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{{生物分類表
{{生物分類表
|色 = lightgrey
|色 = 細菌
|fossil_range = {{long fossil range|Paleoproterozoic|present|ref=<ref name="Yamamoto2013" />}}
|名称 = 藍色細菌門
|名称 = シアノバクテリア門
|画像 = [[ファイル:Oscillatoria sp.jpg|220px]]
|画像キャプション = [[ユレモ属]]の1種 {{Snamei||Oscillatoria}} sp.
|画像 = [[ファイル: Oscillatoria sp.jpg|250px|糸状性の藍藻]]
|画像キャプション = 糸状藍藻の1種
|地質時代 = PC
|地質時代2 = PR
|ドメイン = [[細菌]] {{Sname||Bacteria}}
|ドメイン = [[細菌]] {{Sname||Bacteria}}
|門 = '''藍色細菌門''' {{Sname||Cyanobacteria}}
|門 = '''シアノバクテリア門''' {{Sname||Cyanobacteria}}
|学名 = {{Sname|Cyanobacteria}} <small>Stanier, 1973</small>
|学名 = {{Sname||Cyanobacteria}}<br /> {{AUY|Stanier ex Cavalier-Smith|2002}}
|和名 = 藍色細菌、藍藻
|和名 = 藍色細菌、藍藻、ラン
|下位分類名=下位分類<ref group="注">目レベルの分類は過渡的であり、必ずしも系統を反映していない (本文参照)。</ref>
|下位分類名 = [[綱 (分類学)|綱]]、[[目 (分類学)|目]]
|下位分類 =
|下位分類 =
*"セリキトクロマチア綱" {{Sname||Sericytochromatia}}<ref group="注" name="heterotroph">光合成能をもたない。シアノバクテリア門には含めないこともある。</ref>
* 酸素発生型光合成細菌
*"[[メライナバクテリア]]綱" {{Sname||Melainabacteria}}<ref group="注" name="heterotroph" />
** [[クロオコッカス目]]
*オキシフォトバクテリア綱 (酸素発生型光合成細菌綱) {{Sname||Oxyphotobacteria}}<ref group="注" name="Oxyphotobacteria">この名はまだ一般的ではなく、植物命名規約に基づく「藍藻綱 ({{Sname||Cyanophyceae}})」が暫定的に用いられることがある (例:[https://www.algaebase.org/browse/taxonomy/?id=4351 AlgaeBase])。</ref>
** [[プレウロカプサ目]]
**グロエオバクター目 {{Sname||Gloeobacterales}}
** [[ユレモ目]]
**グロエオマルガリータ目 {{Sname||Gloeomargaritales}}
** [[ネンジュモ目]]
**シネココックス目 {{Sname||Synechococcales}}
** [[スティゴネマ目]]
**ユレモ目 {{Sname||Oscillatoriales}}
** [[グロエオバクター目]]
**スピルリナ目 {{Sname||Spirulinales}}
* "[[メライナバクテリア|メライナバクテリア綱]]"
**クロオコックス目 {{Sname||Chroococcales}}
* "セリキュトクロマティア綱"
**プレウロカプサ目 {{Sname||Pleurocapsales}}
**クロオコッキディオプシス目 {{Sname||Chroococcidiopsidales}}
**[[ネンジュモ目]] {{Sname||Nostocales}}
}}
}}
'''藍藻'''(らんそう、blue-green algae)または、'''藍色細菌'''(らんしょくさいきん、cyanobacteria)は、[[光合成]]によって[[酸素]]を生み出す酸素発生型光合成細菌である。
単細胞で浮遊するもの、少数細胞の集団を作るもの、糸状に細胞が並んだ構造を持つものなどがある。[[ネンジュモ]]などの一部のものは[[寒天]]質に包まれて肉眼的な集団を形成する。


'''藍藻'''、ラン藻 (らんそう) ({{Lang-en-short|blue-green algae}}) は、酸素発生を伴う[[光合成]] (酸素発生型光合成) を行う[[細菌]]の一群、またはそれに属する生物のことである<ref group="注" name="photosynthetic bacteria">細菌の中には、他にも光合成を行うグループが存在するが (光合成細菌と総称される)、酸素発生型光合成を行う細菌は藍藻のみである。</ref>。藍藻は、系統的には[[細菌]]ドメイン (真正細菌) に属する[[原核生物]]であり、他の[[藻類]]よりも[[大腸菌]]や[[乳酸菌]]などに近縁である。そのため、生物学においては'''シアノバクテリア''' ('''藍色細菌''') (英: cyanobacteria, cyanoprokaryotes) とよばれることが多い<ref group="注">2019年現在、高等学校の[http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm 教育指導要領]や、[http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-h190708.pdf 高等学校の生物教育における重要用語の選定について] では、「シアノバクテリア」が選定されている。</ref>。単細胞、群体、または糸状体であり、多くは顕微鏡でなければ見えない大きさであるが、肉眼でも見える大きさの集塊を形成するものもいる。藍藻はその光合成色素のため青緑色 ([[藍色]]) をしていることが多く、学名や英名の「cyano-」は[[ギリシア語]]で「青色」を意味する {{lang|grc|κυανός}} (''kyanós'') に由来する。
[[真核生物]]では無いが、慣習的に藍藻(blue-green algae)<ref name="ucmp-cyanobacteria-lh">{{cite web |title=Life History and Ecology of Cyanobacteria |url=http://www.ucmp.berkeley.edu/bacteria/cyanolh.html |publisher=University of California Museum of Paleontology|accessdate=2018年10月2日}}</ref><ref name="ncbi-taxonomy">{{cite web | title=Taxonomy Browser - Cyanobacteria | url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?mode=Info&id=1117&lvl=3 | publisher=National Center for Biotechnology Information | id=NCBI:txid1117 | accessdate=2018年10月2日}}</ref>とも呼ばれる。


藍藻は、地球上に初めて現れた酸素発生型光合成生物であったと考えられている (およそ25〜30億年前)。藍藻の誕生によって地球環境は激変し (好気的環境、[[有機物]]の安定的供給など)、現在へとつながる生態系の基礎が築かれた<ref name="Inouye2006">{{cite book|author=井上 勲|year=2006|title=藻類30億年の自然史 -藻類からみる生物進化-|publisher=東海大学出版会|isbn=4486017773}}</ref>。この酸素発生型光合成能は、[[細胞内共生説|細胞内共生]] (一次共生) を経て[[葉緑体]]の形で[[真核生物]]に受け継がれ、多様な真核藻類 (および[[陸上植物]]) のもとともなった。現在の地球環境でも、藍藻は海から淡水、陸上に広く生育し、[[生産者]]や[[窒素固定]]者として生態系において重要な役割を担っている。また[[アオコ]]や[[健康食品]]などの形で人間生活とも密接に関わっている。
== 特徴 ==
藍色細菌はその名の通り、青っぽい緑色、つまり[[藍色]]をした[[光合成細菌]]である。酸素非発生型の光合成細菌である紅色細菌、緑色細菌などと同様、菌体や培養液の色に由来する慣用名である。あまり大きなものはなく、顕微鏡下でのみ観察できる。単細胞単体のもの、少数細胞が[[群体]]的に集まったもの、細胞列が糸状に並んだものなどがある。糸状細胞には、偽分枝するものと真の[[分枝]]をするもの(スティゴネマ類)がある。細胞外に寒天質の鞘などを分泌してより大きな集団を作る例も知られる。また、一部には休眠細胞(アキネート)、連鎖体(ホルモゴニア)、異質細胞(ヘテロシスト)、内生胞子 (baeocyte) などの細胞の分化が見られる。


分類学的には、'''シアノバクテリア門''' ('''藍色細菌門''') ([[学名]]: {{Sname||Cyanobacteria}}) に分類される。2019年現在、[[メタゲノミクス|メタゲノム研究]] (水などのサンプルから直接抽出したDNAに基づくゲノム研究であり、培養できない生物の性質を推定できる) から、藍藻に近縁であるが光合成能をもたない細菌群がいくつか見つかっている ([[メライナバクテリア]]など)<ref name="Soo2014" /><ref name="Soo2017" />。これらの細菌群も光合成を行う藍藻とともにシアノバクテリア門に分類されることがあるが、以下では主に光合成を行う藍藻についてのみ概説する。
== 細胞 ==
細胞には[[細胞壁]]([[ペプチドグリカン]])と脂質を含んだ外膜があり、グラム染色性陰性菌に分類できる。[[鞭毛]]を持つものはないが、[[線毛]](繊毛ではない)をもち単細胞で運動するものや未知のしくみで糸状細胞が活発に滑走運動を行うものがある。[[ユレモ]]の名はこれに由来するが、その運動の機構は十分にはわかっていない。窒素固定をするものがあり、ヘテロシストを形成してその細胞だけで[[窒素固定]]をするものと、ヘテロシストのような特別な細胞分化をせずに夜間にすべての細胞が窒素固定するものなどがある。


==体制==
[[原核細胞]]であり、細胞内には他の藻類に見られるような[[細胞小器官]]を欠く。細胞内には、光合成の明反応を行う[[チラコイド膜]]、[[炭酸固定]]を行う[[カルボキシソーム]]、有機窒素の貯蔵用の[[シアノフィシン]]、リン貯蔵用の[[ポリリン酸]]顆粒などが存在する。
藍藻の中には、[[単細胞]]性、[[群体]]性、糸状性の種がいる<ref name="Chihara1997">{{cite book|author=千原 光雄|year=1997|title=藻類多様性の生物学|publisher=内田老鶴圃|pages=386|isbn=978-4753640607}}</ref><ref name="Chihara1999">{{cite book|author=千原 光雄 (編)|year=1999|title=バイオディバーシティ・シリーズ (3) 藻類の多様性と系統|publisher=裳華房|pages=346|isbn=978-4785358266}}</ref><ref name="Hoek1995">{{cite book|author=van den Hoek, C., Mann, D., Jahns, H. M. & Jahns, M.|year=1995|title=Algae: an introduction to phycology|publisher=Cambridge University Press|isbn=978-0521316873}}</ref><ref name="Graham2008">{{cite book|author=Graham, J.E., Wilcox, L.W. & Graham, L.E.|year=2008|title=Algae|publisher=Benjamin Cummings|isbn=978-0321559654}}</ref><ref name="Komárek2003a">{{cite book|author=Komárek, J.|year=2003|chapter=Coccoid and colonial cyanobacteria|editor=Wehr, J.D. & Sheath, R.G.|title=Freshwater Algae of North America. Ecology and Classification|publisher=Academic Press|location=Boston, MA|isbn=978-0127415505|pages=59-116}}</ref><ref name="Komárek2003b">{{cite book|author=Komárek, J., Kling, H. & Komárková, J.|year=2003|chapter=Filamentous cyanobacteria|editor=Wehr, J.D. & Sheath, R.G.|title=Freshwater Algae of North America. Ecology and Classification|publisher=Academic Press|location=Boston, MA|isbn=978-0127415505|pages=117-196}}</ref> ('''下図''')。藍藻の多くは肉眼では判別できない微細藻であるが、群体性や糸状性の藍藻の中には、肉眼で見えるほどの大きさになるものもいる。
{{multiple image
| total_width = 900
| header = 藍藻に見られるさまざまな体制
| align = center
| caption_align = left


| image1 = Synechococcus PCC 7002 DIC.jpg
== 分類 ==
| alt1 = ''Synechococcus'' PCC 7002
形態分類と系統による分類が一致しないことが多く、混乱している。したがって、種小名は未決定(sp.)となっているものも多い。属名は、一応、フランスのパスツール株保存施設(PCC)<ref>http://www.pasteur.fr/ip/easysite/go/03b-000012-00g/research/collections/crbip/general-informations-concerning-the-collections/iv-the-open-collections/iv-iii-pasteur-culture-collection-of-cyanobacteria</ref>が整理しており、多くのデータベースがこれに準拠している。ここでは、大まかな分類群について述べる。
| caption1 = 単細胞性


| image2 = Merismopedia.jpg
* [[クロオコッカス目]] {{Sname||Chroococcales}} - 単細胞性、窒素固定するものとしないもの、鞘状の多糖類を分泌するものとしないもの、桿状もしくは球状の細胞な形態を示すものがある。
| alt2 = ''Merismopedia''
* [[プレウロカプサ目]] {{Sname||Pleurocapsales}} - 単細胞性で、baecytes(内生胞子)を生じる。baecytesは、複数の細胞分裂によってひとつの細胞から2〜1000個生じる。このような分裂は原核生物では他に例を見ない。
| caption2 = 群体性
* [[ユレモ目]] {{Sname||Oscillatoriales}} - 栄養細胞が一列につながった糸状体(トリコーム)を形成するが、窒素固定のためのヘテロシストなどの細胞分化をしない。
* [[ネンジュモ目]] {{Sname||Nostocales}} - 細胞が一列につながって糸状体を形成し、必要に応じて窒素固定のためのヘテロシストを分化する。また、移動性のホルモゴニアや休眠性のアキネートを分化するものもいる。
* [[スティゴネマ目]] {{Sname||Stigonematales}} - 細胞はおおむね一列につながって糸状体を形成し、ヘテロシストやホルモゴニアを形成するなどネンジュモ目と似ているが、ときに細胞分裂の面が直交して糸状体が分枝する。
* [[グロエオバクター目]] {{Sname||Gloeobacterales}} - 形態的には単細胞であるが、細胞内にチラコイド膜が存在せず、16S RNA系統でももっとも古く分岐したとされる。1種類だけ知られている。


| image3 = Oscillatoria filaments.jpg
== 生態 ==
| alt3 = 無分枝糸状藍藻
海水(海洋、沿岸)や淡水(河川、湖沼)中に多いが、砂漠も含めた陸上で増殖するものや動物や植物と共生するものもあり、地球上で非常に広く分布している<ref>{{Citation | ref = none |title =The Ecology of Cyanobacteria| author =B.A. Whitton and M. Potts, eds| publisher =Kluwer Acaemic| year =1999 | ISBN=0-09-941464-3}}</ref>。
| caption3 = 無分枝糸状


| image4 = British fresh-water algae, exclusive of Desmidieae and Diatomaceae (1882-1884) (20230201000).jpg
夏場に淡水で発生する[[アオコ]]のなかには藍色細菌が大量に発生した結果引き起こされるものもある。この中には悪臭の原因になったり毒性を持つ種も含まれる。海水に広く分布し、地球の光合成生産に大きな貢献をしている。海洋性の[[シネココッカス]] {{Snamei||Synechococcus}} や[[プロクロロコッカス]] {{Snamei||Prochlorococcus}} は、とくに暖かい海に多い。1988年に発見された[[プロクロロコッカス]]は地球上でもっとも多い光合成生物といわれている。[[赤潮]]を起こす種類({{Snamei||Trichodesmium}} など)もある。
| alt4 = ''Glorotrichia'' (1, 2) and Rivularia (3)
| caption4 = 異極性糸状


| image5 = British fresh-water algae, exclusive of Desmidieae and Diatomaceae (1882-1884) (20418214165).jpg
ネンジュモ属の[[イシクラゲ]]などは湿った地上に、[[キクラゲ]]のような姿で発生する。食用にすることもできる。この仲間は乾燥耐性が強く、何十年も乾燥状態で休眠できるものがいる。また、砂漠の砂土の表面でも増殖し、表土を固定する役割を果たしている。
| alt5 = '''Scytonema'
| caption5 = 偽分枝糸状


| image6 = A contribution to the history of the fresh-water algœ of North America (1872) (20173850784).jpg
温泉には、好熱性の種が生息している。知られているもっとも高い増殖温度は73℃という。また、南極や北極海でも生息が知られている。
| alt6 = ''Sirosiphon'' (1-3), ''Stigonema'' (4)
| caption6 = 真分枝糸状
}}


*'''単細胞性''' (unicellular)
一部の種は他の生物と共生している。アナベナはアカウキクサの葉に、ネンジュモ類は[[ソテツ]]や[[ツノゴケ類]]の配偶体などに共生して、窒素固定産物を供給している。また[[菌類]]と共生して[[地衣類]]を形成するものもある。1975年に発見された[[プロクロロン]] {{Snamei||Prochloron}} は[[ホヤ]]と共生しており<ref>{{cite journal |author=R.A. Lewin |title=Prochlorophyta as a proposed new division of algae |journal=Nature |volume=261 |pages=697-8 |year=1976}}</ref>、単独の培養はまだ成功していない。
*:体が1個の[[細胞]]からなる。細胞の形は球状や桿状のものが多く、また異極性 (heteropolarity; 基端と先端で形態が異なる) を示す種もいる (例:カマエシフォン属 {{Snamei||Chamaesiphon}})<ref name="Komárek2003a" />。
*'''群体性''' (colonial)
*:体が複数の細胞からなるが、細胞が密接していない、細胞の分化が見られないなど多細胞とは呼び難いもの (多分に伝統的な区分であり、明確な定義は難しい)。群体全体の形態は多様 (不定形、球形、多面体、シート状、ひも状など)<ref name="Komárek2003a" />。また群体様式としては、多数の細胞が共通の粘液質に包まれたパルメラ状群体 (palmelloid colony) が多いが、他にも細胞が密着して塊状になるサルシナ状群体 (sarcinoid colony) や、分岐する粘液質の柄の先端にそれぞれ細胞が位置する樹状群体 (dendroid colony) などがある<ref name="Komárek2003a" />。
*'''糸状性''' (filamentous)
*:[[ファイル:Cianobacteris ramificacio.png|300px|thumb|right|真分枝 (左) と偽分枝 (右)]]細胞が密接して列状に連なっているもの。伝統的に、糸状性の藍藻において細胞列を'''トリコーム''' (細胞糸 trichome)、1〜複数のトリコームが共通の外被に包まれたものを'''糸状体''' (filament) とよぶ<ref name="Komárek2003b" />。また多数のトリコームが共通の粘液質に包まれた巨視的な群体を形成するものもいる (例:[[イシクラゲ]])。細胞が'''単列''' (uniseriate) に並んでいるものが多いが、'''多列''' (multiseriate) に並んでいるものもいる (例:スチゴネマ属 {{Snamei||Stigonema}}) ('''上図''')。トリコームの末端の細胞はふつう他の細胞とはやや異なる形をしており、特に先端が肥厚している場合はカリプトラ (頂冠 calyptra) とよばれる。一部の種では、トリコームが異極性を示す ('''上図''')。例えばヒゲモ属 ({{Snamei||Rivularia}}) などでは、トリコームの基部に[[#窒素固定|異質細胞]]が存在し、トリコーム先端の細胞が細長く伸びている。この場合、基部の異質細胞で[[#窒素固定|窒素固定]]、頂端部で[[リン]]吸収を行う<ref name="Mahasneh1990">{{cite journal|author=Mahasneh, I.A., Grainger, S.L.J. & Whitton, B.A.|year=1990|title=Influence of salinity on hair formation and phosphatase-activities of the blue-green-alga (cyanobacterium) ''Calothrix viguieri'' D253|journal=Br. Phycol. J.|volume=25|pages=25-32|doi=10.1080/00071619000650021}}</ref> (つまり細胞間で形態分化とともに機能分化を示す)。トリコームは'''無分枝''' (unbranching) であるものが多いが、一部は偽分枝または真分枝をする<ref name="Komárek2003b" />。'''偽分枝''' (false branching) とは、トリコームの途中が分断し (ふつう細胞死による)、その一端または両端が細胞列から外れて伸長することによって形成された分枝様の構造のことである ('''図''')。一方、'''真分枝''' (true branching) とは、トリコームを構成する細胞が2方向以上で分裂することによって形成された分枝である ('''図''')。分枝する種の中には、匍匐糸と直立糸の分化などの異糸性 (heterotrichous) を示すものもいる (例:{{Snamei||Fischerella}})。糸状性の藍藻は、しばしば (全てではない) 細胞分化 (先端の細胞、異糸性、[[#窒素固定|異質細胞]]や[[#生殖|アキネート]]など) や細胞死を伴う形態形成 (偽分枝、[[#生殖|連鎖体形成]]など)、細胞間の連絡 ([[#細胞外被|ペリプラズムの共有やセプトソーム]]) を示し、原核生物ではあるものの真の多細胞体ともいえる体をもつ場合がある<ref name="Flores2010">{{cite journal|author=Flores, E. & Herrero, A.|year=2010|title=Compartmentalized function through cell differentiation in filamentous cyanobacteria|journal=Nature Reviews Microbiology|volume=8|pages=39-50|doi=10.1038/nrmicro2242}}</ref><ref name="Singh2011">{{cite journal|author=Singh, S.P. & Montgomery, B.L.|year=2011|title=Determining cell shape: adaptive regulation of cyanobacterial cellular differentiation and morphology|journal=Trends in Microbiology|volume=19|pages=278-285|doi=10.1016/j.tim.2011.03.001}}</ref>。


== 系統 ==
==細胞==
藍藻の[[細胞]]は直径 1 µm 以下のこともあるが、原核生物としては大型のものが多く、直径 100 µm に達するものもいる<ref name="Komárek2003a" />。
かつて[[植物]]全体が[[単系統]]と考えられていた時代には、もっとも単純な藻類と考えられた。しかし、分類学の発展から原核・真核の区別が重視されるようになると、これが別の界(あるいは[[ドメイン (分類学)|ドメイン]])におかれるようになった。また、[[細胞内共生説]]からは藍色細菌は真核藻類の祖先型ではなく、それらが持つ[[葉緑体]]の起源であると考えられるようになり、細胞本体に関しては系統上の連続性は認められなくなった。


===細胞外被===
葉緑体の[[リボソームRNA]]の[[塩基配列]]は単系統を示し、さらに藍色細菌の系統樹の中に含まれる。これは、植物や二次共生藻類のすべての葉緑体の直接の祖先が藍色細菌であること、さらに葉緑体を生じた細胞内共生が1回だけ起きたという仮説を支持している。藍色細菌の系統樹によれば、もっとも古く分岐したのは、チラコイド膜をもたない {{Snamei||Gloeobacter violaceus}} である。また、クロロフィル''b''をもつプロクロロンやプロクロロコッカスなどは藍色細菌の系統樹内に散在している。これはクロロフィル''b''をもつ藍色細菌(元は原核緑藻とも呼ばれた)の出現が進化の中で比較的新しいことを示唆している。
典型的な[[グラム陰性細菌]] ([[大腸菌]]など) と同様、藍藻の細胞壁は、'''ペプチドグリカン層''' (peptideglycan layer) と、その外側を覆う'''[[外膜]]''' (outer membrane) からなる<ref name="Hoiczyk2000">{{cite journal|author=Hoiczyk, E. & Hansel, A.|year=2000|title=Cyanobacterial cell walls: News from an unusual prokaryotic envelope|journal=J. Bacteriol.|volume=182|pages=1191-1199|doi=10.1128/JB.182.5.1191-1199.2000}}</ref>。ペプチドグリカン層は、[[アミノ糖]]であるNーアセチルグルコサミンとNーアセチルムラミン酸が交互に連なった糖鎖が、[[オリゴペプチド]]で架橋された物質である[[ペプチドグリカン]] (ムレイン murein) からなる。藍藻のペプチドグリカン層は、一般的なグラム陰性細菌のそれにくらべて厚いことが多く (12〜700 nm)、またオリゴペプチドの架橋が多い ([[グラム陽性細菌]]的な特徴)。ペプチドグリカン層が存在する細胞膜と外膜の間の空間は、[[ペリプラズム]] (periplasm) とよばれる。外膜は、[[細胞膜]]と同じく[[脂質二重層]]であるが、外側の層には[[糖鎖]]が結合した[[脂質]] ([[リポ多糖]] lipopolysaccharide, LPS) が含まれる。他のグラム陰性細菌ではリポ多糖は毒となることがあり ([[内毒素]])、藍藻がもつ外膜のリポ多糖にもその可能性が指摘されている<ref name="Stewart2006">{{cite journal|author=Stewart, I., Schluter, P.J. & Shaw, G.R.|year=2006|title=Cyanobacterial lipopolysaccharides and human health - a review|journal=Environ Health|volume=5|pages=7|doi=10.1186/1476-069X-5-7}}</ref>。


糸状性藍藻のトリコームでは、細胞列は共通の外膜に包まれており、またペプチドグリカン層を共有している<ref name="Flores2010" />。細胞間には、ペプチドグリカン層を貫通して隣接する細胞の細胞膜同士をつなぐ連結構造 [セプトソーム (septosome、隔壁結合 septal junction、微細原形質連絡 microplasmodesmata)] が多数存在する<ref name="Flores2010" /><ref name="Flores2016">{{cite journal|author=Flores, E., Herrero, A., Forchhammer, K. & Maldener, I.|year=2016|title=Septal junctions in filamentous heterocyst-forming Cyanobacteria|journal=Trends in Microbiology|volume=24|pages=79-82|doi=10.1016/j.tim.2015.11.011}}</ref><ref name="Bornikoel2017">{{cite journal|author=Bornikoel, J., Carrión, A., Fan, Q., Flores, E., Forchhammer, K., Mariscal, V., ... & Maldener, I.|year=2017|title=Role of two cell wall amidases in septal junction and nanopore formation in the multicellular cyanobacterium ''Anabaena'' sp. PCC 7120|journal=Frontiers in Cellular and Infection Microbiology|volume=7|pages=386|doi=10.3389/fcimb.2017.00386}}</ref>。セプトソームは長さ 25 nm、外径 15 nm、内径 6 nmほどであり、おそらく細胞間での低分子物質輸送に関与している<ref name="Mullineaux2008">{{cite journal|author=Mullineaux, C. W., Mariscal, V., Nenninger, A., Khanum, H., Herrero, A., Flores, E. & Adams, D.|year=2008|title=Mechanism of intercellular molecular exchange in heterocyst-forming cyanobacteria|journal=EMBO J.|volume=27|pages=1299-1308|doi=10.1038/emboj.2008.66}}</ref>。
このような経過によって、細菌の一群であることを明確にするため、藍色細菌やシアノバクテリアの呼称が使われるようになった。細胞壁に外膜があり、グラム染色性陰性菌ということになるが、大腸菌などを含むプロテオバクテリアとは門レベルで異なる独立した系統を形成している。酸素非発生型の[[光合成細菌]]の光合成装置としては、光化学系Iに似た鉄硫黄クラスター型のものと、光化学系IIに似たキノン型が存在しているが、一つの種にはどちらか一方しか存在しない。したがって、藍色細菌の2種の光化学系は、2種類の酸素非発生型光合成細菌の融合(もしくは遺伝子の水平移動)によって生じたと考えられている。


