「著作者人格権」の版間の差分
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ProfessorPine (会話 | 投稿記録) 著作権法 (フランス) の新規ページ作成に伴い、フランスの著作者人格権を加筆 |
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{{Pathnav|知的財産権|著作権|frame=1}} |
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{{出典の明記|date=2019年3月4日 (月) 05:59 (UTC)}} |
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'''著作者人格権''' |
'''著作者人格権''' (ちょさくしゃじんかくけん、{{Lang-en|Moral rights}}) とは[[著作権]]の一部であり、[[著作物]]の創作者である[[著作者]]が精神的に傷つけられないよう保護する[[権利]]の総称である。美術・文芸・楽曲・映像といった著作物には、著作者の思想や感情が色濃く反映されているため、第三者による著作物の利用態様によっては著作者の人格的利益を侵害する恐れがある。しかし、[[条約|国際条約]]や[[著作権法 (曖昧さ回避)|各国の著作権法]]によって、どこまでを具体的に著作者人格権侵害として認めるかは異なる。 |
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{{TOC right}} |
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== 概説 == |
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著作権における著作者人格権は以下のように位置付けられている{{Sfn|田村善之|1998|pp=342–372}}{{Sfn|文化庁|2007|pp=19–22}}。 |
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{{Tree list}} |
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* 著作権 |
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** 著作者本人の権利 (狭義の著作権) |
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*** 著作財産権 (最狭義の著作権。著作物を使って富を得る[[著作権#支分権|支分権]]の総称) |
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**** 複製権 (小説本の印刷や楽曲のCD販売などコピーを作る権利) |
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**** [[翻案権]] (翻訳、編曲、映画化) ...など |
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*** '''著作者人格権''' (著作者が精神的に傷つけられない権利の総称) |
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**** 公表権 (無断で著作物そのものを公表されない権利) |
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**** 氏名表示権 (著作物を公表する際に著作者名の表記を決定する権利で、実名以外に無名または変名使用も含む) |
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**** [[同一性保持権]] (無断で著作物を改変されて誤解を受けない権利) |
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**** 名誉声望保持権 (著作物を適切な場所に展示するなど、著作者の社会的評価を守る権利) |
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**** 出版権廃絶請求権 (著作物の内容に確信を持てなくなった際に著作物の複製をやめるよう求める権利) |
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**** 修正増減請求権 (改めて複製する際に修正バージョンを適用するよう求める権利) |
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** [[著作隣接権|著作隣接者]]の権利 ([[実演家]]、[[放送事業者]]など著作物を伝える者の権利) |
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{{Tree list/end}} |
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著作者本人の人格権以外に、著作隣接者である実演家人格権などもあるが、本項での解説は著作者本人に限定する。 |
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[[文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約|ベルヌ条約]]上、著作者人格権は[[著作権]]が他者に移転された後も著作者が保有する権利とされており(ベルヌ条約6条の2第1項)、[[一身専属]]性を有する権利として把握される。つまり、権利の主体は[[著作権者]]ではなく、あくまでも著作者である。また、保護の対象が財産的利益ではなく人格的利益である点で、著作権と区別される。 |
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=== 人格権と財産権の関係 === |
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*日本の[[著作権法]]は、以下で条数のみ記載する。 |
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一般的には、著作者の「心」を守るのが著作者人格権であるのに対し、「財布」を守るのが著作財産権だと分類される。とは言え、第三者による著作物の利用が、著作者人格権と著作財産権の両方を侵害することもあり、両者は密接に関係している。たとえば、個人的に綴っていた非公開の日記を第三者が無断でコピーして配れば、著作者人格権の公表権と、著作財産権の複製権の両方を侵害したことになる<ref name=Bunka-FAQ-1>{{Cite web |title=Q: 私の書いた日記をクラスの友達が無断でコピーして皆に配ってしまいました。とても悔しくて抗議しようと思うのですが、これは著作権侵害になるのですか。 |url=https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000167 |work=著作権なるほど質問箱 |publisher=文化庁 |accessdate=2019-05-20}}</ref>。また、著作者人格権の同一性保持権 (著作物を改変されない権利) と、著作物の翻案権や[[二次的著作物]]の利用権 (著作物を改変する権利) など両立の困難な領域もある{{Sfn|田村善之|1998|pp=335–336}}。 |
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誰が権利を持てるかについても、著作者人格権と著作財産権では異なる。著作財産権は土地や建物のように権利を[[譲渡]]、[[相続]]、貸与できるが、一方で著作者人格権は一般的に譲渡が認められていない。これは、著作者人格権が著作者本人の心を保護することを目的としているためである。換言すると、複製権や出版権などの著作財産権を第三者に売却した後でも、著作者人格権だけは消滅せず著作者本人を守り続ける。これを「[[一身専属|一身専属性]]」と呼ぶ。 |
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== 一身専属性、処分可能性 == |
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著作者人格権は、[[一身専属]]性を有する権利であるため他人に譲渡できないと解されており、日本の[[著作権法]]にもその旨の規定がある([[b:著作権法第59条|59条]])。著作者が個人である場合には死亡(失踪宣告を含む)、団体または法人である場合にはその解散<ref group="注">団体・法人の合併他による承継等の場合は諸説あるが、個人であれば譲渡等(特定承継)や相続([[一般承継]])が認められない所、団体・法人においても特定承継(譲渡等)や一般承継([[合併 (企業)|合併]]・[[会社分割]]による承継)は認められないとするのが相当であろう。</ref>により、著作者人格権は原則として消滅する。また、日本法では一身専属性のある権利は[[相続]]の対象にはならないので([[b:民法第896条|民法896条但書]])、著作者人格権も相続の対象にはならない。 |
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ただし、この一身専属性を著作者本人の意志で否定する、つまり著作者人格権を自ら放棄したり、不行使にする契約を結べるのかについては、一部の国で認められている。著作者人格権を守ることを優先しすぎた結果、著作財産権の面で著作者が経済的に不利な立場に追い込まれてしまうリスクを回避する必要性があるためである。たとえば、著作物利用のライセンス契約を締結する際に、著作者人格権をライセンス先に譲渡できないとなると、著作者人格権侵害による訴訟リスクを考慮して、契約そのものが破談になってしまったり、リスク分を加味して著作者が不利な契約の立場に追い込まれるといった副作用が考えうる{{Sfn|田村善之|1998|pp=338–341}}。 |
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ただし、ベルヌ条約6条の2(2)が著作者の死後における著作者人格権の保護を要求していることから、著作者の死亡・解散後も、著作者が存しているならば著作者人格権の侵害となるような行為を禁止するとともに([[b:著作権法第60条|60条]])、著作者の2親等内の親族または遺言指定人による[[差止請求権]]や名誉回復措置請求権の行使が認められている([[b:著作権法第116条|116条]])。ただし、116条の行使権は著作者人格権と同様に一身専属であるため、著作者の2親等内の親族が全て死亡(失踪宣告を含む)した場合は行使権者はいなくなると解される<ref group="注">なお、遺言指定人による行使権は、著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して50年を経過した後(即ち死亡年に51を加えた年の元日以降)は消滅する。ただし消滅するべき日に2親等内の親族が生存等している場合は、当該2親等内の親族が全て死亡(失踪宣告を含む)した日に消滅する。 |
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さらに原著作物だけでなく、それを用いて創作された[[二次的著作物]]に対しても、原著作物の著作者は著作者人格権を有していることになる{{Sfn|吉田大輔|2009|pp=137–138}}。たとえば、イギリス人作家が執筆した「未発表」の英語の小説を基に、翻訳出版権を正式に獲得した日本人翻訳家が日本語化したとする。このように著作財産権的には何ら問題ないケースでも、仮にイギリス人作家から承諾を得ずに日本語版小説のみ出版すると、著作者人格権のうちの公表権を侵害したことになる。 |
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なお、2018年12月30日施行のTPP11法改正以降は、著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して70年を経過した後(即ち死亡年に71を加えた年の元日以降)に消滅することとなる。</ref>。人格権保護の行使権者がいなくなった場合、日本では法第120条に基づく刑事介入だけが存続する<ref group="注">第六十条又は第百一条の三の規定に違反した者は、五百万円以下の罰金に処する。非親告罪</ref>。 |
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; 著作者の死後の扱い |
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国によっては著作者人格権の譲渡は認めないが、相続は認めることがある (詳細は[[#各国の対応]]を参照)。生前に名誉棄損などの行為が禁止されて人格が守られてきたように、安心して死ねる権利が著作者には必要だとの考えである{{Sfn|田村善之|1998|pp=372–381|ps=--斉藤博 (1979年) からの孫引き}}。没後の著作者に対する名誉棄損がその遺族にまで影響を及ぼす場合には、遺族分の人格権侵害に限定して、損害賠償や差止などの具体的な法的措置が取られることがある{{Sfn|田村善之|1998|p=372}}。 |
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<!-- 出典不明の加筆のため、コメントアウト。おそらく加戸『逐条講義』P304近辺。日本限定の解説なので、世界共通の概説節に挿入するには難あり。 |
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一方で、著作者人格権が相続の対象になることを認める法制も存在する([[フランス]]など)。 |
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著作者人格権は、[[一身専属]]性を有する権利であるため他人に譲渡できないと解されており、日本の[[著作権法]]にもその旨の規定がある。著作者が個人である場合には死亡(失踪宣告を含む)、団体または法人である場合にはその解散<ref group="注">団体・法人の合併他による承継等の場合は諸説あるが、個人であれば譲渡等(特定承継)や相続([[一般承継]])が認められない所、団体・法人においても特定承継(譲渡等)や一般承継([[合併 (企業)|合併]]・[[会社分割]]による承継)は認められないとするのが相当であろう。</ref>により、著作者人格権は原則として消滅する。 |
