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「熊本市交通局8800形電車」の版間の差分

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{{鉄道車両
{{No footnotes|date=2016年4月}}
|車両名=熊本市交通局8800形電車
[[ファイル:Kumamoto8801.JPG|250px|right|thumb|8801「サンアントニオ号」]]
|社色=#269926
'''熊本市交通局8800形電車'''(くまもとしこうつうきょく8800がたでんしゃ)は[[熊本市交通局]](熊本市電)の[[路面電車]][[鉄道車両|車両]]の形式である。形式名は製造初年の1988年(昭和63年)に由来する。
|画像=ファイル:Kumamoto City Tram 8801 20160727.jpg
|画像説明=8801号([[辛島町停留場|辛島町]]付近・2016年7月)
|運用者=[[熊本市交通局]]
|製造所=[[アルナ工機]]
|製造年=[[1988年]]・[[1993年]]
|製造数=3両 (8801・8802・101)
|運用開始=1988年12月 (8801・8802)<br />1993年[[9月24日]] (101)
|軌間=1,435 [[ミリメートル|mm]]
|電気方式=[[直流電化|直流]]600 [[ボルト (単位)|V]]([[架空電車線方式]])
|最高運転速度=40 [[キロメートル毎時|km/h]]
|起動加速度=3.0 [[キロメートル毎時毎秒|km/h/s]]
|常用減速度=4.6 km/h/s
|非常減速度=5.0 km/h/s
|車両定員=72人・座席36人 (8801・8802)<br />72人・座席30人 (101)
|自重=19.0 [[トン|t]]
|全長=13,700 mm (8801・8802)<br />13,500 mm (101)
|全幅=2,360 mm
|全高=3,850 mm
|台車=[[住友金属工業]]製 FS-89・FS-89B
|主電動機=[[三菱電機]]製 MB-5016-B<br />[[かご形三相誘導電動機]]
|主電動機出力=50.0 [[キロワット|kW]]
|搭載数=2基 / 両
|駆動方式=[[WN駆動方式]]
|歯車比=6.54
|制御方式=[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御方式]]
|制御装置=三菱電機製<br>電圧形[[パルス幅変調|PWM]]インバータ
|制動装置=SME-R [[発電ブレーキ|電制]]併用[[直通ブレーキ]]<br />[[応荷重装置]]・[[保安ブレーキ]]付
|備考=出典:[[#jari188|『車両技術』第188号]]36-45頁および[[#rp597|「新車年鑑1994年版」]]135・167頁
}}
'''熊本市交通局8800形電車'''(くまもとしこうつうきょく8800がたでんしゃ)は、[[熊本市交通局]](熊本市電)に在籍する[[路面電車]][[鉄道車両|車両]]である。


熊本市電において1980年代から90年代初めにかけて導入が続いた全金属製[[ボギー台車|ボギー車]]の一つ。[[1988年]](昭和63年)に2両製造され、[[1993年]](平成5年)には車体デザインをレトロ調に改めた1両が増備された。
== 車両概説 ==
[[熊本市交通局8200形電車|8200形]]及び[[熊本市交通局8500形電車|8500形]]に引き続き一部の経年車両の置き換えを図ったものである。1988年(昭和63年)に8801・8802の2両が[[アルナ車両|アルナ工機]]にて製作された。熊本市の提携している姉妹都市にちなみ8801は「[[サンアントニオ]]」、8802は「[[桂林]]」の愛称名が付けられている。なおかつて車内には両都市を紹介するパネルが掲示されており、8801では英語、8802では中国語での車内放送が行われていた。


== 導入の経緯 ==
また1993年(平成5年)にはレトロ調車両の101がアルナ工機にて製作された。形式は8800形であるが[[熊本市交通局9200形電車|9200形]]に準じた仕様になっており一般運用されているが、A系統と貸切電車へ優先的に充当され、毎年12月から翌年1月の二ヶ月間は車体外部にLED照明を取付け、イルミネーション電車として夜間に点灯しながら一般運用に入るが、運行時間は指定されていない。
[[1982年]](昭和57年)、熊本市電では[[1960年]](昭和35年)以来となる新造車として、日本初の[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]車[[熊本市交通局8200形電車|8200形]]が製造された<ref name="rp509">[[#rp509|『鉄道ピクトリアル』通巻509号]]130-134頁</ref>。同形式の導入は2両にとどまったが、続いて[[1985年]](昭和60年)と翌年に2両ずつ、旧型車の機器を流用した車体更新車として[[熊本市交通局8500形電車|8500形]]が登場した<ref name="rp509"/>。


8500形に続いて、車体更新車ではなく8200形と同様のVVVFインバータ制御車の新造車として導入されたのが本形式である<ref name="rp509"/>。メーカーは[[アルナ工機]]で<ref name="rp512-1"/>、車両価格は9160万円<ref name="70th-119">[[#70th|『熊本市電70年』]]119-121頁</ref>。[[1988年]](昭和63年)[[12月28日]]付で2両 (8801・8802) が竣工した<ref name="rp512-1">[[#rp512|「新車年鑑1989年版」]]148・236頁</ref>。導入年は[[熊本市]]制100周年にあたり、これを機に国際交流を高める狙いから、8800形2両は国際交流電車として製造された<ref name="70th-119"/>。そのため熊本市の[[姉妹都市|姉妹・友好都市]]である[[サンアントニオ]]([[アメリカ合衆国]])と[[桂林市|桂林]]([[中華人民共和国]])の名がそれぞれ愛称として付けられている<ref name="70th-119"/>。
更に8801は、夏期期間中は「ビアガー電」(いわゆるビール列車)専用車として、窓際へのテーブル設置や専用の座席への交換が行われた上で毎夜運行されていたが、ここ数年「ビアガー電」は運用されていない。


8800形2両に続く新造車は[[1992年]](平成4年)に導入されたが、車体構造の異なる別形式[[熊本市交通局9200形電車|9200形]]となった<ref name="rp566">[[#rp566|「新車年鑑1992年版」]]146・183頁</ref>。翌[[1993年]](平成5年)、1994年の市電開業70周年ならびに93年秋の地方博覧会「[[火の国フェスタ・くまもと'93]]」開催にあわせてイメージアップを図るべくレトロ調電車101号が製造された<ref name="rp597">[[#rp597|「新車年鑑1994年版」]]135・167頁</ref>。この101号は9200形をベースにした車体や機器を備えるが、9200形ではなく8800形の1両とされた<ref name="rp597"/>。8801・8802号と同様アルナ工機製で、1993年[[9月21日]]付で竣工<ref>[[#rp597|「新車年鑑1994年版」]]171頁</ref>。23日に出発式を挙行し[[9月24日|24日]]から営業運転に投入された<ref name="rp597"/>。車両価格は9200形よりも6割増の1億6190万円である<ref name="70th-119"/>。
== 構造 ==
=== 車体・車内設備 ===
;8801・8802
前面は流線型の大形一枚窓で、前面両端下部に前照灯と尾灯を配置している。中央にはサンアントニオ・桂林のヘッドマークが取り付けられている。窓配置はD3Dの対称形で、下部固定・上段スライド式のユニット式アルミサッシ窓、2枚折り戸の前後扉である。現役の車両で前後扉となっているのは熊本市交通局ではこの2両だけである。
このグループ以降から8500形でも述べているが前面系統表示板は廃止し、系統は方向幕に記載。側面系統幕は以前から前面系統幕と同様で系統と行先表示のみであり、側面系統表示板を取付た現在も使用している。
車番は新製時より前扉上部と側面中央のみに掲載され、前面には掲載されていない。(9200型も同様。)