{{multiple image
=== 起源 ===
| total_width = 400
系統解析も行われているが、他の細菌と同様、研究者によって見解が分かれている。キャバリエ=スミスらはクロロフレクサス・デイノコッカス-サーマスが最も古くに分かれた系統であり、藍色細菌はその次に古いとしている<ref>{{cite journal |author=Cavalier-Smith T |title=Rooting the tree of life by transition analyses |journal=Biol. Direct |volume=1 |issue= |pages=19 |year=2006 |pmid=16834776 |pmc=1586193 |doi=10.1186/1745-6150-1-19 |url=http://www.biology-direct.com/content/1//19}}</ref>。グプタらの例ではグラム陽性菌が最も初期に分かれた系統で、次にクロロフレクサス、その後藍色細菌と他のグラム陰性菌が分かれたという<ref>{{Cite web|author=Gupta, R. S.|date=2006|url=http://bacterialphylogeny.info/reprints/McMasterSeminar2006.pdf
| footer =
|title=Phylogeny of Bacteria- Is it a Tangled Web or Can this be Reliably Resolved?|language=英語|accessdate=2008-12-20}}</ref>。
| align = right
| caption_align = left


| image1 = Cyanobacteria guerrero negro.jpg
2004年に提唱された[[テッラバクテリア]]というクレードでは、藍色細菌が[[クロロフレクサス門]]や[[グラム陽性菌]]、[[デイノコックス・テルムス門]]に近いことを示している<ref>Battistuzzi FU, Hedges SB (2009). "A major clade of prokaryotes with ancient adaptations to life on land". Mol. Biol. Evol. 26 (2): 335–43. doi:10.1093/molbev/msn247. PMID 18988685. http://mbe.oxfordjournals.org/cgi/content/full/26/2/335.</ref>。
| alt1 = Unicellular bacteria from a microbial mat
| caption1 = 共通の粘液質に包まれた藍藻


| image2 = Lyngbya.jpg
より藍色細菌に近縁な細菌として、[[メライナバクテリア]]など藍色細菌門に近縁、あるいは綱レベルで藍色細菌門に含まれると考えられる系統も知られている。これらは光合成に必要な遺伝子を持たない。これらを含めた解析では、藍色細菌は他の細菌類から光合成に必要な遺伝子を獲得した形跡があり、光合成能を獲得したのは比較的後代(25-26億年前)になってからと推定されている<ref>{{cite journal |author=Shih, P.M., ''et al.'' |title=Crown group Oxyphotobacteria postdate the rise of oxygen |journal=Geobiology.|volume=15 |issue= 1 |pages= |year=2017 |pmid=27392323 |pmc=|doi=10.1111/gbi.12200}}</ref><ref name="Science2017">{{ cite journal | author = Soo, R.M., ''et al.'' | title = On the origins of oxygenic photosynthesis and aerobic respiration in Cyanobacteria | journal = Science | year = 2017 | volume = 355 | issue = 6332 | page = 1436-1440 | doi = 10.1126/science.aal3794 }}</ref>。
| alt2 = ''Lyngbya''
| caption2 = 色素で色づいた鞘をもつ糸状藍藻
}}
外膜の外側には、結晶性の糖タンパク質からなる層が存在することがあり、[[S層]] (surface layer, S-layer) とよばれる<ref name="Šmarda2002">{{cite journal|author=Šmarda, J., Šmajs, D., Komrska, J. & Krzyžánek, V.|year=2002|title=S-layers on cell walls of cyanobacteria|journal=Micron|volume=33|pages=257-277|doi=10.1016/S0968-4328(01)00031-2}}</ref><ref name="Ehlers2012">{{cite journal|author=Ehlers, K. & Oster, G.|year=2012|title=On the mysterious propulsion of ''Synechococcus''|journal=PLoS One|volume=7|pages=e36081|doi=10.1371/journal.pone.0036081}}</ref><ref name="Strom2012">{{cite journal|author=Strom, S. L., Brahamsha, B., Fredrickson, K. A., Apple, J. K. & Rodríguez, A. G.|year=2012|title=A giant cell surface protein in ''Synechococcus'' WH8102 inhibits feeding by a dinoflagellate predator|journal=Environmental Microbiology|volume=14|pages=807-816|doi=10.1111/j.1462-2920.2011.02640.x}}</ref>。このような糖タンパク質層は、細胞の保護、物質透過、接着、認識、運動、被食防御などに関与していると考えられている。さらに細胞は、タンパク質や細胞外多糖 (exopolysaccharide) からなる'''[[細胞外高分子物質]]''' (extracellular polymeric substance, EPS) によって覆われることがある<ref name="Hoiczyk2000" /><ref name="Pereira2009">{{cite journal|author=Pereira, S., Zille, A., Micheletti, E., Moradas-Ferreira, P., De Philippis, R. & Tamagnini, P.|year=2009|title=Complexity of cyanobacterial exopolysaccharides: composition, structures, inducing factors and putative genes involved in their biosynthesis and assembly|journal=FEMS Microbiology Reviews|volume=33|pages=917-941|doi=10.1111/j.1574-6976.2009.00183.x}}</ref><ref name="Plude1991">{{cite journal|author=Plude, J.L., Parker, D.L., Schommer, O.J., Timmerman, R.J., Hagstrom, S.A., Joers, J.M. & Hnasko, R.|year=1991|title=Chemical characterization of polysaccharide from the slime layer of the cyanobacterium ''Microcystis flos-aquae'' C3-40|journal=Appl. Environ. Microbiol.|volume=57|pages=1696-1700}}</ref> ('''右図''')。細胞外高分子物質は、その厚さや形態、性状に応じて、鞘 (sheath; 薄く緻密で光学顕微鏡下で明瞭な構造)、夾膜 (capsule; 厚く均質で輪郭が明瞭な構造)、粘液質 (slime; 細胞に沿った形を示さない不定形の構造) ともよばれる<ref name="De Philippis1998">{{cite journal|author=De Philippis, R. & Vincenzini, M.|year=1998|title=Exocellular polysaccharides from cyanobacteria and their possible applications|journal=FEMS Microbiology Reviews|volume=22|pages=151-175|doi=10.1111/j.1574-6976.1998.tb00365.x}}</ref><ref name="De Philippis2003">{{cite journal|author=De Philippis, R. & Vincenzini, M.|year=2003|title=Outermost polysaccharidic investments of cyanobacteria: nature, significance and possible applications|journal=Recent Res. Dev. Microbiol.|volume=7|pages=13-22}}</ref>。多数の個体が細胞外高分子物質からなる共通の基質に包まれ、群体や[[バイオフィルム]]を形成することもある。このような外被には、無機栄養分の貯蔵、乾燥耐性、紫外線耐性、浮力増大、被食防御などの機能があると考えられている<ref name="Plude1991" /><ref name="McCarren2009">{{cite journal|author=McCarren, J. & Brahamsha, B.|year=2009|title=Swimming motility mutants of marine ''Synechococcus'' affected in production and localization of the S-layer protein SwmA|journal=J. Bacteriol.|volume=191|pages=1111-1114|doi=10.1128/JB.01401-08}}</ref><ref name="Reynolds2007">{{cite journal|author=Reynolds, C. S.|year=2007|title=Variability in the provision and function of mucilage in phytoplankton: facultative responses to the environment|journal=Hydrobiologia|volume=578|pages=37-45|doi=10.1007/s10750-006-0431-6}}</ref><ref name="Sinha2008">{{cite journal|author=Sinha, R. P. & Häder D.-P.|year=2008|title=UV-protectants in cyanobacteria|journal=Plant Science|volume=174|pages=278-289|doi=10.1016/j.plantsci.2007.12.004}}</ref>。細胞外高分子物質に含まれる紫外線吸収色素として、スキトネミン (scytonemin)<ref name="Ehling-Schulz1997">{{cite journal|author=Ehling-Schulz, M., Bilger, W. & Scherer, S.|year=1997|title=UV-B-induced synthesis of photoprotective pigments and extracellular polysaccharides in the terrestrial cyanobacterium ''Nostoc commune''|journal=J. Bacteriol.|volume=179|pages=1940-1945|doi=10.1128/jb.179.6.1940-1945.1997}}</ref>やグロエオカプシン (gloeocapsin)<ref name="Storme2015">{{cite journal|author=Storme, J. Y., Golubic, S., Wilmotte, A., Kleinteich, J., Velázquez, D. & Javaux, E. J.|year=2015|title=Raman characterization of the UV-protective pigment gloeocapsin and its role in the survival of cyanobacteria|journal=Astrobiology|volume=15|pages=843-857|doi=10.1089/ast.2015.1292}}</ref>、マイコスポリン様アミノ酸 (mycosporine-like amino acid, MAA)<ref name="Böhm1995">{{cite journal|author=Böhm, G. A., Pfleiderer, W., Böger, P. & Scherer, S. |year=1995|title=Structure of a novel oligosaccharide-mycosporine-amino acid ultraviolet A/B sunscreen pigment from the terrestrial cyanobacterium ''Nostoc commune''|journal=J. Biol. Chem.|volume=270|pages=8536-8539|doi=10.1074/jbc.270.15.8536}}</ref>などが知られている。また細胞外被が[[石灰化]] ([[炭酸カルシウム]]が沈着) することがあり、おそらく[[光合成]]における二酸化炭素濃縮機構と関連している<ref name="Jansson2010">{{cite journal|author=Jansson, C. & Northen, T.|year=2010|title=Calcifying cyanobacteria-the potential of biomineralization for carbon capture and storage|journal=Current Opinion in Biotechnology|volume=21|pages=365-371|doi=10.1016/j.copbio.2010.03.017}}</ref>。このような石灰化によって、[[ストロマトライト]]が形成されることがある<ref name="Reid2000">{{cite journal|author=Reid, R. P., Visscher, P. T., Decho, A. W., Stolz, J. F., Bebout, B. M., Dupraz, C., Macintyre, I. G., Paerl, H. W., Pinckney, J. L., Prufert-Bebout, L., Steppe, T. F. & DesMarais, D. J.|year=2000|title=The role of microbes in accretion, lamination and early lithification of modern marine stromatolites|journal=Nature|volume=406|pages=989-992|doi=10.1038/35023158}}</ref>。


===細胞内構造===
== 最初の酸素発生型光合成生物? ==
[[ファイル:Prochlorococcus marinus (cropped).jpg|200px|thumb|right|プロクロロコックス属の透過型電子顕微鏡像 (着色). チラコイドが同心円状に配置している (藍藻としては例外的にチラコイドが重なっている).]]
しばらく前には、35億年前の[[化石]]とされるものが藍色細菌に似ていることから最古の光合成生物といわれたこともあったが、現在ではこれは認められていない。確かな[[ストロマトライト]]の化石は27億年前のものである。これに対応して、地球大気の酸化的変化を示す[[縞状鉄鉱層]]が出現することも、このころ、酸素を発生する藍色細菌が既に出現していたことを窺わせる。
藍藻は[[原核生物]]であり、[[DNA]]は[[核膜]]に包まれず、また[[葉緑体]]や[[ミトコンドリア]]、[[ゴルジ体]]などの[[細胞小器官]]をもたない。細胞内で[[生体膜]]に包まれた構造としては、[[光合成]]における[[光化学反応]]の場である'''[[チラコイド]]'''のみが存在する。チラコイドはふつう重なることなく、細胞内で同心円状 ('''右図''')、放射状または不規則に配置する<ref name="Komárek1991">{{cite journal|author=Komárek, J. & Čáslavská, J.|year=1991|title=Thylakoidal patterns in oscillatorialean genera|journal=Archiv für Hydrobiologie/Algological Studies|volume=64|pages=267-270|doi=}}</ref><ref name="Mareš2019">Mareš, J., Strunecky, O., Bucinska, L. & Wiedermannova, J. (2019) Evolutionary patterns of thylakoid architecture in cyanobacteria. ''Frontiers in Microbiology'' '''10''': 277. https://doi.org/10.3389/fmicb.2019.00277</ref>。ふつうチラコイドには、[[フィコビリン|フィコビリンタンパク質]]からなる'''[[フィコビリソーム]]'''が付着している。一部の藍藻 ([[原核緑藻]]) はフィコビリソームを欠き、チラコイドが重なってラメラを形成している。藍藻では、[[酸素呼吸]]における[[呼吸鎖]]の[[酵素]]もチラコイド上に存在することがある (一部の酵素を[[光化学系]]と共有する)<ref name="Nagarajan2001">{{cite journal|author=Nagarajan, A. & Pakrasi, H. B.|year=2001|title=Membrane‐bound protein complexes for photosynthesis and respiration in cyanobacteria|journal=eLS|volume=|pages=1–8|doi=10.1002/9780470015902.a0001670.pub2}}</ref>。最も初期に分かれた藍藻であるグロエオバクター属 ({{Snamei||Gloeobacter}}) はチラコイドをもたず、光化学系は (呼吸鎖とともにパッチ状に) [[細胞膜]]上に存在する<ref name="Rippka1974">{{cite journal|author=Rippka, R.|year=1974|title=A cyanobacterium which lacks thylakoids|journal=Archiv für Mikrobiologie|volume=100|pages=419-436|doi=10.1007/BF00446333}}</ref>。[[プロクロロン]]属 ({{Snamei||Prochloron}}) では、チラコイドの一部が膨潤して[[液胞]]状になることがある<ref name="Cox1993">{{cite book|author=Cox, G.|year=1993|chapter=Prochlorophyceae|editor=Berner, T.|title=Ultrastructure of Microalgae|publisher=CRC Press|isbn=9780849363238|pages=53-70}}</ref>。チラコイドは、細胞膜と直接つながることはないと考えられていたが、現在では”チラコイド形成中心” (thylakoid center) が細胞膜上に存在することが示されている<ref name="Hahn2014">{{cite book|author=Hahn, A. & Schleiff, E.|year=2014|chapter=The Cell Envelope|editor=Flores, E.|title=Cell Biology of Cyanobacteria|publisher=Caister Academic Press|isbn=978-1-908230-92-8|pages=29-88}}</ref><ref name="Nickelsen2013">{{cite journal|author=Nickelsen, J. & Zerges, W.|year=2013|title=Thylakoid biogenesis has joined the new era of bacterial cell biology|journal=Frontiers in Plant Science|volume=4|pages=458|doi=10.3389/fpls.2013.00458}}</ref><ref name="Rast2015">{{cite journal|author=Rast, A., Heinz, S. & Nickelsen, J.|year=2015|title=Biogenesis of thylakoid membranes|journal=Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Bioenergetic|volume=1847|pages=821-830|doi=10.1016/j.bbabio.2015.01.007}}</ref>。光学顕微鏡下では、チラコイドが存在する細胞周縁部が色付き、チラコイドを欠く中心域が淡色に見えることがあり、伝統的に前者を有色質 (chromoplasm)、後者を中心質 (centroplasm) とよぶ<ref name="Geitler1932">{{cite book|author=Geitler, L.|year=1932|chapter=Cyanophyceae|editor=Rabenhorst, L.|title=Kryptogamen-Flora. 14. Band|publisher=Akademische Verlagsgesellschaft|isbn=|pages=1196}}</ref>。中心質にはふつうDNAが存在するため、この領域は核質 (nucleoplasm) ともよばれる (ただし藍藻の中には、DNAが細胞周縁部に存在する例もある<ref name="Cox1993" />)。


細胞内には'''[[カルボキシソーム]]''' (carboxysome, polyhedral body) とよばれる直径200〜700 nm ほどのタンパク質顆粒が存在する<ref name="Price2008">{{cite journal|author=Price, G. D., Badger, M. R., Woodger, F. J. & Long, B. M.|year=2008|title=Advances in understanding the cyanobacterial CO<sub>2</sub>-concentrating-mechanism (CCM): functional components, Ci transporters, diversity, genetic regulation and prospects for engineering into plants|journal=Journal of Experimental Botany|volume=59|pages=1441-1461|doi=10.1093/jxb/erm112}}</ref><ref name="Yeates2008">{{cite journal|author=Yeates, T. O., Kerfeld, C. A., Heinhorst, S., Cannon, G. C. & Shively, J. M.|year=2008|title=Protein-based organelles in bacteria: carboxysomes and related microcompartments|journal=Nature Reviews Microbiology|volume=6|pages=681-691|doi=10.1038/nrmicro1913}}</ref>。カルボキシソームは主に[[ルビスコ]]や[[炭酸脱水酵素]]からなり、殻タンパク質で包まれている。カルボキシソームは、おそらく効率的な二酸化炭素濃縮機構に関わっており ([[重炭酸イオン]]から[[二酸化炭素]]を生成)、このため藍藻はほとんど[[光呼吸]]を示さない<ref name="Price2008" /><ref name="Colman1989">{{cite journal|author=Colman, B.|year=1989|title=Photosynthetic carbon assimilation and the suppression of photorespiration in the cyanobacteria|journal=Aquat. Bot.|volume=34|pages=211-231|doi=10.1016/0304-3770(89)90057-0}}</ref>。ただし、おそらく特異なグリコール酸代謝経路をもつ<ref name="Bauwe2010">{{cite journal|author=Bauwe, H., Hagemann, M. & Fernie, A. R.|year=2010|title=Photorespiration: players, partners and origin|journal=Trends in Plant Science|volume=15|pages=330-336|doi=10.1016/j.tplants.2010.03.006}}</ref>。カルボキシソームは、炭素固定を行う他の細菌 ([[光合成細菌]]や[[化学合成細菌]]) に見られることもある<ref name="Codd1984">{{cite journal|author=Codd, G.A. & Marsden, W.J.N.|year=1984|title=The carboxysomes (polyhedral bodies) of autotrophic prokarygtes|journal=Biological Reviews|volume=59|pages=389-422|doi=10.1111/j.1469-185X.1984.tb00710.x}}</ref>。
一方、細菌の[[16S_rRNA系統解析]]では[[緑色非硫黄細菌]](クロロフレクサス)が光合成生物としてはもっとも初期に分岐したとされる。さらに光合成にかかわる[[遺伝子]]の[[塩基配列|配列]]解析では、[[紅色細菌]]がもっとも初期に分岐したという報告もある。このような知見が重なるとともに、[[生物]]間での遺伝子の移動がしばしば起こる現象であることが明らかになってきた([[遺伝子の水平伝播]])。また、多くの[[光合成細菌]]の近縁には非光合成細菌が見つかることは、光合成機能が進化の過程で容易に失われることを示している。なお、藍色細菌門のなかには、非光合成の種はまだ見つかっていない。とにかく、現生物の系統から光合成の[[進化]]を議論するには注意が必要であると認識されるようになった。


ふつう貯蔵多糖として'''[[グリコーゲン]]'''が存在するが、α-1,6結合の分枝が少ないセミ[[アミロペクチン]]や[[アミロース]]をもつものもいる<ref name="Deschamps2008">{{cite journal|author=Deschamps, P., Colleoni, C., Nakamura, Y., Suzuki, E., Putaux, J. L., Buléon, A., ... & Moreira, D.|year=2008|title=Metabolic symbiosis and the birth of the plant kingdom|journal=Molecular Biology and Evolution|volume=25|pages=536-548|doi=10.1093/molbev/msm280}}</ref><ref name="Nakamura2005">{{cite journal|author=Nakamura, Y., Takahashi, J. I., Sakurai, A., Inaba, Y., Suzuki, E., Nihei, S., ... & Kawachi, M.|year=2005|title=Some cyanobacteria synthesize semi-amylopectin type α-polyglucans instead of glycogen|journal=Plant Cell Physiol.|volume=46|pages=539-545|doi=10.1093/pcp/pci045}}</ref>。このような藍藻が貯蔵するα-グルカンは、藍藻デンプン (cyanophycean starch) ともよばれる。多くの藍藻は、[[アルギニン]]と[[アスパラギン酸]]からなる[[非リボソームペプチド]]である'''シアノフィシン'''の顆粒 (藍藻顆粒 cyanophycin granule) をもち、おそらく窒素貯蔵体としている<ref name="Berg2000">{{cite journal|author=Berg, H., Ziegler, K., Piotukh, K., Baier, K., Lockau, W. & Volkmer‐Engert, R.|year=2000|title=Biosynthesis of the cyanobacterial reserve polymer multi‐L‐arginyl‐poly‐L‐aspartic acid (cyanophycin)|journal=The FEBS Journal|volume=267|pages=5561-5570|doi=10.1046/j.1432-1327.2000.01622.x}}</ref>。ただし光合成に機能する[[フィコビリソーム]]を窒素貯蔵体としていることもある<ref name="Allen1984">{{cite journal|author=Allen, M. M.|year=1984|title=Cyanobacterial cell inclusions|journal=Annual Reviews in Microbiology|volume=38|pages=1-25|doi=}}</ref> (窒素欠乏下ではフィコビリソームが分解され、これに由来する窒素を利用する)。細胞内には、油滴や[[ポリリン酸]]体 (polyphosphate body; リン貯蔵体として機能) などもふつうみられる<ref name="Jensen1993">{{cite book|author=Jensen, T. E.|year=1993|chapter=Cyanobacterial ultrastructure|editor=Berner, T.|title=Ultrastructure of Microalgae|publisher=CRC Press|isbn=|pages=7-51}}</ref>。またβ-ヒドロキシブチレート重合体 (バイオプラスチックの一種)<ref name="Jensen1993" /> や[[炭酸カルシウム]]<ref name="Moreira2017">{{cite journal|author=Moreira, D., Tavera, R., Benzerara, K., Skouri-Panet, F., Couradeau, E., Gérard, E., Fonta, C.L., Novelo, E., Zivanovic, Y. & López-García, P.|year=2017|title=Description of ''Gloeomargarita lithophora'' gen. nov., sp. nov., a thylakoid-bearing, basal-branching cyanobacterium with intracellular carbonates, and proposal for Gloeomargaritales ord. nov.|journal=International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology|volume=67|pages=653-658|doi=10.1099/ijsem.0.001679}}</ref>を細胞内に貯めるものも知られている。
2010年代以降、藍色細菌の近縁系統として[[メライナバクテリア]]やML635J-21と呼ばれる非光合成細菌が知られてきており、酸素発生型光合成細菌の進化について注目を集めている<ref name="Science2017" />。


<span id="gas"></span>プランクトン性藍藻の中には、'''ガス胞''' (gas vesicle) をもつものがいる<ref name="Komárek2003a" /><ref name="Oliver1994">{{cite journal|author=Oliver, R.L.|year=1994|title=Floating and sinking in gas-vacuolate cyanobacteria|journal=Journal of Phycology|volume=30|pages=161-173|doi=10.1111/j.0022-3646.1994.00161.x}}</ref><ref name="Villareal2003">{{cite journal|author=Villareal, T. A. & Carpenter, E. J.|year=2003|title=Buoyancy regulation and the potential for vertical migration in the oceanic cyanobacterium ''Trichodesmium''|journal=Microb. Ecol.|volume=45|pages=1-10|doi=10.1007/s00248-002-1012-5}}</ref>。ガス胞は細長い小胞であり、多数のガス胞が平行に密集して"エアロトープ" (aerotope, gas vacuole) を形成している。ガス胞の膜は脂質ではなく、タンパク質からなる。この膜は水を透過しないため、ガス胞は空気で満たされ比重が軽くなり、細胞は浮くことができる。つまりガス胞は細胞中の気泡のようなものであり、水と屈折率が異なるため光学顕微鏡下では目立つ ('''[[#窒素固定|下図]]''')。光合成産物の増加やイオン取り込みによって細胞内の[[膨圧]]が高くなるとガス胞はつぶれて細胞は沈降し、そこで光合成産物の消費やイオン排出によって膨圧が低下すると再びガス胞が膨らんで細胞は浮上する<ref name="Walsby1987">{{cite book|author=Walsby, A.E.|year=1987|chapter=Mechanisms of buoyancy regulation by planktonic cyanobacteria with gas vesicles|editor=P. Fay & C. Van Baalen|title=The Cyanobacteria|publisher=Elsevier|isbn=|pages=377-414}}</ref>。ガス胞は藍藻に特有の構造ではなく、他のプランクトン性原核生物に見られることもある<ref name="Shukla2004">{{cite journal|author=Shukla, H. D. & DasSarma, S.|year=2004|title=Complexity of gas vesicle biogenesis in Halobacterium sp. strain NRC-1: identification of five new proteins|journal=Journal of Bacteriology|volume=186|pages=3182-3186|doi=10.1128/JB.186.10.3182-3186.2004}}</ref>。
== 光合成 ==
植物の葉緑体と同じ酸素発生型の光合成を行う。チラコイド膜に存在するタンパク質複合体のほとんどは高等植物の葉緑体のそれとよく似ている。葉緑体とは異なり、藍色細菌のチラコイド膜では、光合成の電子伝達と酸素呼吸の電子伝達が{{仮リンク|プラストキノン|en|Plastoquinone}}などを共有している。


==光合成==
多くの種では、光捕集アンテナ装置として[[フィコビリソーム]]と呼ばれる複合体を持つ。フィコビリソームの構造としてこれまでに様々なモデルが提唱されているが、典型的なフィコビリソームはコアとロッド構造を持ち、それぞれがテトラピロール色素結合タンパク質とそれらをつなぐリンカータンパク質から構成される。特に、ロッド部に含まれる赤色光吸収タンパク質(フィコシアニン)と緑色光吸収タンパク質(フィコエリスリン)の比率が赤色光と緑色光によって調節される現象は古くから知られており、Complementary chromatic adaptation(補色順化)と呼ばれている。
藍藻は、'''酸素発生型[[光合成]]'''を行う唯一の[[原核生物]]群である。藍藻は2種類の[[光化学系]] (光化学系IとII) をもつ点で、光合成を行う他の細菌 (非酸素発生型光合成を行う) とは異なる<ref name="Chihara1999" />。[[緑色硫黄細菌]] ([[クロロビウム門]]) や[[ヘリオバクテリア]] ([[フィルミクテス門]])は光化学系Iと相同な鉄硫黄型反応中心のみを、[[紅色細菌]] ([[プロテオバクテリア門]]) や[[緑色非硫黄細菌|緑色滑走細菌]] ([[クロロフレクサス門]]) は光化学系IIと相同なキノン型反応中心のみをもつ。直列した2種類の光化学系をもつことが、酸素発生型光合成 (水を分解する) を可能にしていると考えられている。


知られている限り、全ての藍藻は酸素発生型光合成を行う。ただし好気環境下では酸素発生型光合成を行うが、嫌気環境下では非酸素発生型光合成 ([[光化学系]]Iを使用し、[[硫化水素]]を電子供与体として[[硫黄]]を生成) を行う例が知られている<ref name="Cohen1975">{{cite journal|author=Cohen, Y., Padan, E. & Shilo, M.|year=1975|title=Facultative anoxygenic photosynthesis in the cyanobacterium ''Oscillatoria limnetica''|journal=J. Bacteriol.|volume=123|pages=855-861|doi=}}</ref><ref name="Cohen1986">{{cite journal|author=Cohen, Y., Jorgensen, B. B., Revsbech, N. P. & Poplawski, R.|year=1986|title=Adaptation to hydrogen sulfide of oxygenic and anoxygenic photosynthesis among cyanobacteria|journal=Applied and Environmental Microbiology|volume=51|pages=398-407|doi=}}</ref>。また連続暗黒下でも、有機物を利用した従属栄養を行って生育可能な種 (通性光独立栄養性) もいる<ref name="Rippka1972">{{cite journal|author=Rippka, R.|year=1972|title=Photoheterotrophy and chemoheterotrophy among unicellular blue-green algae|journal=Archiv für Mikrobiologie|volume=87|pages=93-98|doi=10.1007/BF00424781}}</ref>。{{Snamei||Synechocystis}} sp. PCC 6803 など従属栄養能をもつ藍藻は、光合成遺伝子の変異が致死的にならないため (光合成しなくても生きていける)、光合成研究のモデル生物として広く用いられている。また[[メタゲノミクス|メタゲノム研究]] (海水などの環境から直接抽出したDNAをもとにしたゲノム解析) から、光合成能を含め代謝的に不完全 ([[光化学系]]II、[[ルビスコ]]、[[クエン酸回路]]などの欠失) な藍藻 (UCYN-A, unicellular cyanobacteria group A) の存在が示されているが、これは他生物に共生して栄養的に依存して生きているものと考えられている<ref name="Zehr2008">{{cite journal|author=Zehr, J. P., Bench, S. R., Carter, B. J., Hewson, I., Niazi, F., Shi, T., ... & Affourtit, J. P.|year=2008|title=Globally distributed uncultivated oceanic N<sub>2</sub>-fixing cyanobacteria lack oxygenic photosystem II|journal=Science|volume=322|pages=1110-1112|doi=10.1126/science.1165340}}</ref><ref name="Tripp2010">{{cite journal|author=Tripp, H.J., Bench, S.R., Turk, K.A., Foster, R.A., Desany, B.A., Niazi, F., Affourtit, J.P. & Zehr, J.P.|year=2010|title=Metabolic streamlining in an open-ocean nitrogen-fixing cyanobacterium|journal=Nature|volume=464|pages=90-94|doi=10.1038/nature08786}}</ref>。古くは「無色の藍藻」が報告されているが<ref name="Kristiansen1964">{{cite journal|author=Kristiansen, A.|year=1964|title=Sarcinastrum urosporae, a colourless parasitic blue-green alga|journal=Phycologia|volume=4|pages=19-22|doi=}}</ref>、少なくともその一部は全く別の細菌群に属することが明らかとなっている (例:[[ベッギアトア属]])。
{{Snamei||Gloeobacter}} を除く他の藍色細菌は細胞内にチラコイド膜をもち、光化学系複合体などはおもにチラコイド膜に存在し、細胞膜にはほとんど存在しない。一方、原始的な {{Snamei|Gloeobacter}} にはチラコイド膜はなく、細胞膜上に光化学系複合体が存在し、フィコビリソームは細胞膜の内側表面に結合している。多くの遺伝子の系統解析も、{{Snamei|Gloeobacter}} がもっとも古く分岐したことを示しており、興味深い生きた[[化石]]といえる。


ほとんどの藍藻は、'''[[クロロフィル]]''' '''''a''''' をもつ。また一部の藍藻は、クロロフィル ''a'' に加えて、クロロフィル ''b''、''d''、または ''f'' をもつ<ref name="Lewin1975">{{cite journal|author=Lewin, R. A. & Withers, N. W.|year=1975|title=Extraordinary pigment composition of a prokaryotic alga|journal=Nature|volume=256|pages=735–737|doi=10.1038/256735a0}}</ref><ref name="Miyashita1996">{{cite journal|author=Miyashita, H., Adachi, K., Kurano, N., Ikemoto, H., Chihara, M. & Miyachi, S.|year=1996|title=Chlorophyll ''d'' as a major pigment|journal=Nature|volume=383|pages=402|doi=10.1038/383402a0}}</ref><ref name="Chen2010">{{cite journal|author=Chen, M., Schliep, M., Willows, R. D., Cai, Z. -L., Neilan, B. A. & Scheer, H.|year=2010|title=A red-shifted chlorophyll|journal=Science|volume=329|pages=1318-1319|doi=10.1126/science.1191127}}</ref>。クロロフィル ''d'' や ''f'' は生物の中で一部の藍藻のみがもつ色素であり、人間の目には見えない近赤外光を光合成に利用できる。クロロフィル ''b'' (または類似色素) をもつ藍藻は、[[原核緑藻]]ともよばれる。原核緑藻のプロクロロコックス属 ({{Snamei||Prochlorococcus}}) はクロロフィル ''a'' の代わりにジビニルクロロフィル ''a'' をもつ点で特異な存在であり、光合成の反応中心でジビニルクロロフィル ''a'' を用いる唯一の生物である<ref name="Chisholm1988">{{cite journal|author=Chisholm, S. W., Olson, R. J., Zettler, E. R., Goericke, R., Waterbury, J. B. & Welschmeyer, N. A.|year=1988|title=A novel free-living prochlorophyte abundant in the oceanic euphotic zone|journal=Nature|volume=334|pages=340-343|doi=10.1038/334340a0}}</ref><ref name="Goericke1992">{{cite journal|author=Goericke, R. & Repeta, D.|year=1992|title=The pigments of ''Prochlorococcus marinus'': the presence of divinyl chlorophyll a and b in a marine prokaryote|journal=Limnology and Oceanography|volume=37|pages=425-433|doi=10.4319/lo.1992.37.2.0425}}</ref>。またアカリオクロリス属 ({{Snamei||Acaryochloris}}) はクロロフィル ''a'' 量が少なく、反応中心でクロロフィル ''d'' を用いている<ref name="Hu1998">{{cite journal|author=Hu, Q., Miyashita, H., Iwasaki, I., Kurano, N., Miyachi, S., Iwaki, M. & Itoh, S.|year=1998|title=A photosystem I reaction center driven by chlorophyll d in oxygenic photosynthesis|journal=Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.|volume=95|pages=13319-13323|doi=10.1073/pnas.95.22.13319}}</ref>。
また、クロロフィル''b''やジビニルクロロフィルをもつ種ではPcbと呼ばれる特殊なクロロフィル''a''/''b''結合タンパク質をもつ種も存在する。''Acaryochloris marina''という藍色細菌はクロロフィル''a''の代わりにクロロフィル''d''を主要な光合成色素としてもっている。光化学系Iや光化学系IIの反応中心では、クロロフィル''d''が光励起で電荷分離する光化学反応を起こすことが最近判明した。