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著作者人格権の[[放棄]]の可能性についてはベルヌ条約には規定がなく、日本の著作権法にも規定はない。この点については、日本では事前に包括して放棄することはできないと一般的に解されており、範囲を限定しない著作者人格権の不行使契約について無効とする見解もある。このような考え方は、著作者人格権は一般的な[[人格権]]と同質の権利であるという理解を前提に、人格権は権利者の人格にかかわるものであり、物権的処分をすることは公序良俗に反するという考え方に基づいている。 |
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しかし、人格権と総称されている権利にも色々なものがあり、特に著作者人格権の場合は特定の著作物に関する利益が問題になるにすぎないこと、著作権法上も著作者人格権の成否につき著作者本人の意思に依らしめている場合もあることから、著作者人格権の不行使契約も有効であり、問題が生じる場合は公序良俗の問題として扱えば足りるとする見解、更には著作者人格権の放棄を有効なものとする見解もある |
しかし、人格権と総称されている権利にも色々なものがあり、特に著作者人格権の場合は特定の著作物に関する利益が問題になるにすぎないこと、著作権法上も著作者人格権の成否につき著作者本人の意思に依らしめている場合もあることから、著作者人格権の不行使契約も有効であり、問題が生じる場合は公序良俗の問題として扱えば足りるとする見解、更には著作者人格権の放棄を有効なものとする見解もある。 |
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また、そもそも著作者人格権の放棄が無効という考え方自体が[[知的財産法]]の専門家の間で本当に一般的なのか、ということ自体に疑義を呈する見解もある。もっとも、この点については、無効とする考え方は芸術性を重視する著作物を念頭に置いて議論をしているのに対し、有効とする考え方は実用性を重視する著作物を念頭に置いて議論をしているとも言われ、著作物の性質に応じた議論が必要との見解も示されている。 |
また、そもそも著作者人格権の放棄が無効という考え方自体が[[知的財産法]]の専門家の間で本当に一般的なのか、ということ自体に疑義を呈する見解もある。もっとも、この点については、無効とする考え方は芸術性を重視する著作物を念頭に置いて議論をしているのに対し、有効とする考え方は実用性を重視する著作物を念頭に置いて議論をしているとも言われ、著作物の性質に応じた議論が必要との見解も示されている。 |
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== 種類 == |
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=== 制限と例外 === |
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[[文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約|ベルヌ条約]]6条の2第1項には、著作者人格権の種類として以下の二種類が規定されている。 |
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著作者人格権は全ての著作者や著作物を等しく保護するわけではなく、例外も存在する。ここでの「著作者」だが、[[職務著作]] (法人著作) のように個人以外に著作権が帰属する場合、氏名表示権を除く著作者人格権は認める必要がないとされる。またコンピュータ・プログラムも[[特許権]]ではなく著作権の範疇で保護されることがあるが、感情を表現した芸術的な著作物とは扱いが異なる。実用的なコンピュータ・プログラムの場合、中身を改変してもプログラマーが精神的に傷つく可能性が低いことから、同一性保持権には大幅な制限がかかるとされる{{Sfn|田村善之|1998|p=334}}。 |
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また世界の著作権法は[[大陸法]]と[[英米法]]のいずれかの流れを汲んでおり、英米法の国では伝統的に著作財産権のみを重視していることから、著作者人格権の保護範囲がそもそも非常に狭い[[著作権法 (アメリカ合衆国)|アメリカ合衆国]]のような国も存在する。 |
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* 著作物の創作者であることを主張する権利('''氏名表示権''') |
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* 著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利('''同一性保持権'''、'''名誉声望保持権''') |
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後述するとおり、日本の著作権法は、ベルヌ条約に規定されていない種類の著作者人格権をも認めている(著作権法第2章第3節第2款)。また、著作権法が規定する著作者人格権には該当しなくても、民法の[[不法行為]]に関する規定により著作者の人格的利益が保護される場合もある。 |
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== 著作者人格権の内訳 == |
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=== 公表権 === |
=== 公表権 === |
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もともと公表を予定していない著作物 (私的な手紙・日記、企業の機密資料など) や、公表を予定しているが未完成の著作物 (セリフを推敲中の映画の脚本、描きかけの絵画など) がある。これらの著作物を、著作者以外の第三者によって無断で公表されない権利が公表権である{{Sfn|吉田大輔|2009|p=136}}。ここでの「公表」 (英: publish) にどのような手段が具体的に含まれるのかは各国の法律により異なるが、上演、展示、口述、インターネット上での掲示も含む{{Sfn|吉田大輔|2009|p=136}}。 |
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==== 概要 ==== |
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'''公表権'''とは、未公表の著作物(同意を得ずに公表されたものも含む)を公衆に提供又は提示する権利のことをいう(著作権法18条、ベルヌ条約には規定がない)。条文上は明記されていないものの、公表の時期や方法についても決定できる権利と理解されている。著作者は、著作物をその意に沿わない態様で公表されたくないと考える場合がある。そのため、著作物を公表するか否か、公表の方法・形式・時期の選択に関して著作者に権利を認めることにより著作者の人格的な利益を守る必要があるとして設けられている制度である。 |
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{{Main2|アメリカ合衆国における公表の定義|著作権法 (アメリカ合衆国)#著作物の発表の定義}} |
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著作者の同意を得ずに公表された著作物についても、まだ公表されていないものとして扱われる。公表するか否かはあくまでも著作者本人の意思によらしめる以上、著作物の内容が知れ渡っていること自体は、公表権の成否には影響しない。 |
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=== 氏名表示権 === |
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著作者自身が公表した著作物や、著作者の同意に基づき公表された著作物については、公表権は消滅し、いったん公表について与えた同意は撤回できない。 |
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著作物を公表すると決めた場合、どのように著作者名を表記するか決定できるのが氏名表示権であり、これには実名以外に変名 (ペンネームなど) または無名 (匿名) の使用も含む。たとえばジャーナリストが報道記事を執筆して、実名で公表を希望しているにもかかわらず、寄稿先の雑誌が著作者名を表示せずに発行すれば、氏名表示権侵害になる。また、本来の著作者以外の名前で著作物を公表しても、やはり氏名表示権侵害にあたる。報道記事を執筆したジャーナリストの実名ではなく、雑誌社名であったり、編集長の名前に書き換えてしまう行為は禁じられる。さらにいわゆる「盗作」も著作者名を書き換えているに等しいため、著作財産権の侵害だけでなく、著作人格権の氏名表示権侵害である{{Sfn|吉田大輔|2009|pp=142–143}}。 |
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なお、公表に使用する名前を実名にするか、変名や無名にするかで著作権の保護期間に差が出るため注意が必要である。一般的には実名の場合、存命期間および死後70年間を著作物の保護期間だとする国が多いが、変名や無名著作物の場合は著作者の死亡日を確定できないため、著作者の生死にかかわらず、作品の公表から一定年数を保護期間と定めることが多い。 |
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==== 公表の同意の推定 ==== |
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{{See also|著作権の保護期間}} |
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著作権法は、公表の同意についての推定規定を置いている。まず著作物一般に関するものとして、著作者が著作権を譲渡した場合は、著作物の利用態様について著作権の譲受人に委ねられたと解されるので、公表に同意があったと推定される(著作権法18条2項1号)。 |
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また、美術品等の原作品の所有者を保護するため、著作者が美術の著作物又は写真の著作物の原作品を譲渡した場合には原作品を公に展示することに同意したものと推定される(同項2号)。また、[[映画の著作物]]の場合は著作権が原始的に著作者(16条)ではなく映画製作者(2条1項10号)に帰属することがありうるが(29条)、その場合には著作者が公表について同意したものと推定される(18条2項3号)。 |
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氏名表示権とは、著作物の公表に際し、著作者の実名若しくは変名を著作者名として表示、又は著作者名を表示しないこととする権利のことをいう(著作権法19条)。著作者は、自己の著作物につき自己の著作物であることを明らかにしたい場合、それを秘したい場合、著作物に対する自己の立場を表したい場合がある。そのような著作者の精神的利益を保護するため、著作物に実名又は変名の表示、非表示を行う旨の権利が認められている。なお、ベルヌ条約上は、単に「著作物の創作者であることを主張する権利」とだけ規定されている。 |
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ただし、著作物の利用の目的及び態様に照らして、著作者の利益を害する恐れがない場合は、公正な慣行に反しない限り、著作物の利用者は、著作者名の表示を省略することができる(19条3項)。その例として、店内のBGMとして音楽を流す場合(作曲者のアナウンスをする必要はない)などが挙げられる。 |
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なお、条文上は、「推定」となっているため、裁判で公表権の侵害が問題となる場合、同意の不存在につき著作者に[[証明責任]]があると理解するのが一般的な考え方である。もっとも、これに対しては、著作者が公表の拒絶について明確な意思表示がされていなければ、公表に同意があったものとみなされるべきとする考え方もある。 |
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=== 同一性保持権 === |
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{{See also|同一性保持権}} |
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著作物を無断で改変されない権利を同一性保持権と呼ぶが、どこからが改変にあたるのかが問題となる。たとえば雑誌の紙面上の都合で修正したり、別の文章を足したり、写真の一部をカットしたり、映画に一部別のシーンを挿入したりすることである。また、小説や映画などの中身だけでなくタイトルにも同一性保持はおよぶ。さらに原著作物だけでなく、小説の映画化や楽曲の編曲といった二次著作物であっても、原著作者の主観的な意志を尊重しなければならない{{Sfn|吉田大輔|2009|pp=146–148}}。 |
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ただし、利用者側の観点でやむをえないと判断される場合や、改変によって著作者を精神的に傷つけるおそれがない著作物の場合は、改変が認められる。たとえば学校教育に利用される著作物にフリガナを振る、旧字体を常用漢字に変えるといった利用は認められている。ソフトウェアの場合は、バグ (不具合) を改修したり利便性を増すためにバージョンアップすることが想定されるため、同一性保持権は制限される{{Sfn|田村善之|1998|pp=362–363}}。 |
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=== 氏名表示権 === |
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'''氏名表示権'''とは、著作物の公表に際し、著作者の実名若しくは変名を著作者名として表示、又は著作者名を表示しないこととする権利のことをいう(著作権法19条)。著作者は、自己の著作物につき自己の著作物であることを明らかにしたい場合、それを秘したい場合、著作物に対する自己の立場を表したい場合がある。そのような著作者の精神的利益を保護するため、著作物に実名又は変名の表示、非表示を行う旨の権利が認められている。なお、ベルヌ条約上は、単に「著作物の創作者であることを主張する権利」とだけ規定されている。 |
