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[[ファイル:Liocarcinus vernalis.jpg|サムネイル|[[カニ]]の1種。写真上部の第1[[胸脚]]に1対の鋏をもつ。]]
{{出典の明記|date=2018年5月15日 (火) 23:41 (UTC)}}
[[節足動物]]の'''鋏'''(ハサミ、'''鉗'''、'''螯'''、[[英語]]: '''[[:en:Chela (organ)|chela]]'''<ref name=":5">{{Cite web|title=Crustacea Glossary::Definitions (Chela)|url=https://research.nhm.org/glossary/define.html?termID=159|website=research.nhm.org|accessdate=2020-12-25|publisher=}}</ref>、[[複数形]]: '''chelae'''<ref name=":0">{{Cite web|title=chela, chelae, chelate, cheliform, cheliped - BugGuide.Net|url=https://bugguide.net/node/view/190823|website=bugguide.net|accessdate=2019-07-29}}</ref>)とは、[[はさみ]]や[[ペンチ]]と似た[[付属肢]]([[関節肢]])の構造である。[[カニ]]・[[ロブスター]]・[[サソリ]]・[[カブトガニ類|カブトガニ]]などに見られ、主に物を掴むのに用いられる。
[[Image:Liocarcinus vernalis.jpg|right|250px|thumb|カニのハサミ 写真上部に一対のハサミ状の第一脚が見える]]
[[Image:Haeckel-Tachypleus_gigas-1024.jpg|right|250px|thumb|カブトガニは口の前の体節に備わる鋏角はもちろん、5対の歩脚の先端がすべてハサミ状をなしている。ただし、末尾の歩脚だけは3本指状の構造を採る]]
動物に見られる'''ハサミ'''('''螯'''、'''鉗''')とは、[[カニ]]の第一脚のように紙や布を切る道具([[はさみ]])と似た構造を言う。


== カニのハサミ ==
== 概要 ==
<gallery mode="packed" heights="150">
カニの第一脚の先端は、先端が二つに割れ、動かせるようになっており、その形は確かにハサミに見える。これは、先端の節とその次の節から伸びる突起から形成されるもので、両者の間で挟むように動かせる。一般に刃は着いていないので、ハサミというよりは、[[ペンチ]]や[[ピンセット]]のような働きが主体である。
ファイル:Kräftklo-1.jpg|[[ザリガニ]]の第1[[胸脚]]の鋏
File:Scorpion, Arkansas, FT, claw 2016-05-10-16.05 (26495470074).jpg|[[サソリ]]の[[触肢]]の鋏
</gallery>
[[ファイル:20220411 arthropod chela mechanics ja.gif|サムネイル|[[節足動物]]の鋏の機構]]
[[節足動物]]の[[付属肢]]([[関節肢]])は、機能に応じて様々な形態に多様化しており、鋏(chela)がその一つである。先端が2つに割れ、動かせるようになっており、その形は[[はさみ]]に似ている。これは、先端の肢節とその一個前の肢節から伸びる突起で形成されるもので、両者の間で挟むように動かせる。この様な付属肢の状態は'''鋏状'''('''ハサミ状'''<ref name=":1">{{Cite journal|和書|last=敬知|first=角井|date=2016-08-01|title=タナイスの多様性―特に性様式について|url=https://doi.org/10.18988/cancer.25.0_131|publisher=日本甲殻類学会|journal=CANCER|volume=25|pages=131-136|language=ja|doi=10.18988/cancer.25.0_131|issn=0918-1989}}</ref>、chelate, cheliform<ref name=":0" />)と呼ばれる。なお、節足動物の鋏は一般に物を掴むのに用いられるため、物を切断するはさみというよりは、[[ペンチ]]や[[ピンセット]]のような働きが主体である。


より詳し見ると、先端の節は細くてやや曲がった棒状になっている。次ぐ節は大きく膨らんで、多量の筋肉を収める。節足動物附属の関節は、それぞれに一定方向にしか動かない。第一節の動方向の側の第二節のの部分から第一節と同じくらいの長さの突起が出て、第一節と向かい合うようになっている。この突起と第一鋏の刃に当たる。第一節の腱が第二節に入り込み、ここに多くの筋肉が付着し、これを引っ張ることでハサミの開閉が行われる。つまり第一節の側が動き、第二節の突起は動かない。そこで、第一節を'''可動指'''、第二節の突起を'''不動指'''とよび、節の中央部を'''掌部'''ということもある。
の場合、先端の節は状になっており、の基部繋いだ一個前の肢節は大きく膨らんで、多量の[[筋肉]]を収める。一個前の肢節は、先端の肢節の動方向に向かった端から突起が出て、先端の肢節と向かい合うようになっている。この突起と先端の肢は'''指'''(finger, ramus, 複数形: rami)と言い、鋏のに当たる。先端の肢節の1対の[[]]([[内骨格]])一個前の肢節に入り込み、ここに[[外骨格]]内壁に張り付いた筋肉が付着し、これを引っ張ることでの開閉が行われる。そのため、鋏は原則として'''先端の肢節の動き、一個前の肢節の突起は動かない'''。そこで、先端の肢節を'''可動指'''(movable finger, free ramus)一個前の肢節の突起を'''不動指'''(fixed finger, fixed ramus, immovable finger)呼ばれる<ref name=":5" /><ref>{{Cite web|和書|title=鋏とは|url=https://kotobank.jp/word/%E3%81%AF%E3%81%95%E3%81%BF%28%E9%8B%8F%29-1195266|website=コトバンク|accessdate=2019-07-30|language=ja|first=世界大百科事典|last=2版,世界大百科事典内言及}}</ref>。また、不動指をもつ1個前の肢全体を手(manus)、筋肉を収めたその中央部を'''掌部'''(hand)呼ばれることもある<ref name=":4">{{Cite journal|title=Autecology of Silurian eurypterids |author=Selden, PA |journal=Special Papers in Palaeontology |volume=32 |issue=3 |pages=9-5 |year=1984 |url=https://www.academia.edu/download/30780842/autecology.pdf |format=PDF}}</ref><ref name=":6">{{Cite journal|last=Van Der Meijden|first=A.|last2=Herrel|first2=A.|last3=Summers|first3=A.|date=2010-04|title=Comparison of chela size and pincer force in scorpions; getting a first grip|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-7998.2009.00628.x|journal=Journal of Zoology|volume=280|issue=4|pages=319-325|language=en|doi=10.1111/j.1469-7998.2009.00628.x|issn=0952-8369}}</ref><ref name=":7">{{Cite journal|last=van der Meijden|first=Arie|last2=Kleinteich|first2=Thomas|last3=Coelho|first3=Pedro|date=2012-5|title=Packing a pinch: functional implications of chela shapes in scorpions using finite element analysis|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3403273/|journal=Journal of Anatomy|volume=220|issue=5|pages=423-434|doi=10.1111/j.1469-7580.2012.01485.x|issn=0021-8782|pmid=22360433|pmc=3403273}}</ref>


