわけではなく、出版社と労働組合間の労働協約に基づくと規定されている[46]。
- 集合著作物と共同著作物の違いと職務著作の関係
- ビデオゲームも場合によって集合著作物とみなされることがあり[註 10]、この場合は職務著作として企業・団体に優位に働くことがある。ただし何を集合著作物とするか、判例ではケース・バイ・ケースとなっている。集合著作物から個々の寄与分を分離可能であれば、その寄与分の創作者である個人に著作権が認められる。つまり、集合著作物ではなく共同著作物として扱われるため、必ずしも集合著作物のように企業・団体優位には働かない。たとえば、ビデオゲームに使用された楽曲はビデオゲームから分離可能として、独立の音楽著作物して作曲者側に著作権があると判示された判例が存在する[註 11]。
- 企業によって開発されるケースが多いコンピュータ・プログラムについては、フランス著作権法上でも個別規定があり、職務の一環で作成されたコンピュータ・プログラムそのものおよび関連する設計書などの資料は、使用者に職務著作が認められている (L119条-3)[45]。
ドイツ
フランス同様、大陸法系のドイツでは個人 (自然人) への原始的帰属に限定しているものの、一定条件下で職務著作を認めている[45]。EU指令に対応する形で、ドイツにおいても職務上作成されたコンピュータ・プログラムは、特段の合意がない限りは原則として著作財産権については職務著作として扱われる (第69条b)[51]。また、ドイツでは著作者個人から雇用主への著作権の移転は、著作権法ではなく雇用契約の文脈において解釈されることが多い (著作権法第43条も参照のこと)[13]。
オランダ
オランダも一般的には大陸法系に分類されているが、フランスやドイツとは異なる。雇用関係にあって、かつ指揮監督の下で創作された場合は原則として職務著作が認められている (第7条)。ただしここでの「雇用」にフリーランスへの委託は含まれない[45]。
スペイン
書面による雇用契約上で明記されていない限りにおいて、著作財産権は雇用主に移転されると推定されている (第51条(1)-(3))[13]。
イタリア
写真著作物に関して特別規定を設けており、雇用契約あるいは委託契約に基づく写真は、雇用主・委託主に著作権が帰属する (第88条)[13]。
イギリス
欧州の中では数少ない英米法に分類されるイギリスであるが、イギリスの現行著作権法 (英: Copyright, Designs and Patents Act of 1988) では著作者人格権と著作財産権を分けて規定している。著作財産権 (最狭義の著作権) については、職務の一環で創作された著作物に関しては雇用主に職務著作を認める原則としている (第11条 (2))。その上で、著作者人格権は創作した個人に残ることから、雇用主が著作物の利用にあたって創作者個人の人格を毀損しないよう、制約がかかっている (第79条 (3) および第82条)[52]。
アジア
日本
日本の著作権法の第15条では、職務著作の条件を以下5点であると規定している[53][54]。
- 発意性: 使用者 (法人など) の発意に基づき、著作物が創作されていること。
- 業務従事者性: 使用者の業務に従事する者が創作したものであること。
- 職務上創作性: 業務従事者が職務上創作したものであること。
- 名義公表性: 使用者の名義で著作物を公表していること (ただし未公表が一般的なコンピュータ・プログラムは除く)。
- 作成時特約不在性: 著作物の作成時点で、契約や勤務規則などに特段の定めがないこと。
ただしこれらの条件が満たされていたとしても、一律に職務著作が認められるわけではなく、個別事情が加味される[54]。
1点目の発意性であるが、著作物の創作を企画することである。社内企画を従業員が提案し、上司の了承の下で創作された場合も、使用者 (法人など) の発意だと解釈されている。また、企画などが存在せずとも、従業員が職務として創作することが当然のこととして期待されている場合も、法人等発意性を満たしていると解される。さらには、組織幹部が著作物の創作に消極的、ないし反対の態度を示していた場合であっても、創作した従業員が職務の一環で創作しているならば、法人等発意性は認められる[55]。
2点目の業務従事者性については、必ずしも雇用関係の有無が判断材料になるわけではない。たとえば子会社が下請けとして親会社のために著作物を創作した場合であっても、子会社は親会社とは別の法人格であることから、このような著作物は親会社ではなく子会社の職務著作とされる。人材派遣会社Aに所属する派遣社員Bが、Aのクライアントである派遣先企業Cで著作物を創作した場合、具体的に著作物の創作を指揮命令しているのがC社であれば、たとえ労働契約上はBがA社に雇われていたとしても、著作権はCに帰属する。同様に、誰からも雇用されていないフリーランサーであっても、委託元企業から創作の指揮命令をどの程度受けているのかが、判断基準となる[56]。
3点目の「職務上」の定義については、物理的に職場にいるか、また就業時間内かは問われない。帰宅後であっても職務の一環で従業員が創作したものであれば、職務著作が認められる。逆に就業時間内に職場で従業員が私的な趣味で創作したものは、職務著作に当たらない[57]。
- 判例
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RGBアドベンチャー事件で職務著作が問われたキャラクターの図案 最二小判平成15・4・11 (判時1822号133頁収録、三枝国際特許事務所による抜粋・転載) |