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いわゆる「[[パロディ]]」については、国によって扱いが異なる。パロディが著作権侵害に当たらないと明記している希な国がフランスである (L122条-5)<ref name=LF-CPI-L122>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161637&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|122}}, Chapitre II : Droits patrimoniaux (第2章 第2節: 財産的権利 (著作財産権)、第122条)}}</ref>。著作者人格権の保護範囲が狭い米国においては、パロディを含む{{仮リンク|変形的利用|en|transformativeness}} (transformative use) は、著作者人格権ではなく[[フェアユース]] (公正利用) の文脈で合法性が個別に判断されている{{Sfn|吉田大輔|2009|pp=148–151}}。パロディなどの同一性保持権に関しては、各国で判例が存在する (詳細は[[#各国の対応]]で後述)。 |
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ただし、著作物の利用の目的及び態様に照らして、著作者の利益を害する恐れがない場合は、公正な慣行に反しない限り、著作物の利用者は、著作者名の表示を省略することができる(19条3項)。その例として、店内のBGMとして音楽を流す場合(作曲者のアナウンスをする必要はない)などが挙げられる。 |
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=== 名誉声望保持権 === |
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たとえ著作物を改変していなくとも、著作物の利用方法次第では著作者の名誉を傷つけることがある。たとえば、名画を風俗店の看板に利用する行為が名誉声望保持権の侵害にあたるとされている。社会的な評判が傷つけられたかどうかが問われるため、著作物の公表方法が実名ではなく変名や無名であっても、著作者は名誉声望保持権を有していると考えられる{{Sfn|田村善之|1998|pp=366–368}}。 |
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{{Main2|[[同一性保持権]]も}} |
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'''同一性保持権'''とは、著作者の意に反して、著作物及びその題号の変更や切除その他の改変をすることを禁止する権利のことを指す(著作権法20条1項)。 |
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なお、著作者の名誉を守る法的手段として、著作権法上の名誉声望侵害を訴えるだけでなく、一般的な民法上の名誉毀損で損害賠償や差止などを提訴できる。また刑事上の名誉毀損罪での告訴もありうる{{Sfn|吉田大輔|2009|p=152}}。 |
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著作物の改変を伴わない場合でも、その利用態様によっては表現が著作者の意図と異なる意図を持つものとして受け取られる可能性がある。そのため、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、著作者の著作者人格権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条6項)。例として、美術品としての絵画を風俗店の看板に使用する行為などが該当するとされている。 |
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なお、ベルヌ条約上は、「著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利」として、同一性保持権と名誉声望保持権が一体となっているが、日本法では改変等を伴わない場合を独立して扱う規定となっている。 |
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=== 出版権廃絶請求権と修正増減請求権 === |
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自分の著作物の内容に満足して、公表権を行使して著作物をいったん公表した。しかしその後に不備に気付き、そのまま公表され続けることが精神的苦痛につながる場合は、著作物の複製をやめるよう求めることができるという考え方が出版権廃絶請求権である。同様の理由で、修正版への差し替えを要求する権利が修正増減請求権である。しかし、著作者から出版権を獲得した出版社に対し、出版済またはこれから出版予定の著作物を市場から回収する義務や、修正版に差し替える義務を負わせるとなると損害が発生することから、これら請求権を著作権者が行使する際には、出版権者に対する損害補てんが前提となる。また修正増減請求権の場合は、現時点で市場に出回っているものではなく、今後増刷する複製物のみを差し替えの対象としている。なお、日本の著作権法上では廃絶請求権は出版物に限定している{{Sfn|田村善之|1998|pp=368–371}}。 |
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== 国際条約上の保護 == |
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著作者人格権が、実際の法律上でどのように保護されているか見ていく。著作権者の権利に関する主な国際条約には、発効年の古い順に[[文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約|ベルヌ条約]]、[[万国著作権条約]]、[[TRIPS協定]]、[[WIPO著作権条約]]の4本がある。このうち、著作者人格権の観点からはベルヌ条約とTRIPS協定の2本が特に重要である。なお万国著作権条約は、ベルヌ条約の条件が厳しくて加盟できなかった国々に対する橋渡し的な役割を担っていたものの、その後各国が国内法を整備してベルヌ条約も締結できたことから、21世紀に入ってからは法的な役割を終えている。WIPO著作権条約 ([[世界知的所有権機関]] (WIPO) 主管) は、インターネットの普及に伴うデジタル著作物の技術的保護を重点的に定めており、ベルヌ条約の「2階部分」とも言われている。著作者人格権の観点では今なお、1階部分のベルヌ条約がベースとなっている{{Sfn|文化庁|2007|pp=69–70}}。以上の理由から、ベルヌ条約とTRIPS協定に絞って解説する。 |
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=== ベルヌ条約 === |
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{{Wikisource|1=昭和五十年条約第四号|2=ベルヌ条約 (1971年パリ改正版)|3=日本批准時の日本語訳}} |
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締結済が187か国 (2019年5月現在) に上り<ref name=WIPO-BerneParis1971>{{Cite web |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ActResults.jsp?act_id=26 |title=Contracting Parties > Berne Convention > Paris Act (1971) (Total Contracting Parties : 187) |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-05-21}}</ref>、かつ著作権保護の基本方針をとりまとめたのがベルヌ条約である。ベルヌ条約の第6条では著作者人格権の保護を規定しており、主な特徴は以下の通りである。 |
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* 著作者人格権の種類として、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望保持権を認める (第6条の2第1項)。 |
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* 公表権については、1928年のローマ改正の際に追加が提案されるも実現せず、ベルヌ条約に規定がない{{Sfn|田村善之|1998|p=350|ps=--WIPO (黒川徳太郎訳) 1979年からの孫引き}}。 |
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* 著作財産権が他者に移転した後も、著作者人格権は著作者が保有する (第6条の2第1項)。 |
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* 著作者の死後も著作者人格権は存続する (第6条の2第2項)。 |
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* 著作者人格権の放棄 (不行使契約の締結) の可能性についてはベルヌ条約に規定がない。 |
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ところがベルヌ条約が大陸法をベースにしていることから、英米法を採用する諸国はベルヌ条約を締結できず、アメリカ合衆国にいたっては同条約の発効 (1887年) から約1世紀もの間、著作者人格権が米国著作権法内でまったく規定されてこなかった。さらにベルヌ条約締結後も、著作者人格権が視覚芸術作品に限定して認められていることから、米国はベルヌ条約違反だとの批判もある。 |
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{{See also|著作権法 (アメリカ合衆国)#著作者人格権}} |
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=== TRIPS協定 === |
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{{Wikisourcelang|en|Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights|TRIPS協定 (1994年署名・1995年発効) の英語原文}} |
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ベルヌ条約の保護水準を引き上げる目的で採択されたのが、1995年発効の[[TRIPS協定]]である。これはベルヌ・プラス方式とも呼ばれ、TRIPS協定の締結国はベルヌ条約も遵守することが求められている。しかしこのベルヌ・プラス方式からは、著作者人格権を規定したベルヌ条約第6条の2が除外されている{{Sfn|田村善之|1998|pp=464–465|ps=--玉井克哉 (1995) からの孫引き}}{{Sfn|玉井克哉|1995|p=45}}。これは、ベルヌ条約違反だと批判されているアメリカ合衆国を救済するために取られた措置と言われている。なぜならば、TRIPS協定はWTO (世界貿易機関) の協定の一部として作成されており、WTOは提訴や報復措置などの制度を採用しているからである。つまり、著作者人格権をTRIPS協定に含めてしまうと、著作者人格権の保護水準が低いアメリカ合衆国に対し、WTO加盟国からの提訴が頻発するリスクがあったからである{{Sfn|岡本薫|2003|pp=218–220}}。 |
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== 各国の対応 == |
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国際条約は各国の足並みを揃えるために、最低限の水準を規定しているのに対し、その条約の加盟国はそれぞれ著作権の国内法を整備することで、何が著作者人格権の侵害行為にあたるのか、侵害が起こった際にはどう裁くのかを細かく規定している。さらに著作権法に基づいて下される裁判所の判決は、国ごとだけでなく個別訴訟ごとに大きく異なる。 |
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=== 日本 === |
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[[著作権法|日本の著作権法]]でも、一身専属性が規定されている ([[b:著作権法第59条|59条]])。また、日本法では一身専属性のある権利は相続の対象にはならないため ([[b:民法第896条|民法896条但書]])、著作者人格権も相続の対象にはならない。 |
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ただし、ベルヌ条約6条の2(2)が著作者の死後における著作者人格権の保護を要求していることから、著作者の死亡・解散後も、著作者が存しているならば著作者人格権の侵害となるような行為を禁止するとともに([[b:著作権法第60条|60条]])、著作者の2親等内の親族または遺言指定人による[[差止請求権]]や名誉回復措置請求権の行使が認められている([[b:著作権法第116条|116条]])。ただし、116条の行使権は著作者人格権と同様に一身専属であるため、著作者の2親等内の親族が全て死亡(失踪宣告を含む)した場合は行使権者はいなくなると解される<ref group="注">なお、遺言指定人による行使権は、著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して50年を経過した後(即ち死亡年に51を加えた年の元日以降)は消滅する。ただし消滅するべき日に2親等内の親族が生存等している場合は、当該2親等内の親族が全て死亡(失踪宣告を含む)した日に消滅する。 |
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なお、2018年12月30日施行のTPP11法改正以降は、著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して70年を経過した後(即ち死亡年に71を加えた年の元日以降)に消滅することとなる。</ref>。人格権保護の行使権者がいなくなった場合、日本では法第120条に基づく刑事介入だけが存続する<ref group="注">第六十条又は第百一条の三の規定に違反した者は、五百万円以下の罰金に処する。非親告罪</ref>。 |
