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「近鉄50000系電車」の版間の差分

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{{鉄道車両
{{新製品|date=2012年10月}}
|車両名=近鉄50000系電車
'''近鉄50000系電車'''(きんてつ50000けいでんしゃ)は、[[近畿日本鉄道]]の[[特急形車両]]。6両編成2本が在籍する。ここでは、この車両が使われる特急列車「'''しまかぜ'''」についても解説する。
|社色=#cc0033
|画像 = KINTETSU50000 A.JPG
|画像説明=志摩線 加茂駅 - 松尾駅間
|両数=6両編成
|起動加速度=2.5
|営業最高速度=130
|設計最高速度=130
|減速度(通常)=4.0
|減速度(非常)=
|車両定員=
|編成定員=138名(カフェ車両を除く)
|全長=中間車20,500 mm<br />先頭車21,600
|全幅=2,800
|全高=4,150
|車体材質=[[炭素鋼|普通鋼]]
|車両重量=
|編成重量=272t
|軌間=1,435
|電気方式=[[直流電化|直流]]1,500V<br />([[架空電車線方式]])
|駆動装置=[[WN駆動方式|WNドライブ]]
|モーター出力=230kW
|主電動機=[[三菱電機]] MB-5097B2形 [[かご形三相誘導電動機]]
|編成出力=230kW×12=2,760kW
|端子電圧=
|歯車比=17:84 (4.94)
|制御装置=2レベル[[パルス幅変調|PWM]]制御[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]型[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ]]方式<br />三菱電機 MAP-234-15VD102B形
|台車=KD-320・KD-320A [[鉄道車両の台車史#ボルスタレス台車|ボルスタレス台車]]
|ブレーキ方式=[[回生ブレーキ]]併用[[電気指令式ブレーキ]] (KEBS-21A)<br/ >[[抑速ブレーキ]]
|保安装置=[[自動列車停止装置#多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))|近鉄型ATS]]
|製造メーカー= [[近畿車輛]]
|備考=電算記号:SV
}}
'''近鉄50000系電車'''(きんてつ50000けいでんしゃ)は、[[近畿日本鉄道]]の[[特急形車両]]。6両編成2本が在籍する。

「'''しまかぜ'''」の[[鉄道の車両愛称|車両愛称]]を持つ。名称の由来は、[[志摩地方|志摩]]に吹く風の爽やかさと、車内で過ごす時間の心地よさから名づけられた<ref name="近鉄カタログ">近畿日本鉄道『しまかぜ KINTETSU50000 』車両カタログ</ref> 。

解説の便宜上、本項では大阪難波側の先頭車の車両番号+F(Formation=編成の略)を編成名として記述する(例:ク50101以下6両編成=50101F)。また、賢島方面に向かって右側を「海側」・左側を「山側」と記述する<ref>当該系列は伊勢中川駅 - 賢島駅間においてク50600形が賢島方向を向くように、他の特急車と異なって編成の向きが統一されている。従って、[[近鉄名古屋線|名古屋線]]内で見ると当該編成は賢島に向かって左側が海側となるが、ここは[[近鉄大阪線|大阪線]]を基準として、これまでの近鉄車両における呼び方に倣い、賢島に向かって左側を山側と定義する(近鉄大阪線を基準として見た場合、参宮急行電鉄以来の呼称として、上本町に向かって右側を山側、左側を海側(つまり伊勢志摩に向かって右側を海側、左側を山側)と呼ぶ。『近畿日本鉄道 参宮特急史』プレスアイゼンバーン p.105)。</ref>。


== 概要==
== 概要==
2013年に執り行われる[[伊勢神宮]]の第62回[[神宮式年遷宮|式年遷宮]]にあわせ、[[伊勢志摩]]を訪れる観光客に充実した旅行を提案すべく、2012年秋に2編成12両が製造され、2013年3月21日から運行開始された。
6両編成で構成され、[[賢島駅|賢島]]方から1号車展望車ク50600形、2号車モ50500形、3号車カフェ車両サ50400形、4号車グループ席車両モ50300形、5号車モ50200形、6号車展望車ク50100形となっている。


運行区間は、[[大阪難波駅|大阪難波]]と[[近鉄名古屋駅|近鉄名古屋]]の両駅から[[三重県]][[志摩市]]の[[賢島駅]]までの区間で、それぞれの区間で1日1往復する。当該系列は2編成のみの在籍のため、毎週水曜日は車両検査のため運休となる(一部例外がある)。
通常の車両でも[[アーバンライナー]]のデラックスシート以上の座席(2-1人掛けでシートピッチ1,250mm)を配しており、両先頭の展望車のあるハイデッカー構造となっている。また、カフェテリアを持った3号車サ50400形は近鉄伝統の1階建て車となっており、団体専用列車[[近鉄20000系電車|「楽」]]以来、実に22年ぶりの2階建て新造車である。

通常の車両でもアーバンライナーの[[特別席|デラックスシート]]以上の座席(2-1人掛けでシートピッチ1,250mm)を配しており、両先頭車は展望室のあるハイデッカー構造となっているほか、[[カフェ|カフェテリア]]車両は近鉄伝統の2階建構造となっている。さらに、グループ向けのサロン席と和洋個室を設けるなど、当該系列は数ある近鉄特急車両の中でも最上級の接客設備を有する。

これまでの近鉄特急車両は、[[近鉄21000系電車|21000系「アーバンライナー」]]をはじめ[[近鉄23000系電車|23000系「伊勢志摩ライナー」]]のような固定編成系列であっても、レギュラーシート([[普通車 (鉄道車両)|普通車]])の設定があり、汎用型特急車両との設備面の差が極端に大きいわけではなかった。このため、通常の特急運用に21000系や23000系が投入されることもこれまでは行なわれてきた。しかし、当該系列は観光特急専用車両として在来の近鉄特急車両とは一線を画し、レギュラーシートの設定が皆無のうえ、全席に特急料金とは別にしまかぜ特別車両料金が設定される。このため、通常の特急運用との互換性を一切持たず、「しまかぜ」専用の運用のみ受け持つ。設備面は在来特急車両とは次元が異なっており、あくまで伊勢志摩観光輸送に徹した内容で、通勤利用、短距離利用を想定していない。[[近鉄30000系電車|30000系「ビスタカーⅢ世」]]も伊勢志摩観光特急車両として開発されたが、開発当時の時勢もあって1席でも多く座席を設置する車内構成に対し<ref>編成あたり36席(階下席を除く)の回転不可の座席が設けられたが、そこまでして一定の定員数を確保する施策が優先された。</ref>、50000系では徹底して乗客本位のスタイルを追求した結果、座席数は大きく減少し、既存の特急車両の約半分となった。

[[Image:しまかぜマーク.jpg|60px|left|InterCity]]
当該系列で運用される特急列車の場合、近鉄の駅提出の時刻表では、特急欄の中に「しまかぜ」専用の欄を設けて時刻を提示する。近鉄時刻表ではの3つの爽やかな風を描いた「しまかぜ」マークを掲示する。JTB時刻表ではSVで表す。ほか、車椅子対応設備を有するため、[[車椅子|車椅子マーク]]も同時掲載する。なお、主として毎週水曜日は定期検査(または貸切列車として運用)により運休となるため、その旨も但し書きとして掲示される。

=== [[編成 (鉄道)#編成番号|電算記号]] ===
'''SV''' を使用する。

== 開発経緯 ==
[[ファイル:KINTETSU50000 SHIMA LINE.JPG|thumb|300px|right|旅への期待感を持続させるデザインが採用された<br />[[志摩線]] [[鳥羽駅]] - [[中之郷駅]]間]]
伊勢神宮における20年に1度の式年遷宮に照準を合わせ、2009年夏頃から構想がもたれた。この当時、議論の俎上に載せられ、鉄道運営を行なう立場から見て問題視された社会情勢は下記の通りであった<ref name="ジャーナル2013-4">『鉄道ジャーナル』第558号、鉄道ジャーナル社、2013年4月、 85 - 91頁</ref> 。
*[[少子高齢化]]社会の到来
*[[モータリゼーション]](車社会)の進展
*乗客が鉄道に求める機能やサービスの多様化
これらの現実を踏まえたうえで、鉄道に求められるサービスを追求するため、次の開発テーマを設定した。
*移動手段としての電車を超える
*乗ること自体が旅の目的となる
*移動時間自体が楽しみとなる
上記テーマを具現化させるため、21000系の開発以来定番となっている[[マーケティングリサーチ]]を実施した。ただし、その規模は広範囲かつ多大で、[[関西]]、[[中部]]、[[首都圏]]における[[インターネット]]調査(4,000人を対象)をはじめ、伊勢志摩方面に向かう特急利用客約1万名、伊勢志摩地域の宿泊施設利用者や観光事業者のアンケート、[[ヒアリング]]調査を実施し、求められる車両の姿を浮き彫りにしていった<ref name="ジャーナル2013-4"/>。

こうして得られた意見をもとに車両コンセプトを設定した<ref name="ジャーナル2013-4"/>。
*広々とした座席空間
*快適さを追求したプレミアムシート
*様々な旅のスタイルにこたえるバリエーション豊かな客室
*気持ちよくご乗車いただくための設備、サービス

デザインは、21000系以来近鉄の車両デザインを手がけている山内陸平が監修を担当した。山内は車両コンセプトとして、出発駅で乗客が抱く期待感を目的地まで持続させるように「わくわく感の醸成と持続」と設定した。そして、「少しでも上質な旅空間を」という思いでデザインしたと語っている<ref name="近鉄カタログ"/>。

なお、前面展望式ハイデッカー特急車の構想自体は50000系に始まったことではなく、戦後間もないころに存在した。1952年1月の近鉄社内誌『ひかり』において「豫想される近鐵超特急」という見出しで、前面ガラス張りのハイデッカーとなった電車のイラストが記載されている<ref>田淵仁著 JTB CAN BOOKS『 近鉄特急 上 』JTB p.97 ISBN 4-533-05171-5</ref>。「展望車」の構想の一部は[[近鉄10000系電車|10000系]]・[[近鉄10100系電車|10100系]][[ビスタカー]]で2階建て特急として実現されたが、前面展望式ハイデッカー特急車の構想はこれまで実現されることはなかった<ref>団体車両の20000系「楽」では実現された。[[近鉄26000系電車|26000系「さくらライナー」]]では平床ながら客席からの展望が実現したが、後年の車体更新によって利かなくなった。</ref>。21000系の初期イメージスケッチではこの案が存在したが、全車平床に決定された際に立ち消えとなり<ref>『鉄道ピクトリアル』1988年12月臨時増刊号 No.505 電気車研究会 p.25</ref>、ダブルデッカー式先頭車については[[近鉄12400系電車#12400系|12400系]]開発の際のイメージスケッチで存在したが、これも立ち消えとなった<ref>『鉄道ファン』2011年12月号 No.608 交友社 p.31</ref>。現れては消えた構想は、当該系列でようやく日の目を見ることになった。

