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「ザトウムシ」の版間の差分

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|下位分類名=亜目
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*ダニザトウムシ亜目 Cyphophthalmi
*[[ダニザトウムシ亜目]] [[w:Cyphophthalmi|Cyphophthalmi]]
*アシブトザトウムシ亜目 Oncopodomorphi
*[[アシブトザトウムシ亜目]] [[w:Oncopodomorphi|Oncopodomorphi]]
*アカザトウムシ亜目 Gonyleptomorphi
*[[アカザトウムシ亜目]] [[w:Gonyleptomorphi|Gonyleptomorphi]]
*ヘイキザトウムシ亜目 Dyspnoi
*[[ヘイキザトウムシ亜目]] [[w:Dyspnoi|Dyspnoi]]
*カイキザトウムシ亜目 Eupnoi
*[[カイキザトウムシ亜目]] [[w:Eupnoi|Eupnoi]]
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'''ザトウムシ'''(ザトウムシ類、座頭虫、'''[[w:Harvestman|Harvestman]]''')は、[[鋏角亜門]][[クモガタ綱]]'''ザトウムシ目'''('''[[w:Opiliones|Opiliones]]''')に属する[[節足動物]]の総称である。非常にの長いものがあり、豆に針金の足をつけたような独特の姿をしている。長いで前を探りながら歩く様子から、[[座頭]]虫の名がある。


一瞥すると[[クモ]]を連想させる外見で、古くは「'''メクラグモ'''」と呼ばれてきた。クモは同じく[[クモガタ類]]ではあるが、ザトウムシはクモなく、自ら独自の分類群をなしている。
'''ザトウムシ'''(座頭虫)は、[[節足動物門]][[鋏角亜門]][[クモ綱]]'''ザトウムシ目'''に属する[[動物]]の総称である。非常にの長いものがあり、豆に針金の足をつけたような独特の姿をしている。長いで前を探りながら歩く様子から、[[座頭]]虫の名がある。

一瞥するとクモを連想させる外見で、俗称としてメクラグモと呼ばれるこあるが、クモ別グループに属する。
最古の化石記録は4億1千万年前([[デボン紀]]に相当)のものが知られている。
最古の化石記録は4億1千万年前([[古生代]][[デボン紀]])のものが知られている。


英語圏の名称はHarvestman(刈り入れ人夫)、特に米国では[[あしながおじさん]](Daddy Longlegs)”の愛称がある。
[[英語]]圏の名称は「'''Harvestman'''」(刈り入れ人夫)、特に[[アメリカ]]では「'''Daddy Longlegs'''」([[あしながおじさん]]の愛称がある。なお、後者は地域によって[[ユウレイグモ]]や[[ガガンボ]]など、脚の長い他の[[節足動物]]を示す名称でもある。


== 特徴 ==
== 概説 ==
ザトウムシ類は、多くが長い脚を伸ばし、[[豆]]粒のような体を中空に支え、その体を揺らしながら歩く様子が特徴的な[[クモガタ類]]である 。
[[Image:Leiobunum sp moegi koubi.jpg|left|220px|thumb|ユミヒゲザトウムシの1種の[[交尾]]<br>黄色いのが雄]]
ザトウムシ目は、長い足を伸ばし、豆粒のような体を中空に支え、その体を揺らしながら歩く様子が非常に特徴的である 。多くは頭胴長が1~2cm程度でごく小型のものもある。頭胸部と腹部は密着して、全体として楕円形にまとまる。外皮は比較的丈夫で、クモの腹部のように柔らかくない。体色は地味なものが多いが、金属光沢をもつものや、鮮やかな色彩のものもあり、背面などに棘を備えるものもある。また雌雄で[[性的二型]]を示すものもある。「座頭」ムシ、メクラグモなどと呼ばれるが、通常頭胸部の真中に左右1対の目がある。


多くは体長1~2cm程度でごく小型のものもある。外骨格は丈夫で、前体([[頭胸部]])と後体([[腹部]])は密着して、全体として楕円形にまとまる。この点で前体と後体の接続部が明瞭にくびれ、柔らかい後体をもつ[[クモ]]類から区別できる。
ザトウムシ類は足の長さでほぼ3つの型に分けれるの短いものは、ダニザトウムシなど、ごく小型で、一見ダニのような姿である。中位のの長さのものは、丸い体のクモのような感じの虫で、アカザトウムシやオオヒラタザトウムシなどがある。足の長いものは非常に細い脚で、長いものでは10cmを超えるものがあり、日本産のナミザトウムシでは、雄の第二脚が180mmに達する例がある。