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著作者人格権の放棄の可能性についてはベルヌ条約と同様、日本の著作権法にも規定はない。この点については、日本では事前に包括して放棄することはできないと一般的に解されており、範囲を限定しない著作者人格権の不行使契約について無効とする見解もある。このような考え方は、著作者人格権は一般的な[[人格権]]と同質の権利であるという理解を前提に、人格権は権利者の人格にかかわるものであり、物権的処分をすることは公序良俗に反するという考え方に基づいている。 |
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後述するとおり、日本の著作権法は、ベルヌ条約に規定されていない種類の著作者人格権をも認めている(著作権法第2章第3節第2款)。また、著作権法が規定する著作者人格権には該当しなくても、民法の[[不法行為]]に関する規定により著作者の人格的利益が保護される場合もある。 |
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<!-- 出典不明の加筆のため、コメントアウト。出典が分かれば、文脈を整えた上で復活させて下さい。 |
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==== 公表権 ==== |
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公表権とは、未公表の著作物(同意を得ずに公表されたものも含む)を公衆に提供又は提示する権利のことをいう([[b:著作権法第18条|18条]])。条文上は明記されていないものの、公表の時期や方法についても決定できる権利と理解されている。著作者の同意を得ずに公表された著作物についても、まだ公表されていないものとして扱われる。公表するか否かはあくまでも著作者本人の意思によらしめる以上、著作物の内容が知れ渡っていること自体は、公表権の成否には影響しない。著作者自身が公表した著作物や、著作者の同意に基づき公表された著作物については、公表権は消滅し、いったん公表について与えた同意は撤回できない。 |
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著作権法は、公表の同意についての推定規定を置いている。まず著作物一般に関するものとして、著作者が著作権を譲渡した場合は、著作物の利用態様について著作権の譲受人に委ねられたと解されるので、公表に同意があったと推定される(18条2項1号)。 |
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また、美術品等の原作品の所有者を保護するため、著作者が美術の著作物又は写真の著作物の原作品を譲渡した場合には原作品を公に展示することに同意したものと推定される(同項2号)。また、[[映画の著作物]]の場合は著作権が原始的に著作者(16条)ではなく映画製作者(2条1項10号)に帰属することがありうるが(29条)、その場合には著作者が公表について同意したものと推定される(18条2項3号)。 |
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なお、条文上は、「推定」となっているため、裁判で公表権の侵害が問題となる場合、同意の不存在につき著作者に[[証明責任]]があると理解するのが一般的な考え方である。もっとも、これに対しては、著作者が公表の拒絶について明確な意思表示がされていなければ、公表に同意があったものとみなされるべきとする考え方もある。 |
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==== 同一性保持権 ==== |
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同一性保持権とは、著作者の意に反して、著作物及びその題号の変更や切除その他の改変をすることを禁止する権利のことを指す(著作権法20条1項)。 |
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ただし該権利は、次のいずれかに当たる場合には適用されない。 |
ただし該権利は、次のいずれかに当たる場合には適用されない。 |
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* ほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変 |
* ほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変 |
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==== 侵害に対する刑事罰 ==== |
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著作者人格権を侵害した場合、日本の著作権法では、著作者人格権等侵害等罪として第119条2項により5年以下の懲役若しくは5000万円以下の罰金(又はこれらの併科)に処される。この罪は原則として親告罪である。ただし、[[権利管理情報]]に虚偽の情報を故意に付加しまたは故意に除去しもしくは改変する行為は人格権侵害であるが刑事罰の対象外である。 |
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著作物の改変を伴わない場合でも、その利用態様によっては表現が著作者の意図と異なる意図を持つものとして受け取られる可能性がある。そのため、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、著作者の著作者人格権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条6項)。例として、美術品としての絵画を風俗店の看板に使用する行為などが該当するとされている。 |
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また、著作者の死後においては、第60条又は第101条の3の規定(死亡後の人格的利益の保護)に違反した者は、第120条により500万円以下の罰金に処される。この罪は非親告罪である。 |
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なお、ベルヌ条約上は、「著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利」として、同一性保持権と名誉声望保持権が一体となっているが、日本法では改変等を伴わない場合を独立して扱う規定となっている。 |
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==== {{Visible anchor|民事裁判の判例|日本の判例}} ==== |
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== 著作者死亡後の人格的利益の保護 == |
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著作者人格権に関連する日本の主な判例は以下の通りである{{Sfn|小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘|2019|pp=64–84}}。 |
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[[文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約|ベルヌ条約]]上、[[著作者]]の死後における著作者人格権の行使に関する規定がある。これについては、前述「[[#一身専属性、処分可能性|一身専属性、処分可能性]]」参照。 |
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:; 公表権 - 中田英寿事件 |
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: 東京地裁 平成12年 (2000年) 2月29日判決、判時1715号76頁収録。 |
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: サッカー選手の[[中田英寿]]の半生を記した書籍を、中田本人の許諾なく出版社が出版。書籍には幼少期からプロ時代までの本人写真や、中学時代の文集に収録された詩などが含まれていた。これがパブリシティ権、プライバシー権、著作者人格権の公表権、および著作権の複製権侵害にあたるとして、出版差止と損害賠償を求めて提訴した。プライバシー権侵害と複製権侵害は認められたものの、既に公表された著作物であることから、公表権侵害は棄却された{{Sfn|小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘|2019|pp=64–65|ps=--小島立による執筆}}。 |
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:; 氏名表示権 - 歴史小説事件 |
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== 侵害に対する刑事罰 == |
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: 知財高裁 平成28年 (2016年) 6月29日判決、判例集未登載。 |
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著作者人格権を侵害した場合、日本の著作権法では、著作者人格権等侵害等罪として第119条2項により5年以下の懲役若しくは5000万円以下の罰金(又はこれらの併科)に処される。この罪は原則として親告罪である。ただし、[[権利管理情報]]に虚偽の情報を故意に付加しまたは故意に除去しもしくは改変する行為は人格権侵害であるが刑事罰の対象外である。 |
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: [[直木賞]]受賞作家の[[佐藤雅美]]は『[[田沼意次]]―主殿の税』などの歴史小説を執筆している。佐藤の著作物をテレビ番組に利用されたとして、番組の差止と3200万円の損害賠償を求めて、番組制作会社を相手に提訴した。一審の東京地裁は著作権侵害を認めて30万円の損害賠償を命じたが、これを不服として控訴した。二審の知財高裁では、番組のエンドロールに参考文献として著者名入りで小説名を表記していたことから、氏名表示権侵害にあたらないとした{{Sfn|小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘|2019|pp=66–67|ps=--志賀典之による執筆}}<ref>{{Cite web |url=https://www.asahi.com/articles/DA3S11621182.html |title=著作権侵害、作家・佐藤雅美さんが勝訴 |quote=今後の放送禁止や3200万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が25日、東京地裁であった (注: 一審の東京地裁と二審の知財高裁で判決は異なる)。|date=2015-02-26 |publisher=朝日新聞 |accessdate=2019-06-02}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://pt-times.com/news/detail/501 |title=直木賞作家の小説の著作権侵害訴訟で一審判決の賠償増額求めた控訴が棄却 |publisher=特許商標Times |accessdate=2019-06-02}}</ref>。 |
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:; 同一性保持権 - ときめきメモリアル事件 |
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また、著作者の死後においては、第60条又は第101条の3の規定(死亡後の人格的利益の保護)に違反した者は、第120条により500万円以下の罰金に処される。この罪は非親告罪である。 |
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{{Main|ときめきメモリアルメモリーカード事件}} |
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: 最高裁 平成13年 (2001年) 2月13日判決、民集55巻1号87頁収録。 |
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:; 同一性保持権 - 新梅田シティ事件 |
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: 大阪地裁 平成25年 (2013年) 9月6日判決、判時2222号93頁収録。 |
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: 大阪府にある複合商業施設・[[新梅田シティ]]の建築設計を巡る訴訟。造園家の基本設計に基づき、新梅田シティに庭園が造成され、1993年に開業している。その後、建築工事会社が2006年に新梅田シティ北側の工事を請け負い、緑地庭園の改修を行っている。さらに2013年、建築家・[[安藤忠雄]]が設計した「希望の壁」と題する巨大モニュメントを設置する工事が開始された。このモニュメント設置によって、当初の造園家の著作物である設計書の同一性保持が毀損されたとして、工事続行禁止の仮処分を求めて造園家が提訴した。造園家の設計書は、その思想が反映されていることから著作物であると認められた。また高さ9メートル、長さ78メートルの巨大モニュメント設置により、日照条件が悪化して植物が育たなくなることから、庭園の景観が影響を受けるとも指摘された。しかし、商業施設のオーナーが将来的に改修できないとなると不利益を被るとの判断から、造園家の申立ては棄却された{{Sfn|小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘|2019|pp=72–73|ps=--矢野敏樹による執筆}}<ref>{{Cite web |url=https://www.sankei.com/west/news/130619/wst1306190012-n1.html |title=安藤忠雄氏「希望の壁」は著作権侵害 設計者が設置差し止めの仮処分申し立て |publisher=産経新聞WEST |date=2013-06-19 |accessdate=2019-06-02}}</ref>。 |
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=== フランス === |
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{{Main|著作権法 (フランス)#著作者人格権}} |