[[ファイル:FMIB 47667 Scissor-Foot Prawn.jpeg|サムネイル|第2胸脚の鋏が両指とも可動な {{Snamei||Psalidopus spiniventris}}]]
ハサミはえさとなる生物をつまみあげ、捕捉し、あるいは殻を粉砕したうえで、食べられる部分を裁断、引きちぎるのに用いられる。また、敵を攻撃する際や、防御のため、さらには[[シオマネキ]]類や[[チゴガニ]]類のような[[スナガニ科]]でよく見られるように、異性をめぐる闘争やそれに関係したダンスなどのデモンストレーションにも用いられることがある。
上述の体制から逸して、一個前の肢節由来の突起が例外的に分節し、すなわち両指とも可動な鋏は、知られる中で[[イガグリエビ属]]({{Snamei||Psalidopus}})の[[エビ]]類のみがもつ<ref>{{Cite journal|last=Chace|first=Fenner Albert|last2=Holthuis|first2=L. B.|date=1978|title=Psalidopus: the scissor-foot shrimps (Crustacea: Decapoda: Caridea)|url=https://repository.si.edu/handle/10088/5470|journal=Smithsonian Contributions to Zoology|issue=277|pages=1-22|language=en|doi=10.5479/si.00810282.277}}</ref>。


== さまざまなハサミ ==
== さまざまな ==
{{Anchors|さまざまなハサミ}}
[[Image:Gnathopods_nl.png|thumb|250px|left|甲殻類の顎脚に見られる鋏状(右)と亜鋏状(左)の構造]]
=== 甲殻類 ===
類似の構造は多くの[[節足動物]]の足に見られる。最もよく見られるのは、やはり[[甲殻類]]である。[[十脚類]]の[[ザリガニ]]類、[[ヤドカリ]]類、[[カニ]]類はその大部分がよく発達したハサミを第一脚に持つし、他の足にも鋏をもつ場合もある。[[エビ]]類でも一対以上のハサミを持つものは多い。その他、[[タナイス目]]、[[オキアミ目]]などにはっきりしたハサミを持つものがある。
[[ファイル:Haeckel Decapoda.jpg|サムネイル|多くの[[十脚類]]は鉗脚をもつ]]
<gallery widths="250" heights="150" perrow="2">
ファイル:Nur01521 - Flickr - NOAA Photo Library.jpg|[[ロブスター]]
ファイル:Stenopus Hispidus.Thailand.jpg|[[オトヒメエビ]]
ファイル:BirgusLatroRay.jpg|[[ヤシガニ]]
ファイル:Calling Fiddler Crab (Uca vocans) (15717078196).jpg|[[シオマネキ]]
</gallery>
鋏は多くの[[節足動物]]の[[関節肢|付属肢]]に見られ、中でも[[十脚類]]([[エビ]]・[[カニ]]・[[ヤドカリ]]など)の[[甲殻類]]によるものか最も一般的に知られている。多く十脚類は少なくとも鋏を第1胸脚(第4胸肢)に有し、他の胸脚(第5-8胸肢)にも鋏をもつ場合もある。十脚類のこの様な胸脚は、'''鉗脚'''(かんきゃく)もしくは'''鋏脚'''(きょうきゃく)(cheliped)と呼ばれる<ref>{{Cite web|title=Definition of CHELIPED|url=https://www.merriam-webster.com/dictionary/cheliped|website=www.merriam-webster.com|accessdate=2019-07-30|language=en}}</ref>。


エビ類では複数対の鉗脚をもつものは多い。[[根鰓亜目]]と多くの[[ザリガニ下目]]([[ザリガニ]]・[[ロブスター]]など)は前の3対、[[コエビ下目]]([[ヌマエビ]]・[[テナガエビ]]など)は前の2対、ザリガニ下目の中で[[センジュエビ科]]は前の4対もしくは5対で全ての脚が鋏をもつ<ref>{{Cite web|title=FAMILY Details for Polychelidae - blind lobsters|url=https://www.sealifebase.ca/summary/FamilySummary.php?ID=11|website=www.sealifebase.ca|accessdate=2019-07-30}}</ref>。そのうち1対が強大に特化したものもあり、ザリガニ下目などの第1胸脚、[[テナガエビ]]などの第2胸脚、[[オトヒメエビ]]などの第3胸脚が挙げられる。エビ類のほか、カニ類の[[ハサミアシホモラ]]と[[ヤドカリ]]類の[[ヤシガニ]]は、それぞれの第5胸脚と第4胸脚にも鋏をもつ。[[イセエビ下目]]([[イセエビ]]・[[セミエビ]]など)はほぼ鋏をもたないが、雌の第5脚に小さな鋏をもつ場合がある<ref>{{Cite web |title=FAMILY Details for Palinuridae - spiny lobsters |url=https://www.sealifebase.ca/summary/FamilySummary.php?ID=13 |website=www.sealifebase.ca |accessdate=2022-04-12}}</ref>。
[[鋏角亜門|鋏角類]]の[[カブトガニ]]や[[サソリ]]にも鋏がある。カブトガニの場合は目立たないが歩脚の先端が鋏になっている。サソリや[[カニムシ]]などの場合、[[触肢]]が立派なハサミに発達している。また、触肢がハサミとして発達している鋏角類であっても、[[鋏角]]は小さいながらも鋏になっている。鋏脚が名前どおり鋏状になっているものは多く、[[ザトウムシ]]類や[[ダニ]]類もそうである。