姿は多様で、体色は地味なものが多いが、金属光沢をもつものや、鮮やかな色彩のものもあり、背面などに棘を備えるものもある。また雌雄で[[性的二型]]を示すものもある。日本では古くは「メクラグモ」と呼ばれ、[[中国語]]では「盲蛛」と名付けるが、通常では前体背側の中心に左右1対の目(中眼)がある。
ザトウムシ類は、クモのなかでは例外的に雄が[[ペニス]]を有し、真の[[交尾]]を行う。雌雄は向き合って、腹面を触れ合う形で交尾をする。
<gallery mode="packed" heights="140">
ファイル:Kinabalu Harvestman (Opiliones) (7113328997).jpg|ザトウムシの1種
ファイル:Opiliones harvestman.jpg|''[[w:Hadrobunus grandis|Hadrobunus grandis]]''
ファイル:Gonyleptidae - Iguapeia melanocephala - Salto Morato - Paraná.jpg|''Iguapeia melanocephala''
ファイル:Opiliones, Cyphophthalmi, Sironidae, Siro (2404167613).jpg|[[ダニザトウムシ類]]の1種
</gallery>
長い脚にあることが印象的であるが、ザトウムシ類は必ずしもそうとは限ないの短いものは、[[ダニザトウムシ]]など、ごく小型で、一見[[ダニ]]のような姿である。中位のの長さのものは、丸い体の[[クモ]]のような姿をもち[[アカザトウムシ]][[オオヒラタザトウムシ]]などがある。一般に知られるものは非常に細い脚で、長いものでは10cmを超えるものがあり、日本産の[[ナミザトウムシ]]では、雄の第二脚が180mmに達する例がある。


他のクモガタ類とは異なり、ザトウムシ類は真の[[交尾]]を行い、雄と雌はそれぞれ[[ペニス]]と[[産卵管]]を有する。
=== 外部形態 ===
[[Image:Arachnida Opiliones Nelima genufusca03.jpg|thumb|250px|本体の近接撮影]]
体は頭胸部と腹部からなり、頭胸部と腹部との間、及び腹部の体節は明瞭に認められるが、くびれはなくクモ類のような腹柄はない。


== 外部形態 ==
頭胸部の背面はキチン質の丈夫な背板に覆われる。カイキザトウムシ類では、頭胸部と腹部の背板は分かれているが、他の類では、腹部前方の体節の背板が、頭胸部に癒合している。ダニザトウムシ類では、頭胸部の背板は腹部前方の背板と癒合して、大きな盾甲を形成する。背面の中央近くに、一対の単眼があるが、ダニザトウムシ類では例外的に単眼を欠く。眼は通常、背甲中央の小さな盛り上がり(眼丘)の両側面に位置し、眼丘が幅広く発達するものや、ほとんど認められないものもある。また背板には臭腺が開き、その位置は群によって異なる。防御および情報伝達に用いられると考えられるが、詳細は不明である。腹面には中央に腹板があるが、触肢や歩脚の基部に圧迫されてごく小さく、腹面はほとんど付属肢の基部に覆われる。
体は前体([[頭胸部]])と後体([[腹部]])からなり、両者はくびれはなく[[クモ]]類のような腹柄はない。また、前体と後体の間、及び後体の体節は明瞭に分かれ、もしくは体節が癒合した種類もある<ref name=":0">{{Cite journal|last=Lamsdell|first=James C.|last2=Dunlop|first2=Jason A.|title=Segmentation and tagmosis in Chelicerata|url=https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata|journal=Arthropod Structure &amp; Development|volume=46|issue=3|pages=395–418|language=en|issn=1467-8039}}</ref>。例えばカイキザトウムシ類では、前体の背甲と後体の背板は分かれているが、他の類では、後体前方の体節の背板が、前体の背甲に癒合している。ダニザトウムシ類では、前体の背甲は後体前方の背板と癒合して、大きな盾甲を形成する。


=== 前体 ===
付属肢は頭胸部対あり、1対の[[鋏角]]と[[触肢]]、4対の[[歩]]をもつ。
[[ファイル:Phalangium opilio MHNT portrait female.jpg|左|サムネイル|''[[w:Phalangium opilio|Phalangium opilio]]'' の雌。背甲の中心に1対の中眼がある]]
[[ファイル:Reconstruction of Hastocularis argus.jpg|サムネイル|300x300ピクセル|[[化石]]ザトウムシ類''[[:en:Hastocularis|Hastocularis argus]]'' の復元図。尖った眼丘にある中眼と背甲の両側に備わる側眼を同時に有する]]
前体([[頭胸部]])は[[先節]]と[[付属肢]]をもつ6つの体節からなり<ref name=":0" />、背面はキチン質の丈夫な背甲(carapace)に覆われる。通常は背甲が融合しているが、一部の種類では後2節の分け目が明瞭に見られる。後者の場合、背甲は3つの「[[w:Peltidium|peltidium]]」という外骨格として区別でき、前4節に当たる1枚は「propeltidium」、後の2節に当たる2枚はそれぞれ「mesopeltidium」・「metapeltidium」という<ref name=":0" />。また、背甲には臭腺(scent glands)が開き<ref>{{Cite journal|last=Schaider|first=Miriam|last2=Novak|first2=Tone|last3=Komposch|first3=Christian|last4=Leis|first4=Hans-Jörg|last5=Raspotnig|first5=Günther|date=2018|title=Methyl-ketones in the scent glands of Opiliones: a chemical trait of cyphophthalmi retrieved in the dyspnoan Nemastoma triste|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5897473/|journal=Chemoecology|volume=28|issue=2|pages=61–67|doi=10.1007/s00049-018-0257-5|issn=0937-7409|pmid=29670318|pmc=PMC5897473}}</ref>、その位置は群によって異なる。防御および情報伝達に用いられると考えられるが、詳細は不明である。


