「紅皮症」の版間の差分
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'''紅皮症'''(こうひしょう。英名''Erythroderma'') |
'''紅皮症'''(こうひしょう。英名 ''Erythroderma'' )は先行する[[皮膚疾患]]や内臓疾患などに続発し、全身の皮膚が真っ赤に潮紅して皮膚が剥がれ落ちる(落屑)状態を呈する皮膚反応であり、単一の疾患ではなく症候名である。'''剥脱性皮膚炎'''とも呼ぶ。 |
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== 概説 == |
== 概説 == |
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紅皮症は、当初原因の分からない'''原発性紅皮症'''と各種疾患に起因する'''続発性紅皮症'''に大別されたが、多くの議論を経て様々な疾患に続発する皮膚反応であるという概念が定着した。 |
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=== 概念の変遷 === |
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紅皮症についての詳細な報告は[[1862年]]、[[ウィーン大学]][[皮膚科学]]教授であったHebra(へブラ)<ref name="kagaku0">皮膚科学 p.2</ref>が「終始皮膚の潮紅と落屑のみを呈し、他に[[丘疹]]、[[小水疱]]などの皮疹を見ず、慢性に経過し、[[予後不良]]の疾患」としてへブラ紅色粃糠疹を報告したのが端緒となる<ref name="kawada1">川田陽弘『紅皮症の研究』p.967</ref>。続いて[[1867年]]にWilson(ウィルソン)が亜急性汎発性剥脱性皮膚炎の症例報告を発表した。さらに[[1876年]]Féréol(フェレオール)続いてBesnier(ベニエ)が[[急性]]紅皮症として再発性落屑性猩紅熱様紅斑の症例を報告<ref name="kawada1"/>、[[1878年]]にはRitter(リッター)が[[新生児]]に発症する致死的な紅皮症として[[ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群|新生児剥脱性皮膚炎]]<ref>皮膚科学第9版 p.790</ref>を、[[1892年]]にはSavil(サヴィル)が[[イギリス]]・[[ロンドン]]の複数の[[養老院]]において集団発生した流行性剥脱性皮膚炎<ref name="hifu0">臨床皮膚科全書第3巻 pp.6-7</ref>を、[[1907年]]にはLeiner(ライネルまたはライナー)が乳幼児に特有の紅皮症としてライネル落屑性紅皮症の症例をそれぞれ報告する<ref>皮膚科学第7版 p.271</ref>など、多くの研究者によって紅皮症についての症例が集積されていった。 |
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こうした紅皮症の症例報告を検討し系統的な分類を試みたのはBrocq(ブロック)である。Brocq は[[1902年]]に先天性魚鱗癬様紅皮症を最初に報告したことで知られているが<ref>皮膚科学第9版 p.324</ref>、過去の症例報告を収集、分析し自身の考察を加えて[[1882年]]と[[1909年]]の二度にわたり紅皮症を再編・分類した。ここにおいて原発性紅皮症と続発性紅皮症の概念が登場する。原発性については再発性落屑性猩紅熱様紅斑、亜急性汎発性剥脱性皮膚炎、およびへブラ紅色粃糠疹を各々急性・亜急性・慢性型原発性紅皮症に分類し、亜急性汎発性剥脱性皮膚炎より慢性型(慢性汎発性剥脱性皮膚炎)を分離、へブラ紅色粃糠疹については古典型から良性の亜急性型と慢性型を分離・独立し、さらに乳幼児剥脱性皮膚炎という概念を加えた。そして[[湿疹]]、[[脂漏性皮膚炎]]、[[乾癬]]、[[扁平苔癬]]、毛孔性紅色粃糠疹、[[天疱瘡]]などの皮膚疾患が汎発化して生じた紅皮症を続発性紅皮症として定義、分類した<ref name="kawada1"/><ref name="hifu1">臨床皮膚科全書第3巻 pp.1-2</ref>。[[日本]]ではHebraの孫弟子であり[[東京帝国大学]]医科大学皮膚病学黴毒学講座教授として[[日本皮膚科学会]]の設立に尽力した[[土肥慶蔵]]<ref name="kagaku0"/>がBrocqの分類を紹介した<ref name="hifu1"/>。 |
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{| class="wikitable" style="text-align:left; font-size:small;" |
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|+Brocqによる紅皮症の分類(1882年、1909年)<ref name="kawada1"/><ref name="hifu1"/> |
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!分類 |
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!疾患 |
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| rowspan="7"|原発性紅皮症 |
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| align=left|再発性落屑性猩紅熱様紅斑/良性急性剥脱性皮膚炎(Féréol、Besnier) |
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| align=left|亜急性汎発性剥脱性皮膚炎(Wilson) |
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| align=left|慢性汎発性剥脱性皮膚炎 |
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| align=left|へブラ慢性紅色粃糠疹(Hebra) |
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| align=left|良性亜急性紅色粃糠疹 |
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| align=left|良性慢性紅色粃糠疹 |
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| align=left|乳幼児剥脱性皮膚炎 |
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| rowspan="1"|続発性紅皮症 |
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| align=left|続発性紅皮症 |
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|} |
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Brocqの分類はその後長らく紅皮症の概念として定着するが、分類についてはJadassohn(ヤダーソン)が[[1891年]]と[[1892年]]の論文において、慢性汎発性剥脱性皮膚炎は単なる汎発性の湿疹であると反論<ref name="kawada2">川田陽弘『紅皮症の分類』p.967,p.988</ref>、その後各種専門書では慢性汎発性剥脱性皮膚炎やへブラ紅色粃糠疹の良性亜急性・慢性型については使用されなくなり、乳幼児剥脱性皮膚炎もRitterの新生児剥脱性皮膚炎と同一であり、かつ[[細菌]][[感染症]]が原因であることが判明して除かれ、次節で述べる3疾患名が使われるようになった<ref name="hifu1"/><ref>皮膚科学(樋口) p.282, pp.286-288</ref>。 |
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紅皮症の分類が一応確定した後、続いて病因論に関する様々な見解が発表された。急性型(再発性落屑性猩紅熱様紅斑)についてはすでにBesnierが特定の素因を持つ患者に何らかの刺激が加わることにより発症すると推測していたが、[[水銀]]、[[砒素]]、[[金]]といった[[重金属]]や[[薬剤]]、さらには[[結節性多発動脈炎|結節性動脈周囲炎]]に本症が続発したという報告が多数の研究者から報告され、感染症またはそれに起因する[[アレルギー]]および重金属や薬剤性の[[中毒]]による紅皮症ではないかという見解が強くなった<ref>川田陽弘『紅皮症の分類』 pp.986-987</ref>。亜急性型(ウィルソン・ブロック紅皮症)ではBrocqが神経皮膚症、Kyrle(キルレ)が[[内分泌]]障害由来であると主張した<ref name="kawada3">川田陽弘『紅皮症の研究』 p.987</ref>。慢性型のへブラ紅色粃糠疹についてはJadassohnが[[結核]]との関連性を強調し、結核性紅皮症であるとしたが<ref name="kawada1"/>土肥は老人性内分泌障害に起因する[[自家中毒]]が原因であると[[1930年]]に発表している<ref name="kawada1"/><ref name="kawada3"/>。またMontgomery(モンゴメリー)はへブラ紅色粃糠疹の症例には[[白血病]]や[[悪性リンパ腫]]、特に菌状息肉症に伴う症例が多く存在すると[[1933年]]の論文において指摘<ref name="kawada1"/>、Sézary(セザリー)による[[1938年]]の[[セザリー症候群]]の報告<ref>皮膚科学第9版 p.667</ref>をはじめ、多くの研究者が血液[[悪性腫瘍]]と紅皮症の関連性を報告してJadassohnが主張したへブラ紅色粃糠疹=結核という図式に対して反論した<ref name="kawada1"/><ref name="kawada3"/>。こうしてBrocqによる紅皮症の分類発表以降[[第二次世界大戦]]までの間、紅皮症については各原発性紅皮症の病因に対する様々な議論が繰り広げられた。 |
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ところが第二次世界大戦後、紅皮症の概念を巡る研究や議論は一変する。すなわち[[1950年代]]以降紅皮症を原発性と続発性の2つに分類する従来のBrocqによる分類自体に対して異論が続々提出されるようになった。[[1956年]]、小嶋理一は亜急性型と慢性型では前駆病変として限局性の湿疹様変化が所見として多く認められることを指摘<ref>臨床皮膚科全書第3巻 p.7</ref>、亜急性型と慢性型を臨床的に区別するのは不可能であると主張した<ref>臨床皮膚科全書第3巻 p.9</ref>。2年後の[[1958年]]にはHerzberg(ヘルツバーグ)が紅皮症に関する論文を発表。この中で'''紅皮症は多様な原因によって起こる皮膚反応'''であり、原発性と続発性に分類するのは無意味とした。その上で紅皮症の分類を再編して原発性の3疾患を独立させ、これに小水疱浮腫性紅皮症・老人性紅皮症という概念を新設、さらに新生児の紅皮症としてライネル落屑性紅皮症と新生児剥脱性皮膚炎に加え、Hill(ヒル)によって報告された[[アトピー性皮膚炎|アトピー性紅皮症]]とBrocqが報告した先天性魚鱗癬様紅皮症の4つを分類した<ref name="hifu1"/>。 |
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{| class="wikitable" style="text-align:left; font-size:small;" |
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|+Herzbergによる紅皮症の分類(1958年)<ref name="hifu1"/> |
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!分類 |
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!疾患 |
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| colspan="2"|へブラ - ヤダーソン紅色粃糠疹型紅皮症 |
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| colspan="2"|老人性紅皮症 |
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| colspan="2"|ウィルソン - ブロック剥脱性皮膚炎型紅皮症 |
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| colspan="2"|フェレオール - ベニエ再発性猩紅熱様紅斑型紅皮症 |
