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Ziglin解析とMorales-Ramis理論について加筆 |
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{{about|古典力学での運動の問題|中華人民共和国のSF作家劉慈欣の長編SF小説|三体}} |
{{about|古典力学での運動の問題|中華人民共和国のSF作家劉慈欣の長編SF小説|三体}} |
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[[古典力学]]において、'''三体問題'''(さんたいもんだい、{{lang-en-short|three-body problem}})とは、[[重力 |
[[古典力学]]において、'''三体問題'''(さんたいもんだい、{{lang-en-short|three-body problem}})とは、互いに[[重力]]相互作用する三質点系の運動がどのようなものかを問う問題<ref>{{天文学辞典 |urlname=three-body-problem}}</ref><ref name="Whittaker1988">E. T. Whittaker (1988), Chapter.XIII</ref><ref name="ohnuki_yoshida2001">大貫、吉田(2001)、第5章</ref>。[[天体力学]]では[[万有引力]]により相互作用する天体の運行をモデル化した問題として、18世紀中頃から活発に研究されてきた<ref name="Diacu_Holmes1999">F. Diacu and P. Holmes (1988)</ref><ref name="Peterson1993">I. Peterson (1993)</ref>。運動の軌道を与える一般解が[[求積法]]では求まらない問題として知られる。 |
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==概要== |
==概要== |
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現実的に三体問題を取り扱う場合、問題の簡略化のために、いくつかの仮定がなされることがある。三体ともに同一平面上を運動するという仮定を置く場合、'''平面三体問題'''と呼ばれる。三体のうち、一体の質量が他の二体に影響を及ぼさないほど微小で無視できるとする仮定を置いた場合、'''制限三体問題'''と呼ばれる。特に制限三体問題において、残り二体の軌道を[[円軌道]]と仮定する場合、'''円制限三体問題'''と呼ばれる。 |
ふたつの[[質点]]が互いにニュートン重力を及ぼし合って運動するとき、その軌道は[[楕円]]、[[放物線]]、[[双曲線]]のいずれかになることが知られている([[ケプラーの法則]])。三体問題はこの系にさらにひとつの質点が加わった場合の進化を求めるもので、[[太陽]]-[[地球]]-[[月]]系や、[[太陽]]-[[木星]]-[[土星]]系など、天体力学の様々な局面で必要となるため古くから調べられてきた。現実的に三体問題を取り扱う場合、問題の簡略化のために、いくつかの仮定がなされることがある。三体ともに同一平面上を運動するという仮定を置く場合、'''平面三体問題'''と呼ばれる。三体のうち、一体の質量が他の二体に影響を及ぼさないほど微小で無視できるとする仮定を置いた場合、'''制限三体問題'''と呼ばれる。特に制限三体問題において、残り二体の軌道を[[円軌道]]と仮定する場合、'''円制限三体問題'''と呼ばれる。 |
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よく知られた特殊解としては、円制限三体問題における[[ラグランジュ点]]や、三体の質量が等しい場合に8の字型の軌道をとる8の字解<ref name="Chenciner_Montgomery2000">A. Chenciner and R. Montgomery, [http://www.emis.ams.org/journals/Annals/152_3/chencine.pdf "A remarkable periodic solution of the three bodyproblem in the case of equal masses,"] ''Annals of Mathematics'' '''152''', 2000, 881–901.</ref>等が存在する。 |
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三体問題が求積可能であるかという[[可積分]]性についての否定的な結果は、フランスの数学者[[アンリ・ポアンカレ]]によって、導かれた<ref name="Poincare1890">H. Poincaré, "Sur le probléme des trois corps et les équations de la dynamique," ''Acta Mathematica'', '''13''', 1890, 1-270. {{doi|10.1007/BF02392506}}</ref>。1889年にスウェーデン兼ノルウェー国王[[オスカル2世 (スウェーデン王)|オスカー2世]]の還暦を祝うために開催されたコンテストで、ポアンカレはいくつかの仮定を置いた制限三体問題を考察し、運動を定める[[第一積分 |
三体問題が求積可能であるかという[[可積分]]性についての否定的な結果は、フランスの数学者[[アンリ・ポアンカレ]]によって、導かれた<ref name="Poincare1890">H. Poincaré, "Sur le probléme des trois corps et les équations de la dynamique," ''Acta Mathematica'', '''13''', 1890, 1-270. {{doi|10.1007/BF02392506}}</ref>。1889年にスウェーデン兼ノルウェー国王[[オスカル2世 (スウェーデン王)|オスカー2世]]の還暦を祝うために開催されたコンテストで、ポアンカレはいくつかの仮定を置いた制限三体問題を考察し、運動を定める[[第一積分]]がある種の[[摂動級数]]では表現できないことを示した([[ポアンカレの定理]])。さらに、ポアンカレはこの研究の中で[[安定多様体]]、[[不安定多様体]]が交差するために生じる[[ホモクリニック軌道]]と呼ばれる極めて複雑な運動の挙動の概念に到達した<ref name="Poincare">H. Poincaré, [https://archive.org/details/lesmthodesnouv003poin ''Les Méthodes Nouvelles de la Méchanique Celeste''], Gauthier-Villars, Paris, Tome.I (1892), Tome.II(1897), Tome.III(1899)</ref>。 |
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こうした三体問題を端緒とする積分可能性や[[カオス理論|カオス現象]]の研究は、現代的な[[力学系]]理論の発展の契機となっている。 |
こうした三体問題を端緒とする積分可能性や[[カオス理論|カオス現象]]の研究は、現代的な[[力学系]]理論の発展の契機となっている。 |
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== 運動方程式 == |
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=== 一般三体問題 === |
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第 <math>i = 1, 2, 3</math> 体の[[ニュートンの運動方程式|運動方程式]]は、その座標を <math>\mathbf{r}_i</math>、質量を <math>m_i</math> とするとき、次式により与えられる。 |
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:<math>m_i \frac{ d^2 \mathbf{r}_i }{ d t^2 } = - \sum_{j \neq i} G m_i m_j \frac{ \mathbf{r}_i - \mathbf{r}_j }{ | \mathbf{r}_i - \mathbf{r}_j |^3 }</math> |
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ここに <math>t</math> は時刻、<math>G</math> は[[重力定数]]である。 |
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この系には以下の10個の[[運動の積分]]が存在することが[[レオンハルト・オイラー]]の時代までには知られていた (<math>\mathbf{v}_i = \frac{ d \mathbf{r}_i }{ d t }</math> は第 <math>i</math> 体の速度)<ref>大貫&吉田, p. 162.</ref>。これらの積分はオイラー積分と呼ばれる<ref>{{Cite book |和書 |author=堀 源一郎 |title=天体力学講義 |date=1988 |isbn=978-4130621182 |publisher=東京大学出版会 |page=136}}</ref>。 |
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* エネルギー <math>E = \sum_i \frac{ 1 }{ 2 } m_i \mathbf{v}_i^2 - \frac{ 1 }{ 2 } \sum_{i \neq j} G \frac{ m_i m_j }{ | \mathbf{r}_i - \mathbf{r}_j | }</math> |
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* 運動量 <math>\mathbf{P} = \sum_i m_i \mathbf{v}_i</math> |
