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=== 南極海洋生物資源保存条約 === |
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南極海洋生物資源保存条約(南極の海洋生物資源の保存に関する条約 )は、南極地域<ref group="注釈">南緯60度と南極収束線との間の地域。南極収束線とは、緯度線及び子午線に沿って次の点を結ぶ線である。南緯50度経度0度、南緯50度東経30度、南緯45度東経30度、南緯45度東経80度、南緯55度東経80度、南緯55度東経150度、南緯60度東経150度、南緯60度西経50度、南緯50度西経50度及び南緯50度経度0度 </ref>の海洋生物資源を保存するために締結された[[南極条約]]を補完する条約である。この条約に基づき設立された'''南極海洋生物資源保存委員会'''(CCAMLR)は、2009年に'''世界初となる公海上の海洋保護区'''を[[サウス・オークニー諸島]]南の海域に「'''サウス・オークニー海洋保護区'''」(South Orkney MPA)として設定した。<ref>石橋可奈美「公海における海洋環境保護のための新条約策定ー「海洋保護区」の可能性を踏まえてー」『東京外国語大学論集』第90号、2015年、5頁-6頁</ref>また、2016年には南極海の[[ロス海]](Ross Sea)の公海上の区域にも「ロス海海洋保護区」(Ross sea MPA)として海洋保護区を設置している。ロス海海洋保護区はその一部の区域で漁業を禁止している。<ref>{{Cite web |author=森下丈二 |date=2017-5-20 |url=https://www.bbc.com/japanese/37795966 |title=南極ロス海、世界最大の海洋保護区に─その本当の意味|accessdate=2018-01-18}}</ref><ref>{{Cite web |author= Quirin Schiermeier|date=2016-10-28 |url= |
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=== オスパール条約 === |
=== オスパール条約 === |
2018年1月29日 (月) 00:22時点における版
BBNJ(びーびーえぬじぇー、marine Biological diversity Beyond areas of National Jurisdiction)とは、「国家管轄権外区域における海洋生物多様性[注釈 1]」である。国家管轄権外区域とは、公海及び深海底を指す。
「海洋法に関する国際連合条約」(海洋法条約)における制度では公海及び深海底には国の管轄権が及ばず、生物多様性の保全及び持続可能な利用[注釈 2] についての規律が不十分であるため、生物多様性の問題の中でも特に「BBNJの保全及び持続可能な利用」を独自の問題として扱う必要性が生じた。
概要
海に関する国際法においては、18世紀頃から慣習国際法として、海洋を沿岸国の領有できる領海と沿岸国の領有できない公海に分け、公海では「公海自由の原則」が確立し、公海はいかなる国にも属さず、また、全ての国が自由に公海とその資源を使用することができた。その後、1982年には海に関する国際法として最も普遍的かつ包括的な条約であり「海の憲法」とも呼ばれる海洋法条約が採択され、海洋法条約は、海及び海底を内水[注釈 3]、群島水域[注釈 4]、領海[注釈 5]、排他的経済水域[注釈 6]、公海[注釈 7]、大陸棚[注釈 8]、深海底[注釈 9]に分類した。このうち内水、群島水域、領海、排他的経済水域、大陸棚については、沿岸国の主権・主権的権利・管轄権が及ぶが、公海、深海底にはいずれの国も属地的な管轄権が及ばない。
公海上の区域に対し属地的な管轄権を有する国はなく、公海上では旗国主義に基づき、船舶の旗国が当該船舶に属人的な管轄権を有するのみである。さらに、深海底においても属地的な管轄権を有する国はなく、海洋法条約に基づき設立された国際海底機構が深海底の資源を一元的に管理してはいるが、対象となる資源は鉱物資源のみ[注釈 10]である。生物多様性の保全のためには区域に基づく規制が不可欠であるとされているが、上記のように属地的な管轄権を欠いている区域である公海や深海底ではそれができない。
海洋法条約採択後には、国際的に生物多様性に対する関心が強まっていき、1992年の「環境と開発に関する国際連合会議」[注釈 11]で「生物の多様性に関する条約」(生物多様性条約)が採択された[注釈 12]が、生物多様性条約においても国の管轄権を超える区域は適用範囲外[注釈 13]とされたため、BBNJの保全及び持続可能な利用が課題として残されていた。
