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{{Otheruses|香料|石油の精製|製油}}
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{{植物油|image=SandalwoodEssOil.png|caption=[[白檀]](サンダルウッド)の精油}}
'''精油'''(せいゆ)、'''エッセンシャルオイル'''([[英語]] essential oil)は、[[植物]]に含まれ、揮発性の芳香物質を含む[[有機化合物]]である。「オイル/油」という字が付くが、[[油脂]]とは全く別の物質からできている。可溶化リポイドで、水に溶けにくく、[[アルコール]]・[[油脂]]などに溶ける性質([[親油性]]・[[脂溶性]])を持つ。現在、約250~300種類の精油が存在する。
'''精油'''(せいゆ)または'''エッセンシャルオイル'''({{Lang-en|essential oil}})は、植物から産出される[[揮発]]性の[[油]]で<ref name="久保">久保亮五 他 編集 『岩波理化学辞典第4版』 岩波書店、1987年</ref>、それぞれ特有の[[芳香]]を持ち、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法(直接蒸留法)などによって植物から留出することができる<ref name="バルチン">マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年</ref>。植物は、代謝産出物、排出物、[[フェロモン]]、昆虫の忌避剤などとして精油を産出すると考えられており、葉や花弁、根などの特別な[[腺]]に貯蔵される<ref name="バルチン" />。一般に多数の化合物の複雑な混合物で、その芳香から主に[[食品産業]]で[[香料]]として利用されている<ref name="バルチン" />。


== 概説 ==
「精油」は100%天然物質であり、人工的に合成した物質を一切含まず、アルコール希釈などをしていない完全成分のものだけを指す。狭義では更に水蒸気蒸留法により抽出された精油に限定される。一般的にはハーブ葉の質量に対し0.01%~0.2%程度しか含有せず、かつ、全量抽出するには6回から10回程度繰り返し同じ葉を蒸留しなければ得られない大変に貴重なものである(1.0kg=1000gの葉に対し1.0g=1.0cc=1.0ml程度の精油全量に対し、1回蒸留で0.1ml)。よって大量生産は考えにくく、安価なものにはできにくい。[[アロマオイル]]や[[ポプリオイル]]などと混同されることもままあるが、混ぜ物を含み大量生産されるそれらとは全く別物である。
おおむね液状で[[水]]より軽く、水に溶けず([[疎水性]])、[[アルコール]]、[[二硫化炭素]]、[[石油エーテル]]、[[脂肪油]]などに溶ける([[親油性]])<ref name="久保" />。普通の[[油脂]]のように[[アシルグリセロール]]({{Lang-en|Acylglycerol}})、いわゆるグリセリド(英語:Glyceride、[[グリセリン]]と[[脂肪酸]][[エステル]]の総称)ではなく、植物の「精、精髄」({{Lang-la|essentia}})という意味で精油と呼ばれ<ref>現在では「精油」という名称に化学的な意味はない。</ref>、油脂とは区別されている<ref name="共立">化学大辞典編集委員会 編集 『化学大辞典』 共立出版、1977年</ref>。


現在知られている精油は1500種類に及ぶが、香料または合成香料原料として利用されるのは約100種類ほどである<ref name="共立" />。
== 植物における精油とその働き ==
一般に精油は植物の特殊な分泌腺で合成され、その近くの[[油細胞]]に蓄えられている。精油は植物にとって様々な有用な作用を及ぼす。香りの誘因効果により[[鳥]]や[[昆虫]]に[[受粉]]や[[種子]]の運搬を託す。また精油の苦みなどの忌避効果によって害虫や[[カビ]]([[真菌]])などの有害な菌から植物を守ることもある。他の植物の発芽や成長を抑える働きのある精油もある。また精油が汗のように蒸散することにより自らを冷却し太陽熱からその植物を守ることもある。


大量の植物からわずかしか採れないため、[[ローズオイル|バラ精油]]のようにかなり高額なものもある。材料によって収油率<!-- "収率" の定義は「予想量」と「結果量」の百分率ですので、もし精油業界で浸透している用語であれば、その旨、必要に応じて切り戻しをお願い致します。 -->が大幅に異なり、バラの場合約5tの花から精油1kgが採取され、収油率は0.02%。柑橘類は、果実に対して収油率は0.2 - 0.5%程度である<ref name="香料の科学">長谷川香料株式会社 著 『香料の科学』 講談社、2013年</ref>。精油の値段は手間賃ではなく、主として市場の需要に左右される<ref name="エレナ" />。
=== 細菌やウイルス、虫などに対する作用 ===
*殺菌作用:[[バクテリア]]などの[[細菌]]を殺す作用
*抗菌作用:[[細菌]]の増殖を抑える作用
*抗真菌作用:[[真菌]]([[カビ]])の増殖を抑える作用
*抗ウイルス作用:[[ウイルス]]の増殖を抑える作用
*殺虫・虫除け作用:[[虫]]を殺したり、除けたりする作用


[[アロマオイル]]などと混同されることもままあるが、合成香料を使用して大量生産されるそれらとは区別される。商品としての精油は100%植物由来であり、合成物質の添加、成分調整、アルコール希釈などの加工は行なわれていないと思われがちだが、必ずしもそうではなく、脱テルペン処理やブレンディングなど、何らかの処理がされているものも少なくない<ref name="バルチン" />。アロマテラピーという言葉を作った調香師[[ルネ=モーリス・ガットフォセ|ガットフォセ]]は、香水用に脱テルペン処理などがされた精油を使用していた<ref name="バルチン" />。
ただし、薬事法の許可認可を受けていない精油を上記の効能を謳い販売・譲渡する行為は薬事法に違反する。

揮発性[[溶剤]]を用いて抽出された香気成分を含む物質を、[[コンクリート (香料)|コンクリート]] ({{Lang-fr-short|[[:fr:Concrète|Concrète]]}}、コンクレット)<ref name="エレナ">ジャン=クロード・エレナ 『香水-香りの秘密と調香師の技』 芳野まい 訳、白水社、2010年</ref>という。このコンクリートの溶解性部分を抽出した[[アブソリュート (香料)|アブソリュート]]({{Lang-fr-short|[[:fr:Absolue|Absolue]]}}、アプソリュ)<ref name="エレナ" />や、{{仮リンク|超臨界二酸化炭素|en|Supercritical carbon dioxide}}で抽出したアブソリュート<ref name="エレナ" />、柑橘類から圧搾法で得られた[[エッセンス]]<ref name="エレナ" />は、揮発しない成分や水溶性タンパク質を含み、精油とは異なる物質と考えられているが、精油と呼ばれる場合もある<ref name="バルチン" />。

[[ナノテクノロジー]]の進化で、精油の[[マイクロカプセル]]化の技術が確立し、様々なものに添加され活用されている。その一方、[[香害]](香料を含む製品を過剰に使用することで、周囲に不快感や害を与えること)<ref>[http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2013/09/0920.html 香り付きの柔軟剤 過度な使用に注意] NHKニュース おはよう日本</ref><ref>[https://ameblo.jp/rik01194/entry-11736040129.html 「香りブーム」に潜む危機!? ~香料の有毒性と「香害」について~ かずのすけの化粧品評論と美容化学についてのぼやき]</ref>が問題となっている。[[岐阜市]]では、精油などの香料が[[アレルギー]]体質や[[化学物質過敏症]]の人のアレルギー、[[喘息]]などを誘発する<ref>[http://www.jsdacd.org/html/contact_dermatitis_guideline.pdf 接触皮膚炎診療ガイドライン] 日皮会誌:119(9), 1757―1793, 2009(平21)</ref>として、自粛を呼びかけるポスターを掲示している<ref>[https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/gifu_kouryou_jishuku_poster_L.html 岐阜市の香料自粛のポスター]</ref><ref>[http://www.cssc.jp/kouryo_jisyuku.html 「香料自粛のお願い」~近くの公共施設、病院にお願いをしてみませんか。]</ref>。多様な問題が起こっているが、特に感作作用(ある[[抗原]]に対し生体をアレルギー反応をおこしうる状態にする作用)が問題視されている<ref name="バルチン" /><ref>[http://www.sccj-ifscc.com/terms/detail.php?id=24 感作物質 sensitizer] 日本化粧品技術者会</ref><ref>[http://www.maroon.dti.ne.jp/bandaikw/archiv/chemicals_in_general/fragrance_and_health.pdf 香料の健康 渡部和男]</ref><ref>[http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/katei/manu/boushuzai/boushuzai.pdf 芳香・消臭・脱臭・防臭剤 安全確保マニュアル作成の手引き] 厚生省生活衛生局企画課 生活化学安全対策室</ref>。


== 成分 ==
== 成分 ==
[[File:Terpenoids_assorted.svg|thumb|テルペン類のうち、カルボニル基やヒドロキシ基などの官能基を持つ誘導体は[[テルペノイド]]と呼ばれ、[[イソプレン]](左上)を基本単位として構成される。]]
植物に含まれる揮発性の[[有機化合物]]を精油(エッセンシャル・オイル、essential oil)という。一般的な植物油脂は不揮発性で[[グリセリン]]の[[脂肪酸]][[エステル]]を主成分としているのに対し、精油は[[テルペン]]や[[芳香族]]化合物など([[アルコール]]・[[アルデヒド]]・[[シトラール]]・[[ケトン]]、[[エステル]]、[[フェノール]]、[[炭化水素]])を主成分としている。低沸点の香気成分を豊富に含むことが多い。人体にとっては植物ホルモンを含む強い生理活性作用物質である。
精油を構成する成分の大部分は、[[アセチルCoA]]から生じる<ref name="バルチン" />。精油は一般に多数の化合物の複雑な混合物で、主要な成分だけで10種類を超えるものも少なくない。主な成分は[[テルペン]]類または[[ベンゼン]]類の[[炭化水素]]、アルコール、[[アルデヒド]]、[[ケトン]]、[[フェノール類]]、各種の[[エステル]]類などである<ref name="久保" />。複雑な構造を持ち、相互に分離することが困難な場合も多い。そのため精油の化学的研究は、19世紀末まで大部分が取り残されていた。精油の研究からテルペン化学や合成香料が発展した<ref name="共立" />。

精油の成分は植物の種類だけでなく、生育の程度、場所、採取された季節、天候によっても大幅に異なる。また[[ゲノム]]が不安定で多様な香りがある[[タイム (植物)|タイム]]のように、様々な{{仮リンク|化学種 (植物学)|label=化学種|en|Chemotype}}(ケモタイプ)が認められる場合も多く、ある植物の組成が常に一定であることはありえない。概ね同じ香りの精油であっても、成分組成が異なると、生物活性(薬効)が異なる可能性がある<ref name="バルチン" />。(精油同様、生薬についても同じ問題があり、保険適用される[[漢方薬]]は、一定の薬効が得られるように、ある程度成分が調整されエキス剤に加工されている。ただし、エキス剤は加工する過程で揮発・蒸発しやすい精油などの成分が失われる場合があるため、一長一短であると言える。<ref>[http://www.kampoyubi.jp/products/policy.html 品質ポリシーと製造管理] クラシエ</ref><ref>[http://ww7.tiki.ne.jp/~onshin/kan-memo.htm#ex 漢方エキス製剤] 温心堂薬局</ref>)

アロマテラピーでは、精油成分の化学[[基]](化合物中の原子団を区分した呼称)によるグループ分けが重視されているが、同じ化学基を持つ物質でも異なる香りを持っており、各物質の[[生理活性|生物活性]]も化学基ではなく成分によって異なるため、化学基によるグループ分けは適当ではない<ref name="バルチン" />。

== 植物における精油とその働き ==
一般に精油は植物の特殊な分泌腺で合成され、腺組織に蓄えられる<ref name="バルチン" />。単純に代謝産物、排出物としても生み出されると考えられるが、植物にとって様々な有用な作用を及ぼすものもある。次のような理由で植物は精油を産出すると考えられている。
* 香りの誘因効果([[フェロモン]])により[[鳥]]や[[昆虫]]に[[受粉]]や[[種子]]の運搬を託す。
* 精油の芳香などの忌避効果によって害虫や[[カビ]]([[真菌]])などの有害な菌から植物を守る。
* 葉に粘液性のある精油を産出し食べられないように身を守る。
* 周囲に他の植物が生育するのを抑制する。
* 精油が汗のように蒸散することにより、自らを冷却し太陽熱からその植物を守る。

==歴史==
[[画像:alambique.png|thumb|日本に伝来した直接蒸留(水蒸気蒸留)の器具・らんびきの断面模式図]]
{{main|アロマテラピー#歴史|[[:en:Distillation#History]]}}
水蒸気蒸留法は、{{仮リンク|中世イスラーム世界の錬金術と化学|en|Alchemy and chemistry in medieval Islam}}の隆盛に伴い[[アラビア]]で発達し、精油は香料や薬として利用された。{{要出典|範囲=それ以前の古代エジプトなどでは、精油は[[アンフルラージュ]]、圧搾法などの方法で抽出され|date=2014年12月}}、[[香油]]、薬油として利用された。水蒸気蒸留法の最古の記録は、[[アンダルス]](現スペイン・アンダルシア地方)の偉大な科学者で、医師・薬剤師・植物学者・科学者であった[[イブン・アルバイタール]](1188年 - 1248年)の『薬と栄養全書』(Kitab al-Jami fi al-Adwiya al-Mufrada)であるといわれる<ref name="Houtsma1993">{{cite book |first= M.Th. |last= Houtsma |title= E. J. Brill's First Encyclopaedia of Islam, 1913–1936 |volume= 4 |year= 1993 |publisher= [[:en:Brill Publishers|Brill]] |isbn= 9004097902 |pages= [https://books.google.co.jp/books?id=7CP7fYghBFQC&pg=PA1011&redir_esc=y&hl=ja 1011–]}}</ref>。精油の製造法は中世ヨーロッパに伝わり、医療に広く利用され<ref>[[ヒロ・ヒライ]] 著 『エリクシルから第五精髄、そしてアルカナへ: 蒸留術とルネサンス錬金術』 Kindle、2014年(初出:「アロマトピア 第53号」 2002年)</ref>、のちに香水に用いられた。

水蒸気蒸留装置アレンビック([[らんびき]])は、江戸時代には日本に伝来しており、精油は[[蘭方]](西洋医学)で治療に使われた<ref>[http://www.eisai.co.jp/museum/information/topics/topics14_09.html らんびき -陶製の蒸留器-] 内藤記念くすり博物館</ref>。江戸幕府が[[オランダ東インド会社|東インド会社]]に、ガラス製蒸留装置の輸入や蒸留技術者の派遣を依頼した記録が残っており、蒸留小屋が設置され(場所はおそらく[[出島]]と推測されている)、日本人に高度な蒸留技術が伝承された<ref name="香料植物">吉武利文 著 『香料植物 ものと人間の文化史 159』 法政大学出版局、2012年</ref>。精油や芳香蒸留水が[[蘭方]](西洋医学)で盛んに用いられ、ハーブや香辛料の情報、精油の効能や利用法が翻訳されて伝えられた<ref name="蘭方">[http://www.tcmit.org/pressrelease/docs/100618_%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%B3%E3%83%AC%E5%B1%95_%E6%B1%9F%E6%88%B8%E3%81%AE%E5%8C%BB%E8%A1%93.pdf トヨタコレクション企画展 江戸の医術のことはじめ ~ 漢方と蘭方の出会い ~]</ref>。