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| colspan="2"|小水疱浮腫性紅皮症 |
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| rowspan="4"|新生児の紅皮症 |
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| align=left|ライネル落屑性紅皮症 |
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| align=left|リッター新生児剥脱性皮膚炎 |
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| align=left|アトピー性紅皮症 |
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| align=left|先天性魚鱗癬様紅皮症 |
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|} |
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Herzbergの主張は多くの賛同を得、Abraham(アブラハム)は[[1963年]]の論文において原発性の3疾患の病名を廃止すべきであると主張するに至った<ref name="hifu1"/>。[[1965年]]に入ると栗原善夫は紅皮症発症準備性という概念を発表し、その中で湿疹や炎症性角化症、感染症、悪性腫瘍などが長期間慢性に経過するに連れて[[プラスミン]]や[[アンチプラスミン]]などの[[線溶系]]因子に変化が生じ、そこに何らかの「引き金」が加わることで線溶系が亢進し、全身の皮膚に急速な炎症反応が生じて紅皮症を発症させるという仮説を提示した<ref name="hifu2">臨床皮膚科全書第3巻 pp.7-9</ref>。しかしながら紅皮症が発症する明確なメカニズムは未だ解明されていない<ref>皮膚科学 p.364</ref>。 |
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何れにしても紅皮症はHerzbergの見解が趨勢となり、現在に至る。なお、[[1955年]]には霜田俊丸により術後紅皮症の第1例が報告され<ref>臨床皮膚科全書第3巻 p.6</ref>、[[1979年]]には太藤重夫により丘疹 - 紅皮症という新しい疾患概念が報告されている<ref>皮膚科学第9版 p.197</ref>。 |
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=== 原発性紅皮症 === |
=== 原発性紅皮症 === |
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Brocqが分類した原発性紅皮症7疾患のうち、以下の3疾患が多く使用されていた。しかし先述の通り紅皮症が各種疾患に伴う皮膚反応であるというHerzbergの見解が絶対的趨勢になるに従い、これらの疾患名は原発性紅皮症という分類と共に廃語同然となった。皮膚科関連の文献や専門書においても、これらの疾患名が掲載されることはない。ただし日本においてはへブラ紅色粃糠疹のみ、全身性[[副腎皮質ステロイド|副腎皮質ステロイド剤]]の適応疾患として名称が残っており、[[健康保険]]が適用される<ref>塩野義製薬株式会社 プレドニン錠添付文書</ref>。 |
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[[1970年代]]頃まで、紅皮症のうち原因が不明なものについては'''原発性紅皮症'''と分類され、発症の経過によって三種類の疾患名が付けられていた。現在においてはこのような分類は行われず、皮膚科学の疾病名としても使用されない。 |
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*'''急性原発性紅皮症''' |
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:急性良性剥脱性皮膚炎または再発性落屑性猩紅熱様紅皮症とも呼ばれ、小児に好発する。発熱、頭痛、消化器症状などを前駆症状として[[腋窩]]や[[四肢]]より全身に[[猩紅熱]]に似た[[紅斑]]が拡大。部位によって様々な大きさのの落屑を生じる。痒みが激しく、[[粘膜]]にも発疹を生じるが1ヶ月程度で回復し予後は良好であるが再発しやすい。高齢者には発症しないのも特徴とされる。現在は'''薬剤性'''、'''感染性'''皮膚疾患に続発する紅皮症と考えられている。 |
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*'''ウィルソン・ブロック紅皮症''' |
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:亜急性剥脱性皮膚炎とも呼ばれ、中年男性に好発する。発熱、不眠、[[食欲不振]]などを前駆症状として[[関節]]窩より全身に紅斑が拡大する。落屑は大きく、初発部位である関節窩には[[湿潤]]や[[痂皮]]を伴うことがある。耐え難い痒みを伴う。進行すると頭部や四肢末端にも病変が及び[[脱毛]]や爪の変形・脱落を来たす。粘膜疹や[[リンパ節]]の腫脹も起こり患者は[[衰弱]]するが生命の予後は良好。3ヶ月から8ヶ月程度で症状は回復する。現在は'''湿疹続発性紅皮症'''(後述)の'''軽症例・中等症例'''がこれに属すると考えられている。 |
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*'''ヘブラ紅色粃糠疹''' |
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:慢性剥脱性皮膚炎とも呼ばれ、[[高齢者]]・男性に好発する。前記二疾患に比べると前駆症状には乏しく、ウィルソン・ブロック紅皮症と同様に関節窩、または顔面など露出部より全身に紅斑が拡大する。紅斑は赤色から暗赤色へと変化し末期にはどす黒くなり、皮膚[[萎縮]]や亀裂を伴う。リンパ節の腫脹は高度であり、特に[[鼠径]]リンパ節腫脹が見られる。痒みは高度であり随伴症状として[[眼瞼]]外反や[[口唇]]外反といった粘膜症状も来たす。紅皮症の中では'''最も悪性'''であり、経過は数年に及び末期には全身衰弱が顕著となり、二次感染や[[脱水]]によって生命予後は極めて不良である。現在では'''湿疹続発性紅皮症の重症型'''がこれに属すると考えられるが、他の紅皮症とは特異な経過を見せ予後も不良であることから、独立疾患と主張する学者もいるが少数派である。また[[悪性リンパ腫]]続発性紅皮症との関連も指摘される。なお、全身性[[副腎皮質ステロイド]]剤の[[健康保険]]適応疾患として、この病名は残っている。 |
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==== 再発性落屑性猩紅熱様紅斑 ==== |
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== 症状 == |
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同義語として急性原発性紅皮症がある<ref>皮膚科学第7版 p.271</ref>。[[発熱]]、[[悪寒]]、全身倦怠感などの前駆症状に[[頭痛]]、[[嘔吐]]などを伴い、前駆症状出現後の2,3日後より[[紅斑]]を生じる。最初限局性の紅斑は早くて数時間、遅くとも2,3日には全身に汎発し、[[猩紅熱]]に類似した鮮紅色の紅斑が全身へと拡大する。全身に拡大した紅斑は3,4日すると著明に落屑し、概ね2週から3週の経過で軽快する。搔痒や灼熱感、粘膜病変は軽微であり、[[脱毛]]や[[爪]]の変化は稀であるものの再発を繰り返すことが最大の特徴である。猩紅熱との違いはイチゴ舌や口囲蒼白がないことである。合併症として[[肺炎]]や[[気管支炎]]、皮下出血、[[血尿]]・[[蛋白尿]]などを伴うこともあるが予後はウィルソン・ブロック紅皮症やへブラ紅色粃糠疹に比べ良好で、通常生命への危険はない<ref>臨床皮膚科全書第3巻 p.4</ref>。 |
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しばしば急激にあらわれる[[紅斑]]の拡大が初発症状である。おおよそ12時間から48時間までの間に全身に拡大、90[[パーセント]]以上の皮膚が熱感を伴うびまん性の鮮紅色の発赤に覆われる。腹部などのしわになる部分は発赤を欠き、正常な皮膚色となる。その後数日して多量の鱗屑を生じ、[[落屑]]する。かゆみを伴う。浮腫や掻痒の強い紅皮症が前記のウィルソン・ブロック紅皮症と呼ばれていたものに相当する。 |
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==== ウィルソン・ブロック紅皮症 ==== |
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同時に全身症状として[[発熱]](発汗異常や皮膚血流量増加などが関係する)、[[悪寒]]、全身[[倦怠感]]を伴い、これが持続すると爪の変形や[[脱毛]]を生じる。さらに表在性に[[リンパ節]](特に鼠径リンパ節)が痛み無く腫脹する。このほか体温調節障害や[[脱水]]、[[感染症]]の誘発、全身衰弱をひき起こし、最悪のケースでは死亡する。[[色素沈着]]・皮膚萎縮を主体とし、鼠径リンパ節腫脹を伴い全身衰弱や脱水を起こして予後不良となる紅皮症が前記のヘブラ紅色粃糠疹に相当する。 |
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Wilsonの亜急性汎発性剥脱性皮膚炎がこれに当たり、紅皮症の分類を初めて行ったBrocqの名前を追加してこの病名となった。中年以降の男性に多く発症する。再発性落屑性猩紅熱様紅斑と同様に発熱や全身倦怠感、嘔吐などの前駆症状を生じた後、[[関節]]屈面を初発として鮮紅色の紅斑が概ね1,2カ月の経過で次第に全身へと拡大する。ただし手、足、頭部には病変が及ばないこともある。全身に紅斑が拡大して1,2週後より大葉状の落屑が多量に生じてくる。自覚症状としては著明な搔痒があり、余りの激しさに夜間[[不眠]]を生じることも稀ではない。また脱毛や爪の変形・脱落、さらには無痛性の[[リンパ節]]腫脹、[[下痢]]、蛋白尿を併発する。全経過は3カ月から8カ月におよび、末期には[[昏睡]]に陥り死亡することもある。死亡率は10[[パーセント]]程度とされる<ref>臨床皮膚科全書第3巻 pp.3-4</ref><ref>皮膚科学(樋口) pp.286-287</ref>。 |
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==== へブラ紅色粃糠疹 ==== |
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慢性型の原発性紅皮症として分類された。40歳以降、特に高齢者に多く発症する。前二者と異なり発熱や全身倦怠感などの前駆症状は伴わず、関節屈面や[[陰部]]、[[四肢]]末端を初発とする紅斑が次第に体幹に向かって数か月から年単位という緩慢な経過で拡大する。落屑は比較的早い段階から見られ、紅斑は色調が鮮紅色から次第に色素沈着を帯びて暗赤色となり、末期にはどす黒く変化する。さらに皮膚萎縮が加わり皮膚は光沢を呈し、汚らしい外観となる。随伴症状としては特有の不快な悪寒、[[汗]]の分泌低下、鼠径部リンパ節の無痛性腫脹、頭部を始め[[腋毛]]、[[陰毛]]の脱毛や爪の変形が見られ、顔面皮膚萎縮に伴う[[眼瞼]]外反、開口障害、表情運動制限や足底部皮膚萎縮に伴う歩行障害を呈することもある。搔痒はウィルソン・ブロック紅皮症と同様に高度で、やはり激しい痒みに伴う不眠を誘発するほか搔破により二次感染を来たし、[[伝染性膿痂疹]]や[[癤]]、皮下膿瘍を合併し易い。末期には肝障害や腎障害を合併して次第に衰弱し、死に至ることもある。死亡率はやはりウィルソン・ブロック紅皮症と同様に10パーセント程度である<ref>臨床皮膚科全書第3巻 pp.2-3</ref><ref>皮膚科学(樋口) pp.287-288</ref>。 |
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紅皮症の原因として最も多いのが'''[[湿疹]]・[[皮膚炎]]群'''であり、全体の大半を占める。このほか[乾癬]や[[魚鱗癬]]などの[[角化症]]、[[薬疹]]、[[悪性腫瘍]]などが原因となりやすい。何れも不適当な外用療法や[[温泉]]療法、薬剤[[アレルギー]]などにより[[免疫]]異常などを誘発し、発症する。 |
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ウィルソン・ブロック紅皮症とへブラ紅色粃糠疹については小嶋やHerzbergなど原発性紅皮症の存在に対し疑義を呈した研究者から両者の異同が疑問視されており、栗原はへブラ紅色粃糠疹の報告例の多くは経過観察からウィルソン・ブロック紅皮症に属すると指摘した。そして小嶋は両疾患には前駆病変として湿疹性変化があることを見出し、その後両疾患は湿疹続発性紅皮症(後述)に包括されるという見解が支配的となった。ただし一部の学者からはへブラ紅色粃糠疹についてその特異な症状・経過から独立疾患にすべきとする意見もある<ref name="hifu2"/><ref>皮膚科学第7版 p.270</ref>。 |