以上2度にわたる投入により、8800形は8801・8802・101の3両となった。以後本形式の増備は行われていない。
[[鉄道車両の座席|座席]]はロングシートである。屋根上に[[三菱電機]]製の冷房装置と補助インバータを搭載する。
;101
レトロ調電車で、かつて熊本市交通局に在籍していた70形をモデルにしている。窓配置はD5D4の対称形で、扉は2枚折り戸を2組用いた両開き式4枚扉の中央扉(乗車口)、2枚折り戸の左扉(降車口)である。


== 車体構造 ==
座席はロングシートで入口中央扉より対面する一部座席は車椅子用のスペースとして折り畳み出来る様になっており、車内は真鍮の手すりや木目調の化粧板を採用するなどレトロ調となっている。屋根上はダブルルーフ風の装飾で機器を隠している。
8801・8802号とレトロ調電車101号では車体構造が大きく異なる。以下、両者を分離して記述する。
なお101は70形が[[九州電気軌道]]時代に名乗っていた車番である。
こちらの側面系統幕は[[熊本市交通局9200形電車|9200形]]と同じく、8801・8802よりも少し大きくなり、側面系統表示板を取付た現在も使用している。但し前面とは違い、以前は通過停留所を表示したものだったが、A・B系統になってからは前面と同じ系統と行先のみの表示となっている。


=== 電装品台車 ===
=== 88018802 ===
[[ファイル:Kumamoto City Tram 8802 20160727.jpg|thumb|8802号・桂林号(2016年)]]
[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]を採用している。インバータ装置と交流モータは三菱電機が製造した。モータは50kWのものを2基使用しており、1台車1モータ方式を採用している。なおブレーキ装置も三菱電機製である。8200形のRCT素子からGTO素子に変更されている。


8800形8801・8802号は全金属製車体を持つ[[ボギー台車|ボギー車]]である<ref name="rp509"/>。最大寸法は長さ13.70[[メートル]]、幅2.36メートル、車体高さ3.21メートル・パンタグラフ折りたたみ高さ3.85メートル<ref name="jari188">[[#jari188|『車両技術』第188号]]36-45頁</ref>。自重は19.0[[トン]]<ref name="jari188"/>。
[[鉄道車両の台車|台車]]は8801・8802が[[住友金属工業]]製FS-89で、101が同社製FS-89Bで空転防止用砂撒装置を備えている。また8801はシングルアームパンタに交換された。


8200形・8500形とは大きく異なった、全体に曲線的な車体が外観の特徴<ref name="rp512-2">[[#rp512|「新車年鑑1989年版」]]200・232頁</ref>。前面形状は、正面窓に大型曲面ガラスを用い、窓上の大型[[方向幕|行先表示器]]周辺を含めて当時流行したブラックフェイスで覆ったデザインである<ref name="rf336">[[#rf336|『鉄道ファン』通巻336号]]48頁</ref>。前面窓の傾斜角は11.2度<ref name="rp566"/>。前面窓下には角型の[[前照灯]](内側)と[[尾灯]](外側)を左右に1組ずつ配置し、左右の前照灯の間(中央部)に愛称表示板を取り付けている<ref name="jari188"/>。8500形までの車両にあった前面の系統表示板は省略されており<ref name="70th-119"/>、系統番号は行先表示器に併記される<ref name="rf336"/>。
== 主要諸元 ==
* 製造年:1988年(昭和63年)(8801・8802)・1993年(平成5年)(101)
* 全長:13,700mm (8801・8802) 13,500mm (101)
* 全幅:2,360mm
* 全高:3,850mm
* 自重:19.0t
* 車体構造:全金属製
* 定員(着席):72(36)人 (8801・8802) 72(30)人 (101)
* 電動機
** 出力:50kW×2基
** 駆動方式:平行カルダン方式
* 制御方式:VVVFインバータ制御方式
* 制動装置:ME38LM型(三菱電機製)


側面形状も8200形・8500形から大きく変更されており、乗車口が中央部から後部に移された、すなわちドア位置が車体の前後となった点が特徴である<ref name="rp512-2"/>。混雑時の乗客の流れを円滑にする目的で採用されたドア配置であり<ref name="rf336"/>、熊本市電の2扉ボギー車では1969年まで在籍した[[長崎電気軌道600形電車|170形(後の長崎電気軌道600形)]]以来の採用例であるが、他の車両は中乗り方式であることから停留場で待つ乗客を迷わせるという欠点があり、次の9200形からは元のドア配置に戻っている<ref name="jtb-150">[[#jtb|『熊本市電が走る街今昔』]]150-156頁</ref>。ドアは4か所とも幅85.0センチメートルの折り戸<ref name="jari188"/>。ドア部分の高さはレール上面50センチメートルで、1段のステップで車内(床面高さ81.5センチメートル)に上がる<ref name="jari188"/>。また乗車口左手に系統番号併記の行先表示器を設ける<ref name="rf336"/>。
== 現況 ==
近年は新製時より搭載されていたVVVF装置の老朽化及び更新時期により他形式(8200、9200)が[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT素子]]へ交換されたのにも関わらず8801、8802は更新はしておらず現在も使用している。ただし、101は他形式同様にIGBT素子を用いたVVVF装置へ交換が完了している。


側面窓は、前後のドア間に横185センチメートル・縦101センチメートルの大型窓が4枚ずつ並ぶ<ref name="jari188"/>。これらの窓は下部は固定、上部は引き違い式で可動の二段窓であるが、窓枠をライトブロンズで仕上げ外観上大型窓のイメージを強調させている<ref name="jari188"/>。ガラスには熱線吸収ブロンズガラスを用いる<ref name="jari188"/>。
また構造(車体・車内設備)項目でも述べているが、在籍するワンマン車両の中で8801、8802は唯一の後扉であり、尚且つ一枚折扉である為に乗車に困難する点があり、旧型車両及び他の高性能車両より稼働率が低く、2両とも朝のA系統でのラッシュ時以外は上熊本車庫で留置してある事が多い。