==== 機能 ====
特に甲殻類の鋏は時として左右が不対称になっている。大きい鋏は武器として用いられる例が多い。極端な例は[[シオマネキ]]である。このカニの場合、大きい鋏は雌を巡る争いやデモンストレーションに用い、餌を採る際には小さい方の鋏だけを使う。これに関わって、鋏に[[性的二形]]を生じる例も少なくない。また、[[ヤドカリ]]では大きい方の鋏を[[貝殻]]入り口の蓋として用いる。
十脚類の鉗脚は餌となる生物をつまみあげ、捕捉し、あるいは殻を粉砕したうえで、食べられる部分を裁断、引きちぎるのに用いられる。また、敵を攻撃する際や、防御のため、さらには[[シオマネキ]]類や[[チゴガニ]]類のような[[スナガニ科]]でよく見られるように、異性をめぐる闘争やそれに関係したダンスなどのデモンストレーションにも用いられることがある<ref name=":8">{{Cite journal|last=PEREZ|first=DANIELA M.|last2=ROSENBERG|first2=MICHAEL S.|last3=PIE|first3=MARCIO R.|date=2012-06-01|title=The evolution of waving displays in fiddler crabs (Uca spp., Crustacea: Ocypodidae)|url=https://doi.org/10.1111/j.1095-8312.2012.01860.x|journal=Biological Journal of the Linnean Society|volume=106|issue=2|pages=307-315|doi=10.1111/j.1095-8312.2012.01860.x|issn=0024-4066}}</ref><ref name=":9">{{Cite journal|last=Callander|first=Sophia|last2=Kahn|first2=Andrew T.|last3=Maricic|first3=Tim|last4=Jennions|first4=Michael D.|last5=Backwell|first5=Patricia R. Y.|date=2013-07-01|title=Weapons or mating signals? Claw shape and mate choice in a fiddler crab|url=https://doi.org/10.1007/s00265-013-1541-6|journal=Behavioral Ecology and Sociobiology|volume=67|issue=7|pages=1163-1167|language=en|doi=10.1007/s00265-013-1541-6|issn=1432-0762}}</ref>。
[[Image:Forficula auricularia.jpg|right|250px|thumb|ハサミムシの一種 ''Forficula auricularia'']]


十脚類の鉗脚は時として左右が不対称になり、極端な例はシオマネキである。この類のカニは[[性的二形]]で、[[雄]]の片側の鉗脚が極端に強大化して[[雌]]を巡る争いやデモンストレーションに用い<ref name=":8" /><ref name=":9" />、餌を採る際には反対側の小さな鉗脚だけを使う<ref>{{Cite journal|last=Levinton|first=Jeffrey S.|last2=Judge|first2=Michael L.|last3=Kurdziel|first3=Josepha P.|date=1995-11-29|title=Functional differences between the major and minor claws of fiddler crabs (Uca, family Ocypodidae, Order Decapoda, Subphylum Crustacea): A result of selection or developmental constraint?|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022098195001158|journal=Journal of Experimental Marine Biology and Ecology|volume=193|issue=1|pages=147-160|language=en|doi=10.1016/0022-0981(95)00115-8|issn=0022-0981}}</ref>。ヤドカリの大きい方の鉗脚は雄同士の闘争のほか、[[貝殻]]に潜む際にを入り口の蓋として用られる<ref>{{Cite journal|和書|author=石原(安田)千晶 |date=2014-12 |title=Male-male competition in hermit crabs : Assessment of fighting ability with focusing on the role of major cheliped / (邦題)ヤドカリのオス間闘争 : 大鋏脚の機能に着目した闘争能力の評価戦略 |url=https://doi.org/10.14943/doctoral.k11608 |issue=北海道大学 水産科学(博士), 甲第11608号 |hdl=2115/58240 |doi=10.14943/doctoral.k11608 |naid=500000929003}}</ref>。[[テッポウエビ科|テッポウエビ類]]の発達した鉗脚は捕食や闘争などに用いられ、特殊な構造により爆裂音と高温な[[キャビテーション]]の泡を発することができる<ref>{{Cite journal|last=Versluis|first=Michel|last2=Schmitz|first2=Barbara|last3=von der Heydt|first3=Anna|last4=Lohse|first4=Detlef|date=2000-09-22|title=How Snapping Shrimp Snap: Through Cavitating Bubbles|url=https://www.science.org/doi/10.1126/science.289.5487.2114|journal=Science|volume=289|issue=5487|pages=2114-2117|language=en|doi=10.1126/science.289.5487.2114|issn=0036-8075}}</ref>。
== ハサミに似た構造 ==
第一節と向かい合う突起が第一節の基部からやや離れたところにあるものもある。この場合、第一節は第二節の突起ではなく、第二節の突起までの間の部位で第一節の内側とかみ合う。外見的にはやや[[鎌]]に似た姿となる。この状態を'''亜鋏状'''と言う。[[ワレカラ]]や[[ヨコエビ]]などの[[端脚類]]、口脚目([[シャコ]]類)などにそのようなものが見られる。


==== 十脚類以外の甲殻類 ====
[[昆虫]]類は非常に種数が多く、その肢の構造にも多様なものが見られるが、不思議に単独でハサミとなった付属肢を持つものはほとんど無い。鎌型の亜鋏状の肢を持つものが散見される程度である。[[カマキリ]]、[[カマキリモドキ]]、カマバエ(カマキリバエ)、カマバチ、[[タガメ]]などの例があり、いずれも獲物を捕らえ保持するための器官として発達している。また[[ハサミムシ]]は、単独の付属肢でハサミを構成するわけではないが、腹部の先端の1対の[[尾肢]]が硬化して、鋏状の構造と機能を持つため、この名がある。類似の構造が[[コムシ目]]のハサミコムシにも見られる。
{{multiple image
|image1 = Tanaidacea (YPM IZ 076906) 002.jpeg
|caption1 = [[タナイス目|タナイス]]
|image2 = FMIB 42833 Phronima sedentaria Grand Manan.jpeg
|caption2 = [[タルマワシ]]
|image3 = Parasite 20,42(2013) Complete life cycle of a pennellid Peniculus minuticaudae -fig2.tif
|caption3 = [[ヒジキムシ]]の第2[[触角]]
}}
十脚類以外の甲殻類では鋏をもつ例が少ない。[[タナイス目|タナイス]]の第1胸脚(第2胸肢)は強大な鋏状で<ref name=":1" />、[[端脚類]]の中では1対以上の胸脚が鋏状に特化した一部の[[ヨコエビ]]と[[タルマワシ]]がある。[[カイアシ類]]の中では[[ヒジキムシ]]のように第2[[触角]]が目立たない鋏状に特化した例がある<ref>{{Cite book|title=Bulletin|url=https://books.google.com/books?id=aLEmAQAAIAAJ&lpg=PA489&ots=V0rmkftYvP&dq=Pennellidae%20chela&hl=ja&pg=PA489#v=onepage&q=Pennellidae%20chela&f=false|publisher=U.S. Government Printing Office|date=1932|language=en}}</ref>。[[ムカデエビ]]類の中では[[ムカデエビ綱#オヨギモスラ科 Pleomothridae|オヨギモスラ科]]の種類が鋏状の第1[[小顎]]をもつ<ref>{{Cite journal|last=Hoenemann|first=Mario|last2=Neiber|first2=Marco T.|last3=Humphreys|first3=William F.|last4=Iliffe|first4=Thomas M.|last5=Li|first5=Difei|last6=Schram|first6=Frederick R.|last7=Koenemann|first7=Stefan|date=2013-09-01|title=Phylogenetic Analysis and Systematic Revision of Remipedia (Nectiopoda) From Bayesian Analysis of Molecular Data|url=https://doi.org/10.1163/1937240X-00002179|journal=Journal of Crustacean Biology|volume=33|issue=5|pages=603-619|doi=10.1163/1937240X-00002179|issn=0278-0372}}</ref>。
{{-}}