== 外観・車体構造 ==
[[ファイル:KINTETSU50000 F1.JPG|thumb|200px|right|多面構成のフロント]]
[[ファイル:KINTETSU50000 F3.JPG|thumb|200px|right|サイドビュー]]
車体は近鉄特急車共通の普通鋼製である。

先頭形状は、曲面を多用するこれまでの近鉄特急車両と異なり、多面構成とした。大型ガラスを6枚使用し(ライトや扉下部も含めれば9枚)、両サイド下のガラスに[[HID]]式の前照灯各2灯ずつを配した。伝統的に運転台よりも上に前照灯を配置してきた近鉄電車において異質なデザインとなったうえ、ブラックアウト処理から電灯部が顔をのぞかせる部分の切れ込みが吊り上っているため、鋭角的な先端形状とも相まって鋭い印象を与える。中央ガラス部は[[非常口#鉄道|非常扉]]を兼用し、上に跳ね上げて開く方式である<ref>近鉄沿線に非常用貫通扉を必要とする区間は存在しないにもかかわらず当該系列では設置された。<!-- 阪神なんば線走行を意図した処置であろうことは想像に難くないが、それを裏付ける検証可能性を満たす資料が存在しない現状ではそれ以上の記述は控える。--></ref>。[[通過標識灯|標識灯]]兼[[尾灯]]は[[近鉄22600系電車|22600系]]と同様、車体下部に吊り下げて設置した。[[排障器]]はブラックで目立たなくさせたうえで、車体デザインと一体になったスカートを前面に設置した。連結器は密着式で、使用時以外は奥に格納する。[[ワイパー]]は運転台と中央の窓に2か所設置した。

窓は全車1窓単位で独立しており、[[近鉄21000系電車|21000系]]以来連続窓を基調とした流れとは一線を画すデザインとなった。プレミアムシートのハイデッカー車は縦1,270mm×横950mm、平床車は縦950mm×横1,000mm、サロンは縦1,225mm×横1,700mm(通路側も同サイズ)、個室は縦1,225mm×横1,700mm(通路側は縦1,225mm×横1,300mm)、喫煙室は縦1,225mm×横1,300mm、カフェは2階が縦1,490mm×横1,100mm、1階が縦620mm×横1,100mm(通路側も上下同サイズ)である<ref name="ジャーナル2013-4"/>。

乗降扉は22600系と同形状の[[プラグドア|プラグ式]]で、バリアフリー対応として全扉の開口幅を900mmに統一した<ref name="ジャーナル2013-4"/>。

また、本系列はダブルデッカー、[[ハイデッカー]]、平床の3種類の車両を併せ持つ編成であるため、凹凸の多い外観も特徴の一つで、この内、ハイデッカーとダブルデッカーは[[車両限界]]で許容される高さ一杯まで車体が拡大され、コンター(車体断面)は30000系中間車や20000系に準ずるが、両サイドには緩いカーブが描かれ、この2系列とは趣が異なる。平床車両は22600系のコンターに準ずるが、レール面上から車体最上部までは3,758.9mm(22600系比+68.9mm)とされ、特に屋根肩部は車両限界まで肉薄する高さとなった。これによって、ダブルデッカー車やハイデッカー車と隣り合っても、違和感のない外観となった。

塗装は「伊勢志摩の晴れやかな空」をイメージしたファインブルーと、クリスタルホワイトの組合わせで、爽やかさを表現するとともに、境目に最上級を表す金帯を配した<ref name="近鉄カタログ"/>。モ50200形とモ50500形の側面に「しまかぜ」のロゴタイプをプリントし、あわせて心地よい風をイメージした流れるようなマークもプリントした。

列車無線アンテナは両先頭車の連結面寄りに設置した。屋根部分を斜めにカットし、20000系のサイドビューと似通う。

基本的にク50100形とク50600形、及びモ50200形とモ50500形の車内構成は一部を除き共通であるため、側窓や外観も共通部分が多い。しかし、サロンと個室を配するモ50300形とカフェ設備を有するサ50400形は前二者と大きく異なって、先頭形状とともに当該系列の特異性を際立たせる外観的特徴を持つ。モ50300形は[[近鉄30000系電車|30000系]]以来で車体中央に乗降扉を配置し、大阪(名古屋)側にサロン、伊勢志摩側に個室を設け、このため窓も大窓とされた。サ50400形は[[近鉄20000系電車|20000系「楽」]]以来久しく途絶えていた[[2階建車両|ダブルデッカー]]構造で、窓も階下、階上室用に別個で設置した。塗装も基調色の青が車両の大半を覆い、なおのこと特異な印象を与えている。

<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 KU50600.JPG|ク50600形(ク50100形と概ね共通)<br />ハイデッカータイプ
ファイル:KINTETSU50000 MO50500.JPG|モ50500形(モ50200形と概ね共通)<br />平床タイプ
ファイル:KINTETSU50000 SA50400.JPG|サ50400形<br />当編成の特異性を際立たせる窓配置
ファイル:KINTETSU50000 MO50300.JPG|モ50300形<br />サロンと個室のため、大窓を装備
ファイル:KINTETSU50000 FACE.JPG|鋭い印象のフロント
ファイル:KINTETSU50000 SHIMAKAZE MARK.JPG|側面のしまかぜのマーク
ファイル:KINTETSU50000.JPG|22600系と同構造のプラグ式ドア<br />ドアサイドに行先表示器を設置
ファイル:KINTETSU50000 列車無線アンテナ.JPG|屋根を切り欠いてアンテナを設置
</gallery>


==機器==
==機器==
基本的なシステムは[[近鉄21020系電車|21020系「アーバンライナー・ネクスト」]]に準じている<ref name="ファン2013-4">『鉄道ファン』第624号、交友社、2013年4月、 54 - 63頁</ref>。
電動車は三菱製のVVVFインバータを採用している。
=== 主要機器 ===
パンタグラフは全てシングルアームとなっている。モ50500形に2基、モ50300形はパンタグラフを1基、モ50200形は1基搭載している。
==== 電装品 ====
台車は動力台車KD320、付随台車KD320Aとなっている。
制御装置は[[三菱電機]]製高耐圧2レベル[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]][[半導体素子|素子]]による[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]] (MAP-234-15VD102B) で、1基の制御装置で2台の[[主電動機]]を制御する1C2M方式を採用し、各電動車の床下には制御装置2基を一体箱にまとめた形態で搭載している<ref name="ファン2013-4"/>。

主電動機は三菱電機製のMB-5097B2[[かご形三相誘導電動機]](定格出力230[[ワット (単位)|kW]])を各電動車に4台装備する。駆動方式は[[WN駆動方式|WNドライブ]]で、[[歯車比]]は4.94である<ref name="ファン2013-4"/>。

[[磁励音]]は21020系とは変調が変わっており、全く違う音となっている。試運転を開始した当初は21020系と同じものであったが、しばらくしてから制御プログラムが変更されており、その後そのままで営業運転開始されている。この磁励音は22600系の一部でも変更されている。

[[起動加速度]]は2.5[[メートル毎秒毎秒|km/h/s]]、減速度は4.0km/h/sである<ref name="ファン2013-4"/>。

[[鉄道のブレーキ|制動装置]]は[[回生ブレーキ|回生ブレーキ]]併用[[電気指令式ブレーキ|電気指令式]] (KEBS-21A) で、回生ブレーキを有効に使用するためのT車[[遅れ込め制御]]の機能や、滑走防止制御機能を有する<ref name="ファン2013-4"/>。

==== 補機・集電装置 ====
補助電源装置は[[静止形インバータ]] (INV174-D0) を両先頭車に搭載し、出力は140kV[[アンペア|A]]である。インバータ部を2台搭載し、通常1台のみ運転し、4日おきに交互に運転する待機二重系である<ref name="ファン2013-4"/>。

[[圧縮機|空気圧縮機]]は近鉄車両として初めてスクロール式(吐出量は1,600L/min)を両先頭車に搭載した。箱内には[[冗長性]]を持たせるため、3台の圧縮機と他に周辺機器が収めてある<ref name="ジャーナル2013-4"/>。

[[集電装置|パンタグラフ]]は全て[[集電装置#Z型・シングルアーム型|シングルアーム]]式([[東洋電機製造]] PT7126-A)となっている。モ50500形に2基、モ50300形とモ50200形は各1基搭載である。パンタグラフの間接方向は、モ50500形が大阪、名古屋向きで、他は賢島向きとなり、これまでの編成単位で向きを統一してきた流れとは異なっている。
==== 台車 ====
台車は近畿車輛製の[[鉄道車両の台車史#ボルスタレス台車|ボルスタレス式]]で、[[蛇行動#ヨーダンパ|ヨーダンパ]]を装備した。基礎ブレーキ装置は全車に片押し式[[踏面ブレーキ]]を装備するほか、付随車では[[ディスクブレーキ]]も併設している。形式はM車がKD-320形、Tc, T車がKD-320A形である。また、当該形式は新幹線以外で初めて全車両にフル[[アクティブサスペンション]]を搭載し、台車枠と牽引梁の間に設けた空気式アクチュエータを制御することで車体振動を抑える<ref name="ファン2013-4"/>。
<gallery perrow="3" widths="180" style="font-size:90%;"><!--見栄えを優先し、暫定でperrow=3とする-->
ファイル:KINTETSU50000 KD-320 KD-320A.JPG|KD-320とKD-320A台車
ファイル:KINTETSU50000 VVVF.JPG|制御装置(VVVF)<br />MAP-234-15VD102B
ファイル:KINTETSU50000 SIV.JPG|補助電源装置(SIV)<br />INV174-D0
ファイル:KINTETSU50000 BT SIV.JPG|蓄電池(左)と電動空気圧縮機(右)
ファイル:KINTETSU50000 抑速発電抵抗器.JPG|抑速発電抵抗器<br />右端は充電抵抗器
ファイル:KINTETSU50000 PANTOGRAPH 2.JPG|シングルアーム式パンタグラフ<br />PT7126-A
</gallery>

=== その他機器 ===
空調機器は22600系と概ね同様で、屋根上装置外観やキセも似通うデザインである。しかし、両先頭車はハイデッカー構造のため、屋根上に機器を搭載せず、客室床下と床中部にセパレート形装置を搭載した。また、サ50400形(ダブルデッカー車両)は平床部分屋上とセパレート形装置を2台搭載した。暖房機能も概ね同様で、空調装置内に電気式ヒーターを内蔵し、腰掛脚台および壁内にも設置した。また、当該系列は個室が存在するため、部屋単位の温度調整を可能とした。なお、和風個室の堀りこたつ箇所に床暖房機能を別に追加した。ほか、カフェ車両1階も独立した温度調整が可能である<ref name="ファン2013-4"/>。

モ50300形屋上に衛星放送受信用のアンテナを設置した。通常はFRP製のカバーで覆われている<ref name="とれいん2013-3">『とれいん』第459号、エイリイ・プレスアイゼンバーン、2013年3月、 6 - 19頁</ref> 。