車体塗装はアイボリーを基調に緑色の帯を巻いたデザインで<ref name="rp512-2"/>、それに加えてそれぞれ愛称にちなんだアクセントを配する(下記[[#愛称の設定]]で詳述)。
また101は2016年10月に前後の前照灯が白色HIDに交換された。


車内のうち両端の運転台を除いた客室の長さは11.1メートルである<ref name="jari188"/>。[[鉄道車両の座席|座席]]については、8200形・8500形で採用された1人掛けのクロスシートが廃止され、左右1列ずつのオールロングシートに改められた<ref name="jari188"/>。座席の長さは7.74メートルで、配置は左右対称ではなくそれぞれ乗車口側に若干寄っている<ref name="jari188"/>。また立席客の安全対策として天井中央に握り棒が新設された<ref name="jari188"/>。定員は座席36名・立席36人の計72人<ref name="jari188"/>。
== 塗装 ==
新製時から現在まで
* 8801 : [[サンアントニオ]]号
* 8802 : [[桂林]]号
* 101 : レトロ電車


=== 101 ===
8801・8802のベースはクリーム地で、8801はサンアントニオをイメージした緑色の帯、8802は桂林をイメージした緑色と黄色の帯を配した塗装である。
[[ファイル:Kumamoto City Tram 101 20150805.jpg|thumb|レトロ調電車101号(2015年)]]
[[ファイル:Kumamoto101 interior 1.jpg|thumb|101号の車内]]


レトロ調電車の8800形101号は、上記2両ではなく9200形に準じた車両である<ref name="rp597"/>。最大寸法は長さ13.50メートル、幅2.36メートル、高さ3.85メートルで9200形と同一<ref name="rp597"/>。自重は19.0トン<ref name="rp597"/>。
101は茶色をベースとし下部に金色の装飾を施している。


車体は箱型(ただし[[車両限界]]の関係で両端を絞り込んである)で、[[小豆色]]の塗装に金モールを張り付け、さらに[[明治]]から[[大正]]にかけての路面電車車両のイメージである二段屋根(モニタールーフ)、[[集電装置#トロリーポール|トロリーポール]]、救助網を取り付けてレトロ調を演出する<ref name="rp597"/>。ただし二段屋根の部分は屋根上機器の目隠しの役目はあるが通風・採光機能はなく<ref name="rp597"/>、ポールも集電に用いられない(ダミーポール)<ref name="jtb-150"/>。
8801は新製時からサンアントニオ号で落成したが、8802は翌年(平成元年)7月に桂林号になるまで白色アイボリーベースに細い青緑のラインだけで運用していた。


側面ドアは左右非対称の配置であり、進行方向に向かって左側では車体前部と中央部やや後ろ寄り、右側では車体後部と中央部やや前寄りにある<ref name="rp597"/>。熊本市電では原則として進行方向左手に停留場ホームがあることから、中扉が乗車口、前扉が降車口となる(後乗り前降り)<ref name="rp509"/><ref name="rp688">[[#rp688|『鉄道ピクトリアル』通巻688号]]230-234頁</ref>。乗車扉は幅130センチメートルで両開き4枚折り戸、降車扉は幅85センチメートルで2枚折り戸を採用<ref name="rp597"/>。側窓は幅73センチメートルの小型窓をドア間に5枚ずつ、その反対側には4枚ずつ配し、運転台脇部分にも1枚ずつ取り付けている<ref name="rp597"/>。
== 画像 ==

前照灯は前面窓下中央に1灯のみ配置し、その左上に尾灯を設ける<ref name="rp597"/>。行先表示器は前面窓上と側面中央扉右窓下に設置<ref name="rp597"/>。側面の行先表示器については9200形と同様に8801・8802号よりも大型化されており、新造当初の方向幕には途中経由地も併記するものが使用されていた<ref name="70th-119"/><ref>[[#70th|『熊本市電70年』]]144-145頁</ref>。

車内は9200形と同様のロングシートで、ドア間に長さ1.3メートル(中央側)および2.15メートル(前側)の座席を、ドア間の反対側に長さ3.35メートルの座席をそれぞれ配置する<ref name="rp597"/>。ドア間の座席のうち短い座席(乗車口左手ないし対面にあたる)は2か所とも折りたたみ式になっており、折りたたんで[[車椅子スペース]]とすることも可能<ref name="rp597"/>。定員は座席30人・立席42人の計72人<ref name="rp597"/>。車内のレトロ調の演出のため、[[木目調]]の化粧板・床板や木製の袖仕切り、丸型の照明灯、[[牛革]]製の[[つり革]]、[[真鍮]]製のパイプ類などを使用する<ref name="rp597"/>。

== 主要機器 ==
機器類は8801・8802号と101号で大きな差はない。

=== 台車 ===
[[鉄道車両の台車|台車]]は、8801・8802号が[[住友金属工業]]製FS-89形<ref name="jari188"/>、101号がその改良型であるFS-89B形を装着する<ref name="rp597"/>。[[ボルスタアンカー]]付きのインダイレクトマウント台車で、[[枕ばね]]に上下動オイルダンパー併用のコイルばねを用い、シェブロンゴム式[[鉄道車両の台車#軸箱支持方式|軸箱支持方式]]を採用する<ref name="jari188"/>。FS-89B形のみ、防音車輪を採用し、さらに保守性向上のためブレーキシリンダーが台車枠内側ではなく外側に取り付けられている(4シリンダー方式)<ref name="rp597"/>。[[ホイールベース|軸距]]は1,626ミリメートル、車輪径は660ミリメートルである<ref name="jari188"/><ref name="rp597"/>。

=== 主電動機・制御装置 ===
主電動機・制御装置ともに[[三菱電機]]製である<ref name="rf361"/>。

[[主電動機]]はMB-5016-B形[[かご形三相誘導電動機]]を1両あたり2基搭載する<ref name="jari188"/><ref name="rp597"/>。主要諸元は1時間定格出力50[[ワット|キロワット]]、定格電圧440[[ボルト (単位)|ボルト]]、定格電流89[[アンペア]]、定格周波数53[[ヘルツ]]<ref name="jari188"/>。駆動装置は[[WN駆動方式]]であり、各台車片側の軸のみ駆動する<ref name="jari188"/>。[[歯車比]]は6.54<ref name="rp512-2"/><ref name="rp597"/>。8200形の[[直角カルダン駆動方式|直角カルダン駆動]]による1モーター2軸駆動方式から大きく変更されており、8200形よりも[[札幌市交通局8500形電車|札幌市電8500形]]に近いシステムになっている<ref name="rp512-2"/>。