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=== その他の疾患概念 === |
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原発性紅皮症に包括されていた上記3疾患以外にも下記の2疾患が紅皮症の一種として一時期には専門書に掲載されていたが、原発性紅皮症と同様に廃語に等しくなっている。 |
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==== 小水疱浮腫性紅皮症 ==== |
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急性紅皮症の1型としてHerzbergが提唱した疾患概念である。原発性紅皮症3疾患と異なり前腕部、項、四肢に限局性の紅斑を生じた後に小水疱や[[膿疱]]を生じ、急速に全身へ[[浮腫]]状の紅斑となって拡大する。その後の経過は多様であり、全身に小水疱が多発して落屑を来たし、関節屈面には湿潤や膿痂疹様の変化を生じるほか[[舌]]の発赤や口角の亀裂、眼瞼外反などを来たすケースもあれば浮腫状の紅斑が持続した後に落屑を来たし、特に手足では手袋状の大きな落屑を来たすケースもある。全身症状としては高熱と悪寒、著明な搔痒、無痛性のリンパ節腫脹、[[乏尿]]、[[貧血]]、[[低蛋白血症]]などが生じる。[[抗生物質]]([[ペニシリン]]、[[ストレプトマイシン]])や[[梅毒]]の治療薬として使用されていた[[サルバルサン]]による[[砒素中毒|急性砒素中毒]]が原因として挙げられ、紅皮症型[[薬疹]](後述)の一種とみられる。予後は特にサルバルサンが原因のものでは10パーセント程度の致死率である<ref>臨床皮膚科全書第3巻 pp.4-5</ref>。 |
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==== 流行性剥脱性皮膚炎 ==== |
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原発性紅皮症の概念が登場する以前に、紅皮症の一種として報告された疾患に流行性剥脱性皮膚炎があった。詳細に症例を報告したSavilはこの疾患について以下のように述べている。症状としては急性発症であり、顔面・頭部・腕を初発とする対称性の紅斑や丘疹が融合、拡大して汎発化し紅皮症に至るとした。落屑は早期より始まり、4週から5週ほど継続し概ね6週から8週で軽快するが、頸部リンパ節腫脹や末期には爪の変形や脱毛が見られ、また軽快しても再発し易いという特徴があると報告している。しかし同様の報告は以後存在せず、BrocqやHerzbergの紅皮症分類にも掲載されていないため、疾患の存在有無を含め本態は不明なままである<ref name="hifu0"/>。 |
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== 種類 == |
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紅皮症を発症させる疾患は多岐にわたり、[[湿疹]]・[[皮膚炎]]群を始めとして[[角化症]](遺伝性・炎症性)、感染症([[細菌]]性・[[ウイルス]]性・[[真菌]]性)、薬剤([[薬疹]])、[[悪性腫瘍]]、[[免疫]]異常([[水疱症]]、[[膠原病]]、移植[[拒絶反応]])などがあり、皮膚疾患に続発する紅皮症が全体の50 - 60パーセントを占める。ただし原因不明の紅皮症も存在する。原因疾患により症状の程度や予後は異なるが、共通する症状としては皮膚では全身の潮紅と落屑、脱毛や爪の変化があり、これに加え発熱、悪寒、全身倦怠感、皮膚病性リンパ節症と呼ばれる無痛性リンパ節腫脹といった全身症状、落屑や浮腫に随伴する[[電解質]]異常や低蛋白血症、搔破や全身状態の悪化などによる浅在性・深在性の二次感染などを併発することがある<ref name="kagaku1">皮膚科学 p.364</ref><ref name="hifuka1">皮膚科学第9版 pp.194-195</ref>。紅皮症に一般的な病理所見としては[[表皮]]の肥厚や[[真皮]]への[[リンパ球]]浸潤、錯角化といったものが見られ、検査所見としては末梢血[[白血球]]数増多、[[好酸球]]増多、[[CRP]]上昇、[[LDH]]上昇などが見られることが多い<ref>皮膚科学 p.365</ref>。 |
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=== 湿疹続発性紅皮症 === |
=== 湿疹続発性紅皮症 === |
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紅皮症の原因としては最も多く、 |
紅皮症の原因としては最も多く、皮膚疾患続発性紅皮症の中に占める割合は55 - 75パーセントに上る<ref name="kagaku1"/>。原因疾患としては慢性湿疹の汎発例、[[接触皮膚炎]]、[[アトピー性皮膚炎]](アトピー性紅皮症)、[[脂漏性皮膚炎]]、[[自家感作性皮膚炎]]などがあり、何れも治療をせずに放置したり、誤った治療法や不適切な[[民間療法]]・[[温泉療法]]などによって湿疹が悪化・汎発化して紅皮症へ進展する<ref name="hifuka1"/>。男女比は2 - 3:1で男性に多い。アトピー性皮膚炎に伴うアトピー性紅皮症は[[小児]]に多いが、それ以外の場合は中高年に多い。このうちHerzbergが提唱した老人性紅皮症は湿疹続発性紅皮症の1型とみなされる<ref name="kagaku1"/>。湿疹続発性の場合は搔痒が激しく、浮腫や潮紅といった炎症症状が強い。症状が進行すると次第に色素沈着や皮膚萎縮を伴い、多彩皮膚と呼ばれる皮膚病変の終末状態に陥るが、この場合は従来のへブラ紅色粃糠疹に相当する症状を呈する<ref>皮膚科学第7版 pp.270-271</ref>。 |
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=== ライネル落屑性紅皮症 === |
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1907年にLeinerが初めて報告した紅皮症で、'''乳児落屑性紅皮症'''とも呼ばれる。生後6カ月までの[[乳児]]、特に[[母乳栄養]]児に多いとされ、頭部または[[肛門]]周囲を初発とする脂漏性病変から次第に顔面や体幹に向って症状が拡大する。紅皮症の拡大に随伴して粘液の混じった緑色の水様[[下痢]]や嘔吐といった消化器症状が起こり、症状が遷延すると体重減少や発育障害を来たす。搔痒やリンパ節の腫脹は軽度であるが[[免疫不全]]を伴い、[[カンジダ症]]などを併発することがある<ref name="kagaku2">皮膚科学 p.367</ref><ref name="hifuka2">皮膚科学第7版 pp.271-272</ref><ref name="hifu2">臨床皮膚科全書第3巻 pp.14-16</ref>。 |
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[[尋常性乾癬]]が不適当な外用療法によって急性あるいは慢性に増悪し、全身へ拡大するが乾癬特有の皮疹が残っていたり、健康な皮膚が見られたりする。このタイプの乾癬性紅皮症は予後良好であるが、[[副腎皮質ステロイド薬]]の全身投与による誘発型や、[[膿疱性乾癬|急性汎発性膿疱性乾癬]]・[[関節症性乾癬]]からの移行型では発熱や全身倦怠感といった全身症状や皮疹が強く現れ、治療に抵抗する。 |
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LeinerやHerzbergは本症を乳児脂漏性皮膚炎の汎発化によるものとし、本態を[[ビタミンB]]群欠乏症に求めたがその後免疫不全を本態に求める意見が強くなった。この中で[[補体]]第5成分(C5)の機能不全に伴う貪食能低下に起因する免疫不全説が一時期有力となっていたが、実態はより様々な免疫不全症を合併していることが判明してきた。また[[遺伝]]性を証明する症例も報告されており、本態は遺伝性・孤発性の[[原発性免疫不全症候群]]を伴う重症の乳児脂漏性皮膚炎であるとの見解が強い。ビタミンB群の投与や人工栄養への切り替えが古典的な治療法であり、予後も良好とされていたが本態が次第に明らかになるに連れて予後不良例が多くなっている。治療としては免疫不全に伴う[[日和見感染症]]に対する抗生物質や[[抗真菌剤]]などの投与のほか、新鮮凍結[[血漿]]や全血[[輸血]]の有効例がある<ref name="kagaku2"/><ref name="hifuka2"/><ref name="hifu2"/>。なお、本症に類似した疾患として[[常染色体劣性遺伝]]による先天性ビオチン代謝異常症があり、早期に[[ビオチン]]を投与すれば予後は良好である<ref>皮膚科学第7版 p.383</ref>。また免疫不全に伴う紅皮症としてはOmenn症候群という疾患がある。[[原発性免疫不全症候群#複合免疫不全症|重症複合免疫不全症]]の一病型とされる本症は常染色体劣性遺伝により発症し、紅皮症に加えリンパ節腫脹、肝[[脾腫]]、好酸球増多、高[[IgE]]血症を伴う<ref>金兼弘和『どのような時に免疫不全症を疑うか?』 p.46</ref>。 |
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=== 先天性魚鱗癬様紅皮症 === |
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'''水疱型'''と'''非水疱型'''があり、前者は常染色体[[優性遺伝]]、後者は常染色体[[劣性遺伝]]の形態をとり特に後者は'''先天性魚鱗癬'''とも呼ばれる。両者とも出生時から症状があり、全身のびまん性潮紅と厚い鱗屑を有する。前者では[[水疱]]を生じるが成長するとともにこれらの紅皮症の症状は軽減し、代わって角質の異常増加(角化)が顕著となる。従って本来は遺伝性角化症に分類されるが、紅皮症の症状も有することから便宜上掲載する。 |
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=== 丘疹 - 紅皮症 === |
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1979年太藤重夫により丘疹 - 紅皮症症候群の名で初めて報告され、1981年には小嶋理一により苔癬様続発性紅皮症の名で報告されたが、皮膚症状が主体であることから太藤は1984年に丘疹 - 紅皮症に改名し、名称も一本化された。高齢者に多く、Herzbergの老人性紅皮症や湿疹続発性紅皮症との異同が議論されている。紅褐色の苔癬状丘疹として発症し、それらが融合して次第に全身に拡大、紅皮症となる。ただし顔面や関節屈面、[[腋窩]]、腹部の皺になる部分は潮紅せず健常時の皮膚色が残存するdeck - cheir signと呼ばれる所見が見られる。搔痒や無痛性リンパ節腫脹はあるが紅皮症一般で見られる発熱などの全身症状は欠く。検査所見としては末梢血の好酸球増多症が見られ、組織所見でも真皮において血管周囲の好酸球浸潤が認められるなど好酸球主体の所見が特徴である。[[ステロイド外用剤]]に良く反応し、経過は通常1年ないし数年で軽快・治癒する。ただし本症で最も重要なのは'''患者の30パーセント程度に内臓悪性腫瘍の合併が見られる'''ことであり、特に[[胃癌]]の割合が多い。内臓悪性腫瘍の[[デルマドローム]]として知られる後天性掌蹠角化症を合併することもあり、胃を始めとする内臓病変の検索を行うことが必要となる<ref>皮膚科学 p.389</ref><ref>皮膚科学第9版 p.197</ref>。 |
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'''紅皮症型薬疹'''とも呼ばれる。[[フェノバルビタール]]・[[フェニルブタゾン]]・[[ヒダントイン]]・[[イソニアジド]]・[[ペニシリン]]・[[クロルプロマジン]]などの薬剤のほか、[[金]]・[[水銀]]・[[砒素]]などの[[重金属]]などによっても発症する。紅斑丘疹型薬疹などの発疹型薬疹から移行するケースが多い。症状は急激で発熱や[[浮腫]]を生じ、全身にすぐ拡大する。前述の急性原発性紅皮症や'''小水疱浮腫性紅皮症'''と呼ばれたものはこれに相当する。苔癬型薬疹からの移行型を除き、薬剤を中止すれば概ね軽快し予後は紅皮症の中では良好である。ただし[[中毒性表皮壊死症]]([[ライエル症候群]])では予後不良である。 |
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=== 皮膚疾患続発性紅皮症 === |
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近年問題となっているものに'''薬剤性過敏症症候群'''がある。[[アロプリノール]]や[[ミノサイクリン]]など特定の薬剤服用により[[ヘルペスウイルス]]7型が再活性化し、全身に紅皮症をひき起こす疾患である。経過は長期に及び、予後不良な場合がある。 |