{{multiple image
炭酸固定の基質として、細胞内に[[重炭酸イオン]] (HCO<sub>3</sub><sup>–</sup>) を大量に蓄積する。[[カルボキシソーム]]には[[ルビスコ]]([[リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ]])と[[炭酸脱水酵素]]が存在し、細胞内に蓄積した重炭酸イオンから脱水反応で二酸化炭素を生成し、ルビスコに供給している。カルボキシソームは真核藻類の[[ピレノイド]]とほぼ相同な器官といえる。炭酸固定の初期産物はホスホグリセリン酸で、C3型光合成といえるが、細胞内に大量に重炭酸イオンを濃縮するためほとんど光呼吸を示さない点はC4光合成に似ている。
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| footer =
| align = right
| caption_align = left


| image1 = Prochlorococcus and Synechococcus cultures.jpg
{{Snamei||Anabaena}}、{{Snamei||Synechocystis}}、{{Snamei||Thermosynechococcus}} 等の藍色細菌からは、[[シアノバクテリオクロム]]と呼ばれる独自の[[フィトクロム]]様の光受容体が発見されている。これまでに青 / 緑色光、緑 / 赤色光を受容するシアノバクテリオクロムが報告されており、補色順化や走行性の制御に関わることが示唆されている。
| alt1 = The photograph shows a series of cultures of different strains of cyanobacteria from the genera Prochlorococcus and Synechococcus. The different strains show a wide range of coloration, indicating their differing combinations of pigments for photosynthesis.
| caption1 = さまざまな色のピコプランクトン性藍藻. 左から2, 3番目がプロクロロコックス属 ([[原核緑藻]])、残りはシネココックス属. この色の違いは主にフィコビリンの有無や種類、量比による.


| image2 = Phycobilisome structure.jpg
== ゲノム ==
| alt2 = Schematic of a hemi-discoidal phycobilisome.
多くの藍色細菌のゲノム情報が決定されている。最初にゲノムが決定されたのは、{{Snamei||Synechocystis}} sp. PCC 6803である。これは、1996年に、かずさDNA研究所の田畑らのグループによって報告され、生物として4番目、酸素発生型光合成生物として初めてであった。この種は光合成の研究でもっともよく使われている典型的なモデル生物である。その後、田畑らのグループは、窒素固定をする {{Snamei||Anabaena}} sp. PCC 7120(2001年)、好熱性の {{Snamei||Thermosynechococcus elongats}} BP-1(2002年)、チラコイド膜をもたない {{Snamei||Gloeobacter violaceus}} PCC 7421(2003年)と次々と代表的な種のゲノムを決定した<ref>http://genome.kazusa.or.jp/cyanobase/</ref>。平行して、海洋性の''Prochlorococcus''や''Synechococcus''などが米や欧州の研究グループによって報告された(2003年以降)。さらに米・JGIや多くの機関で、モデル生物や生態学的に重要な種のゲノムが続々と決定されている。ゲノムサイズは小さいものは {{Snamei||Prochlorococcus}} 類で180万塩基対、大きいものは {{Snamei||Nostoc punctiforme}} でプラスミドを含めて900万塩基対を超える。これは7000個近くの遺伝子をもっており、真核生物の酵母や原始紅藻よりも多い。
| caption2 = フィコビリソームの模式図. 中央にアロフィコシアニンが位置し、そこから[[フィコシアニン]] (青)、フィコエリスリン (赤) からなるロッドが伸びている.
}}
ほとんどの藍藻は、光合成アンテナ色素タンパク質である'''[[フィコビリン|フィコビリンタンパク質]]'''をもつ。藍藻において、フィコビリンタンパク質は[[フィコビリソーム]]を形成し、[[チラコイド]]に付着している<ref name="Sidler1994">{{cite book|author=Sidler, W. A.|year=1994|chapter=Phycobilisome and phycobiliprotein structures.|editor=Sidler, W. A., & Bryant, D. A.|title=The Molecular Biology of Cyanobacteria|publisher=Springer, Dordrecht|isbn=0792332229|pages=139-216}}</ref><ref name="Singh2015">{{cite journal|author=Singh, N. K., Sonani, R. R., Rastogi, R. P. & Madamwar, D.|year=2015|title=The phycobilisomes: an early requisite for efficient photosynthesis in cyanobacteria|journal=EXCLI Journal|volume=14|pages=268–289|doi=10.17179/excli2014-723}}</ref>。フィコビリソームの中央にはアロフィコシアニンからなるコアが位置し、そこから[[フィコシアニン]]とフィコエリスリン (後者を欠くこともある) からなるロッドが伸びている ('''右図''')。ふつう青色のフィコシアニンの割合が多いため、「藍藻」の名が示すように青緑色を呈する。しかし中には赤色のフィコエリスリンを多くもつため、紫〜赤色を呈する種もいる ('''右図''')。またフィコエリスリンの代わりにフィコエリスロシアニンをもつものもいる<ref name="Bryant1982">{{cite journal|author=Bryant, D. A.|year=1982|title=Phycoerythrocyanin and phycoerythrin: properties and occurrence in cyanobacteria|journal=Microbiology|volume=128|pages=835-844|doi=10.1099/00221287-128-4-835}}</ref>。[[原核緑藻]]とよばれる藍藻はフィコビリンをほとんどもたないため、クロロフィルの色である緑色がそのまま見える ('''右図''')。


<div id="chromatic acclimation">藍藻の中には、光の質 (波長) に応じて[[フィコシアニン]]:フィコエリスリン比を変化させるものもいる<ref name="Hirose2017">{{cite journal|author=広瀬 侑, 池内 昌彦 & 浴 俊彦|year=2017|title=シアノバクテリアの補色応答の多様性|journal=Plant Morphology|volume=29|pages=41-45|doi=10.5685/plmorphol.29.41}}</ref>。例えば緑色光下ではフィコエリスリンが増加、赤色光下でフィコシアニンが増加し、それぞれの波長の光を効率的に吸収できるようになり、それに応じて藻体の色が変化する。この反応は'''補色馴化''' (complementary chromatic acclimation)<ref group="注">古くは補色適応 (chromatic adaptation) とよばれていた。</ref> とよばれる。またフィコビリンタンパク質の発色団となるビリン色素 ([[フィコシアノビリン]]など) は、光受容体であるフィトクロムやシアノバクテリオクロム (走光性や補色馴化のセンサーとなる) の発色団としても用いられている<ref name="Ikeuchi2008">{{cite journal|author=Ikeuchi, M. & Ishizuka, T.|year=2008|title=Cyanobacteriochromes: a new superfamily of tetrapyrrole-binding photoreceptors in cyanobacteria|journal=Photochemical & Photobiological Sciences|volume=7|pages=1159-1167|doi=10.1039/B802660M}}</ref><ref>[http://photosyn.jp/pwiki/index.php 光合成事典]. 日本光合成学会編.</ref>。</div>
== 細胞分化 ==
糸状性藍色細菌にはさまざま細胞分化を示す種があり、高度に形態分化した細菌といえる。ただし、すべての糸状性藍色細菌が細胞分化を示すわけではない。


藍藻がもつ[[カロテノイド]]としては、[[β-カロテン]]、[[ゼアキサンチン]]、エキネノン、ミクソキサントフィル (ミクソール配糖体) が一般的だが、[[α-カロテン]]、[[カンタキサンチン]]、ノストキサンチン、オシラキサンチン (オシロール配糖体) などをもつものも報告されている<ref name="Takaichi2007">{{cite journal|author=Takaichi, S. & Mochimaru, M.|year=2007|title=Carotenoids and carotenogenesis in cyanobacteria: Unique ketocarotenoids and carotenoid glycosides|journal=Cell Mol. Life Sci.|volume=64|pages=2607-2619|doi=10.1007/s00018-007-7190-z}}</ref>。
ヘテロシスト(異質細胞、heterocyst):シストというが、休眠細胞ではなく、酸素がある条件で[[窒素固定]]を行うために分化した細胞。一部の糸状性藍色細菌で分化する。一度これに分化すると、再び栄養細胞には戻れない。また、窒素固定のための遺伝子を発現するために、染色体の不可逆的な組換をするものもいる。異質細胞の細胞壁は特別に肥厚し、酸素を発生する光化学系IIを失っており、酸素に弱い窒素固定酵素([[ニトロゲナーゼ]]、nitrogenase)を酸素から守っている。


藍藻の[[ルビスコ]] (リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ) には2タイプが知られる。多くの藍藻は、[[緑色植物]]などがもつものと相同な Form IB ルビスコをもつ。このような藍藻は β-シアノバクテリア、Form IB ルビスコからなる[[カルボキシソーム]]は β-カルボキシソーム とよばれる<ref name="Price2008" />。一方、一部の藍藻 (プロクロロコックス属など) は、一部の[[プロテオバクテリア]]のものと相同な Form IA ルビスコをもつ (おそらく[[遺伝子の水平伝播|遺伝子水平伝播]]による)。このような藍藻は α-シアノバクテリア、Form IA ルビスコからなるカルボキシソームは α-カルボキシソーム とよばれる<ref name="Price2008" />。
休眠細胞 (akinete) は細胞壁が肥厚して、休眠する。


藍藻において、[[酸素呼吸]]の[[電子伝達系]] (呼吸鎖) は[[細胞膜]]やチラコイドに存在し、後者の場合は、光合成の[[光化学系]]とタンパク質を一部共有している (プラストキノン)<ref name="Scherer1988">{{cite journal|author=Scherer, S., Almon, H. & Böger, P.|year=1988|title=Interaction of photosynthesis, respiration and nitrogen fixation in cyanobacteria|journal=Photosynthesis Research|volume=15|pages=95-114|doi=10.1007/BF00035255}}</ref>。また酸素呼吸における[[クエン酸回路]] (TCA回路) のオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼを欠いており、この部分を別の酵素によって代謝している<ref name="Zhang2011">{{cite journal|author=Zhang, S. & Bryant, D. A.|year=2011|title=The tricarboxylic acid cycle in cyanobacteria|journal=Science|volume=334|pages=1551-1553|doi=10.1126/science.1210858}}</ref>。
連鎖体(単数:hormogonium、複数:hormogonia)は小型の細胞が連なったもので、寒天などの物体表面上をなめらかに移動する[[滑走運動]]を示す。光合成色素は少なく、細胞分裂はしない。新しい培地に植え継いだときなどに糸状性の栄養細胞から一時的に分化し、1日ほど運動した後、運動能を失い、通常の栄養細胞に戻り、増殖を始める。植物と共生する {{Snamei||Nostoc punctiforme}} の場合、植物の抽出物が連鎖体への分化を誘導し、新しい共生相手を探すことに貢献する。


== ==
==固定==
[[窒素]]は、[[タンパク質]]や[[核酸]]の原料として全ての生物にとって必須な元素である。窒素は窒素分子の形 (N<sub>2</sub>) で空気中に大量に存在するが、全ての[[真核生物]]を含む多くの生物は、窒素分子を直接利用することはできない。しかし[[原核生物]]の中には、窒素分子を[[アンモニア]]に変換できるものがおり、この反応は'''[[窒素固定]]''' (nitrogen fixation) とよばれる。藍藻の中にも窒素固定が可能なものがおり、[[生態系]]において重要な役割を担っている (他の生物が利用可能な窒素栄養分の供給)<ref name="Stewart1980">{{cite journal|author=Stewart, W.D.P.|year=1980|title=Some aspects of structure and function in N fixing cyanobacteria|journal=Annual Reviews in Microbiology|volume=34|pages=497-536|doi=10.1146/annurev.mi.34.100180.002433}}</ref><ref name="Berman-Frank2003">{{cite journal|author=Berman-Frank, I., Lundgren, P. & Falkowski, P.|year=2003|title=Nitrogen fixation and photosynthetic oxygen evolution in cyanobacteria|journal=Res. Microbiol.|volume=154|pages=157-164|doi=10.1016/S0923-2508(03)00029-9}}</ref><ref name="Díez2008">{{cite journal|author=Díez, B., Bergman, B. & El-Shehawy, R.|year=2008|title=Marine diazotrophic cyanobacteria: out of the blue|journal=Plant Biotechnol.|volume=25|pages=221-225|doi=10.5511/plantbiotechnology.25.221}}</ref>。窒素を固定する[[酵素]]である[[ニトロゲナーゼ]]は[[酸素]]に弱いため、酸素発生型光合成と窒素固定を1つの細胞で同時に行うことはできない。それに対応して、藍藻は以下のように光合成と窒素固定を分けて行っている。
[[水の華]]、[[アオコ]]を形成するものには、[[毒素]]を生産するものがいる<ref>{{Citation |和書 |title=アオコ ― その出現と毒素 |editors=渡辺真利代; 原田健一; 藤木博太 |publisher=[[東京大学出版会]] |year =1994 |isbn=4-13-066152-3 |page =257 }}</ref>。これらは総称して、[[シアノトキシン]]ともいう。とくに哺乳動物の肝臓毒性や神経毒性を示す毒素が有名で、汚染された水を飲んだ家畜や人が死亡した例もある。肝臓毒素としては、{{Snamei||Microcystis}} が生産するミクロシスチンや {{Snamei||Nodularia}} が生産するノジュリンなどの[[環状ペプチド]]や水の華を形成するアナベナ類が生産する神経毒のアナトキシン-aなどの[[アルカロイド]]、{{Snamei||Cylindrospermopsis}} が生産する神経毒シリンドロスパーモシンなどの[[ウラシル]]誘導体、貝毒としても有名な[[サキシトキシン]]などのアルカロイドなどが知られている。


[[ファイル:Dolichospermum crassum akinete.jpg|200px|thumb|right|ドリコスペルマム属 ([[ネンジュモ目]]). 中央付近にある大きな異質細胞 (両端に極節が見える) と、[[#gas|ガス胞]] (細胞内の黒い顆粒として見える) を含む栄養細胞からなる.]]
== 利用 ==
一部の藍藻では、光が当たる日中に光合成を行い、光がない夜間に窒素固定を行う<ref>{{cite journal|author=Rippka, R., Deruelles, J., Waterbury, J. B., Herdman, M. & Stanier, R. Y.|year=1979|title=Generic assignments, strain histories and properties of pure cultures of cyanobacteria|journal=Microbiology|volume=111|pages=1-61|doi=10.1099/00221287-111-1-1}}</ref><ref>{{cite journal|author=León, C., Kumazawa, S. & Mitsui, A.|year=1986|title=Cyclic appearance of aerobic nitrogenase activity during synchronous growth of unicellular cyanobacteria|journal=Current Microbiology|volume=13|pages=149-153|doi=10.1007/BF01568510}}</ref>。糸状性のアイアカシオ属 ({{Snamei||Trichodesmium}}) では、窒素固定を行う細胞 (diazocyte) とふつうの栄養細胞が分化しており、光合成と窒素固定を同時に異なる細胞で行うことが可能になっている<ref name="El-Shehawy2003">{{cite journal|author=El-Shehawy, R., Lugomela, C., Ernst, A. & Bergman, B.|year=2003|title=Diurnal expression of hetR and diazocyte development in the filamentous non-heterocystous cyanobacterium ''Trichodesmium erythraeum''|journal=Microbiology|volume=149|pages=1139-1146|doi=10.1099/mic.0.26170-0}}</ref><ref name="Bergman2013">{{cite journal|author=Bergman, B., Sandh, G., Lin, S., Larsson, J. & Carpenter, E. J.|year=2013|title=''Trichodesmium'' - a widespread marine cyanobacterium with unusual nitrogen fixation properties|journal=FEMS Microbiology Reviews|volume=37|pages=286-302|doi=10.1111/j.1574-6976.2012.00352.x}}</ref>。この例では細胞の形態的分化は顕著ではないが、ネンジュモ目の藍藻は、'''異質細胞''' (heterocyte, ヘテロシスト heterocyst<ref group="注" name="heterocyst">ヘテロシスト (heterocyst) ともよばれるが、一般的な意味でのシスト (休眠細胞) ではない。</ref>) とよばれる形態的にも極めて特殊化した窒素固定用の細胞を形成する<ref name="Flores2010" /><ref name="Wolk1994">{{cite book|author=Wolk, C.P., Ernst, A., Elhai, J.|year=1994|chapter=Heterocyst metabolism and development|editor=Bryant, D.A.|title=The Molecular Biology of Cyanobacteria|publisher=Kluwer Academic Publishers|isbn=0792332229|pages=769-823}}</ref><ref name="Kumar2010">{{cite journal|author=Kumar, K., Mella-Herrera, R. A. & Golden, J. W.|year=2010|title=Cyanobacterial heterocysts|journal=Cold Spring Harbor Perspectives in Biology|volume=2|pages=a000315|doi=10.1101/cshperspect.a000315}}</ref> ('''右図''')。異質細胞は[[光化学系]]の一部を欠くため細胞内に酸素が発生せず、また酸素を通さない厚い細胞壁で囲まれている。隣接する栄養細胞と接する部分では、異質細胞の細胞質は極めて細くなっており、またその部分にはときに光学顕微鏡で確認できる程の大きなシアノフィシン顆粒 (極節 polar nodule) が存在する。異質細胞で固定された窒素は[[グルタミン]]の形で隣接細胞へ輸送され、隣接細胞からはその材料である[[グルタミン酸]]やエネルギー源である[[糖]] (窒素固定は大量の[[ATP]]を消費する) が供給される。異質細胞は通常の栄養細胞から分化するが、種によってその位置や間隔はほぼ一定であり、重要な分類形質となっている。異質細胞が分泌する[[ペプチド]]によって周囲の細胞が異質細胞になることが抑制され、これによって異質細胞の間隔が一定になる例が知られている。{{-}}
=== 有機肥料 ===
藍藻は[[窒素]]固定能力を持つため、[[緑肥]]([[有機質肥料|有機肥料]]の1種)に使おうという向きもある。水田で緑肥に使われることがある[[アカウキクサ]]類は葉の内部に[[アナベナ]]を共生させている。


=== 食用 ===
==ゲノム==
他の[[原核生物]]と同様、藍藻は環状[[DNA]]からなる[[ゲノム]]をもち、また本来のゲノムDNAに加えて、小さな環状DNA ([[プラスミド]]) をもつこともある。ただし一般的な原核生物とは異なり、多くの場合ゲノム (環状DNA分子) が複数コピー存在する<ref name="Marco2011">{{cite journal|author=Marco, G., Lange, C. & Soppa, J.|year=2011|title=Ploidy in cyanobacteria|journal=FEMS Microbiology Letters|volume=323|pages=124-131|doi=10.1111/j.1574-6968.2011.02368.x}}</ref>。多くの藍藻でゲノム塩基配列が報告されており、特に {{Snamei||Synechocystis}} sp. PCC 6803 は生物として4番目、酸素発生型光合成生物として初めてゲノムが解読された<ref>{{cite journal|author=Kaneko, T., Sato, S., Kotani, H., Tanaka, A., Asamizu, E., Nakamura, Y., ... & Kimura, T.|year=1996|title=Sequence analysis of the genome of the unicellular cyanobacterium ''Synechocystis'' sp. strain PCC6803. II. Sequence determination of the entire genome and assignment of potential protein-coding regions|journal=DNA Research|volume=3|pages=109-136|doi=10.1093/dnares/3.3.109}}</ref>。知られているものの中では、ゲノムサイズは 1.7〜9 Mbp (Mbp = 百万塩基対) ほどであり (さらにおそらく 15 Mbp に達するものもいる<ref name="Herdman1979">{{cite journal|author=Herdman, M., Janvier, M., Rippka, R. & Stanier, R. Y.|year=1979|title=Genome size of Cyanobacteria|journal=Journal of General Microbiology|volume=111|pages=73-85|doi=10.1099/00221287-111-1-73}}</ref>)、1,700〜7,000個ほどの遺伝子をもつ。この中には、一部の真核生物のゲノムより大きく多数の遺伝子をもつものもいる。
[[image:Spirulina tablets.jpg|thumb|right|200px|スピルリナを使用した健康補助食品]]
一部の藍藻は、食用になり、伝統的に世界各地で食材とされてきた。オレゴン州クラマス湖に生息する[[藍色細菌]]は最近では免疫細胞への影響の面より研究が進められており、注目されている<ref>{{cite journal |first1=Gitte S. |last1=Jensen |first2=Donald I. |last2=Ginsberg |first3=Christian |last3=Drapeau |month=Winter |year=2001 |title=Blue-Green Algae as an Immuno-Enhancer and Biomodulator |journal=JANA |volume=3 |issue=4 |pages=24–30}}</ref>。


藍藻は、真核藻類にくらべて形質転換など分子遺伝学的解析が比較的容易なものが多く、光合成研究などの[[モデル生物]]として広く用いられている<ref name="Hirose2009">{{cite journal|author=広瀬 侑, 佐藤 桃子 & 池内 昌彦|year=2009|title=シアノバクテリア|journal=低温科学|volume=67|pages=9-15|doi=}}</ref>。よく用いられる藍藻として、{{Snamei||Synechocystis}} sp. PCC 6803、{{Snamei||Thermosynechococcus elongatus}}、{{Snamei||Synechococcus elongatus}} PCC 6301、{{Snamei||Cyanothece}} sp. ATCC 51142、{{Snamei||Anabaena}} sp. PCC7120、{{Snamei||Nostoc punctiforme}} などがある (PCC, ATCC は株保存施設の略号)。
アフリカや中南米の塩基性の[[塩湖]]で採取されて食用にされてきた[[スピルリナ]](学名:{{Snamei||Arthrospira}}、真正の{{Snamei||Spirulina}}はこれとは別種である)がよく知られるが、日本や中国といった東アジアでも食材としての利用が散見される。


==運動==
[[万葉集]]に「あしつき」という食材を採る女たちの歌がある。
[[ファイル:Video- The Cyanobacteria- Oscillatoria and Gleocapsa.webm|300px|thumb|right|糸状藍藻の運動.]]
{{Quote|雄神河 くれなゐ匂ふ をとめらし あしつきとると 瀬に立たすらし}}
藍藻は[[鞭毛]] (細菌型) をもたないが、細胞外被 (S層) の糖タンパク質による遊泳運動や、[[線毛]]による匍匐運動を行うものが知られている<ref name="McCarren2009" /><ref name="Duggan2007">{{cite journal|author=Duggan, P. S., Gottardello, P. & Adams, D. G.|year=2007|title=Molecular analysis of genes involved in pilus biogenesis and plant infection in ''Nostoc punctiforme''|journal=J. Bacteriol.|volume=189|pages=4547-4551|doi=10.1128/JB.01927-06}}</ref><ref name="Jarrell2008">{{cite journal|author=Jarrell, K.F. & McBride, M.J.|year=2008|title=The surprisingly diverse ways that prokaryotes move|journal=Nature Reviews Microbiology|volume=6|pages=466-476|doi=10.1038/nrmicro1900}}</ref>。また藍藻において最もよく知られた運動は、多くの糸状性藍藻が示す'''滑走運動''' (gliding movement) である。直線的な運動だけではなく、トリコームが揺れたりする運動もよく見られ ('''右図''')、ユレモ属 ({{Snamei||Oscillatoria}}) の和名、学名ともこの姿に由来する (''oscillatio'' = 振動)。この運動は粘液多糖の噴射または糖タンパク質性外被 (S層) が関係していると考えられている<ref name="Hoiczyk2000" />。
この「あしつき」とは、河川の[[ヨシ]]などの茎に付着生育する[[ネンジュモ目]]の藍藻で、今日でも[[アシツキ]]、あるいはカワタケの和名で呼ばれる(近縁の[[イシクラゲ]]の項参照のこと)。現在の日本でも、クロオコッカス目の[[スイゼンジノリ]]は[[懐石|懐石料理]]の高級食材として養殖され、その他の一部の藍色細菌も食べる地域がある。ネンジュモ目の[[髪菜]]は内陸アジアの[[ステップ (地形)|ステップ]]地帯の地表に生育し、[[中華料理]]の高級食材であるが、乱獲による環境破壊により今日では採取が禁止されている。ただし、藍色細菌には有毒のものも多いため、素人判断の同定でむやみに食用とすることは危険である。

また藍藻からは、[[シアノバクテリオクロム]] (cyanobacteriochrome) やフラビン結合タンパク質、細菌型[[ロドプシン]]などさまざまな光[[受容体]]が見つかっている<ref name="Hirose2017" /><ref name="Montgomery2007">{{cite journal|author=Montgomery, B. L.|year=2007|title=Sensing the light: photoreceptive systems and signal transduction in cyanobacteria|journal=Molecular Microbiology|volume=64|pages=16-27|doi=10.1111/j.1365-2958.2007.05622.x}}</ref><ref name="Hirose2016">{{cite journal|author=広瀬 侑 & 池内 昌彦|year=2016|title=シアノバクテリアの補色順化における光色感知機構|journal=化学と生物|volume=54|pages=403-407|doi=10.1271/kagakutoseibutsu.54.403}}</ref>。このような光受容体は、[[走光性]]や[[光屈性]]、[[#chromatic acclimation |補色馴化]]、細胞分化など光によって制御される現象に関わっている。
{{-}}

==生殖==
{{multiple image
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| align = right
| caption_align = left

| image1 = Prochlorococcus MED4 EM Dividing.jpg
| alt1 = ''Prochlorococcus'' MED4
| caption1 = 二分裂中のプロクロロコックス属 (透過型電子顕微鏡像).

| image2 = Phage S-PM2.png
| alt2 = A Transmission Electron Microscope Image of the Synechococcus Phage S-PM2
| caption2 = シアノファージ (透過型電子顕微鏡像).
}}

藍藻は基本的に'''二分裂'''によって増殖 ('''右図''')、または群体や糸状体の成長を行い、群体や糸状体はその分断化によって増殖する。一部の種は、'''外生胞子''' (exospore, エクソサイト exocyte) や'''内生胞子''' (endospore, ベオサイト baeocyte) を形成して[[無性生殖]]を行う<ref name="Komárek2003a" /><ref name="Komárek2003b" />。

糸状性の藍藻では、ときに単純な分断化、または細胞死による隔盤 (separation disc, necridium) 形成によって糸状体の一部が切り離され、'''連鎖体''' (ホルモゴニア;hormogonium, 複 hormogonia) とよばれる短い細胞糸が形成される<ref name="Anagnostidis1988">{{cite journal|author=Anagnostidis, K. & Komárek, J.|year=1988|title=Modern approach to the classification system of cyanophytes. 3. Oscillatoriales|journal=Archiv für Hydrobiologie/Algological Studies|volume=50/53|pages=327-472|doi=}}</ref>。連鎖体は[[走光性]]、滑走運動能、または[[#gas|ガス胞]]などをもち、[[散布体]]として機能する<ref name="Meeks2002">{{cite journal|author=Meeks, J. C. & Elhai, J.|year=2002|title=Regulation of cellular differentiation in filamentous cyanobacteria in free-living and plant-associated symbiotic growth states|journal=Microbiology and Molecular Biology Reviews|volume=66|pages=94-121|doi=10.1128/MMBR.66.1.94-121.2002}}</ref>。

ネンジュモ目の種は、特殊化した休眠細胞である'''アキネート''' (akinete) を形成することがある<ref name="Kaplan-Levy2010">{{cite journal|author=Kaplan-Levy, R. N., Hadas, O., Summers, M. L., Rücker, J., & Sukenik, A.|year=2010|chapter=Akinetes: dormant cells of cyanobacteria|editor=|title=Dormancy and Resistance in Harsh Environments|publisher=Springer Berlin Heidelberg|isbn=978-3-642-12421-1|pages=5-27}}</ref>。アキネートには異質細胞と共通する特徴 (細胞壁成分、[[光化学系]]IIの非発現、[[スーパーオキシドジスムターゼ]]の低活性など) があり、その分化には共通のシステムがあると考えられている<ref name="Zhang2006">{{cite journal|author=Zhang, C.-C., Laurent, S., Sakr, S., Peng, L. & Bédu, S.|year=2006|title=Heterocyst differentiation and pattern formation in cyanobacteria: a chorus of signals.|journal=Mol. Microbiol.|volume=59|pages=367-375|doi=10.1111/j.1365-2958.2005.04979.x}}</ref>。

藍藻は原核生物であり、[[有性生殖]]は行わない。ただし、外界のDNAを取り込むことや ([[形質転換]])、[[ウイルス]] (藍藻のウイルスは特にシアノファージ cyanophage とよばれる) ('''右図''') によるDNA注入 ([[形質導入]]) によって、[[遺伝子の水平伝播|遺伝子水平伝播]]が頻繁に起こっていることが示唆されている<ref name="Coleman2006">{{cite journal|author=Coleman, M. L., Sullivan, M. B., Martiny, A. C., Steglich, C., Barry, K., DeLong, E. F. & Chisholm, S. W.|year=2006|title=Genomic islands and the ecology and evolution of ''Prochlorococcus''|journal=Science|volume=311|pages=1768-1770|doi=10.1126/science.1122050}}</ref>。
{{-}}