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フランス著作権法では、著作者人格権が著作財産権よりも優先する点が特徴である{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=3}}。 |
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フランスでは著作者人格権は死後も永続して時効はなく (L121条-1-3)、第三者へ譲渡は不可とされるが (L121条-1-3)、相続の対象となる (L121条-1-4)<ref name=LF-CPI-L121>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?idSectionTA=LEGISCTA000006161636&cidTexte=LEGITEXT000006069414&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|121}}, Chapitre Ier : Droits moraux (第2章 第1節: 著作者人格権、第121条)}}</ref>{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=14}}。譲渡に関しては、たとえば[[ゴーストライター]]を起用して著作物を発表した場合、フランスではゴーストライターの起用主に著作者人格権を譲渡することはできない。仮にこのような譲渡契約を結んだとしても、契約自体が無効になる{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=15}}。 |
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著作者人格権の内訳は、公表権 (L121条-2、L121条-3)<ref name=LF-CPI-L121/>、氏名表示権 (L121条-1)<ref name=LF-CPI-L121/>、尊重権、および修正・撤回権 (L121条-4)<ref name=LF-CPI-L121/>の4つに分類されている。フランスにおける尊重権とは、著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する権利であり、他国の著作権法で一般的な同一性保持権よりも保護範囲の広い概念である。特に尊重権はフランスでの判例数が多く、条文だけでなく実質的にも尊重権は著作権者を手厚く保護している{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=15–16}}。公表権については、単に無断で公表されない権利だけでなく、公表の手段にも適用され、たとえば、書籍の出版契約上でハードカバーの装丁が規定されていたにも関わらず、出版者が著作者に無断でポケット文庫の装丁に変更して出版すると、フランスでは公表権侵害に当たる{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=14}}。修正・撤回権については、権利行使の際には損害賠償が伴うことから、著作者による実際の権利行使は極めて限定的である{{Sfn|井奈波朋子|2006|p=16}} |
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==== {{Visible anchor|民事裁判の判例|フランスの判例}} ==== |
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:; 公表権 - ウィスラー判決 ([[破毀院]]、1900年) |
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: アメリカ合衆国出身でイギリスで主に活躍した画家[[ジェームズ・マクニール・ウィスラー]] (ホイッスラーとも綴る) が、完成した作品を契約主に対して引き渡し拒否した事例である。フランスの最高裁にあたる破毀院は、ウィスラーに対して損害賠償は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=13–16}}。 |
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:; 公表権 - カモワン判決 (1931年) |
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: 出来栄えに不満を持った画家{{仮リンク|シャルル・カモワン|fr|Charles Camoin|en|Charles Camoin}}が切り刻んでゴミ箱に捨てた作品を、ゴミ漁り人がアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年に{{仮リンク|フランシス・カルコ|fr|Francis Carco|en|Francis Carco}}が所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた{{Sfn|Teilmann|2004|pp=5–6}}。 |
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:; 尊重権 - ベケット判決 (パリ大審裁、1992年) |
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: [[サミュエル・ベケット]]著『[[ゴドーを待ちながら]]』(1952年出版) は、ベケットが男性主人公を想定していたにも関わらず、演劇の演出家が女性に変更しようとしたことから、ベケットの死後に著作権相続人がこの演劇の差し止めを求めて提訴している。これに対し、パリ大審裁は1992年、尊重権侵害を認めている{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=15–16}}。しかし、同様の裁判がイタリアのローマでも問われ、2006年に改変を認めていることから、フランスとイタリアでは異なる判決となっている<ref name=Gurdian-Beckett>{{Cite web |url=https://www.theguardian.com/world/2006/feb/04/arts.italy |title=Beckett estate fails to stop women waiting for Godot |trans-title=ベケットの相続人が『ゴドーを待ちながら』の女性主人公化の阻止に失敗 |last=McMahon |first=Barbara |publisher=The Guardian |date=2006-02-04 |accessdate=2019=07-29 |language=en}}</ref>。 |
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:; 尊重権 - デビュッフェ判決 (ベルサイユ控訴院、1981年) |
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: フランスでは同一性保持 (改変禁止) 以外でも、尊重権侵害の裁判は発生している。自動車大手[[ルノー]]が彫刻家デュビュッフェに作品を発注したにも関わらず、ルノーが完成を拒んだことから、彫刻家の作品を完成させる尊重権が侵害されたして、原告デビュッフェが勝訴している{{Sfn|井奈波朋子|2006|pp=15–16}}。 |
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=== イギリス === |
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書面による著作者人格権の放棄を認めている{{要出典|date=2019年5月}}。 |
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== アメリカ合衆国における著作者人格権 == |
=== {{Visible anchor|アメリカ合衆国|アメリカ合衆国における著作者人格権}} === |
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{{seealso|著作権法 (アメリカ合衆国)# |
{{seealso|著作権法 (アメリカ合衆国)#著作者人格権}} |
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[[アメリカ合衆国 |
米国の連邦著作権法は[[合衆国法典]]第17編に収録されている。アメリカ合衆国は[[1989年]]にベルヌ条約に加盟し、1990年制定の法改正 (Visual Artists Rights Act of 1990、略称: VARA) によって、合衆国法典第17編[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section106A&num=0&edition=prelim 第106A条]が新たに加わった。この第106A条が著作者人格権に該当するが、[[視覚芸術]]の著作物に関するもの以外には著作者人格権を扱う規定を設けていない。 |
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第106A条(a)(1)では、自分の作品について著作者であることを主張する権利、自分が制作していない作品に著作者の名前を使用されない権利が認められており、これは氏名表示権に相当する。第106A条(a)(2)では、作品に対する各種の改変や破壊をされない権利が認められており、これは同一性保持権に相当する。但し、これらの規定にはいくつかの限定がついている。対象となる視覚芸術の範囲については、地図、広告、ポスターなどを含め多くの種類の芸術作品は同規定の視覚芸術の定義外となり、対象となる写真・彫刻・版画・絵画などの作品も、200点以上の複製が作成されていないこと、一点一点に著者の署名とシリアルナンバーが付されていることなどが要求されている ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section101&num=0&edition=prelim 第101条])。加えて、作品を破壊されない権利は、ある種の達成として認められた作品 (a work of recognized stature) についてだけ適用される (第106A条(a)(3))。また、この権利は著作者の死亡した年まで保護され、死後の保護は実質的に与えられていない。なお、これらの権利は譲渡はできないが、放棄はできるものとされている (第106A条(e))。 |
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このように著作権法上、著作者人格権が極めて限定された形でしか認められていない点については、ベルヌ条約で保護が要求される著作者人格権は、不正競争法 (unfair competition law) のような著作権法とは別の[[法 (法学)|法]]領域によって事実上保護されているものとして特段の規定が置かれていないと説明されている。不正競争法では、一般に商品の出所について虚偽の表示をすることを禁じており、著作物について出所を偽って(他人のものを自分の著作物であるかのように、あるいは第三者の著作物であるかのように)表示した場合に違反となることがある。不正競争法は各州で判例法や成文法の形で存在するほか、州際取引に適用される連邦法としても存在する。連邦法としては |
このように著作権法上、著作者人格権が極めて限定された形でしか認められていない点については、ベルヌ条約で保護が要求される著作者人格権は、不正競争法 (unfair competition law) のような著作権法とは別の[[法 (法学)|法]]領域によって事実上保護されているものとして、特段の規定が置かれていないと説明されている。不正競争法では、一般に商品の出所について虚偽の表示をすることを禁じており、著作物について出所を偽って(他人のものを自分の著作物であるかのように、あるいは第三者の著作物であるかのように)表示した場合に違反となることがある。不正競争法は各州で判例法や成文法の形で存在するほか、州際取引に適用される連邦法としても存在する。連邦法としては合衆国法典第17編第22章に収録されている{{仮リンク|ランハム法|en|Lanham Act}}がこの出所表示についての規定を含んでいる。これにより、著作者人格権の氏名表示権に相当する権利が保護されることになる。 |
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また、上述の点と一部重複するが、各[[州]]の(判例法としての)コモン・ローにより、著作者の著作物に対する一般的な人格権の保護がされていると説明されることもある。このことから、著作者人格権が保護の対象とする利益につき、著作権法の枠で考えるか否かという違いがあるに過ぎず、著作者人格権を正面から認める法制と実質的に差異はないとの考え方も示されている。 |
また、上述の点と一部重複するが、各[[州]]の(判例法としての)コモン・ローにより、著作者の著作物に対する一般的な人格権の保護がされていると説明されることもある。このことから、著作者人格権が保護の対象とする利益につき、著作権法の枠で考えるか否かという違いがあるに過ぎず、著作者人格権を正面から認める法制と実質的に差異はないとの考え方も示されている。 |
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==== {{Visible anchor|民事裁判の判例|米国の判例}} ==== |
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しかし、国際的には、アメリカはベルヌ条約に規定する著作者人格権の保護義務を遵守していないと評価されているのが現状である。実際、[[世界貿易機関#WTO協定|WTO協定]]の附属書として[[1994年]]に制定された[[知的所有権の貿易関連の側面に関する協定|TRIPs協定]]9条1項は、協定の加盟国に対してベルヌ条約の遵守を義務づけているが、著作者人格権の保護について規定したベルヌ条約6条の2をわざわざ明文で除外している。このような例外を認めたのは、協定不遵守を理由に[[世界貿易機関|WTO]]による紛争処理手続が発動されるのを防止するためと説明されており、当然これはアメリカを念頭に置いたものである。 |
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:; 同一性保持権 - モンティ・パイソン対ABC裁判 |
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{{See also|en: Gilliam v. American Broadcasting Companies, Inc.}} |
