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|生息図キャプション = ラブカの生息域 |
|生息図キャプション = ラブカの生息域 |
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'''ラブカ'''(羅鱶、''Chlamydoselachus anguineus''、英: [[:en:Frilled shark|'''Frilled shark''']])は、[[カグラザメ目]]'''ラブカ科'''に属する[[サメ]]。ラブカ科の現生種は2種のみ。 |
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'''ラブカ'''(羅鱶、''Chlamydoselachus anguineus''、英: [[:en:Frilled shark|'''Frilled shark''']])は、[[カグラザメ目]]'''ラブカ科'''に属する[[サメ]]。ラブカ科の現生種は2種のみ。外見から'''ウナギザメ'''(鰻鮫)と呼ばれることもある。[[大西洋]]・[[太平洋]]の[[大陸斜面]]、水深500-1,000 mの海底で生活するが、[[駿河湾]]などでは浅海に上がってくる。原始的なサメの特徴が見られる事から[[生きている化石]]と呼ばれる。全長2mに達し、鰭は体後部に集中する。鰓弁は大きくヒダ状になり、英名の由来ともなっている。 |
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蛇のように体を伸ばして獲物に食らいつく姿が観察されている。顎が大きいためかなり大きな獲物も飲み込むことができる。主に[[頭足類]]を食べる。無胎盤性[[胎生]]。繁殖期はなく、[[妊娠期間]]は3年半。稀に底曵き網や底延縄で混獲されるが、漁業の対象にはならない。[[IUCN]]は[[保全状況]]を[[準絶滅危惧]]としている。 |
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==分類== |
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[[画像:Chlamydoselachus anguineus by garman.png|thumb|left|alt=Line drawing of a frilled shark curled on its side, with insets depicting dorsal and ventral views of the head, and of two teeth|1884年、種記載時のイラスト]] |
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ドイツの[[魚類学者]]Ludwig Döderleinは1879-1881年に日本を訪れ、2個体の標本を[[ウィーン]]に持ち帰った。だが、彼の手稿によるとこの標本は失われたようである。そのため、最初の[[記載]]は1884年、米国の[[動物学者]][[w:Samuel Garman|Samuel Garman]]が''Proceedings of the Essex Institute''で公表した"An Extraordinary Shark"と題した[[記載]]論文とされている。[[タイプ標本]]は[[相模湾]]産の1.5mの雌個体である<ref name="garman"/><ref name="bright"/>。Garmanは本種に科・属を新設し、[[古代ギリシア語]]''chlamy''(外套)、''selachus''(サメ)、[[ラテン語]]''anguineus''(ウナギ型)に由来する''Chlamydoselachus anguineus''という学名を与えた<ref name="ebert"/>。英名はfrill shark・lizard shark・scaffold shark・silk sharkなど<ref name="iucn"/><ref name="fishbase"/>。 |
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多尖頭の歯、眼の後方で[[頭骨]]と直接関節する(両接型 amphistyly)顎、[[椎骨]]が不明瞭で[[脊索]]のような[[脊柱]]に基づいて、昔の専門家は本種を絶滅した[[板鰓類]](サメ・[[エイ]]とその祖先)の生き残りだと考えていた<ref name="compagno2"/>。Garmanは[[古生代]]の[[デボン紀]](416-359[[Ma]])に栄えた[[クラドセラケ]]と本種を同じグループ"cladodonts"に位置付けた。彼と同世代の[[テオドール・ギル]]と[[エドワード・ドリンカー・コープ]]は[[中生代]]に栄えた[[ヒボドゥス目]]との関連を指摘し、コープは本種を化石属の''Didymodus''に位置づけた<ref name="garman and gill"/><ref name="martin2"/>。 |
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一方、最近の研究では、頭の骨格構造に[[ツノザメ目|ツノザメ]]類に近い部分もあるとされ、この説に疑問を呈する声もある<ref>『深海生物ファイル』 北村雄一著 ネコパブリッシング ISBN 9784777051250 |