==生態==
藍藻は[[海]]、[[淡水]]、さらに陸上環境にも広く生育しており、藍藻がいない環境を探すのは難しい<ref name="Komárek2003a" /><ref name="Whitton2000">{{cite book|author=Whitton, B.A. & Potts, M.|year=2000|title=The Ecology of Cyanobacteria: Their Diversity in Time and Space|publisher=Kluwer Academic Pub.|pages=669|isbn=0-09-941464-3}}</ref><ref name="Whitton2012">{{cite book|editor=Whitton, B.A.|year=2012|title=Ecology of Cyanobacteria II: Their Diversity in Space and Time|publisher=Springer Science & Business Media|isbn=978-94-007-3854-6}}</ref>。量的にも多く、その[[生物量]]は10億トンに達するとの試算もある<ref name="Garcia-Pichel2003">{{cite journal|author=Garcia-Pichel, F., Belnap, J., Neuer, S. & Schanz, F.|year=2003|title=Estimates of global cyanobacterial biomass and its distribution|journal=Algological Studies|volume=109|pages=213-227|doi=10.1127/1864-1318/2003/0109-0213}}</ref>。一般的に、真核藻類にくらべて温度、pHが高い環境を好む傾向があるが<ref name="Castenholz1989"">{{cite journal|author=Castenholz, R.W. & Waterbury, J.B.|year=1989|title=Oxygenic photosynthetic bacteria. Group I. Cyanobacteria|journal=Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology|volume=3|pages=1710-1789|doi=}}</ref>、低温<ref name="Quesada2012">{{cite journal|author=Quesada, A. & Vincent, W. F.|year=2012|chapter=Cyanobacteria in the cryosphere: snow, ice and extreme cold|editor=|title=Ecology of Cyanobacteria II|publisher=Springer Net.|isbn=978-94-007-3854-6|pages=387-399}}</ref>や酸性環境<ref name="Steinberg1998">{{cite journal|author=Steinberg, C.E.W., Schäfer, H., Beisker, W., Brüggemann, R.|year=1998|title=Deriving restoration goals for acidified lakes from taxonomic studies|journal=Restor, Ecol.|volume=6|pages=327-335|doi=10.1046/j.1526-100X.1998.06403.x}}</ref>に生育する藍藻も少なくない。また真核藻類にくらべて、低照度で生育可能なものが多い<ref name="van Liere1982">{{cite journal|author=van Liere, L. & Walsby, A.E.|year=1982|chapter=Interactions of cyanobacteria with light|editor=Carr, N.G. and Whitton, B.A.|title=The Biology of the Cyanobacteria|publisher=Blackwell Science Publications|isbn=0-520-04717-6|pages=9-45}}</ref>。

貧栄養の海域 (つまり沿岸域や高緯度地域を除く多くの海域) では、[[ピコプランクトン]]性 (直径 2 µm 以下) の藍藻 (シネココックス属 {{Snamei||Synechococcus}} やプロクロロコックス属)<ref group="注">これらの藍藻はいくつかの属に分けることが提唱されている ({{cite journal|author=Walter, J. M., Coutinho, F. H., Dutilh, B. E., Swings, J., Thompson, F. L., & Thompson, C. C.|year=2017|title=Ecogenomics and taxonomy of Cyanobacteria phylum|journal=Frontiers in Microbiology|volume=8|pages=2132|doi=}})。ただし2019年現在、これらの新しい属名は一般的ではない。</ref> が主要な[[生産者]]となっていることが多い<ref name="Weisse1993">{{cite journal|author=Weisse, T.|year=1993|chapter=Dynamics of autotrophic picoplankton in marine and freshwater ecosystems|editor=Jones, J.G.|title=Advances in Microbial Ecology, Vol. 13|publisher=Plenum Press|pages=327-370|doi=10.1007/978-1-4615-2858-6_8}}</ref><ref name="Veldhuis1997">{{cite journal|author=Veldhuis, M.J.W., Kraay, G.W., van Bleijswijk, J.D.L. & Baars, M.A.|year=1997|title=Seasonal and spatial variability in phytoplankton biomass, productivity and growth in the northwestern Indian ocean: the southwest and northeast monsoon, 1992-1993|journal=Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers|volume=44|pages=425-449|doi=10.1016/S0967-0637(96)00116-1}}</ref><ref name="Zwirglmaier2008">{{cite journal|author=Zwirglmaier, K., Jardillier, L., Ostrowski, M., Mazard, S., Garczarek, L., Vaulot, D., Not, F., Massana, R., Utioa, O. & Scanlan, D. J.|year=2008|title=Global phylogeography of marine ''Synechococcus'' and ''Prochlorococcus'' reveals a distinct partitioning of lineages among oceanic blooms|journal=Environ. Microbiol.|volume=10|pages=147-161|doi=10.3389/fmicb.2018.01393}}</ref> ('''下図''')。このような環境では、表層から[[有光層|真光層]]下部 (水深 200 m 付近) まで、それぞれの光条件に適応したピコプランクトン性藍藻がすみ分けている<ref name="Coleman2006" />。このようなピコプランクトン性藍藻は地球上で最も個体数が多い生物だと考えられており、シネココックス属で年平均 7.0 × 10<sup>26</sup> 細胞、プロクロロコックス属で年平均 2.9 × 10<sup>27</sup> 細胞と試算され、その純一次生産量は 12 Gt 炭素/年、海洋の全純一次生産量の25.2%に達すると推定されている<ref name="Flombaum2013">{{cite journal|author=Flombaum, P., Gallegos, J. L., Gordillo, R. A., Rincón, J., Zabala, L. L., Jiao, N., ... & Vera, C. S.|year=2013|title=Present and future global distributions of the marine Cyanobacteria ''Prochlorococcus'' and ''Synechococcus''|journal=Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.|volume=110|pages=9824-9829|doi=10.1073/pnas.1307701110}}</ref>。また貧栄養の[[湖沼]]でも、しばしばピコプランクトン性藍藻が優占する<ref name="Callieri2007">{{cite journal|author=Callieri, C.|year=2007|title=Picophytoplankton in freshwater ecosystems: the importance of small-sized phototrophs|journal=Freshwater Reviews|volume=1|pages=1-28|doi=10.1608/FRJ-1.1.1}}</ref>。熱帯海域 (特に[[紅海]]や南太平洋) では、糸状性藍藻のアイアカシオ属 ({{Snamei||Trichodesmium}}) がときに多く、赤潮を形成することがある<ref name="Bergman2013" /> ('''下図''')。

{{multiple image
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| image1 = Picoplancton fluorescence Pacific.jpg
| alt1 = Photosynthetic picoplankton from the Pacific Ocean (off the Marquesas islands observed by epifluorescence microscopy (blue exciting light). Orange fluorescing dots correspond to Synechocococus cyanobacteria, red fluorescing dots to picoeukaryotes. Larger cells (e.g. diatom, upper right) can also be seen.
| caption1 = 南太平洋[[マルキーズ諸島]]沖サンプルの[[蛍光顕微鏡]]像. 黄色はピコプランクトン性藍藻、赤は真核藻類の葉緑体.

| image2 = Picoplankton profile Pacific.jpg
| alt2 = Vertical distribution of the photosynthetic picoplankton populations determined by flow cytometry in the tropical Pacific (OLIPAC cruise, 1994).
| caption2 = 熱帯太平洋におけるピコプランクトンの深度分布. 赤 = プロクロロコックス属、緑 = シネココックス属、茶 = 真核ピコプランクトン.

| image3 = 2010 Filamentous Cyanobacteria Bloom near Fiji.jpg
| alt3 = Bacterial bloom south of Fiji on October 18, 2010. Though it is impossible to identify the species from space, it is likely that the yellow-green filaments are miles-long colonies of Trichodesmium, a form of cyanobacteria often found in tropical waters.
| caption3 = おそらくアイアカシオ属の赤潮 (緑色の部分) の衛星写真 ([[フィジー]]付近).

| image4 = Trichodesmium bloom off Great Barrier Reef 2014-03-07 19-59.jpg
| alt4 = Trichodesmium bloom off Great Barrier Reef.
| caption4 = 大発生したアイアカシオ属 ([[グレートバリアリーフ]]).
}}
{{-}}

<div id="aoko">[[湖沼型#類型|富栄養の湖沼]]では、ミクロキスティス属 ({{Snamei||Microcystis}})、ドリコスペルマム属 ({{Snamei||Dorychospermum}})<ref name="Anabaena" group="注">[[アナベナ]]属 ({{Snamei||Anabaena}}) とされていた藍藻のうち、プランクトンとしてふつうに見られる種の多くは、ドリコスペルマム属に移されている (国立科学博物館 植物研究部. [https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/aoko/index.html 浮遊性藍藻データベース])。</ref>、アファニゾメノン属 ({{Snamei||Aphanizomenon}})、プランクトスリックス属 ({{Snamei||Planktothrix}}) などの[[プランクトン]]性藍藻が大増殖することがある<ref name="Watanabe1994">{{cite book|author=渡辺 真利代, 原田 健一 & 藤木 博太 (編)|year=1994|title=アオコ ―その出現と毒素|publisher=東京大学出版会|pages=257|isbn=4-13-066152-3}}</ref> ('''下図''')。このような藍藻が大増殖すると、水面に青緑色の粉をまいたようになるため、'''[[アオコ]]''' (青粉) とよばれる。このような藍藻の増減には、さまざまな環境要因とともに、他の藻類との競争、シアノファージ (藍藻の[[ウィルス]]) や殺藻菌、藍藻を捕食する生物などが関わっている<ref name="Manage2001">{{cite journal|author=Manage, P.M., Kawabata, Z. & Nakano, S.|year=2001|title=Dynamics of cyanophage-like particles and algicidal bacteria causing ''Microcystis aeruginosa'' mortality|journal=Limnology|volume=2|pages=73-78|doi=10.1007/s102010170002}}</ref><ref name="Sukenik2002">{{cite journal|author=Sukenik, A., Eshkol, R., Livne, A., Hadas, O., Rom, M., Tchernov, D., Vardi, A. & Kaplan, A.|year=2002|title=Inhibition of growth and photosynthesis of the dinoflagellate ''Peridinium gatunense'' by ''Microcystis'' sp. (cyanobacteria): a novel allelopathic mechanism|journal=Limnol. Oceanogr.|volume=47|pages=1656-1663|doi=10.4319/lo.2002.47.6.1656}}</ref><ref name="Mizuta2010">{{cite journal|author=Mizuta, S., Imai, H., Chang, K.-H., Doi, H., Nishibe, Y. & Nakano, S.|year=2010|title=Grazing on ''Microcystis'' (Cyanophyceae) by testate amoebae with special reference to cyanobacterial abundance and physiological state|journal=Limnplogy|volume=12|pages=205-211|doi=10.1007/s10201-010-0341-1}}</ref>。一方で、[[湖沼型#類型|貧栄養の湖沼]]で大発生する藍藻も知られている ({{Snamei||Planktothrix rubescens}}, '''下図''')。この種は従属栄養能をもつため、貧栄養でも増殖できる<ref name="Manganelli2010">{{cite journal|author=Manganelli, M., Scardala, S., Stefanelli, M., Vichi, S., Mattei, D., Bogialli, S., ... & Testai, E.|year=2010|title=Health risk evaluation associated to ''Planktothrix rubescens'': An integrated approach to design tailored monitoring programs for human exposure to cyanotoxins|journal=Water Research|volume=44|pages=1297-1306|doi=10.1016/j.watres.2009.10.045}}</ref>。</div>

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| image1 = Tukuiko-aoko.JPG
| alt1 = アオコが大発生して、湖水が黄緑色に染まった津久井湖.
| caption1 = アオコが発生した[[津久井湖]] (9月).

| image2 = Cyanobacteria Aggregation2.jpg
| alt2 = Bloom of cyanobacteria in a freshwater pond. This accumulation in one corner of the pond was caused by wind drift. It looked as if someone had dumped a bucket color into the water.
| caption2 = 水面にマットを形成しているアオコ (ドイツ、7月).

| image3 = Efflorescence verte 1 CyanobacteriaDeadFish.JPG
| alt3 = アオコと死んだ魚.
| caption3 = アオコと死んだ魚 (フランス、8月).

| image5 = Vielfältige Allgäuer Hochalpen (01).JPG
| alt5 = Nature reserve "Allgäuer Hochalpen" (NSG 00400.01): At an altitude of about 1800 m, the Schneck is behind the photographer. The valley in front belongs to the Stierbach in the upper Bärgündele valley. In the background the arêtes and summits of Kreuzkopf and Wiedemer Kopf can be seen. The little pond is reddish brown due to an algal bloom, caused by Planktothrix rubescens. That species of cyanobacteria prefers clear, standing water, which is poor in nutrients.
| caption5 = 中央の池は''P. rubescens''の大増殖によって茶色く染まっている (ドイツ、7月).
}}
{{-}}

海でも淡水でも底生性の藍藻は多く、しばしば[[バイオフィルム]]を形成して基質表面を覆っている<ref name="Tang1997">{{cite journal|author=Tang, E. P. Y., Tremblay, R. & Vincent, W. F.|year=1997|title=Cyanobacterial dominance of polar freshwater ecosystems: are high-latitude mat-formers adapted to low temperature?|journal=J. Phycol.|volume=33|pages=171-181|doi=10.1111/j.0022-3646.1997.00171.x}}</ref> ('''下図''')。沿岸岩礁域の[[潮間帯]]〜[[潮上帯]]でも、付着性の藍藻がペンキのようにべったりと岩を覆っていることがある。また[[オーストラリア]]の[[シャーク湾]]など塩分濃度が高い浅瀬では、植食動物がいないため底生性藍藻の群落が発達し、層状構造をもつドーム状構造である'''[[ストロマトライト]]''' (stromatolite) を形成する<ref name="Reid2000" /> ('''下図''')。ストロマトライトに似るが、貝殻などを核に球状に形成されたものをオンコライト (oncolite) という<ref name="Corsetti2003">{{cite journal|author=Corsetti, F. A., Awramik, S. M. & Pierce, D.|year=2003|title=A complex microbiota from snowball Earth times: microfossils from the Neoproterozoic Kingston Peak Formation, Death Valley, USA|journal=Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.|volume=100|pages=4399-4404|doi=10.1073/pnas.0730560100}}</ref>。

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| image1 = Cyanobacterial mat at Fanous East Reef, Red Sea, Egypt -SCUBA -UNDERWATER -PICTURES (6522131837).jpg
| alt1 = Cyanobacterial mat at Shelenyat Reef, Red Sea, Egypt.
| caption1 = 海底の藍藻マット (紅海、Shelenyat Reef).

| image2 = Cyanobacterial-algal mat.jpg
| alt2 = Modern cyanobacterial-algal mat, salty lake on the White Sea seaside.
| caption2 = 北極海塩湖岸の藍藻マット.

| image3 = Stromatolites in Sharkbay.jpg
| alt3 = Stromatolites growing in Hamelin Pool Marine Nature Reserve, Shark Bay in Western Australia.
| caption3 = [[ストロマトライト]] (オーストラリア、シャーク湾).
}}
{{-}}

藍藻は土壌や岩石表面など陸域にも多く、極地から熱帯まで広く分布している ('''下図''')。変水性 (体内の水分量が大きく変動しても、つまり乾燥しても仮死状態で生存し、再び水が得られると急速に復活する性質) による高い乾燥耐性を示すものもおり、100年近く乾燥状態に置かれたものが復活したとの報告もある<ref name="Ward2000">Ward, D. M. & Castenholz, R. W. (2000) Cyanobacteria in geothermal habitats. In: ''The Ecology of Cyanobacteria'', Springer Netherlands. ISBN 0-09-941464-3 pp. 37-59.</ref>。土壌表層では藍藻が土壌クラスト (soil crust) を形成し ('''下図''')、土壌の安定化や窒素栄養分の供給を行うため、特に砂漠や荒野での[[植生遷移]]の初期段階において重要な働きを果たすことがある<ref name="Whitton2000" /><ref name="Whitton2012" />。藍藻の中には、岩石内生 (岩の中に生育) のものもおり、砂漠や極地からも見つかっている。

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| image1 = Nostoc commune.jpg
| alt1 = イシクラゲ
| caption1 = 地表に生育するイシクラゲ (''Nostoc commune'').

| image2 = Biological soil crust (6541100737).jpg
| alt2 = Biological soil crust, Saguaro National Park (RMD), Arizona.
| caption2 = 藍藻を含む土壌クラスト (米国アリゾナ州).

| image3 = Grand Prismatic Spring - Flickr - brewbooks (1).jpg
| alt3 = The orange and brown color at the edge are due to the cyanobacteria Phormidium, Synechococcus, and Calothrix.
| caption3 = 複数種の好熱性藍藻が水温に対応した帯状分布している ([[イエローストーン国立公園]]).

| image4 = Glacial Crevasse.jpg
| alt4 = A crevasse created by water drilling a hole tens of meters deep into the glacier ice. Our skidoo guide inspects the crack. Langjökull glacier. July 2006.
| caption4 = 氷河上の藍藻 (黒色の部分) ([[アイスランド]]).
}}
{{-}}

[[温泉]] (特にアルカリ性〜中性) に生育する好熱性の藍藻も知られており ([[温泉藻]])<ref name="Whitton2000" /><ref name="Whitton2012" />、このような場所では温度に応じて複数種の藍藻が帯状分布を示すこともある ('''上図''')。中には 70°C 以上の高温に耐えるものや至適増殖温度が 60°C 近いものもいる。一方、雪や氷上、北極や南極のような低温環境下に多く見られる藍藻もいる<ref name="Quesada2012" /><ref name="Tang1997" /> ('''上図''')。[[氷河]]上で粒子状に成長した藍藻は[[クリオコナイト]] (cryoconite) とよばれ、黒っぽい色のため熱を吸収し氷河上に穴 (クリオコナイトホール) を形成する。また[[塩湖]]のような塩分濃度が高い環境に生育するものもおり、浸透圧調節物質 (グルコシルグリセロール、[[グリシン]]、[[トリメチルグリシン]]など) の蓄積などによって高[[浸透圧]]に対応している<ref name="Fulda1999">{{cite journal|author=Fulda, S., Mikkat, S., Schröder, W., Hagemann, M.|year=1999|title=Isolation of salt-induced periplasmic proteins from ''Synechocystis'' sp. strain PCC 6803|journal=Arch. Microbiol.|volume=171|pages=214-217|doi=10.1007/s002030050702}}</ref>。

==共生==
{{multiple image
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| image1 = Lisajcrni7.jpg
| alt1 = foliose lichen containig cyanobacteria
| caption1 = イワノリ科の1種 ([[子嚢菌門]]) は藍藻を共生者とする[[地衣類]]である.

| image2 = Ornithocercus Magnificus image.jpg
| alt2 = Ornithocercus magnificus from the Bay of Villefranche on Feb 18th 2014. The little orange balls are symbiotic cyanobacteria. Lugol's-fixed specimen, Z-stack of images made using a 40x objective and DIC optics.
| caption2 = 藍藻 (上部に集積している赤褐色の顆粒) を共生させたヒレカンムリムシ属 ([[渦鞭毛藻綱]]).
}}
藍藻の中には、他の生物と[[共生]]しているものも少なくない<ref name="Adams2000">{{cite book|author=Adams, D. G.|year=2000|chapter=Symbiotic interactions|editor=Whitton, B.A. & Potts, M.|title=Ecology of Cyanobacteria: Their Diversity in Time and Space|publisher=Kluwer Academic Publishers|isbn=0-09-941464-3|pages=523-561}}</ref><ref name="Adams2012">{{cite book|author=Adams, D. G., Duggan, P. S. & Jackson, O.|year=2012|chapter=Cyanobacterial symbioses|editor=Whitton, B.A.|title=Ecology of Cyanobacteria II: Their Diversity in Space and Time|publisher=Springer Science+Business Media B.V.|pages=593-675|isbn=978-94-007-3854-6}}</ref><ref name="Adams2006">{{cite book|author=Adams, D. G., Bergman, B., Nierzwicki-Bauer, S. A., Rai, A. N. & Schüßler, A.|year=2006|chapter=Cyanobacterial-plant symbioses|editor=Dworkin M, Falkow S, Rosenberg E, Schleifer K-H, Stackebrandt E|title=The Prokaryotes. A Handbook on the Biology of Bacteria, vol 1, 3rd ed. Symbiotic Associations, Biotechnology, Applied Microbiology|publisher=Springer|isbn=978-1-4757-2193-5|pages=331-363}}</ref><ref name="Carpenter2002">{{cite journal|author=Carpenter, E.J.|year=2002|title=Marine cyanobacterial symbioses|journal=Biol. Environ. Proc. R Ir Acad.|volume=102B|pages=15-18|doi=10.1007/0-306-48005-0_2}}</ref><ref name="Paerl1992">{{cite book|author=Paerl, H.|year=1992|chapter=Epi- and endobiotic interactions of cyanobacteria|editor=Reisser, W.|title=Algae and Symbioses: Plants, Animals, Fungi, Viruses, Interactions Explored|publisher=Biopress Limited|isbn=|pages=537-565}}</ref><ref name="Decelle2015">{{cite book|author=Decelle, J., Colin, S. & Foster, R. A.|year=2015|chapter=Photosymbiosis in marine planktonic protists|editor=|title=Marine Protists|publisher=Springer Japan|isbn=|pages=465-500}}</ref>。このような共生者である藍藻は、'''シアノビオント''' (cyanobiont) とよばれることがある。

[[地衣類]]の多くは[[緑藻]]を共生者としているが、地衣の 8% 程の種は藍藻を共生者としており、特にこのような地衣は藍藻地衣 (cyanolichen) ともよばれる<ref name="Adams2006" /><ref name="Rikkinen2002">{{cite book|author=Rikkinen, J.|year=2002|chapter=Cyanolichens: an evolutionary overview|editor=Rai, A.N., Bergman, B. & Rasmussen, U.|title=Cyanobacteria in Symbiosis|publisher=Kluwer Academic Publishers, Dordrecht|isbn=1-4020-0777-9|pages=31-72}}</ref> ('''右図''')。藍藻地衣では藍藻が細胞外共生しているが、[[ゲオシフォン]] ({{Snamei||Geosiphon}}) ([[菌根菌]]として重要なグループである[[グロムス門|グロムス綱]]に属する) では、藍藻 ({{Snamei||Nostoc punctiforme}}) が細胞内共生している<ref name="Adams2006" /><ref name="Gehrig1996">{{cite journal|author=Gehrig, H., Schüßler, A. & Kluge, M.|year=1996|title=''Geosiphon pyriforme'', a fungus forming endocytobiosis withNostoc (Cyanobacteria), is an ancestral member of the glomales: evidence by SSU rRNA analysis|journal=Journal of Molecular Evolution|volume=43|pages=71-81|doi=10.1007/BF02352301}}</ref><ref name="Mollenhauer1996">{{cite journal|author=Mollenhauer, D., Mollenhauer, R. & Kluge, M.|year=1996|title=Studies on initiation and development of the partner association in ''Geosiphon pyriforme'' (Kütz.) v. Wettstein, a unique endocytobiotic system of a fungus (Glomales) and the cyanobacterium ''Nostoc punctiforme'' (Kütz.) Hariot|journal=Protoplasma|volume=193|pages=3-9|doi=10.1007/BF01276630}}</ref><ref name="Schüßler2005">{{cite book|author=Schüßler, A. & Wolf, E.|year=2005|chapter=''Geosiphon pyriformis'' - a Glomeromycotan soil fungus forming endosymbiosis with Cyanobacteria|editor=|title=In Vitro Culture of Mycorrhizas. Soil Biology, Volume 4, Part V|publisher=|isbn=3-540-24027-6|pages=271-289}}</ref>。これらの例では、'''藍藻が光合成産物 (有機物) を宿主に供給'''し、宿主からは好適な生育環境を得ていると考えられている。同じような関係にあるものとして、[[海綿]]<ref name="Usher2008">{{cite journal|author=Usher, K.M.|year=2008|title=The ecology and phylogeny of cyanobacterial symbionts in sponges|journal=Marine Ecology|volume=29|pages=178-192|doi=10.1111/j.1439-0485.2008.00245.x}}</ref>や[[等脚類]]<ref name="Lindquist2005">{{cite journal|author=Lindquist, N., Barber, P.H. & Weisz, J.B.|year=2005|title=Episymbiotic microbes as food and defence for marine isopods: unique symbioses in a hostile environment|journal=Proc. R Soc. Lond. B|volume=272|pages=1209-1216|doi=10.1098/rspb.2005.3082}}</ref>、[[ホヤ]]<ref name="Münchhoff2007">{{cite journal|author=Münchhoff, J., Hirose, E., Maruyama, T., Sunairi, M., Burns, B.P., & Neilan, B.A.|year=2007|title=Host specificity and phylogeography of the prochlorophyte ''Prochloron'' sp., an obligate symbiont in didemnid ascidians|journal=Environ. Microbiol.|volume=9|pages=890-899|doi=10.1111/j.1462-2920.2006.01209.x}}</ref>、[[放散虫]]<ref name="Foster2006a">{{cite journal|author=Foster, R. A. Carpenter, E. J. & Bergman, B.|year=2006|title=Unicellular cyanobionts in open ocean dinoflagellates, radiolarians, and tintinnids: ultrastructural characterization and immuno-localization of phycoerythrin and nitrogenase|journal=Journal of Phycology|volume=42|pages=453-463|doi=10.1111/j.1529-8817.2006.00206.x}}</ref><ref name="Foster2006b">{{cite journal|author=Foster, R. A., Collier, J. L. & Carpenter , E. J.|year=2006|title=Reverse transcription PCR amplification of cyanobacterial symbiont 16S rRNA sequences from single non-photosynthetic eukaryotic marine planktonic host cells|journal=Journal of Phycology|volume=42|pages=243-250|doi=10.1111/j.1529-8817.2006.00185.x}}</ref>、[[有孔虫]]<ref name="Lee2006">{{cite journal|author=Lee, J.J.|year=2006|title=Algal symbiosis in larger foraminifera|journal=Symbiosis|volume=42|pages=63-75|doi=}}</ref>、[[繊毛虫]]<ref name="Foster2006a" /><ref name="Foster2006b" />、[[渦鞭毛藻]]<ref name="Foster2006a" /><ref name="Foster2006b" /><ref name="Escalera2011">{{cite journal|author=Escalera, L., Reguera, B., Takishita, K., Yoshimatsu, S., Koike, K. & Koike, K.|year=2011|title=Cyanobacterial endosymbionts in the benthic dinoflagellate Sinophysis canaliculata (Dinophysiales, Dinophyceae)|journal=Protist|volume=162|pages=304-314|doi=10.1016/j.protis.2010.07.003}}</ref><ref name="Jyothibabu2006">{{cite journal|author=Jyothibabu, R., Madhu, N.V., Maheswaran, P.A., Devi, C.R.A., Balasubramanian, T., Nair, K.K.C. & Achuthankutty, C.T.|year=2006|title=Environmentally-related seasonal variation in symbiotic associations of heterotrophic dinoflagellates with cyanobacteria in the western Bay of Bengal|journal=Symbiosis|volume=42|pages=51-58|url=http://drs.nio.org/drs/handle/2264/547}}</ref> ('''右図''') などに藍藻が細胞外または細胞内共生している例が知られる。このような藍藻の中には、ホヤに共生する[[プロクロロン]]属 ({{Snamei||Prochloron}}) のように宿主体外では生育できない絶対共生性のものもいる。

細胞内共生した藍藻が[[細胞小器官]]となった例もある。[[葉緑体]] ([[色素体]]) は、太古に細胞内共生した藍藻に起源をもつが、現在ではこの藍藻は自立能を失い、完全に宿主に制御された[[細胞小器官]]となっている<ref name="Inouye2006" /><ref name="Archibald2009">{{cite journal|author=Archibald, J.M.|year=2009|title=The puzzle of plastid evolution|journal=Curr. Biol.|volume=19|pages=R81-88|doi=10.1016/j.cub.2008.11.067}}</ref>。有殻糸状仮足アメーバである[[ビンカムリ]]類 ({{Snamei||Paulinella}} spp.) (ケルコゾア門) は、葉緑体とは起源が異なる (より新しい) 藍藻との細胞内共生に由来する構造 ('''クロマトフォア''' chromatophore とよばれる) をもつ。この構造も既に宿主と不可分の存在であり、細胞小器官化したものであることが明らかとなっている<ref name="Nakayama2008">{{cite journal|author=中山 卓郎 & 石田 健一郎|year=2008|title=もう一つの一次共生?  - ''Pauinella chromatophora'' とそのシアネレ|journal=原生動物学雑誌|volume=41|pages=27-31|doi=}}</ref>。

{{multiple image
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| align = right
| caption_align = left

| image1 = Azolla imbricata.JPG
| alt1 = アカウキクサ
| caption1 = [[アカウキクサ]] ([[シダ綱|薄嚢シダ]]) の葉には藍藻が共生している.