また、日本では明治から昭和にかけ、精油産業が盛んだった。[[薄荷]]は日本では19世紀から生産され、1902年(明治35年)頃から北海道・[[北見]]で生産が始まった<ref>[http://www.kitamihakka.jp/ 北見ハッカ記念館]</ref>。1939年(昭和14年)に全盛期を迎え、世界市場の約70%を占めるほどであったが、輸入自由化、合成薄荷の登場、人件費高騰などの影響で衰退し、1983年(昭和58年)に北見の薄荷精製工場は閉鎖した<ref>[http://www.hakka.be/story/factory.html ハッカの歴史 世界一のハッカ工場] 北見ハッカ通商</ref>。[[樟脳]]は、楠が豊富な日本統治下の[[台湾]]で、樟脳油が大量に生産され、[[セルロイド]]製造や防虫剤に利用された。最盛期は世界最大の生産量であったともいわれるが、化学防虫剤、セルロイド代替品の登場で衰退し、現在国内ではごく一部で生産されるのみである<ref>[https://web.archive.org/web/20141017003243/http://www.geocities.jp/kinomemocho/sanpo_kusunoki2.html クスノキの周辺 郷愁の樟脳の現在 そしてクスノキのよろず情報] 木のメモ帳 廣野郁夫</ref>。精油原料として[[ラベンダー]]は、1937年(昭和12年)に[[曽田香料]]株式会社の創業者・曽田政治が、フランスのアントワン・ヴィアル社から種子を入手したことから北海道で栽培され、1942年(昭和17年)にはラベンダー油が採取された。同時期に[[伊豆]]でもラベンダーやゼラニウムなどが栽培され、精油が製造された記録が残っている<ref name="香料植物" />。1972年(昭和47年)頃から合成香料技術の進歩と輸入自由化の影響を受けて衰退し、現在は主に観光資源として観賞用に栽培されている<ref>[http://www.u-tokai.ac.jp/lavender/rekishi.html ラベンダーキャンパス化計画] 東海大学</ref>。


== 用途 ==
== 用途 ==
{{main|香料|アロマテラピー}}
特有の芳香を持つものが多く[[香料]]として使用される。また、香料としての働きも含め[[アロマテラピー]]にも使用される。精油の人体に及ぼす影響・効果・作用・毒性・利用法については[[アロマテラピー]]の項目を参照のこと。
精油は特有の芳香を持つものが多く、香料として、副次的に抗菌作用を期待して、主に食品産業で、また家庭用品、殺虫剤、食肉産業、香水・化粧品などで用いられる。ナノテクノロジーの進化で、2006年にアメリカの企業Blue Californiaが精油の[[マイクロカプセル]]化に成功した。[[ミクロ]]にパウダー化されることで、水溶性として扱えるようになり、洗濯洗剤、柔軟剤、衣類(繊維への固着)<ref>[http://www.aoki-style.com/upimages/newsrelease/238_1.pdf 「アロマスーツ」新発売] 株式会社アオキ</ref>など、様々なものに添加されるようになった<ref>[http://www.ekouhou.net/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%AB%E3%83%97%E3%82%BB%E3%83%AB%E5%8C%96%E3%81%97%E3%81%9F%E7%B2%BE%E6%B2%B9%E3%81%AE%E5%BF%9C%E7%94%A8/disp-A,2009-526644.html マイクロカプセル化した精油の応用] ekouhou.net</ref><ref>[http://animalaromatherapy.cocolog-nifty.com/blog/2014/11/micro-encapsula.html Micro Encapsulation of EOs (精油のマイクロカプセル化;パウダー化)] 動物のアロマセラピー</ref><ref>[http://www.bluecal-ingredients.com/whatsnew/pr_20061107.php Micro-Encapsulation of Essential Oils Introduced by Blue California November 7, 2006]</ref>。精油には強い洗浄力を持つものもあり、塗料業界でも使われている<ref name="バルチン" />。


また、アラビア、ヨーロッパでは伝統的に精油を用いた治療が行われ、現在では[[アロマテラピー]]またはアロマセラピーと呼ばれ、医療や美容に用いられている<ref name="今西">今西二郎 著 『補完・代替医療 メディカル・アロマセラピー』 金芳堂、2006年</ref>。
== 香りの分類 ==
植物の種類や抽出部位により次の7種類に分けられる。
# [[ハーブ]]系 (ハーブの花や葉から抽出)
#: [[クラリセージ]]、[[月桃]]、[[バジル]]、[[ペパーミント]]、[[マジョラム]]など
# [[柑橘]]系( 柑橘系の果物や、それに似た香りのハーブから抽出)
#: [[オレンジ]]・スイート、[[グレープフルーツ]]、[[ベルガモット]]、[[レモン]]、[[レモングラス]]、[[レモンバーベナ]]など
# フローラル系 (主に花から抽出)
#: [[ジャスミン]]、[[ゼラニウム]]、[[ネロリ]]、[[ラベンダー]]、[[ローズオットー]]など
# [[オリエンタル]]系 (異国情緒が漂うエキゾチックな香り) 
#: [[イランイラン]]、[[白檀|サンダルウッド]]、[[パチュリ]]、[[ベチバー]]など
# [[樹脂]]系([[天然樹脂]]系) (香木の樹脂から抽出)
#: [[エレミ]]、[[フランキンセンス]]、[[ベンゾイン]]、[[ミルラ]]など
# [[スパイス]]系 (料理のスパイスとして使われる香辛料から抽出)
#: [[カルダモン]]、[[クローブ]]、[[シナモンリーフ]]、[[ジンジャー]]、[[ブラックペッパー]]など
# [[木|樹木]]系 (樹木の樹皮や枝、葉などから抽出)
#: [[サイプレス]]、[[シダーウッド]]、[[ジュニパー]]ベリー、[[ティートリー]]、[[マツ|パイン]]、[[プチグレイン]]、[[ユーカリ]]など


植物から採取された精油は、水分、不純物を除いてそのまま香料として用いられる。また、[[楠]]から抽出される[[樟脳]]油のように、さらに蒸留して数種類の精油成分に分けることもある。樟脳油からは白油・赤油・藍色油が、[[薄荷]]油からは冷却法によって薄荷脳([[メントール]])と薄荷油が得られる<ref name="共立" /><ref>[http://www.suzukishoten-museum.com/footstep/history/cat4/cat1/post-164.php 鈴木商店の商品シリーズ③「薄荷の話」] 鈴木商店記念館</ref>。
== 精油を採る植物 ==
採る植物は多岐にわたる。オレンジのように花、葉、果実から異なる精油が得られるような植物もある。以下に主な採油植物とその部位を示す。


== 抽出方法 ==
* 花・蕾: [[バラ|ローズ]]、[[ジャスミン]]、[[ネロリ]]([[ビターオレンジ]]の花)、[[カモミール]]、[[イランイラン]]
[[Image:Steam dist.svg|thumb|水蒸気蒸留装置]]
* 葉: [[ゼラニウム]](ニオイテンジクアオイ)、[[ユーカリ]]、[[ティートリー]]
精油は主に水蒸気を用いた蒸留法で抽出される。[[アブソリュート (香料)|アブソリュート]]、エッセンスなどは厳密には精油ではないが、精油と呼ばれることもある。ここでは蒸留法以外の{{仮リンク|香気成分抽出法|en|Fragrance extraction}}についても説明する。
* 枝と葉: プチグレイン([[ビターオレンジ]]の枝と葉)
* 果皮: [[オレンジ|スィートオレンジ]]、[[ビターオレンジ]]、[[レモン]]、[[ライム]]、[[ベルガモット]]などの柑橘類
* 果実・種子: [[コショウ]]など多くの[[香辛料|スパイス]]類、[[ジュニパー|ジュニパーベリー]]、[[バニラ]]
* 樹木・樹皮: [[白檀|ビャクダン]](白檀、サンダルウッド)、[[マツ]]、[[ヒノキ]]、[[シナモン]]
* 樹脂: [[フランキンセンス]]([[乳香]]、[[オリバナム]])、[[ミルラ]]([[没薬]](もつやく))
* 根・根茎: [[ベチバー]]、[[:en:Spikenard|スパイクナード]]、[[:en:Orris root|オリスルート]]
* 全草: [[ラベンダー]]、[[レモングラス]]、[[バジル]]、[[ローズマリー]]、[[ミント]]など[[ハーブ]]全般


== 精油を採る方法 ==
=== 蒸留===
[[File:Distilation_Santal,_Alambic.jpg|thumb|サンダルウッドの水蒸気蒸留、[[エジプト]]]]
; 水蒸気蒸留法(水蒸気で蒸して芳香成分を得る)
[[File:Lavender_Distillery_-_Heacham,_Norfolk.jpg|thumb|ラベンダー農場の水蒸気蒸留装置、[[イギリス]]]]
: 広範な沸点分布を持つ精油成分を一度に留出させるには、[[水蒸気蒸留]]が適している。原理については水蒸気蒸留を参照。狭義の精油としては水蒸気蒸留で得られたもののみを指す(他の方法利用のものは「精油」と呼ばないという意)。100℃以上の熱がかかるので、熱による変質が起こる精油の採油方法としては適切でない。
* '''水蒸気を利用した蒸留法'''
: 水蒸気の冷却後に得られる、精油とは分離された水の中には水溶性の芳香物質が微量に含まれていて「芳香蒸留水/[[ハイドロゾル]]」と言われる。これは一般的にフローラルウォーターなどと呼ばれる。
水蒸気を利用した蒸留法には、'''熱水蒸留法'''(英:hydrodistillation 水蒸留法<ref name="カティ">スーザン・カティ 著 『ハイドロゾル―次世代のアロマセラピー』 川口健夫、川口香世子 翻訳、フレグランスジャーナル社、2002年</ref>、直接蒸留法<ref name="カティ" />、ハイドロ式蒸留法、らんびき式蒸留法、煮だし式蒸留法)、'''水蒸気蒸留法'''(英:steam distillation スチーム蒸留法<ref name="井上">井上重治 著 『サイエンスの目で見る―ハーブウォーターの世界』フレグランスジャーナル社、2009年</ref>、常圧水蒸気蒸留)、'''水拡散法'''<ref name="カティ" />、'''低温真空蒸留法'''(英:hydrodiffusion 減圧水蒸気蒸留法<ref name="木村">[http://www.motomura-aroma.com/good-point/index.html アロマ減圧水蒸気蒸留装置] 本村製作所</ref>)<ref name="井上" />などがある。水蒸気を利用した蒸留は古代から用いられた方法で、原理や作業も単純である。精油のほとんどが水蒸気で分離できることから広く利用された<ref name="フランス香水委員会">フランス香水委員会監修 『香水賛歌 魅惑の香り』 朝日新聞社、1994年</ref>。熱水蒸留法では材料植物を水と混ぜて撹拌し、これを蒸留器([[アランビック]]、[[ランビキ|らんびき]])に入れて沸騰させる<ref name="カティ" />。植物を煮るため、[[エステル]]などの化合物は分解される<ref name="塩田" />。熱水蒸留法は、[[ローズオットー]]の抽出などに用いられる<ref name="塩田">塩田清二 著『<香り>はなぜ脳に効くのか―アロマセラピーと先端医療 NHK出版新書』 NHK出版、2012年</ref>。水蒸気蒸留法では、植物に下から蒸気を吹きかける<ref name="カティ" />。精油の製造で主に利用されるのはこの方法である<ref name="塩田" />。熱水蒸留法・水蒸気蒸留法では、精油成分を含む蒸気は蒸留器上部から伸びる水冷管で冷却し、精油と水蒸気は別の容器に集められる<ref name="フランス香水委員会" />。精油は疎水性であるため、水と分離している。(詳細は「[[水蒸気蒸留]]」を参照。)水拡散法は水蒸気蒸留法とほとんど同じやり方だが、冷却水を節約するために、上記の吹き出し口が蒸留器の上部に、凝縮器への排出口が下部にある<ref name="カティ" />。これら蒸気を用いた方法は、100℃以上の熱がかかるので、熱により香りが変質する精油の採油方法としては適切でない。
; 油脂吸着法(油脂に芳香成分を吸わせる)
: 脱臭した動物油脂などに植物を添加して精油を吸着させたのち、[[エタノール]]で精油のみを油脂から抽出する古典的な方法。古代エジプトの時代から行われていた熱を加える'''温浸法(マセラシオン)'''と、[[ルネサンス]]期に開発された室温で行う'''冷浸法(アンフルラージュ)'''がある。精油を吸着した油脂は'''ポマード'''といい、そこからエタノールで抽出された精油は'''エキストラクト(エキス)'''、さらにそこからエタノールを蒸発させて除去したものは'''アブソリュート'''(Abs.)と呼ばれる。冷浸法では熱による変質の無い非常に高品質な精油が得られるが、時間と手間が掛かりすぎるため現在ではほとんど行われていない。
:; 冷浸法(アンフルラージュ)
:: ジャスミンやバラなど、主に花から精油を抽出する場合に使われる方法。動物性脂肪や植物油を塗ったトレーに花びらを並べて載せ、花びらに含まれる精油をトレーのオイルに吸収させる。その後、トレーに塗った動物性脂肪・植物油から精油を分離し純化させる。
:;アブソリュート(Abs.) 
::油脂吸着法、揮発性有機溶剤抽出法、超臨界流体抽出法などで段階的な過程を経て最終的に得られた精油をアブソリュート(Abs.)と呼ぶ。狭義には揮発性有機溶剤抽出法で得られた精油を指す。
:<!--リストの分断防止行-->
; 有機溶剤抽出法(芳香成分を有機溶剤に溶かしだして得る)
: 手間暇のかかる油脂吸着法にとって代わった方法。植物を有機溶剤([[溶媒]]:[[石油エーテル]]、[[ヘキサン]]、[[ベンゼン]]など)に浸し芳香物質を溶かし出した後、有機溶剤を気化させると芳香物質を含む半固形状の物質([[ワックス]]。'''コンクリート''')が残る。これをエチルアルコールに溶かし、-20℃~-30℃で冷却すると芳香成分とワックス成分が分離する。その後アルコールを除去して精油を得る。
: 水蒸気蒸留法と比べてたくさんの精油を抽出することができるという利点がある。また、水蒸気蒸留法のような熱の影響を受けないため、ローズやジャスミンなどの微妙な花の香りを得るには良い方法である。この方法で取りだした精油も'''アブソリュート(Abs.)'''と呼ばれる。
: しかし人体に有害である有機溶剤が少し残る場合もあり、この方法で取りだした「アブソリュート(Abs.)」を「精油」を区別する考え方もある。
:※油脂吸着法と有機溶剤抽出法で得られる(狭義の)エキストラクト、アブソリュート、コンクリート、オレオレジン、レジノイド、ティンクチャーは(広義の)'''エキストラクト(エキス)'''と総称される。
:;ティンクチャー(チンキ)
:: 植物(バニラやローズなど)を単にエタノールやウオッカなどに浸し芳香物質を溶かし出した後、そのままアルコール成分を除去しないものもあり、これは'''ティンクチャー(チンキ)'''と呼ばれる。精油成分が溶けている液体である。
:: 食品用途のもの(薄めてハーブティーとして飲んだりする)は'''オレオレジン'''、化粧品用途のもの(化粧水やシャンプーなどに混ぜたりする)は'''レジノイド'''と呼ばれる。この方法で取り出した精油は油脂吸着法同様'''アブソリュート(Abs.)'''と呼ばれる。
:<!--リストの分断防止行-->
; 超臨界流体抽出法(液化ガスなどを超臨界状態にして芳香成分を溶かし出して得る)
:1970年後期に開発された方法。まず主に二酸化炭素などに高い圧力をかけ超臨界状態([[超臨界流体]])にする。この中に植物を入れておき芳香成分をその中に拡散・浸透させる。その後圧力を抜き流体を気化させると芳香成分だけ残る。この方法で取りだした精油も'''アブソリュート(Abs.)'''と呼ばれる。熱による成分の変質が無く、また有機溶剤抽出法のように有機溶剤が残るおそれが無いことから安全性が高い精油が得られるというメリットがある。しかし装置が高価なためあまり一般的でない。二酸化炭素を使いこの方法で抽出した精油を特に'''CO2エキストラクト'''または'''CO2'''と呼ぶことがある。
; 圧搾法(物理的に圧力を加えて絞り出す)
: [[柑橘類]]は果皮の表面にある[[油胞]]に精油を含有しているので、果皮に圧力を加えて油胞を潰すことで精油を得ることができる。果皮を絞る'''スクイーズ法'''と果皮をおろしがねのようなもので擦る'''エキュエル法'''がある。現在では機械化されている。果汁と一緒に絞り精油を分離する方法もある。L-リモネンなどのテルペン類は熱による香調の劣化が激しいので、圧力をかけるときに発生するわずかな熱から香気成分を守るために、その際に冷却しながら圧搾処理することがある。冷却圧搾で得られた精油は特に'''コールド・プレス'''と呼ばれる。
: 熱による変質を受けにくいので自然のままの香気を保てる一方、他の精油製造法に比べて不純物が混ざる可能性が高く、精油の品質の劣化が早いことが欠点である。