また、第三節にも第二節と同様な突起を生じ、三本指になる例もある。カブトガニでは第5歩脚が三本指になり、これを広げることで[[かんじき]]のように泥の上でも足を支えられるようになっている。


=== 鋏角類 ===
中国[[雲南省]]の[[カンブリア紀]]地層から発見された[[澄江生物群]]に属する[[パラペユトイア]]は、[[アノマロカリス]]に似た構造を持つ動物である。アノマロカリスは口の前に一対の[[触手]]を持ち、その形がエビの腹部と間違われたように節に分かれ、内側には歯のような突起があるが、パラペユトイアの触手は、先端近くの節から長い突起を出して、三本歯のはさみ状になっている。
<gallery mode="packed" heights="150">
ファイル:Limulus ventral morphology.png|[[カブトガニ類|カブトガニ]]の[[鋏角]](1)と[[脚]](2-6)
ファイル:20201227 Pterygotidae pterygotid.png|[[ダイオウウミサソリ科]]の[[ウミサソリ]]
ファイル:850 8879 Solifugae.jpg|[[ヒヨケムシ]]
</gallery>
{{multiple image
| align =
| width =
| direction =
| footer = [[サソリ]](1枚目)と[[カニムシ]](2枚目)の正面。鋏を口元の[[鋏角]]と左右の[[触肢]]にもつ。
| image1 = Skorpion fg02.jpg
| caption1 =
| image2 = Pseudoscorpion (7586033338).jpg
| caption2 =
}}
[[鋏角類]]に鋏をもつ例が多い。'''[[鋏角]]'''(きょうかく、chelicera, 複数形: [[:en:Chelicerae|chelicerae]])は鋏角類に特有の[[関節肢|付属肢]]で、名に現れるように多くの場合は鋏状である。そのほとんどが小さく目立たないが、[[ヒヨケムシ]]と一部の[[ウミサソリ]]のように、鋏角が強大化して目立つなものもある<ref name=":4" /><ref name=":2" />。[[ウミグモ]]の場合、鋏角に当たる付属肢は[[鋏肢]](chelifore)と呼ばれる<ref name=":2" />。

鋏角以外の付属肢が鋏をもつ鋏角類もある。例えば[[カブトガニ類|カブトガニ]]では、ほぼ全ての脚の先端が鋏となっている。[[サソリ]]と[[カニムシ]]では、[[触肢]]が強大な鋏に発達している<ref name=":6" /><ref name=":7" /><ref name=":2">{{Cite journal|last=Lamsdell|first=James C.|last2=Dunlop|first2=Jason A.|year=2017|title=Segmentation and tagmosis in Chelicerata|url=https://www.academia.edu/28212892|journal=Arthropod Structure &amp; Development|volume=46|issue=3|pages=395-418|language=en|issn=1467-8039}}</ref>。

鋏角は鋏角類の口器であり、多くの場合は餌を掴んで分解し、それを直後の口へ運ぶ機能を担う<ref name=":2" />。ヒヨケムシや[[ダイオウウミサソリ科|ダイオウウミサソリ類]]のような強大な鋏角は、獲物を捕獲するのに役立つ<ref name=":4" />。サソリとカニムシは触肢の鋏で獲物を捕獲し、それを口元の鋏角に運んで捕食を行う。特にカニムシの触肢の鋏は毒腺を有し、確保した獲物に毒を注入することもできる<ref>{{Cite journal|last=von Reumont|first=Bjoern|last2=Campbell|first2=Lahcen|last3=Jenner|first3=Ronald|date=2014-12-19|title=Quo Vadis Venomics? A Roadmap to Neglected Venomous Invertebrates|url=http://www.mdpi.com/2072-6651/6/12/3488|journal=Toxins|volume=6|issue=12|pages=3488-3551|language=en|doi=10.3390/toxins6123488|issn=2072-6651|pmid=25533518|pmc=4280546}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Krämer|first=Jonas|last2=Pohl|first2=Hans|last3=Predel|first3=Reinhard|date=2019-04-15|title=Venom collection and analysis in the pseudoscorpion Chelifer cancroides (Pseudoscorpiones: Cheliferidae)|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0041010119300509|journal=Toxicon|volume=162|pages=15-23|doi=10.1016/j.toxicon.2019.02.009|issn=0041-0101}}</ref>。カブトガニの鋏をもつ脚は[[歩行]]と餌を掴む機能を兼ね備え、鋏角で餌を口へ運ぶ<ref>{{Cite web|title=Horseshoe Crabs ~ MarineBio Conservation Society|url=https://marinebio.org/species/horseshoe-crabs/limulus-polyphemus/|website=marinebio.org|accessdate=2019-07-30}}</ref>。
{{-}}

=== 他の節足動物 ===
{{multiple image
| align =
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| direction =
| footer =
| image1 = Sphaeromimus vatovavy posterior telopods.jpg
| caption1 = [[ネッタイタマヤスデ]]の[[雄]]の後端生殖肢|[[ネッタイタマヤスデ]]のオスの後端生殖肢(1)
| image2 = Bocchus thorpei Olmi, 2007 (AM AMNZ70441-6).jpg
| caption2 = カマバチの前脚|[[カマバチ]]の前[[脚]]跗節
| image3 = Tokummia.png
| caption3 = 鋏を持つ[[:en:Hymenocarina|Hymenocarina]]類である[[トクンミア]](''[[:en:Tokummia katalepsis|Tokummia]]'')の復元図
}}