| image2 = Cycas thouarsii (coralline roots).jpg
| alt2 = Cycas thouarsii's coralline roots harbour nitrogen-fixing cyanobacteria.
| caption2 = [[ソテツ属]]のサンゴ状根 (内部に藍藻が共生).
}}
<div id="symbiosis with phototroph">光合成生物に藍藻が共生している例も知られている。このような共生では、'''藍藻が窒素固定によって生成した窒素化合物を宿主に与えている'''<ref name="Adams2012" /><ref name="Rai2000">{{cite journal|author=Rai, A. N., Söderbäck, E. & Bergman, B.|year=2000|title=Cyanobacterium-plant symbioses|journal=New Phytologist|volume=147|pages=449-481|doi=10.1046/j.1469-8137.2000.00720.x}}</ref>。藍藻が共生している[[陸上植物]]として、[[ウスバゼニゴケ科]]<ref name="Adams2008">{{cite journal|author=Adams, D. G. & Duggan, P. S.|year=2008|title=Cyanobacteria-bryophyte symbioses|journal=J. Exp. Bot.|volume=59|pages=1047-1058|doi=10.1093/jxb/ern005}}</ref> ([[苔類]])、[[ツノゴケ類]]<ref name="Adams2008" />、[[アカウキクサ属]]<ref name="Peters1991">{{cite journal|author=Peters, G.A.|year=1991|title=''Azolla'' and other plant-cyanobacteria symbioses - aspects of form and function|journal=Plant Soil|volume=137|pages=25-36|doi=10.1007/BF02187428}}</ref><ref name="Papaefthimiou2008">{{cite journal|author=Papaefthimiou, D., Van Hove, C., Lejeune, A., Rasmussen, U. & Wilmotte, A.|year=2008|title=Diversity and host specificity of genus ''Azolla'' cyanobionts|journal=J. Phycol.|volume=44|pages=60-70|doi=10.1111/j.1529-8817.2007.00448.x}}</ref> ([[シダ綱|薄曩シダ]]) ('''右図''')、[[ソテツ類]]<ref name="Costa2003">{{cite book|author=Costa, J.-L. & Lindblad, P.|year=2003|chapter=Cyanobacteria in symbiosis with cycads|editor=Rai, A.N., Bergman, B. & Rasmussen, U.|title=Cyanobacteria in Symbiosis|publisher=Kluwer Academic Publishers, Dordrecht|isbn=1-4020-0777-9|pages=195-205}}</ref> ('''右図''')、[[グンネラ]]<ref name="Bergman2002">{{cite book|author=Bergman, B.|year=2002|chapter=The ''Nostoc''-''Gunnera'' symbiosis|editor=Rai, A.N., Bergman, B. & Rasmussen, U.|title=Cyanobacteria in Symbiosis|publisher=Kluwer Academic Publishers|isbn=1-4020-0777-9|pages=207-232}}</ref><ref name="Bergman2008">{{cite journal|author=Bergman, B. & Osborne, B.|year=2002|title=The ''Gunnera''-''Nostoc'' symbiosis|journal=Biol. Environ. Proc. R Ir Acad.|volume=102B|pages=35-39|url=https://www.jstor.org/stable/20500139}}</ref> ([[被子植物]]) などが知られている。これらの中には、藍藻の感染を促進するために植物が藍藻の[[#生殖|連鎖体]]や[[線毛]]形成を誘導する例が知れられている<ref name="Duggan2007" /><ref name="Adams2012" />。またアカウキクサ類の共生藍藻は[[宿主]]体外では生存不可な絶対共生性であり、宿主と[[共進化]]していることが知られている<ref name="Adams2012" /><ref name="Papaefthimiou2008" />。ソテツ類はいくつかの[[毒素]]をもつことが知られているが、このうち BMAA (β-methylamino-L-alanine) はソテツ自身が生成したものではなく、共生藍藻が生成したものであると考えられている<ref name="Cox2003">{{cite journal|author=Cox, P.A., Banack, S.A. & Murch, S.J.|year=2003|title=Biomagnification of cyanobacterial neurotoxins and neurodegenerative disease among the Chamorro people of Guam|journal=Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.|volume=100|pages=13380-13383|doi=10.1073/pnas.2235808100}}</ref>。</div>

水界でも、[[珪藻]]<ref name="Jahson1995">{{cite journal|author=Jahson, S., Rai, A. N. & Bergman, B.|year=1995|title=Intracellular cyanobiont ''Richelia intracellularis'': ultrastructure and immuno-localisation of phycoerythrin, nitrogenase, Rubisco and glutamine synthetase|journal=Marine Biology|volume=124|pages=1-8|doi=10.1007/BF00349140}}</ref><ref name="Carpenter2002" /><ref name="Foster2006c">{{cite journal|author=Foster, R. A. & Zehr, J. P.|year=2006|title=Characterization of diatom-cyanobacteria symbioses on the basis of ''nifH'', ''hetR'' and 16S rRNA sequences|journal=Environ. Microbiol.|volume=8|pages=1913-1925|doi=10.1111/j.1462-2920.2006.01068.x}}</ref><ref name="Foster2011">{{cite journal|author=Foster, R.A., Kuypers, M.M.M., Vagner, T., Paerl, R.W., Muzat, N. & Zehr, J.P.|year=2011|title=Nitrogen fixation and transfer in open ocean diatom-cyanobacterial symbioses|journal=ISME J.|volume=5|pages=1484-1493|doi=10.1038/ismej.2011.26}}</ref><ref name="Foster2009">{{cite journal|author=Foster, R.A., Subramaniam, A. & Zehr, J.P.|year=2009|title=Distribution and activity of diazotrophs in the Eastern Equatorial Atlantic|journal=Environ. Microbiol.|volume=11|pages=741-750|doi=10.1111/j.1462-2920.2008.01796.x}}</ref><ref name="White2007">{{cite journal|author=White, A.E., Prahl, F.G., Letelier, R.M. & Popp, B.N.|year=2007|title=Summer surface waters in the Gulf of California: prime habitat for biological nitrogen fixation|journal=Glob. Biogeochem. Cycles|volume=21|pages=GB2017|doi=10.1029/2006GB002779}}</ref>や[[ハプト藻]]<ref name="Hagino2013">{{cite journal|author=Hagino, K., Onuma, R., Kawachi, M. & Horiguchi, T.|year=2013|title=Discovery of an endosymbiotic nitrogen-fixing cyanobacterium UCYN-A in ''Braarudosphaera bigelowii'' (Prymnesiophyceae)|journal=PLoS One|volume=8|pages=e81749|doi=10.1371/journal.pone.0081749}}</ref><ref name="Thompson2014">{{cite journal|author=Thompson, A., Carter, B. J., Turk‐Kubo, K., Malfatti, F., Azam, F. & Zehr, J. P.|year=2014|title=Genetic diversity of the unicellular nitrogen‐fixing cyanobacteria UCYN‐A and its prymnesiophyte host|journal=Environmental Microbiology|volume=16|pages=3238-3249|doi=10.1111/1462-2920.12490}}</ref>など光合成を行う[[藻類]]に藍藻が共生している例が知られている。ハフケイソウ科の珪藻に細胞内共生している藍藻は、既に自立能・光合成能を失い、'''楕円体''' (spheroid body) とよばれる細胞小器官になっている<ref name="Kneip2008">{{cite journal|author=Kneip, C., Voß, C., Lockhart, P. J. & Maier, U. G.|year=2008|title=The cyanobacterial endosymbiont of the unicellular algae Rhopalodia gibba shows reductive genome evolution|journal=BMC Evol. Biol.|volume=8|pages=30|doi=10.1111/1462-2920.12490}}</ref>。{{Snamei||Braarudosphaera}} (ハプト藻) に共生する藍藻 (UCYN-A) も光合成能を含むいくつかの機能を欠いており、おそらく宿主に大きく依存している<ref name="Zehr2008" />。

[[地衣類]]や[[サンゴ]]においては、主となる共生者 (それぞれ[[緑藻]]、[[渦鞭毛藻]]) とともに、窒素固定を行う藍藻が共生している例が知られている<ref name="Lesser2004">Lesser, M. P., Mazel, C. H., Gorbunov, M. Y. & Falkowski, P. G. (2004) Discovery of symbiotic nitrogen-fixing cyanobacteria in corals. ''Science'' '''305''': 997-1000. DOI: 10.1126/science.1099128</ref><ref name="Lesser2007">{{cite journal|author=Lesser, M.P., Falcón, L.I., Rodriguez-Roman, A., Enriquez, S., Hoegh-Guldberg, O. & Iglesias-Prieto, R.|year=2007|title=Nitrogen fixation by symbiotic cyanobacteria provides a source of nitrogen for the scleractinian coral ''Montastraea cavernosa''|journal=Mar. Ecol. Prog. Ser.|volume=346|pages=143-152|doi=10.3354/meps07008}}</ref>。これらの例では、光合成 (有機物供給) と窒素固定 (窒素栄養分供給) を共生者の間で分業していると考えられている。

上記の例にくらべて、共生関係が明瞭ではない、より「ゆるい」共生関係も知られている。そのような例として、藍藻群集中に[[子嚢菌]]が生育しているもの<ref name="Rikkinen2002" />や、藍藻と[[珪藻]]が密集していもの<ref name="Snoeijs2004">{{cite journal|author=Snoeijs, P. & Murasi, L.W.|year=2004|title=Symbiosis between diatoms and cyanobacterial colonies|journal=Vie Et Milieu Life Environ|volume=54|pages=163-169|doi=}}</ref>、[[海藻]]<ref name="Fong2006">{{cite journal|author=Fong, P., Smith, T.B. & Wartian, M.J.|year=2006|title=Epiphytic cyanobacteria maintain shifts to macroalgal dominance on coral reefs following ENSO disturbance|journal=Ecology|volume=87|pages=1162-1168|doi=10.1890/0012-9658(2006)87[1162:ECMSTM]2.0.CO;2}}</ref><ref name="Ohkubo2006">{{cite journal|author=Ohkubo, S., Miyashita, H., Murakami, A., Takeyama, H., Tsuchiya, T. & Mimuro, M.|year=2006|title=Molecular detection of epiphytic ''Acaryochloris'' spp. on marine macroalgae|journal=Appl. Environ. Microbiol.|volume=72|pages=7912-7915|doi=10.1128/AEM.01148-06}}</ref>、[[シャジクモ類]]<ref name="Ariosa2004">{{cite journal|author=Ariosa, Y., Quesada, A., Aburto, J., Carrasco, D., Carreres, R., Leganes, F. & Valiente, E.F.|year=2004|title=Epiphytic cyanobacteria on Chara vulgaris are the main contributors to N2 fixation in rice fields|journal=Appl. Environ. Microbiol.|volume=70|pages=5391-5397|doi=10.1128/AEM.70.9.5391-5397.2004}}</ref>、[[蘚類]]<ref name="Berg2013">{{cite journal|author=Berg, A., Danielsson, Å. & Svensson, B. H.|year=2013|title=Transfer of fixed-N from N2-fixing cyanobacteria associated with the moss ''Sphagnum riparium'' results in enhanced growth of the moss|journal=Plant and Soil|volume=362|pages=271-278|doi=10.1007/s11104-012-1278-4}}</ref><ref name="Solheim2002">{{cite journal|author=Solheim, B. & Zielke, M.|year=2002|chapter=Associations between cyanobacteria and mosses|editor=Rai, A.N., Bergman, B. & Rasmussen, U.|title=Cyanobacteria in Symbiosis|publisher=Kluwer Academic Publishers, Dordrecht|isbn=1-4020-0777-9|pages=137-152}}</ref>、[[マングローブ]]植物<ref name="Steinke2003">{{cite journal|author=Steinke, T.D., Lubke, R.A. & Ward, C.J.|year=2003|title=The distribution of algae epiphytic on pneumatophores of the mangrove, ''Avicennia marina'', at different salinities in the Kosi System|journal=S. Afr. J. Bot.|volume=69|pages=546-554|doi=10.1016/S0254-6299(15)30293-3}}</ref>、[[海草]]<ref name="Hamisi2009">{{cite journal|author=Hamisi, M.I., Lyimo, T.J., Muruke, M.H.S. & Bergman, B.|year=2009|title=Nitrogen fixation by epiphytic and epibenthic diazotrophs associated with seagrass meadows along the Tanzanian coast, Western Indian Ocean|journal=Aquat. Microb. Ecol.|volume=57|pages=33-42|doi=10.3354/ame01323}}</ref><ref name="Uku2007">{{cite journal|author=Uku, J., Bjork, M., Bergman, B. & Diez, B.|year=2007|title=Characterization and com- parison of prokaryotic epiphytes associated with three East African seagrasses|journal=J. Phycol.|volume=43|pages=768-779|doi=10.1111/j.1529-8817.2007.00371.x}}</ref>、ウキクサ<ref name="Adams2000" />、[[イネ]]<ref name="Adams2000" />、[[ラン]] ([[吸水根]])<ref name="Tsavkelova2003">{{cite journal|author=Tsavkelova, E.A., Lobakova, E.S., Kolomeitseva, G.L., Cherdyntseva, T.A. & Netrusov, A.I.|year=2003|title=Associative cyanobacteria isolated from the roots of epiphytic orchids|journal=Microbiology|volume=72|pages=92-97|doi=10.1023/A:1022238309083}}</ref>の表面に藍藻が着生している例などが報告されている。

==人間との関わり==
===害===
[[富栄養]]湖沼において (特に夏期)、藍藻はときに大増殖して'''[[アオコ]]''' (青粉) とよばれる現象を引き起こす ([[#aoko|上記参照]])。アオコは様々な形で人間生活に害を与えることがある<ref name="Watanabe1994" /><ref name="Watson2003">{{cite journal|author=Watson, S.B.|year=2003|title=Cyanobacterial and eukaryotic algal odour compounds: signals or by-products? A review of their biological activity|journal=Phycologia|volume=42|pages=332-350|doi=}}</ref>。アオコは水面に形成されるため湖沼を遮光し、[[水草]]や他の[[植物プランクトン]]の生育を妨げる。また大量に発生したアオコの夜間における呼吸、およびアオコが死んだ際の分解によって酸素が消費され、湖沼が酸欠状態になり、水生生物が死ぬことがある。一部のアオコは[[2-メチルイソボルネオール]]や[[ゲオスミン]]などのカビ臭物質を産生し、問題となることがある。さらにアオコを形成する藍藻の中には、下記のような藍藻毒を産生するものもいる。

藍藻の中には毒 ([[シアノトキシン|'''藍藻毒、シアノトキシン''']] cyanotoxin) を生成するものがおり、家畜やヒトに被害が生じることもある<ref name="Sano2012">{{cite book|author=佐野 友春|year=2012|chapter=ラン藻の毒素 (ミクロシスチン、ノジュラリン)|editor=渡邉 信 (監)|title=藻類ハンドブック|publisher=エヌ・ティー・エス|isbn=978-4864690027|pages=243–249}}</ref><ref name="Kaya2012">{{cite book|author=彼谷 邦光|year=2012|chapter=ラン藻の毒素 (その他の毒素)|editor=渡邉 信 (監)|title=藻類ハンドブック|publisher=エヌ・ティー・エス|isbn=978-4864690027|pages=251–255}}</ref><ref name="Codd2005">Codd, G. A., Morrison, L. F. & Metcalf, J. S. (2005) Cyanobacterial toxins: risk management for health protection. ''Toxicology and Applied Pharmacology'' '''203''': 264-272.</ref><ref name="Jang2003">{{cite journal|author=Jang, M.H., Ha, K., Joo, G.J. & Takamura, N.|year=2003|title=Toxin production of cyanobacteria is increased by exposure to zooplankton|journal=Freshwater Biol.|volume=48|pages=1540-1550|doi=}}</ref><ref name="Wiegand2005">{{cite journal|author=Wiegand, C. & Pflugmacher, S.|year=2005|title=Ecotoxicological effects of selected cyanobacterial secondary metabolites a short review|journal=Toxicology and Applied Pharmacology|volume=203|pages=201-218|doi=}}</ref>。[[非リボソームペプチド]] ([[リボソーム]]における翻訳を介さない[[ペプチド]]) である[[ミクロシスチン]]や[[ノジュラリン]]は[[タンパク質ホスファターゼ]]を阻害し、肝臓毒となる。また[[アルカロイド]]であるアナトキシンや[[サキシトキシン]]はシナプスでの伝達を阻害する神経毒となる。

[[アクアリウム]]においては、水槽のガラス壁面に藍藻が繁茂する事がある。富栄養化が進んでしまった水槽や[[硝化作用|硝化菌]]のバランスが崩れた ([[硝酸]]が多くなる) 水槽でよく発生する。見栄えが悪く、悪臭を伴う。対策として、[[カダヤシ目]]の魚に藍藻を食べさせたり、市販されている藍藻を除去する薬剤の利用などがある。

===食用===
[[ファイル:Spirulina tablets.jpg|200px|thumb|right|スピルリナを使用した健康補助食品.]]
アフリカや中南米の湖沼で大発生する "[[スピルリナ]]" (古くは {{Snamei||Spirulina}} に分類されていたためこの名でよばれるが、現在では {{Snamei||Arthrospira}} に移されている) は現地では古くから食料として利用されていたが、現在では世界各地で大規模に培養され、流通している<ref name="Taroda2012">{{cite book|author=太郎田 博之|year=2012|chapter=スピルリナ|editor=渡邉 信 (監)|title=藻類ハンドブック|publisher=エヌ・ティー・エス|isbn=978-4864690027|pages=657–659}}</ref><ref name="Sili2012">{{cite book|author=Sili, C., Torzillo, G. & Vonshak, A.|year=2012|chapter=''Arthrospira'' (''Spirulina'')|editor=|title=Ecology of Cyanobacteria II|publisher=Springer Netherlands|isbn=978-94-007-3854-6|pages=677-705}}</ref>。最大の用途は健康食品であり、錠剤などの形で市販されている ('''右図''')。またスピルリナから抽出された光合成色素である[[フィコシアニン]]は、青い天然色素としてさまざまな食品に利用されている。さらにカロテノイドを含むため、[[錦鯉]]の色揚剤や熱帯魚用飼料に配合されている。

他にも、食用としての藍藻の利用が世界各地で散見される。[[髪菜]] ({{Snamei||Nostoc flagelliforme}}, ネンジュモ目) は中華料理の高級食材であり、内陸アジアの[[ステップ (植生)|ステップ]]地帯の地表に生育する<ref name="Alga2012">{{cite book|author=有賀 祐勝|year=2012|chapter=髪菜|editor=渡邉 信 (監)|title=藻類ハンドブック|publisher=エヌ・ティー・エス|isbn=978-4864690027|pages=655–656}}</ref>。上記のように、このような藍藻は土壌の安定化や植生発達に重要であり、髪菜の乱獲は表土流出など環境破壊を引き起こした。そのため2000年に髪菜の採取・販売が禁止されている。髪菜に近縁の葛仙米 ({{Snamei||Nostoc sphaeroides}}) や[[イシクラゲ]] ({{Snamei||Nostoc commune}}) は、日本、中国、南米などで食用とされることがある<ref name="Takenaka2012">{{cite book|author=竹中 裕行 & 山口 裕司|year=2012|chapter=ストック (イシクラゲ)|editor=渡邉 信 (監)|title=藻類ハンドブック|publisher=エヌ・ティー・エス|isbn=978-4864690027|pages=651–654}}</ref>。河川に生育する[[アシツキ]] ({{Snamei||Nostoc verrucosum}}) は日本で古くから食用とされ、[[万葉集]]にアシツキを採取する女性を詠んだ[[大伴家持]]の歌がある。[[スイゼンジノリ]] ({{Snamei||Aphanothece sacrum}}, クロオコックス目) は九州の湧水からのみ知られる藍藻である<ref name="Yoshida2012">{{cite book|author=吉田 忠生|year=2012|chapter=スイゼンジノリ|editor=渡邉 信 (監)|title=藻類ハンドブック|publisher=エヌ・ティー・エス|isbn=978-4864690027|pages=648–650}}</ref>。スイゼンジノリは懐石料理の高級食材として利用され、2017年現在、養殖が行われている。

このようにさまざまな藍藻が食用とされているが、上記のように毒素を生成する藍藻も多く知られている。野外の藍藻をむやみに食用とすることは危険であり、食用として流通しているもののみを対象とすべきである。

===その他===
藍藻は[[#窒素固定|窒素固定能]]をもつため、[[有機肥料]]として用いられることがある。[[アカウキクサ属|アカウキクサ類]] ([[シダ綱|薄嚢シダ類]]) は葉の内部に窒素固定能をもつ藍藻 ({{Snamei||Anabaena azollae}}) を共生させており ([[#symbiosis with phototroph|上記参照]])、水田の[[緑肥]]に利用されることがある<ref name="Watanabe1981">{{cite journal|author=渡辺 巌|year=1981|title=アカウキクサ-ラン藻の共生による生物的窒素固定とその利用|journal=日本土壌肥料学雑誌|volume=52|pages=455-464|doi=}}</ref>。

藍藻が生成するさまざまな生理活性物質<ref name="Hemscheidt1994">{{cite journal|author=Hemscheidt, T., Puglisi, M.P., Larsen, L.K., Patterson, G.M.L., Moore, R.E., Rios, J.L. & Clardy, J.|year=1994|title=Structure and biosynthesis of borophycin, a new boeseken complex of boric acid from a marine strain of the blue-green alga ''Nostoc linckia''|journal=J. Org. Chem.|volume=59|pages=3467-3471|doi=10.1021/jo00091a042}}</ref><ref name="Jensen2001">{{cite journal|author=Jensen, G. S.|year=2001|title=Blue-green algae as an immuno-enhancer and biomodulator|journal=J. Am. Nutraceutical Assoc.|volume=3|pages=24-30|doi=}}</ref><ref name="Choi2012">{{cite journal|author=Choi, H., Mascuch, S. J., Villa, F. A., Byrum, T., Teasdale, M. E., Smith, J. E., ... & Gerwick, W. H.|year=2012|title=Honaucins A−C, potent inhibitors of inflammation and bacterial quorum sensing: synthetic derivatives and structure-activity relationships|journal=Chemistry & Biology|volume=19|pages=589-598|doi=10.1016/j.chembiol.2012.03.014}}</ref>や、藍藻の細胞外被がもつ保水性、紫外線防御に関わる物質<ref name="De Philippis1998" /><ref name="Grewe2012">{{cite book|author=Grewe, C. B. & Pulz, O.|year=2012|chapter=The biotechnology of cyanobacteria|editor=|title=Ecology of Cyanobacteria II|publisher=Springer Netherlands|isbn=978-94-007-3854-6|pages=707-739}}</ref>に関して、利用に向けた研究が行われている。

藍藻を利用した再生可能エネルギーの研究も盛んに行われている<ref name="Hiura2017">{{cite journal|author=日原 由香子, 朝山 宗彦, 蘆田 弘樹, 天尾 豊, 新井 宗仁, 粟井 光一郎, ... & 蓮沼 誠久|year=2017|title=多彩な戦略で挑むシアノバクテリア由来の燃料生産|journal=化学と生物|volume=55|pages=88-97|doi=10.1271/kagakutoseibutsu.55.88}}</ref>。例えば光合成によってエタノールを産生できる遺伝子改変藍藻、つまり光合成によって二酸化炭素を直接エタノールに変換する藍藻が作出されている<ref name="Lane2013">{{cite journal|author=Lane, J.|year=2013|title=[http://www.biofuelsdigest.com/bdigest/2013/03/11/algenol-hits-9k-gallonsacre-mark-for-algae-to-ethanol-process/|Algenol hits 9K gallons/acre mark for algae-to-ethanol process]|journal=Biofuels Digest|volume=|pages=|doi=}}</ref>。また[[窒素固定]]の際に、副産物として水素が生成されるため、これを利用した水素生産が試みられている<ref name="Hiura2017" />。さらに、藍藻による光合成を直接電気に変換する研究も行われている<ref name="Pisciotta2010">{{cite journal|author=Pisciotta, J. M., Zou, Y. & Baskakov, I. V.|year=2010|title=Light-dependent electrogenic activity of cyanobacteria|journal=PloS One|volume=5|pages=e10821|doi=10.1371/journal.pone.0010821}}</ref><ref name="Quintana2011">{{cite journal|author=Quintana, N., Van der Kooy, F., Van de Rhee, M. D., Voshol, G. P. & Verpoorte, R.|year=2011|title=Renewable energy from Cyanobacteria: energy production optimization by metabolic pathway engineering|journal=Applied Microbiology and Biotechnology|volume=91|pages=471-490|doi=10.1007/s00253-011-3394-0}}</ref>。

[[火星]]の[[テラフォーミング]]への藍藻の利用も考えられている<ref name="Verseux2016">{{cite journal|author=Verseux, C., Baque, M., Lehto, K., de Vera, J. P. P., Rothschild, L. J. & Billi, D.|year=2016|title=Sustainable life support on Mars–the potential roles of cyanobacteria|journal=International Journal of Astrobiology|volume=15|pages=65-92|doi=10.1017/S147355041500021X}}</ref>。

==進化==
ゲノムレベルでの系統解析からは、[[細菌]]の中で、藍藻は[[クロロフレクサス門]]や[[デイノコックス・テルムス門]]、[[放線菌門]]、[[フィルミクテス門]]などに比較的近縁であることが示唆されており、これらを合わせて[[テッラバクテリア]] (Terrabacteria;上門レベルに相当) にまとめることが提唱されている<ref>{{cite journal|author=Battistuzzi, F. U. & Hedges, S. B.|year=2008|title=A major clade of prokaryotes with ancient adaptations to life on land|journal=Molecular Biology and Evolution|volume=26|pages=335-343|doi=10.1093/molbev/msn247}}</ref><ref>{{cite journal|author=Rinke, C., Schwientek, P., Sczyrba, A., Ivanova, N. N., Anderson, I. J., Cheng, J. F., ... & Dodsworth, J. A.|year=2013|title=Insights into the phylogeny and coding potential of microbial dark matter|journal=Nature|volume=499|pages=431-437|doi=10.1038/nature12352}}</ref>。

[[メタゲノミクス|メタゲノム研究]]により、動物の腸管や土壌、汚水、地下水など様々な環境から、藍藻に近縁な非光合成細菌の系統群がいくつか見つかっている<ref name="Soo2014">{{cite journal|author=Soo, R. M., Skennerton, C. T., Sekiguchi, Y., Imelfort, M., Paech, S. J., Dennis, P. G., ... & Hugenholtz, P.|year=2014|title=An expanded genomic representation of the phylum Cyanobacteria|journal=Genome Biology and Evolution|volume=6|pages=1031-1045|doi=10.1093/gbe/evu073}}</ref><ref name="Soo2017">{{cite journal|author=Soo, R. M., Hemp, J., Parks, D. H., Fischer, W. W. & Hugenholtz, P.|year=2017|title=On the origins of oxygenic photosynthesis and aerobic respiration in Cyanobacteria|journal=Science|volume=355|pages=1436-1440|doi=10.1126/science.aal3794}}</ref><ref name="Carnevali2019">{{cite journal|author=Carnevali, P. B. M., Schulz, F., Castelle, C. J., Kantor, R. S., Shih, P. M., Sharon, I., ... & Anantharaman, K.|year=2019|title=Hydrogen-based metabolism as an ancestral trait in lineages sibling to the Cyanobacteria|journal=Nature Communications|volume=10|pages=463|doi=10.1038/s41467-018-08246-y}}</ref>。このような系統群として、"マーギュリスバクテリア" ({{Sname||Margulisbacteria}})、"セーガンバクテリア" ({{Sname||Saganbacteria}})、"セリキトクロマチア" ({{Sname||Sericytochromatia}})、"[[メライナバクテリア]]" ({{Sname||Melainabacteria}}) がある。これらの細菌が光合成能の痕跡を全くもたないことから、藍藻の祖先が非光合成生物であり、その進化の比較的後期になってから、大規模な[[遺伝子の水平伝播|遺伝子水平伝播]]などによって急速に酸素発生型光合成能を獲得した、とする仮説が支持されている<ref name="Soo2017" /><ref name="Shih2017">{{cite journal|author=Shih, P. M., Hemp, J., Ward, L. M., Matzke, N. J. & Fischer, W. W.|year=2017|title=Crown group Oxyphotobacteria postdate the rise of oxygen|journal=Geobiology|volume=15|pages=19-29|doi=10.1111/gbi.12200}}</ref>。

[[ファイル:Stromatolitic metadolostone (Kona Dolomite, Paleoproterozoic, 2.2 to 2.3 Ga; Lindberg Quarry, Marquette, Upper Peninsula of Michigan, USA) (8363769094).jpg|200px|thumb|right|22–23億年前のストロマトライト (米国ミシガン州).]]