真空低温蒸留法は近年開発された新しい方法で、植物内の浸透圧で遊離した油分を低温(70- 80℃)・低圧(0.1バール)で蒸留する<ref name="井上" />。低い温度で蒸留できるため、従来の方法より良質の精油を得ることができる<ref name="木村" />。
== 賞香期限 ==
製品化された精油は、開封後約1年が目安となるものが多い。[[柑橘類|柑橘系]](ベルガモット・レモンなど)は約半年とされる。[[香木]]系(サンダルウッドやパチュリーなど)のように歳を経るごとに質が良くなるものもある。しかし、期限内であっても濁ってきたり香りが変わってきたりしたら使用しないほうがよい。


抽出時間が短いほど香りのよい精油が得られ、長くなるほどグレードは下がる<ref name="バルチン" />。
== 主な精油 ==
五十音順 (項目末尾のカッコ内は 科/抽出部位/その精油の一般的な抽出方法)
* [[アニス]]シード([[セリ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[セイヨウトウキ|アンジェリカ]]ルート([[セリ科]]/根/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Inula|イニュラ]]([[キク科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[カレープラント|イモーテル]]([[キク科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[イランイラン]]([[バンレイシ科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Elemi|エレミ]]([[カンラン科]]/樹脂/水蒸気蒸留法)
* [[オリスルート]]([[ドイツアヤメ]]、[[イリス・パリダ]])([[アヤメ科]]/根/水蒸気蒸留法)
* [[オールスパイス]]([[フトモモ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Kunzea ericoides|カヌカ]]([[フトモモ科]]/葉・茎/水蒸気蒸留法)
* [[カボス]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)※変質しやすいために開封後の保存は要冷蔵である。
* [[カモミール]](ジャーマン・カモミール)([[キク科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Roman Chamomile|ローマン・カモミール]]([[キク科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[カユプテ]]([[フトモモ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[カルダモン]]([[ショウガ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Galbanum|ガルバナム]]([[セリ科]]/樹脂/水蒸気蒸留法)
* [[ニンジン|キャロット]]シード([[セリ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[キンモクセイ]]([[モクセイ科]]/花/溶剤抽出法[[[ヘキサン]]])
* [[クミン]]([[セリ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[クラリセージ]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[グレープフルーツ]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)
* [[クローブ]]([[フトモモ科]]/つぼみ/水蒸気蒸留法)
* [[クロモジ]]([[クスノキ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[ゲットウ]]([[ショウガ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Copaiba|コパイバ]]([[マメ科]]/樹脂/水蒸気蒸留法)
* [[コリアンダー]]([[セリ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[イトスギ|サイプレス]]([[ヒノキ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[ビャクダン|サンダルウッド]]([[ビャクダン科]]/木部/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Cistus|シストローズ]]([[ハンニチバナ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[シソ]]([[シソ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[ヒマラヤスギ属|シダー]]ウッド([[マツ科]]/木部/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Cymbopogon nardus|シトロネラ]]([[イネ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[シナモン]]リーフ([[クスノキ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[ジャスミン]]([[モクセイ科]]/花/溶剤抽出法[[[ヘキサン]]]または[[[アルコール]]])
* [[セイヨウネズ|ジュニパー]]ベリー([[ヒノキ科]]/果実/水蒸気蒸留法)
* [[ショウガ|ジンジャー]]([[ショウガ科]]/根/水蒸気蒸留法)
* [[オレンジ|スイート・オレンジ]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)
* [[スギ]]([[スギ科]]/葉または木部/水蒸気蒸留法)
* [[トウシキミ|スターアニス]](八角)([[モクレン科]]/果実/水蒸気蒸留法)
* [[スペアミント]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[セージ]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[テンジクアオイ属|ゼラニウム]]([[ニオイテンジクアオイ]])([[フウロウソウ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[セロリ]]シード([[セリ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[セントジョーンズワート]]([[オトギリソウ科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[タイム (植物)|タイム]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Tagetes minuta|タジェット]]([[キク科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[タラゴン]]([[キク科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[マンダリンオレンジ|タンジェリン]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)
* [[チューベローズ]]([[リュウゼツラン科]]/花/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[ティートリー]]([[フトモモ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Dipteryx_odorata|トンカビーンズ]]([[マメ科]]/果実/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[イノンド|ディル]]シード([[セリ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[ナツメグ]]([[ニクヅク科]]/実/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Spikenard|ナルド]](スパイクナード)([[オミナエシ科]]/根/水蒸気蒸留法)
* [[ニアウリ]]([[フトモモ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[ニホンハッカ]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[ネロリ]]([[ミカン科]]/ビターオレンジの花/水蒸気蒸留法、溶剤抽出法)
* [[ニオイスミレ|バイオレット]]・リーフ([[スミレ科]]/葉/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[マツ|パイン]]([[マツ科]]/球果/水蒸気蒸留法)
* [[バジリコ|バジル]]([[シソ科]]/葉・花/水蒸気蒸留法)
* [[パチョリ|パチュリー]]([[シソ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[バニラ]]([[ラン科]]/果実/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[:en:Cymbopogon martinii|パルマローザ]]([[イネ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[セイヨウカノコソウ|バレリアン]]([[オミナエシ科]]/根/水蒸気蒸留法)
* [[ヒソップ]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[ダイダイ|ビター・オレンジ]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)
* [[ヒノキ]]([[ヒノキ科]]/木部/水蒸気蒸留法)
* [[ヒバ]]([[ヒノキ科]]/木部/水蒸気蒸留法)
* [[フェンネル]]([[セリ科]]/種子/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Petitgrain|プチグレイン]]([[ミカン科]]/ビターオレンジの葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[コショウ|ブラックペパー]]([[コショウ科]]/果実/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Plumeria|フランジュパニ]]([[プルメリア]])([[キョウチクトウ科]]/花/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[乳香|フランキンセンス]](フランクインセンス、乳香)([[カンラン科]]/樹脂/水蒸気蒸留法)
* [[ブルーサイプレス]]([[ヒノキ科]]/木部/水蒸気蒸留法)※精油としては珍しい青色をした見た目にも美しい精油
* [[ゲッケイジュ|ベイ]]([[クスノキ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[ベチバー]]([[イネ科]]/根/水蒸気蒸留法)
* [[ペパーミント]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[ベルガモット]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)
* [[安息香|ベンゾイン]](安息香)([[エゴノキ科]]/樹脂/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[ギンバイカ|マートル]]([[フトモモ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[マジョラム]]([[シソ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[ギョリュウバイ|マヌカ]]([[フトモモ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[マンダリンオレンジ|マンダリン]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)
* [[:en:Vachellia farnesiana|ミモザ]]([[マメ科]]/花/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[没薬|ミルラ]](没薬)([[カンラン科]]/樹脂/水蒸気蒸留法)
* [[レモンバーム|メリッサ]]([[シソ科]]/花・葉/水蒸気蒸留法)
* [[モミ]]([[マツ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[セイヨウノコギリソウ|ブルーヤロウ]]([[キク科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[ユズ]]([[ミカン科]]/果皮/水蒸気蒸留法または圧搾法)※水蒸気蒸留法の方が一般的に柔らかく優しい香りと感じられる。変質しやすいため開封後の保存は要冷蔵である。
* [[ユーカリ]]([[フトモモ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[ライム]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法または水蒸気蒸留法)
* [[ラバンディン]]([[シソ科]]/花・葉/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Ravensara aromatica|ラベンサラ]]([[クスノキ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[ラベンダー]]([[シソ科]]/花・葉/水蒸気蒸留法、溶剤抽出法)
* [[:en:Litsea cubeba|リツェア・クベバ]]([[クスノキ科]]/果実/水蒸気蒸留法)
* [[セイヨウボダイジュ|リンデン]]([[シナノキ科]]//)
* [[レモン]]([[ミカン科]]/果皮/圧搾法)
* [[レモングラス]]([[イネ科]]/全草/水蒸気蒸留法)
* [[レモンバーベナ]]([[クマツヅラ科]]/葉/水蒸気蒸留法)
* [[レモンバーム]]([[メリッサ]])(シソ科/葉/水蒸気蒸留法)
* [[レモンマートル]]([[フトモモ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)
* [[バラ|アルバローズ]](白バラ)([[バラ科]]/花/水蒸気蒸留法)
* [[:en:Rosa damascena|ダマスクローズ]]([[バラ科]]/花/水蒸気蒸留法、溶剤抽出法)
* [[ローズウッド (クスノキ科)|ローズウッド]]([[クスノキ科]]/木部/水蒸気蒸留法)
* [[ローズマリー]]([[シソ科]]/花・葉/水蒸気蒸留法)
* [[ハス|ロータス]]([[スイレン科]]/花/溶剤抽出法[[[アルコール]]])
* [[:en:Lovage|ロベージ]]([[セリ科]]/根/水蒸気蒸留法)
* [[ゲッケイジュ|ローレル]](月桂樹)([[クスノキ科]]/葉・枝/水蒸気蒸留法)


これらの方法では、蒸留後の蒸留水に水溶性の芳香物質が微量に含まれており、'''芳香蒸留水'''([[ハイドロゾル]]、フローラルウォーター)と呼ばれる。含有する精油成分は微量であり、芳香蒸留水の香りは精油とかなり異なる場合もある。バラ精油のように生産にコストがかかるものの場合、芳香蒸留水は蒸留装置に戻されたり、溶剤抽出法を使うなどして、水溶液中の精油も回収されることが多い<ref name="バルチン" />。
;国産の精油
: [[柚子]]、[[檜]]、[[杉]]、[[ヒバ]]、[[月桃]]、[[紫蘇]]、[[カボス]]、[[薄荷]]、[[日向夏]]、[[へべす]]、[[清見]]、[[橙]]などの他に国産ラベンダーの精油もある。
;ケモタイプ/ct.
: 学名は同じでも収穫年や産地・栽培方法などの生育環境などの違いにより成分の構成比率が著しく異なり、香りや作用に大きな差が生じる精油がある。これらを「[[ケモタイプ]](科学種)/'''ct.''' 」として別の精油として扱う。タイム、カユプテ、ティートリー、ローズマリーなどにケモタイプが確認されている。


* '''高温乾留法'''(英:Dry/destructive distillation)
<!--== 精油についてのトラブル時の処置 ==
'''分解蒸留法'''、'''乾燥蒸留法'''<ref name="フランス香水委員会" />、'''[[乾留]]'''とも。蒸溜装置の中に網を張って、その上に材料植物を載せ、乾燥した高温空気を下から通す方法。香りの成分が膨張して分離・蒸発し、容器上部の冷却管を通って冷却され、集められる。熱水蒸留法では精油成分に加水分解が起こるため、乾燥した状態のままで精油を抽出する方法として考案された<ref name="フランス香水委員会" />。[[松根油]]の抽出などに利用される。(詳細は「[[乾留]]」を参照。)
; 原液が肌についてしまった時

: すぐに石鹸でよく洗う。異常の出た場合はただちに医師に相談する。その際、その精油を持参すること。
* '''分別蒸留法'''(英:Fractionation distillation)
; 誤って原液を飲んでしまった場合
'''分離蒸留法'''、'''部分蒸留法'''、'''分留'''とも。抽出された香気成分を、さらに細かく分離する方法。精油からテルペンを分離すること(精油の脱テルペン化)などに用いられる。(詳細は「[[蒸留]]」を参照。)
: 口の中にオイルが残っている場合は大量の水で口をすすぐ。飲み込んでしまった場合には絶対に吐かせず、直ちに医師に相談する。その際、その精油を持参すること。精油を吐かせることは、一度やけどを負った食道に再度やけどを起こさせることにつながる恐れが高いため、吐かせることは禁物である。

; 目に入った場合
* '''低温真空抽出法'''
: 大量のきれいな水で目を洗い、すぐに医師に相談する。その際、その精油を持参すること。絶対に目をこすらない。
21世紀に日本で開発された新しい抽出法で、溶剤や水を利用しない。真空ポンプでタンク内を減圧状態に保ち、[[マイクロ波]]で植物を加熱する。蒸発した植物中の有用成分を冷却凝縮器で液体に戻し、回収器で集める<ref name="兼松">[http://www.kanematsu-eng.jp/catalog/micro20120127.pdf 減圧蒸留型抽出装置] 兼松エンジニアリング株式会社</ref>。有効成分を低温・短時間で抽出でき、有用成分の回収率・品質が高く、オール電化で操作も簡易である<ref name="塩田" />。ハイドロゾルの作成も可能である<ref name="兼松" />。
; 引火した時

: 精油は植物油と同様に、高温の状態で火を近づけると引火する場合がある。万一火がついた場合は水をかけず、消火器または毛布等で空気を遮断して消火する。初期消火が無理と判断されたら、迅速に消防署に連絡する。
=== アンフルラージュ ===
; 使用中、何らかの異常を感じた場合
[[アンフルラージュ]]は、油脂に花の芳香成分を溶解させる古くからある抽出法。
: 直ちに使用を中止し、医師に相談する。
* '''冷浸法'''({{Lang-fr-short|[[:fr:enfleurage à froid|Enfleurage à froid]]}} {{Lang-en-short|[[:en:enfleurage#Cold enfleurage|Cold enfleurage]]}})
-->
脱臭した固形の動物性脂肪(通常は精製した豚油<ref name="ワイルドウッド">クリシー・ワイルドウッド 著 『アロマテラピーの精油でつくる自然香水』 高山林太郎 訳、フレグランスジャーナル社、1996年</ref>)に花びらなど香料植物を置いて香気成分を溶解させたのち、[[エタノール]]で精油のみを脂肪から抽出する。香気成分を含む脂肪は'''[[ポマード]]'''といい、これをデカンタにかけて分離させ、取り出して[[エタノール]]と混ぜる<ref name="フランス香水委員会" />。エタノールによって抽出された精油は'''エキストラクト(エキス)'''{{要出典|date=2014年12月}}、さらにそこからエタノールを蒸発させて除去したものは'''アブソリュート'''と呼ばれる。(アンフルラージュだけでなく、溶剤抽出法、超臨界流体抽出法などで最終的に得られた香料もアブソリュートと呼ぶ。)[[ジャスミン]]や[[チューベローズ]](月下香)など、摘みとった後も香りを失わない花に用いられた<ref name="フランス香水委員会" />。冷浸法では熱による変質の無い非常に高品質な精油が得られるが、コストが高く収油率が低いため、現在ではほとんど行われていない。溶媒抽出法の理論のベースになっている<ref name="バルチン" />。