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: イギリスを代表するコメディ・グループの[[モンティ・パイソン]]がスケッチコメディの脚本・出演を手掛けたテレビ番組『[[空飛ぶモンティ・パイソン]]』(英国[[BBC]]にて1969年から1974年に放送) が、米国の[[アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー|ABC]]でも放送された際に一部内容が改変された。これに対し、モンティ・パイソンのメンバー内で唯一の米国籍を有する[[テリー・ギリアム]]他は、原著作物の同一性が損なわれたとしてABCを提訴した。編集カットによってモンティ・パイソンのブランドが毀損するとして、二審の第2巡回区[[合衆国控訴裁判所|控訴裁判所]]は1976年、勝訴の判決を下した<ref name=Justia-Pythons>{{Cite web |title=Terry Gilliam et al., Plaintiffs-appellants-appellees, v. American Broadcasting Companies, Inc., Defendant-appellee-appellant, 538 F.2d 14 (2d Cir. 1976) |url=https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/F2/538/14/93445/ |publisher=Justia |accessdate=2019-04-23}}</ref><ref name=JetLaw-Pythons>{{Cite web |title=Moral Rights in the US: Why Monty Python Would Say "Ni!" |url=http://www.jetlaw.org/2017/09/15/moral-rights-in-the-us-why-monty-python-would-say-%E2%80%9Cni%E2%80%9D/ |publisher=JETLaw |date=2017-10-04 |accessdate=2019-04-23}}</ref>。米国がベルヌ条約を批准し、著作者人格権の一部を著作権法の第106A条に定めたのは1989年であることから、これ以前に著作者人格権侵害を認めた判例は数少ない<ref name=MoralRights-NEA>{{Cite web |url=http://www.law.harvard.edu/faculty/martin/art_law/esworthy.htm |title=A Guide to the Visual Artists Rights Act |trans-title=視覚芸術家権利法の基礎 |author=Esworthy, Cynthia ({{仮リンク|全米芸術基金|en|National Endowment for the Arts}}所属 |publisher=[[ハーバード大学]]ロースクール |accessdate=2019-04-23 |language=en}})</ref>。また、第106A条は視覚芸術著作物に対象を限定しており、テレビ番組は対象外であることから、仮にこの訴訟が1989年以降であれば敗訴していた可能性も指摘されている<ref name=JetLaw-Pythons/>。 |
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:; パロディ関連の裁判 |
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=== コピーレフトライセンスとの関係 === |
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{{Main|著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)}} |
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==== コピーレフトライセンスとの関係 ==== |
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[[GNU General Public License|GPL]]や[[GNU Free Documentation License|GFDL]]をはじめとする、各種の[[コピーレフト]]ライセンスは、アメリカ合衆国著作権法を前提とする場合がほとんどであり、著作者人格権についての規定が存在しない。ゆえに、特にアメリカ合衆国以外の国において、著作者人格権とりわけ同一性保持権との関係で、これらのライセンスの有効性が問題とされる場合がある。 |
[[GNU General Public License|GPL]]や[[GNU Free Documentation License|GFDL]]をはじめとする、各種の[[コピーレフト]]ライセンスは、アメリカ合衆国著作権法を前提とする場合がほとんどであり、著作者人格権についての規定が存在しない。ゆえに、特にアメリカ合衆国以外の国において、著作者人格権とりわけ同一性保持権との関係で、これらのライセンスの有効性が問題とされる場合がある。 |
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==参考文献== |
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*著作 |
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**山本隆司『アメリカ著作権法の基礎知識』太田出版<ユニ知的所有権ブックス>、2004年 ISBN 4-87233-831-6 |
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*法令 |
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**[http://www.law.cornell.edu/uscode/html/uscode17/usc_sec_17_00000101----000-.html 17 U.S.C. § 101.] Cornell Legal Information Institute. (2007年1月23日参照) |
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**[http://www.law.cornell.edu/uscode/html/uscode17/usc_sec_17_00000106---A000-.htm 17 U.S.C. § 106A.] Cornell Legal Information Institute. (2007年1月23日参照) |
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**山本隆司・増田雅子共訳『[http://www.cric.or.jp/gaikoku/america/america.html 外国著作権法令集 和訳版アメリカ編]』社団法人著作権情報センター サイト内<外国著作権法令集> (2007年1月23日参照) |
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**[http://www.law.cornell.edu/uscode/html/uscode15/usc_sec_15_00001125----000-.html 15 U.S.C. § 1125.] Cornell Legal Information Institute. (2007年1月23日参照) |
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== 注釈 == |
== 注釈 == |
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== 出典 == |
== 出典 == |
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== 参考文献 == |
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* {{Cite journal |和書 |title=著作権判例百選 |url=http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641115422 |journal=別冊ジュリスト |author=小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘 |publisher=[[有斐閣]] |series=第6版 |year=2019 |isbn=978-4-641-11542-2 |ref=harv}} |
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* {{Cite journal|和書|title=フランス著作権制度の概要とコンテンツの法的保護 |issue=一般社団法人 デジタルコンテンツ協会が2005年11月24日に開催したセミナー議事録の加筆版 |author=井奈波朋子 |publisher=龍村法律事務所 |year=2006 |format=PDF |url=http://www.tatsumura-law.com/attorneys/tomoko-inaba/column/wp-content/uploads/2016/05/051124DCAJ.pdf |ref=harv}} |
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* {{Cite journal |title=Justifications for copyright: the evolution of le droit moral |trans_title=著作権の妥当性: フランスにおける著作者人格権の変遷 |url=http://www.copyright.bbk.ac.uk/contents/publications/workshops/theme1/steilmann.pdf |last=Teilmann |first=Stinna (コペンハーゲン大学) |year=2004 |work=2004 - Workshop on Network Theme 1 - THE THEORETICAL FRAMEWORK OF COPYRIGHT LAW |publisher=Birbeck University of London |language=en |ref=harv}} |
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== 関連文献 == |
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* {{Cite book |和書 |author=山本隆司 |title=アメリカ著作権法の基礎知識 |publisher=太田出版 |series=ユニ知的所有権ブックス |year=2004 |isbn=4-87233-831-6}} |
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==関連項目== |
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*[[著作権]] |
* [[著作権]] |
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*[[実演家人格権]] |
* [[実演家人格権]] |
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==リンク== |
==外部リンク== |
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* [http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime2.html 著作者にはどんな権利がある?] - [[著作権情報センター]] |
* [http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime2.html 著作者にはどんな権利がある?] - 公益社団法人 [[著作権情報センター]] |
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* [http://www.cric.or.jp/db/world/america.html 外国著作権法 >> アメリカ編 (2018年9月改訳版)] - 公益社団法人 著作権情報センター (米国著作権法弁護士・山本隆司 訳) |
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[[it:Diritto d'autore italiano#Diritto morale]] |
2019年8月9日 (金) 06:13時点における版
著作者人格権 (ちょさくしゃじんかくけん、英語: Moral rights) とは著作権の一部であり、著作物の創作者である著作者が精神的に傷つけられないよう保護する権利の総称である。美術・文芸・楽曲・映像といった著作物には、著作者の思想や感情が色濃く反映されているため、第三者による著作物の利用態様によっては著作者の人格的利益を侵害する恐れがある。しかし、国際条約や各国の著作権法によって、どこまでを具体的に著作者人格権侵害として認めるかは異なる。
概説
著作権における著作者人格権は以下のように位置付けられている[1][2]。
- 著作権
- 著作者本人の権利 (狭義の著作権)
- 著作財産権 (最狭義の著作権。著作物を使って富を得る支分権の総称)
- 複製権 (小説本の印刷や楽曲のCD販売などコピーを作る権利)
- 翻案権 (翻訳、編曲、映画化) ...など
- 著作者人格権 (著作者が精神的に傷つけられない権利の総称)
- 公表権 (無断で著作物そのものを公表されない権利)
- 氏名表示権 (著作物を公表する際に著作者名の表記を決定する権利で、実名以外に無名または変名使用も含む)
- 同一性保持権 (無断で著作物を改変されて誤解を受けない権利)
- 名誉声望保持権 (著作物を適切な場所に展示するなど、著作者の社会的評価を守る権利)
- 出版権廃絶請求権 (著作物の内容に確信を持てなくなった際に著作物の複製をやめるよう求める権利)
- 修正増減請求権 (改めて複製する際に修正バージョンを適用するよう求める権利)
- 著作財産権 (最狭義の著作権。著作物を使って富を得る支分権の総称)
- 著作隣接者の権利 (実演家、放送事業者など著作物を伝える者の権利)
- 著作者本人の権利 (狭義の著作権)
著作者本人の人格権以外に、著作隣接者である実演家人格権などもあるが、本項での解説は著作者本人に限定する。
人格権と財産権の関係