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* 角運動量 <math>\mathbf{L} = \sum_i m_i \mathbf{r}_i \times \mathbf{v}_i</math> |
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* 重心位置 <math>\sum_i m_i \mathbf{r}_i - \mathbf{P} t</math> |
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この系の自由度は18であるため三体問題が求積可能であるためにはさらに7個の積分が必要であるが、これ以外の運動の積分は存在せず、従って三体問題は求積可能ではない([[#求積不可能性]]節を参照)。そのため、三体問題の解は([[ラグランジュ点]]のような例外を除いて)[[摂動論]]や数値シミュレーション([[N体シミュレーション]])を用いて求められる。 |
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=== 制限三体問題 === |
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第三体の質量が第一体および第二体の質量に比べて十分小さいとき(<math>m_3 \ll m_1, m_2</math>)、第一体および第二体の運動方程式において第三体による重力の寄与を無視することができる。この近似のもとでの三体問題を特に[[制限三体問題]] (restricted three-body problem) と呼ぶ。制限三体問題においては、第一体および第二体の運動は[[ケプラーの法則|ケプラー運動]]であり、求積可能である。従って、この場合、二体がつくる重力場中を運動する第三体の軌道を求めることが主たる問題となる<ref>木下, pp. 97-98.</ref>。 |
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:<math>\frac{ d^2 \mathbf{r} }{ d t^2 } = - \sum_{j = 1, 2} G m_j \frac{ \mathbf{r} - \mathbf{r}_j ( t ) }{ | \mathbf{r} - \mathbf{r}_j ( t ) | }</math> |
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多くの場合に、制限三体問題のうち二体が楕円軌道を描く状況が興味の対象となる。特にその軌道が円軌道 (離心率 <math>e = 0</math>) である場合を[[円制限三体問題]] (circular restricted three-body problem) と呼ぶ。この場合、共動回転系では第一体および第二体が静止し数学的な取り扱いが容易になるため、しばしば採用される。この座標系では円制限三体問題の運動方程式は[[遠心力]]と[[コリオリ力]]を含む次の形を取る<ref>木下, pp. 99-100.</ref>。 |
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:<math>\ddot{x} = n^2 x + 2 n \dot{y} - G m_1 \frac{ x + a_1 }{ | \mathbf{r} + a_1 \hat{\textbf{x}} |^3 } - G m_2 \frac{ x - a_2 }{ | \mathbf{r} - a_2 \hat{\textbf{x}} |^2 }</math> |
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:<math>\ddot{y} = n^2 y - 2 n \dot{x} - G m_1 \frac{ y }{ | \mathbf{r} + a_1 \hat{\textbf{x}} |^3 } - G m_2 \frac{ y }{ | \mathbf{r} - a_2 \hat{\textbf{x}} |^2 }</math> |
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:<math>\ddot{z} = - G m_1 \frac{ z }{ | \mathbf{r} + a_1 \hat{\textbf{x}} |^3 } - G m_2 \frac{ z }{ | \mathbf{r} - a_2 \hat{\textbf{x}} |^2 }</math> |
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ここで <math>a</math> を二体運動の[[軌道長半径]]として <math>a_1 = \frac{ m_2 }{ m_1 + m_2 } a</math>, <math>a_2 = \frac{ m_1 }{ m_1 + m_2 } a</math> であり、第一体は座標 <math>( - a_1, 0, 0 )</math> に、第二体は座標 <math>( a_2, 0, 0 )</math> にあるものとした。また <math>\hat{\textbf{x}}</math> は <math>x</math> 軸単位ベクトルである。円制限三体問題には[[ヤコビ積分]]として知られる保存量 |
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:<math>C_\mathrm{J} = \frac{ 2 G m_1 }{ | \mathbf{r} + a_1 \hat{\textbf{x}} | } + \frac{ 2 G m_2 }{ | \mathbf{r} - a_2 \hat{\textbf{x}} | } + n^2 ( x^2 + y^2 ) - ( \dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2 )</math> |
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が存在する<ref>木下, p. 100.</ref>。 |
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なお、第一体または第二体の近傍には、その天体の重力が支配的な領域が存在し、[[ヒル圏]]と呼ばれる<ref>{{天文学辞典|urlname=hill-radius |title=ヒル半径}}</ref>。 |
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== 特殊解 == |
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=== ラグランジュ点 === |
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[[File:Lagrange very massive.svg|thumb|right|330px|第一体(黄)と第二体(青)がつくる重力場中を運動する第三体の回転系での平衡点(ラグランジュ点)。]] |
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円制限三体問題において、共動回転系において第三体が静止することが可能な5つの点をラグランジュ点と呼び、記号 L<sub>1</sub>, L<sub>2</sub>, L<sub>3</sub>, L<sub>4</sub>, ''L''<sub>5</sub> により表される。このうち L<sub>1</sub> から L<sub>3</sub> の3点は第一体、第二体、第三体が一直線上に並ぶもので、オイラーの直線解として知られる。一方 L<sub>4</sub> と L<sub>5</sub> は三体が正三角形を描くもので、[[ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ]]によって1772年に発見された<ref>J.L. Lagrange Essai sur le problème des trois corps, 1772, Oeuvres tome 6 </ref>。ラグランジュの正三角形解は一般三体問題の場合にも存在する<ref>{{Cite book |last1=Boccaletti |first1=Dino |last2=Pucacco |first2=Giuseppe |title=Theory of Orbits: Volume 1: Integrable Systems and Non-perturbative Methods |date=1996 |publisher=Springer |isbn=978-3540589631 |pages=239-242}}</ref>。 |
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{{詳細記事|ラグランジュ点|馬蹄形軌道}} |
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=== 月の運動 === |
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[[月]]の運動は主として[[地球]]の重力場によるが、[[太陽]]の重力もまた無視できない寄与を持つ。[[月の軌道]]の理論は三体問題として定式化され、その運動を正確に求めるために詳細に調べられてきた<ref name="Fitzpatrick">{{Cite book |last=Fitzpatrick |first=Richard |title=An Introduction to Celestial Mechanics |date=2012 |publisher=Cambridge University Press |isbn=978-1107023819 |chapter=10}}</ref>。この理論は[[アレクシス・クレロー]]、[[ジョージ・ウィリアム・ヒル]]、[[シャルル=ウジェーヌ・ドロネー]]、[[アーネスト・ウィリアム・ブラウン]]らの研究によって発展した<ref name="Fitzpatrick"/>。 |