* '''温浸法'''({{Lang-fr-short|[[:fr:enfleurage|Enfleurage à chaud]]}} {{Lang-en-short|[[:en:enfleurage#Hot enfleurage|Hot enfleurage]]}})
'''熟成法'''とも。冷浸法とほとんど同じやり方だが、成分の純度を高める作業が高温で行われる。[[バラ]]や[[オレンジ]]の花のように、摘みとった後に香りが失われる花に利用された<ref name="フランス香水委員会" />。

=== 溶媒抽出/浸出法 ===
[[File:JasmineAbsolute.png|thumb|ジャスミン・アブソリュート。ある程度の色素を含むため、色がついている。]]
浸出法は、フランス語で'''マセラシオン'''(Macération)、英語で'''マセレーション'''(Maceration)<ref>アルコールや油、溶剤などの液体に固体を浸し成分を抽出することを指す。そのためハーブのアルコール抽出や温浸法もマセラシオン、マセレーションと呼ばれることがある。</ref>。
* '''[[溶媒抽出法]]'''(英:Solvent extraction)
'''溶剤抽出法'''、'''液液抽出法'''(英語:Liquid‐liquid extraction)とも。分離する2種類の溶剤を用いた抽出法で、芳香成分を揮発性[[溶媒]]に溶かしだして抽出する。19世紀終わりに誕生した<ref name="エレナ" />。木や[[地衣類]]、根は粉砕して、花・葉・樹脂はそのままの形で利用する。材料を溶剤([[溶媒]]:[[石油エーテル]]、[[ヘキサン]]、[[エチルアルコール]]など)に浸し芳香物質を溶かし出した後、コンサントラーに入れて溶剤を気化させると、芳香物質を含む[[蝋|ワックス]]状の塊'''コンクリート'''が残る。これを[[エチルアルコール]]と共に撹拌して凍らせ、濾過すると、香気成分を含む[[アルコール]]と非混和性の植物の蝋が残る。その後アルコールを気化させると、'''アブソリュート'''と呼ばれる精油に近い物質が得られる<ref name="エレナ" />。水蒸気蒸留法より多くの香気成分を抽出できる場合が多い。また、低い温度で抽出するため、水蒸気による加水分解がなく、材料植物そのものに近い香りを得ることができ<ref name="エレナ" />、[[バラ]]や[[ジャスミン]]などの繊細な香りの花に利用される。ある程度の[[色素]]が含まれ、ワックス、溶剤が残留していることが多い。柑橘系精油の抽出法は低温圧搾法が知られるが、主な抽出法はそれではなく、柑橘製品の[[副産物]]として溶媒抽出法で生産されている<ref name="バルチン" />。
* '''超臨界流体抽出法'''(英:Supercritical fluid extraction)
'''二酸化炭素抽出法'''<ref name="バルチン" />とも。液体の[[二酸化炭素]]には強い溶解力があるため、[[超臨界流体]]の状態にして芳香成分を溶かし出して抽出する方法で、1970年代後期に開発された。[[デカフェ|カフェインレス]]コーヒーを作る方法と同じものである。二酸化炭素に200気圧という高い圧力をかけ超臨界状態にし、この中に植物を入れておき芳香成分をその中に拡散・浸透させる。その後圧力を抜き流体を気化させると芳香成分だけ残る。低温で瞬間的に抽出ができ、熱による成分の変質がなく、材料植物そのものに近い香りが得られる。二酸化炭素を用いるため、精油成分に化学的な影響を与えたり、溶剤抽出法のように溶剤が残るおそれもなく、公害物質を出すこともない<ref name="エレナ" />。高い気圧をかけるため多額の設備投資が必要だが、食品業界では最もよく利用される抽出法である<ref name="バルチン" />。この方法で抽出した精油は'''アブソリュート(Abs.)'''、'''CO2エキストラクト'''{{要出典|date=2014年12月}}と呼ばれる。

* '''エタノール抽出法'''(英:Ethanol extraction)
'''アルコール抽出法'''とも。手軽な精油の利用法としては、植物をアルコールに浸し精油を溶かし出したものもあり、これは'''ティンクチャー'''または'''[[チンキ]]'''と呼ばれる。(例:[[ハーブ]]チンキ、[[アヘン]]チンキ)精油成分が溶けている液体であり、薬用酒などがこの方法で作られる。

=== 圧搾法 ===
[[ファイル:構造式 Limonene.png|left|thumb|リモネンの構造式]]
圧搾法(英:Expression)は、物理的に圧力を加えて絞り出す方法で、精油の形では壊れやすい[[柑橘]]類にだけ利用される<ref name="エレナ" />。{{要出典|範囲=この方法は、水蒸気蒸留法が確立する前から利用された|date=2014年12月}}。圧搾法で抽出されたものも、厳密に分類しなければ、一応「精油」に含まれる。ただし、同じ植物原料を用いても、水蒸気蒸留法と圧搾法では、抽出された精油の成分組成は全く異なる。

柑橘類は、果皮の色のついた部分にあるオレイフェール細胞に精油を含有しているので、果皮に圧力を加えて破裂させる<ref name="エレナ" />。{{要出典|範囲=果皮を絞る'''スクイーズ法'''と果皮をおろしがねのようなもので擦る'''エキュエル法'''がある|date=2014年12月}}。昔は手作業で行っていたが、現在では機械化されている。L-[[リモネン]]などのテルペン類は熱による香りの劣化が激しいので、圧力をかける時に発生するわずかな熱による[[変性]]を防ぐため、冷却しながら圧搾処理(低温圧搾法、コールド・プレス)を行う。この抽出物には水が含まれるため、[[ジュース]]、[[パルプ]]も共に[[遠心分離器]]にかけて(または上澄みを取って)水と分離する。得られた抽出物は'''エッセンス'''と呼ばれる<ref name="エレナ" />。(これは{{仮リンク|オリーブオイル抽出|en|Olive oil extraction}}と似た方法である。)他の抽出法に比べて不純物を含むため、品質の劣化が早い。柑橘系の精油は化学的に不安定であり、通常[[ブチルヒドロキシトルエン]](BHT)や[[ブチルヒドロキシアニソール]](BHA)などが酸化防止剤として添加されるため、100%天然の精油というのは考えにくい<ref name="バルチン" />。ワックスや色素などの不揮発性成分が含まれ、光毒性のある[[フロクマリン]]を含む場合も多い。フクロクマリンが除去されたFCF精油も生産されている<ref name="バルチン" />。

== 品質 ==
[[File:Gaschromatograph.jpg|thumb|ガスクロマトグラフィー]]
===分析===
[[File:Chromatogram.png|thumb|ガスクロマトグラフィーで3種類の物質を分析した場合の典型的な結果例。横軸が保持時間(retention time)、縦軸が検出電圧。三角形部の面積が検出された物質の量となる。]]
1950年代に[[ガスクロマトグラフィー]]が誕生し、複雑な揮発性の混合性の分子を分離できるようになり、1960年代には[[質量分析]]器と対にして利用され、精油の成分が識別できるようになった<ref name="エレナ" />。他には、[[旋光性]]、[[比重]]、[[屈折率]]などの物理的な分析、[[赤外分光法]]、[[酸化]]、エステル価の測定などの科学的分析がある。ただ、ガスクロマトグラフィーや質量分析器は、どんなに感度が良くても、化学的に天然のものと同じであれば、合成香料を検出することはできない<ref name="バルチン" />。人が実際に香りを嗅ぐ官能試験も行われる<ref name="高山" />。

===規格===
====世界====
{{see also|国際標準化機構が定める国際標準一覧 (ISO 1 から ISO 999 まで)}}
精油製品は、ヨーロッパにおける信頼性の高いの規格として、'''フランス規格化協会'''([[:en:Association Française de Normalisation|Association Française de Normalisation]]、略称AFNOR)による規格があり、いくつかの精油については標準的化学組成を示した[[モノグラフ]]を発行している<ref name="今西" />。電気分野を除く工業分野の国際的な標準を策定する'''[[国際標準化機構]]'''(International Organization for Standardization、略称: ISO)でも精油の国際的な規格が定められており、これはフランス規格化協会の基準を受け入れている<ref name="高山">高山林太郎 著 『ルーツ of アロマテラピー』 現代書林、2002年</ref>。TC54という委員会が包装、状態、保管、サンプリング、旋光度の測定、組成などを評価している。精油の組成成分類の各量が基準に合わない場合、または天然精油に存在しない成分があった場合に、基準に合わない精油と見なされる<ref name="高山" />。ただし、基準に合致しても100%天然であると保証されるわけではなく、100%天然であっても、組成成分が基準に合致しなければ規格外と判断される。

精油の成分は植物の種類だけでなく、生育の程度、場所、採取された季節、天候によっても大幅に異なるが、[[国際標準化機構]](ISO)が成分組成の基準に合わせるために、収穫時期・場所の異なる精油、他の植物精油や合成成分のブレンドが行われることがあり、ISOの基準が精油の加工の一因になってしまっている<ref name="バルチン" />。

他に、'''芳香材料研究所'''(RIFM、香粧品香料原料安全性研究所<ref>[http://archive.jikeigroup.net/data_con/uploads/2013/07/2010_bio2.pdf Eau de ToiletteとShampoo用の調香・開発・商品化]
2010年度 東京バイオテクノロジー専門学校</ref>とも)、'''[[国際香粧品香料協会]]'''(IFRA)、'''イギリス薬局方'''([[:en:BP|BP]])、'''{{仮リンク|ヨーロッパ薬局方|en|European Pharmacopoeia}}'''(EP)、'''{{仮リンク|アメリカ薬局方|en|United States Pharmacopeia}}'''(USP)、'''国際精油&香料貿易協会'''(IFEAT)などの規格もある<ref name="今西" />。また、ほとんどの精油は、'''{{仮リンク|アメリカ食品香料製造者協会|en|Flavor and Extract Manufacturers Association}}'''(FEMA)から安全食品認定(GRAS)を、'''[[アメリカ食品医薬品局]]'''(FDA)から食用承認を受けている。食用認証を得ている精油、つまりほとんどすべての精油は、[[動物実験]]で毒性が確認されている<ref name="バルチン" />。

イギリスでは、精油供給業者が'''製品安全データシート'''(MSDS)を提供することが法的に義務付けられている。標準的に次の事項が表示される。
* 官能試験の要約
* 植物の名前と生息地
* クロマトグラフィー/質量分析器(GC/MS)の結果(主要ピーク)
* 比重
* 屈折率
* 旋光度
* 引火点

====日本====
薬効・効果が認められた[[ウイキョウ]]油、[[オレンジ]]油、[[桂皮]]油、[[丁子]]油、[[テレピン油]]、[[薄荷]]油、[[ユーカリ]]油が'''[[日本薬局方]]'''に収載されており、[[医薬品]]として扱われる<ref>[http://www2.odn.ne.jp/had26900/constituents/about_essential_oil.htm 植物に含まれる芳香成分精油について] 帝京大学薬学部附属薬用植物園 木下武司</ref>。これらの精油を含むものは医薬品とみなされるが、含有する濃度が低い場合、[[化粧品]]への配合が許されるときがある<ref>[https://ameblo.jp/forestwalking/entry-11821700242.html 局方の精油] 理学博士 藤田忠男</ref>。日本薬局方に収載されたもの以外で、化粧品の範疇にも入らず医薬品的効能も謳わない精油は、高濃度の芳香成分・薬効成分を含むにも関わらず雑品扱いであり、販売・輸入に規制は存在しない<ref>[http://www.yakujihou.com/2006/05/post_61.html 【医薬品・健康食品・化粧品・医療用具・健康器具編】Q6.医薬品・化粧品・健康食品・雑品の区別] 薬事法ドットコム</ref><ref>[http://www.jetro.go.jp/world/japan/qa/importproduct_03/04M-091208 貿易・投資相談Q&A アロマ商品の輸入手続き] [[日本貿易振興機構]](JETRO)</ref>

'''公益社団法人[[日本アロマ環境協会]]'''(AEAJ)が、表示基準適合精油の認定制度を設けている<ref>[http://www.aromakankyo.or.jp/aeaj/institution/oil/ AEAJ表示基準適合精油認定制度] 日本アロマ環境協会</ref>。これは同協会の法人正会員のみを対象にした認定制度で、次の3項目を認定条件とし、「精油のブランド」を認定する制度である<ref>[http://www.aromakankyo.or.jp/aeaj/institution/oil/pdf/seiyunintei_kitei.pdf 『公益社団法人日本アロマ環境協会』精油認定制度について] 日本アロマ環境協会</ref>。精油の表示に対する認定制度であり、品質に関しては認定基準に含まれず、表示が十全であるかが基準となっている。
* 精油商品に、定められた「精油製品情報」が整っていること:ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(生産地)または原産国(原産地)、内容量、発売元または輸入元
* 精油商品に、定められた「使用上の注意事項」が明記されていること
* 協会が求める「企業モラル」を遵守する旨の「確認書」を提出すること
成分組成に関する規格はなく、クロマトグラフィー/質量分析器(GC/MS)の結果の提出などは行われず、100%天然であることを保証するものではない。

===グレード===
精油製品には次の3つのグレードがある<ref name="今西" />。
* '''インダストリアルグレード''':産業用に使用され、合成香料が含まれる。
* '''100%ピュア&ナチュラルグレード''':合成香料は含まれないが、残留農薬についての保証はない。
* '''オーガニックグレード''':有機栽培された香料植物から採取され、残留農薬は含まれない。アロマテラピーで利用される。ヨーロッパでは、フランスの国際有機認定機関[[:en:ECOCERT|ECOCERT]]による認証がある。有機栽培では農薬を使わないため、生産性が減少しコストが上がる。付加価値はつくが、通常の3倍の値段で販売できたとしても、オーガニックグレード精油は実際より過剰に出回っていると考えられている<ref name="バルチン" />。オーガニックグレードは食品や化粧品業界の需要はあまりなく、需要はアロマセラピストの小さな市場に限られている。100%ピュア&ナチュラルグレードとオーガニックグレード精油の組成に違いはなく、オーガニックグレードには残留農薬が含まれてないはずだが、相当量のサンプルを提供しない限り、残留農薬の有無を判断することは難しい<ref name="バルチン" />。

医療グレード、メディカルグレード、セラピーグレードなどという通称もある。これらの呼称は、医療に用いるほど高品質な精油であると主張する際に使用されるようだが、このような基準があるわけではなく、単なる造語にすぎない<ref>[http://animalaromatherapy.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-bff6.html ペットに対するアロマセラピーの歴史 動物のアロマセラピー最新情報] 日本アニマルアロマセラピー協会</ref>。