[[甲殻類]]と[[鋏角類]]以外の[[節足動物]]の場合、[[関節肢|付属肢]]そのものが鋏になる例が非常に少ない。[[多足類]]([[ムカデ]]、[[ヤスデ]]など)の中では、[[ネッタイタマヤスデ目]]の[[雄]]の最終の脚が頑丈な鋏に特化している。これは後端[[生殖肢]](posterior telopod)と言い、[[繁殖行動]]で[[雌]]を掴むのに用いられている<ref>{{Cite journal|last=Shear|first=William|date=1999|title=Millipeds|url=http://www.americanscientist.org/issues/feature/1999/3/millipeds|journal=American Scientist|volume=87|issue=3|pages=232|language=en|doi=10.1511/1999.24.820|issn=0003-0996}}</ref>。鋏状の付属肢をもつ[[六脚類]]([[昆虫]]など)は、[[カマバチ]]と {{Sname||Carcinocorini}} 族の[[サシガメ#分類|ヒゲブトサシガメ]]のみによって知られている<ref>{{Cite journal|last=Weirauch|first=Christiane|last2=Forero|first2=Dimitri|last3=Jacobs|first3=Dawid H.|date=2011|title=On the evolution of raptorial legs – an insect example (Hemiptera: Reduviidae: Phymatinae)|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1096-0031.2010.00325.x|journal=Cladistics|volume=27|issue=2|pages=138-149|language=en|doi=10.1111/j.1096-0031.2010.00325.x|issn=1096-0031}}</ref>。いずれも前脚由来で、カマバチは先端片側の[[鉤爪|爪]]と第5跗小節の突起<ref name=":3">{{Cite web|title=Dryinidae (Hymenoptera Chrysidoidea): an interesting group among the natural enemies of the Auchenorrhyncha (Hemiptera). - PDF|url=https://docplayer.net/29635667-Dryinidae-hymenoptera-chrysidoidea-an-interesting-group-among-the-natural-enemies-of-the-auchenorrhyncha-hemiptera.html|website=docplayer.net|accessdate=2019-07-29}}</ref>、Carcinocorini 族は脛節と腿節の突起でそれぞれ鋏の可動指と不動指になる。どの現生[[亜門 (分類学)|亜門]](鋏角類・多足類・甲殻類・六脚類)にも当てはまらない[[絶滅]]群では、れっきとした鋏をもつ例が更に少なく、{{Sname||Hymenocarina}} 類の[[トクンミア]]のみ知られる程度である<ref>{{Cite journal|last=Aria|first=Cédric|last2=Caron|first2=Jean-Bernard|date=2017-05|title=Burgess Shale fossils illustrate the origin of the mandibulate body plan|url=https://www.nature.com/articles/nature22080|journal=Nature|volume=545|issue=7652|pages=89-92|language=en|doi=10.1038/nature22080|issn=1476-4687}}</ref>。
{{-}}

== 鋏に似た構造 ==
{{Anchors|ハサミに似た構造}}前述の特徴に当たらないものの、鋏に似た構造をもつ[[節足動物]]もあり、次に列挙される。
=== 亜鋏状の構造 ===
<gallery mode="packed" heights="150">
ファイル:Squilla mantis.jpg|[[シャコ目|シャコ]]
ファイル:Mantis religiosa (5011970907).jpg|[[カマキリ]]
ファイル:Crab louse (251 24) Female adult and eggs, from a human host.jpg|[[シラミ]]
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[[ファイル:Caprella andreae (10.1590-2358-2936e2020034) Figure 2.jpg|サムネイル|[[ワレカラ]]の亜鋏状の[[咬脚]](B-C)]]
一部の[[節足動物]]の[[関節肢|付属肢]]は、末端の肢節が爪状に特化したものの、一個前の肢節がそれと向かい合う突起はなく、もしくは突起が鋏になれないほど短いものがある。この場合、先端の肢節は一個前の肢節の突起ではなく、一個前の肢節の片側の縁で先端の肢節の内側とかみ合い、全体が[[鎌]]に似た構造となる。外見的には[[歩脚]]状と鋏状の中間形態に当たるようで、この構造は'''亜鋏状'''('''亜ハサミ状'''<ref name=":1" />、subchelate<ref>{{Cite web|title=subchelate|url=https://crustacea.academic.ru/1627/subchelate|website=Academic Dictionaries and Encyclopedias|accessdate=2019-07-30|language=en|publisher=}}</ref>)と呼ばれる。[[甲殻類]]の中では、[[端脚類]]([[ワレカラ]]や[[ヨコエビ]]など)の[[咬脚]]・[[シャコ類]]([[口脚類]])の[[捕脚]]などにそのようなものが見られる。

[[昆虫]]などの[[六脚類]]は非常に種数が多く、その付属肢の構造にも多様なものが見られるが、不思議に単独で鋏となった付属肢をもつものはほとんど無く、前述の僅かな例しか見当たらない。鎌状/亜鋏状の前脚をもつものが散見される程度で、[[カマキリ]]、[[カマキリモドキ]]、[[カマバエ]](カマキリバエ)、[[水生カメムシ類]]、Carcinocorini族以外の[[サシガメ#分類|ヒゲブトサシガメ]]などの例があり、いずれも獲物を捕らえ保持するための器官として発達している。[[哺乳類]]に寄生する[[シラミ]]は、全ての脚の先端が宿主の[[毛 (動物)|毛]]を掴める亜鋏状となっている。一部の[[コバチ]]は、頑丈で鎌のような後脚をもつ。また、前述のカマバチの中でも、一部の群では第5跗小節の突起が発達せず、亜鋏状に近い構造となる<ref name=":3" />。

前述の[[鋏角類]]の中でも、[[鋏角]]は鋏型でないものもある。例えば[[四肺類]]([[クモ]]、[[ウデムシ]]、[[サソリモドキ]]、[[ヤイトムシ]]など)の鋏角は亜鋏状で、[[折りたたみナイフ]]のような[[牙]]となっている<ref name=":2" />。