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</ref>が、クラドセラケと同様の歯形状と、鰓穴の数が6つあるという説明と解明まではされていない。 |
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骨格や筋肉の特徴は明らかに現生のサメ(Neoselachii)のものであり、特に[[カグラザメ]]と類似する。また、[[分類学者]]の[[白井滋]]は単型のラブカ目(Chlamydoselachiformes)を提唱している<ref name="compagno2"/><ref name="martin2"/>。それでも本種は現生サメの中で最も古い系統の一つに属し、[[白亜紀]]後期(''c.'' 95 Ma)、また、おそらく[[ジュラ紀]]後期(''c.'' 150 Ma)の化石が発見されている<ref name="martin3"/>。 原始的なサメの特徴をよく残している事から'''[[生きている化石]]'''と呼ばれる<ref name="bright"/>。 |
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== 分布・生息地 == |
== 分布・生息地 == |
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[[画像:Chlamydoselachus anguineus NOOA.jpg|thumb|left|alt=A shark swimming in dark water over sand; the labels indicate that it was taken on August 26, 2004 at a depth of 2866 feet, a temperature of 4.3 Celsius, and a salinity of 35|2004年8月26日、アメリカの[[ジョージア州]]沖、ブレーク海台の深海873メートル(2866フィート)で撮影されたラブカの写真。生きている状態で撮影された最初の写真である。]] |
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分布域は広く、ほぼ全世界の海域から知られている。[[日本]]では[[相模湾]]や[[駿河湾]]で比較的多く見られる。水深1,500mまでの深海に生息し、普通は水深500〜1,000 mの間に多い。ごく稀に海表面近くに現れることもあるが、基本的には[[大陸斜面]]に沿って海底付近で生活する。 |
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稀種ではあるが分布域は広く、[[大西洋]]・[[太平洋]]全域から散発的に記録がある。東大西洋では[[ノルウェー]]北方・[[スコットランド]]北方・[[アイルランド]]西方・[[フランス]]から[[モロッコ]]・[[マデイラ諸島]]・[[モーリタニア]]<ref name="compagno"/>。中央大西洋では[[アゾレス諸島]]から[[ブラジル]]南方のリオグランデ海膨までの[[大西洋中央海嶺]]上・[[西アフリカ]]沖のVavilov海嶺。西大西洋では[[ニューイングランド]]・[[ジョージア州]]・[[スリナム]]<ref name="jenner"/><ref name="kukuev and pavlov"/><ref name="ebert and compagno"/>。西太平洋では[[本州]]南東・[[台湾]]・[[ニューサウスウェールズ]]・[[タスマニア]]・[[ニュージーランド]]。中央・東太平洋では[[ハワイ]]・[[カリフォルニア]]・[[チリ]]北部<ref name="iucn"/><ref name="compagno"/>で確認されている。2009年、[[南アフリカ]]沖に生息する個体は別種''C. africana''とされた<ref name="ebert and compagno"/>。[[日本]]では[[相模湾]]や[[駿河湾]]で比較的多く見られる。 |
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[[大陸棚]]外縁と[[大陸斜面]]上-中部に生息し、[[湧昇流]]などの[[生物学的生産力]]の高い海域を好むようである<ref name="ebert"/>。最大で水深1570mから見つかっているが、通常1000m以深では見られない<ref name="iucn"/><ref name="fishbase"/>。[[駿河湾]]では水深50-200mでよく見られるが、8-11月は100m以浅の水温が15℃を超えるため深場に移動する<ref name="kubota et al"/><ref name="tanaka et al"/>。基本的には海底付近で生活し、小さな砂山の上を泳いでいる個体が観察されている<ref name="iucn"/><ref name="jenner"/>。だが、おそらく[[日周鉛直移動]]を行い、夜間には表層で摂餌すると考えられる<ref name="ebert"/><ref name="martin"/>。大きさや繁殖状況に応じて棲み分けが行われている<ref name="tanaka et al"/>。 |