したがって、新たな法的枠組みの形成をしない限り、国家管轄権外区域においては生物多様性について国が実効的な規制を課すことはできず、BBNJの保全及び持続可能な利用が問題となっている。[1]
BBNJに対する脅威
海洋法条約では、慣習国際法上の公海自由の原則が踏襲され、すべての国が公海を自由に使えるとされたが、無制限というわけではない。例えば、海洋法条約第192条ではすべての国に海洋環境を保護する一般的な義務を課しており、第194条5項では「希少又はぜい弱な生態系及び減少しており、脅威にさらされており又は絶滅のおそれのある種その他の海洋生物の生息地を保護し及び保全するために必要な措置」も視野に含まれている。しかし、海洋環境の保護及び保全に関する第12部の第1節(第192条~第196条)は理念的な規定であり、国に特定の権利義務を与えるものではない。[2]
また、公海漁業については海洋法条約第7部第2節(第116条~第120条)の規定に従わなければならない。海洋法条約の規定だけでは、義務の内容が不明確なので、国連公海漁業協定[注釈 14]が海洋法条約第118条の義務を厳格化した上で、その義務を履行しない国の公海漁業を制限している。しかし、国連公海漁業協定が公海漁業を制限したとしても、それは国連公海漁業協定の締約国にしか効力は及ばず、非締約国は国連公海漁業協定には拘束されない。
このように公海自由の原則に対する制限は極めて不十分であり、乱獲などの問題につながっている。
IUU漁業
公海における国際法上の規律の欠如を利用したり、沿岸国(特に途上国)の海洋の管理能力の欠如あるいは管理する意思の欠如を利用したりして、国際法・国内法に違反したり規制を逃れたりして行う漁業をIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業;illegal, unreported and unregulated fishing)という。このIUU漁業による乱獲などが生態系に大きなダメージを与えていると言われている。[3]
海洋遺伝資源
生物多様性条約において、遺伝の機能的な単位を有する植物,動物,微生物その他に由来する素材を遺伝素材といい、現実の又は潜在的な価値を有する遺伝素材を遺伝資源という。遺伝資源の利用は生物多様性の構成要素の利用に当たる。生物多様性条約では「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」をその主要な目的の1つとしてしており、第10回締約国会議(COP10)においては遺伝資源の利益配分についての「名古屋議定書」[注釈 15]も締結している。ただし、生物多様性条約及び名古屋議定書では国の管轄権が及ばない区域(公海、深海底)は適用範囲外であり、公海や深海底にある遺伝資源は対象とはならない。したがって、公海や深海底にある遺伝資源は国際法上の規律が及ばない。
1977年2月にアメリカの深海探査艇アルビン号が熱水噴出孔に多様な生物が生息しているのを発見して以降、海洋の科学的調査の進展により、深海にある海底熱水鉱床、熱水噴出孔、海山、冷水性サンゴ礁などには「極限環境生物」と呼ばれる生物などが多く生息していることがわかってきており、また、それらの生物の遺伝素材は医薬品の開発などに応用できる可能性があり、「海洋遺伝資源」(marine genetic resources:MGR)として注目されている。[4]しかし、バイオプロスペクティングなどにより、そのような海洋遺伝資源にアクセスするには高度な技術を要し、また、公海や深海底は生物多様性条約及び名古屋議定書が適用されないため、海洋遺伝資源から得られる利益は事実上先進諸国による独占状態となる。
これに対し、途上国は海洋遺伝資源は「人類の共通の財産」(Common Heritage of Mankind:CHM)[注釈 16]であり海洋遺伝資源から得られる利益は衡平に配分するべきと主張している。[1]他方、先進諸国は海洋遺伝資源の取得は公海自由の原則に基づき自由であるべきと主張し[1]、また、海洋遺伝資源に知的財産権を認めるべき[注釈 17]か否かも問題となっている。[5]
海洋遺伝資源へのアクセスの方法として「海洋の科学的調査」と「バイオプロスペクティング」を峻別し、バイオプロスペクティングに対して一般的な海洋の科学的調査とは異なる規制を行うという議論もあるが、両者は外観上はほぼ同様の技術を用いており明確な線引きをするのは至難である。[6]
海洋遺伝資源の定義
遺伝資源についての定義は生物多様性条約に定められているが、海洋遺伝資源の定義は国際法上存在しない。海洋遺伝資源の定義には、海洋遺伝資源から得られた派生物、電子情報化された海洋遺伝資源、魚を含めるべきか否かが議論されている。[7]また、魚については「遺伝的性質のために使用される魚」と「商業的目的で使用される魚」を区別すべきか否かも議論が分かれている。[8]