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湿疹・皮膚炎群以外の皮膚疾患が悪化することによって発症する紅皮症である。原因疾患としては以下の通り。 |
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==== 炎症性角化症 ==== |
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炎症性角化症による紅皮症の原因として最多なのは[[乾癬]]であり、'''乾癬性紅皮症'''と呼ばれる。湿疹・皮膚炎群を除いた皮膚疾患に続発する紅皮症の原因疾患としては半数以上を占める<ref name="kagaku3">皮膚科学 p.365</ref>。乾癬患者の数パーセント程度に発症し、尋常性乾癬や[[乾癬#関節症性乾癬|関節症性乾癬]]、[[乾癬#膿疱性乾癬|急性汎発性膿疱性乾癬]]から移行する。発症要因としては細菌感染、過度の[[PUVA]]療法のほか強力なステロイド外用剤・経口ステロイド剤の投与中止後に発症することもある。このため副腎皮質ステロイド剤の全身投与は尋常性乾癬の治療で使用されることはない。症状としては一般の紅皮症と大差ないが、体温調節の異常を伴うことがある<ref name="kagaku3"/><ref>皮膚科学 p.338</ref>。 |
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原疾患としては血液[[悪性腫瘍]]が極めて多く、腫瘍細胞が皮膚に浸潤して病変をひき起こす場合と免疫反応として病変を生じる場合がある。組織[[病理学#生検組織診|生検]]でも非特異的所見であり紅皮症から腫瘍性疾患が何であるかを推定することは困難である。[[白血病]](白血病性紅皮症)、[[悪性リンパ腫]](細網症性紅皮症。[[菌状息肉症]]・[[セザリー症候群]]・[[ホジキン病]]など)から発症する。高度のリンパ節腫脹と激しい掻痒が特徴である。[[成人T細胞白血病]]では紅皮症が起こりやすい。 |
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また[[扁平苔癬]]や毛孔性紅色粃糠疹でも紅皮症を起こすことがあるが、毛孔性紅色粃糠疹では[[1998年]]にGriffiths(グリフィス)が分類した病型分類のうち1型(成人発症古典型)と2型(成人発症非古典型)において紅皮症への移行例が多い。本症続発の紅皮症では潮紅した全身皮膚の一部に境界がはっきりした健常な皮膚が島のように分布することが特徴である<ref name="kagaku3"/><ref>皮膚科学 pp.345-346</ref>。 |
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=== 感染症続発性紅皮症 === |
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代表的なのが[[ブドウ球菌]]によるものであり、[[新生児]]・[[乳児]]を主に侵す'''[[ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群]]'''(SSSS)は紅皮症的な症状を起こす。このためかつてはRitter新生児剥脱性皮膚炎と呼ばれていた。またToxic-shock症候群でも紅皮症化を起こす。このほか免疫不全患者に発症した[[白癬]]・[[カンジダ]]などの皮膚真菌症や[[疥癬]]の重症型である[[ノルウェー疥癬]]でも紅皮症の症状を起こすことがある。 |
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==== 遺伝性角化症 ==== |
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1902年にBrocqによって報告された'''先天性魚鱗癬様紅皮症'''が代表格である。主に[[常染色体優性遺伝]]の形式をとる水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(表皮融解性魚鱗癬)と、常染色体劣性遺伝の形式をとる非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症に大別される。何れも出生時より全身の潮紅を以って始まり、非水疱型ではコロジオン児と呼ばれる全身を薄い膜状角化物質で覆われた状態で出生し、剥離するに従い潮紅と落屑が生じる。また非水疱型では軽度の眼瞼外反や口唇外反を生じることもある。成長するに従い角化が顕著になり水疱型では煉瓦状の厚い角化が関節部などに見られる。ただし[[知能障害]]や発育障害は通常見られない。水疱型の亜型であるシーメンス型水疱性魚鱗癬(表在性表皮融解性魚鱗癬)や非水疱型の亜型である葉状魚鱗癬では、紅皮症の所見は見られない<ref>皮膚科学 pp.350-352</ref><ref name="gyorin">[http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/gyorin2.pdf 稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班『先天性魚鱗癬様紅皮症とその類縁疾患』]2014年2月1日閲覧。</ref> |
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[[移植片対宿主病|急性移植片対宿主病]]では全身の急速な紅皮症を起こす。これは[[1950年代]]大手術後にたびたび発生した'''術後紅皮症'''というものに相当する。また[[自己免疫疾患]]である[[天疱瘡|落葉状天疱瘡]]や[[ジューリング疱疹状皮膚炎]]でも紅皮症は起こり、落葉状天疱瘡では重症化すると全身が大量の鱗屑で埋もれてしまうという悲惨な外見となる。 |
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また魚鱗癬に知能障害や各臓器・組織の異常を伴う魚鱗癬症候群においても紅皮症を発症する。主な疾患として知能障害と痙性四肢麻痺を伴うシェーグレン・ラルソン症候群、[[アトピー性皮膚炎|アトピー素因]]・結節性裂毛症などを伴うネザートン症候群、[[てんかん]]・知能障害・性腺発育不全などを伴うラッド症候群、血管増殖性[[角膜炎]]・魚鱗癬様紅皮症・[[感音性難聴]]を三徴とするKID症候群などがある<ref name="kagaku2"/><ref name="gyorin"/>。 |
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== 丘疹-紅皮症症候群 == |
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紅皮症のほとんどは基礎疾患の汎発化によるものであるが、この紅皮症については原因が未だ不明である。太藤によって[[1979年]]に報告された比較的新しい疾患概念であり、'''苔癬様続発性紅皮症'''とも呼ばれる。 |
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==== 光線過敏症 ==== |
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慢性に発症し、顔面・四肢・腹部皺壁部分を除く全身に[[苔癬]]状の[[丘疹]]を初発として融合して紅斑を生じる。痒みがある。リンパ節腫脹のほか[[掌蹠角化症]]を合併する。組織学的に[[真皮]]上層部に[[好中球]]が浸潤、末梢血には[[好酸球]]が検出され[[好酸球増多症]]を見る。高齢者男性に好発し、再燃を繰り返し通常は1年から数年の経過で徐々に軽快するが悪性腫瘍が隠れている可能性もある。 |
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[[光線過敏|光線過敏症]]では慢性光線過敏性皮膚炎が紅皮症をひきおこす。特に皮膚や末梢血で異型リンパ球が増殖し、[[悪性リンパ腫]]に類似した臨床所見や組織所見を呈する慢性光線過敏性皮膚炎の亜型・'''光線性類細網症'''が紅皮症を呈しやすい。中高年に発症し、露光部の皮膚のみならず衣服で隠れた部分の皮膚にも[[UVA]]や[[UVB]]、さらには[[可視光線]]による[[日焼け|日光皮膚炎]]の症状を起こし、季節に関係なく遷延する。悪性リンパ腫との鑑別では光線過敏の有無や[[T細胞]]受容体遺伝子再構成の有無などが重要となる。徹底的な遮光が肝要である<ref name="kagaku3"/><ref>皮膚科学 p.277</ref>。 |
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==== 自己免疫疾患 ==== |
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== ライネル落屑性紅皮症 == |
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[[自己免疫疾患]]では[[天疱瘡]]の一種、'''落葉状天疱瘡'''が紅皮症をひきおこす代表例である。表皮の細胞同士を接着する上で重要な役割を担う[[分子]]・デスモグレインのうち皮膚主体で分布するデスモグレイン1に対して、[[IgG]][[自己抗体]](抗デスモグレインIgG自己抗体)が機能を阻害することで表皮細胞の接着が無効化され水疱や[[糜爛]]を形成する。40歳代から50歳代に発症し、弛緩性の水疱が顔面を初発として次第に頭部、胸部、背部といった脂漏部位に多発する。水疱は破れやすく、破れた後は乾燥して落屑する。こうした病変が週単位または月単位で全身に拡大・汎発化して紅皮症状態となるが、本症の場合は経過が長期化すると鱗屑が厚く固着して角化症に似た外観となる。また皮膚を擦ると水疱が形成されるニコルスキー現象が陽性となるのも本症の特徴であるが、尋常性天疱瘡と異なり粘膜病変は極めてまれである<ref>皮膚科学 pp.316-317</ref><ref>皮膚科学第9版 p.296</ref><ref>臨床皮膚科全書第5巻 pp.383-385</ref>。 |
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かつて原発性紅皮症の一つに挙げられていた紅皮症であり、[[1907年]]にLeinerが初めて報告したことでこの名が付けられた。'''[[脂漏性皮膚炎]]の汎発重症型'''と見なされているが、最近では[[補体]]第5成分(C5)の欠損に伴う[[先天性免疫不全症候群]]であるとの意見も強くなっている。 |
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このほか水疱症では[[類天疱瘡|水疱性類天疱瘡]]やジューリング疱疹状皮膚炎でも紅皮症を発症させることがあるほか、膠原病では[[全身性エリテマトーデス]]や[[皮膚筋炎]]で紅皮症を併発することがある<ref name="hifu4">皮膚科学第9版 p.195</ref>。 |
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生後6ヶ月以内の[[母乳]]栄養児に好発するのが最大の特徴で、学童・成人には発症することはない。頭部および[[肛門]]周囲を初発とする脂漏性皮膚炎様発疹から全身に紅斑を生じ、大型の鱗屑を伴う落屑が発生する。消化器症状はほぼ必発であり、[[下痢]]・緑色便・粘液便を伴う。以前は予後良好とされていたが、反復する下痢による全身衰弱や二次感染を併発することで全身状態が悪化し、死亡する症例も多く報告されている。 |
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==== 皮膚感染症 ==== |
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細菌や真菌、ウイルスなどによる皮膚感染症に続発する紅皮症も存在する。ただし細菌やウイルスによるものは微生物由来の[[毒素]]が発症に関与することから、中毒性紅皮症としての側面も持つ<ref name="hifu4"/><ref name="kagaku4">皮膚科学 p.366</ref>。 |
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紅皮症は全身皮膚が侵され、症例によっては予後不良になる場合もあるため全身管理が重要であり、'''原則入院治療'''を行う。その上で湿疹続発性紅皮症や丘疹 - 紅皮症症候群、ライネル落屑性紅皮症、菌状息肉症、セザリー症候群では[[副腎皮質ステロイド外用剤]]の塗布を基本とし、痒みを抑える[[抗ヒスタミン剤]]や[[抗アレルギー剤]]の内服を行う。また脱水予防のための[[輸液]]なども行われる。 |