=== 多数の肢節と突起からなる構造 ===
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ファイル:20191028 Megacheirans Leanchoilia Haikoucaris Yohoia Fortiforceps.png|様々な[[メガケイラ類]]
ファイル:20210912 Amplectobeluidae.png|[[アンプレクトベルア]]と[[ライララパクス]]
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[[ファイル:Malaysian Vinegaroon (Thelyphonus sp.) close-up (8723054003).jpg|サムネイル|[[サソリモドキ]]の[[触肢]]]]
末端肢節の直前2節以上の肢節がかみ合う突起を生えて、[[関節肢|付属肢]]全体が合わせて3本以上の突起をもつ例がある。この様な「多重の鋏」(multichelate)<ref name=":10">{{Cite journal|last=Haug|first=Joachim T.|last2=Briggs|first2=Derek EG|last3=Haug|first3=Carolin|date=2012-08-30|title=Morphology and function in the Cambrian Burgess Shale megacheiran arthropod ''Leanchoilia superlata'' and the application of a descriptive matrix|url=https://doi.org/10.1186/1471-2148-12-162|journal=BMC Evolutionary Biology|volume=12|issue=1|pages=162|doi=10.1186/1471-2148-12-162|issn=1471-2148|pmid=22935076|pmc=3468406}}</ref>は、[[ヨホイア]]、[[パラペイトイア]]、[[レアンコイリア]]などの[[メガケイラ類]]という化石節足動物の[[大付属肢]]が代表的である<ref>{{Cite journal|last=Haug|first=Joachim T.|last2=Waloszek|first2=Dieter|last3=Maas|first3=Andreas|last4=Liu|first4=Yu|last5=Haug|first5=Carolin|date=2012-03|title=Functional morphology, ontogeny and evolution of mantis shrimp-like predators in the Cambrian: MANTIS SHRIMP-LIKE CAMBRIAN PREDATORS|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1475-4983.2011.01124.x|journal=Palaeontology|volume=55|issue=2|pages=369-399|language=en|doi=10.1111/j.1475-4983.2011.01124.x}}</ref>。現生群では、[[鋏角類]]の[[サソリモドキ]]の触肢にこのような構造が見られる<ref name=":10" />。

[[基盤的]]な節足動物と考えられる古生物[[ラディオドンタ類]]は、先頭に1対の[[ラディオドンタ類#前部付属肢|前部付属肢]]がある。これは摂食用の付属肢と考えられ、往々にして10節前後ほど多くの肢節に分かれている。その中で[[アンプレクトベルア]]と[[ライララパクス]]は、基部付近の肢節腹側から大きな[[内突起]]を伸ばし、直後全ての肢節の湾曲方向とかみ合わせ、全体が鋏の様になっている<ref>{{Cite journal|last=Paterson|first=John R.|last2=Shu|first2=Degan|last3=Dunlop|first3=Jason A.|last4=Steiner|first4=Michael|last5=Lerosey-Aubril|first5=Rudy|last6=Liu|first6=Jianni|date=2018-11-01|title=Origin of raptorial feeding in juvenile euarthropods revealed by a Cambrian radiodontan|url=https://academic.oup.com/nsr/article/5/6/863/5025873|journal=National Science Review|volume=5|issue=6|pages=863-869|language=en|doi=10.1093/nsr/nwy057|issn=2095-5138}}</ref>。

=== 付属肢単体に由来でない構造 ===
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File:Forficula.auricularia.-.lindsey.jpg|[[クギヌキハサミムシ|ヨーロッパクギヌキハサミムシ]]
File:Kuwagata jp.jpg|[[ノコギリクワガタ]]
File:Xylotrupes gideon m.jpg|[[ヒメカブト]]
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[[ファイル:JapyxLefroy.jpg|250px|サムネイル|[[コムシ目|ハサミコムシ]]]]
単独の[[関節肢|付属肢]]からなるものではないが、鋏のように働く構造もある。[[クワガタムシ]]などの[[大顎]]や、[[ハサミムシ]]と[[コムシ目|ハサミコムシ]]のそれぞれの[[尾角]]のように、左右1対の付属肢がそれぞれ鋏の片割れとなり、合わせて鋏のように機能するものがある。また、付属肢由来ですらない構造が鋏のような構造をした例もあり、例えば一部の[[カブトムシ亜科|カブトムシ類]]の頭部と前胸[[背板]]は、鋏のように上下でかみ合わせた頭[[角]]と胸角をもつ<ref>{{Cite journal|last=McCullough|first=Erin L.|last2=Tobalske|first2=Bret W.|last3=Emlen|first3=Douglas J.|date=2014-10-07|title=Structural adaptations to diverse fighting styles in sexually selected weapons|url=http://www.pnas.org/lookup/doi/10.1073/pnas.1409585111|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=111|issue=40|pages=14484-14488|language=en|doi=10.1073/pnas.1409585111|issn=0027-8424}}</ref>。
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
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{{脚注ヘルプ}}
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{{Reflist|3}}

==関連項目==
* [[鋏]]
* [[関節肢]]
** [[鋏角]]


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[[CATEGORY:節足動物の体]]
[[CATEGORY:節足動物の体]]

2023年10月5日 (木) 01:45時点における最新版

カニの1種。写真上部の第1胸脚に1対の鋏をもつ。

節足動物(ハサミ、英語: chela[1]複数形: chelae[2])とは、はさみペンチと似た付属肢関節肢)の構造である。カニロブスターサソリカブトガニなどに見られ、主に物を掴むのに用いられる。

概要

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節足動物の鋏の機構

節足動物付属肢関節肢)は、機能に応じて様々な形態に多様化しており、鋏(chela)がその一つである。先端が2つに割れ、動かせるようになっており、その形ははさみに似ている。これは、先端の肢節とその一個前の肢節から伸びる突起で形成されるもので、両者の間で挟むように動かせる。この様な付属肢の状態は鋏状ハサミ状[3]、chelate, cheliform[2])と呼ばれる。なお、節足動物の鋏は一般に物を掴むのに用いられるため、物を切断するはさみというよりは、ペンチピンセットのような働きが主体である。