[[電気車の速度制御|制御方式]]は電圧形[[パルス幅変調|PWM]]インバーターを用いた[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバーター方式]]を採用し<ref name="jari188"/><ref name="rp597"/>、1つのインバーターで2つの主電動機を制御する(1C2M方式)<ref name="rf361">[[#rf361|『鉄道ファン』通巻361号]]14・24・42-43頁</ref>。8200形や札幌市電8500形とは異なりスイッチング素子に[[ゲートターンオフサイリスタ|GTOサイリスタ]]を使用する<ref name="rf361"/>。装置形式は8801・8802号がMAP-052-60VD22、101号は9200形と同じMAP-052-60VD35<ref name="70th-180">[[#70th|『熊本市電70年』]]180-181頁</ref>。

その後2014年度(平成26年度)に<ref name="rp909">[[#rp909|「鉄道車両年鑑2015年版」]]151頁</ref>、101号に限り9200形と同種のインバータ装置更新工事を受け、スイッチング素子に[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]を用いる電圧形PWMインバーターの三菱電機製MAP-121-60VD155形に載せ替えられた<ref>[[#rp868|『鉄道ピクトリアル』通巻868号]]193頁</ref>。

運転台の[[マスター・コントローラー|制御器]]は8200形と同様にKL-140B形を使用する<ref name="rp688"/>。

=== ブレーキシステム ===
[[ファイル:Kumamoto101 cockpit 1.jpg|thumb|101号の運転台<br />左手に制御器、右手にブレーキ弁を配置。]]

[[鉄道のブレーキ|ブレーキ]]は三菱電機が開発した<ref name="jari160">[[#jari160|『車両技術』第160号]]38-51頁</ref>、SME-R形電制併用[[直通ブレーキ|直通空気ブレーキ]]を使用する<ref name="jari188"/><ref name="rp597"/>。8200形から採用されたブレーキで、SME形直通ブレーキに電気ブレーキ([[回生ブレーキ]]または回生失効時のみ[[発電ブレーキ]])を組み合わせたシステムである<ref name="jari160"/>。運転台のブレーキ弁を操作すると、その操作角度にあわせて直通管に空気圧が生じ(セルフラップ式ブレーキ弁)、それがアクチュエーターおよびSME-R作用装置へ入力される<ref name="jari188"/>。このブレーキ指令は[[応荷重装置|荷重条件を加味して]]ブレーキ量を出力する<ref name="jari188"/>。このとき動軸では電気ブレーキが作用し、この作用量はSME-R作用装置へフィードバックされ空気ブレーキ圧力を減ずる<ref name="jari188"/>。これらのブレーキ機構のほか、空気ブレーキによる[[保安ブレーキ]]も別系統で設置する<ref name="jari188"/>。

台車設置の基礎ブレーキ装置は、8200形では油圧式[[ディスクブレーキ]]であったが<ref name="jari160"/>、本形式では一般的な片押し式[[踏面ブレーキ]]を採用する<ref name="jari188"/>。

=== 屋根上機器 ===
[[集電装置]]は[[東洋電機製造]]製<ref name="70th-119"/>のZ型パンタグラフPT110-BZ形を設置<ref name="jari188"/>。[[冷房]]装置は8500形から採用された、三菱電機製CU77N形インバーター式冷房([[冷凍能力|冷房能力]]2万4,000[[冷凍能力|キロカロリー毎時]])を設置する<ref name="70th-119"/>。パンタグラフを挟んで反対側には[[静止形インバータ|SIVインバーター装置]]による補助電源装置がある<ref name="jari188"/>。同装置は架線電源を変換して冷暖房装置や照明類などに電気を供給している<ref name="jari188"/>。

集電装置については、8801号に限りシングルアームパンタグラフに置き換えられている(2014年11月時点<ref>[[#nenkan2015|『路面電車年鑑2015』]]124頁(写真参照)</ref>)。

== 愛称の設定 ==
前述の通り、8801・8802号は熊本市制100周年記念の国際交流電車として導入されたことから、両車には熊本市の姉妹・友好都市の名が愛称として付けられている。

; 8801号「サンアントニオ号」
: 8801号は[[アメリカ合衆国]][[テキサス州]]・[[サンアントニオ]]にちなみ「サンアントニオ号」と命名された<ref name="rp566"/>。命名式は車両がメーカーから到着したばかりの[[1988年]](昭和63年)[[12月18日]]に行われ、来日したサンアントニオ市長が愛称板を車体に取り付けた<ref name="70th-115">[[#70th|『熊本市電70年』]]115-116頁</ref>。車体塗装の馬蹄型となった緑帯は[[アラモ砦]]をイメージしたものという<ref name="70th-115"/>。運行当初、車内には都市の紹介写真が掲げられ、テープによる車内放送でも[[英語]]での電停案内が行われた<ref name="70th-115"/>。
; 8802号「桂林号」
: 8802号は[[中華人民共和国]][[桂林市]]にちなみ「桂林号」と命名された<ref name="rp534">[[#rp534|「新車年鑑1990年版」]]197頁</ref>。車両の運行開始後もしばらく命名待ちの状態であったが、熊本市制100周年関係の行事で桂林市から代表団が来日したため[[1989年]](平成元年)[[7月29日]]に命名式が行われた<ref name="rp534"/>。車体塗装の帯色は青緑・金・オレンジの3色で、桂林市の自然をイメージしたものという<ref name="70th-115"/>。なお命名までの7か月余りは暫定的にアイボリーに緑帯の塗装で運転されていた<ref name="70th-115"/>。
: 「サンアントニオ号」と同様、運行開始当初は車内に都市の紹介写真が掲げられ、[[中国語]]による電停案内も行われていた<ref name="70th-115"/>。

8801・8802号に続いて[[1992年]](平成4年)に導入された[[熊本市交通局9200形電車|9200形]]9201号も国際交流電車に選ばれ、姉妹都市[[ドイツ]]・[[ハイデルベルク]]にちなみ「ハイデルベルク号」と命名されている<ref name="70th-115"/>。

== 運用と改造 ==
[[ファイル:Kumamoto8801 2.jpg|thumb|「ビアガー電」仕様の8801号(2008年)]]

本形式は他のボギー車と共通の運用によって運転されており、1997年以降に登場した[[超低床電車]]([[熊本市交通局9700形電車|9700形]]・[[熊本市交通局0800形電車|0800形]])のように固定ダイヤがあるわけではない<ref name="rp688"/><ref name="rp852">[[#rp852|『鉄道ピクトリアル』通巻852号]]264-269頁</ref>。ただしレトロ調電車101号に関しては、貸切予約がある場合には優先的に配車されるようになっている<ref name="rp597"/><ref name="rp688"/><ref name="rp852"/>。