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細菌性皮膚感染症では[[ブドウ球菌]]や[[連鎖球菌]]感染症に続発する。代表的な疾患としてブドウ球菌感染症ではリッター新生児剥脱性皮膚炎としてHerzbergの紅皮症分類にも掲載された[[ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群]](SSSS)と[[黄色ブドウ球菌#毒素性ショック症候群|トキシックショック症候群]](TSS)、連鎖球菌感染症では[[猩紅熱]]および劇症型溶血性連鎖球菌感染症とも呼ばれる[[化膿レンサ球菌|トキシックショック様症候群]]などがあるSSSSやTSSは[[黄色ブドウ球菌]]が産生する毒素が発症の要因とされSSSSでは[[エンテロトキシン]](ET)が局所の化膿性病変から全身に散布され、落葉状天疱瘡と同様の機序でデスモグレイン1を破壊することにより皮膚が剥離される。またTSSは[[膿瘍]]や化膿性[[骨髄炎]]、術後感染などを契機にTSST-1などの毒素が、猩紅熱では上気道感染症などを契機に連鎖球菌によるSPEが、トキシックショック様症候群では連鎖球菌によるM蛋白などが全身に散布されて発症する。何れも発熱・全身倦怠感などの全身症状が強く現れSSSSは新生児や乳児の口囲など顔面の紅斑を初発として急速に全身に紅斑と水疱が拡大、やがてシート状の大きな落屑を生じる。TSSでは高熱を伴う日光皮膚炎様の紅皮症が週単位で全身に拡大、[[低血圧]]や[[多臓器不全]]を伴う。トキシックショック様症候群では高熱、激しい関節痛や[[筋肉痛]]を伴いながら[[壊死性筋膜炎]]や紅皮症が全身に拡大、多臓器不全や[[ショック]]を伴う。猩紅熱では初め蒼紅色、続いて鮮紅色の丘疹が次第に全身に拡大して、4 - 5日後より落屑する<ref name="kagaku11">皮膚科学 pp.650-653</ref>。 |
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薬剤誘発性紅皮症や天疱瘡による紅皮症では[[副腎皮質ステロイド薬]]の内服を行うが、湿疹続発性紅皮症では重症例でない限り二次感染を避ける上で内服を行わないほうが紅皮症の致死率を下げる。乾癬性紅皮症では[[シクロスポリン]]、先天性魚鱗癬性紅皮症では[[レチノイド]]投与、白血病など悪性腫瘍に併発したものでは多剤[[化学療法]]を行う。感染症によるものでは感受性のある[[抗菌剤]]を全身投与する。 |
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真菌性皮膚感染症では[[皮膚糸状菌症|白癬]]とカンジダ症に続発するが、免疫不全患者に発症することが多い。このうち白癬については急性汎発性表在性白癬の慢性化が紅皮症の要因として知られる。すなわち、[[足白癬]]、頭部白癬、体部白癬、股部白癬といった限局性の白癬が不適切な治療や長年にわたる放置などで全身に病変が拡大した状態が急性汎発性表在性白癬であるが、通常は抗真菌剤の治療に反応する。しかしさらに放置したり患者が免疫不全状態にある場合慢性化して紅皮症の状態を呈する。さらに進行すると白癬の中では最も重篤な汎発性白癬菌性肉芽腫という病態に陥り、[[肉芽腫]]による顔面(口唇・[[鼻]]・[[耳介]])の破壊や[[脳]]・[[骨]]・[[心臓]]への転移により予後不良となることもある<ref>皮膚科学 p.686</ref><ref>皮膚科学第7版 pp.696-700</ref><ref>臨床皮膚科全書第5巻 pp.110-111</ref>。 |
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このほか[[疥癬]]の重症型である[[疥癬#過角化型疥癬|過角化型疥癬]](ノルウェー疥癬)、[[急性ウイルス性発疹症]]である[[麻疹]]や[[風疹]]、および[[結核]]でも紅皮症を続発させることがある<ref name="hifu4"/><ref>臨床皮膚科全書第5巻 p.176</ref>。 |
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=== 中毒性紅皮症 === |
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いわゆる[[中毒疹]]の重症型であり、一部は細菌やウイルス感染症に続発する紅皮症が包括される。しかし最も頻度が多いのは薬剤由来の紅皮症であり、'''紅皮症型薬疹'''とも呼ばれる。[[スティーブンス・ジョンソン症候群]]や中毒性表皮壊死症(ライエル症候群)などと共に重症型薬疹に分類される重篤な薬疹であり薬疹全体の数パーセント、紅皮症では湿疹続発性紅皮症、乾癬性紅皮症に次いで多く10 - 20パーセントの発症率と推定されている。原因薬剤として比較的に高頻度で発症させる薬剤として[[アロプリノール]]や金チオリンゴ酸ナトリウム、[[シアナミド]]があり、抗生物質、[[降圧剤]]、[[消炎鎮痛剤]]、抗痙攣剤といった使用頻度の多い薬剤群での報告も多いが、湿疹型・播種状紅斑丘疹型・光線過敏症型・多形滲出性紅斑型・苔癬型といった軽症・中等症型薬疹からの移行例もあり、ほぼ全ての薬剤において発症させる可能性がある。従来原発性紅皮症に分類されていた再発性落屑性猩紅熱様紅斑(急性原発性紅皮症)やHerzbergが提唱した小水疱浮腫性紅皮症の多くは紅皮症型薬疹に包括される。症状は紅皮症一般と大差ないが、急性発症であり遷延すると中毒性表皮壊死症への移行もある<ref name="kagaku4"/><ref>皮膚科学 p.303</ref><ref>皮膚科学第7版 p.229</ref>。 |
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また特定の薬剤を投与後[[ヘルペスウイルス]]6型(HHV-6)が再活性化することで発症する重症型薬疹・[[薬剤性過敏症症候群]]においても紅皮症を生じる。[[カルバマゼピン]]・[[ラモトリギン]]・[[フェニトイン]]・[[フェノバルビタール]]・ゾニザミドといった抗痙攣薬、アロプリノール、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルフォン、メキシレチンが原因薬剤であり、内服開始から3 - 4週間後に発症し多臓器障害を伴う全身の紅斑を生じ、しばしば紅皮症化する。また薬剤性過敏症症候群に臨床症状は類似するが発熱や多臓器障害を呈さない薬剤誘発性偽リンパ腫という疾患も紅皮症を起こす<ref name="kagaku4"/><ref>皮膚科学 p.302</ref>。 |
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=== 腫瘍性紅皮症 === |
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紅皮症の中では数パーセントを占める。胃癌などの消化器固形癌に続発することもあるが、原因となる悪性腫瘍の大半は[[白血病]]や悪性リンパ腫といった造血系の悪性腫瘍である。腫瘍細胞が皮膚に浸潤して発症する特異疹としての紅皮症と、反応性病変として発症する非特異疹としての紅皮症があり、リンパ節腫脹や後天性掌蹠角化症を合併することがある<ref name="kagaku5">皮膚科学 pp.367-368</ref>。 |
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白血病では腫瘍細胞が皮膚に浸潤して特異疹を起こす皮膚白血病において紅皮症を発症させる。全白血病における発症頻度は5パーセント程度と少ない皮膚白血病は[[急性白血病|急性単球性白血病]]において最も発症頻度が高く、[[急性骨髄性白血病]]や[[慢性リンパ性白血病]]でも発症することが多い。概ね白血病の極期から末期に出現し、紅斑・丘疹・[[潰瘍]]・腫瘤など多彩な皮膚病変を呈するが、紅皮症については特異疹・非特異疹の両機序で発症する。[[成人T細胞白血病]]も紅皮症を呈する。悪性リンパ腫では皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症で紅皮症を発症する頻度が高い。本症の場合、通常は大局面状類乾癬などの前駆病変から紅斑期、扁平浸潤期、腫瘍期の順に極めて慢性の経過をたどるが、初期や末期に紅皮症を呈するBesnier - Hallopeau(アロポー)型と呼ばれるタイプがある。紅皮症を併発した場合、TNMB分類ではT4、病期分類ではⅢA以上の中等度リスク群となる。またセザリー細胞と呼ぶ悪性化した[[ヘルパーT細胞]]が皮膚に浸潤して搔痒が極めて強い紅皮症を呈する[[セザリー症候群]]も皮膚T細胞リンパ腫の一種であるが、5年生存率が24パーセントと極めて予後不良である。このほか血管免疫芽球性T細胞リンパ腫や[[ホジキン病]]でも紅皮症を発症させることがある<ref name="kagaku5"/><ref>皮膚科学 pp.599-602,p.609</ref><ref>皮膚科学第9版 pp.659-679</ref>。 |
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=== 術後紅皮症 === |
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1955年、霜田俊丸によって初めて報告された紅皮症であり、消化器開腹手術後や開心術後に発症し急激な経過で致死率も高い紅皮症として注目された。原因は当初抗生物質に耐性のブドウ球菌感染症によると考えられ、再発性落屑性猩紅熱様紅斑(急性原発性紅皮症)の重症型に属するという見解があったがその後原因は[[輸血]]された[[血液]]に起因する宿主の拒絶反応であり、[[移植片対宿主病|急性移植片対宿主病]]が本態であることが判明した。'''輸血後移植片対宿主病'''とも呼ばれる<ref>臨床皮膚科全書第3巻 pp.6-9</ref><ref name="kagaku6">皮膚科学 p.368</ref>。 |
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輸血後10 - 14日後より発熱、下痢と共に紅皮症が出現し、[[汎血球減少]]や肝機能障害など臓器・骨髄が急激に障害されて最終的には[[播種性血管内凝固症候群]](DIC)や[[敗血症]]を併発して死亡する。[[副腎皮質ステロイド薬|ステロイドパルス療法]]や[[免疫抑制剤]]を使用しても救命に至らない例が多く、紅皮症の中では最も予後不良の病態である。[[放射線]]を照射しない[[血液製剤]]を輸血することで非自己のリンパ球が体内に侵入するが、自己のリンパ球はそれを非自己と認識しないため定着する。定着した非自己のリンパ球はやがて増殖し、本来は他人のものである自己の臓器・組織を非自己と認識して免疫反応を起こして攻撃するために発症する。発症には[[組織適合性抗原]](HLA)が供血者は[[ホモ接合体]]、患者は[[ヘテロ接合体]]で 、かつHLAの[[ハプロタイプ]]の片方が双方で一致していることが条件となる。一旦発症すればほぼ死亡するため、血液製剤に放射線を事前に照射してリンパ球を根絶してから輸血することが極めて重要となる。こうした処置が実施された結果、原因が判明する以前は開心術700回に1回の割合で発症していた術後紅皮症は、[[2002年]]の十字猛夫による調査で日本国内ではほぼ根絶された<ref name="kagaku6"/><ref>皮膚科学第9版 p.289</ref>。 |
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== 診断と治療 == |
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紅皮症は先述の通り様々な疾患に続発する皮膚反応であることから、'''最優先に行うのは原因疾患の追求である'''。皮膚を観察し、原発する皮膚疾患があるかどうかを確認すると同時に患者の既往歴を確認する。例えば紅皮症型薬疹なら薬剤服用歴、術後紅皮症なら輸血の有無などである。またデルマドロームとしての側面を有する丘疹 - 紅皮症や腫瘍性紅皮症などが疑われる場合は内臓の詳細な検索も必要となる<ref name="kagaku8">皮膚科学 pp.364-369</ref><ref name="hifu9">皮膚科学第9版 pp.194-197</ref>。 |
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治療も、第一義に行うのは原因となった疾患の治療である。感染症続発であれば抗生物質や抗ウイルス剤、抗真菌剤などの投与、天疱瘡や薬疹、重症の湿疹続発性紅皮症などであれば副腎皮質ステロイド剤、乾癬性紅皮症では[[シクロスポリン]]などの免疫抑制剤、毛孔性紅色粃糠疹、先天性魚鱗癬様紅皮症では[[エトレチナート]]、白血病や悪性リンパ腫であれば[[抗癌剤]]による多剤[[化学療法]]などである。その上で皮疹に対しては感染症を除き副腎皮質ステロイド外用剤の塗布を基本に搔痒に対して[[抗ヒスタミン剤]]や抗アレルギー剤の経口投与、湿疹続発性や乾癬性紅皮症ではPUVA療法やナローバンドUVB療法、電解質異常や低蛋白血症に対する[[輸液]]などの全身管理を行う。また薬疹であれば被疑薬の服用中止と再投与の回避、光線過敏症であれば徹底的な遮光といった対策も必要になる。何れにしても外来管理は難しく、基本的には[[入院]]して治療を行う<ref name="kagaku8"/><ref name="hifu9"/>。 |