藍藻は、生物の進化において初めて (そして唯1回) 酸素発生型光合成能を獲得した生物群であると考えられている。藍藻と考えられる化石は約23〜27億年前の[[ストロマトライト]]化石に遡る<ref name="Yamamoto2013">{{cite journal|author=山本 純之 & 磯崎 行雄|year=2013|title=ストロマトライト研究の歴史と今後の展望|journal=地学雑誌|volume=122|pages=791-806|doi=10.5026/jgeography.122.791}}</ref><ref name="Lepot2008">{{cite journal|author=Lepot, K., Benzerara, K., Brown, G. E. & Philippot, P.|year=2008|title=Microbially influenced formation of 2,724-million-year-old stromatolites|journal=Nature Geoscience|volume=1|pages=118-121|doi=10.1038/ngeo107}}</ref> ('''右図''')。ストロマトライト様の化石はこれ以前 (〜35億年前) からも見つかるが<ref name="Schopf2006">{{cite journal|author=Schopf, J. W.|year=2006|title=Fossil evidence of Archaean life|journal=Phil. Trans. R. Soc. B|volume=361|pages=869-885|doi=10.1098/rstb.2006.1834}}</ref>、現在ではこれは非生物起源であると考えられている<ref name="Yamamoto2013" />。初期の藍藻が生成した[[酸素]]は、当初は海水中の鉄などを酸化し (その結果大規模な[[縞状鉄鉱床]]が形成され、現在利用される[[鉄鉱石]]の大部分はこれに由来する)、その後、海や大気中に放出されて地球が急速に酸化的環境に変化していった。この急速な変化は、'''大酸化事変''' (Great Oxygenation Event, GOE) とよばれる<ref name="Holland2006">{{cite journal|author=Holland, H. D.|year=2006|title=The oxygenation of the atmosphere and oceans|journal=Philosophical Transactions of the Royal Society: Biological Sciences|volume=361|pages=903-915|doi=10.1098/rstb.2006.1838}}</ref>。

藍藻の誕生によって地球環境は激変し (好気的環境、有機物安定的供給など)、現在の地球[[生態系]]の基礎が築かれた<ref name="Inouye2006" /><ref name="Tomitani2006">{{cite journal|author=Tomitani, A., Knoll, A. H., Cavanaugh, C. M. & Ohno, T.|year=2006|title=The evolutionary diversification of cyanobacteria: molecular-phylogenetic and paleontological perspectives|journal=Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.|volume=103|pages=5442-5447|doi=10.1073/pnas.0600999103}}</ref>。酸素発生型光合成生物は藍藻だけである時代が長く続いたが、その後 (ある研究では15億年以上前)、ある[[真核生物]]にある藍藻が[[細胞内共生説|細胞内共生]]し、やがてこの共生藍藻の増殖や代謝が[[宿主]]である真核生物に制御されるようになり、最終的に[[葉緑体]] ([[色素体]]) とよばれる[[細胞小器官]]へと変化した<ref name="Inouye2006" /><ref name="Archibald2009" /><ref>{{cite journal|author=Yoon, H. S., Hackett, J. D., Ciniglia, C., Pinto, G. & Bhattacharya, D.|year=2004|title=A molecular timeline for the origin of photosynthetic eukaryotes|journal=Molecular Biology and Evolution|volume=21|pages=809-818|doi=10.1093/molbev/msh075}}</ref>。この際、藍藻の[[細胞膜]]と[[外膜]]が色素体の2枚の膜になったと考えられている<ref>{{cite journal|author=Gould, S.B., Waller, R.F. & McFadden, G.I.|year=2008|title=Plastid evolution|journal=Annu. Rev. Plant Biol.|volume=59|pages=491-517|doi=10.1146/annurev.arplant.59.032607.092915}}</ref>。この現象は'''一次共生''' (primary endosymbiosis) とよばれ、これによって真核生物が酸素発生型光合成能を獲得した。生物の歴史の中で一次共生は唯1回の現象であったと考えられており、全ての葉緑体は単一の一次共生に由来する (その後、二次共生を経たものもある)。多数の遺伝子を用いた系統解析から、一次共生において共生者となった藍藻は、グロエオマルガリータ属 ({{Snamei||Gloeomargarita}}) という淡水産単細胞性藍藻に近縁な藍藻であったことが示唆されている<ref name="Ponce-Toledo2017">{{cite journal|author=Ponce-Toledo, R. I., Deschamps, P., López-García, P., Zivanovic, Y., Benzerara, K. & Moreira, D.|year=2017|title=An early-branching freshwater cyanobacterium at the origin of plastids|journal=Current Biology|volume=27|pages=386-391|doi=10.1016/j.cub.2016.11.056}}</ref>。

==分類==
古くは、藍藻は最も原始的な"植物"と考えられ、藍色植物門 ({{Sname||Cyanophyta}})、藍藻綱 ({{Sname||Cyanophyceae}}) に分類されていた<ref name="Pascher1931">{{cite journal|author=Pascher, A.|year=1931|title=Systematische Übersicht über die mit Flagellaten in Zusammenhang stehenden Algenreihen und Versuch einer Einreihung dieser Algenstämme in die Stämme des Pflanzenreiches|journal=Beihefte Bot Centralbl.|volume=48|pages=317-332|doi=}}</ref><ref>{{cite book|author=Round, F.E.|year=1973|title=The Biology of the Algae. 2nd Edition|journal=Edward Arnold Publishers|pages=278|isbn=}}</ref>。しかし葉緑体の共生説が一般的となり、藍藻と他の"植物"の直接的な類縁性は認められなくなった (ただし上記のように、細胞内共生・葉緑体を通してつながっている)。これらの分類群名は植物命名規約 (現 [[国際藻類・菌類・植物命名規約]]) に基づくものであり、原核生物である藍藻に対しては近年ではほとんど用いられない<ref group="注">ただし2019年現在、原核生物の分類体系では、藍藻を分類する一般的な綱レベルの分類群名がないため、藍藻綱 ({{Sname||Cyanophyceae}}) が暫定的に用いられることがある (例:, [https://www.algaebase.org/browse/taxonomy/?id=4351 AlgaeBase])。</ref>。また古くは、粘藻綱 ({{Sname||Myxophyceae}}) や分裂藻綱 ({{Sname||Schizophyceae}}) という分類群名が使われていたこともある<ref name="Pringsheim1949">{{cite journal|author=Pringsheim, E.G.|year=1949|title=The relationship between bacteria and Myxophyceae|journal=Bacteriological Reviews|volume=13|pages=47-98|doi=}}</ref>。

藍藻は[[原核生物]]であり、[[細菌]] (バクテリア、真正細菌) [[ドメイン (分類学)|ドメイン]]に属する。細菌の中では、藍藻は比較的独立した系統群を形成しており、'''シアノバクテリア門''' ('''藍色細菌門''')(学名:{{Sname||Cyanobacteria}}) として扱われる。[[メタゲノミクス|メタゲノム研究]]によって見つかった、藍藻に近縁な[[従属栄養生物|従属栄養性]]細菌群である"[[メライナバクテリア]]綱" ({{Sname||Melainabacteria}}) や"セリキトクロマチア綱" ({{Sname||Sericytochromatia}}) などは、シアノバクテリア門に含めて扱われることがあるが、その場合は光合成能をもつ藍藻はオキシフォトバクテリア綱 ({{Sname||Oxyphotobacteria}})<ref group="注" name="Oxyphotobacteria" /> にまとめられ、これらの非光合成細菌群と併置される<ref name="Soo2014" /><ref name="Soo2017" />。ただし、シアノバクテリア門を光合成性のグループのみに限る考えもある<ref>{{cite journal|author=Garcia‐Pichel, F., Zehr, J. P., Bhattacharya, D. & Pakrasi, H. B.|year=2019|title=What's in a name? The case of cyanobacteria|journal=Journal of Phycology|volume=|pages=|doi=10.1111/jpy.12934}}</ref>。

藍藻は分類学的には[[細菌]]として扱うべきであるが、ほとんどの学名は植物命名規約 (現 [[国際藻類・菌類・植物命名規約]]) に基づいて提唱されており、[[国際原核生物命名規約]]の基で提唱された学名は少ない<ref name="Oren2004">{{cite journal|author=Oren, A.|year=2004|title=A proposal for further integration of the cyanobacteria under the Bacteriological Code|journal=International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology|volume=54|pages=1895-1902|doi=10.1099/ijs.0.03008-0}}</ref>。

[[クロロフィル]] ''b'' をもつ藍藻 ([[原核緑藻]]) は、発見当初は原核緑色植物門 ({{Sname||Prochlorophyta}}) として藍藻とは別の門に分けられていた<ref name="Lewin1976">{{cite journal|author=Lewin, R. A.|year=1976|title=Prochlorophyta as a proposed new division of algae|journal=Nature|volume=261|pages=697-698|doi=10.1038/261697b0}}</ref>。しかしその後の研究から原核緑藻は系統的に藍藻に含まれることが示され、現在では分類群名として原核緑色植物門を用いることはない。ただし「原核緑藻 (prochlorophytes)」という語は、一般名としてはしばしば用いられる。

他の[[藻類]]と同様、藍藻はその体制 (おおまかな体のつくり) に基づいて分類され、いくつかの目に分けられてきた<ref name="Geitler1932" /><ref name="Anagnostidis1990">{{cite journal|author=Anagnostidis, K. & Komáreek, J.|year=1990|title=Modern approach to the classification system of cyanophytes. 1. Introduction|journal=Archiv für Hydrobiologie/Algological Studies|volume=38/39|pages=291-302|doi=}}</ref><ref name="Hoffmann2005" /> ('''下表''')。細菌の分類の基準となっていた「バージェイ細菌分類便覧 (Bergey’s Manual) 第2版」でも基本的には同じ体系が用いられていた<ref name="Castenholz1989" />。

{| class="wikitable" style="margin:0 auto; font-size:80%;"
|+ 古典的な藍藻の分類体系の一例<ref name="Hoek1995" /><ref name="Castenholz1989" />
! 目 !! バージェイ細菌分類便覧 第2版 での分類 !! 特徴 !! 代表属
|-
! クロオコックス目 (Chroococcales)<ref group="注">外生胞子 (エクソサイト) を形成するものはカマエシフォン目 (Chamaesiphonales) として分けられることもあった。</ref>
| subsection I || 単細胞または群体性 || {{Snamei||Synechococcus}}, {{Snamei||Synechocystis}}, {{Snamei||Chroococcus}}, {{Snamei||Aphanocapsa}}, {{Snamei||Coelosphaerium}}, {{Snamei||Merismopedia}}, {{Snamei||Microcystis}}
|-
! プレウロカプサ目 (Pleurocapsales)
| subsection II || 単細胞または群体性、内生胞子 (ベオサイト) 形成 || {{Snamei||Pleurocapsa}}, {{Snamei||Chroococcidiopsis}}, {{Snamei||Xenococcus}}
|-
! ユレモ目 (Oscillatoriales)
| subsection III || 糸状性、異質細胞を欠く || {{Snamei||Oscillatoria}}, {{Snamei||Phormidium}}, {{Snamei||Lyngbya}}, {{Snamei||Arthrospira}}, {{Snamei||Planktothrix}}, {{Snamei||Pseudanabaena}}
|-
! ネンジュモ目 (Nostocales)
| subsection IV || 糸状性 (真分枝なし)、異質細胞あり || {{Snamei||Anabaena}}, {{Snamei||Nostoc}}, {{Snamei||Aphanizomenon}}, {{Snamei||Cylindrospermum}}, {{Snamei||Calothrix}}, {{Snamei||Scytonema}}
|-
! スチゴネマ目 (Stigonematales)
| subsection V || 糸状性 (真分枝あり)、異質細胞あり || {{Snamei||Stigonema}}, {{Snamei||Hapalosiphon}}, {{Snamei||Fischerella}}
|}


しかし分子系統学的研究の結果、上記の分類群の多くは[[多系統]]群であることが判明しており、特に単細胞性と糸状性の間では頻繁な平行進化 (特に糸状体から単細胞体への進化) が起こったと考えられている<ref name="Schirrmeister2011">{{cite journal|author=Schirrmeister, B. E., Antonelli, A., Bagheri, H. C.|year=2011|title=The origin of multicellularity in cyanobacteria|journal=BMC Evol. Biol.|volume=11|pages=45|doi=10.1186/1471-2148-11-45}}</ref><ref name="Hoffmann2005">{{cite journal|author=Hoffmann, L., Komárek, J. & Kastovský, J.|year=2005|title=System of cyanoprokaryotes (cyanobacteria) - state in 2004|journal=Algological Studies|volume=117|pages=95-115|doi=10.1127/1864-1318/2005/0117-0095}}</ref>。2019年現在までに報告されている分子系統解析の結果に基づくシアノバクテリア門内の系統仮説の1つを下に示す。

{{cladogram
|caption='''藍藻の系統仮説の一例''' (基本的にゲノム塩基配列情報が明らかなもののみ). いくつかの系統解析結果に基づく<ref name="Ponce-Toledo2017" /><ref name="Mareš2019" /><ref name="Schirrmeister2015">{{cite journal|author=Schirrmeister, B. E., Gugger, M. & Donoghue, P. C.|year=2015|title=Cyanobacteria and the Great Oxidation Event: evidence from genes and fossils|journal=Palaeontology|volume=58|pages=769-785|doi=10.1111/pala.12178}}</ref><ref name="Shih2013">{{cite journal|author=Shih, P. M., Wu, D., Latifi, A., Axen, S. D., Fewer, D. P., Talla, E., ... & Herdman, M.|year=2013|title=Improving the coverage of the cyanobacterial phylum using diversity-driven genome sequencing|journal=Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.|volume=110|pages=1053-1058|doi=10.1073/pnas.1217107110}}</ref><ref name="Walter2017">{{cite journal|author=Walter, J. M., Coutinho, F. H., Dutilh, B. E., Swings, J., Thompson, F. L. & Thompson, C. C.|year=2017|title=Ecogenomics and taxonomy of Cyanobacteria phylum|journal=Frontiers in Microbiology|volume=8|pages=2132|doi=10.3389/fmicb.2017.02132}}</ref><ref name="Uyeda2016">{{cite journal|author=Uyeda, J. C., Harmon, L. J. & Blank, C. E.|year=2016|title=A comprehensive study of cyanobacterial morphological and ecological evolutionary dynamics through deep geologic time|journal=PloS One|volume=11|pages=e0162539|doi=10.1371/journal.pone.0162539}}</ref><ref name="Soo2017" />. <span style="color:darkcyan">●</span> = 単細胞・群体 (旧クロオコックス目)、<span style="color:darkcyan">▲</span> = 単細胞・群体、内生胞子あり (旧プレウロカプサ目)、<span style="color:darkcyan">■</span> = 糸状性 (旧ユレモ目)、<span style="color:darkcyan">★</span> = 糸状・異質細胞あり (旧ネンジュモ目・スチゴネマ目).
|align=center
|width=
|clades={{clade| style=font-size:80%;line-height:100%
|label1='''シアノバクテリア門'''
|1={{Clade
|label1=
|1="'''セリキトクロマチア綱'''"<ref group="注" name="heterotroph" />
|2={{Clade
|1="'''[[メライナバクテリア]]綱'''"<ref group="注" name="heterotroph" />
|label2='''オキシフォトバクテリア綱'''
|2={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">●</span>'''グロエオバクター目''' (''Gloeobacter'')
|2={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">●</span>'''クレード G''' (Octopus Spring clade) (e.g. ''"Synechococcus"'' PCC7336, JA-3-3Ab)
|2={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">●■</span>'''クレード F''' (e.g. ''Pseudanabaena'', ''"Synechococcus"'' PCC7502)
|2={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">●</span>'''グロエオマルガリータ目''' (''Gloeomargarita'')
|2='''[[葉緑体]]''' ([[色素体]])
}}
|3=<span style="color:darkcyan">●</span>'''クレード E''' (AcTh) (e.g. ''Acaryochloris'', ''Thermosynechococcus'')
|4=<span style="color:darkcyan">●■</span>''Prochlorothrix'' クレード (e.g. ''Nodosilinea, Lagosinema'', ''Prochlorothrix'')
|5=<span style="color:darkcyan">●</span>'''クレード C1''' (SynPro) (e.g. ''Prochlorococcus'', ''"Synechococcus"'' WH8102)
|6=<span style="color:darkcyan">●</span>'''クレード C2''' (''Synechococcus'' s.s.) (''Synechococcus elongatus'')
|7=<span style="color:darkcyan">●■</span>'''クレード C3''' (LPP-B) (e.g. ''"Synechococcus"'' PCC7335, ''"Phormidium"'' NIES-30)
|8={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">■</span>'''クレード D''' (e.g. ''"Geitlerinema"'' PCC 7407, ''Leptolyngbya'' PCC 6306)
|2={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">■</span>''Geitlerinema'' PCC 7105 クレード
|2=<span style="color:darkcyan">■</span>'''クレード A''' (Osc) (e.g. ''Trichodesmium'', ''Arthrospira'', ''Planktothrix'')
|3=<span style="color:darkcyan">●▲■</span>'''クレード B2''' (SPM) (e.g. ''Pleurocapsa'', ''Microcystis'', ''"Synechocystis"'' PCC 6803)
|4=<span style="color:darkcyan">■</span>''Moorea'' クレード
|5={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">●■</span>'''クレード B3''' (e.g. ''Crinalium'' PCC 9333, ''Chamaesiphon'' PCC 6605)
|2={{Clade
|1=<span style="color:darkcyan">●▲</span>'''クロオコッキディオプシス目''' (e.g. ''Chroococcidiopsis'', ''"Synechocystis"'' PCC 7509)
|2=<span style="color:darkcyan">★</span>'''[[ネンジュモ目]]'''
}}
}}
}}
}}
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}}
}}
{{-}}


2019年現在、このような系統関係を完全に反映させた分類体系は提唱されていない。また、分子系統解析が行われた藍藻は、いまだごく一部に限られている<ref name="Komárek2003a" />。そのため、藍藻の分類体系構築に関しては過渡的な状況にある。2019年現在、形態形質およに分子情報に基づく分類体系として、Komárek et al. (2014) をもとにした目レベルの分類体系を以下に示す<ref name="Komárek2014">{{cite journal|author=Komárek, J., Kaštovský, J., Mareš, J. & Johansen, J.R.|year=2014|title=Taxonomic classification of cyanoprokaryotes (cyanobacterial genera) 2014, using a polyphasic approach|journal=Preslia|volume=86|pages=295-335|doi=}}</ref><ref name="Guiry2019">Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2019) AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. http://www.algaebase.org; searched on 28 Septmber 2019.</ref><ref name="CyanoDB" />。また藍藻の分類においては、属レベルでも非単系統性 (ときに下記の分類体系において複数の目に分かれるほどの) が示されているものが少なくない ({{Snamei||Synechococcus}}、{{Snamei||Synechocystis}}、{{Snamei||Lyngbya}} など)<ref>{{cite journal|author=Komárek, J.|year=2018|title=Several problems of the polyphasic approach in the modern cyanobacterial system|journal=Hydrobiologia|volume=811|pages=7-17|doi=10.1007/s10750-017-3379-9}}</ref>。これらの属の一部に関しては、ゲノムレベルでの分子系統解析に基づいて多数の属に分けることが提唱されている<ref name="Walter2017" /><ref>{{cite journal|author=Coutinho, F., Tschoeke, D. A., Thompson, F. & Thompson, C.|year=2016|title=Comparative genomics of ''Synechococcus'' and proposal of the new genus ''Parasynechococcus''|journal=PeerJ|volume=4|pages=e1522|doi=10.7717/peerj.1522}}</ref>。
== アクアリウムにおける藍色細菌 ==
[[アクアリウム]]においては、水槽のガラス壁面に沿った形で繁殖する事が多い。富栄養化が進んでしまった水槽や硝化菌のバランスが崩れた([[硝酸]]が多くなる)水槽でよく発生する。外見も悪く悪臭を伴う。


{| class="wikitable"
対策として[[メダカ目]]の[[魚]]に食べさせたり、藍色細菌を除去する薬剤も販売されている。
|'''Komárek''' '''''et al.''''' '''(2014) による藍藻の分類体系'''<ref name="Komárek2014" /> (その後に報告されたグロエオマルガリータ目を付加)
* '''グロエオバクター目''' {{Sname||Gloeobacterales}} {{AUY|Cavalier-Smith|2002}}
*:単細胞性。[[チラコイド]]を欠く ([[光化学系]]は[[細胞膜]]に存在する)。藍藻の中で最も初期に分かれたものであることが示されている。グロエオバクター綱 ({{Sname||Gloeobacteria}}) として他の藍藻と分けられることがある<ref>{{cite journal|author=Oren, A.|year=2011|title=Cyanobacterial systematics and nomenclature as featured in the international bulletin of bacteriological nomenclature and taxonomy/international journal of systematic bacteriology/international journal of systematic and evolutionary microbiology|journal=International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology|volume=61|pages=10-15|doi=10.1099/ijs.0.018838-0}}</ref>。
*: '''代表属''':グロエオバクター属 ({{Snamei||Gloeobacter}})
*'''グロエオマルガリータ目''' {{Sname||Gloeomargaritales}} {{AUY|D.Moreira et al.|2017}}
*:単細胞性。細胞内に炭酸塩の顆粒を含む。アルカリ湖沼に生育。[[真核生物]]の[[色素体]] ([[葉緑体]]) に最も近縁な藍藻であることが示唆されている<ref name="Ponce-Toledo2017" />。シネココックス目に含めることもある<ref name="CyanoDB">Hauer, T. & Komárek, J. (2019) CyanoDB 2.0 - On-line database of cyanobacterial genera. - World-wide electronic publication, Univ. of South Bohemia & Inst. of Botany AS CR, http://www.cyanodb.cz</ref>。
*:'''代表属''':グロエオマルガリータ属 ({{Snamei||Gloeomargarita}})
* '''シネココックス目''' {{Sname||Synechococcales}} {{AUY|L.Hoffmann, J.Komárek & J.Kastovsky|2005}}
*:単細胞、群体または糸状性 (細いものが多い)。チラコイドは細胞膜に沿って同心円状に配置する。おそらく非単系統群であるが、藍藻の中で初期に分岐したものが多い。糸状性のものをプセウドアナベナ目 ({{Sname||Pseudanabaenales}}) として分けることがある<ref name="Hoffmann2005" /><ref name="Büdel2012">{{cite book|author=Büdel, B., & Kauff, F.|year=2012|chapter=Prokaryotic Algae, Bluegreen Algae|editor=Frey, W.|title=Syllabus of Plant Families. A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien Part 1/1|publisher=Borntraeger|isbn=978-3-443-01061-4|pages=5-40}}</ref>。
*:'''代表属''':シネココックス属 ({{Snamei||Synechococcus}})、シアノビウム属 ({{Snamei||Cyanobium}})、プロクロロコックス属 ({{Snamei||Prochlorococcus}})、アカリオクロリス属 ({{Snamei||Acaryochloris}})、シネコキスティス属 ({{Snamei||Synechocystis}})、メリスモペディア属 ({{Snamei||Merismopedia}})、コエロスファエリム属 ({{Snamei||Coelosphaerium}})、カマエシフォン属 ({{Snamei||Chamaesiphon}})、プセウドアナベナ属 ({{Snamei||Pseudanabaena}})、プロクロロスリックス属 ({{Snamei||Prochlorothrix}})、リムノスリックス属 ({{Snamei||Limnothrix}})、レプトリングビア属 ({{Snamei||Leptolyngbya}})
*'''ユレモ目''' {{Sname||Oscillatoriales}} {{AUY|Schaffner|1922}}
*:糸状性で比較的太いものが多い。単細胞性の種も含まれる。チラコイドは放射状または不規則に配置する。おそらく非単系統群。
*:'''代表属''':シアノテーセ属 ({{Snamei||Cyanothece}})、ユレモ属 ({{Snamei||Oscillatoria}})、フォルミディウム属 ({{Snamei||Phormidium}})、プランクトスリックス属 ({{Snamei||Planktothrix}})、アルスロスピラ属 ({{Snamei||Arthrospira}})、リングビア属 ({{Snamei||Lyngbya}})、ミクロコレウス属 ({{Snamei||Microcoleus}})、アイアカシオ属 ({{Snamei||Trichodesmium}})
*'''スピルリナ目''' {{Sname||Spirulinales}} {{AUY| J.Komárek, J.Kastovsky, J.Mares & J.R.Johansen|2014}}
*:糸状性。同心円状のチラコイド配置をもつことからシネココックス目に分類されていたが、同目の他の種とは系統的に離れているため独立の目とされた<ref name="Komárek2014" />。
*:'''代表属''':スピルリナ属 ({{Snamei||Spirulina}})<ref group="注">一般的に「スピルリナ」とよばれる藍藻は {{Snamei||Arthrospira}} に属する (この分類体系ではユレモ目)。</ref>、ハロスピルリナ属 ({{Snamei||Halospirulina}})
*'''クロオコックス目''' {{Sname||Chroococcales}} {{AUY|Schaffner|1922}}
*:単細胞または群体性。チラコイドは同心円状ではなく、多少とも不規則に配置。おそらく非単系統群。
*:'''代表属''':クロオコックス属 ({{Snamei||Chroococcus}})、シアノバクテリウム属 ({{Snamei||Cyanobacterium}})、ミクロキスティス属 ({{Snamei||Microcystis}})、クロログロエ属 ({{Snamei||Chlorogloea}})、ゴンフォスファエリア属 ({{Snamei||Gomphosphaeria}})、グロエオカプサ属 ({{Snamei||Gloeocapsa}})
*'''プレウロカプサ目''' {{Sname||Pleurocapsales}} {{AUY|Geitler|1925}}
*:単細胞または群体性。内生胞子 (ベオサイト) 形成を行う。チラコイドの配置は不規則。1つの系統群を形成するものが多いが、一部は系統的に離れており非単系統群。
*:'''代表属''':シアノキスティス属 ({{Snamei||Cyanocystis}})、ヒエラ属 ({{Snamei||Hyella}})、クセノコックス属 ({{Snamei||Xenococcus}})、プレウロカプサ属 ({{Snamei||Pleurocapsa}})
*'''クロオコッキディオプシス目''' {{Sname||Chroococcidiopsidales}} {{AUY|J.Komárek, J.Kastovsky, J.Mares & J.R.Johansen|2014}}
*:単細胞または群体性。内生胞子 (ベオサイト) 形成を行う。チラコイドの配置は不規則。プレウロカプサ目に分類されていたが、分子系統解析からネンジュモ目の姉妹群であることが示唆されている。
*:'''代表属''':クロオコッキディオプシス属 ({{Snamei||Chroococcidiopsis}})、アリテレラ属 ({{Snamei||Aliterella}})
*'''[[ネンジュモ目]]''' {{Sname||Nostocales}} {{AUY|Borzì|1914}}
*:糸状性 (無分枝、分枝)。異質細胞やアキネートを形成する。藍藻の中で明瞭な単系統群を形成する。伝統的に、真分枝するものはスチゴネマ目として分けられていたが、系統的にはネンジュモ目の中に含まれることが示されている。
*:'''代表属''':ネンジュモ属 ({{Snamei||Nostoc}})、アナベナ属 ({{Snamei||Anabaena}})、ドリコスペルマム属 ({{Snamei||Dolichospermum}})、アファニゾメノン属 ({{Snamei||Aphanizomenon}})、シリンドロスペルマム属 ({{Snamei||Cylindrospermum}})、トリポスリックス属 ({{Snamei||Tolypothrix}})、ミクロカエテ属 ({{Snamei||Microchaete}})、カロスリックス属 ({{Snamei||Calothrix}})、スキトネマ属 ({{Snamei||Scytonema}})、ハパロシフォン属 ({{Snamei||Hapalosiphon}})、スチゴネマ属 ({{Snamei||Stigonema}})
|}


== 脚注 ==
==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
===注釈===
{{Reflist|group="注"}}
===出典===
{{Reflist|2}}
{{Reflist|2}}


== 参考文献 ==
==関連項目==
*[[窒素固定]]
* {{Citation |和書 |editor=[[日本生態学会]] |title =生態学入門 |date=2004年8月26日 |publisher=[[東京化学同人]] |isbn=4-8079-0598-8 }}
*生態:[[植物プランクトン]]、[[ピコプランクトン]]、[[アオコ]]、[[ストロマトライト]]、[[温泉藻]]、[[クリオコナイト]]
*共生:[[地衣類]]、[[ゲオシフォン]]、[[ウスバゼニゴケ科]]、[[ツノゴケ類]]、[[アカウキクサ属]]、[[ソテツ類]]、[[グンネラ]]
*[[シアノトキシン]] (藍藻毒):[[ミクロシスチン]]、[[ノジュラリン]]、[[ミクロビリジン]]、[[サキシトキシン]]、[[リングビアトキシンA]]、[[アプリシアトキシン]]、[[デブロモアプリシアトキシン]]、[[モオレア・プロドゥケンス]]
*藍藻が生成するカビ臭物質:[[2-メチルイソボルネオール]]、[[ゲオスミン]]
*食用藍藻:[[スピルリナ]]、[[アステカ料理]]、[[スイゼンジノリ]]、[[アシツキ]]、[[髪菜]]、[[イシクラゲ]]


== 関連項目 ==
== 外部リンク ==
{{Commons category|Cyanobacteria}}
{{Commons category|Cyanobacteria}}
{{species|Cyanobacteria}}
{{Species|Cyanobacteria}}
*[https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/aoko/index.html 浮遊性藍藻データベース.] 国立科学博物館 植物研究部. (2019年11月22日閲覧)
* [[光合成細菌]]
*[https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/aoko-kids/index.html アオコをつくる藍藻.] 国立科学博物館 植物研究部. (2019年11月22日閲覧)
* [[ストロマトライト]]
*[http://natural-history.main.jp/Tree_of_life/Bacteria/Cyanobacteria.html シアノバクテリア門]. ''写真で見る生物の系統と分類.'' 生きもの好きの語る自然誌. (2019年11月22日閲覧)
* [[スイゼンジノリ]] - 食用の藍藻
*[http://plankton.image.coocan.jp/algae1.htm 藍藻]. ''ねこのしっぽ -小さな生物の観察記録-.'' (2019年11月22日閲覧)
* [[スピルリナ]] - 食用の藍藻
*[http://www.cyanodb.cz CyanoDB.] (英語)
* [[2-メチルイソボルネオール]]
*[https://www.algaebase.org/browse/taxonomy/?id=4305 Phylum: Cyanobacteria]. ''AlgaeBase.'' (英語)
* [[リングビア・マイユスクラ]]