行先表示器の仕様は22600系と同様である。日本語、[[英語]]を交互で表示するほか、「しまかぜ」の表示も行なう。速度60km/h以上で消灯する<ref name="ファン2013-4"/>。
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 AIR CONDITIONER.JPG|ユニット形空調装置(写真上)<br />セパレート形空調装置(写真下)
ファイル:KINTETSU50000 AIR CONDITIONER2.JPG|サ50400形床下のセパレート形空調装置と外板カバー
ファイル:KINTETSU50000 MO50300 ANTENNA.JPG|モ50300形屋上<br />丸状の機器が衛星放送受信アンテナ
ファイル:KINTETSU50000 LED式行先表示器.JPG|3色LED式行先表示器<br />車側表示灯カバーは無色透明となった
</gallery>

==== 床下機器の配置 ====
機器配置は両先頭車同士、モ50200形とモ50500形同士は基本的に同一機器配置である。ただし、ク50100形を方向転換すればク50600形の機器配置となる訳ではなく、山側、海側の配置は両車共通の機器構成で、前後の並び順が逆となり(連結面より鏡に映したイメージ)、モ50200形とモ50500形の場合も同様である。モ50300形はモ50500形とほぼ同じ並び順である。

== 乗務員室 ==
運転台は22600系に準じて、マスコン(左)、ブレーキ(右)の2ハンドルデスクタイプで、アナログ式メーターを装備する。右側に乗務員支援用のモニタを設置した。フロアレベルは背後の客室と異なって平床で、客席とは2段の階段で連絡する<ref name="とれいん2013-3"/>。非常時は、乗客が客室から前面非常扉を介して車外に脱出するため、通路状の構成とした。室内は客室からの展望性重視のためガラス張りで、太陽光による業務への支障が出ないように[[赤外線]]、[[紫外線]]を遮断するガラスを使用した<ref name="ジャーナル2013-4"/>。通路部右側のコンソール上に車内放映用カメラを設置したが、カバーを設けて目立たなくさせた。
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 DRIVER'S CAB 1.JPG|2ハンドルデスクタイプ
ファイル:KINTETSU50000 DRIVER'S CAB 5.JPG|非常出口を兼ねた室内<br />そのための通路を設けている
ファイル:KINTETSU50000 DRIVER'S CAB 3.JPG|ガラスには赤外線と紫外線を遮断する機能を付加
ファイル:KINTETSU50000 DRIVER'S CAB 4.JPG|客室との連絡階段
</gallery>

== 編成 ==
[[MT比]]3M3T([[動力車|電動車]]3両・[[付随車]]3両)の6両編成で組成される。[[賢島駅|賢島]]方から展望車ク50600形、モ50500形、カフェ車両サ50400形、グループ席車両モ50300形、モ50200形、展望車ク50100形となっている。機器システム上は大阪側4両と賢島側2両で分割可能な構成になっており、モ50500形の貫通路部分には[[入換 (鉄道)|入換]]用の簡易[[操縦席|運転台]]が設けられている(サ50400形には設定がない)<ref name="とれいん2013-3"/>。従って、モ50500形 - サ50400形を繋ぐ連結器は[[連結器#密着連結器|密着式連結器]]([[連結器#電気連結器|電気連結器]]付)で、それ以外の車両間は[[連結器#棒連結器(永久連結器)・半永久連結器|三管式半永久連結器]]である。なお、モ50200形とモ50500形の自重49.0tは軽量化が進んだ平成以降の電車としては重く、近鉄の現有車両では最大である<ref>第2位は[[近鉄20000系電車|20000系]]のモ20200形・モ20250形の48tであるが、同系は全車がハイデッカー・ダブルデッカーであり平床車であるモ50200形・モ50500形の重さが際立つ。</ref>。

編成の向きは他の特急車両と異なり、大阪、名古屋発着に関わらず伊勢中川- 賢島間においてク50600形が賢島方向を向くように、向きを統一している。
{| class="wikitable" style="text-align: center; font-size:80%; margin:1em 0em 2em 3em;"
|+ 50000系の編成表
!style="width:10em;"|項目\運転区間
|colspan="6"|{{TrainDirection|大阪難波・近鉄名古屋|賢島}}
|-
|-style="border-top:solid 2px #1F97DF;"
!style="width:6em;"|形式
|style="width:11em;"|ク50100形 (Tc1)
|style="width:11em;"|モ50200形 (M1)
|style="width:11em;"|モ50300形 (M2)
|style="width:11em;"|サ50400形 (T)
|style="width:11em;"|モ50500形 (M3)
|style="width:11em;"|ク50600形 (Tc2)
|-
! style="width:8em;"|号車
| style="width:8em;"| 6 (1)
| style="width:8em;"| 5 (2)
| style="width:8em;"| 4 (3)
| style="width:8em;"| 3 (4)
| style="width:8em;"| 2 (5)
| style="width:8em;"| 1 (6)
|-
!車両写真
|[[ファイル:KINTETSU50000 SV1.JPG|140px]]||[[ファイル:KINTETSU50000 SV2.JPG|140px]]||[[ファイル:KINTETSU50000 SV3.JPG|140px]]||[[ファイル:KINTETSU50000 SV4.JPG|140px]]||[[ファイル:KINTETSU50000 SV5.JPG|140px]]||[[ファイル:KINTETSU50000 SV6.JPG|140px]]
|-
!搭載機器
| SIV,CP,BT || >,VVVF || >,VVVF || || <,VVVF,< || SIV,CP,BT
|-
!自重
|44.0t
|49.0t
|47.0t
|39.0t
|49.0t
|44.0t
|-
!座席種別
|style="background:#FCFBF0;"|'''プレミアム'''
|style="background:#FCFBF0;"|'''プレミアム'''
|style="background:#EEF9FF;"|'''サロン・個室'''
|style="background:#e9e9e9;"|'''カフェ'''
|style="background:#FCFBF0;"|'''プレミアム'''
|style="background:#FCFBF0;"|'''プレミアム'''
|-
!車体構造
| ハイデッカー
| 平床
| 平床
| ダブルデッカー
| 平床
| ハイデッカー
|-
!定員
| 27
| 30
| 26
| (19 座席指定なし)
| 26 + 2(車椅子用座席)
| 27
|-
!車内設備
| ロッカー◇<br />車内販売準備室◇ || ◇多目的型トイレ・洗面所<br /> ◇パウダールーム<br />自動販売機◇|| トイレ・パウダールーム◇<br />◇喫煙室 || 車内販売準備室・厨房◇<br />◇手洗いカウンター || 多目的型トイレ・洗面所◇<br />パウダールーム◇ || ◇ロッカー<br />◇車内販売準備室
|}
* 号車欄の( )は近鉄名古屋発着編成の号車番号。
* 形式欄のMはMotorの略でモーター搭載車(電動車)、TはTrailerの略でモーターを搭載しない車(付随車)、Tcのcはcontrollerの略で運転台装備車([[制御車]])。
* 搭載機器欄のVVVFは[[主制御器|制御装置]]、SIVは補助電源装置、CPは[[圧縮機|電動空気圧縮機]]、BTは[[蓄電池]]、>または<はパンタグラフ(間接方向を示す)。
* 車内設備欄の◇は設備取付位置(左にあれば大阪、名古屋側に設置)
* 編成定員は138名(座席指定分)。
<gallery perrow="3" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 LIGHT(MO50500).JPG|モ50500形の簡易運転台用ライト
ファイル:KINTETSU50000 COUPLER1.JPG|モ50500形とサ50400形の連結器は電気連結器付(右写真は半永久式)
</gallery>


==車内==
==車内==
==== 客室 ====
プレミアムシートには本革を使用しており、ふくらはぎを支える電動[[レッグレスト]]が装備されている。鉄道車輌として初めてとなるシート背もたれにエアクッションを設置し、腰部の硬さを調整するランバーサポート機能やリラクゼーション機能も備えている。また、コンセントや読書灯も設置されている。
車内構成は大別すると、両先頭車のハイデッカータイプのプレミアムシート車両、平床タイプのプレミアムシート車両、グループ専用車両(個室、サロン)、カフェ車両の4タイプに分類できる。


照明は消費電力の低減による環境的配慮からLEDを主に使用したが、従来の蛍光管に比べて機器を薄くすることが可能となり、荷棚の厚さや天井高さに対して有効に作用した<ref name="ジャーナル2013-4"/>。
4号車のグループ席は6人用サロン席は3カ所設置されている。グループ席には、靴を脱いでくつろげる掘りごたつ風の「和風個室」や、リビングのようにゆったりとした時間を過ごせる「洋風個室」が用意されている。


座席ヘッドレストの握り棒、乗降ドア付近、サロン通路部等に席番案内を印字したが[[点字]]も併設し、ほか、階段部付近の床にも点字を設けて[[視覚障害者]]に対して配慮した。
== 特急列車「しまかぜ」 ==
===== プレミアムシート車両 =====
2013年3月21日以降、水曜日を除く週6日運転(ただし春休み・夏休み・ゴールデンウィーク・年末年始時は毎日運転)で大阪難波 - 賢島間 ・近鉄名古屋 - 賢島間を各1往復する予定。
両先頭車はハイデッカー車両で、運転席直後に出入台を設けず、展望性重視として客室を配した。床面高さは平床と比べて+720mmで、天井高さは2,220mmをとり<ref name="ジャーナル2013-4"/>、平床の21020系に匹敵する高さである。窓高さは大きく引き上げられ、床面高さから窓下辺までは500mmで座席の肘掛よりも低い位置にあり、展望車両としての機能を付加した。車内構成は20000系中間車に準ずるが、先述のLED採用もあって荷棚等の厚さが薄くなり、空間が拡大された。荷棚奥行きは狭いため、室外にロッカーを設けた(後述)。荷棚照明は平床車に準ずる。天井飾り板に車内放送用のスピーカーをビルトインし、表面はやまぶき色である。天井は空調吹出口の設置が出来ないため、20000系と同じく窓柱部分に設けた<ref name="ファン1991-2">『鉄道ファン』第358号、交友社、1991年2月、 10 - 18頁</ref> 。また、平床車荷棚に装備されている個別空調は省略された。床面は平床車も含めて全面カーペット敷きで、緑主体の模様入りとした。


中間車は基本的な構成は22600系に準ずるが、デザイン処理を大きく変更した。天井間接照明はほぼ22600系と同様だが、荷棚照明は直接照明で、1窓につき4灯が配列された。荷棚は30000系中間車以来でガラスを使用し、個別空調も設置した。窓高さは22600系よりも押さえられて950mm(-15mm)だが、床面高さから窓下辺までは650mm(-75mm)で眺望性が向上した<ref name="とれいん2013-3"/>。天井高さは2,260mmを確保した<ref name="ジャーナル2013-4"/>。
特急料金の他に「しまかぜ」の特別料金を別途設定する。