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なお、先天性魚鱗癬様紅皮症については二次感染により抗生物質を使用している未成年の水疱型・非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症およびシェーグレン・ラルソン症候群が、[[特定疾患|小児慢性特定疾患研究事業]]に基づく[[公費負担]]による[[医療費]]給付の受給対象となっている<ref name="gyorin"/>。また紅皮症を発症させる疾患のうち、落葉状天疱瘡や膠原病、Omenn症候群などを含む原発性免疫不全症候群については特定疾患治療研究事業対象疾患、いわゆる[[難病]]として公費負担の対象になる<ref>[http://www.nanbyou.or.jp/entry/513 難病情報センター 特定疾患治療研究事業対象疾患一覧表] 2014年2月4日閲覧</ref> |
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== 予後 == |
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紅皮症の予後も、原因疾患によって左右される。湿疹続発性紅皮症や乾癬性紅皮症、光線性類細網症などでは生命予後は良好だが治療には時間が掛かり、特に先天性魚鱗癬様紅皮症は極めて難治、落葉状天疱瘡は症例によっては死亡することがある<ref name="kagaku8"/><ref name="hifu9"/>。また紅皮症型薬疹のうち薬剤性過敏性症候群は経過も長く死亡率も20 - 30パーセントと高い<ref name="kagaku4"/>。感染症は患者の免疫状態や細菌の薬剤耐性などにより予後が左右され、トキシックショック様症候群や成人発症のSSSSは死亡率が高く、[[メチシリン耐性黄色ブドウ球菌]](MRSA)による発症が増加しているTSSでは7パーセント程度の致死率である<ref name="kagaku11"/>。ただし新生児・乳児のSSSSは抗生物質による治療が発達したことで、以前は発症後5日から10日の経過で死亡した予後不良の病態が大きく改善された<ref>臨床皮膚科全書第3巻 p.16</ref>。腫瘍性紅皮症は概ね予後不良で<ref name="kagaku5"/>、術後紅皮症は発症すればほぼ全例死亡する<ref name="kagaku6"/>。 |
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== 出典 == |
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== 参考文献 == |
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*[http://drmtl.org/data/069080967.pdf 川田陽弘『紅皮症の研究』日本皮膚科学会雑誌第69巻第8号] [[1959年]] 2014年2月4日閲覧 |
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*樋口謙太郎編『皮膚科学』南山堂、[[1962年]] |
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*北村包彦・小嶋理一・川村太郎・安田利顕編『臨床皮膚科全書』第3巻 金原出版、[[1969年]] |
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*北村包彦・小嶋理一・川村太郎・安田利顕編『臨床皮膚科全書』第5巻 金原出版、1969年 |
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*上野賢一『皮膚科学』第7版 金芳堂、[[2002年]] [[ISBN|ISBN4-7653-1052-3]] |
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*片山一郎・土田哲也・橋本隆・古江増隆・渡辺智一編『皮膚科学』文光堂、[[2006年]] [[ISBN|ISBN978-4-8306-3448-2]] |
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*[http://www.jspid.jp/journal/full/01801/018010041.pdf 金兼弘和『どのような時に免疫不全症を疑うか?』小児感染免疫 Vol.18 No.1] 2006年 2014年2月4日閲覧 |
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*稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班『先天性魚鱗癬様紅皮症とその類縁疾患』 [[2010年]] |
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*大塚藤男編『皮膚科学』第9版 金芳堂、[[2011年]] [[ISBN|ISBN978-4-7653-1477-0]] |
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*[http://www.nanbyou.or.jp/entry/513 難病情報センターホームページ『特定疾患治療研究事業対象疾患一覧表』] 2014年2月4日閲覧 |
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== 関連項目 == |
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*[[デルマドローム]] |
*[[デルマドローム]] |
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*[[副腎皮質ステロイド薬]] |
*[[副腎皮質ステロイド薬]] |
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== 参考文献 == |
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*樋口謙太郎編『皮膚病アトラス』第2版、南山堂、[[1970年]] |
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*上野賢一『皮膚科学』第7版、金芳堂、[[2007年]] |
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2014年2月5日 (水) 14:10時点における版
紅皮症(こうひしょう。英名 Erythroderma )は先行する皮膚疾患や内臓疾患などに続発し、全身の皮膚が真っ赤に潮紅して皮膚が剥がれ落ちる(落屑)状態を呈する皮膚反応であり、単一の疾患ではなく症候名である。剥脱性皮膚炎とも呼ぶ。
概説
紅皮症は、当初原因の分からない原発性紅皮症と各種疾患に起因する続発性紅皮症に大別されたが、多くの議論を経て様々な疾患に続発する皮膚反応であるという概念が定着した。
概念の変遷
紅皮症についての詳細な報告は1862年、ウィーン大学皮膚科学教授であったHebra(へブラ)[1]が「終始皮膚の潮紅と落屑のみを呈し、他に丘疹、小水疱などの皮疹を見ず、慢性に経過し、予後不良の疾患」としてへブラ紅色粃糠疹を報告したのが端緒となる[2]。続いて1867年にWilson(ウィルソン)が亜急性汎発性剥脱性皮膚炎の症例報告を発表した。さらに1876年Féréol(フェレオール)続いてBesnier(ベニエ)が急性紅皮症として再発性落屑性猩紅熱様紅斑の症例を報告[2]、1878年にはRitter(リッター)が新生児に発症する致死的な紅皮症として新生児剥脱性皮膚炎[3]を、1892年にはSavil(サヴィル)がイギリス・ロンドンの複数の養老院において集団発生した流行性剥脱性皮膚炎[4]を、1907年にはLeiner(ライネルまたはライナー)が乳幼児に特有の紅皮症としてライネル落屑性紅皮症の症例をそれぞれ報告する[5]など、多くの研究者によって紅皮症についての症例が集積されていった。
こうした紅皮症の症例報告を検討し系統的な分類を試みたのはBrocq(ブロック)である。Brocq は1902年に先天性魚鱗癬様紅皮症を最初に報告したことで知られているが[6]、過去の症例報告を収集、分析し自身の考察を加えて1882年と1909年の二度にわたり紅皮症を再編・分類した。ここにおいて原発性紅皮症と続発性紅皮症の概念が登場する。原発性については再発性落屑性猩紅熱様紅斑、亜急性汎発性剥脱性皮膚炎、およびへブラ紅色粃糠疹を各々急性・亜急性・慢性型原発性紅皮症に分類し、亜急性汎発性剥脱性皮膚炎より慢性型(慢性汎発性剥脱性皮膚炎)を分離、へブラ紅色粃糠疹については古典型から良性の亜急性型と慢性型を分離・独立し、さらに乳幼児剥脱性皮膚炎という概念を加えた。そして湿疹、脂漏性皮膚炎、乾癬、扁平苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、天疱瘡などの皮膚疾患が汎発化して生じた紅皮症を続発性紅皮症として定義、分類した[2][7]。日本ではHebraの孫弟子であり東京帝国大学医科大学皮膚病学黴毒学講座教授として日本皮膚科学会の設立に尽力した土肥慶蔵[1]がBrocqの分類を紹介した[7]。
分類 | 疾患 |
---|---|
原発性紅皮症 | 再発性落屑性猩紅熱様紅斑/良性急性剥脱性皮膚炎(Féréol、Besnier) |
亜急性汎発性剥脱性皮膚炎(Wilson) | |
慢性汎発性剥脱性皮膚炎 | |
へブラ慢性紅色粃糠疹(Hebra) | |
良性亜急性紅色粃糠疹 | |
良性慢性紅色粃糠疹 | |
乳幼児剥脱性皮膚炎 | |
続発性紅皮症 | 続発性紅皮症 |
Brocqの分類はその後長らく紅皮症の概念として定着するが、分類についてはJadassohn(ヤダーソン)が1891年と1892年の論文において、慢性汎発性剥脱性皮膚炎は単なる汎発性の湿疹であると反論[8]、その後各種専門書では慢性汎発性剥脱性皮膚炎やへブラ紅色粃糠疹の良性亜急性・慢性型については使用されなくなり、乳幼児剥脱性皮膚炎もRitterの新生児剥脱性皮膚炎と同一であり、かつ細菌感染症が原因であることが判明して除かれ、次節で述べる3疾患名が使われるようになった[7][9]。
紅皮症の分類が一応確定した後、続いて病因論に関する様々な見解が発表された。急性型(再発性落屑性猩紅熱様紅斑)についてはすでにBesnierが特定の素因を持つ患者に何らかの刺激が加わることにより発症すると推測していたが、水銀、砒素、金といった重金属や薬剤、さらには結節性動脈周囲炎に本症が続発したという報告が多数の研究者から報告され、感染症またはそれに起因するアレルギーおよび重金属や薬剤性の中毒による紅皮症ではないかという見解が強くなった[10]。亜急性型(ウィルソン・ブロック紅皮症)ではBrocqが神経皮膚症、Kyrle(キルレ)が内分泌障害由来であると主張した[11]。慢性型のへブラ紅色粃糠疹についてはJadassohnが結核との関連性を強調し、結核性紅皮症であるとしたが[2]土肥は老人性内分泌障害に起因する自家中毒が原因であると1930年に発表している[2][11]。またMontgomery(モンゴメリー)はへブラ紅色粃糠疹の症例には白血病や悪性リンパ腫、特に菌状息肉症に伴う症例が多く存在すると1933年の論文において指摘[2]、Sézary(セザリー)による1938年のセザリー症候群の報告[12]をはじめ、多くの研究者が血液悪性腫瘍と紅皮症の関連性を報告してJadassohnが主張したへブラ紅色粃糠疹=結核という図式に対して反論した[2][11]。こうしてBrocqによる紅皮症の分類発表以降第二次世界大戦までの間、紅皮症については各原発性紅皮症の病因に対する様々な議論が繰り広げられた。
ところが第二次世界大戦後、紅皮症の概念を巡る研究や議論は一変する。すなわち1950年代以降紅皮症を原発性と続発性の2つに分類する従来のBrocqによる分類自体に対して異論が続々提出されるようになった。1956年、小嶋理一は亜急性型と慢性型では前駆病変として限局性の湿疹様変化が所見として多く認められることを指摘[13]、亜急性型と慢性型を臨床的に区別するのは不可能であると主張した[14]。2年後の1958年にはHerzberg(ヘルツバーグ)が紅皮症に関する論文を発表。この中で紅皮症は多様な原因によって起こる皮膚反応であり、原発性と続発性に分類するのは無意味とした。その上で紅皮症の分類を再編して原発性の3疾患を独立させ、これに小水疱浮腫性紅皮症・老人性紅皮症という概念を新設、さらに新生児の紅皮症としてライネル落屑性紅皮症と新生児剥脱性皮膚炎に加え、Hill(ヒル)によって報告されたアトピー性紅皮症とBrocqが報告した先天性魚鱗癬様紅皮症の4つを分類した[7]。
分類 | 疾患 |
---|---|
へブラ - ヤダーソン紅色粃糠疹型紅皮症 | |
老人性紅皮症 | |
ウィルソン - ブロック剥脱性皮膚炎型紅皮症 | |
フェレオール - ベニエ再発性猩紅熱様紅斑型紅皮症 | |
小水疱浮腫性紅皮症 | |
新生児の紅皮症 | ライネル落屑性紅皮症 |
リッター新生児剥脱性皮膚炎 | |
アトピー性紅皮症 | |
先天性魚鱗癬様紅皮症 |
Herzbergの主張は多くの賛同を得、Abraham(アブラハム)は1963年の論文において原発性の3疾患の病名を廃止すべきであると主張するに至った[7]。1965年に入ると栗原善夫は紅皮症発症準備性という概念を発表し、その中で湿疹や炎症性角化症、感染症、悪性腫瘍などが長期間慢性に経過するに連れてプラスミンやアンチプラスミンなどの線溶系因子に変化が生じ、そこに何らかの「引き金」が加わることで線溶系が亢進し、全身の皮膚に急速な炎症反応が生じて紅皮症を発症させるという仮説を提示した[15]。しかしながら紅皮症が発症する明確なメカニズムは未だ解明されていない[16]。