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{{デフォルトソート:らんそう}}

2019年12月24日 (火) 04:58時点における版

シアノバクテリア門
生息年代: Paleoproterozoic–現世[1]
糸状性の藍藻
糸状藍藻の1種
分類
ドメイン : 細菌 Bacteria
: シアノバクテリア門 Cyanobacteria
学名
Cyanobacteria
Stanier ex Cavalier-Smith, 2002
和名
藍色細菌、藍藻、ラン藻
下位分類[注 3]

藍藻、ラン藻 (らんそう) (: blue-green algae) は、酸素発生を伴う光合成 (酸素発生型光合成) を行う細菌の一群、またはそれに属する生物のことである[注 4]。藍藻は、系統的には細菌ドメイン (真正細菌) に属する原核生物であり、他の藻類よりも大腸菌乳酸菌などに近縁である。そのため、生物学においてはシアノバクテリア (藍色細菌) (英: cyanobacteria, cyanoprokaryotes) とよばれることが多い[注 5]。単細胞、群体、または糸状体であり、多くは顕微鏡でなければ見えない大きさであるが、肉眼でも見える大きさの集塊を形成するものもいる。藍藻はその光合成色素のため青緑色 (藍色) をしていることが多く、学名や英名の「cyano-」はギリシア語で「青色」を意味する κυανός (kyanós) に由来する。

藍藻は、地球上に初めて現れた酸素発生型光合成生物であったと考えられている (およそ25〜30億年前)。藍藻の誕生によって地球環境は激変し (好気的環境、有機物の安定的供給など)、現在へとつながる生態系の基礎が築かれた[2]。この酸素発生型光合成能は、細胞内共生 (一次共生) を経て葉緑体の形で真核生物に受け継がれ、多様な真核藻類 (および陸上植物) のもとともなった。現在の地球環境でも、藍藻は海から淡水、陸上に広く生育し、生産者窒素固定者として生態系において重要な役割を担っている。またアオコ健康食品などの形で人間生活とも密接に関わっている。

分類学的には、シアノバクテリア門 (藍色細菌門) (学名: Cyanobacteria) に分類される。2019年現在、メタゲノム研究 (水などのサンプルから直接抽出したDNAに基づくゲノム研究であり、培養できない生物の性質を推定できる) から、藍藻に近縁であるが光合成能をもたない細菌群がいくつか見つかっている (メライナバクテリアなど)[3][4]。これらの細菌群も光合成を行う藍藻とともにシアノバクテリア門に分類されることがあるが、以下では主に光合成を行う藍藻についてのみ概説する。

体制

藍藻の中には、単細胞性、群体性、糸状性の種がいる[5][6][7][8][9][10] (下図)。藍藻の多くは肉眼では判別できない微細藻であるが、群体性や糸状性の藍藻の中には、肉眼で見えるほどの大きさになるものもいる。

藍藻に見られるさまざまな体制
Synechococcus PCC 7002
単細胞性
Merismopedia
群体性
無分枝糸状藍藻
無分枝糸状
Glorotrichia (1, 2) and Rivularia (3)
異極性糸状
Scytonema'
偽分枝糸状
Sirosiphon (1-3), Stigonema (4)
真分枝糸状
  • 単細胞性 (unicellular)
    体が1個の細胞からなる。細胞の形は球状や桿状のものが多く、また異極性 (heteropolarity; 基端と先端で形態が異なる) を示す種もいる (例:カマエシフォン属 Chamaesiphon)[9]
  • 群体性 (colonial)
    体が複数の細胞からなるが、細胞が密接していない、細胞の分化が見られないなど多細胞とは呼び難いもの (多分に伝統的な区分であり、明確な定義は難しい)。群体全体の形態は多様 (不定形、球形、多面体、シート状、ひも状など)[9]。また群体様式としては、多数の細胞が共通の粘液質に包まれたパルメラ状群体 (palmelloid colony) が多いが、他にも細胞が密着して塊状になるサルシナ状群体 (sarcinoid colony) や、分岐する粘液質の柄の先端にそれぞれ細胞が位置する樹状群体 (dendroid colony) などがある[9]
  • 糸状性 (filamentous)
    真分枝 (左) と偽分枝 (右)
    細胞が密接して列状に連なっているもの。伝統的に、糸状性の藍藻において細胞列をトリコーム (細胞糸 trichome)、1〜複数のトリコームが共通の外被に包まれたものを糸状体 (filament) とよぶ[10]。また多数のトリコームが共通の粘液質に包まれた巨視的な群体を形成するものもいる (例:イシクラゲ)。細胞が単列 (uniseriate) に並んでいるものが多いが、多列 (multiseriate) に並んでいるものもいる (例:スチゴネマ属 Stigonema) (上図)。トリコームの末端の細胞はふつう他の細胞とはやや異なる形をしており、特に先端が肥厚している場合はカリプトラ (頂冠 calyptra) とよばれる。一部の種では、トリコームが異極性を示す (上図)。例えばヒゲモ属 (Rivularia) などでは、トリコームの基部に異質細胞が存在し、トリコーム先端の細胞が細長く伸びている。この場合、基部の異質細胞で窒素固定、頂端部でリン吸収を行う[11] (つまり細胞間で形態分化とともに機能分化を示す)。トリコームは無分枝 (unbranching) であるものが多いが、一部は偽分枝または真分枝をする[10]偽分枝 (false branching) とは、トリコームの途中が分断し (ふつう細胞死による)、その一端または両端が細胞列から外れて伸長することによって形成された分枝様の構造のことである ()。一方、真分枝 (true branching) とは、トリコームを構成する細胞が2方向以上で分裂することによって形成された分枝である ()。分枝する種の中には、匍匐糸と直立糸の分化などの異糸性 (heterotrichous) を示すものもいる (例:Fischerella)。糸状性の藍藻は、しばしば (全てではない) 細胞分化 (先端の細胞、異糸性、異質細胞アキネートなど) や細胞死を伴う形態形成 (偽分枝、連鎖体形成など)、細胞間の連絡 (ペリプラズムの共有やセプトソーム) を示し、原核生物ではあるものの真の多細胞体ともいえる体をもつ場合がある[12][13]

細胞

藍藻の細胞は直径 1 µm 以下のこともあるが、原核生物としては大型のものが多く、直径 100 µm に達するものもいる[9]

細胞外被

典型的なグラム陰性細菌 (大腸菌など) と同様、藍藻の細胞壁は、ペプチドグリカン層 (peptideglycan layer) と、その外側を覆う外膜 (outer membrane) からなる[14]。ペプチドグリカン層は、アミノ糖であるNーアセチルグルコサミンとNーアセチルムラミン酸が交互に連なった糖鎖が、オリゴペプチドで架橋された物質であるペプチドグリカン (ムレイン murein) からなる。藍藻のペプチドグリカン層は、一般的なグラム陰性細菌のそれにくらべて厚いことが多く (12〜700 nm)、またオリゴペプチドの架橋が多い (グラム陽性細菌的な特徴)。ペプチドグリカン層が存在する細胞膜と外膜の間の空間は、ペリプラズム (periplasm) とよばれる。外膜は、細胞膜と同じく脂質二重層であるが、外側の層には糖鎖が結合した脂質 (リポ多糖 lipopolysaccharide, LPS) が含まれる。他のグラム陰性細菌ではリポ多糖は毒となることがあり (内毒素)、藍藻がもつ外膜のリポ多糖にもその可能性が指摘されている[15]

糸状性藍藻のトリコームでは、細胞列は共通の外膜に包まれており、またペプチドグリカン層を共有している[12]。細胞間には、ペプチドグリカン層を貫通して隣接する細胞の細胞膜同士をつなぐ連結構造 [セプトソーム (septosome、隔壁結合 septal junction、微細原形質連絡 microplasmodesmata)] が多数存在する[12][16][17]。セプトソームは長さ 25 nm、外径 15 nm、内径 6 nmほどであり、おそらく細胞間での低分子物質輸送に関与している[18]

Unicellular bacteria from a microbial mat
共通の粘液質に包まれた藍藻
Lyngbya
色素で色づいた鞘をもつ糸状藍藻

外膜の外側には、結晶性の糖タンパク質からなる層が存在することがあり、S層 (surface layer, S-layer) とよばれる[19][20][21]。このような糖タンパク質層は、細胞の保護、物質透過、接着、認識、運動、被食防御などに関与していると考えられている。さらに細胞は、タンパク質や細胞外多糖 (exopolysaccharide) からなる細胞外高分子物質 (extracellular polymeric substance, EPS) によって覆われることがある[14][22][23] (右図)。細胞外高分子物質は、その厚さや形態、性状に応じて、鞘 (sheath; 薄く緻密で光学顕微鏡下で明瞭な構造)、夾膜 (capsule; 厚く均質で輪郭が明瞭な構造)、粘液質 (slime; 細胞に沿った形を示さない不定形の構造) ともよばれる[24][25]。多数の個体が細胞外高分子物質からなる共通の基質に包まれ、群体やバイオフィルムを形成することもある。このような外被には、無機栄養分の貯蔵、乾燥耐性、紫外線耐性、浮力増大、被食防御などの機能があると考えられている[23][26][27][28]。細胞外高分子物質に含まれる紫外線吸収色素として、スキトネミン (scytonemin)[29]やグロエオカプシン (gloeocapsin)[30]、マイコスポリン様アミノ酸 (mycosporine-like amino acid, MAA)[31]などが知られている。また細胞外被が石灰化 (炭酸カルシウムが沈着) することがあり、おそらく光合成における二酸化炭素濃縮機構と関連している[32]。このような石灰化によって、ストロマトライトが形成されることがある[33]

細胞内構造

プロクロロコックス属の透過型電子顕微鏡像 (着色). チラコイドが同心円状に配置している (藍藻としては例外的にチラコイドが重なっている).

藍藻は原核生物であり、DNA核膜に包まれず、また葉緑体ミトコンドリアゴルジ体などの細胞小器官をもたない。細胞内で生体膜に包まれた構造としては、光合成における光化学反応の場であるチラコイドのみが存在する。チラコイドはふつう重なることなく、細胞内で同心円状 (右図)、放射状または不規則に配置する[34][35]。ふつうチラコイドには、フィコビリンタンパク質からなるフィコビリソームが付着している。一部の藍藻 (原核緑藻) はフィコビリソームを欠き、チラコイドが重なってラメラを形成している。藍藻では、酸素呼吸における呼吸鎖酵素もチラコイド上に存在することがある (一部の酵素を光化学系と共有する)[36]。最も初期に分かれた藍藻であるグロエオバクター属 (Gloeobacter) はチラコイドをもたず、光化学系は (呼吸鎖とともにパッチ状に) 細胞膜上に存在する[37]プロクロロン属 (Prochloron) では、チラコイドの一部が膨潤して液胞状になることがある[38]。チラコイドは、細胞膜と直接つながることはないと考えられていたが、現在では”チラコイド形成中心” (thylakoid center) が細胞膜上に存在することが示されている[39][40][41]。光学顕微鏡下では、チラコイドが存在する細胞周縁部が色付き、チラコイドを欠く中心域が淡色に見えることがあり、伝統的に前者を有色質 (chromoplasm)、後者を中心質 (centroplasm) とよぶ[42]。中心質にはふつうDNAが存在するため、この領域は核質 (nucleoplasm) ともよばれる (ただし藍藻の中には、DNAが細胞周縁部に存在する例もある[38])。

細胞内にはカルボキシソーム (carboxysome, polyhedral body) とよばれる直径200〜700 nm ほどのタンパク質顆粒が存在する[43][44]。カルボキシソームは主にルビスコ炭酸脱水酵素からなり、殻タンパク質で包まれている。カルボキシソームは、おそらく効率的な二酸化炭素濃縮機構に関わっており (重炭酸イオンから二酸化炭素を生成)、このため藍藻はほとんど光呼吸を示さない[43][45]。ただし、おそらく特異なグリコール酸代謝経路をもつ[46]。カルボキシソームは、炭素固定を行う他の細菌 (光合成細菌化学合成細菌) に見られることもある[47]

ふつう貯蔵多糖としてグリコーゲンが存在するが、α-1,6結合の分枝が少ないセミアミロペクチンアミロースをもつものもいる[48][49]。このような藍藻が貯蔵するα-グルカンは、藍藻デンプン (cyanophycean starch) ともよばれる。多くの藍藻は、アルギニンアスパラギン酸からなる非リボソームペプチドであるシアノフィシンの顆粒 (藍藻顆粒 cyanophycin granule) をもち、おそらく窒素貯蔵体としている[50]。ただし光合成に機能するフィコビリソームを窒素貯蔵体としていることもある[51] (窒素欠乏下ではフィコビリソームが分解され、これに由来する窒素を利用する)。細胞内には、油滴やポリリン酸体 (polyphosphate body; リン貯蔵体として機能) などもふつうみられる[52]。またβ-ヒドロキシブチレート重合体 (バイオプラスチックの一種)[52]炭酸カルシウム[53]を細胞内に貯めるものも知られている。

プランクトン性藍藻の中には、ガス胞 (gas vesicle) をもつものがいる[9][54][55]。ガス胞は細長い小胞であり、多数のガス胞が平行に密集して"エアロトープ" (aerotope, gas vacuole) を形成している。ガス胞の膜は脂質ではなく、タンパク質からなる。この膜は水を透過しないため、ガス胞は空気で満たされ比重が軽くなり、細胞は浮くことができる。つまりガス胞は細胞中の気泡のようなものであり、水と屈折率が異なるため光学顕微鏡下では目立つ (下図)。光合成産物の増加やイオン取り込みによって細胞内の膨圧が高くなるとガス胞はつぶれて細胞は沈降し、そこで光合成産物の消費やイオン排出によって膨圧が低下すると再びガス胞が膨らんで細胞は浮上する[56]。ガス胞は藍藻に特有の構造ではなく、他のプランクトン性原核生物に見られることもある[57]

光合成

藍藻は、酸素発生型光合成を行う唯一の原核生物群である。藍藻は2種類の光化学系 (光化学系IとII) をもつ点で、光合成を行う他の細菌 (非酸素発生型光合成を行う) とは異なる[6]緑色硫黄細菌 (クロロビウム門) やヘリオバクテリア (フィルミクテス門)は光化学系Iと相同な鉄硫黄型反応中心のみを、紅色細菌 (プロテオバクテリア門) や緑色滑走細菌 (クロロフレクサス門) は光化学系IIと相同なキノン型反応中心のみをもつ。直列した2種類の光化学系をもつことが、酸素発生型光合成 (水を分解する) を可能にしていると考えられている。

知られている限り、全ての藍藻は酸素発生型光合成を行う。ただし好気環境下では酸素発生型光合成を行うが、嫌気環境下では非酸素発生型光合成 (光化学系Iを使用し、硫化水素を電子供与体として硫黄を生成) を行う例が知られている[58][59]。また連続暗黒下でも、有機物を利用した従属栄養を行って生育可能な種 (通性光独立栄養性) もいる[60]Synechocystis sp. PCC 6803 など従属栄養能をもつ藍藻は、光合成遺伝子の変異が致死的にならないため (光合成しなくても生きていける)、光合成研究のモデル生物として広く用いられている。またメタゲノム研究 (海水などの環境から直接抽出したDNAをもとにしたゲノム解析) から、光合成能を含め代謝的に不完全 (光化学系II、ルビスコクエン酸回路などの欠失) な藍藻 (UCYN-A, unicellular cyanobacteria group A) の存在が示されているが、これは他生物に共生して栄養的に依存して生きているものと考えられている[61][62]。古くは「無色の藍藻」が報告されているが[63]、少なくともその一部は全く別の細菌群に属することが明らかとなっている (例:ベッギアトア属)。

ほとんどの藍藻は、クロロフィル a をもつ。また一部の藍藻は、クロロフィル a に加えて、クロロフィル bd、または f をもつ[64][65][66]。クロロフィル df は生物の中で一部の藍藻のみがもつ色素であり、人間の目には見えない近赤外光を光合成に利用できる。クロロフィル b (または類似色素) をもつ藍藻は、原核緑藻ともよばれる。原核緑藻のプロクロロコックス属 (Prochlorococcus) はクロロフィル a の代わりにジビニルクロロフィル a をもつ点で特異な存在であり、光合成の反応中心でジビニルクロロフィル a を用いる唯一の生物である[67][68]。またアカリオクロリス属 (Acaryochloris) はクロロフィル a 量が少なく、反応中心でクロロフィル d を用いている[69]

The photograph shows a series of cultures of different strains of cyanobacteria from the genera Prochlorococcus and Synechococcus. The different strains show a wide range of coloration, indicating their differing combinations of pigments for photosynthesis.
さまざまな色のピコプランクトン性藍藻. 左から2, 3番目がプロクロロコックス属 (原核緑藻)、残りはシネココックス属. この色の違いは主にフィコビリンの有無や種類、量比による.
Schematic of a hemi-discoidal phycobilisome.
フィコビリソームの模式図. 中央にアロフィコシアニンが位置し、そこからフィコシアニン (青)、フィコエリスリン (赤) からなるロッドが伸びている.

ほとんどの藍藻は、光合成アンテナ色素タンパク質であるフィコビリンタンパク質をもつ。藍藻において、フィコビリンタンパク質はフィコビリソームを形成し、チラコイドに付着している[70][71]。フィコビリソームの中央にはアロフィコシアニンからなるコアが位置し、そこからフィコシアニンとフィコエリスリン (後者を欠くこともある) からなるロッドが伸びている (右図)。ふつう青色のフィコシアニンの割合が多いため、「藍藻」の名が示すように青緑色を呈する。しかし中には赤色のフィコエリスリンを多くもつため、紫〜赤色を呈する種もいる (右図)。またフィコエリスリンの代わりにフィコエリスロシアニンをもつものもいる[72]原核緑藻とよばれる藍藻はフィコビリンをほとんどもたないため、クロロフィルの色である緑色がそのまま見える (右図)。

藍藻の中には、光の質 (波長) に応じてフィコシアニン:フィコエリスリン比を変化させるものもいる[73]。例えば緑色光下ではフィコエリスリンが増加、赤色光下でフィコシアニンが増加し、それぞれの波長の光を効率的に吸収できるようになり、それに応じて藻体の色が変化する。この反応は補色馴化 (complementary chromatic acclimation)[注 6] とよばれる。またフィコビリンタンパク質の発色団となるビリン色素 (フィコシアノビリンなど) は、光受容体であるフィトクロムやシアノバクテリオクロム (走光性や補色馴化のセンサーとなる) の発色団としても用いられている[74][75]

藍藻がもつカロテノイドとしては、β-カロテンゼアキサンチン、エキネノン、ミクソキサントフィル (ミクソール配糖体) が一般的だが、α-カロテンカンタキサンチン、ノストキサンチン、オシラキサンチン (オシロール配糖体) などをもつものも報告されている[76]

藍藻のルビスコ (リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ) には2タイプが知られる。多くの藍藻は、緑色植物などがもつものと相同な Form IB ルビスコをもつ。このような藍藻は β-シアノバクテリア、Form IB ルビスコからなるカルボキシソームは β-カルボキシソーム とよばれる[43]。一方、一部の藍藻 (プロクロロコックス属など) は、一部のプロテオバクテリアのものと相同な Form IA ルビスコをもつ (おそらく遺伝子水平伝播による)。このような藍藻は α-シアノバクテリア、Form IA ルビスコからなるカルボキシソームは α-カルボキシソーム とよばれる[43]

藍藻において、酸素呼吸電子伝達系 (呼吸鎖) は細胞膜やチラコイドに存在し、後者の場合は、光合成の光化学系とタンパク質を一部共有している (プラストキノン)[77]。また酸素呼吸におけるクエン酸回路 (TCA回路) のオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼを欠いており、この部分を別の酵素によって代謝している[78]

窒素固定

窒素は、タンパク質核酸の原料として全ての生物にとって必須な元素である。窒素は窒素分子の形 (N2) で空気中に大量に存在するが、全ての真核生物を含む多くの生物は、窒素分子を直接利用することはできない。しかし原核生物の中には、窒素分子をアンモニアに変換できるものがおり、この反応は窒素固定 (nitrogen fixation) とよばれる。藍藻の中にも窒素固定が可能なものがおり、生態系において重要な役割を担っている (他の生物が利用可能な窒素栄養分の供給)[79][80][81]。窒素を固定する酵素であるニトロゲナーゼ酸素に弱いため、酸素発生型光合成と窒素固定を1つの細胞で同時に行うことはできない。それに対応して、藍藻は以下のように光合成と窒素固定を分けて行っている。

ドリコスペルマム属 (ネンジュモ目). 中央付近にある大きな異質細胞 (両端に極節が見える) と、ガス胞 (細胞内の黒い顆粒として見える) を含む栄養細胞からなる.

一部の藍藻では、光が当たる日中に光合成を行い、光がない夜間に窒素固定を行う[82][83]。糸状性のアイアカシオ属 (Trichodesmium) では、窒素固定を行う細胞 (diazocyte) とふつうの栄養細胞が分化しており、光合成と窒素固定を同時に異なる細胞で行うことが可能になっている[84][85]。この例では細胞の形態的分化は顕著ではないが、ネンジュモ目の藍藻は、異質細胞 (heterocyte, ヘテロシスト heterocyst[注 7]) とよばれる形態的にも極めて特殊化した窒素固定用の細胞を形成する[12][86][87] (右図)。異質細胞は光化学系の一部を欠くため細胞内に酸素が発生せず、また酸素を通さない厚い細胞壁で囲まれている。隣接する栄養細胞と接する部分では、異質細胞の細胞質は極めて細くなっており、またその部分にはときに光学顕微鏡で確認できる程の大きなシアノフィシン顆粒 (極節 polar nodule) が存在する。異質細胞で固定された窒素はグルタミンの形で隣接細胞へ輸送され、隣接細胞からはその材料であるグルタミン酸やエネルギー源である (窒素固定は大量のATPを消費する) が供給される。異質細胞は通常の栄養細胞から分化するが、種によってその位置や間隔はほぼ一定であり、重要な分類形質となっている。異質細胞が分泌するペプチドによって周囲の細胞が異質細胞になることが抑制され、これによって異質細胞の間隔が一定になる例が知られている。

ゲノム

他の原核生物と同様、藍藻は環状DNAからなるゲノムをもち、また本来のゲノムDNAに加えて、小さな環状DNA (プラスミド) をもつこともある。ただし一般的な原核生物とは異なり、多くの場合ゲノム (環状DNA分子) が複数コピー存在する[88]。多くの藍藻でゲノム塩基配列が報告されており、特に Synechocystis sp. PCC 6803 は生物として4番目、酸素発生型光合成生物として初めてゲノムが解読された[89]。知られているものの中では、ゲノムサイズは 1.7〜9 Mbp (Mbp = 百万塩基対) ほどであり (さらにおそらく 15 Mbp に達するものもいる[90])、1,700〜7,000個ほどの遺伝子をもつ。この中には、一部の真核生物のゲノムより大きく多数の遺伝子をもつものもいる。

藍藻は、真核藻類にくらべて形質転換など分子遺伝学的解析が比較的容易なものが多く、光合成研究などのモデル生物として広く用いられている[91]。よく用いられる藍藻として、Synechocystis sp. PCC 6803、Thermosynechococcus elongatusSynechococcus elongatus PCC 6301、Cyanothece sp. ATCC 51142、Anabaena sp. PCC7120、Nostoc punctiforme などがある (PCC, ATCC は株保存施設の略号)。

運動

糸状藍藻の運動.

藍藻は鞭毛 (細菌型) をもたないが、細胞外被 (S層) の糖タンパク質による遊泳運動や、線毛による匍匐運動を行うものが知られている[26][92][93]。また藍藻において最もよく知られた運動は、多くの糸状性藍藻が示す滑走運動 (gliding movement) である。直線的な運動だけではなく、トリコームが揺れたりする運動もよく見られ (右図)、ユレモ属 (Oscillatoria) の和名、学名ともこの姿に由来する (oscillatio = 振動)。この運動は粘液多糖の噴射または糖タンパク質性外被 (S層) が関係していると考えられている[14]

また藍藻からは、シアノバクテリオクロム (cyanobacteriochrome) やフラビン結合タンパク質、細菌型ロドプシンなどさまざまな光受容体が見つかっている[73][94][95]。このような光受容体は、走光性光屈性補色馴化、細胞分化など光によって制御される現象に関わっている。

生殖

Prochlorococcus MED4
二分裂中のプロクロロコックス属 (透過型電子顕微鏡像).
A Transmission Electron Microscope Image of the Synechococcus Phage S-PM2
シアノファージ (透過型電子顕微鏡像).

藍藻は基本的に二分裂によって増殖 (右図)、または群体や糸状体の成長を行い、群体や糸状体はその分断化によって増殖する。一部の種は、外生胞子 (exospore, エクソサイト exocyte) や内生胞子 (endospore, ベオサイト baeocyte) を形成して無性生殖を行う[9][10]

糸状性の藍藻では、ときに単純な分断化、または細胞死による隔盤 (separation disc, necridium) 形成によって糸状体の一部が切り離され、連鎖体 (ホルモゴニア;hormogonium, 複 hormogonia) とよばれる短い細胞糸が形成される[96]。連鎖体は走光性、滑走運動能、またはガス胞などをもち、散布体として機能する[97]

ネンジュモ目の種は、特殊化した休眠細胞であるアキネート (akinete) を形成することがある[98]。アキネートには異質細胞と共通する特徴 (細胞壁成分、光化学系IIの非発現、スーパーオキシドジスムターゼの低活性など) があり、その分化には共通のシステムがあると考えられている[99]

藍藻は原核生物であり、有性生殖は行わない。ただし、外界のDNAを取り込むことや (形質転換)、ウイルス (藍藻のウイルスは特にシアノファージ cyanophage とよばれる) (右図) によるDNA注入 (形質導入) によって、遺伝子水平伝播が頻繁に起こっていることが示唆されている[100]

生態

藍藻は淡水、さらに陸上環境にも広く生育しており、藍藻がいない環境を探すのは難しい[9][101][102]。量的にも多く、その生物量は10億トンに達するとの試算もある[103]。一般的に、真核藻類にくらべて温度、pHが高い環境を好む傾向があるが[104]、低温[105]や酸性環境[106]に生育する藍藻も少なくない。また真核藻類にくらべて、低照度で生育可能なものが多い[107]

貧栄養の海域 (つまり沿岸域や高緯度地域を除く多くの海域) では、ピコプランクトン性 (直径 2 µm 以下) の藍藻 (シネココックス属 Synechococcus やプロクロロコックス属)[注 8] が主要な生産者となっていることが多い[108][109][110] (下図)。このような環境では、表層から真光層下部 (水深 200 m 付近) まで、それぞれの光条件に適応したピコプランクトン性藍藻がすみ分けている[100]。このようなピコプランクトン性藍藻は地球上で最も個体数が多い生物だと考えられており、シネココックス属で年平均 7.0 × 1026 細胞、プロクロロコックス属で年平均 2.9 × 1027 細胞と試算され、その純一次生産量は 12 Gt 炭素/年、海洋の全純一次生産量の25.2%に達すると推定されている[111]。また貧栄養の湖沼でも、しばしばピコプランクトン性藍藻が優占する[112]。熱帯海域 (特に紅海や南太平洋) では、糸状性藍藻のアイアカシオ属 (Trichodesmium) がときに多く、赤潮を形成することがある[85] (下図)。

Photosynthetic picoplankton from the Pacific Ocean (off the Marquesas islands observed by epifluorescence microscopy (blue exciting light). Orange fluorescing dots correspond to Synechocococus cyanobacteria, red fluorescing dots to picoeukaryotes. Larger cells (e.g. diatom, upper right) can also be seen.
南太平洋マルキーズ諸島沖サンプルの蛍光顕微鏡像. 黄色はピコプランクトン性藍藻、赤は真核藻類の葉緑体.
Vertical distribution of the photosynthetic picoplankton populations determined by flow cytometry in the tropical Pacific (OLIPAC cruise, 1994).
熱帯太平洋におけるピコプランクトンの深度分布. 赤 = プロクロロコックス属、緑 = シネココックス属、茶 = 真核ピコプランクトン.
Bacterial bloom south of Fiji on October 18, 2010. Though it is impossible to identify the species from space, it is likely that the yellow-green filaments are miles-long colonies of Trichodesmium, a form of cyanobacteria often found in tropical waters.
おそらくアイアカシオ属の赤潮 (緑色の部分) の衛星写真 (フィジー付近).
Trichodesmium bloom off Great Barrier Reef.
大発生したアイアカシオ属 (グレートバリアリーフ).
富栄養の湖沼では、ミクロキスティス属 (Microcystis)、ドリコスペルマム属 (Dorychospermum)[注 9]、アファニゾメノン属 (Aphanizomenon)、プランクトスリックス属 (Planktothrix) などのプランクトン性藍藻が大増殖することがある[113] (下図)。このような藍藻が大増殖すると、水面に青緑色の粉をまいたようになるため、アオコ (青粉) とよばれる。このような藍藻の増減には、さまざまな環境要因とともに、他の藻類との競争、シアノファージ (藍藻のウィルス) や殺藻菌、藍藻を捕食する生物などが関わっている[114][115][116]。一方で、貧栄養の湖沼で大発生する藍藻も知られている (Planktothrix rubescens, 下図)。この種は従属栄養能をもつため、貧栄養でも増殖できる[117]
アオコが大発生して、湖水が黄緑色に染まった津久井湖.
アオコが発生した津久井湖 (9月).
Bloom of cyanobacteria in a freshwater pond. This accumulation in one corner of the pond was caused by wind drift. It looked as if someone had dumped a bucket color into the water.
水面にマットを形成しているアオコ (ドイツ、7月).
アオコと死んだ魚.
アオコと死んだ魚 (フランス、8月).
Nature reserve "Allgäuer Hochalpen" (NSG 00400.01): At an altitude of about 1800 m, the Schneck is behind the photographer. The valley in front belongs to the Stierbach in the upper Bärgündele valley. In the background the arêtes and summits of Kreuzkopf and Wiedemer Kopf can be seen. The little pond is reddish brown due to an algal bloom, caused by Planktothrix rubescens. That species of cyanobacteria prefers clear, standing water, which is poor in nutrients.
中央の池はP. rubescensの大増殖によって茶色く染まっている (ドイツ、7月).