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{{詳細記事|:en:Lunar theory}} |
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=== 周期解 === |
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三体問題の解のうち周期解(ある時間 <math>T</math> が経過するともとの配位に戻る解)には特に興味が持たれてきた。ジョージ・ヒルは円制限三体問題において(ある近似のもとで)周期解を発見した<ref name="Frauenfelder">{{Cite book |last1=Frauenfelder |first1=Urs |last2=van Koert |first2=Otto |title=The Restricted Three-Body Problem and Holomorphic Curves |date=2018 |publisher=Birkhäuser Basel |isbn=978-3-319-72278-8 |doi=10.1007/978-3-319-72278-8 |pages=94-95}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hill |first=G. W. |title=Researches in the Lunar Theory |journal=American Journal of Mathematics |date=1878 |pages=5-26 |volume=1 |issue=1 |doi=10.2307/2369430}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hill |first=G. W. |title=On the part of the motion of the lunar perigee which is a function of the mean motions of the sun and moon |journal=Acta Mathematica |date=1886 pages=1-36 |volume=8 |url=https://projecteuclid.org/euclid.acta/1485888530}}</ref>。[[アンリ・ポアンカレ]]はヒルの研究に触発されて<ref name="Frauenfelder"/>(回転を除いて)周期的な解が平面制限三体問題に無限に存在することを証明し、これらの解について次のように記述している<ref>{{Cite web |url=http://www.bourbaphy.fr/chenciner.pdf |title=Poincar ́e and the Three-Body Problem |author=Alain Chenciner |accessdate=2020-10-09}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://fr.wikisource.org/wiki/Page:Henri_Poincar%C3%A9_-_Les_m%C3%A9thodes_nouvelles_de_la_m%C3%A9canique_c%C3%A9leste,_Tome_1,_1892.djvu/94 |title=Henri Poincaré - Les méthodes nouvelles de la mécanique céleste, Tome 1, 1892 |accessdate=2020-10-09}}</ref>。 |
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{{Quotation|D'ailleurs, ce qui nous rend ces solutions périodiques si précieuses, c'est qu'elles sont, pour ainsi dire, la seule brèche par où nous puissions essayer de pénétrer dans une place jusqu'ici réputée inabordable. (これらの周期解が貴重なものであるのは、それがこれまで手が届かないと思われていた場所に至る唯一の突破口になり得るからである)|Henri Poincaré|Les méthodes nouvelles de mécanique céleste, Tome 1, p. 82}} |
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[[File:Three body problem figure-8 orbit animation.gif|thumb|320px|8の字解のアニメーション。]] |
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計算機時代に入ると様々な周期解を数値的に求めることが可能になった。1967年に Szebehely らは[[ピタゴラス三体問題]]の研究を通じてひとつの周期解を数値的に構成した<ref>{{Cite journal |last1=Szebehely |first1=Victor |last2=Peters |first2=C. Frederick |title=A new periodic solution of the problem of three bodies |journal=Astronomical Journal |date=1967 |volume=72 |page=1187 |doi=10.1086/110398 |bibcode=1967AJ.....72.1187S}}</ref>。1970年代には[[:en:Michel Hénon|Michel Hénon]]らによってはひとつのパラメータで特徴づけられる周期解の族が発見された(このクラスの解は Broucke-Hadjidemetriou-Hénon family として知られる)<ref>{{Cite journal |last=Hénon |first=M. |journal=Celestial Mechanics |date=1974 |volume=10 |issue=3 |pages=375-388}}</ref><ref>{{Cite journal |last1=Broucke |first1=R. |last2=Boggs |first2=D. |journal=Celestial Mechanics |date=1975 |volume=11 |pages=13-38}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Broucke |first=R. |journal=Celestial mechanics |date=1975 |volume=12 |pages=439-462}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hadjidemetriou |first=J |journal=Celestial mechanics |date=1975 |volume=12 |pages=155-174}}</ref><ref>{{Cite journal |last1=Hadjidemetriou |first1=J |last2=Christides |first2=T. |journal=Celestial mechanics |date=1975 |volume=12 |pages=175-187}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hadjidemetriou |first=J |journal=Celestial mechanics |date=1975 |volume=12 |pages=255-276}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hénon |first=M. |journal=Celestial Mechanics |date=1976 |volume=13 |pages=267-285}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Hénon |first=M. |journal=Celestial Mechanics |date=1977 |volume=15 |pages=243-261}}</ref>。1990年代には三体が単一の閉曲線上を運動する解(例えば8の字を描く「8の字解」)の存在が証明され、注目を集めた<ref>{{Cite journal |last=Moore |first=C. |title=Braids in classical dynamics |journal=Physical Review Letters |date=1993 |pages=3675-3679 |volume=70 |issue=24 |doi=10.1103/PhysRevLett.70.3675}}</ref><ref>{{Cite journal |last1=Chenciner |first1=A. |last2=Montgomery |first2=R. |title=A Remarkable Periodic Solution of the Three-Body Problem in the Case of Equal Masses |journal=The Annals of Mathematics |datE=2000 |page=881 |volume=152 |issue=3 |doi=10.2307/2661357}}</ref><ref>{{Cite journal |last1=Chenciner |first1=A. |last2=Gerver |first2=J. |last3=Montgomery |first3=R. |last4=Simó |first4=C |title=9 Simple Choreographic Motions of N Bodies: A Preliminary Study |journal=Geometry, Mechanics, and Dynamics |date=2002 |pages=287-308 |doi=10.1007%2Fb97525}}</ref>。この解のクラスは Carles Simó によって{{仮リンク|舞踏解|en|n-body choreography}} (choreography) と命名され、同様の手法によってn体問題の周期解が多数得られた<ref>{{Cite web |url=http://yang.amp.i.kyoto-u.ac.jp/~shibayama/animation_j.html |title=アニメーション of 柴山允瑠のホームページ |author=柴山允瑠 |accessdate=2020-10-09}}</ref>。 |