通常は背甲の中央近くに一対の単眼(中眼)があるが、[[ダニザトウムシ類]]では目を欠き、もしくは中眼の代わりに前方側面に側眼がある。同時に中眼と側眼にあることはザトウムシ類の[[祖先形質]]で、現存の系統でそのいずれか退化消失していたと考えられる<ref>{{Cite web|url=https://www.researchgate.net/publication/303185012_A_new_stem-group_Palaeozoic_harvestman_revealed_through_integration_of_phylogenetics_and_development|title=(PDF) A new stem-group Palaeozoic harvestman revealed through integration of phylogenetics and development|accessdate=2019-01-20|website=ResearchGate|language=en}}</ref><ref name=":0" />。中眼は背甲中央の小さな盛り上がった眼丘(ocular tubercle)の両側面に位置し、眼丘が幅広く発達するものや、ほとんど認められないものもある。
身体の前端に短い[[鋏状]]の鋏角があり、口はその間の腹面側に開く。鋏角は3節からなり、先の2節が鋏を構成する。これは餌をつかみ、引き裂くのに用いられ、また、他の付属肢を清掃するのにも使う。普通は小さくて目立たないが、サスマタアゴザトウムシでは、鋏角が強大に発達し、捕獲器となる。また形状に性的二形が見られるものや、発音器と思われる構造が知られているものがある。


歩脚と触肢の基節が椀のように前体の腹面全体を囲み、通常は腹板が見られない。ただし一部の種では腹板が見られる<ref name=":0" />。
触肢は6節からなり、基部の節は顎葉を形成する。この節が決して合しないのは、ザトウムシ類の特徴の一つとされる。多くのものでは短い歩脚状で、獲物をつかみ、鋏角に渡すのに用いられる。またアカザトウムシ類など捕食性のものでは、鎌状の捕獲器になっている。触肢にも形状に性的二形が見られるものがある。


==== 付属肢 ====
歩脚はいずれも比較的単純な形をしている。長さについては様々で、ダニザトウムシ類などでは長いものでも体長の2倍を超えない。それ以外のものでは体長の数倍以上、ナミザトウムシでは最も長い脚が体長の30倍にも達する。ダニザトウムシ類では第一脚が最も長いが、それ以外の類では第二脚が特に長く、これを前に伸ばし、昆虫の[[触角]]のような器官として探るように使う。歩行にはそれ以外の三対を用いる。
[[ファイル:Harvestman (Opiliones) - Guelph, Ontario 05.jpg|サムネイル|ザトウムシの1種の本体部。頑丈な[[鋏角]]、歩脚状の[[触肢]]と4対の脚の接続部が映る]]
[[ファイル:Opiliones.jpg|250px|サムネイル|左|ザトウムシの1種。鞭の様な細長い脚が映る]]
[[ファイル:Pink Spider (15481536865).jpg|250px|サムネイル|左|ザトウムシの1種。第1脚の跗節がたくさんの節単位に細分される]]
[[付属肢]]([[関節肢]])前体6対あり、1対の[[鋏角]]と[[触肢]]、4対の脚をもつ。


身体の前端に[[鋏状]]の鋏角があり、口はその間の腹面側に開く。鋏角は3節からなり、先の2節が鋏を構成する<ref name=":0" />。これは餌をつかみ、引き裂くのに用いられ、また、他の付属肢を清掃するのにも使う。普通は小さくて目立たないが、[[サスマタアゴザトウムシ]]などでは、鋏角が強大に発達し、捕獲器となる。また形状に性的二形が見られるものや、発音器と思われる構造が知られているものがある。
腹部には付属肢はなく、腹面に呼吸器官である[[気管]]の開口部がある。背面には体節ごとに背板が並ぶが、いくつかの群では前方のものが頭胸部の背甲と癒合する。腹面にも体節ごとに腹板があり、前端の腹板が胸部に食い込む形にるもが多い。


触肢は6節からなり、基部の節は顎葉(maxillary lobes、coxapophyses)もつ。この節が決して合しないのは、ザトウムシ類の特徴の一つとされる。多くのものでは短い歩脚状で、獲物をつかみ、鋏角に渡すのに用いられる。また[[アカザトウムシ類]]など捕食性のものでは、鎌状の捕獲器になっている<ref name=":0" />。触肢にも形状に性的二形が見られるものがある。
=== 内部形===
{{節スタブ}}


歩脚は7節からなり、第1-2脚の基節は触肢のように顎葉をもつ<ref name=":1">{{Cite journal|last=Dunlop|first=Jason|last2=Garwood|first2=Russell J.|date=2014-11-13|title=Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders|url=https://peerj.com/articles/641|journal=PeerJ|volume=2|pages=e641|language=en|doi=10.7717/peerj.641|issn=2167-8359}}</ref>。先端の節、いわれる跗節が更にたくさんの「tarsomeres」という節単位に細分され、脚の長い種では鞭のようになる。長さについては様々で、[[ダニザトウムシ類]]などでは長いものでも体長の2倍を超えない。それ以外のものでは体長の数倍以上、[[ナミザトウムシ]]では最も長い脚が体長の30倍にも達する。[[ダニザトウムシ類]]では第一脚が最も長いが、それ以外の類では第二脚が特に長く、これを前に伸ばし、昆虫の[[触角]]のような器官として探るように使う。歩行にはそれ以外の三対を用いる。ただしこれについては、第2脚のみならず、歩行用の第1脚も重要な感覚器であると明らかにした研究がある<ref>{{Cite web|url=https://www.researchgate.net/publication/213776191_Sensory_biology_of_Phalangida_harvestmen_Arachnida_Opiliones_A_review_with_new_morphological_data_on_18_species|title=(PDF) Sensory biology of Phalangida harvestmen (Arachnida, Opiliones): A review, with new morphological data on 18 species|accessdate=2019-01-20|website=ResearchGate|language=en}}</ref>。Gonyleptidae科のザトウムシでは、第4脚は特に強大で、基節が大きく後ろに伸びている。
== 生活 ==

