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「グレート・ムーン捏造記事」の版間の差分

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The Sun』に印刷された、捏造記事の「ルビーアンフィテアトルム」のリトグラフ

グレート・ムーン捏造記事 ( -ねつぞうきじ、英語:Great Moon Hoax)は、1835年8月25日から、の生命の発見、そして月の文明の発見とさえされるものにかんする、アメリカ合衆国、ニュー・ヨークの新聞『The Sun』に掲載された一連の6つの捏造記事を指す。これらの発見は、実在する最も有名な天文学者のひとりであるサー・ジョン・ハーシェルに不実にも帰せられた。

記事は1835年8月21日に、『Edinburgh Courant』からのものとして、近日掲載される特集記事として広告された。[1]6つのうちの1つめが、4日後の8月25日に発表された。

記事

ヒト-コウモリ("Vespertilio-homo")の肖像画 ナポリで発表された月シリーズの或る版から

見出しは次の通り:

天文学上の大発見
最近なされた
サー・ジョン・ハーシェル 法学博士 王立学会フェロー ほか
喜望峰で
[[エジンバラ]科学学会誌補遺より]

これらの記事は、月にいる異様な動物を記述したが、そのなかにはバイソン、ヤギユニコーン、二足の無尾のビーバー、そして寺院を建てたコウモリのような有翼のヒューマノイド("Vespertilio-homo")をふくんでいる。大洋砂浜があった。これらの発見は「まったく新しい原理の広大な望遠鏡」("an immense telescope of an entirely new principle")でなされたとされた。

記事の筆者は表向きはドクター・アンドルー・グラント(Dr. Andrew Grant)であって、グラントはサー・ジョン・ハーシェルの旅行の伴侶でかつ筆記者であったが、しかしグラントは架空の人物であった。

最後には、筆者らは、観測は望遠鏡が破壊されたために終了したと知らせたが、これは太陽のために望遠鏡のレンズが「天日採りレンズ」("burning glass")の働きをして天文台に火が点いたためであったという。[2]

筆者

英語版

記事の筆者はリチャード・アダムズ・ロック(Richard Adams Locke)であるとされたが、[3]彼は、1835年8月には『The Sun』に勤めている記者であった。ロックは1840年に週刊の『New World』宛ての手紙で、著者であることを公然と認めた。[4]それでもなお、他のひとびとが関わっているといううわさがしつこくひろまっていた。ほかの2人の男性が捏造記事に関係して注目された:ジョゼフ・ニコレ(Joseph Nicollet)、[3]当時アメリカを旅行中であったフランスの天文学者(ただし月の捏造が公表されたとき彼はニュー・ヨークでなくミシシッピにいた)、と、ルイス・ゲーロード・クラーク(Lewis Gaylord Clark)、文芸雑誌『The Knickerbocker』の編集者である。しかしながら、ロック以外のだれかが捏造記事の筆者であることを示す、十分な証拠は無い。

リチャード A. ロック(Richard A. Locke)が著者であると仮定するならば、彼の意図は十中八九、第1に、センセーショナルな記事を書いて『The Sun』の売り上げを伸ばすこと、第2に、最近、発表された天文学のとんでもない学説をあざ笑うことであった。たとえば、1824年に、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの天文学の教授であるフランツ・フォン・グルイテュイゼン(Franz von Gruithuisen)は、「月の住人の明白な痕跡の、特にコロッセオふうの建造物のひとつの、発見」("Discovery of Many Distinct Traces of Lunar Inhabitants, Especially of One of Their Colossal Buildings")という論文を公表した。グルイテュイゼンは、自分は月の表面のさまざまな色合いを観測したが、それらは気候および植生帯と相関関係があると主張した。  彼はまた、線と幾何学的図形を観測したが、彼はこれが壁、道路、要塞、そして都市の存在を示していると感じた。

しかしながら、ロックの諷刺のもっと直接な対象はトマス・ディック師(Rev. Thomas Dick)であって、彼はその1冊目の書籍の書名にちなんで「キリスト教哲学者」("The Christian Philosopher")として知られていた。[5]ディックは、太陽系は21兆8919億7440万4480の居住者を入れる余裕があると計算していた。ところが、月だけであるならば、彼の計算では、42億0000万0000の居住者を入れる余裕がある。[6]彼の著作はアメリカ合衆国ではきわめて人気が高かったし、彼のファンには、ラルフ・ワルド・エマーソンのような知的指導者もふくまれていた。