海洋保護区
BBNJの保全のためには区域に基づき規制を行う必要があり、そのような規制方法は「区域型管理ツール」(Area-Based Management Tools:ABMT)と総称されている。区域型管理ツールの中でも特に有用なのが「海洋保護区」(Marine Protected Area:MPA)である。海洋保護区は一切の活動を禁止する漁業禁止区域や航行禁止区域のみを指すのではなく、法的手法などにより周辺海域に比べより保護されている海域を指す。一般的な定義はないが、国際自然保護連合(IUCN)は「生態系サービス及び文化的価値を含む自然の長期的な保全を達成するため、法律又は他の効果的な手段を通じて認識され、供用され及び管理される明確に定められた地理的空間」と定義している。
海洋保護区のほとんどは領海や排他的経済水域において沿岸国がその主権・主権的権利・管轄権に基づき、設定しているものである。公海は「公海自由の原則」があるため、他国による公海の使用を強制的に制限することはできないが、公海自由の原則は海洋法条約第87条に「公海の自由は、この条約及び国際法の他の規則に定める条件に従って行使される」とある通り「国際法の規則」によって制限することはできるため、公海の自由に対する制限に自主的に同意する国が、それらの国どうしで条約を締結したり国際機関を設立し、海洋保護区を設定することは可能である。ただし、当然のことながら、その海洋保護区は非締約国に対しては効力が及ばない。
海洋保護区やそれに類似するものを公海上に設定していたり設定しうる主要な例を以下に紹介する。
特別敏感海域
特別敏感海域(Particularly Sensitive Sea Areas:PSSA)とは、国際海事機関(IMO)が海洋環境保護の目的で一定の海域に設定する海洋保護区であり「認められた生態学的、社会経済的または科学的な特性の重要性により、国際海運活動から受ける損害に脆弱な、IMOによる行動を通じて特別な保護を必要とする海域」と定義されている。[9]PSSA自体はIMO総会が1991年に採択した「特別海域の指定及び特別敏感海域の特定のための指針」(91年ガイドライン)[注釈 18]により創設されたIMO独自の制度であり法的拘束力はないが[10]、IMOは海洋法条約における「権限のある国際機関」であり[11]、その正当性は強い。
PSSAが実際に公海上に設定された例はないが、2005年に改訂された「特別敏感海域の特定及び指定のための改訂ガイドライン」(2005年ガイドライン)には「領海の範囲内あるいは外のPSSAは」(PSSAs within and beyond the limits of the territorial sea)と記述されており[12]、このことから、理論上は公海上にもPSSAを設定することは可能であると解釈されている。[13]
南極海洋生物資源保存条約
南極海洋生物資源保存条約(南極の海洋生物資源の保存に関する条約 )は、南極地域[注釈 19]の海洋生物資源を保存するために締結された南極条約を補完する条約である。この条約に基づき設立された南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)は、2009年に世界初となる公海上の海洋保護区をサウス・オークニー諸島南の海域に「サウス・オークニー海洋保護区」(South Orkney MPA)として設定した。[14]また、2016年には南極海のロス海(Ross Sea)の公海上の区域にも「ロス海海洋保護区」(Ross sea MPA)として海洋保護区を設置している。ロス海海洋保護区はその一部の区域で漁業を禁止している。[15][16]
オスパール条約
1998年に発効したオスパール条約(北東大西洋の海洋環境保護のための条約)は、北東大西洋の海洋環境を保護するための地域的条約である。オスパール条約では、(ⅰ)人間活動によって悪影響を被ってきた種やその生息地・生態系全体を保護し回復すること、(ⅱ)予防原則に従って種・生息地・生態系全体に対するダメージを防ぐこと、(ⅲ)海洋において種・生息地・生態系全体を最もよく代表するような区域を保護し保全すること、を目的として海洋保護区を設置するとしている。[17]2010年の第3回閣僚会合において、以下の6つの海洋保護区を公海上に設置した。[18]
- チャーリー・ギブス南保護区(Charlie‐Gibbs South MPA)
- ミルン海山複合体保護区(Milne Seamount Complex MPA)
- アゾレス諸島北の大西洋中央海嶺公海保護区(Mid‐Atlantic Ridge north of the Azores High Seas MPA)