触肢・第1-2脚基節における顎葉は、上唇や鋏角に併せて「[[w:Stomotheca|stomotheca]]」という口器をなしている<ref name=":1" />。似たような口器をもつ他の[[クモガタ類]]は、[[サソリ]]が挙げられる<ref name=":1" />。
<gallery mode="packed" heights="140">
ファイル:Harvestman Mouth.JPG|ザトウムシの前体腹側。[[鋏角]]と顎葉がある
File:Pantopsalis listeri - ZooKeys-263-059-g003-B.jpeg|大きな[[鋏角]]を有する''Pantopsalis listeri''
ファイル:Opiliones, Laniatores, Sclerobuninae, Cyptobunus ungulatus (2278122445).jpg|鎌状の[[触肢]]をもつ''Cyptobunus ungulatus''
File:Lacronia ceci PARNASO 100 dpi.jpg|強大な第4脚をもつ''Lacronia ceci''
</gallery>

=== 後体 ===
[[ファイル:Paroligolophus agrestis female 20081024 collage.jpg|300px|サムネイル|''Paroligolophus agrestis'' の雌。腹面(右下)が前体に占め込んだ生殖口蓋が映る]]
後体(腹部には付属肢はなく、9つの体節を含む<ref name=":0" />。呼吸器官である[[気管]]の開口部が後体第2節の腹面に1対ある<ref name=":0" />。背面には体節ごとに背板が並ぶが、いくつかの群では前方のものが前体の背甲と癒合する<ref name=":0" />。腹面にも体節ごとに腹板があり、特に前端2節の腹板が前体の領域に食い込んで、生殖器官を覆う蓋状の構造体をす。生殖器官背側を覆う第1節の小さな腹板は「arculi genitales」といい、腹側を覆う第2節の大きな腹板は生殖口蓋(genital operculum)とう<ref name=":0" />

[[クモガタ類]]にしては例外的に、ザトウムシ類は真の[[交尾]]を行うことに適した生殖器官をもつ。雄はペニス、雌は産卵管を有し、通常は生殖口蓋の下に収納される。これらは[[付属肢]]由来の器官とは見なされていない<ref name=":0" />。また、これらは後体の器官であるが、生殖口蓋は前体に占め込むため、生殖口は前体の腹側にあたり、前向きに開く<ref name=":0" />。この点も通常では後体にあたり、後ろに向いて開く多くの[[クモガタ類]]の生殖孔とは大きく異なる。

尾端は[[肛門]]を覆う1枚の肛門板(anal operculum)があり<ref>[http://www.museunacional.ufrj.br/mndi/Aracnologia/pdfliteratura/Suzuki/Suzuki,Tsurusaki%20(1991)%20Pictorial%20key%20Soil%20animals%20Japan,%20Opiliones.PDF Suzuki,Tsurusaki (1991) Pictorial key Soil animals Japan, Opiliones.PDF]</ref>、これは[[尾節]]由来の器官ではないかとの説がある<ref name=":0" />。

== 態 ==
[[ファイル:Opiliones, Eupnoi, F. Sclerosomatidae, Leiobunum vittatum group, male with prey (3679665965).jpg|250px|サムネイル|[[ハエ]]を摂るザトウムシ]]
<gallery mode="packed" heights="150">
File:Opiliones, Eupnoi, F. Protolophidae, Protolophus singularis, female with prey (2432648579).jpg|[[ガガンボ]]を捕食する''Protolophus singularis''
ファイル:Leiobunum sp moegi koubi.jpg|ユミヒゲザトウムシの1種の[[交尾]]
File:Opiliones Aralam WLS Kerala India.jpg|ザトウムシの群れ
</gallery>
多くのものが森林に住み、小型のものは[[土壌動物]]として生活する。足の長いものは、低木や草の上、岩陰などで生活する。乾燥地帯に生息するものもあり、日本では海岸の岩陰に住むものがある。
多くのものが森林に住み、小型のものは[[土壌動物]]として生活する。足の長いものは、低木や草の上、岩陰などで生活する。乾燥地帯に生息するものもあり、日本では海岸の岩陰に住むものがある。


雑食性で、通常昆虫などの節足動物やミミズなどの小動物を捕食する死んだ虫やキノコなどを食べるものある。
多くが[[雑食性]]で、[[昆虫]]などの[[節足動物]][[ミミズ]]などの小動物を捕食するものや[[遺骸]][[キノコ]]などを食べるものある。


天敵に対する防御として、同じ[[クモ形類]]のクモやサソリのような強い毒性などは知られていない。防御行動としては臭腺から忌避物質を分泌したり、足を[[自切]]することがある。刺激を受けると身体を大きく揺するように動いたり、オオヒラタザトウムシなど地面や岩の上にはいつくばって、つついても動かないようになるものも防御行動の一つと考えられるが、詳細は不明である。
天敵に対する防御防御行動としては臭腺から忌避物質を分泌したり、足を[[自切]]することがある。刺激を受けると身体を大きく揺するように動いたり、[[オオヒラタザトウムシ]]など地面や岩の上にはいつくばって、つついても動かないようになるものも防御行動の一つと考えられるが、詳細は不明である。