特徴的な運用として、夏の[[ビール]]電車「ビアガー電」がある。市電のイメージアップと増収を目的に[[2006年]](平成18年)より毎年夏季に運行されており<ref name="iatss">[[#iatss|『国際交通安全学会誌』第34巻第2号]]59頁</ref>、8801号が車内改装の上で充当される<ref name="handbook2018">[[#handbook2018|『路面電車ハンドブック』2018年版]]175-181</ref>。「ビアガー電」仕様の内装は、座席を取り外した上で窓側にカウンターと28席の椅子を設け、さらに車内灯をスポットライトに取り替える、というもの<ref name="iatss"/><ref name="rp909"/>。ただし[[熊本地震 (2016年)|熊本地震]]の影響で2016年・17年は運転されていない<ref name="handbook2018"/>。これとは別に、[[2008年]](平成20年)12月から翌年1月末まで、市中心部のライトアップイベントの一環としてレトロ調電車101号を[[LED照明]]で装飾した「イルミネーション電車」が運行された<ref name="iatss"/>。同様の電車はその後も冬季に運行されることがある<ref>[[#rp951|『鉄道ピクトリアル』通巻951号]]148頁</ref>。

新造後の改造点には、以下のような他形式と共通のものが挙げられる。
* 無線機器設置 - [[1991年]](平成3年)4月からの[[列車無線]]導入に伴う<ref>[[#70th|『熊本市電70年』]]117頁</ref>。
* 乗降口へのカードリーダー設置 - [[1998年]](平成10年)3月からの[[乗車カード]]「[[TO熊カード]]」導入に伴う<ref name="rp688"/>。
* 常時記録型[[ドライブレコーダー]]設置 - [[2010年]]度(平成22年度)施工<ref>[[#rp855|「鉄道車両年鑑2011年版」]]154頁</ref>。
* 方向幕更新 - [[2011年]](平成23年)3月の系統名変更ならびにラインカラー設定に伴う。[[熊本市電A系統|A系統]]が赤、[[熊本市電B系統|B系統]]が青、その他臨時系統が黄色とされ、それぞれ色付き方向幕に変更<ref name="rp852">[[#rp852|『鉄道ピクトリアル』通巻852号]]264-269頁</ref>。
* ICカードリーダー設置 - [[2014年]](平成26年)3月の[[ICカード乗車券]]「[[nimoca|でんでんnimoca]]」導入に伴う<ref>[[#handbook2018|『路面電車ハンドブック』2018年版]]175-181</ref>。
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ファイル:Kumamoto8801 2.jpg|8801「ビアガー電」
ファイル:Kumamoto8801.JPG|8801号(2007年)
ファイル:Kumamoto8802 1.jpg|8802「桂林
ファイル:Kumamoto8802 1.jpg|8802号(2006年)
ファイル:Kumamoto101_1.jpg|101号(レトロ調電車)
ファイル:Kumamoto Type8800-101.jpg|レトロ調電車101号(2022年)
ファイル:Kumamoto101 cockpit 1.jpg|101号 運転台
ファイル:Kumamoto101 interior 1.jpg|101号 車内
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</gallery>

== 備考 ==
レトロ調電車に付けられている「101」という番号は、熊本市電においては過去に2つの車両がつけていた。初代のものは昭和初期に2両在籍した[[散水車]]のうちの1両である<ref name="jtb-150"/>。2代目のものは[[1957年]](昭和32年)に交通局が作成した[[熊本市電川尻線|川尻線]]用資材運搬車で、同線の廃止まで使用されていた<ref name="jtb-150"/>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
{{Commons|Category:Kumamoto City Tram 8800 series}}
*「熊本市電70年」細井敏幸(著) 1995/02/14

* {{Cite book|和書|author=中村弘之 |title=熊本市電が走る街今昔 |publisher=[[JTBパブリッシング]]([[JTBキャンブックス]]) |year=2005 |ref=jtb }}
'''書籍'''
* {{Cite book|和書|author= |title=路面電車年鑑2015 |publisher=[[イカロス出版]] |year=2015-01 |isbn=978-4-86320-952-7 |ref=nenkan2015 }}
* {{Cite book|和書|author=中村弘之 |title=熊本市電が走る街今昔 |publisher=[[JTBパブリッシング]]([[JTBキャンブックス]]) |year=2005 |isbn=4-533-05990-2 |ref=jtb }}
* {{Cite book|和書|author=日本路面電車同好会 |title=日本の路面電車ハンドブック |volume=2018年版 |publisher=日本路面電車同好会 |year=2018 |ref=handbook2018 }}
* {{Cite book|和書|author=細井敏幸 |title=熊本市電70年 |publisher=細井敏幸<!--自費出版本--> |year=1995 |ref=70th }}

'''雑誌記事'''
* 『[[鉄道ピクトリアル]]』各号
** {{Cite journal|和書|author=細井敏幸 |title=九州・四国・北海道地方のローカル私鉄現況6 熊本市交通局 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第39巻第3号(通巻509号) |publisher=電気車研究会 |date=1989-03 |pages=130-134 |ref=rp509 }}
** {{Cite journal|和書|author=細井敏幸 |title=日本の路面電車現況 熊本市交通局 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第50巻第7号(通巻688号) |publisher=電気車研究会 |date=2000-07 |pages=230-234 |ref=rp688 }}
** {{Cite journal|和書|author=細井敏幸 |title=日本の路面電車各車局現況 熊本市交通局 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第61巻第8号(通巻852号) |publisher=電気車研究会 |date=2011-08 |pages=264-269 |ref=rp852 }}
** {{Cite journal|和書|author=岸上明彦 |title=2016年度民鉄車両動向 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第68巻第10号(通巻951号) |publisher=電気車研究会 |date=2018-10 |pages=130-148 |ref=rp951 }}
* 「新車年鑑」・「鉄道車両年鑑」(『鉄道ピクトリアル』臨時増刊号)各号
** {{Cite journal|和書|title=新車年鑑1989年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第39巻第5号(通巻512号) |publisher=電気車研究会 |date=1989-05 |ref=rp512 }}
** {{Cite journal|和書|title=新車年鑑1990年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第40巻第10号(通巻534号) |publisher=電気車研究会 |date=1990-10 |ref=rp534 }}
** {{Cite journal|和書|title=新車年鑑1992年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第42巻第10号(通巻566号) |publisher=電気車研究会 |date=1992-10 |ref=rp566 }}
** {{Cite journal|和書|title=新車年鑑1994年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第44巻第10号(通巻597号) |publisher=電気車研究会 |date=1994-10 |ref=rp597 }}
** {{Cite journal|和書|title=鉄道車両年鑑2011年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第61巻第10号(通巻855号) |publisher=電気車研究会 |date=2011-10 |ref=rp855 }}
** {{Cite journal|和書|title=鉄道車両年鑑2012年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第62巻第10号(通巻868号) |publisher=電気車研究会 |date=2012-10 |ref=rp868 }}
** {{Cite journal|和書|title=鉄道車両年鑑2015年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第65巻第10号(通巻909号) |publisher=電気車研究会 |date=2015-10 |ref=rp909 }}
* 『[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]]』各号
** {{Cite journal|和書|author= |title=熊本市交8800形 |journal=鉄道ファン |volume=第29巻第4号(通巻336号) |publisher=[[交友社]] |date=1989-04 |pages=48 |ref=rf336 }}
** {{Cite journal|和書|author=[[吉川文夫]] |title=VVVFインバータ車両 |journal=鉄道ファン |volume=第31巻第5号(通巻361号) |publisher=交友社 |date=1991-05 |pages=9-43 |ref=rf361 }}
* {{Cite journal|和書|author=初鹿野強・大崎隆・太田幹雄・赤川英爾 |title=熊本市交通局8200形新性能電車 |journal=車両技術 |volume=第160号 |publisher=[[日本鉄道車輌工業会]] |date=1982-10 |pages=38-51 |ref=jari160 }}
* {{Cite journal|和書|author=成田昌司・岡部信雄・吉田力・奥田良三 |title=熊本市交通局8800形 |journal=車両技術 |volume=第188号 |publisher=日本鉄道車輌工業会 |date=1989-10 |pages=36-45 |ref=jari188 }}
* {{Cite journal|和書|author=森田弘昭・溝上章志 |title=わが国最初のLRV化を果たした熊本のチャレンジ-熊本電鉄LRT化計画事業化の課題と展望- |journal=国際交通安全学会誌 |volume=第34巻第2号 |publisher=国際交通安全学会 |date=2009-08 |pages=56-65 |url=http://www.iatss.or.jp/common/pdf/publication/iatss-review/34-2-07.pdf |format=PDF |ref=iatss }}