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== 形態 == |
== 形態 == |
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[[画像:Frilled shark head2.jpg|thumb|left|ラブカの頭。顎は長く、先端に位置する。]] |
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[[画像:Frilled shark throat.jpg|thumb|ラブカの喉。切り込みは鰓裂であり、第一鰓裂は繋がって襟状になる。]] |
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[[Image:Chlamydoselachus anguineus (mouth and teeth) by OpenCage.jpg|thumb|ラブカの歯。細かく並んだ針状の歯は、イカなどの柔らかい獲物を引っ掛けるのに適している。]] |
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全長 200 cm<ref>[http://fishbase.org/Summary/SpeciesSummary.php?id=635 FishBase_''Chlamydoselachus anguineus'']</ref>。体型は細長い円筒型。体色は黒褐色か灰色である。背鰭は1基のみで、体後方に存在する。尾鰭は上葉が長く伸び、下葉は発達しない。鰓裂は6対あり、鰓隔膜は大きくヒダ状になる。[[口]]は体の正面に開く。内側に向いた[[歯]]は、三尖頭をもち先は鋭くとがる。外見から'''ウナギザメ'''(鰻鮫)と呼ばれることもある。 |
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体型は細長い円筒型。頭部は幅広くて平たく、短く丸い[[吻]]がある。[[鼻孔]]は縦に裂け、前鼻弁で2つに区切られている。眼は比較的大きく楕円形で、[[瞬膜]]を欠く。非常に大きい口は普通のサメと異なって体前端に開く。口角に溝・褶はない。歯列は隙間を開けて並び、上顎で19-28・下顎で21-29列<ref name="garman"/><ref name="ebert and compagno"/>。歯は合計で300本ほどで、[[歯]]は小さく、細い三尖頭をもち先は鋭くとがる。尖頭の間には小尖頭がある<ref name="ebert"/><ref name="martin"/>。鰓裂は長く6対で、[[鰓弁]]の後部が伸びてヒダ状になる。第一鰓裂は喉で繋がって襟状となっている<ref name="garman"/>。 |
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絶滅した[[クラドセラケ]]と形態的に類似し、原始的なサメの特徴をよく残している事から'''[[生きている化石]]'''と呼ばれる。一方、最近の研究では、頭の骨格構造に[[ツノザメ目|ツノザメ]]類に近い部分もあるとされ、この説に疑問を呈する声もある<ref>『深海生物ファイル』 北村雄一著 ネコパブリッシング ISBN 9784777051250 |
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</ref>が、クラドセラケと同様の歯形状と、鰓穴の数が6つあるという説明と解明まではされていない。 |
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[[胸鰭]]は短くて丸い。[[背鰭]]は1基で小さく、後縁は丸い。体後方の[[臀鰭]]上部に位置する。[[腹鰭]]・臀鰭は大きく、幅広くて丸く、体後方に位置する。[[尾鰭]]は非常に長く、下葉・欠刻がない。腹面には1対の厚い皮褶が走るが、その機能は不明である<ref name="garman"/>。腹部は雄より雌の方が長く、腹鰭がより後方にある<ref name="martin"/><ref name="last and stevens"/>。[[皮歯]]は小さく、[[鏨]]型である。尾鰭背面の皮歯は大きくて鋭い<ref name="garman"/>。体色は全体的に暗褐色から灰色<ref name="ebert"/>。最大全長は雄で1.7m・雌で2.0m<ref name="ebert"/>。 |
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=== 近縁種 === |
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近縁種に[[南アフリカ]]産の''C. africana'' (Ebert & Compagno, 2009) が知られている。この種は脊椎骨数が160-171でラブカの147より多く、[[腸]]の[[螺旋弁]]数が35-49でラブカの26-28より多い。また、頭部はより長く、鰓裂はより短い。これにより、現生のラブカ科は''C. anguineus''および''C. africana''の2種で構成されることになる<ref name="ebert and compagno"/>。 |