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{{詳細記事|:en:n-body choreography}} |
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== 解の性質 == |
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=== 求積不可能性 === |
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三体問題の[[可積分系|求積可能性]]は、19世紀末に証明された[[ブルンスの定理]]<ref>{{Cite journal |last=Bruns |first=H. |title=Über die Integrale des Vielkörper-Problems |journal=Acta Mathematica |volume=11 |date=1887 |pages=25-96 |doi=10.1007/BF02612319}}</ref>および[[ポアンカレの定理]]<ref name="Poincare1890"/>によって否定的に解決された<ref>大貫&吉田, pp. 163-170.</ref>。 |
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1887年に出版されたブルンスの定理は次のことを主張する<ref name="大貫&吉田163">大貫&吉田, pp. 163-164.</ref>。 |
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<blockquote style="padding:1ex;border:2px solid #808080; background:#white"> |
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一般三体問題について、座標 <math>( \mathbf{r}_1, \mathbf{r}_2, \mathbf{r}_3 )</math>、運動量 <math>( \mathbf{p}_1, \mathbf{p}_2, \mathbf{p}_3 )</math>、時刻 <math>t</math> の代数関数であるような[[運動の積分]]でオイラー積分(重心運動、エネルギー、運動量、角運動量)と線型独立であるようなものは存在しない。 |
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</blockquote> |
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この事実は、ただちに三体問題の非可積分性を意味するものではないものの、可能な運動の積分の形について強い制約を課す<ref name="大貫&吉田163"/>。1898年に[[ポール・パンルヴェ]]はこの定理を拡張し、運動量に関して代数関数であるような運動の積分はオイラー積分以外に存在しないことを証明した<ref>{{Cite book |和書 |author=堀 源一郎 |title=天体力学講義 |date=1988 |isbn=978-4130621182 |publisher=東京大学出版会 |page=137}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Painlevé |first=Paul |title=Mémoire sur les intégrales premières du probléme des n corps |journal=Bulletin Astronomique, Serie I |volume=15 |pages=81-113 |date=1898 |bibcode=1898BuAsI..15...81P}}</ref>。 |
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[[アンリ・ポアンカレ]]が1890年の研究報告および1892年の著書で定式化したポアンカレの定理は次のことを主張する<ref>大貫&吉田, pp. 164-170.</ref>。 |
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<blockquote style="padding:1ex;border:2px solid #808080; background:#white"> |
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パラメータ <math>\mu</math> を持つ近可積分系ハミルトニアン |
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:<math>H = H_0 ( I ) + \mu H_1 ( I, \theta ) + \mu^2 H_2 ( I, \theta ) + \cdots</math> |
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(ここに <math>( I, \theta )</math> は[[作用・角変数]]で、<math>H_1, H_2, \cdots</math> は <math>\theta</math> に関して周期 <math>2 \pi</math> であるものとする)について、<math>\mathrm{det}\, \left( \frac{ \partial^2 H_0 }{ \partial I_i \partial I_j } \right)</math> が恒等的にゼロではなく、<math>H_1</math> の角変数 <math>\theta</math> に関する[[フーリエ級数|フーリエ係数]]のうちゼロでないものが無限個存在するならば、パラメータ <math>\mu</math> に関してべき級数展開 |
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:<math>\Phi ( I, \theta, \mu ) = \Phi_0 ( I, \theta ) + \mu \Phi_1 ( I, \theta ) + \mu^2 \Phi_2 ( I, \theta ) + \cdots</math> |
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が可能であるような <math>( I, \theta, \mu )</math> について解析的な運動の積分 <math>\Phi ( I, \theta, \mu )</math> でハミルトニアン <math>H</math> と独立なものは存在しない。 |
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</blockquote> |
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特に、制限三体問題は <math>\mu = m_2 / ( m_1 + m_2 )</math>、かつ <math>H^2</math> をハミルトニアンと解釈することでこの定理の仮定を満足し<ref name="柴山"/>、従ってパラメータ <math>\mu</math> に関して解析的な運動の積分は存在しない。この結果は「三体問題は解析的に解けない」という表現で広く知られている<ref name="柴山">{{Cite book |和書 |last=柴山 |first=允瑠 |title=重点解説ハミルトン力学系 : 可積分系とKAM理論を中心に |year=2016 |publisher=サイエンス社 |issn=0386-8257 |pages=95-100.}}</ref>。ただしこれはあくまでパラメータ <math>\mu</math> に解析的に依存する運動の積分が存在することはないということを主張するだけであって、個々の <math>\mu</math> の値での非可積分性は定理の主張に含まれない<ref>大貫&吉田, p. 169.</ref>。 |
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{{詳細記事|ポアンカレの定理}} |
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その後、20世紀後半から21世紀初めにかけて、[[ソフィア・コワレフスカヤ]]の[[特異点解析]](これは彼女を[[コワレフスカヤのコマ]]の発見に導いた)の流れを受ける Ziglin 解析<ref>大貫&吉田, pp. 176-211..</ref>による<ref>Ziglin, S.L.: On involutive integrals of groups of linear symplectic transformations and natural mechanicalsystems with homogeneous potential. Funktsional. Anal. i Prilozhen.34(3), 26–36 (2000)</ref>、あるいは Ziglin 解析に[[微分ガロア理論]]を応用する Morales-Ramis 理論<ref>Morales-Ruiz, J.J., Ramis, J.P.: A note on the non-integrability of some Hamiltonian systems with a homoge-neous potential. Methods Appl. Anal.8(1), 113–120 (2001)</ref>による<ref>Morales-Ruiz, J.J., Simon, S.: On the meromorphic non-integrability of someN-body problems. Discret.Contin. Dyn. Syst.24(4), 1225–1273 (2009)</ref>、三体が任意の質量を持つ一般三体問題の非可積分性の証明が得られた<ref>{{Cite journal |last1=Maciejewski |first1=A |last2=Przybylska |first2=M |title=Non-integrability of the three-body problem |journal=Celestial Mechanics and Dynamical Astronomy |date=2011 |pages=17-30 |volume=110 |issue=1}}</ref>。 |