天井間接照明、荷棚照明は、走行中は電球色、停車中は昼白色に変化する<ref name="とれいん2013-3"/>。[[カーテン]]は全席電動式ロールカーテンとされ<ref name="ファン2013-4"/>、伝統的に横引き式を採用してきた近鉄特急にあって大きく方針転換された。窓柱に上昇下降スイッチが設けられた。客室扉はガラス製の横縞の模様入りである。片開き式を基本とするが、モ50500形賢島寄りは車椅子利用に配慮して両開き式である。扉上部には22インチLCD式ディスプレイとその横にLED式サインパネルおよびトイレ使用表示灯が併設された。なお、運転台直後の妻壁扉上はディスプレイ式ではなくLED式である<ref name="ファン2013-4"/>。
=== しまかぜ(大阪便)の停車予定駅 ===
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%">
[[大阪難波駅]] - [[大阪上本町駅]] - [[鶴橋駅]] - [[大和八木駅]] - [[伊勢市駅]] - [[宇治山田駅]] - [[鳥羽駅]] - [[鵜方駅]] - 賢島駅
File:Simakaze 12.JPG|前面展望
ファイル:KINTETSU50000 PASSENGER COMPERTMENTS 2.JPG|ハイデッカー車両客室
ファイル:KINTETSU50000 PASSENGER COMPARTMENTS1.JPG|平床車客室
ファイル:KINTETSU50000 RACK.JPG|スポット空調付荷物棚<br/>照明と特急券発売情報表示灯を併設
</gallery>


プレミアムシートには本革を使用しており、ふくらはぎを支える電動レッグレストが装備されている(フットレストは省略)。鉄道車輌として初めてとなるシート背もたれにエアクッションを設置し、腰部の硬さを調整するランバーサポート機能やリラクゼーション機能も備えている。また、読書灯や肘掛下部にコンセントも設置されている<ref name="ファン2013-4"/>。座席背面には大型テーブルを設け、ひじ掛け内にも折りたたみ式テーブルを設置のうえ、テーブル表面に天然木を使用した。
=== しまかぜ(名古屋便)の停車予定駅 ===

[[近鉄名古屋駅]] - [[近鉄四日市駅]] - 伊勢市駅 - 宇治山田駅 - 鳥羽駅 - 鵜方駅 - 賢島駅
シートピッチ(座席中心の前後間隔)は1,250mmで、近鉄特急だけでなく[[JR]]の特急でも類をみない広さを有する<ref>JR東日本の「スーパービュー踊り子」グリーン車や新幹線の「[[グランクラス]]」は、シートピッチは1,300mmである。「グランクラス」はグリーン料金に5,000円を加算するが、それに比べるとプレミアムシートはプラス700円から1,000円の範囲で、シートのクオリティに対して割安である。</ref>。このため、定員が極端に減少し、両先頭車が1両につき27人、平屋車両が1両につき30人(車椅子対応車は28人)となった。

車椅子対応車両は賢島方から2両目の車両で、山側2席分が設けられた。席番は32Cと33Cとなる。座席は一見すると他のプレミアムシートと同じに見えるが、座席背面や脚台にベルト関係品が装備される。
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%">
ファイル:KINTETSU50000 SEATS 5-1.JPG|2人掛け席
ファイル:KINTETSU50000 SEATS 6.JPG|座席背面とひじ掛け内蔵形テーブル
ファイル:KINTETSU50000 SEAT2.JPG|コントロールパネル
File:Simakaza 09.JPG|座席の点字表記
</gallery>

===== グループ専用車両 =====
グループ車両は、車両中央の出入台を挟んで大阪、名古屋側に6人用サロン席を3か所と喫煙室、賢島側に和洋各個室を2室設けた。また、サロン席は山側、個室はその反対側に通路を配した。

サロン席はヨーロッパの客車を連想させる[[コンパートメント席|コンパートメント]]形式で、ガラスの簡易仕切りを設けた。天井はドーム型で、頭上にガラス張りの荷棚を設けた。座席間に大型テーブルを設けた。座席は6人仕様だが、発売は4人から可能である。
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 COMPARTMENTS2.JPG|サロン
ファイル:KINTETSU50000 COMPARTMENT1.JPG|グループ車両の通路
</gallery>

個室は、靴を脱いでくつろげる掘りごたつ風の「和風個室」や、リビングのようにゆったりとした時間を過ごせる「洋風個室」が各1室ずつ用意されている。和風個室は床の間のイメージで、照明は床から天井にかけて光の演出がなされ、この部分には花模様が描かれている。壁には観光情報や車載カメラからの映像等を流す液晶ディスプレイが設置されたほか、入口付近に下駄箱が設けられ、靴を脱ぐ玄関スペースが設けられた。定員は4人であるが、3人から発売される。洋風個室はソファを大窓に向かってL字型に配し、車窓を正面から見ることが出来る。ほか、身だしなみを整えるための鏡([[液晶]]ディスプレイも併せて設置)と小テーブルならびにスツール(肘掛のない椅子)が1つ用意されている<ref name="近鉄カタログ"/>。テーブルと背後の壁は木目である。定員や発売方法は和風個室と同様である。カーテンは電動式ロールカーテンが採用された。両個室ともカフェメニューのルームサービスが可能で、そのために[[アテンダント]]呼び出しボタンが設置されている<ref name="近鉄カタログ"/>。
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 Private room 2.JPG|和風個室<br />堀ごたつ風の雰囲気
ファイル:KINTETSU50000 Private room 1.JPG|和風個室<br />特徴的な照明と下駄箱スペース
ファイル:KINTETSU50000 Private room 3.JPG|洋風個室<br />身だしなみを整えるための小テーブルとスツールも用意
File:Simakaze 08.JPG|洋風個室<br />4人分のソファがL字状に並ぶ
</gallery>

===== カフェ車両 =====
ダブルデッカー構造で、室内は全てフリースペースで座席の指定はない。1階、2階ともにカフェ室で、海側には平床通路を設けて階段を上下しないで通り抜けることも出来る。2階は13席の回転椅子があり、意匠性に富んだテーブルが窓側に設置され、流れゆく景色を眺めながら飲食できる。通路と2階は吹き抜けであるため、2階背面は解放感をともなう。アプローチの階段部と室内中ほどにプランターボックスを設置したほか、妻壁にLCDディスプレイを設けた。1階はソファタイプの独立した席が6席あり、入口のガラス製のドアを閉めることによって個室化することも可能で、そのためにグループ利用も出来る。この室内のみ横引き式カーテンを設置した。また、すべてのテーブル上に、メニュー注文時のアテンダント呼び出し用としてコールボタンを設けた。どちらの階も照明は主として天井間接照明で、窓柱部に意匠性に富んだ直接照明を設置した。空調吹出口は2階が足元、1階が窓上とテーブル下にある。1階・2階共に大阪寄、賢島寄のどちら側にも階段があるが、原則として賢島寄を常用として、大阪寄は非常用の扱いである。特に1階の非常用階段は、普段は閉ざされており見ることはできない。また、大阪寄階段付近に手洗いカウンターを、賢島寄階段付近に車内販売準備室兼用の販売カウンターを設けた。準備室には標準的な装備のほか、ビールサーバーや[[コーヒーメーカー]]も設置した。近鉄特急で、調理を伴う供食設備を持つ車両は、[[近鉄12000系電車|12000系・12200系]](スナックカー)・[[近鉄18200系電車#18400系|18400系]](ミニスナックカー)以来となる。

出入台は賢島寄に設けられ、床面はエントランスとしての位置づけから他車同様に御影石を敷きつめた。
<gallery perrow="3" widths="180" style="font-size:90%;"><!--画像が出揃うまでまでは見栄え優先で、暫定的にperrow="3"とする-->
File:Simakaze 01.JPG|1階
ファイル:KINTETSU50000 CAFETERIA 2.JPG|2階
ファイル:KINTETSU50000 CAFETERIA1.JPG|手洗いカウンターとその付近の大阪寄階段
ファイル:KINTETSU50000 CAFETERIA.JPG|通路<br />壁出っ張りが1階用の非常階段
File:Simakaze 06.JPG|1階 液晶モニター操作パネル
File:Simakaze 07.JPG|1階 [[プラズマクラスター]]
</gallery>

==== 化粧室 ====
本系列は多目的型トイレを2か所に設置し、その基本的な機能、構造は21020系に準じて、弧を描き車椅子利用者に対応する。室内にはベビーベッド、ベビーチェアのほか、着替えが可能となるようなチェンジングボードも設置した。男性用トイレ(小用)は3か所に設けた。ほか、男女共用トイレを1か所設けているが、室内に大型洗面所を設けた。なお、洋式トイレは全て温水洗浄付とした。

本系列の特徴のひとつにパウダールームの設定があり、編成中3か所、トイレ付近に設けた。丸椅子と大型鏡があり、カーテンによって仕切ることが出来る。これは女性客の要望によって設置された<ref name="ファン2013-4"/>。
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 SANITARY3.JPG|パウダールームと化粧室通路
ファイル:KINTETSU50000 SANITARY2.JPG|多目的型トイレ
ファイル:KINTETSU50000 SANITARY1.JPG|男女共用トイレと男性用トイレ
ファイル:KINTETSU50000 SANITARY4.JPG|洗面台
</gallery>

==== 喫煙室・デッキ ====
喫煙室はサロン席の隣に1か所設けられ、構造は22600系に準ずるが面積は狭めで、貫通路のすぐ隣に出入口がある。室内の窓は個室の通路側と同じサイズである。

デッキは、乗客を迎える最初の空間となることからデザイン上の配慮がなされた。床には2色の天然[[御影石]]を敷きつめ、天井ライトもデザイン性あるものとされた。壁は志摩の海をイメージした色とされた。両先頭車はハイデッカー構造であることから、車内の荷棚スペースが狭いため、デッキに座席分のロッカーを設置した。防犯のため、カメラを設けた。出入台付近には芳香器と音楽放送用のスピーカーを設け、乗客を香りとBGMで出迎える<ref name="ファン2013-4"/>。

サ50400形出入台付近には非常用はしごが収納され<ref name="ファン2013-4"/>、緊急時に乗客が、出入台から車外に脱出できるようになっている。
<gallery perrow="3" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU50000 ENTRANCE1.JPG|モ50300形のエントランス
ファイル:KINTETSU50000 ENTRANCE2.JPG|先頭車エントランス照明(右写真)<br />平床車乗降扉付近(左写真)
ファイル:KINTETSU50000 LOCKER.JPG|展望車のロッカー
File:Simakaze 11.JPG|ロッカーキー
File:Simakaze 10.JPG|デッキの点字案内
ファイル:KINTETSU50000 SMOKING ROOM.JPG|喫煙室
</gallery>

== サービス ==
観光特急専用車両であることから、それに相応しいサービスが実施されている。専属アテンダントが4名乗車のうえ、乗客の出迎えをはじめ、車内販売やおしぼりの配布を行なう。この他、カフェにおいて「海の幸[[ピラフ]]」や「[[松阪牛]][[カレー]]」、[[ワイン]]、伊勢志摩オリジナルの[[スイーツ]]や[[ビール]]が提供される。一部のメニューはカウンターで購入後、プレミアムシートで味わうことも出来るほか、各個室ではルームサービスも実施する<ref name="近鉄カタログ"/>。