海でも淡水でも底生性の藍藻は多く、しばしばバイオフィルムを形成して基質表面を覆っている[118] (下図)。沿岸岩礁域の潮間帯潮上帯でも、付着性の藍藻がペンキのようにべったりと岩を覆っていることがある。またオーストラリアシャーク湾など塩分濃度が高い浅瀬では、植食動物がいないため底生性藍藻の群落が発達し、層状構造をもつドーム状構造であるストロマトライト (stromatolite) を形成する[33] (下図)。ストロマトライトに似るが、貝殻などを核に球状に形成されたものをオンコライト (oncolite) という[119]

Cyanobacterial mat at Shelenyat Reef, Red Sea, Egypt.
海底の藍藻マット (紅海、Shelenyat Reef).
Modern cyanobacterial-algal mat, salty lake on the White Sea seaside.
北極海塩湖岸の藍藻マット.
Stromatolites growing in Hamelin Pool Marine Nature Reserve, Shark Bay in Western Australia.
ストロマトライト (オーストラリア、シャーク湾).

藍藻は土壌や岩石表面など陸域にも多く、極地から熱帯まで広く分布している (下図)。変水性 (体内の水分量が大きく変動しても、つまり乾燥しても仮死状態で生存し、再び水が得られると急速に復活する性質) による高い乾燥耐性を示すものもおり、100年近く乾燥状態に置かれたものが復活したとの報告もある[120]。土壌表層では藍藻が土壌クラスト (soil crust) を形成し (下図)、土壌の安定化や窒素栄養分の供給を行うため、特に砂漠や荒野での植生遷移の初期段階において重要な働きを果たすことがある[101][102]。藍藻の中には、岩石内生 (岩の中に生育) のものもおり、砂漠や極地からも見つかっている。

イシクラゲ
地表に生育するイシクラゲ (Nostoc commune).
Biological soil crust, Saguaro National Park (RMD), Arizona.
藍藻を含む土壌クラスト (米国アリゾナ州).
The orange and brown color at the edge are due to the cyanobacteria Phormidium, Synechococcus, and Calothrix.
複数種の好熱性藍藻が水温に対応した帯状分布している (イエローストーン国立公園).
A crevasse created by water drilling a hole tens of meters deep into the glacier ice. Our skidoo guide inspects the crack. Langjökull glacier. July 2006.
氷河上の藍藻 (黒色の部分) (アイスランド).

温泉 (特にアルカリ性〜中性) に生育する好熱性の藍藻も知られており (温泉藻)[101][102]、このような場所では温度に応じて複数種の藍藻が帯状分布を示すこともある (上図)。中には 70°C 以上の高温に耐えるものや至適増殖温度が 60°C 近いものもいる。一方、雪や氷上、北極や南極のような低温環境下に多く見られる藍藻もいる[105][118] (上図)。氷河上で粒子状に成長した藍藻はクリオコナイト (cryoconite) とよばれ、黒っぽい色のため熱を吸収し氷河上に穴 (クリオコナイトホール) を形成する。また塩湖のような塩分濃度が高い環境に生育するものもおり、浸透圧調節物質 (グルコシルグリセロール、グリシントリメチルグリシンなど) の蓄積などによって高浸透圧に対応している[121]

共生

foliose lichen containig cyanobacteria
イワノリ科の1種 (子嚢菌門) は藍藻を共生者とする地衣類である.
Ornithocercus magnificus from the Bay of Villefranche on Feb 18th 2014. The little orange balls are symbiotic cyanobacteria. Lugol's-fixed specimen, Z-stack of images made using a 40x objective and DIC optics.
藍藻 (上部に集積している赤褐色の顆粒) を共生させたヒレカンムリムシ属 (渦鞭毛藻綱).

藍藻の中には、他の生物と共生しているものも少なくない[122][123][124][125][126][127]。このような共生者である藍藻は、シアノビオント (cyanobiont) とよばれることがある。

地衣類の多くは緑藻を共生者としているが、地衣の 8% 程の種は藍藻を共生者としており、特にこのような地衣は藍藻地衣 (cyanolichen) ともよばれる[124][128] (右図)。藍藻地衣では藍藻が細胞外共生しているが、ゲオシフォン (Geosiphon) (菌根菌として重要なグループであるグロムス綱に属する) では、藍藻 (Nostoc punctiforme) が細胞内共生している[124][129][130][131]。これらの例では、藍藻が光合成産物 (有機物) を宿主に供給し、宿主からは好適な生育環境を得ていると考えられている。同じような関係にあるものとして、海綿[132]等脚類[133]ホヤ[134]放散虫[135][136]有孔虫[137]繊毛虫[135][136]渦鞭毛藻[135][136][138][139] (右図) などに藍藻が細胞外または細胞内共生している例が知られる。このような藍藻の中には、ホヤに共生するプロクロロン属 (Prochloron) のように宿主体外では生育できない絶対共生性のものもいる。

細胞内共生した藍藻が細胞小器官となった例もある。葉緑体 (色素体) は、太古に細胞内共生した藍藻に起源をもつが、現在ではこの藍藻は自立能を失い、完全に宿主に制御された細胞小器官となっている[2][140]。有殻糸状仮足アメーバであるビンカムリ類 (Paulinella spp.) (ケルコゾア門) は、葉緑体とは起源が異なる (より新しい) 藍藻との細胞内共生に由来する構造 (クロマトフォア chromatophore とよばれる) をもつ。この構造も既に宿主と不可分の存在であり、細胞小器官化したものであることが明らかとなっている[141]

アカウキクサ
アカウキクサ (薄嚢シダ) の葉には藍藻が共生している.
Cycas thouarsii's coralline roots harbour nitrogen-fixing cyanobacteria.
ソテツ属のサンゴ状根 (内部に藍藻が共生).
光合成生物に藍藻が共生している例も知られている。このような共生では、藍藻が窒素固定によって生成した窒素化合物を宿主に与えている[123][142]。藍藻が共生している陸上植物として、ウスバゼニゴケ科[143] (苔類)、ツノゴケ類[143]アカウキクサ属[144][145] (薄曩シダ) (右図)、ソテツ類[146] (右図)、グンネラ[147][148] (被子植物) などが知られている。これらの中には、藍藻の感染を促進するために植物が藍藻の連鎖体線毛形成を誘導する例が知れられている[92][123]。またアカウキクサ類の共生藍藻は宿主体外では生存不可な絶対共生性であり、宿主と共進化していることが知られている[123][145]。ソテツ類はいくつかの毒素をもつことが知られているが、このうち BMAA (β-methylamino-L-alanine) はソテツ自身が生成したものではなく、共生藍藻が生成したものであると考えられている[149]

水界でも、珪藻[150][125][151][152][153][154]ハプト藻[155][156]など光合成を行う藻類に藍藻が共生している例が知られている。ハフケイソウ科の珪藻に細胞内共生している藍藻は、既に自立能・光合成能を失い、楕円体 (spheroid body) とよばれる細胞小器官になっている[157]Braarudosphaera (ハプト藻) に共生する藍藻 (UCYN-A) も光合成能を含むいくつかの機能を欠いており、おそらく宿主に大きく依存している[61]

地衣類サンゴにおいては、主となる共生者 (それぞれ緑藻渦鞭毛藻) とともに、窒素固定を行う藍藻が共生している例が知られている[158][159]。これらの例では、光合成 (有機物供給) と窒素固定 (窒素栄養分供給) を共生者の間で分業していると考えられている。

上記の例にくらべて、共生関係が明瞭ではない、より「ゆるい」共生関係も知られている。そのような例として、藍藻群集中に子嚢菌が生育しているもの[128]や、藍藻と珪藻が密集していもの[160]海藻[161][162]シャジクモ類[163]蘚類[164][165]マングローブ植物[166]海草[167][168]、ウキクサ[122]イネ[122]ラン (吸水根)[169]の表面に藍藻が着生している例などが報告されている。

人間との関わり

富栄養湖沼において (特に夏期)、藍藻はときに大増殖してアオコ (青粉) とよばれる現象を引き起こす (上記参照)。アオコは様々な形で人間生活に害を与えることがある[113][170]。アオコは水面に形成されるため湖沼を遮光し、水草や他の植物プランクトンの生育を妨げる。また大量に発生したアオコの夜間における呼吸、およびアオコが死んだ際の分解によって酸素が消費され、湖沼が酸欠状態になり、水生生物が死ぬことがある。一部のアオコは2-メチルイソボルネオールゲオスミンなどのカビ臭物質を産生し、問題となることがある。さらにアオコを形成する藍藻の中には、下記のような藍藻毒を産生するものもいる。

藍藻の中には毒 (藍藻毒、シアノトキシン cyanotoxin) を生成するものがおり、家畜やヒトに被害が生じることもある[171][172][173][174][175]非リボソームペプチド (リボソームにおける翻訳を介さないペプチド) であるミクロシスチンノジュラリンタンパク質ホスファターゼを阻害し、肝臓毒となる。またアルカロイドであるアナトキシンやサキシトキシンはシナプスでの伝達を阻害する神経毒となる。

アクアリウムにおいては、水槽のガラス壁面に藍藻が繁茂する事がある。富栄養化が進んでしまった水槽や硝化菌のバランスが崩れた (硝酸が多くなる) 水槽でよく発生する。見栄えが悪く、悪臭を伴う。対策として、カダヤシ目の魚に藍藻を食べさせたり、市販されている藍藻を除去する薬剤の利用などがある。

食用

スピルリナを使用した健康補助食品.

アフリカや中南米の湖沼で大発生する "スピルリナ" (古くは Spirulina に分類されていたためこの名でよばれるが、現在では Arthrospira に移されている) は現地では古くから食料として利用されていたが、現在では世界各地で大規模に培養され、流通している[176][177]。最大の用途は健康食品であり、錠剤などの形で市販されている (右図)。またスピルリナから抽出された光合成色素であるフィコシアニンは、青い天然色素としてさまざまな食品に利用されている。さらにカロテノイドを含むため、錦鯉の色揚剤や熱帯魚用飼料に配合されている。

他にも、食用としての藍藻の利用が世界各地で散見される。髪菜 (Nostoc flagelliforme, ネンジュモ目) は中華料理の高級食材であり、内陸アジアのステップ地帯の地表に生育する[178]。上記のように、このような藍藻は土壌の安定化や植生発達に重要であり、髪菜の乱獲は表土流出など環境破壊を引き起こした。そのため2000年に髪菜の採取・販売が禁止されている。髪菜に近縁の葛仙米 (Nostoc sphaeroides) やイシクラゲ (Nostoc commune) は、日本、中国、南米などで食用とされることがある[179]。河川に生育するアシツキ (Nostoc verrucosum) は日本で古くから食用とされ、万葉集にアシツキを採取する女性を詠んだ大伴家持の歌がある。スイゼンジノリ (Aphanothece sacrum, クロオコックス目) は九州の湧水からのみ知られる藍藻である[180]。スイゼンジノリは懐石料理の高級食材として利用され、2017年現在、養殖が行われている。

このようにさまざまな藍藻が食用とされているが、上記のように毒素を生成する藍藻も多く知られている。野外の藍藻をむやみに食用とすることは危険であり、食用として流通しているもののみを対象とすべきである。

その他

藍藻は窒素固定能をもつため、有機肥料として用いられることがある。アカウキクサ類 (薄嚢シダ類) は葉の内部に窒素固定能をもつ藍藻 (Anabaena azollae) を共生させており (上記参照)、水田の緑肥に利用されることがある[181]

藍藻が生成するさまざまな生理活性物質[182][183][184]や、藍藻の細胞外被がもつ保水性、紫外線防御に関わる物質[24][185]に関して、利用に向けた研究が行われている。

藍藻を利用した再生可能エネルギーの研究も盛んに行われている[186]。例えば光合成によってエタノールを産生できる遺伝子改変藍藻、つまり光合成によって二酸化炭素を直接エタノールに変換する藍藻が作出されている[187]。また窒素固定の際に、副産物として水素が生成されるため、これを利用した水素生産が試みられている[186]。さらに、藍藻による光合成を直接電気に変換する研究も行われている[188][189]

火星テラフォーミングへの藍藻の利用も考えられている[190]

進化

ゲノムレベルでの系統解析からは、細菌の中で、藍藻はクロロフレクサス門デイノコックス・テルムス門放線菌門フィルミクテス門などに比較的近縁であることが示唆されており、これらを合わせてテッラバクテリア (Terrabacteria;上門レベルに相当) にまとめることが提唱されている[191][192]

メタゲノム研究により、動物の腸管や土壌、汚水、地下水など様々な環境から、藍藻に近縁な非光合成細菌の系統群がいくつか見つかっている[3][4][193]。このような系統群として、"マーギュリスバクテリア" (Margulisbacteria)、"セーガンバクテリア" (Saganbacteria)、"セリキトクロマチア" (Sericytochromatia)、"メライナバクテリア" (Melainabacteria) がある。これらの細菌が光合成能の痕跡を全くもたないことから、藍藻の祖先が非光合成生物であり、その進化の比較的後期になってから、大規模な遺伝子水平伝播などによって急速に酸素発生型光合成能を獲得した、とする仮説が支持されている[4][194]

22–23億年前のストロマトライト (米国ミシガン州).

藍藻は、生物の進化において初めて (そして唯1回) 酸素発生型光合成能を獲得した生物群であると考えられている。藍藻と考えられる化石は約23〜27億年前のストロマトライト化石に遡る[1][195] (右図)。ストロマトライト様の化石はこれ以前 (〜35億年前) からも見つかるが[196]、現在ではこれは非生物起源であると考えられている[1]。初期の藍藻が生成した酸素は、当初は海水中の鉄などを酸化し (その結果大規模な縞状鉄鉱床が形成され、現在利用される鉄鉱石の大部分はこれに由来する)、その後、海や大気中に放出されて地球が急速に酸化的環境に変化していった。この急速な変化は、大酸化事変 (Great Oxygenation Event, GOE) とよばれる[197]

藍藻の誕生によって地球環境は激変し (好気的環境、有機物安定的供給など)、現在の地球生態系の基礎が築かれた[2][198]。酸素発生型光合成生物は藍藻だけである時代が長く続いたが、その後 (ある研究では15億年以上前)、ある真核生物にある藍藻が細胞内共生し、やがてこの共生藍藻の増殖や代謝が宿主である真核生物に制御されるようになり、最終的に葉緑体 (色素体) とよばれる細胞小器官へと変化した[2][140][199]。この際、藍藻の細胞膜外膜が色素体の2枚の膜になったと考えられている[200]。この現象は一次共生 (primary endosymbiosis) とよばれ、これによって真核生物が酸素発生型光合成能を獲得した。生物の歴史の中で一次共生は唯1回の現象であったと考えられており、全ての葉緑体は単一の一次共生に由来する (その後、二次共生を経たものもある)。多数の遺伝子を用いた系統解析から、一次共生において共生者となった藍藻は、グロエオマルガリータ属 (Gloeomargarita) という淡水産単細胞性藍藻に近縁な藍藻であったことが示唆されている[201]

分類

古くは、藍藻は最も原始的な"植物"と考えられ、藍色植物門 (Cyanophyta)、藍藻綱 (Cyanophyceae) に分類されていた[202][203]。しかし葉緑体の共生説が一般的となり、藍藻と他の"植物"の直接的な類縁性は認められなくなった (ただし上記のように、細胞内共生・葉緑体を通してつながっている)。これらの分類群名は植物命名規約 (現 国際藻類・菌類・植物命名規約) に基づくものであり、原核生物である藍藻に対しては近年ではほとんど用いられない[注 10]。また古くは、粘藻綱 (Myxophyceae) や分裂藻綱 (Schizophyceae) という分類群名が使われていたこともある[204]

藍藻は原核生物であり、細菌 (バクテリア、真正細菌) ドメインに属する。細菌の中では、藍藻は比較的独立した系統群を形成しており、シアノバクテリア門 (藍色細菌門)(学名:Cyanobacteria) として扱われる。メタゲノム研究によって見つかった、藍藻に近縁な従属栄養性細菌群である"メライナバクテリア綱" (Melainabacteria) や"セリキトクロマチア綱" (Sericytochromatia) などは、シアノバクテリア門に含めて扱われることがあるが、その場合は光合成能をもつ藍藻はオキシフォトバクテリア綱 (Oxyphotobacteria)[注 2] にまとめられ、これらの非光合成細菌群と併置される[3][4]。ただし、シアノバクテリア門を光合成性のグループのみに限る考えもある[205]

藍藻は分類学的には細菌として扱うべきであるが、ほとんどの学名は植物命名規約 (現 国際藻類・菌類・植物命名規約) に基づいて提唱されており、国際原核生物命名規約の基で提唱された学名は少ない[206]

クロロフィル b をもつ藍藻 (原核緑藻) は、発見当初は原核緑色植物門 (Prochlorophyta) として藍藻とは別の門に分けられていた[207]。しかしその後の研究から原核緑藻は系統的に藍藻に含まれることが示され、現在では分類群名として原核緑色植物門を用いることはない。ただし「原核緑藻 (prochlorophytes)」という語は、一般名としてはしばしば用いられる。

他の藻類と同様、藍藻はその体制 (おおまかな体のつくり) に基づいて分類され、いくつかの目に分けられてきた[42][208][209] (下表)。細菌の分類の基準となっていた「バージェイ細菌分類便覧 (Bergey’s Manual) 第2版」でも基本的には同じ体系が用いられていた[104]

古典的な藍藻の分類体系の一例[7][104]
バージェイ細菌分類便覧 第2版 での分類 特徴 代表属
クロオコックス目 (Chroococcales)[注 11] subsection I 単細胞または群体性 Synechococcus, Synechocystis, Chroococcus, Aphanocapsa, Coelosphaerium, Merismopedia, Microcystis
プレウロカプサ目 (Pleurocapsales) subsection II 単細胞または群体性、内生胞子 (ベオサイト) 形成 Pleurocapsa, Chroococcidiopsis, Xenococcus
ユレモ目 (Oscillatoriales) subsection III 糸状性、異質細胞を欠く Oscillatoria, Phormidium, Lyngbya, Arthrospira, Planktothrix, Pseudanabaena
ネンジュモ目 (Nostocales) subsection IV 糸状性 (真分枝なし)、異質細胞あり Anabaena, Nostoc, Aphanizomenon, Cylindrospermum, Calothrix, Scytonema
スチゴネマ目 (Stigonematales) subsection V 糸状性 (真分枝あり)、異質細胞あり Stigonema, Hapalosiphon, Fischerella


しかし分子系統学的研究の結果、上記の分類群の多くは多系統群であることが判明しており、特に単細胞性と糸状性の間では頻繁な平行進化 (特に糸状体から単細胞体への進化) が起こったと考えられている[210][209]。2019年現在までに報告されている分子系統解析の結果に基づくシアノバクテリア門内の系統仮説の1つを下に示す。

シアノバクテリア門

"セリキトクロマチア綱"[注 1]

"メライナバクテリア"[注 1]

オキシフォトバクテリア綱

グロエオバクター目 (Gloeobacter)

クレード G (Octopus Spring clade) (e.g. "Synechococcus" PCC7336, JA-3-3Ab)

●■クレード F (e.g. Pseudanabaena, "Synechococcus" PCC7502)

グロエオマルガリータ目 (Gloeomargarita)

葉緑体 (色素体)

クレード E (AcTh) (e.g. Acaryochloris, Thermosynechococcus)

●■Prochlorothrix クレード (e.g. Nodosilinea, Lagosinema, Prochlorothrix)

クレード C1 (SynPro) (e.g. Prochlorococcus, "Synechococcus" WH8102)

クレード C2 (Synechococcus s.s.) (Synechococcus elongatus)

●■クレード C3 (LPP-B) (e.g. "Synechococcus" PCC7335, "Phormidium" NIES-30)

クレード D (e.g. "Geitlerinema" PCC 7407, Leptolyngbya PCC 6306)

Geitlerinema PCC 7105 クレード

クレード A (Osc) (e.g. Trichodesmium, Arthrospira, Planktothrix)

●▲■クレード B2 (SPM) (e.g. Pleurocapsa, Microcystis, "Synechocystis" PCC 6803)

Moorea クレード

●■クレード B3 (e.g. Crinalium PCC 9333, Chamaesiphon PCC 6605)

●▲クロオコッキディオプシス目 (e.g. Chroococcidiopsis, "Synechocystis" PCC 7509)

ネンジュモ目

藍藻の系統仮説の一例 (基本的にゲノム塩基配列情報が明らかなもののみ). いくつかの系統解析結果に基づく[201][35][211][212][213][214][4]. = 単細胞・群体 (旧クロオコックス目)、 = 単細胞・群体、内生胞子あり (旧プレウロカプサ目)、 = 糸状性 (旧ユレモ目)、 = 糸状・異質細胞あり (旧ネンジュモ目・スチゴネマ目).

2019年現在、このような系統関係を完全に反映させた分類体系は提唱されていない。また、分子系統解析が行われた藍藻は、いまだごく一部に限られている[9]。そのため、藍藻の分類体系構築に関しては過渡的な状況にある。2019年現在、形態形質およに分子情報に基づく分類体系として、Komárek et al. (2014) をもとにした目レベルの分類体系を以下に示す[215][216][217]。また藍藻の分類においては、属レベルでも非単系統性 (ときに下記の分類体系において複数の目に分かれるほどの) が示されているものが少なくない (SynechococcusSynechocystisLyngbya など)[218]。これらの属の一部に関しては、ゲノムレベルでの分子系統解析に基づいて多数の属に分けることが提唱されている[213][219]

Komárek et al. (2014) による藍藻の分類体系[215] (その後に報告されたグロエオマルガリータ目を付加)
  • グロエオバクター目 Gloeobacterales Cavalier-Smith, 2002
    単細胞性。チラコイドを欠く (光化学系細胞膜に存在する)。藍藻の中で最も初期に分かれたものであることが示されている。グロエオバクター綱 (Gloeobacteria) として他の藍藻と分けられることがある[220]
    代表属:グロエオバクター属 (Gloeobacter)
  • グロエオマルガリータ目 Gloeomargaritales D.Moreira et al., 2017
    単細胞性。細胞内に炭酸塩の顆粒を含む。アルカリ湖沼に生育。真核生物色素体 (葉緑体) に最も近縁な藍藻であることが示唆されている[201]。シネココックス目に含めることもある[217]
    代表属:グロエオマルガリータ属 (Gloeomargarita)
  • シネココックス目 Synechococcales L.Hoffmann, J.Komárek & J.Kastovsky, 2005
    単細胞、群体または糸状性 (細いものが多い)。チラコイドは細胞膜に沿って同心円状に配置する。おそらく非単系統群であるが、藍藻の中で初期に分岐したものが多い。糸状性のものをプセウドアナベナ目 (Pseudanabaenales) として分けることがある[209][221]
    代表属:シネココックス属 (Synechococcus)、シアノビウム属 (Cyanobium)、プロクロロコックス属 (Prochlorococcus)、アカリオクロリス属 (Acaryochloris)、シネコキスティス属 (Synechocystis)、メリスモペディア属 (Merismopedia)、コエロスファエリム属 (Coelosphaerium)、カマエシフォン属 (Chamaesiphon)、プセウドアナベナ属 (Pseudanabaena)、プロクロロスリックス属 (Prochlorothrix)、リムノスリックス属 (Limnothrix)、レプトリングビア属 (Leptolyngbya)
  • ユレモ目 Oscillatoriales Schaffner, 1922
    糸状性で比較的太いものが多い。単細胞性の種も含まれる。チラコイドは放射状または不規則に配置する。おそらく非単系統群。
    代表属:シアノテーセ属 (Cyanothece)、ユレモ属 (Oscillatoria)、フォルミディウム属 (Phormidium)、プランクトスリックス属 (Planktothrix)、アルスロスピラ属 (Arthrospira)、リングビア属 (Lyngbya)、ミクロコレウス属 (Microcoleus)、アイアカシオ属 (Trichodesmium)
  • スピルリナ目 Spirulinales J.Komárek, J.Kastovsky, J.Mares & J.R.Johansen, 2014
    糸状性。同心円状のチラコイド配置をもつことからシネココックス目に分類されていたが、同目の他の種とは系統的に離れているため独立の目とされた[215]
    代表属:スピルリナ属 (Spirulina)[注 12]、ハロスピルリナ属 (Halospirulina)
  • クロオコックス目 Chroococcales Schaffner, 1922
    単細胞または群体性。チラコイドは同心円状ではなく、多少とも不規則に配置。おそらく非単系統群。
    代表属:クロオコックス属 (Chroococcus)、シアノバクテリウム属 (Cyanobacterium)、ミクロキスティス属 (Microcystis)、クロログロエ属 (Chlorogloea)、ゴンフォスファエリア属 (Gomphosphaeria)、グロエオカプサ属 (Gloeocapsa)
  • プレウロカプサ目 Pleurocapsales Geitler, 1925
    単細胞または群体性。内生胞子 (ベオサイト) 形成を行う。チラコイドの配置は不規則。1つの系統群を形成するものが多いが、一部は系統的に離れており非単系統群。
    代表属:シアノキスティス属 (Cyanocystis)、ヒエラ属 (Hyella)、クセノコックス属 (Xenococcus)、プレウロカプサ属 (Pleurocapsa)
  • クロオコッキディオプシス目 Chroococcidiopsidales J.Komárek, J.Kastovsky, J.Mares & J.R.Johansen, 2014
    単細胞または群体性。内生胞子 (ベオサイト) 形成を行う。チラコイドの配置は不規則。プレウロカプサ目に分類されていたが、分子系統解析からネンジュモ目の姉妹群であることが示唆されている。
    代表属:クロオコッキディオプシス属 (Chroococcidiopsis)、アリテレラ属 (Aliterella)
  • ネンジュモ目 Nostocales Borzì, 1914
    糸状性 (無分枝、分枝)。異質細胞やアキネートを形成する。藍藻の中で明瞭な単系統群を形成する。伝統的に、真分枝するものはスチゴネマ目として分けられていたが、系統的にはネンジュモ目の中に含まれることが示されている。
    代表属:ネンジュモ属 (Nostoc)、アナベナ属 (Anabaena)、ドリコスペルマム属 (Dolichospermum)、アファニゾメノン属 (Aphanizomenon)、シリンドロスペルマム属 (Cylindrospermum)、トリポスリックス属 (Tolypothrix)、ミクロカエテ属 (Microchaete)、カロスリックス属 (Calothrix)、スキトネマ属 (Scytonema)、ハパロシフォン属 (Hapalosiphon)、スチゴネマ属 (Stigonema)

脚注

注釈

  1. ^ a b c d 光合成能をもたない。シアノバクテリア門には含めないこともある。
  2. ^ a b この名はまだ一般的ではなく、植物命名規約に基づく「藍藻綱 (Cyanophyceae)」が暫定的に用いられることがある (例:AlgaeBase)。
  3. ^ 目レベルの分類は過渡的であり、必ずしも系統を反映していない (本文参照)。
  4. ^ 細菌の中には、他にも光合成を行うグループが存在するが (光合成細菌と総称される)、酸素発生型光合成を行う細菌は藍藻のみである。
  5. ^ 2019年現在、高等学校の教育指導要領や、高等学校の生物教育における重要用語の選定について では、「シアノバクテリア」が選定されている。
  6. ^ 古くは補色適応 (chromatic adaptation) とよばれていた。
  7. ^ ヘテロシスト (heterocyst) ともよばれるが、一般的な意味でのシスト (休眠細胞) ではない。
  8. ^ これらの藍藻はいくつかの属に分けることが提唱されている (Walter, J. M., Coutinho, F. H., Dutilh, B. E., Swings, J., Thompson, F. L., & Thompson, C. C. (2017). “Ecogenomics and taxonomy of Cyanobacteria phylum”. Frontiers in Microbiology 8: 2132. )。ただし2019年現在、これらの新しい属名は一般的ではない。
  9. ^ アナベナ属 (Anabaena) とされていた藍藻のうち、プランクトンとしてふつうに見られる種の多くは、ドリコスペルマム属に移されている (国立科学博物館 植物研究部. 浮遊性藍藻データベース)。
  10. ^ ただし2019年現在、原核生物の分類体系では、藍藻を分類する一般的な綱レベルの分類群名がないため、藍藻綱 (Cyanophyceae) が暫定的に用いられることがある (例:, AlgaeBase)。
  11. ^ 外生胞子 (エクソサイト) を形成するものはカマエシフォン目 (Chamaesiphonales) として分けられることもあった。
  12. ^ 一般的に「スピルリナ」とよばれる藍藻は Arthrospira に属する (この分類体系ではユレモ目)。

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関連項目

外部リンク