== 外部リンク ==
* [http://kyushu.yomiuri.co.jp/entame/topics/0805/to_08053001.htm YOMIURI ONLINE 「熊本市電使って、飲み放題「ビアガー電」」]


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2023年10月16日 (月) 00:25時点における最新版

熊本市交通局8800形電車
8801号(辛島町付近・2016年7月)
基本情報
運用者 熊本市交通局
製造所 アルナ工機
製造年 1988年1993年
製造数 3両 (8801・8802・101)
運用開始 1988年12月 (8801・8802)
1993年9月24日 (101)
主要諸元
軌間 1,435 mm
電気方式 直流600 V架空電車線方式
最高運転速度 40 km/h
起動加速度 3.0 km/h/s
減速度(常用) 4.6 km/h/s
減速度(非常) 5.0 km/h/s
車両定員 72人・座席36人 (8801・8802)
72人・座席30人 (101)
自重 19.0 t
全長 13,700 mm (8801・8802)
13,500 mm (101)
全幅 2,360 mm
全高 3,850 mm
台車 住友金属工業製 FS-89・FS-89B
主電動機 三菱電機製 MB-5016-B
かご形三相誘導電動機
主電動機出力 50.0 kW
搭載数 2基 / 両
駆動方式 WN駆動方式
歯車比 6.54
制御方式 VVVFインバータ制御方式
制御装置 三菱電機製
電圧形PWMインバータ
制動装置 SME-R 電制併用直通ブレーキ
応荷重装置保安ブレーキ
備考 出典:『車両技術』第188号36-45頁および「新車年鑑1994年版」135・167頁
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熊本市交通局8800形電車(くまもとしこうつうきょく8800がたでんしゃ)は、熊本市交通局(熊本市電)に在籍する路面電車車両である。

熊本市電において1980年代から90年代初めにかけて導入が続いた全金属製ボギー車の一つ。1988年(昭和63年)に2両製造され、1993年(平成5年)には車体デザインをレトロ調に改めた1両が増備された。

導入の経緯

[編集]

1982年(昭和57年)、熊本市電では1960年(昭和35年)以来となる新造車として、日本初のVVVFインバータ制御8200形が製造された[1]。同形式の導入は2両にとどまったが、続いて1985年(昭和60年)と翌年に2両ずつ、旧型車の機器を流用した車体更新車として8500形が登場した[1]

8500形に続いて、車体更新車ではなく8200形と同様のVVVFインバータ制御車の新造車として導入されたのが本形式である[1]。メーカーはアルナ工機[2]、車両価格は9160万円[3]1988年(昭和63年)12月28日付で2両 (8801・8802) が竣工した[2]。導入年は熊本市制100周年にあたり、これを機に国際交流を高める狙いから、8800形2両は国際交流電車として製造された[3]。そのため熊本市の姉妹・友好都市であるサンアントニオアメリカ合衆国)と桂林中華人民共和国)の名がそれぞれ愛称として付けられている[3]

8800形2両に続く新造車は1992年(平成4年)に導入されたが、車体構造の異なる別形式9200形となった[4]。翌1993年(平成5年)、1994年の市電開業70周年ならびに93年秋の地方博覧会「火の国フェスタ・くまもと'93」開催にあわせてイメージアップを図るべくレトロ調電車101号が製造された[5]。この101号は9200形をベースにした車体や機器を備えるが、9200形ではなく8800形の1両とされた[5]。8801・8802号と同様アルナ工機製で、1993年9月21日付で竣工[6]。23日に出発式を挙行し24日から営業運転に投入された[5]。車両価格は9200形よりも6割増の1億6190万円である[3]

以上2度にわたる投入により、8800形は8801・8802・101の3両となった。以後本形式の増備は行われていない。

車体構造

[編集]

8801・8802号とレトロ調電車101号では車体構造が大きく異なる。以下、両者を分離して記述する。

8801・8802

[編集]
8802号・桂林号(2016年)

8800形8801・8802号は全金属製車体を持つボギー車である[1]。最大寸法は長さ13.70メートル、幅2.36メートル、車体高さ3.21メートル・パンタグラフ折りたたみ高さ3.85メートル[7]。自重は19.0トン[7]

8200形・8500形とは大きく異なった、全体に曲線的な車体が外観の特徴[8]。前面形状は、正面窓に大型曲面ガラスを用い、窓上の大型行先表示器周辺を含めて当時流行したブラックフェイスで覆ったデザインである[9]。前面窓の傾斜角は11.2度[4]。前面窓下には角型の前照灯(内側)と尾灯(外側)を左右に1組ずつ配置し、左右の前照灯の間(中央部)に愛称表示板を取り付けている[7]。8500形までの車両にあった前面の系統表示板は省略されており[3]、系統番号は行先表示器に併記される[9]

側面形状も8200形・8500形から大きく変更されており、乗車口が中央部から後部に移された、すなわちドア位置が車体の前後となった点が特徴である[8]。混雑時の乗客の流れを円滑にする目的で採用されたドア配置であり[9]、熊本市電の2扉ボギー車では1969年まで在籍した170形(後の長崎電気軌道600形)以来の採用例であるが、他の車両は中乗り方式であることから停留場で待つ乗客を迷わせるという欠点があり、次の9200形からは元のドア配置に戻っている[10]。ドアは4か所とも幅85.0センチメートルの折り戸[7]。ドア部分の高さはレール上面50センチメートルで、1段のステップで車内(床面高さ81.5センチメートル)に上がる[7]。また乗車口左手に系統番号併記の行先表示器を設ける[9]