===加工・規格化・偽和===
{{See also|アロマテラピー#精油の偽装とその危険}}
ほとんどの精油は、食品添加物や香水として利用する際にはアルコールで希釈する必要があり、アルコールに溶けやすくし、劣化や不溶沈殿物を防ぐために、脱テルペン処理が施される<ref name="バルチン" />。不快な臭いの元や毒性成分を取り除く処理も行われる。水増しや品質を良く見せるため、規格に合わせるために、合成物質の添加、ブレンディングなどの偽和も広く行われている。

精油の流通量は生産量を大きく上回っており、天然の精油に、別の安価な精油や合成物質を加え、様々な溶剤で偽和する偽装行為は広く行われている。偽和とは、1種類以上の粗悪な成分の添加などを行い、製品の基準を下げる行為と解釈されている。規格化、成分補強、液体化、成分再構成(天然精油と似た香りを化学的に再現すること)、営利化(水増し)が行われ、ラベルと違う学名の精油が販売されることもある。真正ラベンダー油の名でラバンジン油が、サンダルウッド油の名で合成香料サンタルが販売された例もある。ヨーロッパ薬局方に記載された精油で、薬局等で販売されているものを成分分析したところ、その品質は許容範囲を超えた物であったという報告もある<ref name="バルチン" />。

フランスにおける真正[[ラベンダー]]の生産量は、1967年の87トンから1998年には12トンと減少しているが、この期間でラベンダー油の世界需要は100倍に増加している<ref name="高山" />。生産量と流通量の差分は、偽和によって水増しされた精油によって賄われている。長年精油で偽和が行われてきたことで、皮膚炎や皮膚感作の発生率が上昇している。無害と考えられる精油も、人によって毒性が発現しているが、偽和に用いられた成分による免疫感作の可能性が高い。職業病としてアロマセラピストの皮膚炎も増加している<ref name="バルチン" />。

== 薬理効果・臨床研究 ==
{{See also|アロマテラピー#システマティック・レビュー|ヤングリヴィング#ドテラとの訴訟}}
精油が医療に使われるようになったのは、精油には、材料の植物が持つのと同じ生物活性(薬効)が凝縮されているのではないか、という推論による。そのためアロマセラピーでは、現在でも昔の植物療法の薬効が引用されることが多いが、この推論は間違っていることがわかっている<ref name="バルチン" />。例えばオレンジ油は外皮から抽出される脂溶性成分からなり、果皮や果肉に含まれる水溶性の[[ビタミンB]]類や[[ビタミンC]]、[[カルシウム]]、[[タンパク質]]などは含まれない。つまり、材料植物に見られる薬効のすべてが精油にあるわけではない。近年の研究で、植物の各成分には異なる薬理作用があることがわかってきた<ref name="バルチン" />。

近年の研究と比べると、過去の臨床研究には、デザインや結果に欠陥が見受けられる。科学者による信頼に足る臨床研究も徐々に増え、精油の効果に肯定的な研究結果も報告されている。

イギリス薬局方には、[[シナモン]](下痢止め、駆風薬(胃腸内のガス止め))、[[クローブ]]バッド、クローブリーフ(歯痛用局部麻酔薬、関節炎、副鼻腔炎)、[[カモミール]]・ジャーマン(抗炎症剤)、[[ペパーミント]](消化不良、気管支炎、過敏性腸症候群)などが掲載されている。また慣習的・伝統的に、抗炎症剤や消毒薬、去痰薬や駆風薬として利用されるものもある。

===安全性===
{{See also|ナノテクノロジー#人体や環境への影響|化学物質過敏症}}
精油は食品、化粧品、香水などで希釈物質と共に広く利用され、数多くの問題が起こっているが、特に感作作用(ある抗原に対し生体を[[アレルギー]]反応をおこしうる状態にする作用)が問題視されている。精油の[[マイクロカプセル]]化、パウダー化など科学技術の発達で、顧客の要望に合わせてデザインされた精油が数多く作られ、様々なものに添加されるようになった。吸収しやすい状態に加工された多様な精油に頻繁に接触することで、毒性のリスクが上昇したのである。精油の安全性は、現在全体的に見直し・再調査がされており、精油を使った製品や売買、使用の規制が強化されつつある。現在ヨーロッパでは、2002年[[指令 (EU)|欧州指令]]により、精油は使用条件と警告をラベルに記載するよう義務付けられている。[[欧州連合]](EU)では、欧州における新しい化学品規制[[REACH]](REACH規則:Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)が、2008年から運用されており、精油を含む香料も対象となっている<ref name="経済産業省">[http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/reach.html REACH(欧州化学品規制)について] 経済産業省</ref><ref>[http://blog.livedoor.jp/hennoji/archives/52336033.html アグリのお豆でコーヒーちゅう & 第56回各務ヶ原カンファレンスの報告] へんおじの闘病記</ref><ref name="その2">[https://ameblo.jp/iledesfleursparis/entry-11915101740.html ラベンダー農家の苦悩 その2] Île des fleurs Paris Tomomi</ref>。ラベンダーなどの一部の精油が、アレルギーを引き起こす可能性があるなどの理由で規制対象となっており、将来的に「内服または吸入した場合、死亡する可能性がある。」という警告ラベルが義務付けられる可能性がある<ref name="EU">[http://www.dailymail.co.uk/wires/ap/article-2746615/Lavender-farmers-rebel-against-EU-chemical-rules.html Lavender farmers rebel against EU chemical rules] Associated Press</ref>。

全ての精油は高濃度で使用すると毒性があり、特に内服は危険である。(現在内服は、フランスのごく一部の病院、または科学的研究に興味のない一部のセラピストが行なっている。)強い毒性のある精油は低濃度でも危険であるが、アロマテラピーでは使用されない。無毒とされる精油を用いても、人によっては毒性が発現するが、これは[[免疫]]感作の影響であると思われる。極めて微量の精油でも、継続的に使用することで毒性が発現する可能性がある。ある調査では、アロマセラピストの23%が手に皮膚炎を起こしていた。また、通常の療法と代替療法を併用すると逆の効果が現れるという報告が増加しており、医師とアロマセラピストが連携していない場合、深刻な問題が起こりかねない<ref name="バルチン" />。

アロマテラピーの書籍には、科学的に有効性が証明されていない、矛盾だらけの薬効が数多く記載されている。植物の学名が述べられていないものも多く、どのように作用するかの説明もない場合がほとんどである。素人目に科学的に見えても、実際には不十分極まりない情報も多く、それがエビデンスとして利用される例もある。アメリカでは1997年に精油の無根拠な効能を謳ったLafabre and Aromaが訴えられており<ref name="バルチン" />、2014年には[[ヤングリヴィング]]と[[ドテラ]]が、医薬品として認可されていない自社精油の無根拠な薬効を喧伝したとして、[[アメリカ食品医薬品局]](FDA)から警告を受けている<ref>[http://transact.seesaa.net/article/406255757.html 万能薬な効果(エボラを含む)を宣伝するエッセンシャルオイル業者Young LivingとdōTERRAにFDAが警告] Kumicit Transact</ref><ref>[http://www.fda.gov/ICECI/EnforcementActions/WarningLetters/2014/ucm416023.htm Young Living 9/22/14 WARNING LETTER] U.S. Food and Drug Administration(アメリカ食品医薬品局)</ref><ref>[http://www.inquisitr.com/1497917/fda-warning-letters-young-living-doterra-consultants-must-cease-marketing-claims-that-essential-oils-fight-disease/ FDA Warning Letters: Young Living, dōTERRA Consultants Must Cease Marketing Claims That Essential Oils Fight Disease] The Inquisitr News.</ref>。アロマテラピーの書籍には、乳幼児にカモミール油を1日3回、5~10滴内服させるような危険な療法を勧めるものすら存在するが、実際にこれが行われた場合、死亡事故が起こる可能性がある。多くの書籍があるにもかかわらず、有害作用が記載されているものは少ない。

多くのアロマセラピストは科学的研究に興味がなく、学術的研究を完全否定するセラピストも存在する<ref name="バルチン" />。アロマテラピーは[[ニューエイジ]]と関係が深いためか、むしろ独自の宇宙論や[[占星術]]、宝石、色彩、音楽療法などを重視し、[[リフレクソロジー]]や[[指圧]]、[[レイキ]](手かざし)、[[ヨガ]]などの民間資格を持ち治療に併用する場合も多い<ref name="バルチン" />。何らかの疾患治療中のクライアントを施術する際に担当医と連携をとらなかったり、科学知識の不足からアレルギー反応による炎症を「好転反応」と間違って説明するなどの問題もある。[[アメリカ食品医薬品局]](FDA)などから承認を受けていることを根拠に、精油の内服や原液塗布を推奨するセラピストも存在するが、無論これらの承認は、どんな濃度であっても内服・塗布に害がないということを意味するわけではない。また、新種や野生種からとられた精油、未知のケモタイプの精油など、安全性が確認されていないものも治療に使われる例があるが、これはクライアントを実験動物として扱うに等しく、問題となっている。

また、ペットの治療に精油が使われることがあるが、[[猫]]などの[[肉食動物]]は精油を[[代謝]]することができないため、中毒の危険が非常に高い。雑食の犬でも中毒事故の報告が見られる<ref>[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24344857 Concentrated tea tree oil toxicosis in dogs and cats: 443 cases (2002-2012). Khan SA1, McLean MK, Slater MR] [[アメリカ国立衛生研究所]]</ref>。

== 精油が採れる植物 ==
{{出典の明記|date=2014年10月|section=1}}
{{main|精油の一覧}}
精油原料となる植物は多岐にわたる。オレンジのように花、葉、果実から異なる精油が得られるような植物もある。以下に主な採油植物とその部位を示す。

* 花・蕾: [[バラ]]、[[ジャスミン]]、[[ダイダイ]](通称・[[ネロリ]])、[[カモミール]]、[[イランイラン]]
* 葉: [[ゼラニウム]](テンジクアオイ属)、[[ユーカリ]]、[[ティートリー]]
* 枝と葉: [[ダイダイ]](通称・プチグレイン)
* 果皮: [[温州ミカン]]、[[ダイダイ]]、[[オレンジ]]、[[レモン]]、[[ライム]]、[[ベルガモット]]などの柑橘類
* 果実・種子: [[コショウ]]など多くの[[香辛料|スパイス]]類、[[ジュニパー]]、[[バニラ]]
* 樹木・樹皮: [[白檀]](サンダルウッド)、[[マツ]]、[[ヒノキ]]、[[シナモン]]
* 樹脂: [[乳香]](フランキンセンス、オリバナム)、[[没薬]](ミルラ)
* 根・根茎: [[ベチバー]]、{{仮リンク|スパイクナルド|en|Spikenard}}、{{仮リンク|オリスルート|en|Orris root}}
* 全草: [[ラベンダー]]、[[レモングラス]]、[[バジル]]、[[ローズマリー]]、[[ミント]]など[[ハーブ]]全般

== 精油原料の乱獲 ==
{{main|アロマテラピー#精油原料の乱獲と自然破壊}}
香料需要の拡大や精油を使うアロマセラピーの普及で、精油の生産量が急速に拡大し、原料植物の乱獲や[[プランテーション]]による自然破壊が問題になっている。[[ローズウッド (クスノキ科)]]は乱獲により絶滅に瀕しており、[[ワシントン条約]]の[[レッドリスト]]に登録されている<ref>[http://www.trafficj.org/aboutcites/appendix_plants.pdf ワシントン条約の対象種(附属書)一覧表 (2014/6/24 現在) 経済産業省作成] トラフィックイーストアジアジャパン</ref><ref>[http://www.iucnredlist.org/details/33958/0 Aniba rosaeodora] The IUCN Red List of Threatened Species</ref><ref>[http://www.a-t-c.org.uk/atc-conservation-policy-update-2007/ Conservation Policy Update 2007] Aromatherapy Trade Council</ref>。白檀([[サンダルウッド]])、乳香([[フランキンセンス]])などの[[香木]])も乱獲の対象となっており<ref>[http://stellalab.co.jp/bg01/%E7%AC%AC%E4%B8%89%E8%A9%B1%E3%80%80%E5%A4%A9%E7%84%B6%E9%A6%99%E6%96%99%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/ 天然香料について] ステラ・ラボラトリー株式会社</ref>、樹木は植林などの対策も取られているが、これらの樹木は成長が遅いため、植生の回復にも時間がかかる<ref>[http://www.t-hasegawa.co.jp/cgi-bin/pla.pl5 香りのミニ知識 植物] 長谷川香料株式会社</ref>。またティーツリーのような人気精油では、急速な需要の拡大で野生種の伐採とプランテーションによる自然破壊が大規模に行われた<ref>[http://www.ypcyy.co.jp/contents/ae_colmun/AEAJ51_column12.pdf 精油の由来とその行方 ティートゥリーオイルの変遷と将来] 山本芳邦 山本香料株式会社</ref>。

== 香調(ノート)による分類 ==
{{main|香水#香調による分類}}
香水の世界では、香調(ノート)により香りを分類する考え方がある。香りを楽しむアロマテラピーでも、このような分類が援用されることもあるようである。考え方により4種類、7種類、8種類、12種類と分類数は多様で、分類法により含まれる香りは異なる。以下精油に関係のある香調の代表的なものを列記した。(シプレー調など複数の精油を用いる香調は省いた。)
* アーシー調<ref name="ワイルドウッド" />:土やほこりなどを思わせる香り。
** [[アンジェリカ]]{{要曖昧さ回避|date=2017年10月}}、[[パチュリ]]、[[ベチバー]]など
* アンバー調・[[オリエンタル]]調:[[西洋]]から見た[[東洋]]を思わせるエキゾチックな香りで、[[ムスク]]などの動物由来の香りもこれに分類される。
** [[イランイラン]]、[[白檀]]、[[乳香]]、[[パチュリ]]、[[ベチバー]]など
* ウッディ調:樹木のような香り。樹木の樹皮や枝、葉、実などから抽出される。
** [[サイプレス]]、[[シダーウッド]]、[[ジュニパーベリー]]、[[松]]、プチグレインなど
* カンファー調:[[樟脳]]や[[メントール]]のようなさっぱりした香り。
** [[楠]]、[[ユーカリ]]、ティーツリー、ローズマリーなど
* [[シトラス]]調:柑橘系のさわやかな甘い香り。柑橘系の果物や、それに似た香りのハーブから抽出される。
** [[オレンジ]]・スイート、[[グレープフルーツ]]、[[ベルガモット]]、[[レモン]]、[[レモングラス]]、[[レモンバーベナ]]など
* [[香辛料|スパイス]]調:香辛料のような刺激的な香り。主に香辛料から抽出。刺激が強いものが多い。
** [[カルダモン]]、[[クローブ]]、[[シナモン]]、[[ジンジャー]]、[[ブラックペッパー]]など
* [[ハーブ]]調:ハーブや薬草を思わせるスッキリした香り。ハーブの花や葉から抽出される。
** [[クラリセージ]]、[[バジル]]、[[カモミール]]、プチグレン、[[月桃]]など
* バルサム調・レジン調<ref name="ワイルドウッド">クリシー・ワイルドウッド 著 『アロマテラピーの精油でつくる自然香水』 高山林太郎 訳、フレグランスジャーナル社、1996年</ref>:甘く温かみのある香り。香木の[[樹脂]]から抽出される。
** [[エレミ]]、[[乳香]](フランキンセンス、オリバナム)、[[ベンゾイン]]、[[没薬]](ミルラ)、[[ツノマタゴケ|オークモス]]アブソリュートなど(オークモスは[[オーク]]の木に生える[[ツノマタゴケ|角叉苔]]のこと)
* フローラル調:華やかで甘い花の香り。主に花から抽出され、高価なものが多い。
** [[ジャスミン]]、[[ゼラニウム]]、[[ネロリ]]、[[ラベンダー]]、[[ローズオットー]]、[[イランイラン]]、[[カーネーション]]アブソリュートなど