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=== 特異点 === |
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[[多体問題|n体問題]]の有限時間 <math>t \in [ 0, t^* )</math> での解 <math>\left( r_1 ( t ), r_2 ( t ), r_3 ( t ) \right)</math> について、それを時刻 <math>t = t^* < \infty</math> を超えて延長できないとき、その点を[[特異点 (数学)|特異点]] (singularity) と呼ぶ<ref name="Diacu1993"/>。極限 <math>t \to t^*</math> において粒子座標が有限値に収束する場合、これは粒子の衝突を意味する<ref>Sigel & Moser, p. 25.</ref>ため衝突特異点 (collision singularity) と呼ぶ。一方そうでない場合を非衝突特異点 (non-collision singularity) と呼ぶ<ref name="Diacu1993"/>。ただし三体問題においては非衝突特異点が存在しないことが[[ポール・パンルヴェ]]によって証明されている(この考察が[[パンルヴェ予想]]の出発点となった)<ref name="Diacu1993">{{Cite journal |last=Diacu |first=Florin |title=Painlevé’s Conjecture |journal=The Mathematical Intelligencer |date=1993 |volume=15 |issue=2 |pages=6-12 |doi=10.1007/BF03024186}}</ref>。 |
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三体問題における二体衝突は正則であり適切な座標変換により除去できることが[[トゥーリオ・レヴィ=チヴィタ]]や[[カール・スンドマン]]の研究によって20世紀前半には明らかになっていた<ref>{{Cite journal |last=Levi-Civita |first=T. |journal=Annal. Mat. Pura Appl. |volume=9 |issue=3 |date=1903 |pages=1-32}}</ref><ref>{{Cite journal |last=Levi-Civita |first=T. |date=1904 |journal=Ann. Mat. Ser. |volume=3 |page=9 }}</ref><ref>{{Cite journal |last=Levi-Civita |first=T. |date=1906 |title=Sur la résolution qualitative du problème restreint des trois corps |journal=Acta Math. |volume=30 |pages=305-327 |url=https://projecteuclid.org/euclid.acta/1485887161}}</ref><ref>{{Cite journal |first=Levi-Civita |last=T. |date=1920 |title=Sur la régularisation du problème des trois corps |journal=Acta Math. |volume=42 |pages=99-144 |url=https://projecteuclid.org/euclid.acta/1485887516}}</ref>(詳細は[[レヴィ=チヴィタ変換]]を見よ)。一方、三体の[[同時衝突]]については Siegel (1941) によって真性特異点であることが示されている<ref>{{Cite journal |last=Siegel |first=Carl Ludwig |title=Der Dreierstoss |journal=Annals of Mathematics |date=1941 |pages=127-168 |volume=42 |issue=1}}</ref>。スンドマンは三体衝突が可能であるためには系の全角運動量がゼロでなければならないことを証明した<ref>Siegel & Moser, p. 26.</ref>([[カール・ワイエルシュトラス]]はスンドマンより早くこの事実を知っていたが、証明を出版しなかった<ref>{{Cite book |last=Barrow-Green |firsT=June |title=Poincaré and the Three-Body Problem |date=1997 |publisher=American Mathematical Society |doi=10.1090/hmath/011/01 |page=137}}</ref>)。 |
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McGehee は1974年に現在McGehee変数と呼ばれる座標変換を考案し、三体衝突近傍の振る舞いを取り扱うブロー・アップ (blow up) という手法を開発した<ref>{{Cite journal |last=McGehee |first=R. |title=Triple Collision in the Collinear Three-Body Problem |journal=Inventiones mathematicae |date=1974 |pages=191-227 |volume=29 |doi=10.1007/BF01390175 |bibcode=1974InMat..27..191M }}</ref>。この方法はその後の研究でしばしば用いられている<ref name="谷川"/>。 |
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=== 最終運動 === |
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[[File:Numerical solution of Pythagorean problem of three bodies.svg|thumb|[[ピタゴラス三体問題]]の数値解。これは一体がエスケープし二体が連星を組むhyperbolic-elliptic型の最終運動に到達する<ref>{{Cite journal |last1=Szebehely |first1=Victor |last2=Peters |first2=C. Frederick |title=Complete solution of a general problem of three bodies |journal=The Astronomical Journal |volume=72 |date=1967 |page=876 |bibcode=1967AJ.....72..876S |doi=10.1086/110355}}</ref>。]] |
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Chazy (1922)<ref>{{Cite journal |last=Chazy |first=Jean |title=Sur l’allure du mouvement dans le problème des trois corps quand le temps croît indéfiniment |journal=Annales scientifiques de l’É.N.S |volume=39 |date=1922 |pages=29-130 |url=http://www.numdam.org/item/ASENS_1922_3_39__29_0/}}</ref> は、三体問題の特異性のない解の <math>t \to \infty</math> での最終的な振る舞いについて研究し、以下に述べる7パターンのいずれかであると結論した<ref>{{Cite journal |last=Alekseev |first=V. M. |title=Final motions in the three-body problem and symbolic dynamics |journal=Usp. Mat. Nauk |volume=36 |issue=4 |pages=161-176 |bibcode=1981UsMN...36..161A}} [https://iopscience.iop.org/article/10.1070/RM1981v036n04ABEH003025 英訳]</ref>。なおここで添え字 <math>i</math>, <math>j</math> は 1, 2, 3を走り、例えば <math>r_1</math> は第2体と第3体の距離を表す。 |
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* 二体間距離がすべて無限大に発散する場合 <math>r_j \to \infty</math> (<math>j = 1, 2, 3</math>)。この場合、極限 <math>r_j / t \to C_j</math> が存在し、その値に応じて次の3パターンに分類される。 |