多くの場合、先端の肢節は爪状になっており、その基部に繋いだ一個前の肢節は大きく膨らんで、多量の筋肉を収める。一個前の肢節は、先端の肢節の動作方向に向かった端から突起が出て、先端の肢節と向かい合うようになっている。この突起と先端の肢節は(finger, ramus, 複数形: rami)と言い、鋏の「刃」に当たる。先端の肢節の1対の内骨格)が一個前の肢節に入り込み、ここに外骨格の内壁に張り付いた筋肉が付着し、これを引っ張ることで鋏の開閉が行われる。そのため、鋏は原則として先端の肢節のみ動き、一個前の肢節の突起は動かない。そこで、先端の肢節を可動指(movable finger, free ramus)、一個前の肢節の突起を不動指(fixed finger, fixed ramus, immovable finger)と呼ばれる[1][4]。また、不動指をもつ1個前の肢節全体を手(manus)、筋肉を収めたその中央部を掌部(hand)と呼ばれることもある[5][6][7]

第2胸脚の鋏が両指とも可動な Psalidopus spiniventris

上述の体制から逸して、一個前の肢節由来の突起が例外的に分節し、すなわち両指とも可動な鋏は、知られる中でイガグリエビ属Psalidopus)のエビ類のみがもつ[8]

さまざまな鋏

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甲殻類

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多くの十脚類は鉗脚をもつ

鋏は多くの節足動物付属肢に見られ、中でも十脚類エビカニヤドカリなど)の甲殻類によるものか最も一般的に知られている。多く十脚類は少なくとも鋏を第1胸脚(第4胸肢)に有し、他の胸脚(第5-8胸肢)にも鋏をもつ場合もある。十脚類のこの様な胸脚は、鉗脚(かんきゃく)もしくは鋏脚(きょうきゃく)(cheliped)と呼ばれる[9]

エビ類では複数対の鉗脚をもつものは多い。根鰓亜目と多くのザリガニ下目ザリガニロブスターなど)は前の3対、コエビ下目ヌマエビテナガエビなど)は前の2対、ザリガニ下目の中でセンジュエビ科は前の4対もしくは5対で全ての脚が鋏をもつ[10]。そのうち1対が強大に特化したものもあり、ザリガニ下目などの第1胸脚、テナガエビなどの第2胸脚、オトヒメエビなどの第3胸脚が挙げられる。エビ類のほか、カニ類のハサミアシホモラヤドカリ類のヤシガニは、それぞれの第5胸脚と第4胸脚にも鋏をもつ。イセエビ下目イセエビセミエビなど)はほぼ鋏をもたないが、雌の第5脚に小さな鋏をもつ場合がある[11]

機能

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十脚類の鉗脚は餌となる生物をつまみあげ、捕捉し、あるいは殻を粉砕したうえで、食べられる部分を裁断、引きちぎるのに用いられる。また、敵を攻撃する際や、防御のため、さらにはシオマネキ類やチゴガニ類のようなスナガニ科でよく見られるように、異性をめぐる闘争やそれに関係したダンスなどのデモンストレーションにも用いられることがある[12][13]

十脚類の鉗脚は時として左右が不対称になり、極端な例はシオマネキである。この類のカニは性的二形で、の片側の鉗脚が極端に強大化してを巡る争いやデモンストレーションに用い[12][13]、餌を採る際には反対側の小さな鉗脚だけを使う[14]。ヤドカリの大きい方の鉗脚は雄同士の闘争のほか、貝殻に潜む際にを入り口の蓋として用られる[15]テッポウエビ類の発達した鉗脚は捕食や闘争などに用いられ、特殊な構造により爆裂音と高温なキャビテーションの泡を発することができる[16]

十脚類以外の甲殻類

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十脚類以外の甲殻類では鋏をもつ例が少ない。タナイスの第1胸脚(第2胸肢)は強大な鋏状で[3]端脚類の中では1対以上の胸脚が鋏状に特化した一部のヨコエビタルマワシがある。カイアシ類の中ではヒジキムシのように第2触角が目立たない鋏状に特化した例がある[17]ムカデエビ類の中ではオヨギモスラ科の種類が鋏状の第1小顎をもつ[18]


鋏角類

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サソリ(1枚目)とカニムシ(2枚目)の正面。鋏を口元の鋏角と左右の触肢にもつ。

鋏角類に鋏をもつ例が多い。鋏角(きょうかく、chelicera, 複数形: chelicerae)は鋏角類に特有の付属肢で、名に現れるように多くの場合は鋏状である。そのほとんどが小さく目立たないが、ヒヨケムシと一部のウミサソリのように、鋏角が強大化して目立つなものもある[5][19]ウミグモの場合、鋏角に当たる付属肢は鋏肢(chelifore)と呼ばれる[19]

鋏角以外の付属肢が鋏をもつ鋏角類もある。例えばカブトガニでは、ほぼ全ての脚の先端が鋏となっている。サソリカニムシでは、触肢が強大な鋏に発達している[6][7][19]

鋏角は鋏角類の口器であり、多くの場合は餌を掴んで分解し、それを直後の口へ運ぶ機能を担う[19]。ヒヨケムシやダイオウウミサソリ類のような強大な鋏角は、獲物を捕獲するのに役立つ[5]。サソリとカニムシは触肢の鋏で獲物を捕獲し、それを口元の鋏角に運んで捕食を行う。特にカニムシの触肢の鋏は毒腺を有し、確保した獲物に毒を注入することもできる[20][21]。カブトガニの鋏をもつ脚は歩行と餌を掴む機能を兼ね備え、鋏角で餌を口へ運ぶ[22]

他の節足動物

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ネッタイタマヤスデの後端生殖肢
カマバチの前脚
鋏を持つHymenocarina類であるトクンミアTokummia)の復元図

甲殻類鋏角類以外の節足動物の場合、付属肢そのものが鋏になる例が非常に少ない。多足類ムカデヤスデなど)の中では、ネッタイタマヤスデ目の最終の脚が頑丈な鋏に特化している。これは後端生殖肢(posterior telopod)と言い、繁殖行動を掴むのに用いられている[23]。鋏状の付属肢をもつ六脚類昆虫など)は、カマバチCarcinocorini 族のヒゲブトサシガメのみによって知られている[24]。いずれも前脚由来で、カマバチは先端片側のと第5跗小節の突起[25]、Carcinocorini 族は脛節と腿節の突起でそれぞれ鋏の可動指と不動指になる。どの現生亜門(鋏角類・多足類・甲殻類・六脚類)にも当てはまらない絶滅群では、れっきとした鋏をもつ例が更に少なく、Hymenocarina 類のトクンミアのみ知られる程度である[26]