- アルタイル海山公海保護区(Altair Seamount High Seas MPA)
- アンチアルタイル公海保護区(Antialtair High Seas MPA)
- ジョセフィーン海山複合体公海保護区(Josephine Seamount Complex High Seas MPA)
このうち、チャーリー・ギブス南保護区とミルン海山複合体保護区はその全ての区域が完全に公海上に位置している。[18] また、2012年には新たにチャーリー・ギブス北公海保護区(Charlie‐Gibbs North High Seas MPA)も公海上に設置している。[18]
EBSA
生物多様性条約の第9回締約国会議(COP9)において公海における生物多様性の保全において重要な海域を特定するためのもの[注釈 20]として「生態学的あるいは生物学的に重要な海域 」(ecologically and biologically significant marine areas;EBSA)という概念とその基準が提唱され[19]、公海におけるEBSAの選定が行われている。[20]ただし、EBSA自体はあくまで科学的な観点から生物多様性の保全上重要な海域を特定するというものであり、それ自体は海洋保護区ではない。
第10回締約国会議(COP10)で採択された「愛知目標」の目標11では、「2020年までに、生物多様性と生態系サービスのために特に重要な区域を含む沿岸及び海域の少なくとも10%を、保護地域システムやその他の効果的管理により保全すること」としている。これにより、EBSAが海洋保護区として設定されることが促進されると期待されている。[20]
地域的漁業機関
その他、北東大西洋漁業委員会(NEAFC)、北西大西洋漁業機関(NAFO)、南東大西洋漁業機関(SEAFO)、地中海漁業一般委員会(GFCM)、南インド洋漁業協定(SIOFA)などの各種地域的漁業機関(RFMO)も公海上に海洋保護区を設定している。[21]
環境影響評価
環境影響評価(environmental impact assessment:EIA)は、海洋法条約第206条に該当する場合については国際法上の義務となる。
海洋法条約第206条(活動による潜在的な影響の評価)
いずれの国も、自国の管轄又は管理の下における計画中の活動が実質的な海洋環境の汚染又は海洋環境に対する重大かつ有害な変化をもたらすおそれがあると信ずるに足りる合理的な理由がある場合には、当該活動が海洋環境に及ぼす潜在的な影響を実行可能な限り評価するものとし、前条に規定する方法によりその評価の結果についての報告を公表し又は国際機関に提供する。
国際海洋法裁判所(ITLOS)の海底紛争裁判部は、2011年の「深海底における探査活動を行う個人及び団体を保証する国家の責任及び義務」についての勧告的意見において、海洋法条約第206条における義務は、国家管轄権外区域(公海、深海底)においても慣習国際法上の義務であることを示唆した。[22]ただし、義務の範囲や環境影響評価の実施方法などが必ずしも明確とは言えず、どのような場合に境影響評価を実施すべきかについては議論が分かれている。[23]
能力構築及び技術移転
海洋の科学的調査や海洋遺伝資源の利用については高度な技術が必要となるため途上国が行うことは難しい。先進国による資源や利益の独占を防ぐためには、途上国の能力構築と、途上国への技術移転が不可欠である。能力構築及び技術移転については海洋法条約第266条などにおいて定められている。
海洋法条約第266条(海洋技術の発展及び移転の促進)
(1)いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関を通じ、公正かつ合理的な条件で海洋科学及び海洋技術を発展させ及び移転することを積極的に促進するため、自国の能力に応じて協力する。
(2)いずれの国も、開発途上国の社会的及び経済的開発を促進することを目的として、海洋資源の探査、開発、保存及び管理、海洋環境の保護及び保全、海洋の科学的調査並びにこの条約と両立する海洋環境における他の活動について、海洋科学及び海洋技術の分野において、技術援助を必要とし及び要請することのある国(特に開発途上国(内陸国及び地理的不利国を含む。))の能力の向上を促進する。
(3)いずれの国も、海洋技術を衡平な条件ですべての関係者の利益のため移転させることについて、好ましい経済的及び法的な条件を促進するよう努力する。
ただし、海洋技術の移転の際には、海洋法条約第267条により、海洋技術の所有者等の正当な利益(知的財産権など)を保護する必要がある。
深海底における活動に関する能力構築及び技術移転
深海底においても海洋法条約第144条などにおいて技術移転に関する規定が定められている。
海洋法条約第144条(技術の移転)
(1)機構は、次に掲げることを目的として、この条約に従って措置をとる。