側面窓は、前後のドア間に横185センチメートル・縦101センチメートルの大型窓が4枚ずつ並ぶ[7]。これらの窓は下部は固定、上部は引き違い式で可動の二段窓であるが、窓枠をライトブロンズで仕上げ外観上大型窓のイメージを強調させている[7]。ガラスには熱線吸収ブロンズガラスを用いる[7]

車体塗装はアイボリーを基調に緑色の帯を巻いたデザインで[8]、それに加えてそれぞれ愛称にちなんだアクセントを配する(下記#愛称の設定で詳述)。

車内のうち両端の運転台を除いた客室の長さは11.1メートルである[7]座席については、8200形・8500形で採用された1人掛けのクロスシートが廃止され、左右1列ずつのオールロングシートに改められた[7]。座席の長さは7.74メートルで、配置は左右対称ではなくそれぞれ乗車口側に若干寄っている[7]。また立席客の安全対策として天井中央に握り棒が新設された[7]。定員は座席36名・立席36人の計72人[7]

101

[編集]
レトロ調電車101号(2015年)
101号の車内

レトロ調電車の8800形101号は、上記2両ではなく9200形に準じた車両である[5]。最大寸法は長さ13.50メートル、幅2.36メートル、高さ3.85メートルで9200形と同一[5]。自重は19.0トン[5]

車体は箱型(ただし車両限界の関係で両端を絞り込んである)で、小豆色の塗装に金モールを張り付け、さらに明治から大正にかけての路面電車車両のイメージである二段屋根(モニタールーフ)、トロリーポール、救助網を取り付けてレトロ調を演出する[5]。ただし二段屋根の部分は屋根上機器の目隠しの役目はあるが通風・採光機能はなく[5]、ポールも集電に用いられない(ダミーポール)[10]

側面ドアは左右非対称の配置であり、進行方向に向かって左側では車体前部と中央部やや後ろ寄り、右側では車体後部と中央部やや前寄りにある[5]。熊本市電では原則として進行方向左手に停留場ホームがあることから、中扉が乗車口、前扉が降車口となる(後乗り前降り)[1][11]。乗車扉は幅130センチメートルで両開き4枚折り戸、降車扉は幅85センチメートルで2枚折り戸を採用[5]。側窓は幅73センチメートルの小型窓をドア間に5枚ずつ、その反対側には4枚ずつ配し、運転台脇部分にも1枚ずつ取り付けている[5]

前照灯は前面窓下中央に1灯のみ配置し、その左上に尾灯を設ける[5]。行先表示器は前面窓上と側面中央扉右窓下に設置[5]。側面の行先表示器については9200形と同様に8801・8802号よりも大型化されており、新造当初の方向幕には途中経由地も併記するものが使用されていた[3][12]

車内は9200形と同様のロングシートで、ドア間に長さ1.3メートル(中央側)および2.15メートル(前側)の座席を、ドア間の反対側に長さ3.35メートルの座席をそれぞれ配置する[5]。ドア間の座席のうち短い座席(乗車口左手ないし対面にあたる)は2か所とも折りたたみ式になっており、折りたたんで車椅子スペースとすることも可能[5]。定員は座席30人・立席42人の計72人[5]。車内のレトロ調の演出のため、木目調の化粧板・床板や木製の袖仕切り、丸型の照明灯、牛革製のつり革真鍮製のパイプ類などを使用する[5]

主要機器

[編集]

機器類は8801・8802号と101号で大きな差はない。

台車

[編集]

台車は、8801・8802号が住友金属工業製FS-89形[7]、101号がその改良型であるFS-89B形を装着する[5]ボルスタアンカー付きのインダイレクトマウント台車で、枕ばねに上下動オイルダンパー併用のコイルばねを用い、シェブロンゴム式軸箱支持方式を採用する[7]。FS-89B形のみ、防音車輪を採用し、さらに保守性向上のためブレーキシリンダーが台車枠内側ではなく外側に取り付けられている(4シリンダー方式)[5]軸距は1,626ミリメートル、車輪径は660ミリメートルである[7][5]

主電動機・制御装置

[編集]

主電動機・制御装置ともに三菱電機製である[13]

主電動機はMB-5016-B形かご形三相誘導電動機を1両あたり2基搭載する[7][5]。主要諸元は1時間定格出力50キロワット、定格電圧440ボルト、定格電流89アンペア、定格周波数53ヘルツ[7]。駆動装置はWN駆動方式であり、各台車片側の軸のみ駆動する[7]歯車比は6.54[8][5]。8200形の直角カルダン駆動による1モーター2軸駆動方式から大きく変更されており、8200形よりも札幌市電8500形に近いシステムになっている[8]

制御方式は電圧形PWMインバーターを用いたVVVFインバーター方式を採用し[7][5]、1つのインバーターで2つの主電動機を制御する(1C2M方式)[13]。8200形や札幌市電8500形とは異なりスイッチング素子にGTOサイリスタを使用する[13]。装置形式は8801・8802号がMAP-052-60VD22、101号は9200形と同じMAP-052-60VD35[14]

その後2014年度(平成26年度)に[15]、101号に限り9200形と同種のインバータ装置更新工事を受け、スイッチング素子にIGBTを用いる電圧形PWMインバーターの三菱電機製MAP-121-60VD155形に載せ替えられた[16]

運転台の制御器は8200形と同様にKL-140B形を使用する[11]

ブレーキシステム

[編集]
101号の運転台
左手に制御器、右手にブレーキ弁を配置。

ブレーキは三菱電機が開発した[17]、SME-R形電制併用直通空気ブレーキを使用する[7][5]。8200形から採用されたブレーキで、SME形直通ブレーキに電気ブレーキ(回生ブレーキまたは回生失効時のみ発電ブレーキ)を組み合わせたシステムである[17]。運転台のブレーキ弁を操作すると、その操作角度にあわせて直通管に空気圧が生じ(セルフラップ式ブレーキ弁)、それがアクチュエーターおよびSME-R作用装置へ入力される[7]。このブレーキ指令は荷重条件を加味してブレーキ量を出力する[7]。このとき動軸では電気ブレーキが作用し、この作用量はSME-R作用装置へフィードバックされ空気ブレーキ圧力を減ずる[7]。これらのブレーキ機構のほか、空気ブレーキによる保安ブレーキも別系統で設置する[7]

台車設置の基礎ブレーキ装置は、8200形では油圧式ディスクブレーキであったが[17]、本形式では一般的な片押し式踏面ブレーキを採用する[7]

屋根上機器

[編集]

集電装置東洋電機製造[3]のZ型パンタグラフPT110-BZ形を設置[7]冷房装置は8500形から採用された、三菱電機製CU77N形インバーター式冷房(冷房能力2万4,000キロカロリー毎時)を設置する[3]。パンタグラフを挟んで反対側にはSIVインバーター装置による補助電源装置がある[7]。同装置は架線電源を変換して冷暖房装置や照明類などに電気を供給している[7]