== 賞香期限 ==
製品化された精油は、開封後約1年が目安となるものが多い。[[柑橘類|柑橘系]](ベルガモット、レモンなど)は約半年とされる。例外的に、サンダルウッド、乳香、パチュリー、ローズオットーの精油のように、歳を経るごとに質が良くなるものもある<ref name="ワイルドウッド" />。

== 脚注 ==
{{Reflist|2}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
精油や精油を用いた治療であるアロマテラピーの研究は日々進んでいるが、日本語の最新情報は極めて少ない。正確な情報を得るには、外国のものを含め最新の論文・専門雑誌・専門書を当たることが望ましい。過去に評価の高かった専門書も、古いものには間違った情報(更新された情報)があるため注意が必要である。
* 『お部屋でできるアロマテラピー40』 吉田隆子著 [[同文書院]]

* 『アロマテラビーハンドブック』 香りの総合学院GRASSE監修 [[池田書店]]
* 長谷川香料株式会社 著 『香料の科学』 講談社、2013年
* 『アロマテラビー検定テキスト 2005年5月改訂版 1』 社団法人 [[日本アロマ環境協会]] ISBN 4-931533-04-3
* マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年(原著はPharmaceutical Pr、2005年)
* 『生活の木・エッセンシャルオイルリスト』パンフレット 株式会社[[生活の木]]
* K. Husnu Can Baser、Gerhard Buchbauer 編集 ''Handbook of Essential Oils: Science, Technology, and Applications''、CRC Press、2010年
* 『これ一冊できちんとわかるアロマテラピー』 梅原亜也子(生活の木)著 ㈱毎日コミュニケーションズ ISBN 978-4-8399-3447-7
* ジャン=クロード・エレナ 著 『香水-香りの秘密と調香師の技』 芳野まい 訳、白水社、2010年
* 『アロマティックライフ』 [[日下部知世子]]著 ㈱グラフ社 ISBN 978-4-7662-1167-2
* ルカ・トゥリン 著 『香りの愉しみ、匂いの秘密』 山下篤子 訳、河出書房新社、2008年
* 今西二郎 著 『補完・代替医療 メディカル・アロマセラピー』 金芳堂、2006年
* 高山林太郎 著 『ルーツ of アロマテラピー』 現代書林、2002年
* [[ヒロ・ヒライ]] 著 『エリクシルから第五精髄、そしてアルカナへ: 蒸留術とルネサンス錬金術』 Kindle、2014年(初出:「アロマトピア 第53号」 2002年)
* ヒロ・ヒライ 著 『蒸留術とイスラム錬金術』 Kindle、2014年(初出「アロマトピア 第48号」 2001年)
* 荘司菊雄 著 『においのはなし―アロマテラピー・精油・健康を科学する』 技報堂出版、2001年
* クリシー・ワイルドウッド 著 『アロマテラピーの精油でつくる自然香水』 高山林太郎 訳、フレグランスジャーナル社、1996年
* フランス香水委員会 監修 『香水賛歌 魅惑の香り』 朝日新聞社、1994年
* 久保亮五 他 編集 『岩波理化学辞典第4版』 岩波書店、1987年
* 化学大辞典編集委員会 編集 『化学大辞典』 共立出版、1977年


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commonscat}}
*[[ハイドロゾル]](芳香蒸留水)
*[[香水]]
* [[精油の一覧]]
*[[天然樹脂]]
* [[芳香化合物]]
* [[蒸留]]/[[水蒸気蒸留]]/[[乾留]]/[[分留]]
* [[錬金術]]
* [[イスラーム黄金時代]]
* [[食品添加物]]/[[香料]]/[[天然樹脂]]/[[香水]]/[[ハイドロゾル]](芳香蒸留水)
* [[ナノテクノロジー]]/[[ナノテクノロジー#人体や環境への影響|ナノテクノロジーの健康への影響]]/{{仮リンク|ナノ毒性|en|Nanotoxicology}}

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2024年5月7日 (火) 15:51時点における最新版

精油(せいゆ)またはエッセンシャルオイル英語: essential oil)は、植物から産出される揮発性の[1]、それぞれ特有の芳香を持ち、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法(直接蒸留法)などによって植物から留出することができる[2]。植物は、代謝産出物、排出物、フェロモン、昆虫の忌避剤などとして精油を産出すると考えられており、葉や花弁、根などの特別なに貯蔵される[2]。一般に多数の化合物の複雑な混合物で、その芳香から主に食品産業香料として利用されている[2]

概説

[編集]

おおむね液状でより軽く、水に溶けず(疎水性)、アルコール二硫化炭素石油エーテル脂肪油などに溶ける(親油性[1]。普通の油脂のようにアシルグリセロール英語: Acylglycerol)、いわゆるグリセリド(英語:Glyceride、グリセリン脂肪酸エステルの総称)ではなく、植物の「精、精髄」(ラテン語: essentia)という意味で精油と呼ばれ[3]、油脂とは区別されている[4]

現在知られている精油は1500種類に及ぶが、香料または合成香料原料として利用されるのは約100種類ほどである[4]

大量の植物からわずかしか採れないため、バラ精油のようにかなり高額なものもある。材料によって収油率が大幅に異なり、バラの場合約5tの花から精油1kgが採取され、収油率は0.02%。柑橘類は、果実に対して収油率は0.2 - 0.5%程度である[5]。精油の値段は手間賃ではなく、主として市場の需要に左右される[6]

アロマオイルなどと混同されることもままあるが、合成香料を使用して大量生産されるそれらとは区別される。商品としての精油は100%植物由来であり、合成物質の添加、成分調整、アルコール希釈などの加工は行なわれていないと思われがちだが、必ずしもそうではなく、脱テルペン処理やブレンディングなど、何らかの処理がされているものも少なくない[2]。アロマテラピーという言葉を作った調香師ガットフォセは、香水用に脱テルペン処理などがされた精油を使用していた[2]

揮発性溶剤を用いて抽出された香気成分を含む物質を、コンクリート: Concrète、コンクレット)[6]という。このコンクリートの溶解性部分を抽出したアブソリュート: Absolue、アプソリュ)[6]や、超臨界二酸化炭素英語版で抽出したアブソリュート[6]、柑橘類から圧搾法で得られたエッセンス[6]は、揮発しない成分や水溶性タンパク質を含み、精油とは異なる物質と考えられているが、精油と呼ばれる場合もある[2]

ナノテクノロジーの進化で、精油のマイクロカプセル化の技術が確立し、様々なものに添加され活用されている。その一方、香害(香料を含む製品を過剰に使用することで、周囲に不快感や害を与えること)[7][8]が問題となっている。岐阜市では、精油などの香料がアレルギー体質や化学物質過敏症の人のアレルギー、喘息などを誘発する[9]として、自粛を呼びかけるポスターを掲示している[10][11]。多様な問題が起こっているが、特に感作作用(ある抗原に対し生体をアレルギー反応をおこしうる状態にする作用)が問題視されている[2][12][13][14]

成分

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テルペン類のうち、カルボニル基やヒドロキシ基などの官能基を持つ誘導体はテルペノイドと呼ばれ、イソプレン(左上)を基本単位として構成される。

精油を構成する成分の大部分は、アセチルCoAから生じる[2]。精油は一般に多数の化合物の複雑な混合物で、主要な成分だけで10種類を超えるものも少なくない。主な成分はテルペン類またはベンゼン類の炭化水素、アルコール、アルデヒドケトンフェノール類、各種のエステル類などである[1]。複雑な構造を持ち、相互に分離することが困難な場合も多い。そのため精油の化学的研究は、19世紀末まで大部分が取り残されていた。精油の研究からテルペン化学や合成香料が発展した[4]

精油の成分は植物の種類だけでなく、生育の程度、場所、採取された季節、天候によっても大幅に異なる。またゲノムが不安定で多様な香りがあるタイムのように、様々な化学種英語版(ケモタイプ)が認められる場合も多く、ある植物の組成が常に一定であることはありえない。概ね同じ香りの精油であっても、成分組成が異なると、生物活性(薬効)が異なる可能性がある[2]。(精油同様、生薬についても同じ問題があり、保険適用される漢方薬は、一定の薬効が得られるように、ある程度成分が調整されエキス剤に加工されている。ただし、エキス剤は加工する過程で揮発・蒸発しやすい精油などの成分が失われる場合があるため、一長一短であると言える。[15][16]

アロマテラピーでは、精油成分の化学(化合物中の原子団を区分した呼称)によるグループ分けが重視されているが、同じ化学基を持つ物質でも異なる香りを持っており、各物質の生物活性も化学基ではなく成分によって異なるため、化学基によるグループ分けは適当ではない[2]

植物における精油とその働き

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一般に精油は植物の特殊な分泌腺で合成され、腺組織に蓄えられる[2]。単純に代謝産物、排出物としても生み出されると考えられるが、植物にとって様々な有用な作用を及ぼすものもある。次のような理由で植物は精油を産出すると考えられている。

  • 香りの誘因効果(フェロモン)により昆虫受粉種子の運搬を託す。
  • 精油の芳香などの忌避効果によって害虫やカビ真菌)などの有害な菌から植物を守る。
  • 葉に粘液性のある精油を産出し食べられないように身を守る。
  • 周囲に他の植物が生育するのを抑制する。
  • 精油が汗のように蒸散することにより、自らを冷却し太陽熱からその植物を守る。

歴史

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日本に伝来した直接蒸留(水蒸気蒸留)の器具・らんびきの断面模式図

水蒸気蒸留法は、中世イスラーム世界の錬金術と化学英語版の隆盛に伴いアラビアで発達し、精油は香料や薬として利用された。それ以前の古代エジプトなどでは、精油はアンフルラージュ、圧搾法などの方法で抽出され[要出典]香油、薬油として利用された。水蒸気蒸留法の最古の記録は、アンダルス(現スペイン・アンダルシア地方)の偉大な科学者で、医師・薬剤師・植物学者・科学者であったイブン・アルバイタール(1188年 - 1248年)の『薬と栄養全書』(Kitab al-Jami fi al-Adwiya al-Mufrada)であるといわれる[17]。精油の製造法は中世ヨーロッパに伝わり、医療に広く利用され[18]、のちに香水に用いられた。

水蒸気蒸留装置アレンビック(らんびき)は、江戸時代には日本に伝来しており、精油は蘭方(西洋医学)で治療に使われた[19]。江戸幕府が東インド会社に、ガラス製蒸留装置の輸入や蒸留技術者の派遣を依頼した記録が残っており、蒸留小屋が設置され(場所はおそらく出島と推測されている)、日本人に高度な蒸留技術が伝承された[20]。精油や芳香蒸留水が蘭方(西洋医学)で盛んに用いられ、ハーブや香辛料の情報、精油の効能や利用法が翻訳されて伝えられた[21]

また、日本では明治から昭和にかけ、精油産業が盛んだった。薄荷は日本では19世紀から生産され、1902年(明治35年)頃から北海道・北見で生産が始まった[22]。1939年(昭和14年)に全盛期を迎え、世界市場の約70%を占めるほどであったが、輸入自由化、合成薄荷の登場、人件費高騰などの影響で衰退し、1983年(昭和58年)に北見の薄荷精製工場は閉鎖した[23]樟脳は、楠が豊富な日本統治下の台湾で、樟脳油が大量に生産され、セルロイド製造や防虫剤に利用された。最盛期は世界最大の生産量であったともいわれるが、化学防虫剤、セルロイド代替品の登場で衰退し、現在国内ではごく一部で生産されるのみである[24]。精油原料としてラベンダーは、1937年(昭和12年)に曽田香料株式会社の創業者・曽田政治が、フランスのアントワン・ヴィアル社から種子を入手したことから北海道で栽培され、1942年(昭和17年)にはラベンダー油が採取された。同時期に伊豆でもラベンダーやゼラニウムなどが栽培され、精油が製造された記録が残っている[20]。1972年(昭和47年)頃から合成香料技術の進歩と輸入自由化の影響を受けて衰退し、現在は主に観光資源として観賞用に栽培されている[25]

用途

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精油は特有の芳香を持つものが多く、香料として、副次的に抗菌作用を期待して、主に食品産業で、また家庭用品、殺虫剤、食肉産業、香水・化粧品などで用いられる。ナノテクノロジーの進化で、2006年にアメリカの企業Blue Californiaが精油のマイクロカプセル化に成功した。ミクロにパウダー化されることで、水溶性として扱えるようになり、洗濯洗剤、柔軟剤、衣類(繊維への固着)[26]など、様々なものに添加されるようになった[27][28][29]。精油には強い洗浄力を持つものもあり、塗料業界でも使われている[2]

また、アラビア、ヨーロッパでは伝統的に精油を用いた治療が行われ、現在ではアロマテラピーまたはアロマセラピーと呼ばれ、医療や美容に用いられている[30]

植物から採取された精油は、水分、不純物を除いてそのまま香料として用いられる。また、から抽出される樟脳油のように、さらに蒸留して数種類の精油成分に分けることもある。樟脳油からは白油・赤油・藍色油が、薄荷油からは冷却法によって薄荷脳(メントール)と薄荷油が得られる[4][31]

抽出方法

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水蒸気蒸留装置

精油は主に水蒸気を用いた蒸留法で抽出される。アブソリュート、エッセンスなどは厳密には精油ではないが、精油と呼ばれることもある。ここでは蒸留法以外の香気成分抽出法英語版についても説明する。

蒸留法

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サンダルウッドの水蒸気蒸留、エジプト
ラベンダー農場の水蒸気蒸留装置、イギリス
  • 水蒸気を利用した蒸留法

水蒸気を利用した蒸留法には、熱水蒸留法(英:hydrodistillation 水蒸留法[32]、直接蒸留法[32]、ハイドロ式蒸留法、らんびき式蒸留法、煮だし式蒸留法)、水蒸気蒸留法(英:steam distillation スチーム蒸留法[33]、常圧水蒸気蒸留)、水拡散法[32]低温真空蒸留法(英:hydrodiffusion 減圧水蒸気蒸留法[34][33]などがある。水蒸気を利用した蒸留は古代から用いられた方法で、原理や作業も単純である。精油のほとんどが水蒸気で分離できることから広く利用された[35]。熱水蒸留法では材料植物を水と混ぜて撹拌し、これを蒸留器(アランビックらんびき)に入れて沸騰させる[32]。植物を煮るため、エステルなどの化合物は分解される[36]。熱水蒸留法は、ローズオットーの抽出などに用いられる[36]。水蒸気蒸留法では、植物に下から蒸気を吹きかける[32]。精油の製造で主に利用されるのはこの方法である[36]。熱水蒸留法・水蒸気蒸留法では、精油成分を含む蒸気は蒸留器上部から伸びる水冷管で冷却し、精油と水蒸気は別の容器に集められる[35]。精油は疎水性であるため、水と分離している。(詳細は「水蒸気蒸留」を参照。)水拡散法は水蒸気蒸留法とほとんど同じやり方だが、冷却水を節約するために、上記の吹き出し口が蒸留器の上部に、凝縮器への排出口が下部にある[32]。これら蒸気を用いた方法は、100℃以上の熱がかかるので、熱により香りが変質する精油の採油方法としては適切でない。