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== 生態 == |
== 生態 == |
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数が少なく、比較的海の深い所に生息する種であるため、観察が難しく、詳しい生態はほとんど分かっていない。 |
数が少なく、比較的海の深い所に生息する種であるため、観察が難しく、詳しい生態はほとんど分かっていない。 |
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普段動きは緩慢で、ウナギのように体を波打たせて遊泳する。遊泳速度は速くない |
普段動きは緩慢で、ウナギのように体を波打たせて遊泳する。遊泳速度は速くない。 |
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[[骨格]]の[[石灰化]]が弱く、低密度の[[脂質]]が詰まった大きな[[肝臓]]を持つ。これは体の密度を減らし、水中に浮かぶための適応である<ref name="martin"/>。開いた[[側線]]を持つ数少ないサメの一つで、[[機械受容器]]の[[有毛細胞]]が外部に露出している。これはサメの[[基底クレード]]に見られる形質であるが、獲物の細かい動きを捉えることができると考えられる<ref name="martin"/><ref name="martin4"/>。尾鰭の先端を欠損した個体がよく見つかるが、これは他種のサメに襲われたものと考えられる<ref name="tanaka et al"/>。[[寄生虫]]として''Monorygma''属の[[条虫]]、[[吸虫]]の''Otodistomum veliporum''<ref name="collett"/>、[[旋尾線虫]]の''Mooleptus rabuka''<ref name="machida et al"/>が知られる。 |
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[[胎生]]。[[胎盤]]は形成せず、卵は子宮内で孵化する。一度に6〜12尾の幼魚を産む。産まれてくる子どもの大きさは、全長40〜60cmである。成熟サイズは雄で全長97〜117cm、雌で全長135〜150cm。約2年という非常に長い妊娠期間をもつ<ref>深海ABYSS 著者クレール・ヌヴィアン 訳者伊部 百合子 2008年 晋遊舎 ISBN 978-4-88380-850-2 </ref>。 |
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===摂餌=== |
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[[画像:Chlamydoselachus anguineus (mouth and teeth) by OpenCage.jpg|thumb|ラブカの歯。細かく並んだ針状の歯は、イカなどの柔らかい獲物を引っ掛けるのに適している。]] |
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近縁種に[[アフリカ]]産の''C. africana'' (Ebert & Compagno, 2009) が知られている。ラブカ科は''C. anguineus''および''C. africana''の2種で構成される。 |
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顎は柔軟で非常に大きく開くことができ、全長の半分を超える獲物を飲み込むことができる<ref name="ebert"/>。だが顎の長さと関節からすると、他のサメに比べあまり強く噛み付くことはできないようである<ref name="moss"/>。ほとんどの捕獲個体には胃内容物がなく、消化速度が速いか摂餌間隔が長いことを意味すると考えられる<ref name="kubota et al"/>。自分よりも小柄な[[サメ]]や[[硬骨魚類]]、[[頭足類]]などを捕食する<ref name="ebert"/>。[[銚子市]]で捕獲された1.6mの個体は590gの[[ニホンヘラザメ]](''Apristurus japonicus'')を飲み込んでいた<ref name="martin"/>。駿河湾では餌の60%が[[イカ]]であり、[[ユウレイイカ]]・[[クラゲイカ]]のような動きの遅い種だけでなく、[[ツメイカ]]・[[トビイカ]]・[[スルメイカ]]のような大型で高速遊泳する種も捕食していた<ref name="kubota et al"/>。 |
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泳ぎの遅い本種がどのように高速遊泳するイカを捕えるのかは不明であるが、傷ついた、または繁殖後で弱った個体を狙っている可能性はある<ref name="kubota et al"/>。体後方に鰭が集中した体型は瞬間的な突進に適しており、蛇のように体をくねらせて獲物に食らいつくことができる。さらに、鰓裂を閉じることで負圧を生み出し、獲物を吸い込んでいるとも考えられる<ref name="martin"/>。鋭く小さい、内側に向いた歯は顎を突き出すことで外側に回転し、獲物を引っ掛けやすくなる。捕獲個体の観察からは口を開けたまま泳ぐことが分かっているが、これは白い歯と黒い口内の対比によって、疑似餌として機能するという仮説もある<ref name="ebert and compagno"/>。 |