ザトウムシ類は、[[クモガタ類]]のなかでは例外的に雄が[[ペニス]]を有し、真の[[交尾]]を行う。雌雄は向き合って、腹面を触れ合う形で交尾をする。


<!--個人的な印象、独自研究を含む
<!--個人的な印象、独自研究を含む
足の長い型のものは、樹上や地上を活発に歩き回ることができる。体を大きく揺らせながら歩く姿は、SF的ですらある。この型のものは、時に体を大きく揺するように動くことがあり、おそらく大型動物の目をくらませる効果があると考えられる。-->
足の長い型のものは、樹上や地上を活発に歩き回ることができる。体を大きく揺らせながら歩く姿は、SF的ですらある。この型のものは、時に体を大きく揺するように動くことがあり、おそらく大型動物の目をくらませる効果があると考えられる。-->
== 系統 ==
日本の学会ではザトウムシをダニに近縁な動物としている。<ref>岩波 生物学辞典 第5版</ref>
海外でも1980年代まではダニに近縁とする考え方が主流であったが、分子解析の発達により現在ではサソリ、カニムシ、ヒヨケムシとともに{{仮リンク|走脚亜綱|label=走脚亜綱|en|Dromopoda}}へと分類するようになった。<ref name="Shultz1990">{{cite journal |author=Jeffrey W. Shultz |year=1990 |title=Evolutionary morphology and phylogeny of Arachnida |journal=[[Cladistics (journal)|Cladistics]] |volume=6 |issue=1 |pages=1–38 |doi=10.1111/j.1096-0031.1990.tb00523.x}}</ref>
こちらではザトウムシ目のみで[[単系統]]を成すのか、それともカニムシ・ヒヨケムシのグループと合わせてはじめて単系統を成すのか議論が続いている。([[:en:harvestman phylogeny|英語版]])

== 分類 ==
== 分類 ==
=== 系統関係 ===
[[Image:Arachnida Opiliones Nelima genufusca.JPG|thumb|250px|オオナミザトウムシの一種]]
多くの[[クモガタ類]]と同様、ザトウムシ目の[[クモガタ綱]]における系統的位置は不明確である。

日本の学会ではザトウムシを[[ダニ]]に近縁な動物としていた<ref>岩波 生物学辞典 第5版</ref>。海外でもかつては[[ダニ]]と[[クツコムシ]]に近縁(Cryptoperculataを構成する<ref name=":1" />)とする考え方が主流であった。その後では[[形態学 (生物学)|形態学]]と一部の[[分子系統学]]的見解によって、[[サソリ]]、[[カニムシ]]、[[ヒヨケムシ]]とともに[[走脚亜綱]]([[w:Dromopoda|Dromopoda]])をなす系統仮説が提唱された<ref name="Shultz1990">{{cite journal |author=Jeffrey W. Shultz |year=1990 |title=Evolutionary morphology and phylogeny of Arachnida |journal=[[Cladistics (journal)|Cladistics]] |volume=6 |issue=1 |pages=1–38 |doi=10.1111/j.1096-0031.1990.tb00523.x}}</ref>。その中でも、「[[w:Stomotheca|stomotheca]]」という口器をもつという共通点に基づいて[[サソリ]]と姉妹群をなし、Stomothecataを構成する説があった<ref name=":1" />。

しかし上述の系統仮説は、2010年代以降の多くの[[分子系統学]]的解析に疑問視される。代わりに、[[クツコムシ]]と[[ヒヨケムシ]]に近縁<ref>{{Cite journal|last=Giribet|first=Gonzalo|last2=Wheeler|first2=Ward C.|last3=Hormiga|first3=Gustavo|last4=González|first4=Vanessa L.|last5=Pérez-Porro|first5=Alicia R.|last6=Kaluziak|first6=Stefan T.|last7=Sharma|first7=Prashant P.|date=2014-11-01|title=Phylogenomic Interrogation of Arachnida Reveals Systemic Conflicts in Phylogenetic Signal|url=https://academic.oup.com/mbe/article/31/11/2963/2925668|journal=Molecular Biology and Evolution|volume=31|issue=11|pages=2963–2984|language=en|doi=10.1093/molbev/msu235|issn=0737-4038}}</ref>、或いは[[カニムシ]]と胸穴[[ダニ]]類([[w:Parasitiformes|Parasitiformes]])に近縁<ref>{{Cite journal|last=Cunningham|first=Clifford W.|last2=Martin|first2=Joel W.|last3=Wetzer|first3=Regina|last4=Bernard Ball|last5=Hussey|first5=April|last6=Zwick|first6=Andreas|last7=Shultz|first7=Jeffrey W.|last8=Regier|first8=Jerome C.|date=2010-02|title=Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences|url=https://www.nature.com/articles/nature08742|journal=Nature|volume=463|issue=7284|pages=1079–1083|language=en|doi=10.1038/nature08742|issn=1476-4687}}</ref>など、不安定な結果が出ている<ref name=":1" />。