鋏に似た構造

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前述の特徴に当たらないものの、鋏に似た構造をもつ節足動物もあり、次に列挙される。

亜鋏状の構造

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ワレカラの亜鋏状の咬脚(B-C)

一部の節足動物付属肢は、末端の肢節が爪状に特化したものの、一個前の肢節がそれと向かい合う突起はなく、もしくは突起が鋏になれないほど短いものがある。この場合、先端の肢節は一個前の肢節の突起ではなく、一個前の肢節の片側の縁で先端の肢節の内側とかみ合い、全体がに似た構造となる。外見的には歩脚状と鋏状の中間形態に当たるようで、この構造は亜鋏状亜ハサミ状[3]、subchelate[27])と呼ばれる。甲殻類の中では、端脚類ワレカラヨコエビなど)の咬脚シャコ類口脚類)の捕脚などにそのようなものが見られる。

昆虫などの六脚類は非常に種数が多く、その付属肢の構造にも多様なものが見られるが、不思議に単独で鋏となった付属肢をもつものはほとんど無く、前述の僅かな例しか見当たらない。鎌状/亜鋏状の前脚をもつものが散見される程度で、カマキリカマキリモドキカマバエ(カマキリバエ)、水生カメムシ類、Carcinocorini族以外のヒゲブトサシガメなどの例があり、いずれも獲物を捕らえ保持するための器官として発達している。哺乳類に寄生するシラミは、全ての脚の先端が宿主のを掴める亜鋏状となっている。一部のコバチは、頑丈で鎌のような後脚をもつ。また、前述のカマバチの中でも、一部の群では第5跗小節の突起が発達せず、亜鋏状に近い構造となる[25]

前述の鋏角類の中でも、鋏角は鋏型でないものもある。例えば四肺類クモウデムシサソリモドキヤイトムシなど)の鋏角は亜鋏状で、折りたたみナイフのようなとなっている[19]

多数の肢節と突起からなる構造

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サソリモドキ触肢

末端肢節の直前2節以上の肢節がかみ合う突起を生えて、付属肢全体が合わせて3本以上の突起をもつ例がある。この様な「多重の鋏」(multichelate)[28]は、ヨホイアパラペイトイアレアンコイリアなどのメガケイラ類という化石節足動物の大付属肢が代表的である[29]。現生群では、鋏角類サソリモドキの触肢にこのような構造が見られる[28]

基盤的な節足動物と考えられる古生物ラディオドンタ類は、先頭に1対の前部付属肢がある。これは摂食用の付属肢と考えられ、往々にして10節前後ほど多くの肢節に分かれている。その中でアンプレクトベルアライララパクスは、基部付近の肢節腹側から大きな内突起を伸ばし、直後全ての肢節の湾曲方向とかみ合わせ、全体が鋏の様になっている[30]

付属肢単体に由来でない構造

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ハサミコムシ

単独の付属肢からなるものではないが、鋏のように働く構造もある。クワガタムシなどの大顎や、ハサミムシハサミコムシのそれぞれの尾角のように、左右1対の付属肢がそれぞれ鋏の片割れとなり、合わせて鋏のように機能するものがある。また、付属肢由来ですらない構造が鋏のような構造をした例もあり、例えば一部のカブトムシ類の頭部と前胸背板は、鋏のように上下でかみ合わせた頭と胸角をもつ[31]

脚注

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  1. ^ a b Crustacea Glossary::Definitions (Chela)”. research.nhm.org. 2020年12月25日閲覧。
  2. ^ a b chela, chelae, chelate, cheliform, cheliped - BugGuide.Net”. bugguide.net. 2019年7月29日閲覧。
  3. ^ a b c 敬知, 角井「タナイスの多様性―特に性様式について」『CANCER』第25巻、日本甲殻類学会、2016年8月1日、131-136頁、doi:10.18988/cancer.25.0_131ISSN 0918-1989 
  4. ^ 第2版,世界大百科事典内言及, 世界大百科事典. “鋏とは”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  5. ^ a b c Selden, PA (1984). “Autecology of Silurian eurypterids” (PDF). Special Papers in Palaeontology 32 (3): 9-5. https://www.academia.edu/download/30780842/autecology.pdf. 
  6. ^ a b Van Der Meijden, A.; Herrel, A.; Summers, A. (2010-04). “Comparison of chela size and pincer force in scorpions; getting a first grip” (英語). Journal of Zoology 280 (4): 319-325. doi:10.1111/j.1469-7998.2009.00628.x. ISSN 0952-8369. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-7998.2009.00628.x. 
  7. ^ a b van der Meijden, Arie; Kleinteich, Thomas; Coelho, Pedro (2012-5). “Packing a pinch: functional implications of chela shapes in scorpions using finite element analysis”. Journal of Anatomy 220 (5): 423-434. doi:10.1111/j.1469-7580.2012.01485.x. ISSN 0021-8782. PMC 3403273. PMID 22360433. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3403273/. 
  8. ^ Chace, Fenner Albert; Holthuis, L. B. (1978). “Psalidopus: the scissor-foot shrimps (Crustacea: Decapoda: Caridea)” (英語). Smithsonian Contributions to Zoology (277): 1-22. doi:10.5479/si.00810282.277. https://repository.si.edu/handle/10088/5470. 
  9. ^ Definition of CHELIPED” (英語). www.merriam-webster.com. 2019年7月30日閲覧。
  10. ^ FAMILY Details for Polychelidae - blind lobsters”. www.sealifebase.ca. 2019年7月30日閲覧。
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  13. ^ a b Callander, Sophia; Kahn, Andrew T.; Maricic, Tim; Jennions, Michael D.; Backwell, Patricia R. Y. (2013-07-01). “Weapons or mating signals? Claw shape and mate choice in a fiddler crab” (英語). Behavioral Ecology and Sociobiology 67 (7): 1163-1167. doi:10.1007/s00265-013-1541-6. ISSN 1432-0762. https://doi.org/10.1007/s00265-013-1541-6. 
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  15. ^ 石原(安田)千晶「Male-male competition in hermit crabs : Assessment of fighting ability with focusing on the role of major cheliped / (邦題)ヤドカリのオス間闘争 : 大鋏脚の機能に着目した闘争能力の評価戦略」北海道大学 水産科学(博士), 甲第11608号、2014年12月、doi:10.14943/doctoral.k11608hdl:2115/58240NAID 500000929003 
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関連項目

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