かつて21000系や23000系が営業運転を開始した頃も同種のサービスが行なわれていたが<ref>『鉄道ジャーナル』第260号、鉄道ジャーナル社、1988年6月、 103 - 107頁</ref><ref>『鉄道ジャーナル』第345号、鉄道ジャーナル社、1994年7月、 16 - 27頁</ref>、車内販売が土休日に実施される他は全廃されており、また、[[近鉄12000系電車|12000系]]や[[近鉄12200系電車|12200系]]「スナックカー」では、車内で[[スチュワーデス]]が調理のうえ飲食物を提供するサービスが実施されていたが、これもわずか数年で廃止されている<ref>藤井信夫 編『車両発達史シリーズ2 近畿日本鉄道 特急車』関西鉄道研究会 111頁</ref>。おしなべて、この種のサービスは人手がかかることや売上低迷などにより続かないことが通例であるが、今回はそれを振り切って、久しぶりに充実したサービスが実施された。

この他、「しまかぜ」停車駅、時刻、および料金については当ページ最下段の外部リンク「観光特急しまかぜのご案内」を参照のこと。
<gallery perrow="4" widths="180" style="font-size:90%;">
File:KINTETSU50000 ATTENDANT.JPG|アテンダントによる出迎え
File:Simakaze 04.JPG|車内サービス時の制服<br><small>(許可を得て撮影)</small>
File:Simakaze 05.JPG|海の幸ピラフ
File:Simakaze 13.JPG|カフェ席メニュー
</gallery>

== 沿革・運用 ==
*2009年夏頃から新型観光特急の構想がもたれ<ref name="ジャーナル2013-4"/>、翌2010年5月12日、近鉄社長の[[小林哲也]]は伊勢神宮の式年遷宮が執り行われる2013年を目途に、伊勢志摩方面に新型観光特急を導入することを[[記者会見]]で明らかにした<ref>日経電子版 2010年5月13日http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:URBcvRQaf4oJ:www.nikkei.com/article/DGXNASHD12034_S0A510C1LDA000/+%E8%BF%91%E9%89%84%E3%80%80%E5%B0%8F%E6%9E%97%E7%A4%BE%E9%95%B7%E3%80%80%E8%A6%B3%E5%85%89%E7%89%B9%E6%80%A5&cd=2&hl=ja&ct=clnk&gl=jp</ref>。

*2011年7月1日に近鉄は、大阪、名古屋と伊勢志摩間に新型観光特急を2013年春を目途に導入と公式発表。同時に車両イラストも公表されたが、塗り分けが実車と異なって編成全体に渡って上半身ブルーの装いであった<ref>『鉄道ファン』鉄道ニュース2011年7月1日 http://railf.jp/news/2011/07/01/182300.html</ref>。

*2012年9月28日に近鉄は新型観光特急の車両愛称を「しまかぜ」とすることを発表。また建造中の実車をはじめて公表した<ref>近鉄プレスリリース 2012年9月28日 http://www.kintetsu.co.jp/all_news/news_info/20120928shimakaze.pdf</ref>。

*2012年9月27 - 29日に、50101Fがメーカーの近畿車輛から高安工場へ陸送された<ref>『鉄道ファン』鉄道ニュース2012年9月27日 http://railf.jp/news/2012/10/01/113000.html</ref>。その後、各種整備、構内試運転を経て同年11月7日より本線試運転を実施した。その後搬入された50102Fも同年12月19日から試運転を開始した<ref>『鉄道ファン』第624号、交友社、2013年4月、 146頁</ref>。

*2013年3月2日には無料試乗会を実施し、3月10日と16日には有料試乗会、3月17日には20000系と15200系の同時展示によるラインナップ撮影会を実施した。ほか、報道関係者向け試乗会を3月7日に、志摩市立鵜方幼稚園児79人を招待した試乗会を同月8日に[[五十鈴川駅|五十鈴川]] - 賢島間往復で実施した<ref>毎日新聞 毎日jp 2013年3月9日(地方版)http://mainichi.jp/area/mie/news/20130309ddlk24020076000c.html</ref>。

*2013年3月21日から水曜日を除く週6日運転(ただし春休み・夏休み・ゴールデンウィーク・年末年始時は毎日運転)で大阪難波 - 賢島間 ・近鉄名古屋 - 賢島間を各1往復で運用を開始した。
<gallery perrow="3" widths="180" style="font-size:90%;">
ファイル:KINTETSU"SHIMAKAZE" Station ad.JPG|アテンダント第1期生募集と「しまかぜ」のPRポスター
ファイル:Photo session of Kintetsu Railways.JPG|ラインナップ撮影会(2013年3月17日)
ファイル:KINTETSU50000 March 21, 2013.JPG|名古屋発下り1番列車に臨んで乗務員の記念撮影(2013年3月21日)
</gallery>

'''2013年3月21日運行開始'''
{{col|
:* 大阪難波 - 賢島間(下り) 
:** 平日:大阪難波10:40 → 賢島12:59 
:** 土休日:大阪難波10:20 → 賢島12:46
|
* 大阪難波 - 賢島間(上り)
** 平日:賢島16:00 → 大阪難波18:19
** 土休日:賢島16:00 → 大阪難波18:19
|}}

{{col|
:* 近鉄名古屋 - 賢島間(下り) 
:** 平日:近鉄名古屋10:25 → 賢島12:26 
:** 土休日:近鉄名古屋10:25 → 賢島12:25
|
* 近鉄名古屋 - 賢島間(上り)
** 平日:賢島15:40 → 近鉄名古屋17:47
** 土休日:賢島15:40 → 近鉄名古屋17:44
|}}

== PR ==
「しまかぜ」を周知徹底させるために、実車落成前から[[宣伝|PR]]活動を積極的に展開した。近鉄の各主要駅にてプレミアムシートの展示と体感コーナーを設置した他、近畿車輛内で整備中の写真の公開が行なわれた。ほか、先述の無料試乗会、有料試乗会が実施された。また、歌手の[[クリスタル・ケイ]]によるしまかぜイメージソング「風の彼方」を製作のうえ、[[コマーシャルメッセージ|CM]]に使用された<ref>近畿日本鉄道ホームページ http://www.kintetsu.co.jp/senden/shimakaze/index.html</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}


== 出典 ==
== 出典 ==
* {{Cite journal|和書|author=奥山元紀 |year=2013 |month=4 |title=近畿日本鉄道50000系 |journal=[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]] |issue=624 |pages= 54 - 63 |publisher=[[交友社]] |ref = 奥山624}}
*鉄道ファン 2013年4月号
* {{Cite journal|和書|author=大村祐二 |year=2013 |month=4 |title=近鉄新型観光特急50000系「しまかぜ」の概要 |journal=[[鉄道ジャーナル]] |issue=558 |pages= 85 - 91 |publisher=鉄道ジャーナル社 |ref = 大村558}}
*鉄道ジャーナル 2013年4月号
* 近畿日本鉄道『しまかぜ KINTETSU50000 』車両カタログ
* {{Cite journal|和書|author=前里孝 |year=2013 |month=3 |title=MODELE FILE 近畿日本鉄道 50000系"しまかぜ" |journal=[[とれいん]] |issue=459 |pages= 6 - 19 |publisher=エリエイ出版部・プレスアイゼンバーン |ref = 前里459}}
* {{Cite journal|和書|author=前里孝 |year=2009 |month=5 |title=MODELE FILE 近畿日本鉄道 22600系特急電車 |journal=[[とれいん]] |issue=413 |pages= 8 - 23 |publisher=エリエイ出版部・プレスアイゼンバーン |ref = 前里413}}
* {{Cite journal|和書|author=吉川富雄 |year=1991 |month=2 |title=近鉄20000系「楽」華麗にデビュー |journal=鉄道ファン |issue=358 |pages= 10 - 18 |publisher=交友社 |ref = 吉川358}}

== 関連項目 ==
{{Commons|Category:Kintetsu 50000 series}}
{{Wikinews|近鉄の新型観光特急『しまかぜ』が運行開始}}
* [[近畿日本鉄道の車両形式]]
* [[近鉄特急]]
* [[ビスタカー]]

== 外部リンク ==
* [http://www.kintetsu.co.jp/senden/shimakaze/ 観光特急しまかぜのご案内] - 近畿日本鉄道
* [http://www.kintetsu.jp/kouhou/Train/B56.html 鉄路の名優] - 近畿日本鉄道


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{{近畿日本鉄道の車両}}
{{近畿日本鉄道の車両}}
{{DEFAULTSORT:きんてつ50000けいてんしや}}
{{DEFAULTSORT:きんてつ50000けいてんしや}}

2013年4月4日 (木) 22:38時点における版

近鉄50000系電車
志摩線 加茂駅 - 松尾駅間
基本情報
製造所 近畿車輛
主要諸元
編成 6両編成
軌間 1,435
電気方式 直流1,500V
架空電車線方式
最高運転速度 130
設計最高速度 130
起動加速度 2.5
減速度(常用) 4.0
編成定員 138名(カフェ車両を除く)
編成重量 272t
全長 中間車20,500 mm
先頭車21,600
全幅 2,800
全高 4,150
車体 普通鋼
台車 KD-320・KD-320A ボルスタレス台車
主電動機 三菱電機 MB-5097B2形 かご形三相誘導電動機
主電動機出力 230kW
駆動方式 WNドライブ
歯車比 17:84 (4.94)
編成出力 230kW×12=2,760kW
制御装置 2レベルPWM制御IGBTVVVFインバータ方式
三菱電機 MAP-234-15VD102B形
制動装置 回生ブレーキ併用電気指令式ブレーキ (KEBS-21A)
抑速ブレーキ
保安装置 近鉄型ATS
備考 電算記号:SV
テンプレートを表示

近鉄50000系電車(きんてつ50000けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道特急形車両。6両編成2本が在籍する。

しまかぜ」の車両愛称を持つ。名称の由来は、志摩に吹く風の爽やかさと、車内で過ごす時間の心地よさから名づけられた[1]

解説の便宜上、本項では大阪難波側の先頭車の車両番号+F(Formation=編成の略)を編成名として記述する(例:ク50101以下6両編成=50101F)。また、賢島方面に向かって右側を「海側」・左側を「山側」と記述する[2]

概要

2013年に執り行われる伊勢神宮の第62回式年遷宮にあわせ、伊勢志摩を訪れる観光客に充実した旅行を提案すべく、2012年秋に2編成12両が製造され、2013年3月21日から運行開始された。

運行区間は、大阪難波近鉄名古屋の両駅から三重県志摩市賢島駅までの区間で、それぞれの区間で1日1往復する。当該系列は2編成のみの在籍のため、毎週水曜日は車両検査のため運休となる(一部例外がある)。