a.深海底における活動に関する技術及び科学的知識を取得すること。
b.すべての締約国が(a)の技術及び科学的知識から利益を得るようにするため、当該技術及び科学的知識の開発途上国への移転を促進し及び奨励すること。
(2)機構及び締約国は、このため、事業体及びすべての締約国が利益を得ることができるように、深海底における活動に関する技術及び科学的知識の移転の促進に協力する。機構及び締約国は、特に、次の計画及び措置を提案し及び促進する。
a.事業体及び開発途上国に対し深海底における活動に関する技術を移転するための計画(当該計画には、特に、事業体及び開発途上国が公正かつ妥当な条件の下で関連する技術を取得することを容易にするための方策を含める。)
b.事業体の技術及び開発途上国の技術の進歩を目的とする措置(特に、事業体及び開発途上国の要員に対し、海洋科学及び海洋技術に関する訓練の機会並びに深海底における活動に対する十分な参加の機会を与えるもの)
ただし、深海底の制度については海洋法条約採択当時から先進国による反発が大きかったため、第11部実施協定[注釈 21]によってその規定が弱められているのが実情である。 例えば、第11部実施協定の附属書第5節1項では、「公開の市場における公正かつ妥当な商業的条件で又は合弁事業の取り決めを通じて」海洋技術を入手できない場合には「知的所有権の有効な保護と両立する公正かつ妥当な商業的条件で当該技術を入手することを促進する」に止めている。
新条約の作成
2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミット)で採択された成果文書で国家管轄権内外の区域における海洋生物多様性を保全することが求められて以降[24]、国際社会のBBNJに対する関心は高まり、2004年には国際連合総会が決議59/24を採択し、BBNJの保全及び持続可能な利用についての問題を検討するための「非公式公開特別作業部会」(Ad Hoc Open-ended Informal Working Group)を国連総会の下部機関として設置した。[25]非公式公開特別作業部会は2006年から作業を開始し、2011年6月の第4回会合では、BBNJに関するものとして「利益配分の問題を含む海洋遺伝資源」「海洋保護区を含む区域型管理ツール」「環境影響評価」「能力構築及び技術移転」の4つの主題について扱うことで合意に達した。[26]
2012年の「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)において採択された成果文書「我々の求める未来」においては、2015年までにBBNJの問題を国連総会において緊急に取り組むという公約[27]がなされた。それを受け、2015年6月には国連総会が決議69/292を採択し、BBNJについての新条約を作成することを決定し、同時に、新条約の条文草案の要素をまとめるための準備委員会も設置した。[28]準備委員会は2016年から作業を開始し、2017年には国連総会に進捗を報告した。
2017年12月に国連総会は準備委員会の報告に基づき、決議72/249を採択し、BBNJについての新条約を作成するための正式な条約交渉を開始することと、そのために2018年から2020年にかけ政府間会議を招集することを決定した。[29]国連総会の決議では、BBNJについての新条約は「海洋法条約の下での」条約であることと、「既存の法的文書、枠組みや機関などを害さない」ことが決められている。[28]
注釈
- ^ 生物多様性とは、生物多様性条約第2条で定義されている「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。」という概念である。
- ^ 持続可能な利用とは、生物多様性条約第2条で定義されている「生物の多様性の長期的な減少をもたらさない方法及び速度で生物の多様性の構成要素を利用し、もって、現在及び将来の世代の必要及び願望を満たすように生物の多様性の可能性を維持すること。」という概念である。
- ^ 海洋法条約における定義は「第4部に定める場合を除くほか、領海の基線の陸地側の水域」(第8条1項)
- ^ 海洋法条約における定義は「第47条の規定に従って引かれる群島基線により取り囲まれる水域で群島水域といわれるもの(その水深又は海岸からの距離を問わない。)」(第49条1項)
- ^ 海洋法条約における定義は「その領土若しくは内水又は群島国の場合にはその群島水域に接続する水域で領海といわれるもの」(第2条1項)
- ^ 海洋法条約における定義は「領海に接続する水域であって、この部に定める特別の法制度によるもの」(第55条)なお、「この部」とは第5部(排他的経済水域)のこと。