一般的には、著作者の「心」を守るのが著作者人格権であるのに対し、「財布」を守るのが著作財産権だと分類される。とは言え、第三者による著作物の利用が、著作者人格権と著作財産権の両方を侵害することもあり、両者は密接に関係している。たとえば、個人的に綴っていた非公開の日記を第三者が無断でコピーして配れば、著作者人格権の公表権と、著作財産権の複製権の両方を侵害したことになる[3]。また、著作者人格権の同一性保持権 (著作物を改変されない権利) と、著作物の翻案権や二次的著作物の利用権 (著作物を改変する権利) など両立の困難な領域もある[4]。
誰が権利を持てるかについても、著作者人格権と著作財産権では異なる。著作財産権は土地や建物のように権利を譲渡、相続、貸与できるが、一方で著作者人格権は一般的に譲渡が認められていない。これは、著作者人格権が著作者本人の心を保護することを目的としているためである。換言すると、複製権や出版権などの著作財産権を第三者に売却した後でも、著作者人格権だけは消滅せず著作者本人を守り続ける。これを「一身専属性」と呼ぶ。
ただし、この一身専属性を著作者本人の意志で否定する、つまり著作者人格権を自ら放棄したり、不行使にする契約を結べるのかについては、一部の国で認められている。著作者人格権を守ることを優先しすぎた結果、著作財産権の面で著作者が経済的に不利な立場に追い込まれてしまうリスクを回避する必要性があるためである。たとえば、著作物利用のライセンス契約を締結する際に、著作者人格権をライセンス先に譲渡できないとなると、著作者人格権侵害による訴訟リスクを考慮して、契約そのものが破談になってしまったり、リスク分を加味して著作者が不利な契約の立場に追い込まれるといった副作用が考えうる[5]。
さらに原著作物だけでなく、それを用いて創作された二次的著作物に対しても、原著作物の著作者は著作者人格権を有していることになる[6]。たとえば、イギリス人作家が執筆した「未発表」の英語の小説を基に、翻訳出版権を正式に獲得した日本人翻訳家が日本語化したとする。このように著作財産権的には何ら問題ないケースでも、仮にイギリス人作家から承諾を得ずに日本語版小説のみ出版すると、著作者人格権のうちの公表権を侵害したことになる。
- 著作者の死後の扱い
国によっては著作者人格権の譲渡は認めないが、相続は認めることがある (詳細は#各国の対応を参照)。生前に名誉棄損などの行為が禁止されて人格が守られてきたように、安心して死ねる権利が著作者には必要だとの考えである[7]。没後の著作者に対する名誉棄損がその遺族にまで影響を及ぼす場合には、遺族分の人格権侵害に限定して、損害賠償や差止などの具体的な法的措置が取られることがある[8]。
制限と例外
著作者人格権は全ての著作者や著作物を等しく保護するわけではなく、例外も存在する。ここでの「著作者」だが、職務著作 (法人著作) のように個人以外に著作権が帰属する場合、氏名表示権を除く著作者人格権は認める必要がないとされる。またコンピュータ・プログラムも特許権ではなく著作権の範疇で保護されることがあるが、感情を表現した芸術的な著作物とは扱いが異なる。実用的なコンピュータ・プログラムの場合、中身を改変してもプログラマーが精神的に傷つく可能性が低いことから、同一性保持権には大幅な制限がかかるとされる[9]。
また世界の著作権法は大陸法と英米法のいずれかの流れを汲んでおり、英米法の国では伝統的に著作財産権のみを重視していることから、著作者人格権の保護範囲がそもそも非常に狭いアメリカ合衆国のような国も存在する。
著作者人格権の内訳
公表権
もともと公表を予定していない著作物 (私的な手紙・日記、企業の機密資料など) や、公表を予定しているが未完成の著作物 (セリフを推敲中の映画の脚本、描きかけの絵画など) がある。これらの著作物を、著作者以外の第三者によって無断で公表されない権利が公表権である[10]。ここでの「公表」 (英: publish) にどのような手段が具体的に含まれるのかは各国の法律により異なるが、上演、展示、口述、インターネット上での掲示も含む[10]。
氏名表示権
著作物を公表すると決めた場合、どのように著作者名を表記するか決定できるのが氏名表示権であり、これには実名以外に変名 (ペンネームなど) または無名 (匿名) の使用も含む。たとえばジャーナリストが報道記事を執筆して、実名で公表を希望しているにもかかわらず、寄稿先の雑誌が著作者名を表示せずに発行すれば、氏名表示権侵害になる。また、本来の著作者以外の名前で著作物を公表しても、やはり氏名表示権侵害にあたる。報道記事を執筆したジャーナリストの実名ではなく、雑誌社名であったり、編集長の名前に書き換えてしまう行為は禁じられる。さらにいわゆる「盗作」も著作者名を書き換えているに等しいため、著作財産権の侵害だけでなく、著作人格権の氏名表示権侵害である[11]。
なお、公表に使用する名前を実名にするか、変名や無名にするかで著作権の保護期間に差が出るため注意が必要である。一般的には実名の場合、存命期間および死後70年間を著作物の保護期間だとする国が多いが、変名や無名著作物の場合は著作者の死亡日を確定できないため、著作者の生死にかかわらず、作品の公表から一定年数を保護期間と定めることが多い。
同一性保持権
著作物を無断で改変されない権利を同一性保持権と呼ぶが、どこからが改変にあたるのかが問題となる。たとえば雑誌の紙面上の都合で修正したり、別の文章を足したり、写真の一部をカットしたり、映画に一部別のシーンを挿入したりすることである。また、小説や映画などの中身だけでなくタイトルにも同一性保持はおよぶ。さらに原著作物だけでなく、小説の映画化や楽曲の編曲といった二次著作物であっても、原著作者の主観的な意志を尊重しなければならない[12]。
ただし、利用者側の観点でやむをえないと判断される場合や、改変によって著作者を精神的に傷つけるおそれがない著作物の場合は、改変が認められる。たとえば学校教育に利用される著作物にフリガナを振る、旧字体を常用漢字に変えるといった利用は認められている。ソフトウェアの場合は、バグ (不具合) を改修したり利便性を増すためにバージョンアップすることが想定されるため、同一性保持権は制限される[13]。
いわゆる「パロディ」については、国によって扱いが異なる。パロディが著作権侵害に当たらないと明記している希な国がフランスである (L122条-5)[14]。著作者人格権の保護範囲が狭い米国においては、パロディを含む変形的利用 (transformative use) は、著作者人格権ではなくフェアユース (公正利用) の文脈で合法性が個別に判断されている[15]。パロディなどの同一性保持権に関しては、各国で判例が存在する (詳細は#各国の対応で後述)。
名誉声望保持権
たとえ著作物を改変していなくとも、著作物の利用方法次第では著作者の名誉を傷つけることがある。たとえば、名画を風俗店の看板に利用する行為が名誉声望保持権の侵害にあたるとされている。社会的な評判が傷つけられたかどうかが問われるため、著作物の公表方法が実名ではなく変名や無名であっても、著作者は名誉声望保持権を有していると考えられる[16]。
なお、著作者の名誉を守る法的手段として、著作権法上の名誉声望侵害を訴えるだけでなく、一般的な民法上の名誉毀損で損害賠償や差止などを提訴できる。また刑事上の名誉毀損罪での告訴もありうる[17]。
出版権廃絶請求権と修正増減請求権
自分の著作物の内容に満足して、公表権を行使して著作物をいったん公表した。しかしその後に不備に気付き、そのまま公表され続けることが精神的苦痛につながる場合は、著作物の複製をやめるよう求めることができるという考え方が出版権廃絶請求権である。同様の理由で、修正版への差し替えを要求する権利が修正増減請求権である。しかし、著作者から出版権を獲得した出版社に対し、出版済またはこれから出版予定の著作物を市場から回収する義務や、修正版に差し替える義務を負わせるとなると損害が発生することから、これら請求権を著作権者が行使する際には、出版権者に対する損害補てんが前提となる。また修正増減請求権の場合は、現時点で市場に出回っているものではなく、今後増刷する複製物のみを差し替えの対象としている。なお、日本の著作権法上では廃絶請求権は出版物に限定している[18]。
国際条約上の保護
著作者人格権が、実際の法律上でどのように保護されているか見ていく。著作権者の権利に関する主な国際条約には、発効年の古い順にベルヌ条約、万国著作権条約、TRIPS協定、WIPO著作権条約の4本がある。このうち、著作者人格権の観点からはベルヌ条約とTRIPS協定の2本が特に重要である。なお万国著作権条約は、ベルヌ条約の条件が厳しくて加盟できなかった国々に対する橋渡し的な役割を担っていたものの、その後各国が国内法を整備してベルヌ条約も締結できたことから、21世紀に入ってからは法的な役割を終えている。WIPO著作権条約 (世界知的所有権機関 (WIPO) 主管) は、インターネットの普及に伴うデジタル著作物の技術的保護を重点的に定めており、ベルヌ条約の「2階部分」とも言われている。著作者人格権の観点では今なお、1階部分のベルヌ条約がベースとなっている[19]。以上の理由から、ベルヌ条約とTRIPS協定に絞って解説する。
ベルヌ条約
締結済が187か国 (2019年5月現在) に上り[20]、かつ著作権保護の基本方針をとりまとめたのがベルヌ条約である。ベルヌ条約の第6条では著作者人格権の保護を規定しており、主な特徴は以下の通りである。
- 著作者人格権の種類として、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望保持権を認める (第6条の2第1項)。
- 公表権については、1928年のローマ改正の際に追加が提案されるも実現せず、ベルヌ条約に規定がない[21]。
- 著作財産権が他者に移転した後も、著作者人格権は著作者が保有する (第6条の2第1項)。
- 著作者の死後も著作者人格権は存続する (第6条の2第2項)。
- 著作者人格権の放棄 (不行使契約の締結) の可能性についてはベルヌ条約に規定がない。
ところがベルヌ条約が大陸法をベースにしていることから、英米法を採用する諸国はベルヌ条約を締結できず、アメリカ合衆国にいたっては同条約の発効 (1887年) から約1世紀もの間、著作者人格権が米国著作権法内でまったく規定されてこなかった。さらにベルヌ条約締結後も、著作者人格権が視覚芸術作品に限定して認められていることから、米国はベルヌ条約違反だとの批判もある。
TRIPS協定
ベルヌ条約の保護水準を引き上げる目的で採択されたのが、1995年発効のTRIPS協定である。これはベルヌ・プラス方式とも呼ばれ、TRIPS協定の締結国はベルヌ条約も遵守することが求められている。しかしこのベルヌ・プラス方式からは、著作者人格権を規定したベルヌ条約第6条の2が除外されている[22][23]。これは、ベルヌ条約違反だと批判されているアメリカ合衆国を救済するために取られた措置と言われている。なぜならば、TRIPS協定はWTO (世界貿易機関) の協定の一部として作成されており、WTOは提訴や報復措置などの制度を採用しているからである。つまり、著作者人格権をTRIPS協定に含めてしまうと、著作者人格権の保護水準が低いアメリカ合衆国に対し、WTO加盟国からの提訴が頻発するリスクがあったからである[24]。
各国の対応
国際条約は各国の足並みを揃えるために、最低限の水準を規定しているのに対し、その条約の加盟国はそれぞれ著作権の国内法を整備することで、何が著作者人格権の侵害行為にあたるのか、侵害が起こった際にはどう裁くのかを細かく規定している。さらに著作権法に基づいて下される裁判所の判決は、国ごとだけでなく個別訴訟ごとに大きく異なる。
日本
日本の著作権法でも、一身専属性が規定されている (59条)。また、日本法では一身専属性のある権利は相続の対象にはならないため (民法896条但書)、著作者人格権も相続の対象にはならない。
ただし、ベルヌ条約6条の2(2)が著作者の死後における著作者人格権の保護を要求していることから、著作者の死亡・解散後も、著作者が存しているならば著作者人格権の侵害となるような行為を禁止するとともに(60条)、著作者の2親等内の親族または遺言指定人による差止請求権や名誉回復措置請求権の行使が認められている(116条)。ただし、116条の行使権は著作者人格権と同様に一身専属であるため、著作者の2親等内の親族が全て死亡(失踪宣告を含む)した場合は行使権者はいなくなると解される[注 1]。人格権保護の行使権者がいなくなった場合、日本では法第120条に基づく刑事介入だけが存続する[注 2]。
著作者人格権の放棄の可能性についてはベルヌ条約と同様、日本の著作権法にも規定はない。この点については、日本では事前に包括して放棄することはできないと一般的に解されており、範囲を限定しない著作者人格権の不行使契約について無効とする見解もある。このような考え方は、著作者人格権は一般的な人格権と同質の権利であるという理解を前提に、人格権は権利者の人格にかかわるものであり、物権的処分をすることは公序良俗に反するという考え方に基づいている。
後述するとおり、日本の著作権法は、ベルヌ条約に規定されていない種類の著作者人格権をも認めている(著作権法第2章第3節第2款)。また、著作権法が規定する著作者人格権には該当しなくても、民法の不法行為に関する規定により著作者の人格的利益が保護される場合もある。
同一性保持権
同一性保持権とは、著作者の意に反して、著作物及びその題号の変更や切除その他の改変をすることを禁止する権利のことを指す(著作権法20条1項)。
ただし該権利は、次のいずれかに当たる場合には適用されない。
- 教科用図書等への掲載(第33条第1項、4項)、教科用拡大図書等の作成のための複製等(第33条の2第1項)または学校教育番組の放送等(第34条第1項)の規定に基づき利用する際に、用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められる場合
- 建築の著作物については、建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
- 特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにする(移植)ため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変をする場合[注 3]
- ほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
侵害に対する刑事罰
著作者人格権を侵害した場合、日本の著作権法では、著作者人格権等侵害等罪として第119条2項により5年以下の懲役若しくは5000万円以下の罰金(又はこれらの併科)に処される。この罪は原則として親告罪である。ただし、権利管理情報に虚偽の情報を故意に付加しまたは故意に除去しもしくは改変する行為は人格権侵害であるが刑事罰の対象外である。
また、著作者の死後においては、第60条又は第101条の3の規定(死亡後の人格的利益の保護)に違反した者は、第120条により500万円以下の罰金に処される。この罪は非親告罪である。
民事裁判の判例
著作者人格権に関連する日本の主な判例は以下の通りである[25]。
- 公表権 - 中田英寿事件
- 東京地裁 平成12年 (2000年) 2月29日判決、判時1715号76頁収録。