=== 下位分類 ===
[[File:Arachnida Opiliones Nelima genufusca.JPG|thumb|[[オオナミザトウムシ]]の一種(''Nelima genufusca'')]]
[[File:Yumihigezatou male sp.jpg|thumb|[[ユミヒゲザトウムシ]]の1種(''Leiobunum'' sp.)]]
[[File:Pseudo-araña nocturna (opilion).jpg|thumb|''Pachyloidellus'' sp.]]
世界で約4000種ほどが知られる。
世界で約4000種ほどが知られる。


ザトウムシ目 Phalangida Opiliones
* '''ザトウムシ目 [[w:Opiliones|Opiliones]]'''
*ダニザトウムシ亜目 Cyphophthalmi:小型で[[ダニ]]状、、頭胸部腹部は見かけ上癒合。1科60種。
** [[ダニザトウムシ亜目]] Cyphophthalmi:小型で[[ダニ]]状、前体後体は見かけ上癒合。1科60種。
*アシブトザトウムシ亜目 Oncopodomorphi:頭胸部腹部が見かけ上融合、足は長く太い。1科20種。
**[[アシブトザトウムシ亜目]] Oncopodomorphi:前体後体は見かけ上融合、足は長く太い。1科20種。
*アカザトウムシ亜目 Gonyleptomorphi:触肢は捕獲用に変化している。約2300種。
**[[アカザトウムシ亜目]] Gonyleptomorphi:触肢は捕獲用に変化している。約2300種。
**アカザトウムシ科 Phalangodidae:ニホンアカザトウムシなど
***[[アカザトウムシ科]] Phalangodidae:ニホンアカザトウムシなど
**タテヅメザトウムシ科 Travuniidae
***[[タテヅメザトウムシ科]] Travuniidae
*ヘイキザトウムシ亜目 Dyspnoi:触肢は歩脚状。約1200種。
**[[ヘイキザトウムシ亜目]] Dyspnoi:触肢は歩脚状。約1200種。
**エボシザトウムシ科 Trogulidae:カブトザトウムシ
***[[エボシザトウムシ科]] Trogulidae:カブトザトウムシ
**アゴザトウムシ科 Ischyropsalidae:サスマタアゴザトウムシ
***[[アゴザトウムシ科]] Ischyropsalidae:サスマタアゴザトウムシ
*カイキザトウムシ亜目 Eupnoi
**[[カイキザトウムシ亜目]] Eupnoi
**マザトウムシ科 Phalangiidae:マメザトウムシ・ゴホントゲザトウムシ
***[[マザトウムシ科]] Phalangiidae:マメザトウムシ・ゴホントゲザトウムシ
**スベザトウムシ科 Leiobunidae:モエギザトウムシ・ユミヒゲザトウムシ・ナミザトウムシ・オオヒラタザトウムシ・ヒトハリザトウムシ・アカサビザトウムシ
***[[スベザトウムシ科]] Leiobunidae:モエギザトウムシ・ユミヒゲザトウムシ・ナミザトウムシ・オオヒラタザトウムシ・ヒトハリザトウムシ・アカサビザトウムシ


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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*内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、(1966)、中山書店。
*内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、(1966)、中山書店。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[クモガタ類]]
*[[あしながおじさん]]
*[[あしながおじさん]]


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2019年1月24日 (木) 18:29時点における版

ザトウムシ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモガタ綱 Arachnida
: ザトウムシ目 Opiliones
学名
Opiliones
Sundevall, 1833
亜目

ザトウムシ(ザトウムシ類、座頭虫、Harvestman)は、鋏角亜門クモガタ綱ザトウムシ目Opiliones)に属する節足動物の総称である。非常に脚の長いものがあり、豆に針金の足をつけたような独特の姿をしている。長い脚で前を探りながら歩く様子から、座頭虫の名がある。

一瞥するとクモを連想させる外見で、古くは「メクラグモ」と呼ばれてきた。クモとは同じくクモガタ類ではあるが、ザトウムシはクモではなく、自ら独自の分類群をなしている。

最古の化石記録は4億1千万年前(古生代デボン紀)のものが知られている。

英語圏の名称は「Harvestman」(刈り入れ人夫)、特にアメリカでは「Daddy Longlegs」(あしながおじさん)の愛称がある。なお、後者は地域によってユウレイグモガガンボなど、脚の長い他の節足動物を示す名称でもある。

概説

ザトウムシ類は、多くが長い脚を伸ばし、粒のような体を中空に支え、その体を揺らしながら歩く様子が特徴的なクモガタ類である 。

多くは体長1~2cm程度でごく小型のものもある。外骨格は丈夫で、前体(頭胸部)と後体(腹部)は密着して、全体として楕円形にまとまる。この点で前体と後体の接続部が明瞭にくびれ、柔らかい後体をもつクモ類から区別できる。

姿は多様で、体色は地味なものが多いが、金属光沢をもつものや、鮮やかな色彩のものもあり、背面などに棘を備えるものもある。また雌雄で性的二型を示すものもある。日本では古くは「メクラグモ」と呼ばれ、中国語では「盲蛛」と名付けるが、通常では前体背側の中心に左右1対の目(中眼)がある。