集電装置については、8801号に限りシングルアームパンタグラフに置き換えられている(2014年11月時点[18])。

愛称の設定

[編集]

前述の通り、8801・8802号は熊本市制100周年記念の国際交流電車として導入されたことから、両車には熊本市の姉妹・友好都市の名が愛称として付けられている。

8801号「サンアントニオ号」
8801号はアメリカ合衆国テキサス州サンアントニオにちなみ「サンアントニオ号」と命名された[4]。命名式は車両がメーカーから到着したばかりの1988年(昭和63年)12月18日に行われ、来日したサンアントニオ市長が愛称板を車体に取り付けた[19]。車体塗装の馬蹄型となった緑帯はアラモ砦をイメージしたものという[19]。運行当初、車内には都市の紹介写真が掲げられ、テープによる車内放送でも英語での電停案内が行われた[19]
8802号「桂林号」
8802号は中華人民共和国桂林市にちなみ「桂林号」と命名された[20]。車両の運行開始後もしばらく命名待ちの状態であったが、熊本市制100周年関係の行事で桂林市から代表団が来日したため1989年(平成元年)7月29日に命名式が行われた[20]。車体塗装の帯色は青緑・金・オレンジの3色で、桂林市の自然をイメージしたものという[19]。なお命名までの7か月余りは暫定的にアイボリーに緑帯の塗装で運転されていた[19]
「サンアントニオ号」と同様、運行開始当初は車内に都市の紹介写真が掲げられ、中国語による電停案内も行われていた[19]

8801・8802号に続いて1992年(平成4年)に導入された9200形9201号も国際交流電車に選ばれ、姉妹都市ドイツハイデルベルクにちなみ「ハイデルベルク号」と命名されている[19]

運用と改造

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「ビアガー電」仕様の8801号(2008年)

本形式は他のボギー車と共通の運用によって運転されており、1997年以降に登場した超低床電車9700形0800形)のように固定ダイヤがあるわけではない[11][21]。ただしレトロ調電車101号に関しては、貸切予約がある場合には優先的に配車されるようになっている[5][11][21]

特徴的な運用として、夏のビール電車「ビアガー電」がある。市電のイメージアップと増収を目的に2006年(平成18年)より毎年夏季に運行されており[22]、8801号が車内改装の上で充当される[23]。「ビアガー電」仕様の内装は、座席を取り外した上で窓側にカウンターと28席の椅子を設け、さらに車内灯をスポットライトに取り替える、というもの[22][15]。ただし熊本地震の影響で2016年・17年は運転されていない[23]。これとは別に、2008年(平成20年)12月から翌年1月末まで、市中心部のライトアップイベントの一環としてレトロ調電車101号をLED照明で装飾した「イルミネーション電車」が運行された[22]。同様の電車はその後も冬季に運行されることがある[24]

新造後の改造点には、以下のような他形式と共通のものが挙げられる。

備考

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レトロ調電車に付けられている「101」という番号は、熊本市電においては過去に2つの車両がつけていた。初代のものは昭和初期に2両在籍した散水車のうちの1両である[10]。2代目のものは1957年(昭和32年)に交通局が作成した川尻線用資材運搬車で、同線の廃止まで使用されていた[10]

脚注

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参考文献

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書籍

  • 『路面電車年鑑2015』イカロス出版、2015年1月。ISBN 978-4-86320-952-7 
  • 中村弘之『熊本市電が走る街今昔』JTBパブリッシングJTBキャンブックス)、2005年。ISBN 4-533-05990-2 
  • 日本路面電車同好会『日本の路面電車ハンドブック』 2018年版、日本路面電車同好会、2018年。 
  • 細井敏幸『熊本市電70年』細井敏幸、1995年。 

雑誌記事

  • 鉄道ピクトリアル』各号
    • 細井敏幸「九州・四国・北海道地方のローカル私鉄現況6 熊本市交通局」『鉄道ピクトリアル』第39巻第3号(通巻509号)、電気車研究会、1989年3月、130-134頁。 
    • 細井敏幸「日本の路面電車現況 熊本市交通局」『鉄道ピクトリアル』第50巻第7号(通巻688号)、電気車研究会、2000年7月、230-234頁。 
    • 細井敏幸「日本の路面電車各車局現況 熊本市交通局」『鉄道ピクトリアル』第61巻第8号(通巻852号)、電気車研究会、2011年8月、264-269頁。 
    • 岸上明彦「2016年度民鉄車両動向」『鉄道ピクトリアル』第68巻第10号(通巻951号)、電気車研究会、2018年10月、130-148頁。 
  • 「新車年鑑」・「鉄道車両年鑑」(『鉄道ピクトリアル』臨時増刊号)各号
    • 「新車年鑑1989年版」『鉄道ピクトリアル』第39巻第5号(通巻512号)、電気車研究会、1989年5月。 
    • 「新車年鑑1990年版」『鉄道ピクトリアル』第40巻第10号(通巻534号)、電気車研究会、1990年10月。 
    • 「新車年鑑1992年版」『鉄道ピクトリアル』第42巻第10号(通巻566号)、電気車研究会、1992年10月。 
    • 「新車年鑑1994年版」『鉄道ピクトリアル』第44巻第10号(通巻597号)、電気車研究会、1994年10月。 
    • 「鉄道車両年鑑2011年版」『鉄道ピクトリアル』第61巻第10号(通巻855号)、電気車研究会、2011年10月。 
    • 「鉄道車両年鑑2012年版」『鉄道ピクトリアル』第62巻第10号(通巻868号)、電気車研究会、2012年10月。 
    • 「鉄道車両年鑑2015年版」『鉄道ピクトリアル』第65巻第10号(通巻909号)、電気車研究会、2015年10月。 
  • 鉄道ファン』各号
    • 「熊本市交8800形」『鉄道ファン』第29巻第4号(通巻336号)、交友社、1989年4月、48頁。 
    • 吉川文夫「VVVFインバータ車両」『鉄道ファン』第31巻第5号(通巻361号)、交友社、1991年5月、9-43頁。 
  • 初鹿野強・大崎隆・太田幹雄・赤川英爾「熊本市交通局8200形新性能電車」『車両技術』第160号、日本鉄道車輌工業会、1982年10月、38-51頁。 
  • 成田昌司・岡部信雄・吉田力・奥田良三「熊本市交通局8800形」『車両技術』第188号、日本鉄道車輌工業会、1989年10月、36-45頁。 
  • 森田弘昭・溝上章志「わが国最初のLRV化を果たした熊本のチャレンジ-熊本電鉄LRT化計画事業化の課題と展望-」(PDF)『国際交通安全学会誌』第34巻第2号、国際交通安全学会、2009年8月、56-65頁。