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** The hyperbolic motions <math>H</math>: <math>C_j > 0</math> (<math>j = 1, 2, 3</math>). |
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** The hyperbolic-parabolic motions <math>HP_i</math>: <math>C_i = 0</math> かつ <math>C_j > 0</math> (<math>j \neq i</math>). |
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** The parabolic motions <math>P</math>: <math>C_j = 0</math> (<math>j = 1, 2, 3</math>). |
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* ひとつの二体間距離が有界 <math>\sup_{t > 0} \{ r_i ( t ) \} < \infty</math> であり、かつ残りの二体間距離は無限大に発散 <math>r_j \to \infty</math> (<math>j \neq i</math>) する場合。この場合も極限 <math>r_j / t \to C_j</math> に応じて次の2パターンに分類される。 |
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** The hyperbolic-elliptic motions <math>HE_i</math>: <math>C_j > 0</math> (<math>j \neq i</math>). |
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** The parabolic-elliptic motions <math>PE_i</math>: <math>C_j = 0</math> (<math>j \neq i</math>). |
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* それ以外の2パターン。 |
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** The bounded motions <math>B</math>: <math>\sup_{t > 0} \{ r_1 ( t ), r_2 ( t ), r_3 ( t ) \} < \infty</math>. |
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** The oscillatory motions <math>OS</math>: <math>\varlimsup_{t \to \infty} \sup_j \{ r_j ( t ) \} = \infty</math> かつ <math>\varliminf_{t \to \infty} \sup_j \{ r_j ( t ) \} < \infty</math>. |
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このうち振動運動<ref name="谷川">{{Cite web |author=谷川清隆 |date=1997 |url=https://ir.soken.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3459&item_no=1&page_id=29&block_id=155 |title=自由落下三体問題における衝突軌道、振動運動とカオス |publisher= |accessdate=2020-10-07}}</ref> (oscillatory motions) については、Chazy は理論的可能性としてこのパターンを指摘したものの、それが実際に三体問題において存在するのかどうかは不明だった。この問題については1960年に Sitnikov<ref>{{Cite journal |last=Sitnikov |first=K. |title=The existence of oscillatory motions in the three-body problems |journal=Dokl. Akad. Nauk SSSR |date=1960 |volume=133 |issue=2 |pages=303-306 |url=http://www.mathnet.ru/php/archive.phtml?wshow=paper&jrnid=dan&paperid=23819&option_lang=eng}}</ref> が制限三体問題に(現在[[シトニコフ問題]]として知られる配位において)振動運動解が存在することを証明し、その後 Alekseev (1968)<ref>{{Cite journal |last=Alekseev |first=V. M. |title=Quasirandom Dynamical Systems. I. Quasirandom Diffeomorphisms |journal=Sbornik: Mathematics |date=1968 |volume=5 |issue=1 |pages=73-128 |doi=10.1070/SM1968v005n01ABEH002587 |bibcode=1968SbMat...5...73A }}</ref><ref>{{Cite journal |last=Alekseev |first=V. M. |title=Quasirandom Dynamical Systems. II. One-Dimensional Nonlinear Oscillations in a Field with Periodic Perturbation |journal=Sbornik: Mathematics |date=1968 |volume=6 |issue=4 |pages=505-560 |doi=10.1070/SM1968v006n04ABEH001074 |bibcode=1968SbMat...6..505A }}</ref><ref>{{Cite journal |last=Alekseev |first=V. M. |title=Quasirandom Dynamical Systems. III Quasirandom Oscillations of One-Dimensional Oscillators |journal=Sbornik: Mathematics |date=1969 |volume=7 |issue=1 |pages=1-43 |doi=10.1070/SM1969v007n01ABEH001076 |bibcode=1969SbMat...7....1A }}</ref>, Saari and Xia (1989)<ref>{{Cite journal |last1=Saari |first1=Donald G. |last2=Xia |first2=Zhihong |title=The existence of oscillatory and superhyperbolic motion in Newtonian systems |journal=Journal of Differential Equations |date=1989 |volume=82 |issue=2 |pages=342-355 |doi=10.1016/0022-0396(89)90137-X |bibcode=1989JDE....82..342S}}</ref> といった研究を経て Xia (1994)<ref>{{Cite journal |last=Xia |first=Z. |title=Arnold Diffusion and Oscillatory Solutions in the Planar Three-Body Problem |journal=Journal of Differential Equations |date=1994 |volume=110 |issue=2 |pages=289-321 |doi=10.1006/jdeq.1994.1069 |bibcode=1994JDE...110..289X }}</ref> が平面三体問題において振動運動解の存在を証明した<ref name="谷川"/>。 |
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== 天文学への応用 == |
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=== 連星 === |
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[[恒星系力学]]では三体相互作用を通じて[[連星]]を形成するチャンネルが存在し、その効果が系全体の進化に影響を及ぼすため重要視されている<ref name="谷川"/>。一方、近接連星に関して伴星から主星へのガス降着という問題における[[ロッシュ・ローブ|ロッシュモデル]]は[[円制限三体問題]]に基づいて構築されている<ref>{{天文学辞典 |urlname=roche-model |title=ロッシュモデル}}</ref>。 |
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=== 重力波 === |