何れにしても紅皮症はHerzbergの見解が趨勢となり、現在に至る。なお、1955年には霜田俊丸により術後紅皮症の第1例が報告され[17]、1979年には太藤重夫により丘疹 - 紅皮症という新しい疾患概念が報告されている[18]。
原発性紅皮症
Brocqが分類した原発性紅皮症7疾患のうち、以下の3疾患が多く使用されていた。しかし先述の通り紅皮症が各種疾患に伴う皮膚反応であるというHerzbergの見解が絶対的趨勢になるに従い、これらの疾患名は原発性紅皮症という分類と共に廃語同然となった。皮膚科関連の文献や専門書においても、これらの疾患名が掲載されることはない。ただし日本においてはへブラ紅色粃糠疹のみ、全身性副腎皮質ステロイド剤の適応疾患として名称が残っており、健康保険が適用される[19]。
再発性落屑性猩紅熱様紅斑
同義語として急性原発性紅皮症がある[20]。発熱、悪寒、全身倦怠感などの前駆症状に頭痛、嘔吐などを伴い、前駆症状出現後の2,3日後より紅斑を生じる。最初限局性の紅斑は早くて数時間、遅くとも2,3日には全身に汎発し、猩紅熱に類似した鮮紅色の紅斑が全身へと拡大する。全身に拡大した紅斑は3,4日すると著明に落屑し、概ね2週から3週の経過で軽快する。搔痒や灼熱感、粘膜病変は軽微であり、脱毛や爪の変化は稀であるものの再発を繰り返すことが最大の特徴である。猩紅熱との違いはイチゴ舌や口囲蒼白がないことである。合併症として肺炎や気管支炎、皮下出血、血尿・蛋白尿などを伴うこともあるが予後はウィルソン・ブロック紅皮症やへブラ紅色粃糠疹に比べ良好で、通常生命への危険はない[21]。
ウィルソン・ブロック紅皮症
Wilsonの亜急性汎発性剥脱性皮膚炎がこれに当たり、紅皮症の分類を初めて行ったBrocqの名前を追加してこの病名となった。中年以降の男性に多く発症する。再発性落屑性猩紅熱様紅斑と同様に発熱や全身倦怠感、嘔吐などの前駆症状を生じた後、関節屈面を初発として鮮紅色の紅斑が概ね1,2カ月の経過で次第に全身へと拡大する。ただし手、足、頭部には病変が及ばないこともある。全身に紅斑が拡大して1,2週後より大葉状の落屑が多量に生じてくる。自覚症状としては著明な搔痒があり、余りの激しさに夜間不眠を生じることも稀ではない。また脱毛や爪の変形・脱落、さらには無痛性のリンパ節腫脹、下痢、蛋白尿を併発する。全経過は3カ月から8カ月におよび、末期には昏睡に陥り死亡することもある。死亡率は10パーセント程度とされる[22][23]。
へブラ紅色粃糠疹
慢性型の原発性紅皮症として分類された。40歳以降、特に高齢者に多く発症する。前二者と異なり発熱や全身倦怠感などの前駆症状は伴わず、関節屈面や陰部、四肢末端を初発とする紅斑が次第に体幹に向かって数か月から年単位という緩慢な経過で拡大する。落屑は比較的早い段階から見られ、紅斑は色調が鮮紅色から次第に色素沈着を帯びて暗赤色となり、末期にはどす黒く変化する。さらに皮膚萎縮が加わり皮膚は光沢を呈し、汚らしい外観となる。随伴症状としては特有の不快な悪寒、汗の分泌低下、鼠径部リンパ節の無痛性腫脹、頭部を始め腋毛、陰毛の脱毛や爪の変形が見られ、顔面皮膚萎縮に伴う眼瞼外反、開口障害、表情運動制限や足底部皮膚萎縮に伴う歩行障害を呈することもある。搔痒はウィルソン・ブロック紅皮症と同様に高度で、やはり激しい痒みに伴う不眠を誘発するほか搔破により二次感染を来たし、伝染性膿痂疹や癤、皮下膿瘍を合併し易い。末期には肝障害や腎障害を合併して次第に衰弱し、死に至ることもある。死亡率はやはりウィルソン・ブロック紅皮症と同様に10パーセント程度である[24][25]。
ウィルソン・ブロック紅皮症とへブラ紅色粃糠疹については小嶋やHerzbergなど原発性紅皮症の存在に対し疑義を呈した研究者から両者の異同が疑問視されており、栗原はへブラ紅色粃糠疹の報告例の多くは経過観察からウィルソン・ブロック紅皮症に属すると指摘した。そして小嶋は両疾患には前駆病変として湿疹性変化があることを見出し、その後両疾患は湿疹続発性紅皮症(後述)に包括されるという見解が支配的となった。ただし一部の学者からはへブラ紅色粃糠疹についてその特異な症状・経過から独立疾患にすべきとする意見もある[15][26]。
その他の疾患概念
原発性紅皮症に包括されていた上記3疾患以外にも下記の2疾患が紅皮症の一種として一時期には専門書に掲載されていたが、原発性紅皮症と同様に廃語に等しくなっている。
小水疱浮腫性紅皮症
急性紅皮症の1型としてHerzbergが提唱した疾患概念である。原発性紅皮症3疾患と異なり前腕部、項、四肢に限局性の紅斑を生じた後に小水疱や膿疱を生じ、急速に全身へ浮腫状の紅斑となって拡大する。その後の経過は多様であり、全身に小水疱が多発して落屑を来たし、関節屈面には湿潤や膿痂疹様の変化を生じるほか舌の発赤や口角の亀裂、眼瞼外反などを来たすケースもあれば浮腫状の紅斑が持続した後に落屑を来たし、特に手足では手袋状の大きな落屑を来たすケースもある。全身症状としては高熱と悪寒、著明な搔痒、無痛性のリンパ節腫脹、乏尿、貧血、低蛋白血症などが生じる。抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン)や梅毒の治療薬として使用されていたサルバルサンによる急性砒素中毒が原因として挙げられ、紅皮症型薬疹(後述)の一種とみられる。予後は特にサルバルサンが原因のものでは10パーセント程度の致死率である[27]。
流行性剥脱性皮膚炎
原発性紅皮症の概念が登場する以前に、紅皮症の一種として報告された疾患に流行性剥脱性皮膚炎があった。詳細に症例を報告したSavilはこの疾患について以下のように述べている。症状としては急性発症であり、顔面・頭部・腕を初発とする対称性の紅斑や丘疹が融合、拡大して汎発化し紅皮症に至るとした。落屑は早期より始まり、4週から5週ほど継続し概ね6週から8週で軽快するが、頸部リンパ節腫脹や末期には爪の変形や脱毛が見られ、また軽快しても再発し易いという特徴があると報告している。しかし同様の報告は以後存在せず、BrocqやHerzbergの紅皮症分類にも掲載されていないため、疾患の存在有無を含め本態は不明なままである[4]。
種類
紅皮症を発症させる疾患は多岐にわたり、湿疹・皮膚炎群を始めとして角化症(遺伝性・炎症性)、感染症(細菌性・ウイルス性・真菌性)、薬剤(薬疹)、悪性腫瘍、免疫異常(水疱症、膠原病、移植拒絶反応)などがあり、皮膚疾患に続発する紅皮症が全体の50 - 60パーセントを占める。ただし原因不明の紅皮症も存在する。原因疾患により症状の程度や予後は異なるが、共通する症状としては皮膚では全身の潮紅と落屑、脱毛や爪の変化があり、これに加え発熱、悪寒、全身倦怠感、皮膚病性リンパ節症と呼ばれる無痛性リンパ節腫脹といった全身症状、落屑や浮腫に随伴する電解質異常や低蛋白血症、搔破や全身状態の悪化などによる浅在性・深在性の二次感染などを併発することがある[28][29]。紅皮症に一般的な病理所見としては表皮の肥厚や真皮へのリンパ球浸潤、錯角化といったものが見られ、検査所見としては末梢血白血球数増多、好酸球増多、CRP上昇、LDH上昇などが見られることが多い[30]。
湿疹続発性紅皮症
紅皮症の原因としては最も多く、皮膚疾患続発性紅皮症の中に占める割合は55 - 75パーセントに上る[28]。原因疾患としては慢性湿疹の汎発例、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎(アトピー性紅皮症)、脂漏性皮膚炎、自家感作性皮膚炎などがあり、何れも治療をせずに放置したり、誤った治療法や不適切な民間療法・温泉療法などによって湿疹が悪化・汎発化して紅皮症へ進展する[29]。男女比は2 - 3:1で男性に多い。アトピー性皮膚炎に伴うアトピー性紅皮症は小児に多いが、それ以外の場合は中高年に多い。このうちHerzbergが提唱した老人性紅皮症は湿疹続発性紅皮症の1型とみなされる[28]。湿疹続発性の場合は搔痒が激しく、浮腫や潮紅といった炎症症状が強い。症状が進行すると次第に色素沈着や皮膚萎縮を伴い、多彩皮膚と呼ばれる皮膚病変の終末状態に陥るが、この場合は従来のへブラ紅色粃糠疹に相当する症状を呈する[31]。
ライネル落屑性紅皮症
1907年にLeinerが初めて報告した紅皮症で、乳児落屑性紅皮症とも呼ばれる。生後6カ月までの乳児、特に母乳栄養児に多いとされ、頭部または肛門周囲を初発とする脂漏性病変から次第に顔面や体幹に向って症状が拡大する。紅皮症の拡大に随伴して粘液の混じった緑色の水様下痢や嘔吐といった消化器症状が起こり、症状が遷延すると体重減少や発育障害を来たす。搔痒やリンパ節の腫脹は軽度であるが免疫不全を伴い、カンジダ症などを併発することがある[32][33][15]。
LeinerやHerzbergは本症を乳児脂漏性皮膚炎の汎発化によるものとし、本態をビタミンB群欠乏症に求めたがその後免疫不全を本態に求める意見が強くなった。この中で補体第5成分(C5)の機能不全に伴う貪食能低下に起因する免疫不全説が一時期有力となっていたが、実態はより様々な免疫不全症を合併していることが判明してきた。また遺伝性を証明する症例も報告されており、本態は遺伝性・孤発性の原発性免疫不全症候群を伴う重症の乳児脂漏性皮膚炎であるとの見解が強い。ビタミンB群の投与や人工栄養への切り替えが古典的な治療法であり、予後も良好とされていたが本態が次第に明らかになるに連れて予後不良例が多くなっている。治療としては免疫不全に伴う日和見感染症に対する抗生物質や抗真菌剤などの投与のほか、新鮮凍結血漿や全血輸血の有効例がある[32][33][15]。なお、本症に類似した疾患として常染色体劣性遺伝による先天性ビオチン代謝異常症があり、早期にビオチンを投与すれば予後は良好である[34]。また免疫不全に伴う紅皮症としてはOmenn症候群という疾患がある。重症複合免疫不全症の一病型とされる本症は常染色体劣性遺伝により発症し、紅皮症に加えリンパ節腫脹、肝脾腫、好酸球増多、高IgE血症を伴う[35]。
丘疹 - 紅皮症
1979年太藤重夫により丘疹 - 紅皮症症候群の名で初めて報告され、1981年には小嶋理一により苔癬様続発性紅皮症の名で報告されたが、皮膚症状が主体であることから太藤は1984年に丘疹 - 紅皮症に改名し、名称も一本化された。高齢者に多く、Herzbergの老人性紅皮症や湿疹続発性紅皮症との異同が議論されている。紅褐色の苔癬状丘疹として発症し、それらが融合して次第に全身に拡大、紅皮症となる。ただし顔面や関節屈面、腋窩、腹部の皺になる部分は潮紅せず健常時の皮膚色が残存するdeck - cheir signと呼ばれる所見が見られる。搔痒や無痛性リンパ節腫脹はあるが紅皮症一般で見られる発熱などの全身症状は欠く。検査所見としては末梢血の好酸球増多症が見られ、組織所見でも真皮において血管周囲の好酸球浸潤が認められるなど好酸球主体の所見が特徴である。ステロイド外用剤に良く反応し、経過は通常1年ないし数年で軽快・治癒する。ただし本症で最も重要なのは患者の30パーセント程度に内臓悪性腫瘍の合併が見られることであり、特に胃癌の割合が多い。内臓悪性腫瘍のデルマドロームとして知られる後天性掌蹠角化症を合併することもあり、胃を始めとする内臓病変の検索を行うことが必要となる[36][37]。
皮膚疾患続発性紅皮症
湿疹・皮膚炎群以外の皮膚疾患が悪化することによって発症する紅皮症である。原因疾患としては以下の通り。
炎症性角化症
炎症性角化症による紅皮症の原因として最多なのは乾癬であり、乾癬性紅皮症と呼ばれる。湿疹・皮膚炎群を除いた皮膚疾患に続発する紅皮症の原因疾患としては半数以上を占める[38]。乾癬患者の数パーセント程度に発症し、尋常性乾癬や関節症性乾癬、急性汎発性膿疱性乾癬から移行する。発症要因としては細菌感染、過度のPUVA療法のほか強力なステロイド外用剤・経口ステロイド剤の投与中止後に発症することもある。このため副腎皮質ステロイド剤の全身投与は尋常性乾癬の治療で使用されることはない。症状としては一般の紅皮症と大差ないが、体温調節の異常を伴うことがある[38][39]。
また扁平苔癬や毛孔性紅色粃糠疹でも紅皮症を起こすことがあるが、毛孔性紅色粃糠疹では1998年にGriffiths(グリフィス)が分類した病型分類のうち1型(成人発症古典型)と2型(成人発症非古典型)において紅皮症への移行例が多い。本症続発の紅皮症では潮紅した全身皮膚の一部に境界がはっきりした健常な皮膚が島のように分布することが特徴である[38][40]。
遺伝性角化症
1902年にBrocqによって報告された先天性魚鱗癬様紅皮症が代表格である。主に常染色体優性遺伝の形式をとる水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(表皮融解性魚鱗癬)と、常染色体劣性遺伝の形式をとる非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症に大別される。何れも出生時より全身の潮紅を以って始まり、非水疱型ではコロジオン児と呼ばれる全身を薄い膜状角化物質で覆われた状態で出生し、剥離するに従い潮紅と落屑が生じる。また非水疱型では軽度の眼瞼外反や口唇外反を生じることもある。成長するに従い角化が顕著になり水疱型では煉瓦状の厚い角化が関節部などに見られる。ただし知能障害や発育障害は通常見られない。水疱型の亜型であるシーメンス型水疱性魚鱗癬(表在性表皮融解性魚鱗癬)や非水疱型の亜型である葉状魚鱗癬では、紅皮症の所見は見られない[41][42]