反応と効果

伝説によれば、『The Sun』の発行部数は捏造記事のために劇的に増加し、かつてないほどの大量の発行部数を不変に続けて、そのために『The Sun』の成功した新聞としての地位を確立した。しかしながら、捏造が発行部数を増加させた程度は、事件のよく知られた話ではたしかに誇張されていた。それが捏造記事であると暴露されたのは公表後数週間たってからで、そのときでさえ、新聞は撤回声明を出さなかった。[7]

ハーシェルは最初、捏造記事を面白がり、自分自身の観測であればこれほどわくわくするはずがないと注目した。彼はのちに、捏造記事が事実であると信じた人々からの質問に答えなければならなかったとき悩まされるようになった。

エドガー・アラン・ポーは、この記事は自分の初期の作品「ハンス・プファールの無類の冒険」("The Unparalleled Adventure of One Hans Pfaall")の剽窃物であると主張した。彼の当時の編集者はリチャード・アダムズ・ロック(Richard Adams Locke)であった。彼はのちに同じ新聞に「"The Balloon-Hoax"」を発表した。[8]

ポーは、ロックの同様な月の捏造記事の2ヶ月前、1835年6月後半に、『Southern Literary Messenger』に、「"Hans Phaall – A Tale"」という彼じしんの月の捏造を公表し、のちに「"The Unparalleled Adventure of One Hans Pfaall"」として再公表した。物語は1835年10月2日ー5日に、「"Lunar Discoveries, Extraordinary Aerial Voyage by Baron Hans Pfaall"」という見出しの下に『New York Transcript』に再印刷された。ポーは、月への熱気球旅行を描いたが、そこではプファールは5年間、月の住人らとともに月で暮らし、月の住人をひとり地球に送り返している。話の風刺的で喜劇的な調子のためにポーの月の捏造のほうが成功しなかった。ロックは、舞台奥に下がり留まってポーに観客に背を向けさせたり、ポーの考えを横取りして先に使ったりすることができた。1846年に、ポーは、「"The Literati of New York City"」シリーズの一部として、『Godey's Lady's Book』に現われたロックの伝記的スケッチを書くことになる。

捏造記事は、ポーの「ハンス・プファール」のみならず、ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』の登場人物らによってもまた言及されている。

ネート・ディメオ(Nate DiMeo)の歴史的なポッドキャスト『The Memory Palace』は、いちエピソードを、「"The Moon in the Sun."」という題のグレート・ムーン捏造記事にささげている。[9]

脚注

  1. ^ Maliszewski, Paul. "Paper Moon," Wilson Quarterly. Winter 2005. p. 26
  2. ^ Gunn, James E.; Asimov, Isaac (1975). Alternate worlds: the illustrated history of science fiction. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall. p. 51. ISBN 0-89104-049-8 
  3. ^ a b “They Formed A Pair”. The Deseret Weekly (Salt Lake City, UT: Deseret News Publishing Company): p. 665. (1893年5月13日). https://news.google.com/newspapers?id=xaZOAAAAIBAJ&sjid=hkIDAAAAIBAJ&pg=6760,5192821 2013年6月27日閲覧。 
  4. ^ Goodman, Matthew (2008). The Sun and the Moon. New York: Basic Books. p. 274. ISBN 978-0-465-00257-3 
  5. ^ The Christian Philosopher
  6. ^ Dick, Thomas (1845) [First published London 1837; New York 1838] (PDF). Celestial Scenery; or, The Wonders of the Planetary System Displayed: Illustrating the Perfections of Deity and a Plurality of Worlds. Philadelphia: Edward C. Biddle. pp. 276–277. https://archive.org/download/celestialscener00dick/celestialscener00dick.pdf 2013年8月18日閲覧。 
  7. ^ Falk, Doris V. "Thomas Low Nichols, Poe, and the 'Balloon Hoax'" collected in Poe Studies, vol. V, no. 2. December 1972. p. 48
  8. ^ The Great Moon Hoax – History in the Headlines”. 2012年3月4日閲覧。
  9. ^ DiMeo, Nate (13 January 2010). "Episode 24: The Moon in the Sun". The Memory Palace (Podcast). WordPress. 2013年5月20日閲覧

出典

  • Evans, David S. "The Great Moon Hoax," Sky & Telescope, 196 (September 1981) and 308 (October 1981).
  • Goodman, Matthew, The Sun and the Moon: The Remarkable True Account of Hoaxers, Showmen, Dueling Journalists, and Lunar Man-Bats in Nineteenth-Century New York (New York: Basic Books, 2008) ISBN 978-0-465-00257-3

外部リンク