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2010年代の[[重力波 (相対論)|重力波]]の直接検出は、{{仮リンク|ブラックホール連星|en|Binary black hole}}の実在を証明し、同時にその起源という問題を提示した<ref>{{Cite journal |last1=Piran |first1=Zoe |last2=Piran |first2=Tsvi |title=The Origin of Binary Black Hole Mergers |journal=The Astrophysical Journal |date=2020 |volume=892 |page=64 |doi=10.3847/1538-4357/ab792a |arxiv=1910.11358 |bibcode=2020ApJ...892...64P}}</ref>。三体相互作用はブラックホール連星形成シナリオの重要な要素のひとつとして検討されている<ref>{{Cite web |author=Marco Celoria et al. |date=2018 |url=https://arxiv.org/pdf/1807.11489.pdf |title=Lecture notes onblack hole binary astrophysics |pages=36-42 |accessdate=2020-10-09}}</ref><ref>{{Cite journal |last1=Sasaki |first1=Misao |last2=Suyama |first2=Teruaki |last3=Tanaka |first3=Takahiro |last4=Yokoyama |first4=Shuichiro |title= Primordial black holes—perspectives in gravitational wave astronomy |journal=Classical and Quantum Gravity |volume=35 |issue=6 |page=063001 |date=2018 |doi=10.1088/1361-6382/aaa7b4 arxiv=1801.05235 |bibcode=2018CQGra..35f3001S}}</ref>。 |
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== 脚注 == |
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== 参考文献 == |
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* Ivars Peterson, ''Newton's Clock: Chaos in the Solar System'' , W H Freeman & Co (Sd) (1993) ISBN 978-0716727248 |
* Ivars Peterson, ''Newton's Clock: Chaos in the Solar System'' , W H Freeman & Co (Sd) (1993) ISBN 978-0716727248 |
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* [[エドマンド・テイラー・ホイッテーカー|E. T. Whittaker]], [https://archive.org/details/cu31924001080294 ''A Treatise On The Analytical Dynamics Of Particles And Rigid Bodies''], Cambridge University Press (1988); 4th edition of 1936 with foreword by Sir William McCrea ed. ISBN 978-0521358835 |
* [[エドマンド・テイラー・ホイッテーカー|E. T. Whittaker]], [https://archive.org/details/cu31924001080294 ''A Treatise On The Analytical Dynamics Of Particles And Rigid Bodies''], Cambridge University Press (1988); 4th edition of 1936 with foreword by Sir William McCrea ed. ISBN 978-0521358835 |
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* {{Cite book |last1=Siegel |first1=Carl L. |last2=Moser |first2=Jürgen K. |title=Lectures on Celestial Mechanics |publisher=Springer-Verlag Berlin Heidelberg |date=1995 |isbn=978-3-642-87284-6 |doi=10.1007/978-3-642-87284-6}} |
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* {{Cite web |url=http://www.scholarpedia.org/article/Three_body_problem |title=Three body problem - Scholarpedia |author=Alain Chenciner |accessdate=2020-10-10}} |
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* [[大貫義郎]]、[[吉田春夫]] 『力学 (現代物理学叢書)』 岩波書店(2001年)ISBN 978-4000067614 |
* [[大貫義郎]]、[[吉田春夫]] 『力学 (現代物理学叢書)』 岩波書店(2001年)ISBN 978-4000067614 |
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* {{Cite book |和書 |author=木下宙 |title=天体と軌道の力学 |date=1998 |isbn=978-4130607216 |pulisher=東京大学出版会}} |
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* [[長沼伸一郎]] 物理数学の直観的方法―理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬〈普及版〉 ([[ブルーバックス]]) 講談社, 2011, ISBN 978-4062577380 |
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== 関連項目 == |
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* [[力学系]] - [[カオス理論]] |
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* [[二体問題]] - [[多体問題]] |
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* [[バタフライ効果]] |
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2020年11月13日 (金) 06:09時点における版
古典力学において、三体問題(さんたいもんだい、英: three-body problem)とは、互いに重力相互作用する三質点系の運動がどのようなものかを問う問題[1][2][3]。天体力学では万有引力により相互作用する天体の運行をモデル化した問題として、18世紀中頃から活発に研究されてきた[4][5]。運動の軌道を与える一般解が求積法では求まらない問題として知られる。
概要
ふたつの質点が互いにニュートン重力を及ぼし合って運動するとき、その軌道は楕円、放物線、双曲線のいずれかになることが知られている(ケプラーの法則)。三体問題はこの系にさらにひとつの質点が加わった場合の進化を求めるもので、太陽-地球-月系や、太陽-木星-土星系など、天体力学の様々な局面で必要となるため古くから調べられてきた。現実的に三体問題を取り扱う場合、問題の簡略化のために、いくつかの仮定がなされることがある。三体ともに同一平面上を運動するという仮定を置く場合、平面三体問題と呼ばれる。三体のうち、一体の質量が他の二体に影響を及ぼさないほど微小で無視できるとする仮定を置いた場合、制限三体問題と呼ばれる。特に制限三体問題において、残り二体の軌道を円軌道と仮定する場合、円制限三体問題と呼ばれる。
よく知られた特殊解としては、円制限三体問題におけるラグランジュ点や、三体の質量が等しい場合に8の字型の軌道をとる8の字解[6]等が存在する。
三体問題が求積可能であるかという可積分性についての否定的な結果は、フランスの数学者アンリ・ポアンカレによって、導かれた[7]。1889年にスウェーデン兼ノルウェー国王オスカー2世の還暦を祝うために開催されたコンテストで、ポアンカレはいくつかの仮定を置いた制限三体問題を考察し、運動を定める第一積分がある種の摂動級数では表現できないことを示した(ポアンカレの定理)。さらに、ポアンカレはこの研究の中で安定多様体、不安定多様体が交差するために生じるホモクリニック軌道と呼ばれる極めて複雑な運動の挙動の概念に到達した[8]。
こうした三体問題を端緒とする積分可能性やカオス現象の研究は、現代的な力学系理論の発展の契機となっている。
運動方程式
一般三体問題
第 体の運動方程式は、その座標を 、質量を とするとき、次式により与えられる。
ここに は時刻、 は重力定数である。
この系には以下の10個の運動の積分が存在することがレオンハルト・オイラーの時代までには知られていた ( は第 体の速度)[9]。これらの積分はオイラー積分と呼ばれる[10]。
- エネルギー
- 運動量
- 角運動量
- 重心位置
この系の自由度は18であるため三体問題が求積可能であるためにはさらに7個の積分が必要であるが、これ以外の運動の積分は存在せず、従って三体問題は求積可能ではない(#求積不可能性節を参照)。そのため、三体問題の解は(ラグランジュ点のような例外を除いて)摂動論や数値シミュレーション(N体シミュレーション)を用いて求められる。
制限三体問題
第三体の質量が第一体および第二体の質量に比べて十分小さいとき()、第一体および第二体の運動方程式において第三体による重力の寄与を無視することができる。この近似のもとでの三体問題を特に制限三体問題 (restricted three-body problem) と呼ぶ。制限三体問題においては、第一体および第二体の運動はケプラー運動であり、求積可能である。従って、この場合、二体がつくる重力場中を運動する第三体の軌道を求めることが主たる問題となる[11]。