- ^ 海洋法条約における定義は「いずれの国の排他的経済水域、領海若しくは内水又はいずれの群島国の群島水域にも含まれない海洋のすべての部分」(第86条)
- ^ 海洋法条約における定義は「当該沿岸国の領海を越える海面下の区域の海底及びその下であってその領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部の外縁に至るまでのもの又は、大陸縁辺部の外縁が領海の幅を測定するための基線から200海里の距離まで延びていない場合には、当該沿岸国の領海を越える海面下の区域の海底及びその下であって当該基線から200海里の距離までのもの」(第76条1項)
- ^ 海洋法条約における定義は「国の管轄権の及ぶ区域の境界の外の海底及びその下」(第1条1項(1))
- ^ 海洋法条約は深海底の資源について第133条(a)で「自然の状態で深海底の海底又はその下にあるすべての固体状、液体状又は気体状の鉱物資源(多金属性の団塊を含む。)」と定義している。
- ^ リオ会議、地球サミットなどとも呼ばれる。
- ^ 同時に、「環境と開発に関するリオ宣言」と、その行動計画である「アジェンダ21」も採択され、アジェンダ21の第17章パラグラフ7では、沿岸国は、必要な場合には国際組織の支援を受けて、国の管轄下における海洋の生物種及び生息地の生物多様性又は生産性を維持するための措置を講ずべきであるとしている。
- ^ 生物多様性条約第4条で同条約の適用範囲が定められており、生物多様性の構成要素については、「自国の管轄の下にある区域」に適用するとしている。
- ^ 正式名称は「分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源(ストラドリング魚類資源)及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する1982年12月10日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定」
- ^ 正式名称は「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」
- ^ 海洋法条約は第136条で深海底の資源(鉱物資源)を「人類の共同の財産である。」としていることから、海洋遺伝資源についてもこの原則が適用され得るかが問題となっている。
- ^ 海洋の科学的調査の結果として得られた海洋遺伝資源について知的財産権の主張をすることは、「海洋の科学的調査の活動は、海洋環境又はその資源のいずれの部分に対するいかなる権利の主張の法的根拠も構成するものではない。」と規定した海洋法条約第241条との関係が問題となる。
- ^ その後、ガイドラインは2度改訂されている。
- ^ 南緯60度と南極収束線との間の地域。南極収束線とは、緯度線及び子午線に沿って次の点を結ぶ線である。南緯50度経度0度、南緯50度東経30度、南緯45度東経30度、南緯45度東経80度、南緯55度東経80度、南緯55度東経150度、南緯60度東経150度、南緯60度西経50度、南緯50度西経50度及び南緯50度経度0度
- ^ 生物多様性条約第7条(a)において「生物の多様性の構成要素であって、生物の多様性の保全及び持続可能な利用のために重要なものを特定すること」が締約国に求められている
- ^ 正式名称は「1982年12月10日の海洋法に関する国際連合条約第11部の実施に関する協定」
出典
- ^ a b c 本田悠介「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)と国連海洋法条約」『国際法学会エキスパートコメント No. 2016-1 』、2016年、2頁-3頁
- ^ Center for Oceans Law and Policy -University of Virginia-, UNITED NATIONS CONVENTION ON THE LAW OF THE SEA 1982 A COMMENTARY,Vol. 4,2012,pp.35-44
- ^ 田中則夫 (2006年11月5日). “海洋の生物多様性の保存および持続可能な利用について”. 2018年1月18日閲覧。
- ^ 本田悠介「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)と国連海洋法条約」『国際法学会エキスパートコメント No. 2016-1 』、2016年、1頁
- ^ 田中清久「国家管轄権外区域における海洋遺伝資源 に関する科学調査から得られた情報の 公表・頒布・移転―国連海洋法条約による規律の可能性と限界―」『法経論集』第209号、2016年、15頁-20頁
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