長い脚にあることが印象的であるが、ザトウムシ類は必ずしもそうとは限らない。脚の短いものは、ダニザトウムシなど、ごく小型で、一見ダニのような姿である。中位の脚の長さのものは、丸い体のクモのような姿をもち、アカザトウムシオオヒラタザトウムシなどがある。一般に知られるものは非常に細い脚で、長いものでは10cmを超えるものがあり、日本産のナミザトウムシでは、雄の第二脚が180mmに達する例がある。

他のクモガタ類とは異なり、ザトウムシ類は真の交尾を行い、雄と雌はそれぞれペニス産卵管を有する。

外部形態

体は前体(頭胸部)と後体(腹部)からなり、両者はくびれはなくクモ類のような腹柄はない。また、前体と後体の間、及び後体の体節は明瞭に分かれ、もしくは体節が癒合した種類もある[1]。例えばカイキザトウムシ類では、前体の背甲と後体の背板は分かれているが、他の類では、後体前方の体節の背板が、前体の背甲に癒合している。ダニザトウムシ類では、前体の背甲は後体前方の背板と癒合して、大きな盾甲を形成する。

前体

Phalangium opilio の雌。背甲の中心に1対の中眼がある
化石ザトウムシ類Hastocularis argus の復元図。尖った眼丘にある中眼と背甲の両側に備わる側眼を同時に有する

前体(頭胸部)は先節付属肢をもつ6つの体節からなり[1]、背面はキチン質の丈夫な背甲(carapace)に覆われる。通常は背甲が融合しているが、一部の種類では後2節の分け目が明瞭に見られる。後者の場合、背甲は3つの「peltidium」という外骨格として区別でき、前4節に当たる1枚は「propeltidium」、後の2節に当たる2枚はそれぞれ「mesopeltidium」・「metapeltidium」という[1]。また、背甲には臭腺(scent glands)が開き[2]、その位置は群によって異なる。防御および情報伝達に用いられると考えられるが、詳細は不明である。

通常は背甲の中央近くに一対の単眼(中眼)があるが、ダニザトウムシ類では目を欠き、もしくは中眼の代わりに前方側面に側眼がある。同時に中眼と側眼にあることはザトウムシ類の祖先形質で、現存の系統でそのいずれか退化消失していたと考えられる[3][1]。中眼は背甲中央の小さな盛り上がった眼丘(ocular tubercle)の両側面に位置し、眼丘が幅広く発達するものや、ほとんど認められないものもある。

歩脚と触肢の基節が椀のように前体の腹面全体を囲み、通常は腹板が見られない。ただし一部の種では腹板が見られる[1]

付属肢

ザトウムシの1種の本体部。頑丈な鋏角、歩脚状の触肢と4対の脚の接続部が映る
ザトウムシの1種。鞭の様な細長い脚が映る
ザトウムシの1種。第1脚の跗節がたくさんの節単位に細分される

付属肢関節肢)は前体に6対あり、1対の鋏角触肢、4対の脚をもつ。

身体の前端に鋏状の鋏角があり、口はその間の腹面側に開く。鋏角は3節からなり、先の2節が鋏を構成する[1]。これは餌をつかみ、引き裂くのに用いられ、また、他の付属肢を清掃するのにも使う。普通は小さくて目立たないが、サスマタアゴザトウムシなどでは、鋏角が強大に発達し、捕獲器となる。また形状に性的二形が見られるものや、発音器と思われる構造が知られているものがある。

触肢は6節からなり、基部の節は顎葉(maxillary lobes、coxapophyses)をもつ。この節が決して会合しないのは、ザトウムシ類の特徴の一つとされる。多くのものでは短い歩脚状で、獲物をつかみ、鋏角に渡すのに用いられる。またアカザトウムシ類など捕食性のものでは、鎌状の捕獲器になっている[1]。触肢にも形状に性的二形が見られるものがある。

歩脚は7節からなり、第1-2脚の基節は触肢のように顎葉をもつ[4]。先端の節、いわれる跗節が更にたくさんの「tarsomeres」という節単位に細分され、脚の長い種では鞭のようになる。長さについては様々で、ダニザトウムシ類などでは長いものでも体長の2倍を超えない。それ以外のものでは体長の数倍以上、ナミザトウムシでは最も長い脚が体長の30倍にも達する。ダニザトウムシ類では第一脚が最も長いが、それ以外の類では第二脚が特に長く、これを前に伸ばし、昆虫の触角のような器官として探るように使う。歩行にはそれ以外の三対を用いる。ただしこれについては、第2脚のみならず、歩行用の第1脚も重要な感覚器であると明らかにした研究がある[5]。Gonyleptidae科のザトウムシでは、第4脚は特に強大で、基節が大きく後ろに伸びている。

触肢・第1-2脚基節における顎葉は、上唇や鋏角に併せて「stomotheca」という口器をなしている[4]。似たような口器をもつ他のクモガタ類は、サソリが挙げられる[4]

後体

Paroligolophus agrestis の雌。腹面(右下)が前体に占め込んだ生殖口蓋が映る

後体(腹部)には付属肢はなく、9つの体節を含む[1]。呼吸器官である気管の開口部が後体第2節の腹面に1対ある[1]。背面には体節ごとに背板が並ぶが、いくつかの群では前方のものが前体の背甲と癒合する[1]。腹面にも体節ごとに腹板があり、特に前端2節の腹板が前体の領域に食い込んで、生殖器官を覆う蓋状の構造体をなす。生殖器官の背側を覆う第1節の小さな腹板は「arculi genitales」といい、腹側を覆う第2節の大きな腹板は生殖口蓋(genital operculum)という[1]