真空低温蒸留法は近年開発された新しい方法で、植物内の浸透圧で遊離した油分を低温(70- 80℃)・低圧(0.1バール)で蒸留する[33]。低い温度で蒸留できるため、従来の方法より良質の精油を得ることができる[34]

抽出時間が短いほど香りのよい精油が得られ、長くなるほどグレードは下がる[2]

これらの方法では、蒸留後の蒸留水に水溶性の芳香物質が微量に含まれており、芳香蒸留水ハイドロゾル、フローラルウォーター)と呼ばれる。含有する精油成分は微量であり、芳香蒸留水の香りは精油とかなり異なる場合もある。バラ精油のように生産にコストがかかるものの場合、芳香蒸留水は蒸留装置に戻されたり、溶剤抽出法を使うなどして、水溶液中の精油も回収されることが多い[2]

  • 高温乾留法(英:Dry/destructive distillation)

分解蒸留法乾燥蒸留法[35]乾留とも。蒸溜装置の中に網を張って、その上に材料植物を載せ、乾燥した高温空気を下から通す方法。香りの成分が膨張して分離・蒸発し、容器上部の冷却管を通って冷却され、集められる。熱水蒸留法では精油成分に加水分解が起こるため、乾燥した状態のままで精油を抽出する方法として考案された[35]松根油の抽出などに利用される。(詳細は「乾留」を参照。)

  • 分別蒸留法(英:Fractionation distillation)

分離蒸留法部分蒸留法分留とも。抽出された香気成分を、さらに細かく分離する方法。精油からテルペンを分離すること(精油の脱テルペン化)などに用いられる。(詳細は「蒸留」を参照。)

  • 低温真空抽出法

21世紀に日本で開発された新しい抽出法で、溶剤や水を利用しない。真空ポンプでタンク内を減圧状態に保ち、マイクロ波で植物を加熱する。蒸発した植物中の有用成分を冷却凝縮器で液体に戻し、回収器で集める[37]。有効成分を低温・短時間で抽出でき、有用成分の回収率・品質が高く、オール電化で操作も簡易である[36]。ハイドロゾルの作成も可能である[37]

アンフルラージュ

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アンフルラージュは、油脂に花の芳香成分を溶解させる古くからある抽出法。

脱臭した固形の動物性脂肪(通常は精製した豚油[38])に花びらなど香料植物を置いて香気成分を溶解させたのち、エタノールで精油のみを脂肪から抽出する。香気成分を含む脂肪はポマードといい、これをデカンタにかけて分離させ、取り出してエタノールと混ぜる[35]。エタノールによって抽出された精油はエキストラクト(エキス)[要出典]、さらにそこからエタノールを蒸発させて除去したものはアブソリュートと呼ばれる。(アンフルラージュだけでなく、溶剤抽出法、超臨界流体抽出法などで最終的に得られた香料もアブソリュートと呼ぶ。)ジャスミンチューベローズ(月下香)など、摘みとった後も香りを失わない花に用いられた[35]。冷浸法では熱による変質の無い非常に高品質な精油が得られるが、コストが高く収油率が低いため、現在ではほとんど行われていない。溶媒抽出法の理論のベースになっている[2]

熟成法とも。冷浸法とほとんど同じやり方だが、成分の純度を高める作業が高温で行われる。バラオレンジの花のように、摘みとった後に香りが失われる花に利用された[35]

溶媒抽出/浸出法

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ジャスミン・アブソリュート。ある程度の色素を含むため、色がついている。

浸出法は、フランス語でマセラシオン(Macération)、英語でマセレーション(Maceration)[39]

溶剤抽出法液液抽出法(英語:Liquid‐liquid extraction)とも。分離する2種類の溶剤を用いた抽出法で、芳香成分を揮発性溶媒に溶かしだして抽出する。19世紀終わりに誕生した[6]。木や地衣類、根は粉砕して、花・葉・樹脂はそのままの形で利用する。材料を溶剤(溶媒石油エーテルヘキサンエチルアルコールなど)に浸し芳香物質を溶かし出した後、コンサントラーに入れて溶剤を気化させると、芳香物質を含むワックス状の塊コンクリートが残る。これをエチルアルコールと共に撹拌して凍らせ、濾過すると、香気成分を含むアルコールと非混和性の植物の蝋が残る。その後アルコールを気化させると、アブソリュートと呼ばれる精油に近い物質が得られる[6]。水蒸気蒸留法より多くの香気成分を抽出できる場合が多い。また、低い温度で抽出するため、水蒸気による加水分解がなく、材料植物そのものに近い香りを得ることができ[6]バラジャスミンなどの繊細な香りの花に利用される。ある程度の色素が含まれ、ワックス、溶剤が残留していることが多い。柑橘系精油の抽出法は低温圧搾法が知られるが、主な抽出法はそれではなく、柑橘製品の副産物として溶媒抽出法で生産されている[2]

  • 超臨界流体抽出法(英:Supercritical fluid extraction)

二酸化炭素抽出法[2]とも。液体の二酸化炭素には強い溶解力があるため、超臨界流体の状態にして芳香成分を溶かし出して抽出する方法で、1970年代後期に開発された。カフェインレスコーヒーを作る方法と同じものである。二酸化炭素に200気圧という高い圧力をかけ超臨界状態にし、この中に植物を入れておき芳香成分をその中に拡散・浸透させる。その後圧力を抜き流体を気化させると芳香成分だけ残る。低温で瞬間的に抽出ができ、熱による成分の変質がなく、材料植物そのものに近い香りが得られる。二酸化炭素を用いるため、精油成分に化学的な影響を与えたり、溶剤抽出法のように溶剤が残るおそれもなく、公害物質を出すこともない[6]。高い気圧をかけるため多額の設備投資が必要だが、食品業界では最もよく利用される抽出法である[2]。この方法で抽出した精油はアブソリュート(Abs.)CO2エキストラクト[要出典]と呼ばれる。

  • エタノール抽出法(英:Ethanol extraction)

アルコール抽出法とも。手軽な精油の利用法としては、植物をアルコールに浸し精油を溶かし出したものもあり、これはティンクチャーまたはチンキと呼ばれる。(例:ハーブチンキ、アヘンチンキ)精油成分が溶けている液体であり、薬用酒などがこの方法で作られる。

圧搾法

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リモネンの構造式

圧搾法(英:Expression)は、物理的に圧力を加えて絞り出す方法で、精油の形では壊れやすい柑橘類にだけ利用される[6]この方法は、水蒸気蒸留法が確立する前から利用された[要出典]。圧搾法で抽出されたものも、厳密に分類しなければ、一応「精油」に含まれる。ただし、同じ植物原料を用いても、水蒸気蒸留法と圧搾法では、抽出された精油の成分組成は全く異なる。

柑橘類は、果皮の色のついた部分にあるオレイフェール細胞に精油を含有しているので、果皮に圧力を加えて破裂させる[6]果皮を絞るスクイーズ法と果皮をおろしがねのようなもので擦るエキュエル法がある[要出典]。昔は手作業で行っていたが、現在では機械化されている。L-リモネンなどのテルペン類は熱による香りの劣化が激しいので、圧力をかける時に発生するわずかな熱による変性を防ぐため、冷却しながら圧搾処理(低温圧搾法、コールド・プレス)を行う。この抽出物には水が含まれるため、ジュースパルプも共に遠心分離器にかけて(または上澄みを取って)水と分離する。得られた抽出物はエッセンスと呼ばれる[6]。(これはオリーブオイル抽出英語版と似た方法である。)他の抽出法に比べて不純物を含むため、品質の劣化が早い。柑橘系の精油は化学的に不安定であり、通常ブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)などが酸化防止剤として添加されるため、100%天然の精油というのは考えにくい[2]。ワックスや色素などの不揮発性成分が含まれ、光毒性のあるフロクマリンを含む場合も多い。フクロクマリンが除去されたFCF精油も生産されている[2]

品質

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ガスクロマトグラフィー

分析

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ガスクロマトグラフィーで3種類の物質を分析した場合の典型的な結果例。横軸が保持時間(retention time)、縦軸が検出電圧。三角形部の面積が検出された物質の量となる。

1950年代にガスクロマトグラフィーが誕生し、複雑な揮発性の混合性の分子を分離できるようになり、1960年代には質量分析器と対にして利用され、精油の成分が識別できるようになった[6]。他には、旋光性比重屈折率などの物理的な分析、赤外分光法酸化、エステル価の測定などの科学的分析がある。ただ、ガスクロマトグラフィーや質量分析器は、どんなに感度が良くても、化学的に天然のものと同じであれば、合成香料を検出することはできない[2]。人が実際に香りを嗅ぐ官能試験も行われる[40]

規格

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世界

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精油製品は、ヨーロッパにおける信頼性の高いの規格として、フランス規格化協会Association Française de Normalisation、略称AFNOR)による規格があり、いくつかの精油については標準的化学組成を示したモノグラフを発行している[30]。電気分野を除く工業分野の国際的な標準を策定する国際標準化機構(International Organization for Standardization、略称: ISO)でも精油の国際的な規格が定められており、これはフランス規格化協会の基準を受け入れている[40]。TC54という委員会が包装、状態、保管、サンプリング、旋光度の測定、組成などを評価している。精油の組成成分類の各量が基準に合わない場合、または天然精油に存在しない成分があった場合に、基準に合わない精油と見なされる[40]。ただし、基準に合致しても100%天然であると保証されるわけではなく、100%天然であっても、組成成分が基準に合致しなければ規格外と判断される。

精油の成分は植物の種類だけでなく、生育の程度、場所、採取された季節、天候によっても大幅に異なるが、国際標準化機構(ISO)が成分組成の基準に合わせるために、収穫時期・場所の異なる精油、他の植物精油や合成成分のブレンドが行われることがあり、ISOの基準が精油の加工の一因になってしまっている[2]

他に、芳香材料研究所(RIFM、香粧品香料原料安全性研究所[41]とも)、国際香粧品香料協会(IFRA)、イギリス薬局方BP)、ヨーロッパ薬局方英語版(EP)、アメリカ薬局方英語版(USP)、国際精油&香料貿易協会(IFEAT)などの規格もある[30]。また、ほとんどの精油は、アメリカ食品香料製造者協会英語版(FEMA)から安全食品認定(GRAS)を、アメリカ食品医薬品局(FDA)から食用承認を受けている。食用認証を得ている精油、つまりほとんどすべての精油は、動物実験で毒性が確認されている[2]

イギリスでは、精油供給業者が製品安全データシート(MSDS)を提供することが法的に義務付けられている。標準的に次の事項が表示される。

  • 官能試験の要約
  • 植物の名前と生息地
  • クロマトグラフィー/質量分析器(GC/MS)の結果(主要ピーク)
  • 比重
  • 屈折率
  • 旋光度
  • 引火点

日本

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薬効・効果が認められたウイキョウ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油、テレピン油薄荷油、ユーカリ油が日本薬局方に収載されており、医薬品として扱われる[42]。これらの精油を含むものは医薬品とみなされるが、含有する濃度が低い場合、化粧品への配合が許されるときがある[43]。日本薬局方に収載されたもの以外で、化粧品の範疇にも入らず医薬品的効能も謳わない精油は、高濃度の芳香成分・薬効成分を含むにも関わらず雑品扱いであり、販売・輸入に規制は存在しない[44][45]

公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)が、表示基準適合精油の認定制度を設けている[46]。これは同協会の法人正会員のみを対象にした認定制度で、次の3項目を認定条件とし、「精油のブランド」を認定する制度である[47]。精油の表示に対する認定制度であり、品質に関しては認定基準に含まれず、表示が十全であるかが基準となっている。

  • 精油商品に、定められた「精油製品情報」が整っていること:ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(生産地)または原産国(原産地)、内容量、発売元または輸入元
  • 精油商品に、定められた「使用上の注意事項」が明記されていること
  • 協会が求める「企業モラル」を遵守する旨の「確認書」を提出すること

成分組成に関する規格はなく、クロマトグラフィー/質量分析器(GC/MS)の結果の提出などは行われず、100%天然であることを保証するものではない。

グレード

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精油製品には次の3つのグレードがある[30]

  • インダストリアルグレード:産業用に使用され、合成香料が含まれる。
  • 100%ピュア&ナチュラルグレード:合成香料は含まれないが、残留農薬についての保証はない。
  • オーガニックグレード:有機栽培された香料植物から採取され、残留農薬は含まれない。アロマテラピーで利用される。ヨーロッパでは、フランスの国際有機認定機関ECOCERTによる認証がある。有機栽培では農薬を使わないため、生産性が減少しコストが上がる。付加価値はつくが、通常の3倍の値段で販売できたとしても、オーガニックグレード精油は実際より過剰に出回っていると考えられている[2]。オーガニックグレードは食品や化粧品業界の需要はあまりなく、需要はアロマセラピストの小さな市場に限られている。100%ピュア&ナチュラルグレードとオーガニックグレード精油の組成に違いはなく、オーガニックグレードには残留農薬が含まれてないはずだが、相当量のサンプルを提供しない限り、残留農薬の有無を判断することは難しい[2]

医療グレード、メディカルグレード、セラピーグレードなどという通称もある。これらの呼称は、医療に用いるほど高品質な精油であると主張する際に使用されるようだが、このような基準があるわけではなく、単なる造語にすぎない[48]

加工・規格化・偽和

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ほとんどの精油は、食品添加物や香水として利用する際にはアルコールで希釈する必要があり、アルコールに溶けやすくし、劣化や不溶沈殿物を防ぐために、脱テルペン処理が施される[2]。不快な臭いの元や毒性成分を取り除く処理も行われる。水増しや品質を良く見せるため、規格に合わせるために、合成物質の添加、ブレンディングなどの偽和も広く行われている。

精油の流通量は生産量を大きく上回っており、天然の精油に、別の安価な精油や合成物質を加え、様々な溶剤で偽和する偽装行為は広く行われている。偽和とは、1種類以上の粗悪な成分の添加などを行い、製品の基準を下げる行為と解釈されている。規格化、成分補強、液体化、成分再構成(天然精油と似た香りを化学的に再現すること)、営利化(水増し)が行われ、ラベルと違う学名の精油が販売されることもある。真正ラベンダー油の名でラバンジン油が、サンダルウッド油の名で合成香料サンタルが販売された例もある。ヨーロッパ薬局方に記載された精油で、薬局等で販売されているものを成分分析したところ、その品質は許容範囲を超えた物であったという報告もある[2]

フランスにおける真正ラベンダーの生産量は、1967年の87トンから1998年には12トンと減少しているが、この期間でラベンダー油の世界需要は100倍に増加している[40]。生産量と流通量の差分は、偽和によって水増しされた精油によって賄われている。長年精油で偽和が行われてきたことで、皮膚炎や皮膚感作の発生率が上昇している。無害と考えられる精油も、人によって毒性が発現しているが、偽和に用いられた成分による免疫感作の可能性が高い。職業病としてアロマセラピストの皮膚炎も増加している[2]

薬理効果・臨床研究

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精油が医療に使われるようになったのは、精油には、材料の植物が持つのと同じ生物活性(薬効)が凝縮されているのではないか、という推論による。そのためアロマセラピーでは、現在でも昔の植物療法の薬効が引用されることが多いが、この推論は間違っていることがわかっている[2]。例えばオレンジ油は外皮から抽出される脂溶性成分からなり、果皮や果肉に含まれる水溶性のビタミンB類やビタミンCカルシウムタンパク質などは含まれない。つまり、材料植物に見られる薬効のすべてが精油にあるわけではない。近年の研究で、植物の各成分には異なる薬理作用があることがわかってきた[2]