また魚鱗癬に知能障害や各臓器・組織の異常を伴う魚鱗癬症候群においても紅皮症を発症する。主な疾患として知能障害と痙性四肢麻痺を伴うシェーグレン・ラルソン症候群、アトピー素因・結節性裂毛症などを伴うネザートン症候群、てんかん・知能障害・性腺発育不全などを伴うラッド症候群、血管増殖性角膜炎・魚鱗癬様紅皮症・感音性難聴を三徴とするKID症候群などがある[32][42]。
光線過敏症
光線過敏症では慢性光線過敏性皮膚炎が紅皮症をひきおこす。特に皮膚や末梢血で異型リンパ球が増殖し、悪性リンパ腫に類似した臨床所見や組織所見を呈する慢性光線過敏性皮膚炎の亜型・光線性類細網症が紅皮症を呈しやすい。中高年に発症し、露光部の皮膚のみならず衣服で隠れた部分の皮膚にもUVAやUVB、さらには可視光線による日光皮膚炎の症状を起こし、季節に関係なく遷延する。悪性リンパ腫との鑑別では光線過敏の有無やT細胞受容体遺伝子再構成の有無などが重要となる。徹底的な遮光が肝要である[38][43]。
自己免疫疾患
自己免疫疾患では天疱瘡の一種、落葉状天疱瘡が紅皮症をひきおこす代表例である。表皮の細胞同士を接着する上で重要な役割を担う分子・デスモグレインのうち皮膚主体で分布するデスモグレイン1に対して、IgG自己抗体(抗デスモグレインIgG自己抗体)が機能を阻害することで表皮細胞の接着が無効化され水疱や糜爛を形成する。40歳代から50歳代に発症し、弛緩性の水疱が顔面を初発として次第に頭部、胸部、背部といった脂漏部位に多発する。水疱は破れやすく、破れた後は乾燥して落屑する。こうした病変が週単位または月単位で全身に拡大・汎発化して紅皮症状態となるが、本症の場合は経過が長期化すると鱗屑が厚く固着して角化症に似た外観となる。また皮膚を擦ると水疱が形成されるニコルスキー現象が陽性となるのも本症の特徴であるが、尋常性天疱瘡と異なり粘膜病変は極めてまれである[44][45][46]。
このほか水疱症では水疱性類天疱瘡やジューリング疱疹状皮膚炎でも紅皮症を発症させることがあるほか、膠原病では全身性エリテマトーデスや皮膚筋炎で紅皮症を併発することがある[47]。
皮膚感染症
細菌や真菌、ウイルスなどによる皮膚感染症に続発する紅皮症も存在する。ただし細菌やウイルスによるものは微生物由来の毒素が発症に関与することから、中毒性紅皮症としての側面も持つ[47][48]。
細菌性皮膚感染症ではブドウ球菌や連鎖球菌感染症に続発する。代表的な疾患としてブドウ球菌感染症ではリッター新生児剥脱性皮膚炎としてHerzbergの紅皮症分類にも掲載されたブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)とトキシックショック症候群(TSS)、連鎖球菌感染症では猩紅熱および劇症型溶血性連鎖球菌感染症とも呼ばれるトキシックショック様症候群などがあるSSSSやTSSは黄色ブドウ球菌が産生する毒素が発症の要因とされSSSSではエンテロトキシン(ET)が局所の化膿性病変から全身に散布され、落葉状天疱瘡と同様の機序でデスモグレイン1を破壊することにより皮膚が剥離される。またTSSは膿瘍や化膿性骨髄炎、術後感染などを契機にTSST-1などの毒素が、猩紅熱では上気道感染症などを契機に連鎖球菌によるSPEが、トキシックショック様症候群では連鎖球菌によるM蛋白などが全身に散布されて発症する。何れも発熱・全身倦怠感などの全身症状が強く現れSSSSは新生児や乳児の口囲など顔面の紅斑を初発として急速に全身に紅斑と水疱が拡大、やがてシート状の大きな落屑を生じる。TSSでは高熱を伴う日光皮膚炎様の紅皮症が週単位で全身に拡大、低血圧や多臓器不全を伴う。トキシックショック様症候群では高熱、激しい関節痛や筋肉痛を伴いながら壊死性筋膜炎や紅皮症が全身に拡大、多臓器不全やショックを伴う。猩紅熱では初め蒼紅色、続いて鮮紅色の丘疹が次第に全身に拡大して、4 - 5日後より落屑する[49]。
真菌性皮膚感染症では白癬とカンジダ症に続発するが、免疫不全患者に発症することが多い。このうち白癬については急性汎発性表在性白癬の慢性化が紅皮症の要因として知られる。すなわち、足白癬、頭部白癬、体部白癬、股部白癬といった限局性の白癬が不適切な治療や長年にわたる放置などで全身に病変が拡大した状態が急性汎発性表在性白癬であるが、通常は抗真菌剤の治療に反応する。しかしさらに放置したり患者が免疫不全状態にある場合慢性化して紅皮症の状態を呈する。さらに進行すると白癬の中では最も重篤な汎発性白癬菌性肉芽腫という病態に陥り、肉芽腫による顔面(口唇・鼻・耳介)の破壊や脳・骨・心臓への転移により予後不良となることもある[50][51][52]。
このほか疥癬の重症型である過角化型疥癬(ノルウェー疥癬)、急性ウイルス性発疹症である麻疹や風疹、および結核でも紅皮症を続発させることがある[47][53]。
中毒性紅皮症
いわゆる中毒疹の重症型であり、一部は細菌やウイルス感染症に続発する紅皮症が包括される。しかし最も頻度が多いのは薬剤由来の紅皮症であり、紅皮症型薬疹とも呼ばれる。スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症(ライエル症候群)などと共に重症型薬疹に分類される重篤な薬疹であり薬疹全体の数パーセント、紅皮症では湿疹続発性紅皮症、乾癬性紅皮症に次いで多く10 - 20パーセントの発症率と推定されている。原因薬剤として比較的に高頻度で発症させる薬剤としてアロプリノールや金チオリンゴ酸ナトリウム、シアナミドがあり、抗生物質、降圧剤、消炎鎮痛剤、抗痙攣剤といった使用頻度の多い薬剤群での報告も多いが、湿疹型・播種状紅斑丘疹型・光線過敏症型・多形滲出性紅斑型・苔癬型といった軽症・中等症型薬疹からの移行例もあり、ほぼ全ての薬剤において発症させる可能性がある。従来原発性紅皮症に分類されていた再発性落屑性猩紅熱様紅斑(急性原発性紅皮症)やHerzbergが提唱した小水疱浮腫性紅皮症の多くは紅皮症型薬疹に包括される。症状は紅皮症一般と大差ないが、急性発症であり遷延すると中毒性表皮壊死症への移行もある[48][54][55]。
また特定の薬剤を投与後ヘルペスウイルス6型(HHV-6)が再活性化することで発症する重症型薬疹・薬剤性過敏症症候群においても紅皮症を生じる。カルバマゼピン・ラモトリギン・フェニトイン・フェノバルビタール・ゾニザミドといった抗痙攣薬、アロプリノール、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルフォン、メキシレチンが原因薬剤であり、内服開始から3 - 4週間後に発症し多臓器障害を伴う全身の紅斑を生じ、しばしば紅皮症化する。また薬剤性過敏症症候群に臨床症状は類似するが発熱や多臓器障害を呈さない薬剤誘発性偽リンパ腫という疾患も紅皮症を起こす[48][56]。
腫瘍性紅皮症
紅皮症の中では数パーセントを占める。胃癌などの消化器固形癌に続発することもあるが、原因となる悪性腫瘍の大半は白血病や悪性リンパ腫といった造血系の悪性腫瘍である。腫瘍細胞が皮膚に浸潤して発症する特異疹としての紅皮症と、反応性病変として発症する非特異疹としての紅皮症があり、リンパ節腫脹や後天性掌蹠角化症を合併することがある[57]。
白血病では腫瘍細胞が皮膚に浸潤して特異疹を起こす皮膚白血病において紅皮症を発症させる。全白血病における発症頻度は5パーセント程度と少ない皮膚白血病は急性単球性白血病において最も発症頻度が高く、急性骨髄性白血病や慢性リンパ性白血病でも発症することが多い。概ね白血病の極期から末期に出現し、紅斑・丘疹・潰瘍・腫瘤など多彩な皮膚病変を呈するが、紅皮症については特異疹・非特異疹の両機序で発症する。成人T細胞白血病も紅皮症を呈する。悪性リンパ腫では皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症で紅皮症を発症する頻度が高い。本症の場合、通常は大局面状類乾癬などの前駆病変から紅斑期、扁平浸潤期、腫瘍期の順に極めて慢性の経過をたどるが、初期や末期に紅皮症を呈するBesnier - Hallopeau(アロポー)型と呼ばれるタイプがある。紅皮症を併発した場合、TNMB分類ではT4、病期分類ではⅢA以上の中等度リスク群となる。またセザリー細胞と呼ぶ悪性化したヘルパーT細胞が皮膚に浸潤して搔痒が極めて強い紅皮症を呈するセザリー症候群も皮膚T細胞リンパ腫の一種であるが、5年生存率が24パーセントと極めて予後不良である。このほか血管免疫芽球性T細胞リンパ腫やホジキン病でも紅皮症を発症させることがある[57][58][59]。
術後紅皮症
1955年、霜田俊丸によって初めて報告された紅皮症であり、消化器開腹手術後や開心術後に発症し急激な経過で致死率も高い紅皮症として注目された。原因は当初抗生物質に耐性のブドウ球菌感染症によると考えられ、再発性落屑性猩紅熱様紅斑(急性原発性紅皮症)の重症型に属するという見解があったがその後原因は輸血された血液に起因する宿主の拒絶反応であり、急性移植片対宿主病が本態であることが判明した。輸血後移植片対宿主病とも呼ばれる[60][61]。
輸血後10 - 14日後より発熱、下痢と共に紅皮症が出現し、汎血球減少や肝機能障害など臓器・骨髄が急激に障害されて最終的には播種性血管内凝固症候群(DIC)や敗血症を併発して死亡する。ステロイドパルス療法や免疫抑制剤を使用しても救命に至らない例が多く、紅皮症の中では最も予後不良の病態である。放射線を照射しない血液製剤を輸血することで非自己のリンパ球が体内に侵入するが、自己のリンパ球はそれを非自己と認識しないため定着する。定着した非自己のリンパ球はやがて増殖し、本来は他人のものである自己の臓器・組織を非自己と認識して免疫反応を起こして攻撃するために発症する。発症には組織適合性抗原(HLA)が供血者はホモ接合体、患者はヘテロ接合体で 、かつHLAのハプロタイプの片方が双方で一致していることが条件となる。一旦発症すればほぼ死亡するため、血液製剤に放射線を事前に照射してリンパ球を根絶してから輸血することが極めて重要となる。こうした処置が実施された結果、原因が判明する以前は開心術700回に1回の割合で発症していた術後紅皮症は、2002年の十字猛夫による調査で日本国内ではほぼ根絶された[61][62]。
診断と治療
紅皮症は先述の通り様々な疾患に続発する皮膚反応であることから、最優先に行うのは原因疾患の追求である。皮膚を観察し、原発する皮膚疾患があるかどうかを確認すると同時に患者の既往歴を確認する。例えば紅皮症型薬疹なら薬剤服用歴、術後紅皮症なら輸血の有無などである。またデルマドロームとしての側面を有する丘疹 - 紅皮症や腫瘍性紅皮症などが疑われる場合は内臓の詳細な検索も必要となる[63][64]。
治療も、第一義に行うのは原因となった疾患の治療である。感染症続発であれば抗生物質や抗ウイルス剤、抗真菌剤などの投与、天疱瘡や薬疹、重症の湿疹続発性紅皮症などであれば副腎皮質ステロイド剤、乾癬性紅皮症ではシクロスポリンなどの免疫抑制剤、毛孔性紅色粃糠疹、先天性魚鱗癬様紅皮症ではエトレチナート、白血病や悪性リンパ腫であれば抗癌剤による多剤化学療法などである。その上で皮疹に対しては感染症を除き副腎皮質ステロイド外用剤の塗布を基本に搔痒に対して抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の経口投与、湿疹続発性や乾癬性紅皮症ではPUVA療法やナローバンドUVB療法、電解質異常や低蛋白血症に対する輸液などの全身管理を行う。また薬疹であれば被疑薬の服用中止と再投与の回避、光線過敏症であれば徹底的な遮光といった対策も必要になる。何れにしても外来管理は難しく、基本的には入院して治療を行う[63][64]。
なお、先天性魚鱗癬様紅皮症については二次感染により抗生物質を使用している未成年の水疱型・非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症およびシェーグレン・ラルソン症候群が、小児慢性特定疾患研究事業に基づく公費負担による医療費給付の受給対象となっている[42]。また紅皮症を発症させる疾患のうち、落葉状天疱瘡や膠原病、Omenn症候群などを含む原発性免疫不全症候群については特定疾患治療研究事業対象疾患、いわゆる難病として公費負担の対象になる[65]
予後
紅皮症の予後も、原因疾患によって左右される。湿疹続発性紅皮症や乾癬性紅皮症、光線性類細網症などでは生命予後は良好だが治療には時間が掛かり、特に先天性魚鱗癬様紅皮症は極めて難治、落葉状天疱瘡は症例によっては死亡することがある[63][64]。また紅皮症型薬疹のうち薬剤性過敏性症候群は経過も長く死亡率も20 - 30パーセントと高い[48]。感染症は患者の免疫状態や細菌の薬剤耐性などにより予後が左右され、トキシックショック様症候群や成人発症のSSSSは死亡率が高く、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による発症が増加しているTSSでは7パーセント程度の致死率である[49]。ただし新生児・乳児のSSSSは抗生物質による治療が発達したことで、以前は発症後5日から10日の経過で死亡した予後不良の病態が大きく改善された[66]。腫瘍性紅皮症は概ね予後不良で[57]、術後紅皮症は発症すればほぼ全例死亡する[61]。
出典
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参考文献
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- 難病情報センターホームページ『特定疾患治療研究事業対象疾患一覧表』 2014年2月4日閲覧