通常の車両でもアーバンライナーのデラックスシート以上の座席(2-1人掛けでシートピッチ1,250mm)を配しており、両先頭車は展望室のあるハイデッカー構造となっているほか、カフェテリア車両は近鉄伝統の2階建構造となっている。さらに、グループ向けのサロン席と和洋個室を設けるなど、当該系列は数ある近鉄特急車両の中でも最上級の接客設備を有する。

これまでの近鉄特急車両は、21000系「アーバンライナー」をはじめ23000系「伊勢志摩ライナー」のような固定編成系列であっても、レギュラーシート(普通車)の設定があり、汎用型特急車両との設備面の差が極端に大きいわけではなかった。このため、通常の特急運用に21000系や23000系が投入されることもこれまでは行なわれてきた。しかし、当該系列は観光特急専用車両として在来の近鉄特急車両とは一線を画し、レギュラーシートの設定が皆無のうえ、全席に特急料金とは別にしまかぜ特別車両料金が設定される。このため、通常の特急運用との互換性を一切持たず、「しまかぜ」専用の運用のみ受け持つ。設備面は在来特急車両とは次元が異なっており、あくまで伊勢志摩観光輸送に徹した内容で、通勤利用、短距離利用を想定していない。30000系「ビスタカーⅢ世」も伊勢志摩観光特急車両として開発されたが、開発当時の時勢もあって1席でも多く座席を設置する車内構成に対し[3]、50000系では徹底して乗客本位のスタイルを追求した結果、座席数は大きく減少し、既存の特急車両の約半分となった。

InterCity
InterCity

当該系列で運用される特急列車の場合、近鉄の駅提出の時刻表では、特急欄の中に「しまかぜ」専用の欄を設けて時刻を提示する。近鉄時刻表ではの3つの爽やかな風を描いた「しまかぜ」マークを掲示する。JTB時刻表ではSVで表す。ほか、車椅子対応設備を有するため、車椅子マークも同時掲載する。なお、主として毎週水曜日は定期検査(または貸切列車として運用)により運休となるため、その旨も但し書きとして掲示される。

SV を使用する。

開発経緯

旅への期待感を持続させるデザインが採用された
志摩線 鳥羽駅 - 中之郷駅

伊勢神宮における20年に1度の式年遷宮に照準を合わせ、2009年夏頃から構想がもたれた。この当時、議論の俎上に載せられ、鉄道運営を行なう立場から見て問題視された社会情勢は下記の通りであった[4]

これらの現実を踏まえたうえで、鉄道に求められるサービスを追求するため、次の開発テーマを設定した。

  • 移動手段としての電車を超える
  • 乗ること自体が旅の目的となる
  • 移動時間自体が楽しみとなる

上記テーマを具現化させるため、21000系の開発以来定番となっているマーケティングリサーチを実施した。ただし、その規模は広範囲かつ多大で、関西中部首都圏におけるインターネット調査(4,000人を対象)をはじめ、伊勢志摩方面に向かう特急利用客約1万名、伊勢志摩地域の宿泊施設利用者や観光事業者のアンケート、ヒアリング調査を実施し、求められる車両の姿を浮き彫りにしていった[4]

こうして得られた意見をもとに車両コンセプトを設定した[4]

  • 広々とした座席空間
  • 快適さを追求したプレミアムシート
  • 様々な旅のスタイルにこたえるバリエーション豊かな客室
  • 気持ちよくご乗車いただくための設備、サービス

デザインは、21000系以来近鉄の車両デザインを手がけている山内陸平が監修を担当した。山内は車両コンセプトとして、出発駅で乗客が抱く期待感を目的地まで持続させるように「わくわく感の醸成と持続」と設定した。そして、「少しでも上質な旅空間を」という思いでデザインしたと語っている[1]

なお、前面展望式ハイデッカー特急車の構想自体は50000系に始まったことではなく、戦後間もないころに存在した。1952年1月の近鉄社内誌『ひかり』において「豫想される近鐵超特急」という見出しで、前面ガラス張りのハイデッカーとなった電車のイラストが記載されている[5]。「展望車」の構想の一部は10000系10100系ビスタカーで2階建て特急として実現されたが、前面展望式ハイデッカー特急車の構想はこれまで実現されることはなかった[6]。21000系の初期イメージスケッチではこの案が存在したが、全車平床に決定された際に立ち消えとなり[7]、ダブルデッカー式先頭車については12400系開発の際のイメージスケッチで存在したが、これも立ち消えとなった[8]。現れては消えた構想は、当該系列でようやく日の目を見ることになった。

外観・車体構造

多面構成のフロント
サイドビュー

車体は近鉄特急車共通の普通鋼製である。

先頭形状は、曲面を多用するこれまでの近鉄特急車両と異なり、多面構成とした。大型ガラスを6枚使用し(ライトや扉下部も含めれば9枚)、両サイド下のガラスにHID式の前照灯各2灯ずつを配した。伝統的に運転台よりも上に前照灯を配置してきた近鉄電車において異質なデザインとなったうえ、ブラックアウト処理から電灯部が顔をのぞかせる部分の切れ込みが吊り上っているため、鋭角的な先端形状とも相まって鋭い印象を与える。中央ガラス部は非常扉を兼用し、上に跳ね上げて開く方式である[9]標識灯尾灯22600系と同様、車体下部に吊り下げて設置した。排障器はブラックで目立たなくさせたうえで、車体デザインと一体になったスカートを前面に設置した。連結器は密着式で、使用時以外は奥に格納する。ワイパーは運転台と中央の窓に2か所設置した。

窓は全車1窓単位で独立しており、21000系以来連続窓を基調とした流れとは一線を画すデザインとなった。プレミアムシートのハイデッカー車は縦1,270mm×横950mm、平床車は縦950mm×横1,000mm、サロンは縦1,225mm×横1,700mm(通路側も同サイズ)、個室は縦1,225mm×横1,700mm(通路側は縦1,225mm×横1,300mm)、喫煙室は縦1,225mm×横1,300mm、カフェは2階が縦1,490mm×横1,100mm、1階が縦620mm×横1,100mm(通路側も上下同サイズ)である[4]

乗降扉は22600系と同形状のプラグ式で、バリアフリー対応として全扉の開口幅を900mmに統一した[4]

また、本系列はダブルデッカー、ハイデッカー、平床の3種類の車両を併せ持つ編成であるため、凹凸の多い外観も特徴の一つで、この内、ハイデッカーとダブルデッカーは車両限界で許容される高さ一杯まで車体が拡大され、コンター(車体断面)は30000系中間車や20000系に準ずるが、両サイドには緩いカーブが描かれ、この2系列とは趣が異なる。平床車両は22600系のコンターに準ずるが、レール面上から車体最上部までは3,758.9mm(22600系比+68.9mm)とされ、特に屋根肩部は車両限界まで肉薄する高さとなった。これによって、ダブルデッカー車やハイデッカー車と隣り合っても、違和感のない外観となった。

塗装は「伊勢志摩の晴れやかな空」をイメージしたファインブルーと、クリスタルホワイトの組合わせで、爽やかさを表現するとともに、境目に最上級を表す金帯を配した[1]。モ50200形とモ50500形の側面に「しまかぜ」のロゴタイプをプリントし、あわせて心地よい風をイメージした流れるようなマークもプリントした。

列車無線アンテナは両先頭車の連結面寄りに設置した。屋根部分を斜めにカットし、20000系のサイドビューと似通う。

基本的にク50100形とク50600形、及びモ50200形とモ50500形の車内構成は一部を除き共通であるため、側窓や外観も共通部分が多い。しかし、サロンと個室を配するモ50300形とカフェ設備を有するサ50400形は前二者と大きく異なって、先頭形状とともに当該系列の特異性を際立たせる外観的特徴を持つ。モ50300形は30000系以来で車体中央に乗降扉を配置し、大阪(名古屋)側にサロン、伊勢志摩側に個室を設け、このため窓も大窓とされた。サ50400形は20000系「楽」以来久しく途絶えていたダブルデッカー構造で、窓も階下、階上室用に別個で設置した。塗装も基調色の青が車両の大半を覆い、なおのこと特異な印象を与えている。

機器

基本的なシステムは21020系「アーバンライナー・ネクスト」に準じている[10]

主要機器

電装品

制御装置は三菱電機製高耐圧2レベルIGBT素子によるVVVFインバータ制御 (MAP-234-15VD102B) で、1基の制御装置で2台の主電動機を制御する1C2M方式を採用し、各電動車の床下には制御装置2基を一体箱にまとめた形態で搭載している[10]

主電動機は三菱電機製のMB-5097B2かご形三相誘導電動機(定格出力230kW)を各電動車に4台装備する。駆動方式はWNドライブで、歯車比は4.94である[10]

磁励音は21020系とは変調が変わっており、全く違う音となっている。試運転を開始した当初は21020系と同じものであったが、しばらくしてから制御プログラムが変更されており、その後そのままで営業運転開始されている。この磁励音は22600系の一部でも変更されている。

起動加速度は2.5km/h/s、減速度は4.0km/h/sである[10]

制動装置回生ブレーキ併用電気指令式 (KEBS-21A) で、回生ブレーキを有効に使用するためのT車遅れ込め制御の機能や、滑走防止制御機能を有する[10]

補機・集電装置

補助電源装置は静止形インバータ (INV174-D0) を両先頭車に搭載し、出力は140kVAである。インバータ部を2台搭載し、通常1台のみ運転し、4日おきに交互に運転する待機二重系である[10]

空気圧縮機は近鉄車両として初めてスクロール式(吐出量は1,600L/min)を両先頭車に搭載した。箱内には冗長性を持たせるため、3台の圧縮機と他に周辺機器が収めてある[4]

パンタグラフは全てシングルアーム式(東洋電機製造 PT7126-A)となっている。モ50500形に2基、モ50300形とモ50200形は各1基搭載である。パンタグラフの間接方向は、モ50500形が大阪、名古屋向きで、他は賢島向きとなり、これまでの編成単位で向きを統一してきた流れとは異なっている。

台車

台車は近畿車輛製のボルスタレス式で、ヨーダンパを装備した。基礎ブレーキ装置は全車に片押し式踏面ブレーキを装備するほか、付随車ではディスクブレーキも併設している。形式はM車がKD-320形、Tc, T車がKD-320A形である。また、当該形式は新幹線以外で初めて全車両にフルアクティブサスペンションを搭載し、台車枠と牽引梁の間に設けた空気式アクチュエータを制御することで車体振動を抑える[10]

その他機器

空調機器は22600系と概ね同様で、屋根上装置外観やキセも似通うデザインである。しかし、両先頭車はハイデッカー構造のため、屋根上に機器を搭載せず、客室床下と床中部にセパレート形装置を搭載した。また、サ50400形(ダブルデッカー車両)は平床部分屋上とセパレート形装置を2台搭載した。暖房機能も概ね同様で、空調装置内に電気式ヒーターを内蔵し、腰掛脚台および壁内にも設置した。また、当該系列は個室が存在するため、部屋単位の温度調整を可能とした。なお、和風個室の堀りこたつ箇所に床暖房機能を別に追加した。ほか、カフェ車両1階も独立した温度調整が可能である[10]