近年の研究と比べると、過去の臨床研究には、デザインや結果に欠陥が見受けられる。科学者による信頼に足る臨床研究も徐々に増え、精油の効果に肯定的な研究結果も報告されている。

イギリス薬局方には、シナモン(下痢止め、駆風薬(胃腸内のガス止め))、クローブバッド、クローブリーフ(歯痛用局部麻酔薬、関節炎、副鼻腔炎)、カモミール・ジャーマン(抗炎症剤)、ペパーミント(消化不良、気管支炎、過敏性腸症候群)などが掲載されている。また慣習的・伝統的に、抗炎症剤や消毒薬、去痰薬や駆風薬として利用されるものもある。

安全性

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精油は食品、化粧品、香水などで希釈物質と共に広く利用され、数多くの問題が起こっているが、特に感作作用(ある抗原に対し生体をアレルギー反応をおこしうる状態にする作用)が問題視されている。精油のマイクロカプセル化、パウダー化など科学技術の発達で、顧客の要望に合わせてデザインされた精油が数多く作られ、様々なものに添加されるようになった。吸収しやすい状態に加工された多様な精油に頻繁に接触することで、毒性のリスクが上昇したのである。精油の安全性は、現在全体的に見直し・再調査がされており、精油を使った製品や売買、使用の規制が強化されつつある。現在ヨーロッパでは、2002年欧州指令により、精油は使用条件と警告をラベルに記載するよう義務付けられている。欧州連合(EU)では、欧州における新しい化学品規制REACH(REACH規則:Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)が、2008年から運用されており、精油を含む香料も対象となっている[49][50][51]。ラベンダーなどの一部の精油が、アレルギーを引き起こす可能性があるなどの理由で規制対象となっており、将来的に「内服または吸入した場合、死亡する可能性がある。」という警告ラベルが義務付けられる可能性がある[52]

全ての精油は高濃度で使用すると毒性があり、特に内服は危険である。(現在内服は、フランスのごく一部の病院、または科学的研究に興味のない一部のセラピストが行なっている。)強い毒性のある精油は低濃度でも危険であるが、アロマテラピーでは使用されない。無毒とされる精油を用いても、人によっては毒性が発現するが、これは免疫感作の影響であると思われる。極めて微量の精油でも、継続的に使用することで毒性が発現する可能性がある。ある調査では、アロマセラピストの23%が手に皮膚炎を起こしていた。また、通常の療法と代替療法を併用すると逆の効果が現れるという報告が増加しており、医師とアロマセラピストが連携していない場合、深刻な問題が起こりかねない[2]

アロマテラピーの書籍には、科学的に有効性が証明されていない、矛盾だらけの薬効が数多く記載されている。植物の学名が述べられていないものも多く、どのように作用するかの説明もない場合がほとんどである。素人目に科学的に見えても、実際には不十分極まりない情報も多く、それがエビデンスとして利用される例もある。アメリカでは1997年に精油の無根拠な効能を謳ったLafabre and Aromaが訴えられており[2]、2014年にはヤングリヴィングドテラが、医薬品として認可されていない自社精油の無根拠な薬効を喧伝したとして、アメリカ食品医薬品局(FDA)から警告を受けている[53][54][55]。アロマテラピーの書籍には、乳幼児にカモミール油を1日3回、5~10滴内服させるような危険な療法を勧めるものすら存在するが、実際にこれが行われた場合、死亡事故が起こる可能性がある。多くの書籍があるにもかかわらず、有害作用が記載されているものは少ない。

多くのアロマセラピストは科学的研究に興味がなく、学術的研究を完全否定するセラピストも存在する[2]。アロマテラピーはニューエイジと関係が深いためか、むしろ独自の宇宙論や占星術、宝石、色彩、音楽療法などを重視し、リフレクソロジー指圧レイキ(手かざし)、ヨガなどの民間資格を持ち治療に併用する場合も多い[2]。何らかの疾患治療中のクライアントを施術する際に担当医と連携をとらなかったり、科学知識の不足からアレルギー反応による炎症を「好転反応」と間違って説明するなどの問題もある。アメリカ食品医薬品局(FDA)などから承認を受けていることを根拠に、精油の内服や原液塗布を推奨するセラピストも存在するが、無論これらの承認は、どんな濃度であっても内服・塗布に害がないということを意味するわけではない。また、新種や野生種からとられた精油、未知のケモタイプの精油など、安全性が確認されていないものも治療に使われる例があるが、これはクライアントを実験動物として扱うに等しく、問題となっている。

また、ペットの治療に精油が使われることがあるが、などの肉食動物は精油を代謝することができないため、中毒の危険が非常に高い。雑食の犬でも中毒事故の報告が見られる[56]

精油が採れる植物

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精油原料となる植物は多岐にわたる。オレンジのように花、葉、果実から異なる精油が得られるような植物もある。以下に主な採油植物とその部位を示す。

精油原料の乱獲

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香料需要の拡大や精油を使うアロマセラピーの普及で、精油の生産量が急速に拡大し、原料植物の乱獲やプランテーションによる自然破壊が問題になっている。ローズウッド (クスノキ科)は乱獲により絶滅に瀕しており、ワシントン条約レッドリストに登録されている[57][58][59]。白檀(サンダルウッド)、乳香(フランキンセンス)などの香木)も乱獲の対象となっており[60]、樹木は植林などの対策も取られているが、これらの樹木は成長が遅いため、植生の回復にも時間がかかる[61]。またティーツリーのような人気精油では、急速な需要の拡大で野生種の伐採とプランテーションによる自然破壊が大規模に行われた[62]

香調(ノート)による分類

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香水の世界では、香調(ノート)により香りを分類する考え方がある。香りを楽しむアロマテラピーでも、このような分類が援用されることもあるようである。考え方により4種類、7種類、8種類、12種類と分類数は多様で、分類法により含まれる香りは異なる。以下精油に関係のある香調の代表的なものを列記した。(シプレー調など複数の精油を用いる香調は省いた。)

賞香期限

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製品化された精油は、開封後約1年が目安となるものが多い。柑橘系(ベルガモット、レモンなど)は約半年とされる。例外的に、サンダルウッド、乳香、パチュリー、ローズオットーの精油のように、歳を経るごとに質が良くなるものもある[38]

脚注

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  1. ^ a b c 久保亮五 他 編集 『岩波理化学辞典第4版』 岩波書店、1987年
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年
  3. ^ 現在では「精油」という名称に化学的な意味はない。
  4. ^ a b c d 化学大辞典編集委員会 編集 『化学大辞典』 共立出版、1977年
  5. ^ 長谷川香料株式会社 著 『香料の科学』 講談社、2013年
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m ジャン=クロード・エレナ 『香水-香りの秘密と調香師の技』 芳野まい 訳、白水社、2010年
  7. ^ 香り付きの柔軟剤 過度な使用に注意 NHKニュース おはよう日本
  8. ^ 「香りブーム」に潜む危機!? ~香料の有毒性と「香害」について~ かずのすけの化粧品評論と美容化学についてのぼやき
  9. ^ 接触皮膚炎診療ガイドライン 日皮会誌:119(9), 1757―1793, 2009(平21)
  10. ^ 岐阜市の香料自粛のポスター
  11. ^ 「香料自粛のお願い」~近くの公共施設、病院にお願いをしてみませんか。
  12. ^ 感作物質 sensitizer 日本化粧品技術者会
  13. ^ 香料の健康 渡部和男
  14. ^ 芳香・消臭・脱臭・防臭剤 安全確保マニュアル作成の手引き 厚生省生活衛生局企画課 生活化学安全対策室
  15. ^ 品質ポリシーと製造管理 クラシエ
  16. ^ 漢方エキス製剤 温心堂薬局
  17. ^ Houtsma, M.Th. (1993). E. J. Brill's First Encyclopaedia of Islam, 1913–1936. 4. Brill. pp. 1011–. ISBN 9004097902 
  18. ^ ヒロ・ヒライ 著 『エリクシルから第五精髄、そしてアルカナへ: 蒸留術とルネサンス錬金術』 Kindle、2014年(初出:「アロマトピア 第53号」 2002年)
  19. ^ らんびき -陶製の蒸留器- 内藤記念くすり博物館
  20. ^ a b 吉武利文 著 『香料植物 ものと人間の文化史 159』 法政大学出版局、2012年
  21. ^ トヨタコレクション企画展 江戸の医術のことはじめ ~ 漢方と蘭方の出会い ~
  22. ^ 北見ハッカ記念館
  23. ^ ハッカの歴史 世界一のハッカ工場 北見ハッカ通商
  24. ^ クスノキの周辺 郷愁の樟脳の現在 そしてクスノキのよろず情報 木のメモ帳 廣野郁夫
  25. ^ ラベンダーキャンパス化計画 東海大学
  26. ^ 「アロマスーツ」新発売 株式会社アオキ
  27. ^ マイクロカプセル化した精油の応用 ekouhou.net
  28. ^ Micro Encapsulation of EOs (精油のマイクロカプセル化;パウダー化) 動物のアロマセラピー
  29. ^ Micro-Encapsulation of Essential Oils Introduced by Blue California November 7, 2006
  30. ^ a b c d 今西二郎 著 『補完・代替医療 メディカル・アロマセラピー』 金芳堂、2006年
  31. ^ 鈴木商店の商品シリーズ③「薄荷の話」 鈴木商店記念館
  32. ^ a b c d e f スーザン・カティ 著 『ハイドロゾル―次世代のアロマセラピー』 川口健夫、川口香世子 翻訳、フレグランスジャーナル社、2002年
  33. ^ a b c 井上重治 著 『サイエンスの目で見る―ハーブウォーターの世界』フレグランスジャーナル社、2009年
  34. ^ a b アロマ減圧水蒸気蒸留装置 本村製作所
  35. ^ a b c d e f g フランス香水委員会監修 『香水賛歌 魅惑の香り』 朝日新聞社、1994年
  36. ^ a b c d 塩田清二 著『<香り>はなぜ脳に効くのか―アロマセラピーと先端医療 NHK出版新書』 NHK出版、2012年
  37. ^ a b 減圧蒸留型抽出装置 兼松エンジニアリング株式会社
  38. ^ a b c d クリシー・ワイルドウッド 著 『アロマテラピーの精油でつくる自然香水』 高山林太郎 訳、フレグランスジャーナル社、1996年
  39. ^ アルコールや油、溶剤などの液体に固体を浸し成分を抽出することを指す。そのためハーブのアルコール抽出や温浸法もマセラシオン、マセレーションと呼ばれることがある。
  40. ^ a b c d 高山林太郎 著 『ルーツ of アロマテラピー』 現代書林、2002年
  41. ^ Eau de ToiletteとShampoo用の調香・開発・商品化 2010年度 東京バイオテクノロジー専門学校
  42. ^ 植物に含まれる芳香成分精油について 帝京大学薬学部附属薬用植物園 木下武司
  43. ^ 局方の精油 理学博士 藤田忠男
  44. ^ 【医薬品・健康食品・化粧品・医療用具・健康器具編】Q6.医薬品・化粧品・健康食品・雑品の区別 薬事法ドットコム
  45. ^ 貿易・投資相談Q&A アロマ商品の輸入手続き 日本貿易振興機構(JETRO)
  46. ^ AEAJ表示基準適合精油認定制度 日本アロマ環境協会
  47. ^ 『公益社団法人日本アロマ環境協会』精油認定制度について 日本アロマ環境協会
  48. ^ ペットに対するアロマセラピーの歴史 動物のアロマセラピー最新情報 日本アニマルアロマセラピー協会
  49. ^ REACH(欧州化学品規制)について 経済産業省
  50. ^ アグリのお豆でコーヒーちゅう & 第56回各務ヶ原カンファレンスの報告 へんおじの闘病記
  51. ^ ラベンダー農家の苦悩 その2 Île des fleurs Paris Tomomi
  52. ^ Lavender farmers rebel against EU chemical rules Associated Press
  53. ^ 万能薬な効果(エボラを含む)を宣伝するエッセンシャルオイル業者Young LivingとdōTERRAにFDAが警告 Kumicit Transact
  54. ^ Young Living 9/22/14 WARNING LETTER U.S. Food and Drug Administration(アメリカ食品医薬品局)
  55. ^ FDA Warning Letters: Young Living, dōTERRA Consultants Must Cease Marketing Claims That Essential Oils Fight Disease The Inquisitr News.
  56. ^ Concentrated tea tree oil toxicosis in dogs and cats: 443 cases (2002-2012). Khan SA1, McLean MK, Slater MR アメリカ国立衛生研究所
  57. ^ ワシントン条約の対象種(附属書)一覧表 (2014/6/24 現在) 経済産業省作成 トラフィックイーストアジアジャパン
  58. ^ Aniba rosaeodora The IUCN Red List of Threatened Species
  59. ^ Conservation Policy Update 2007 Aromatherapy Trade Council
  60. ^ 天然香料について ステラ・ラボラトリー株式会社
  61. ^ 香りのミニ知識 植物 長谷川香料株式会社
  62. ^ 精油の由来とその行方 ティートゥリーオイルの変遷と将来 山本芳邦 山本香料株式会社

参考文献

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精油や精油を用いた治療であるアロマテラピーの研究は日々進んでいるが、日本語の最新情報は極めて少ない。正確な情報を得るには、外国のものを含め最新の論文・専門雑誌・専門書を当たることが望ましい。過去に評価の高かった専門書も、古いものには間違った情報(更新された情報)があるため注意が必要である。

  • 長谷川香料株式会社 著 『香料の科学』 講談社、2013年
  • マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年(原著はPharmaceutical Pr、2005年)
  • K. Husnu Can Baser、Gerhard Buchbauer 編集 Handbook of Essential Oils: Science, Technology, and Applications、CRC Press、2010年
  • ジャン=クロード・エレナ 著 『香水-香りの秘密と調香師の技』 芳野まい 訳、白水社、2010年
  • ルカ・トゥリン 著 『香りの愉しみ、匂いの秘密』 山下篤子 訳、河出書房新社、2008年
  • 今西二郎 著 『補完・代替医療 メディカル・アロマセラピー』 金芳堂、2006年
  • 高山林太郎 著 『ルーツ of アロマテラピー』 現代書林、2002年
  • ヒロ・ヒライ 著 『エリクシルから第五精髄、そしてアルカナへ: 蒸留術とルネサンス錬金術』 Kindle、2014年(初出:「アロマトピア 第53号」 2002年)
  • ヒロ・ヒライ 著 『蒸留術とイスラム錬金術』 Kindle、2014年(初出「アロマトピア 第48号」 2001年)
  • 荘司菊雄 著 『においのはなし―アロマテラピー・精油・健康を科学する』 技報堂出版、2001年
  • クリシー・ワイルドウッド 著 『アロマテラピーの精油でつくる自然香水』 高山林太郎 訳、フレグランスジャーナル社、1996年
  • フランス香水委員会 監修 『香水賛歌 魅惑の香り』 朝日新聞社、1994年
  • 久保亮五 他 編集 『岩波理化学辞典第4版』 岩波書店、1987年
  • 化学大辞典編集委員会 編集 『化学大辞典』 共立出版、1977年

関連項目

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