多くの場合に、制限三体問題のうち二体が楕円軌道を描く状況が興味の対象となる。特にその軌道が円軌道 (離心率 ) である場合を円制限三体問題 (circular restricted three-body problem) と呼ぶ。この場合、共動回転系では第一体および第二体が静止し数学的な取り扱いが容易になるため、しばしば採用される。この座標系では円制限三体問題の運動方程式は遠心力とコリオリ力を含む次の形を取る[12]。
ここで を二体運動の軌道長半径として , であり、第一体は座標 に、第二体は座標 にあるものとした。また は 軸単位ベクトルである。円制限三体問題にはヤコビ積分として知られる保存量
が存在する[13]。
なお、第一体または第二体の近傍には、その天体の重力が支配的な領域が存在し、ヒル圏と呼ばれる[14]。
特殊解
ラグランジュ点
円制限三体問題において、共動回転系において第三体が静止することが可能な5つの点をラグランジュ点と呼び、記号 L1, L2, L3, L4, L5 により表される。このうち L1 から L3 の3点は第一体、第二体、第三体が一直線上に並ぶもので、オイラーの直線解として知られる。一方 L4 と L5 は三体が正三角形を描くもので、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュによって1772年に発見された[15]。ラグランジュの正三角形解は一般三体問題の場合にも存在する[16]。
月の運動
月の運動は主として地球の重力場によるが、太陽の重力もまた無視できない寄与を持つ。月の軌道の理論は三体問題として定式化され、その運動を正確に求めるために詳細に調べられてきた[17]。この理論はアレクシス・クレロー、ジョージ・ウィリアム・ヒル、シャルル=ウジェーヌ・ドロネー、アーネスト・ウィリアム・ブラウンらの研究によって発展した[17]。
周期解
三体問題の解のうち周期解(ある時間 が経過するともとの配位に戻る解)には特に興味が持たれてきた。ジョージ・ヒルは円制限三体問題において(ある近似のもとで)周期解を発見した[18][19][20]。アンリ・ポアンカレはヒルの研究に触発されて[18](回転を除いて)周期的な解が平面制限三体問題に無限に存在することを証明し、これらの解について次のように記述している[21][22]。
D'ailleurs, ce qui nous rend ces solutions périodiques si précieuses, c'est qu'elles sont, pour ainsi dire, la seule brèche par où nous puissions essayer de pénétrer dans une place jusqu'ici réputée inabordable. (これらの周期解が貴重なものであるのは、それがこれまで手が届かないと思われていた場所に至る唯一の突破口になり得るからである) — Henri Poincaré、Les méthodes nouvelles de mécanique céleste, Tome 1, p. 82
計算機時代に入ると様々な周期解を数値的に求めることが可能になった。1967年に Szebehely らはピタゴラス三体問題の研究を通じてひとつの周期解を数値的に構成した[23]。1970年代にはMichel Hénonらによってはひとつのパラメータで特徴づけられる周期解の族が発見された(このクラスの解は Broucke-Hadjidemetriou-Hénon family として知られる)[24][25][26][27][28][29][30][31]。1990年代には三体が単一の閉曲線上を運動する解(例えば8の字を描く「8の字解」)の存在が証明され、注目を集めた[32][33][34]。この解のクラスは Carles Simó によって舞踏解 (choreography) と命名され、同様の手法によってn体問題の周期解が多数得られた[35]。
解の性質
求積不可能性
三体問題の求積可能性は、19世紀末に証明されたブルンスの定理[36]およびポアンカレの定理[7]によって否定的に解決された[37]。
1887年に出版されたブルンスの定理は次のことを主張する[38]。
一般三体問題について、座標 、運動量 、時刻 の代数関数であるような運動の積分でオイラー積分(重心運動、エネルギー、運動量、角運動量)と線型独立であるようなものは存在しない。
この事実は、ただちに三体問題の非可積分性を意味するものではないものの、可能な運動の積分の形について強い制約を課す[38]。1898年にポール・パンルヴェはこの定理を拡張し、運動量に関して代数関数であるような運動の積分はオイラー積分以外に存在しないことを証明した[39][40]。
アンリ・ポアンカレが1890年の研究報告および1892年の著書で定式化したポアンカレの定理は次のことを主張する[41]。
パラメータ を持つ近可積分系ハミルトニアン
(ここに は作用・角変数で、 は に関して周期 であるものとする)について、 が恒等的にゼロではなく、 の角変数 に関するフーリエ係数のうちゼロでないものが無限個存在するならば、パラメータ に関してべき級数展開
が可能であるような について解析的な運動の積分 でハミルトニアン と独立なものは存在しない。
特に、制限三体問題は 、かつ をハミルトニアンと解釈することでこの定理の仮定を満足し[42]、従ってパラメータ に関して解析的な運動の積分は存在しない。この結果は「三体問題は解析的に解けない」という表現で広く知られている[42]。ただしこれはあくまでパラメータ に解析的に依存する運動の積分が存在することはないということを主張するだけであって、個々の の値での非可積分性は定理の主張に含まれない[43]。
その後、20世紀後半から21世紀初めにかけて、ソフィア・コワレフスカヤの特異点解析(これは彼女をコワレフスカヤのコマの発見に導いた)の流れを受ける Ziglin 解析[44]による[45]、あるいは Ziglin 解析に微分ガロア理論を応用する Morales-Ramis 理論[46]による[47]、三体が任意の質量を持つ一般三体問題の非可積分性の証明が得られた[48]。
特異点
n体問題の有限時間 での解 について、それを時刻 を超えて延長できないとき、その点を特異点 (singularity) と呼ぶ[49]。極限 において粒子座標が有限値に収束する場合、これは粒子の衝突を意味する[50]ため衝突特異点 (collision singularity) と呼ぶ。一方そうでない場合を非衝突特異点 (non-collision singularity) と呼ぶ[49]。ただし三体問題においては非衝突特異点が存在しないことがポール・パンルヴェによって証明されている(この考察がパンルヴェ予想の出発点となった)[49]。
三体問題における二体衝突は正則であり適切な座標変換により除去できることがトゥーリオ・レヴィ=チヴィタやカール・スンドマンの研究によって20世紀前半には明らかになっていた[51][52][53][54](詳細はレヴィ=チヴィタ変換を見よ)。一方、三体の同時衝突については Siegel (1941) によって真性特異点であることが示されている[55]。スンドマンは三体衝突が可能であるためには系の全角運動量がゼロでなければならないことを証明した[56](カール・ワイエルシュトラスはスンドマンより早くこの事実を知っていたが、証明を出版しなかった[57])。
McGehee は1974年に現在McGehee変数と呼ばれる座標変換を考案し、三体衝突近傍の振る舞いを取り扱うブロー・アップ (blow up) という手法を開発した[58]。この方法はその後の研究でしばしば用いられている[59]。
最終運動
Chazy (1922)[61] は、三体問題の特異性のない解の での最終的な振る舞いについて研究し、以下に述べる7パターンのいずれかであると結論した[62]。なおここで添え字 , は 1, 2, 3を走り、例えば は第2体と第3体の距離を表す。
- 二体間距離がすべて無限大に発散する場合 ()。この場合、極限 が存在し、その値に応じて次の3パターンに分類される。
- The hyperbolic motions : ().
- The hyperbolic-parabolic motions : かつ ().
- The parabolic motions : ().
- ひとつの二体間距離が有界 であり、かつ残りの二体間距離は無限大に発散 () する場合。この場合も極限 に応じて次の2パターンに分類される。
- The hyperbolic-elliptic motions : ().
- The parabolic-elliptic motions : ().
- それ以外の2パターン。
- The bounded motions : .
- The oscillatory motions : かつ .
このうち振動運動[59] (oscillatory motions) については、Chazy は理論的可能性としてこのパターンを指摘したものの、それが実際に三体問題において存在するのかどうかは不明だった。この問題については1960年に Sitnikov[63] が制限三体問題に(現在シトニコフ問題として知られる配位において)振動運動解が存在することを証明し、その後 Alekseev (1968)[64][65][66], Saari and Xia (1989)[67] といった研究を経て Xia (1994)[68] が平面三体問題において振動運動解の存在を証明した[59]。
天文学への応用
連星
恒星系力学では三体相互作用を通じて連星を形成するチャンネルが存在し、その効果が系全体の進化に影響を及ぼすため重要視されている[59]。一方、近接連星に関して伴星から主星へのガス降着という問題におけるロッシュモデルは円制限三体問題に基づいて構築されている[69]。
重力波
2010年代の重力波の直接検出は、ブラックホール連星の実在を証明し、同時にその起源という問題を提示した[70]。三体相互作用はブラックホール連星形成シナリオの重要な要素のひとつとして検討されている[71][72]。
脚注
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- ^ E. T. Whittaker (1988), Chapter.XIII
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