クモガタ類にしては例外的に、ザトウムシ類は真の交尾を行うことに適した生殖器官をもつ。雄はペニス、雌は産卵管を有し、通常は生殖口蓋の下に収納される。これらは付属肢由来の器官とは見なされていない[1]。また、これらは後体の器官であるが、生殖口蓋は前体に占め込むため、生殖口は前体の腹側にあたり、前向きに開く[1]。この点も通常では後体にあたり、後ろに向いて開く多くのクモガタ類の生殖孔とは大きく異なる。

尾端は肛門を覆う1枚の肛門板(anal operculum)があり[6]、これは尾節由来の器官ではないかとの説がある[1]

生態

ハエを摂るザトウムシ

多くのものが森林に住み、小型のものは土壌動物として生活する。足の長いものは、低木や草の上、岩陰などで生活する。乾燥地帯に生息するものもあり、日本では海岸の岩陰に住むものがある。

多くが雑食性で、昆虫などの節足動物ミミズなどの小動物を捕食するものや、遺骸キノコなどを食べるものがある。

天敵に対する防御防御行動としては、臭腺から忌避物質を分泌したり、足を自切することがある。刺激を受けると身体を大きく揺するように動いたり、オオヒラタザトウムシなど地面や岩の上にはいつくばって、つついても動かないようになるものも防御行動の一つと考えられるが、詳細は不明である。

ザトウムシ類は、クモガタ類のなかでは例外的に雄がペニスを有し、真の交尾を行う。雌雄は向き合って、腹面を触れ合う形で交尾をする。

分類

系統関係

多くのクモガタ類と同様、ザトウムシ目のクモガタ綱における系統的位置は不明確である。

日本の学会ではザトウムシをダニに近縁な動物としていた[7]。海外でもかつてはダニクツコムシに近縁(Cryptoperculataを構成する[4])とする考え方が主流であった。その後では形態学と一部の分子系統学的見解によって、サソリカニムシヒヨケムシとともに走脚亜綱Dromopoda)をなす系統仮説が提唱された[8]。その中でも、「stomotheca」という口器をもつという共通点に基づいてサソリと姉妹群をなし、Stomothecataを構成する説があった[4]

しかし上述の系統仮説は、2010年代以降の多くの分子系統学的解析に疑問視される。代わりに、クツコムシヒヨケムシに近縁[9]、或いはカニムシと胸穴ダニ類(Parasitiformes)に近縁[10]など、不安定な結果が出ている[4]

下位分類

オオナミザトウムシの一種(Nelima genufusca
ユミヒゲザトウムシの1種(Leiobunum sp.)
Pachyloidellus sp.

世界で約4000種ほどが知られる。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n Lamsdell, James C.; Dunlop, Jason A.. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 395–418. ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  2. ^ Schaider, Miriam; Novak, Tone; Komposch, Christian; Leis, Hans-Jörg; Raspotnig, Günther (2018). “Methyl-ketones in the scent glands of Opiliones: a chemical trait of cyphophthalmi retrieved in the dyspnoan Nemastoma triste”. Chemoecology 28 (2): 61–67. doi:10.1007/s00049-018-0257-5. ISSN 0937-7409. PMC PMC5897473. PMID 29670318. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5897473/. 
  3. ^ (PDF) A new stem-group Palaeozoic harvestman revealed through integration of phylogenetics and development” (英語). ResearchGate. 2019年1月20日閲覧。
  4. ^ a b c d e f Dunlop, Jason; Garwood, Russell J. (2014-11-13). “Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders” (英語). PeerJ 2: e641. doi:10.7717/peerj.641. ISSN 2167-8359. https://peerj.com/articles/641. 
  5. ^ (PDF) Sensory biology of Phalangida harvestmen (Arachnida, Opiliones): A review, with new morphological data on 18 species” (英語). ResearchGate. 2019年1月20日閲覧。
  6. ^ Suzuki,Tsurusaki (1991) Pictorial key Soil animals Japan, Opiliones.PDF
  7. ^ 岩波 生物学辞典 第5版
  8. ^ Jeffrey W. Shultz (1990). “Evolutionary morphology and phylogeny of Arachnida”. Cladistics 6 (1): 1–38. doi:10.1111/j.1096-0031.1990.tb00523.x. 
  9. ^ Giribet, Gonzalo; Wheeler, Ward C.; Hormiga, Gustavo; González, Vanessa L.; Pérez-Porro, Alicia R.; Kaluziak, Stefan T.; Sharma, Prashant P. (2014-11-01). “Phylogenomic Interrogation of Arachnida Reveals Systemic Conflicts in Phylogenetic Signal” (英語). Molecular Biology and Evolution 31 (11): 2963–2984. doi:10.1093/molbev/msu235. ISSN 0737-4038. https://academic.oup.com/mbe/article/31/11/2963/2925668. 
  10. ^ Cunningham, Clifford W.; Martin, Joel W.; Wetzer, Regina; Bernard Ball; Hussey, April; Zwick, Andreas; Shultz, Jeffrey W.; Regier, Jerome C. (2010-02). “Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences” (英語). Nature 463 (7284): 1079–1083. doi:10.1038/nature08742. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/nature08742. 

参考文献

  • 内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、(1966)、中山書店。

関連項目