- 日本の職務著作に関するリーディング・ケースとしては、2003年の最高裁判決「RGBアドベンチャー事件」が知られている[註 12][59]。本件では、中国籍のデザイナー (原告) が観光ビザ (後に就労ビザに切り替え) で訪日し、アニメのキャラクター図案を創作した事案である。創作物が職務著作になる旨を記した就業規則などの説明がなく、またタイムカードなどの勤怠管理も行われておらず、雇用契約が成立していたかが争点となった。二審の控訴裁では雇用契約が不成立とみて、作品の頒布差止と損害賠償を命じた。しかし最高裁では、ACCプロダクション社 (被告) の代表宅にて被告デザイナーが賄い付きで生活し、正当な水準の給与が支払明細書付きで支払われていたこと、また創作にあたって制作会社の実体的な指揮・監督下にあったことなどから、二審を差し戻して職務著作が認められた[60]。なお、本件は中国籍の個人と日本企業の争いであるが、著作権の準拠法の観点では特段の問題とはなっていない。一般的にはその著作物の利用地 (属地主義) に基づいて、どこの国の著作権法を適用して裁判を行うかが決まるが、本件の場合は被用者と雇用者の雇用関係を問うたため、日本の法律に準拠している[1]。
中国
中国も世界貿易機関 (WTO) に加盟していることから、中国の知的財産法 (著作権および特許や商標などの産業財産権に関する法律の総称) も欧米型に近いと言われている。職務著作に関しては英米法の傾向とは異なり、中国では創作した個人優位の立場をとっている[61]。職務著作において原則は個人に著作権が帰属し、以下に挙げる一部の例外のみ雇用主・委託主に権利が認められる (著作権法第16条、およびソフトウェア保護規則第13条)[61][62]。
- いかなる著作物であれ、創作完成から2年以内は、雇用主・委託主以外の第三者に対して利用許諾を与えることはできない (すなわち創作した個人は雇用主・委託主に対して2年間の独占的利用許諾を与える)。仮に雇用主・委託主が創作した個人に対し、第三者への利用許諾を許可しても、許諾に伴うライセンス収入は個人と雇用主・委託主間で2年間シェアされる。
- 工業デザインや製品デザインの設計書、地図などに限り、雇用主・委託主の資金や手段を用いており、かつ創作の指揮・監督がおよんでいる場合は、雇用主・委託主の職務著作を認める (書面による合意不要)。
- コンピュータ・プログラムが従業員の業務上で創作されている場合、雇用主・委託主の職務著作を認める (書面による合意不要)。
- 個人と雇用主・委託主間で特段の合意が存在する場合は、それに準ずる。ただしこの合意書は中国の各種法律に準拠しており、かつ中国語で記述されている必要がある。
註釈
- ^ 法人以外の団体組織には、たとえば政府など公共団体や[2]、投資ファンドにみられる投資事業有限責任組合など法人格を有しない組合がある。
- ^ 世界170か国以上 (2019年10月時点) が加盟する著作権の基本条約であるベルヌ条約では[5][6]、同条約 第5条 (2) にて無方式主義を定めているため。
- ^ ベルヌ条約では第7条で50年間以上と規定している。これを上回る形で、欧州連合 (EU) では1993年の著作権保護期間指令 (93/98/EEC) によって原則70年間を規定している[14]。また米国では1998年のソニー・ボノ著作権延長法によって、原則は死後70年間とした上で、職務著作については公表日から95年間あるいは創作日から120年間のいずれか短い方を適用すると規定されている[15]。
- ^ 米国の代理法におけるindependent contractorは、「独立の契約者」[20]または「独立の請負人」[21]と訳される。
- ^ 米国における代理法とは、労働法や会社法とも関係する広範な概念である[28]。代理人は受託者 (Fiduciary) であるとされ[28]、フィデュシャリ―とは他者の利益のために誠実に振る舞う者を指す[29]。金融・財務を例にとると、企業が会計事務所に監査業務を委託したり、資産運用に関してフィナンシャルアドバイザーに助言を求めるケースなどもフィデュシャリーの概念に含まれる[30]。
- ^ 報酬の低さから、初演からたった6夜にしてブシコーはウィンター・ガーデン劇場での上演をキャンセルしている。しかし、劇場側はブシコーを雇用した上で戯曲を創作し、さらに別途俳優 兼 監督としてブシコーを雇ったことから、職務著作が劇場側にあるとみなし、ブシコー出演なしで劇場が『The Octoroon』の上演を継続した。これに対しブシコーが、上演差止と損害賠償を求めて提訴した事件である。雇用は書面ではなく口頭での合意であること、ならびにブシコーの創作性を認め、劇場側の職務著作の主張は棄却された[38]。
- ^ 関連判例として、Cass. civ. 1, 12 April 2005, 03-21095 を参照のこと[46]。写真の初回掲載時は勤務先から給与の形で写真撮影者に支払われていたが、退職後にも同一の写真が繰り返し再掲されたことから裁判となった[47]。
- ^ 関連判例として、Cass. civ. 1, 23 January 2001, 98-17926 を参照のこと[46]。ジャーナリストが地方紙La Montagneに寄稿した内容が、別の地方紙Le Berry républicain上で複製されたとする事案である[48]。
- ^ 関連判例として、Cass. civ 1, 12 June 2001, 99-15895 を参照のこと[46][49]。
- ^ 関連判例として、Court of Appeal of Versailles, 18 November 1999, Juris-Data no. 1999-108392 を参照のこと[50]。
- ^ 関連判例として、Court of Appeal of Paris, 20 September 2007, Juris-Data No. 2007-353089、およびHigh Court of Paris, 30 September 2011, 77 RLDI No. 2548 (2011) を参照のこと[50]。
- ^ 最二小判平成15・4・11 (判時1822号133頁、および労判849号23頁収録)[58]
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