モ50300形屋上に衛星放送受信用のアンテナを設置した。通常はFRP製のカバーで覆われている[11]

行先表示器の仕様は22600系と同様である。日本語、英語を交互で表示するほか、「しまかぜ」の表示も行なう。速度60km/h以上で消灯する[10]

床下機器の配置

機器配置は両先頭車同士、モ50200形とモ50500形同士は基本的に同一機器配置である。ただし、ク50100形を方向転換すればク50600形の機器配置となる訳ではなく、山側、海側の配置は両車共通の機器構成で、前後の並び順が逆となり(連結面より鏡に映したイメージ)、モ50200形とモ50500形の場合も同様である。モ50300形はモ50500形とほぼ同じ並び順である。

乗務員室

運転台は22600系に準じて、マスコン(左)、ブレーキ(右)の2ハンドルデスクタイプで、アナログ式メーターを装備する。右側に乗務員支援用のモニタを設置した。フロアレベルは背後の客室と異なって平床で、客席とは2段の階段で連絡する[11]。非常時は、乗客が客室から前面非常扉を介して車外に脱出するため、通路状の構成とした。室内は客室からの展望性重視のためガラス張りで、太陽光による業務への支障が出ないように赤外線紫外線を遮断するガラスを使用した[4]。通路部右側のコンソール上に車内放映用カメラを設置したが、カバーを設けて目立たなくさせた。

編成

MT比3M3T(電動車3両・付随車3両)の6両編成で組成される。賢島方から展望車ク50600形、モ50500形、カフェ車両サ50400形、グループ席車両モ50300形、モ50200形、展望車ク50100形となっている。機器システム上は大阪側4両と賢島側2両で分割可能な構成になっており、モ50500形の貫通路部分には入換用の簡易運転台が設けられている(サ50400形には設定がない)[11]。従って、モ50500形 - サ50400形を繋ぐ連結器は密着式連結器電気連結器付)で、それ以外の車両間は三管式半永久連結器である。なお、モ50200形とモ50500形の自重49.0tは軽量化が進んだ平成以降の電車としては重く、近鉄の現有車両では最大である[12]

編成の向きは他の特急車両と異なり、大阪、名古屋発着に関わらず伊勢中川- 賢島間においてク50600形が賢島方向を向くように、向きを統一している。

50000系の編成表
項目\運転区間
← 大阪難波・近鉄名古屋
賢島 →
形式 ク50100形 (Tc1) モ50200形 (M1) モ50300形 (M2) サ50400形 (T) モ50500形 (M3) ク50600形 (Tc2)
号車 6 (1) 5 (2) 4 (3) 3 (4) 2 (5) 1 (6)
車両写真
搭載機器 SIV,CP,BT >,VVVF >,VVVF <,VVVF,< SIV,CP,BT
自重 44.0t 49.0t 47.0t 39.0t 49.0t 44.0t
座席種別 プレミアム プレミアム サロン・個室 カフェ プレミアム プレミアム
車体構造 ハイデッカー 平床 平床 ダブルデッカー 平床 ハイデッカー
定員 27 30 26 (19 座席指定なし) 26 + 2(車椅子用座席) 27
車内設備 ロッカー◇
車内販売準備室◇
◇多目的型トイレ・洗面所
◇パウダールーム
自動販売機◇
トイレ・パウダールーム◇
◇喫煙室
車内販売準備室・厨房◇
◇手洗いカウンター
多目的型トイレ・洗面所◇
パウダールーム◇
◇ロッカー
◇車内販売準備室
  • 号車欄の( )は近鉄名古屋発着編成の号車番号。
  • 形式欄のMはMotorの略でモーター搭載車(電動車)、TはTrailerの略でモーターを搭載しない車(付随車)、Tcのcはcontrollerの略で運転台装備車(制御車)。
  • 搭載機器欄のVVVFは制御装置、SIVは補助電源装置、CPは電動空気圧縮機、BTは蓄電池、>または<はパンタグラフ(間接方向を示す)。
  • 車内設備欄の◇は設備取付位置(左にあれば大阪、名古屋側に設置)
  • 編成定員は138名(座席指定分)。

車内

客室

車内構成は大別すると、両先頭車のハイデッカータイプのプレミアムシート車両、平床タイプのプレミアムシート車両、グループ専用車両(個室、サロン)、カフェ車両の4タイプに分類できる。

照明は消費電力の低減による環境的配慮からLEDを主に使用したが、従来の蛍光管に比べて機器を薄くすることが可能となり、荷棚の厚さや天井高さに対して有効に作用した[4]

座席ヘッドレストの握り棒、乗降ドア付近、サロン通路部等に席番案内を印字したが点字も併設し、ほか、階段部付近の床にも点字を設けて視覚障害者に対して配慮した。

プレミアムシート車両

両先頭車はハイデッカー車両で、運転席直後に出入台を設けず、展望性重視として客室を配した。床面高さは平床と比べて+720mmで、天井高さは2,220mmをとり[4]、平床の21020系に匹敵する高さである。窓高さは大きく引き上げられ、床面高さから窓下辺までは500mmで座席の肘掛よりも低い位置にあり、展望車両としての機能を付加した。車内構成は20000系中間車に準ずるが、先述のLED採用もあって荷棚等の厚さが薄くなり、空間が拡大された。荷棚奥行きは狭いため、室外にロッカーを設けた(後述)。荷棚照明は平床車に準ずる。天井飾り板に車内放送用のスピーカーをビルトインし、表面はやまぶき色である。天井は空調吹出口の設置が出来ないため、20000系と同じく窓柱部分に設けた[13] 。また、平床車荷棚に装備されている個別空調は省略された。床面は平床車も含めて全面カーペット敷きで、緑主体の模様入りとした。

中間車は基本的な構成は22600系に準ずるが、デザイン処理を大きく変更した。天井間接照明はほぼ22600系と同様だが、荷棚照明は直接照明で、1窓につき4灯が配列された。荷棚は30000系中間車以来でガラスを使用し、個別空調も設置した。窓高さは22600系よりも押さえられて950mm(-15mm)だが、床面高さから窓下辺までは650mm(-75mm)で眺望性が向上した[11]。天井高さは2,260mmを確保した[4]

天井間接照明、荷棚照明は、走行中は電球色、停車中は昼白色に変化する[11]カーテンは全席電動式ロールカーテンとされ[10]、伝統的に横引き式を採用してきた近鉄特急にあって大きく方針転換された。窓柱に上昇下降スイッチが設けられた。客室扉はガラス製の横縞の模様入りである。片開き式を基本とするが、モ50500形賢島寄りは車椅子利用に配慮して両開き式である。扉上部には22インチLCD式ディスプレイとその横にLED式サインパネルおよびトイレ使用表示灯が併設された。なお、運転台直後の妻壁扉上はディスプレイ式ではなくLED式である[10]

プレミアムシートには本革を使用しており、ふくらはぎを支える電動レッグレストが装備されている(フットレストは省略)。鉄道車輌として初めてとなるシート背もたれにエアクッションを設置し、腰部の硬さを調整するランバーサポート機能やリラクゼーション機能も備えている。また、読書灯や肘掛下部にコンセントも設置されている[10]。座席背面には大型テーブルを設け、ひじ掛け内にも折りたたみ式テーブルを設置のうえ、テーブル表面に天然木を使用した。

シートピッチ(座席中心の前後間隔)は1,250mmで、近鉄特急だけでなくJRの特急でも類をみない広さを有する[14]。このため、定員が極端に減少し、両先頭車が1両につき27人、平屋車両が1両につき30人(車椅子対応車は28人)となった。

車椅子対応車両は賢島方から2両目の車両で、山側2席分が設けられた。席番は32Cと33Cとなる。座席は一見すると他のプレミアムシートと同じに見えるが、座席背面や脚台にベルト関係品が装備される。

グループ専用車両

グループ車両は、車両中央の出入台を挟んで大阪、名古屋側に6人用サロン席を3か所と喫煙室、賢島側に和洋各個室を2室設けた。また、サロン席は山側、個室はその反対側に通路を配した。

サロン席はヨーロッパの客車を連想させるコンパートメント形式で、ガラスの簡易仕切りを設けた。天井はドーム型で、頭上にガラス張りの荷棚を設けた。座席間に大型テーブルを設けた。座席は6人仕様だが、発売は4人から可能である。

個室は、靴を脱いでくつろげる掘りごたつ風の「和風個室」や、リビングのようにゆったりとした時間を過ごせる「洋風個室」が各1室ずつ用意されている。和風個室は床の間のイメージで、照明は床から天井にかけて光の演出がなされ、この部分には花模様が描かれている。壁には観光情報や車載カメラからの映像等を流す液晶ディスプレイが設置されたほか、入口付近に下駄箱が設けられ、靴を脱ぐ玄関スペースが設けられた。定員は4人であるが、3人から発売される。洋風個室はソファを大窓に向かってL字型に配し、車窓を正面から見ることが出来る。ほか、身だしなみを整えるための鏡(液晶ディスプレイも併せて設置)と小テーブルならびにスツール(肘掛のない椅子)が1つ用意されている[1]。テーブルと背後の壁は木目である。定員や発売方法は和風個室と同様である。カーテンは電動式ロールカーテンが採用された。両個室ともカフェメニューのルームサービスが可能で、そのためにアテンダント呼び出しボタンが設置されている[1]

カフェ車両

ダブルデッカー構造で、室内は全てフリースペースで座席の指定はない。1階、2階ともにカフェ室で、海側には平床通路を設けて階段を上下しないで通り抜けることも出来る。2階は13席の回転椅子があり、意匠性に富んだテーブルが窓側に設置され、流れゆく景色を眺めながら飲食できる。通路と2階は吹き抜けであるため、2階背面は解放感をともなう。アプローチの階段部と室内中ほどにプランターボックスを設置したほか、妻壁にLCDディスプレイを設けた。1階はソファタイプの独立した席が6席あり、入口のガラス製のドアを閉めることによって個室化することも可能で、そのためにグループ利用も出来る。この室内のみ横引き式カーテンを設置した。また、すべてのテーブル上に、メニュー注文時のアテンダント呼び出し用としてコールボタンを設けた。どちらの階も照明は主として天井間接照明で、窓柱部に意匠性に富んだ直接照明を設置した。空調吹出口は2階が足元、1階が窓上とテーブル下にある。1階・2階共に大阪寄、賢島寄のどちら側にも階段があるが、原則として賢島寄を常用として、大阪寄は非常用の扱いである。特に1階の非常用階段は、普段は閉ざされており見ることはできない。また、大阪寄階段付近に手洗いカウンターを、賢島寄階段付近に車内販売準備室兼用の販売カウンターを設けた。準備室には標準的な装備のほか、ビールサーバーやコーヒーメーカーも設置した。近鉄特急で、調理を伴う供食設備を持つ車両は、12000系・12200系(スナックカー)・18400系(ミニスナックカー)以来となる。