- サッカー選手の中田英寿の半生を記した書籍を、中田本人の許諾なく出版社が出版。書籍には幼少期からプロ時代までの本人写真や、中学時代の文集に収録された詩などが含まれていた。これがパブリシティ権、プライバシー権、著作者人格権の公表権、および著作権の複製権侵害にあたるとして、出版差止と損害賠償を求めて提訴した。プライバシー権侵害と複製権侵害は認められたものの、既に公表された著作物であることから、公表権侵害は棄却された[26]。
- 氏名表示権 - 歴史小説事件
- 知財高裁 平成28年 (2016年) 6月29日判決、判例集未登載。
- 直木賞受賞作家の佐藤雅美は『田沼意次―主殿の税』などの歴史小説を執筆している。佐藤の著作物をテレビ番組に利用されたとして、番組の差止と3200万円の損害賠償を求めて、番組制作会社を相手に提訴した。一審の東京地裁は著作権侵害を認めて30万円の損害賠償を命じたが、これを不服として控訴した。二審の知財高裁では、番組のエンドロールに参考文献として著者名入りで小説名を表記していたことから、氏名表示権侵害にあたらないとした[27][28][29]。
- 同一性保持権 - ときめきメモリアル事件
- 最高裁 平成13年 (2001年) 2月13日判決、民集55巻1号87頁収録。
- 同一性保持権 - 新梅田シティ事件
- 大阪地裁 平成25年 (2013年) 9月6日判決、判時2222号93頁収録。
- 大阪府にある複合商業施設・新梅田シティの建築設計を巡る訴訟。造園家の基本設計に基づき、新梅田シティに庭園が造成され、1993年に開業している。その後、建築工事会社が2006年に新梅田シティ北側の工事を請け負い、緑地庭園の改修を行っている。さらに2013年、建築家・安藤忠雄が設計した「希望の壁」と題する巨大モニュメントを設置する工事が開始された。このモニュメント設置によって、当初の造園家の著作物である設計書の同一性保持が毀損されたとして、工事続行禁止の仮処分を求めて造園家が提訴した。造園家の設計書は、その思想が反映されていることから著作物であると認められた。また高さ9メートル、長さ78メートルの巨大モニュメント設置により、日照条件が悪化して植物が育たなくなることから、庭園の景観が影響を受けるとも指摘された。しかし、商業施設のオーナーが将来的に改修できないとなると不利益を被るとの判断から、造園家の申立ては棄却された[30][31]。
フランス
フランス著作権法では、著作者人格権が著作財産権よりも優先する点が特徴である[32]。
フランスでは著作者人格権は死後も永続して時効はなく (L121条-1-3)、第三者へ譲渡は不可とされるが (L121条-1-3)、相続の対象となる (L121条-1-4)[33][34]。譲渡に関しては、たとえばゴーストライターを起用して著作物を発表した場合、フランスではゴーストライターの起用主に著作者人格権を譲渡することはできない。仮にこのような譲渡契約を結んだとしても、契約自体が無効になる[35]。
著作者人格権の内訳は、公表権 (L121条-2、L121条-3)[33]、氏名表示権 (L121条-1)[33]、尊重権、および修正・撤回権 (L121条-4)[33]の4つに分類されている。フランスにおける尊重権とは、著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する権利であり、他国の著作権法で一般的な同一性保持権よりも保護範囲の広い概念である。特に尊重権はフランスでの判例数が多く、条文だけでなく実質的にも尊重権は著作権者を手厚く保護している[36]。公表権については、単に無断で公表されない権利だけでなく、公表の手段にも適用され、たとえば、書籍の出版契約上でハードカバーの装丁が規定されていたにも関わらず、出版者が著作者に無断でポケット文庫の装丁に変更して出版すると、フランスでは公表権侵害に当たる[34]。修正・撤回権については、権利行使の際には損害賠償が伴うことから、著作者による実際の権利行使は極めて限定的である[37]
民事裁判の判例
- 公表権 - ウィスラー判決 (破毀院、1900年)
- アメリカ合衆国出身でイギリスで主に活躍した画家ジェームズ・マクニール・ウィスラー (ホイッスラーとも綴る) が、完成した作品を契約主に対して引き渡し拒否した事例である。フランスの最高裁にあたる破毀院は、ウィスラーに対して損害賠償は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した[38]。
- 公表権 - カモワン判決 (1931年)
- 出来栄えに不満を持った画家シャルル・カモワンが切り刻んでゴミ箱に捨てた作品を、ゴミ漁り人がアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年にフランシス・カルコが所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた[39]。
- 尊重権 - ベケット判決 (パリ大審裁、1992年)
- サミュエル・ベケット著『ゴドーを待ちながら』(1952年出版) は、ベケットが男性主人公を想定していたにも関わらず、演劇の演出家が女性に変更しようとしたことから、ベケットの死後に著作権相続人がこの演劇の差し止めを求めて提訴している。これに対し、パリ大審裁は1992年、尊重権侵害を認めている[36]。しかし、同様の裁判がイタリアのローマでも問われ、2006年に改変を認めていることから、フランスとイタリアでは異なる判決となっている[40]。
- 尊重権 - デビュッフェ判決 (ベルサイユ控訴院、1981年)
- フランスでは同一性保持 (改変禁止) 以外でも、尊重権侵害の裁判は発生している。自動車大手ルノーが彫刻家デュビュッフェに作品を発注したにも関わらず、ルノーが完成を拒んだことから、彫刻家の作品を完成させる尊重権が侵害されたして、原告デビュッフェが勝訴している[36]。
イギリス
書面による著作者人格権の放棄を認めている[要出典]。
アメリカ合衆国
米国の連邦著作権法は合衆国法典第17編に収録されている。アメリカ合衆国は1989年にベルヌ条約に加盟し、1990年制定の法改正 (Visual Artists Rights Act of 1990、略称: VARA) によって、合衆国法典第17編第106A条が新たに加わった。この第106A条が著作者人格権に該当するが、視覚芸術の著作物に関するもの以外には著作者人格権を扱う規定を設けていない。
第106A条(a)(1)では、自分の作品について著作者であることを主張する権利、自分が制作していない作品に著作者の名前を使用されない権利が認められており、これは氏名表示権に相当する。第106A条(a)(2)では、作品に対する各種の改変や破壊をされない権利が認められており、これは同一性保持権に相当する。但し、これらの規定にはいくつかの限定がついている。対象となる視覚芸術の範囲については、地図、広告、ポスターなどを含め多くの種類の芸術作品は同規定の視覚芸術の定義外となり、対象となる写真・彫刻・版画・絵画などの作品も、200点以上の複製が作成されていないこと、一点一点に著者の署名とシリアルナンバーが付されていることなどが要求されている (第101条)。加えて、作品を破壊されない権利は、ある種の達成として認められた作品 (a work of recognized stature) についてだけ適用される (第106A条(a)(3))。また、この権利は著作者の死亡した年まで保護され、死後の保護は実質的に与えられていない。なお、これらの権利は譲渡はできないが、放棄はできるものとされている (第106A条(e))。
このように著作権法上、著作者人格権が極めて限定された形でしか認められていない点については、ベルヌ条約で保護が要求される著作者人格権は、不正競争法 (unfair competition law) のような著作権法とは別の法領域によって事実上保護されているものとして、特段の規定が置かれていないと説明されている。不正競争法では、一般に商品の出所について虚偽の表示をすることを禁じており、著作物について出所を偽って(他人のものを自分の著作物であるかのように、あるいは第三者の著作物であるかのように)表示した場合に違反となることがある。不正競争法は各州で判例法や成文法の形で存在するほか、州際取引に適用される連邦法としても存在する。連邦法としては合衆国法典第17編第22章に収録されているランハム法がこの出所表示についての規定を含んでいる。これにより、著作者人格権の氏名表示権に相当する権利が保護されることになる。
また、上述の点と一部重複するが、各州の(判例法としての)コモン・ローにより、著作者の著作物に対する一般的な人格権の保護がされていると説明されることもある。このことから、著作者人格権が保護の対象とする利益につき、著作権法の枠で考えるか否かという違いがあるに過ぎず、著作者人格権を正面から認める法制と実質的に差異はないとの考え方も示されている。
民事裁判の判例
- 同一性保持権 - モンティ・パイソン対ABC裁判
- イギリスを代表するコメディ・グループのモンティ・パイソンがスケッチコメディの脚本・出演を手掛けたテレビ番組『空飛ぶモンティ・パイソン』(英国BBCにて1969年から1974年に放送) が、米国のABCでも放送された際に一部内容が改変された。これに対し、モンティ・パイソンのメンバー内で唯一の米国籍を有するテリー・ギリアム他は、原著作物の同一性が損なわれたとしてABCを提訴した。編集カットによってモンティ・パイソンのブランドが毀損するとして、二審の第2巡回区控訴裁判所は1976年、勝訴の判決を下した[41][42]。米国がベルヌ条約を批准し、著作者人格権の一部を著作権法の第106A条に定めたのは1989年であることから、これ以前に著作者人格権侵害を認めた判例は数少ない[43]。また、第106A条は視覚芸術著作物に対象を限定しており、テレビ番組は対象外であることから、仮にこの訴訟が1989年以降であれば敗訴していた可能性も指摘されている[42]。
- パロディ関連の裁判
コピーレフトライセンスとの関係
GPLやGFDLをはじめとする、各種のコピーレフトライセンスは、アメリカ合衆国著作権法を前提とする場合がほとんどであり、著作者人格権についての規定が存在しない。ゆえに、特にアメリカ合衆国以外の国において、著作者人格権とりわけ同一性保持権との関係で、これらのライセンスの有効性が問題とされる場合がある。
注釈
- ^ なお、遺言指定人による行使権は、著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して50年を経過した後(即ち死亡年に51を加えた年の元日以降)は消滅する。ただし消滅するべき日に2親等内の親族が生存等している場合は、当該2親等内の親族が全て死亡(失踪宣告を含む)した日に消滅する。 なお、2018年12月30日施行のTPP11法改正以降は、著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して70年を経過した後(即ち死亡年に71を加えた年の元日以降)に消滅することとなる。
- ^ 第六十条又は第百一条の三の規定に違反した者は、五百万円以下の罰金に処する。非親告罪
- ^ ただしこの規定は自己利用の範疇における改変などに人格権たる同一性保持権を適用しないとするに留まるものであって、改変したものを公衆に譲渡しまたは公衆送信する事まで認めるものと解する事はできない。また、本項以外の他の規定(例えば技術的保護手段、権利管理情報、技術的制限手段に関する規定、または不正競争防止法など)の適用を除外するものと解する事もできない。
出典
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- ^ 文化庁 2007, pp. 19–22.
- ^ “Q: 私の書いた日記をクラスの友達が無断でコピーして皆に配ってしまいました。とても悔しくて抗議しようと思うのですが、これは著作権侵害になるのですか。”. 著作権なるほど質問箱. 文化庁. 2019年5月20日閲覧。
- ^ 田村善之 1998, pp. 335–336.
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- ^ Loi no 122, Chapitre II : Droits patrimoniaux (第2章 第2節: 財産的権利 (著作財産権)、第122条)
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- ^ “直木賞作家の小説の著作権侵害訴訟で一審判決の賠償増額求めた控訴が棄却”. 特許商標Times. 2019年6月2日閲覧。
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- ^ Esworthy, Cynthia (全米芸術基金所属. “A Guide to the Visual Artists Rights Act” [視覚芸術家権利法の基礎] (英語). ハーバード大学ロースクール. 2019年4月23日閲覧。)
参考文献
- 田村善之『著作権法概説』有斐閣、1998年。ISBN 4-641-04473-2。
- 文化庁『著作権法入門 2007』社団法人 著作権情報センター (CRIC)、2007年。ISBN 978-4-88526-057-5。
- 岡本薫『著作権の考え方』岩波書店〈岩波新書 (新赤版) 869〉、2003年。ISBN 4-00-430869-0。
- 玉井克哉「知的財産に関する新たな国際的枠組の発足」『ジュリスト』第1071号、有斐閣、1995年7月。
- WIPO (黒川徳太郎訳)『ベルヌ条約逐条解説』著作権資料協会、1979年。ISBN 928050004X。
- 斉藤博『人格権法の研究』一粒社、1979年。ASIN B000J8IUNC。
- 吉田大輔『全訂版 著作権が明確になる10章』出版ニュース社、2009年。ISBN 978-4-7852-0135-7。
- 文化庁『著作権法入門 2007』社団法人 著作権情報センター (CRIC)、2007年。ISBN 978-4-88526-057-5。
- 小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘「著作権判例百選」『別冊ジュリスト』、有斐閣、2019年、ISBN 978-4-641-11542-2。
- 井奈波朋子「フランス著作権制度の概要とコンテンツの法的保護」(PDF)一般社団法人 デジタルコンテンツ協会が2005年11月24日に開催したセミナー議事録の加筆版、龍村法律事務所、2006年。
- Teilmann, Stinna (コペンハーゲン大学) (2004). “Justifications for copyright: the evolution of le droit moral” (英語). 2004 - Workshop on Network Theme 1 - THE THEORETICAL FRAMEWORK OF COPYRIGHT LAW (Birbeck University of London) .
関連文献
- 山本隆司『アメリカ著作権法の基礎知識』太田出版〈ユニ知的所有権ブックス〉、2004年。ISBN 4-87233-831-6。
関連項目
外部リンク
- 著作者にはどんな権利がある? - 公益社団法人 著作権情報センター
- 外国著作権法 >> アメリカ編 (2018年9月改訳版) - 公益社団法人 著作権情報センター (米国著作権法弁護士・山本隆司 訳)