出入台は賢島寄に設けられ、床面はエントランスとしての位置づけから他車同様に御影石を敷きつめた。

化粧室

本系列は多目的型トイレを2か所に設置し、その基本的な機能、構造は21020系に準じて、弧を描き車椅子利用者に対応する。室内にはベビーベッド、ベビーチェアのほか、着替えが可能となるようなチェンジングボードも設置した。男性用トイレ(小用)は3か所に設けた。ほか、男女共用トイレを1か所設けているが、室内に大型洗面所を設けた。なお、洋式トイレは全て温水洗浄付とした。

本系列の特徴のひとつにパウダールームの設定があり、編成中3か所、トイレ付近に設けた。丸椅子と大型鏡があり、カーテンによって仕切ることが出来る。これは女性客の要望によって設置された[10]

喫煙室・デッキ

喫煙室はサロン席の隣に1か所設けられ、構造は22600系に準ずるが面積は狭めで、貫通路のすぐ隣に出入口がある。室内の窓は個室の通路側と同じサイズである。

デッキは、乗客を迎える最初の空間となることからデザイン上の配慮がなされた。床には2色の天然御影石を敷きつめ、天井ライトもデザイン性あるものとされた。壁は志摩の海をイメージした色とされた。両先頭車はハイデッカー構造であることから、車内の荷棚スペースが狭いため、デッキに座席分のロッカーを設置した。防犯のため、カメラを設けた。出入台付近には芳香器と音楽放送用のスピーカーを設け、乗客を香りとBGMで出迎える[10]

サ50400形出入台付近には非常用はしごが収納され[10]、緊急時に乗客が、出入台から車外に脱出できるようになっている。

サービス

観光特急専用車両であることから、それに相応しいサービスが実施されている。専属アテンダントが4名乗車のうえ、乗客の出迎えをはじめ、車内販売やおしぼりの配布を行なう。この他、カフェにおいて「海の幸ピラフ」や「松阪牛カレー」、ワイン、伊勢志摩オリジナルのスイーツビールが提供される。一部のメニューはカウンターで購入後、プレミアムシートで味わうことも出来るほか、各個室ではルームサービスも実施する[1]

かつて21000系や23000系が営業運転を開始した頃も同種のサービスが行なわれていたが[15][16]、車内販売が土休日に実施される他は全廃されており、また、12000系12200系「スナックカー」では、車内でスチュワーデスが調理のうえ飲食物を提供するサービスが実施されていたが、これもわずか数年で廃止されている[17]。おしなべて、この種のサービスは人手がかかることや売上低迷などにより続かないことが通例であるが、今回はそれを振り切って、久しぶりに充実したサービスが実施された。

この他、「しまかぜ」停車駅、時刻、および料金については当ページ最下段の外部リンク「観光特急しまかぜのご案内」を参照のこと。

沿革・運用

  • 2009年夏頃から新型観光特急の構想がもたれ[4]、翌2010年5月12日、近鉄社長の小林哲也は伊勢神宮の式年遷宮が執り行われる2013年を目途に、伊勢志摩方面に新型観光特急を導入することを記者会見で明らかにした[18]
  • 2011年7月1日に近鉄は、大阪、名古屋と伊勢志摩間に新型観光特急を2013年春を目途に導入と公式発表。同時に車両イラストも公表されたが、塗り分けが実車と異なって編成全体に渡って上半身ブルーの装いであった[19]
  • 2012年9月28日に近鉄は新型観光特急の車両愛称を「しまかぜ」とすることを発表。また建造中の実車をはじめて公表した[20]
  • 2012年9月27 - 29日に、50101Fがメーカーの近畿車輛から高安工場へ陸送された[21]。その後、各種整備、構内試運転を経て同年11月7日より本線試運転を実施した。その後搬入された50102Fも同年12月19日から試運転を開始した[22]
  • 2013年3月2日には無料試乗会を実施し、3月10日と16日には有料試乗会、3月17日には20000系と15200系の同時展示によるラインナップ撮影会を実施した。ほか、報道関係者向け試乗会を3月7日に、志摩市立鵜方幼稚園児79人を招待した試乗会を同月8日に五十鈴川 - 賢島間往復で実施した[23]
  • 2013年3月21日から水曜日を除く週6日運転(ただし春休み・夏休み・ゴールデンウィーク・年末年始時は毎日運転)で大阪難波 - 賢島間 ・近鉄名古屋 - 賢島間を各1往復で運用を開始した。

2013年3月21日運行開始

  • 大阪難波 - 賢島間(下り) 
    • 平日:大阪難波10:40 → 賢島12:59 
    • 土休日:大阪難波10:20 → 賢島12:46
  • 大阪難波 - 賢島間(上り)
    • 平日:賢島16:00 → 大阪難波18:19
    • 土休日:賢島16:00 → 大阪難波18:19
  • 近鉄名古屋 - 賢島間(下り) 
    • 平日:近鉄名古屋10:25 → 賢島12:26 
    • 土休日:近鉄名古屋10:25 → 賢島12:25
  • 近鉄名古屋 - 賢島間(上り)
    • 平日:賢島15:40 → 近鉄名古屋17:47
    • 土休日:賢島15:40 → 近鉄名古屋17:44

PR

「しまかぜ」を周知徹底させるために、実車落成前からPR活動を積極的に展開した。近鉄の各主要駅にてプレミアムシートの展示と体感コーナーを設置した他、近畿車輛内で整備中の写真の公開が行なわれた。ほか、先述の無料試乗会、有料試乗会が実施された。また、歌手のクリスタル・ケイによるしまかぜイメージソング「風の彼方」を製作のうえ、CMに使用された[24]

脚注

  1. ^ a b c d e f 近畿日本鉄道『しまかぜ KINTETSU50000 』車両カタログ
  2. ^ 当該系列は伊勢中川駅 - 賢島駅間においてク50600形が賢島方向を向くように、他の特急車と異なって編成の向きが統一されている。従って、名古屋線内で見ると当該編成は賢島に向かって左側が海側となるが、ここは大阪線を基準として、これまでの近鉄車両における呼び方に倣い、賢島に向かって左側を山側と定義する(近鉄大阪線を基準として見た場合、参宮急行電鉄以来の呼称として、上本町に向かって右側を山側、左側を海側(つまり伊勢志摩に向かって右側を海側、左側を山側)と呼ぶ。『近畿日本鉄道 参宮特急史』プレスアイゼンバーン p.105)。
  3. ^ 編成あたり36席(階下席を除く)の回転不可の座席が設けられたが、そこまでして一定の定員数を確保する施策が優先された。
  4. ^ a b c d e f g h i j k 『鉄道ジャーナル』第558号、鉄道ジャーナル社、2013年4月、 85 - 91頁
  5. ^ 田淵仁著 JTB CAN BOOKS『 近鉄特急 上 』JTB p.97 ISBN 4-533-05171-5
  6. ^ 団体車両の20000系「楽」では実現された。26000系「さくらライナー」では平床ながら客席からの展望が実現したが、後年の車体更新によって利かなくなった。
  7. ^ 『鉄道ピクトリアル』1988年12月臨時増刊号 No.505 電気車研究会 p.25
  8. ^ 『鉄道ファン』2011年12月号 No.608 交友社 p.31
  9. ^ 近鉄沿線に非常用貫通扉を必要とする区間は存在しないにもかかわらず当該系列では設置された。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『鉄道ファン』第624号、交友社、2013年4月、 54 - 63頁
  11. ^ a b c d e 『とれいん』第459号、エイリイ・プレスアイゼンバーン、2013年3月、 6 - 19頁
  12. ^ 第2位は20000系のモ20200形・モ20250形の48tであるが、同系は全車がハイデッカー・ダブルデッカーであり平床車であるモ50200形・モ50500形の重さが際立つ。
  13. ^ 『鉄道ファン』第358号、交友社、1991年2月、 10 - 18頁
  14. ^ JR東日本の「スーパービュー踊り子」グリーン車や新幹線の「グランクラス」は、シートピッチは1,300mmである。「グランクラス」はグリーン料金に5,000円を加算するが、それに比べるとプレミアムシートはプラス700円から1,000円の範囲で、シートのクオリティに対して割安である。
  15. ^ 『鉄道ジャーナル』第260号、鉄道ジャーナル社、1988年6月、 103 - 107頁
  16. ^ 『鉄道ジャーナル』第345号、鉄道ジャーナル社、1994年7月、 16 - 27頁
  17. ^ 藤井信夫 編『車両発達史シリーズ2 近畿日本鉄道 特急車』関西鉄道研究会 111頁
  18. ^ 日経電子版 2010年5月13日http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:URBcvRQaf4oJ:www.nikkei.com/article/DGXNASHD12034_S0A510C1LDA000/+%E8%BF%91%E9%89%84%E3%80%80%E5%B0%8F%E6%9E%97%E7%A4%BE%E9%95%B7%E3%80%80%E8%A6%B3%E5%85%89%E7%89%B9%E6%80%A5&cd=2&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
  19. ^ 『鉄道ファン』鉄道ニュース2011年7月1日 http://railf.jp/news/2011/07/01/182300.html
  20. ^ 近鉄プレスリリース 2012年9月28日 http://www.kintetsu.co.jp/all_news/news_info/20120928shimakaze.pdf
  21. ^ 『鉄道ファン』鉄道ニュース2012年9月27日 http://railf.jp/news/2012/10/01/113000.html
  22. ^ 『鉄道ファン』第624号、交友社、2013年4月、 146頁
  23. ^ 毎日新聞 毎日jp 2013年3月9日(地方版)http://mainichi.jp/area/mie/news/20130309ddlk24020076000c.html
  24. ^ 近畿日本鉄道ホームページ http://www.kintetsu.co.jp/senden/shimakaze/index.html

出典

  • 奥山元紀「近畿日本鉄道50000系」『鉄道ファン』第624号、交友社、2013年4月、54 - 63頁。 
  • 大村祐二「近鉄新型観光特急50000系「しまかぜ」の概要」『鉄道ジャーナル』第558号、鉄道ジャーナル社、2013年4月、85 - 91頁。 
  • 近畿日本鉄道『しまかぜ KINTETSU50000 』車両カタログ
  • 前里孝「MODELE FILE 近畿日本鉄道 50000系"しまかぜ"」『とれいん』第459号、エリエイ出版部・プレスアイゼンバーン、2013年3月、6 - 19頁。 
  • 前里孝「MODELE FILE 近畿日本鉄道 22600系特急電車」『とれいん』第413号、エリエイ出版部・プレスアイゼンバーン、2009年5月、8 - 23頁。 
  • 吉川富雄「近鉄20000系「楽」華麗にデビュー」『鉄道ファン』第358号、交友社、1991年2月、10 - 18頁。 

関連項目

外部リンク