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===生活史=== |
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無胎盤性[[胎生]]で、胎児は[[卵黄]]によって成長する。だが胎児間で体重が異なることがあり、母体からも何らかの形で栄養が供給されると考えられる。成体雌は2つの[[卵巣]]、1つの[[子宮]](右側)が機能する。深海は季節の影響が少ないため、繁殖期はない<ref name="tanaka et al"/>。おそらく繁殖のために、大西洋中央海嶺の[[海山]]に15匹の雄、19匹の雌が集まったことが記録されている<ref name="kukuev and pavlov"/>。産仔数は2-15だが、平均6<ref name="ebert"/>。雌は2週間おきに[[排卵]]するが、妊娠中は[[体腔]]に十分なスペースがないため、[[卵黄形成]]と卵巣卵の発達は停止する<ref name="tanaka et al"/>。 |
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受精卵は薄く楕円体で、茶色の[[卵鞘 (軟骨魚類)|卵鞘]]を持つ。3cmに達した胎児では顎の形成が始まり、外鰓・全ての鰭が出現する。6-8cmに達すると外鰓が完全に形成され、卵殻は脱ぎ捨てられて母体から排出される<ref name="tanaka et al"/><ref name="nishikawa"/>。40cmに達するまで[[卵黄嚢]]の大きさはほぼ一定であるが、50cmに達するまでに急速に消失する。成長率は1.4cm/月であり、他のあらゆる[[脊椎動物]]より長い3.5年の[[妊娠期間]]を持つ<ref name="tanaka et al"/><ref name="martin"/>。出生時は全長40-60cmである。雄で全長97-117cm、雌で全長135-150cmで[[性成熟]]する<ref>深海ABYSS 著者クレール・ヌヴィアン 訳者伊部 百合子 2008年 晋遊舎 ISBN 978-4-88380-850-2 </ref>。 |
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== 人との関わり == |
== 人との関わり == |
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生体と人が遭遇することは少なく、人に危害を加えることはない。扱う際に鋭い歯で怪我をすることはある<ref name="compagno"/>。2004年8月27日、米国のブレーク海台で[[遠隔操作無人探査機|ROV]]の''[[w:Johnson Sea Link|Johnson Sea Link]] II''によって、初めて深海での姿が観察された<ref name="jenner"/>。多くの専門家は、[[シーサーペント]]の目撃報告の一部は本種によって説明できると考えている。本種はそれほど大きくないが、より大型の化石種が生き残っていると信じている未確認動物学者もいる<ref name="garman"/><ref name="bright"/>。 |
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稀に底曵き網や底延縄で[[混獲]]されるが、漁業の対象にはならない。[[駿河湾]]では[[サクラエビ]]漁の[[網]]にかかる事がある。 |
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稀に底曵き網や底延縄で[[混獲]]されるが、漁業の対象にはならない<ref name="iucn"/>。[[駿河湾]]では[[鯛]]・[[ムツ]]の[[刺網]]、[[サクラエビ]]漁の[[網]]にかかる事があるが、[[漁網]]を傷つけるため漁師からは嫌われる<ref name="tanaka et al"/>。稀に肉や[[魚粉]]が流通する。繁殖力の低さと生息域での商業漁業の拡大により、[[IUCN]]は[[保全状況]]を[[準絶滅危惧]]としている<ref name="iucn"/>。 |
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[[1884年]]、[[相模湾]]で捕獲された個体の標本を以て、[[アメリカ]]の動物学者Samuel W. Garman により初記載された。以前から地元の漁網にかかることがあったが、その容貌から縁起が悪いとそのまま船上で捨てられているらしいと、[[静岡県]][[清水市]](現・[[静岡市]][[清水区]])[[三保]]にできた[[東海大学]]海洋学部の[[研究者]]たちが聞きつけ、捕まえたものを捨てずに持ち帰ってもらうように依頼をすることで[[標本]]が集まるようになったという。 |
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以前から地元の漁網にかかることがあったが、その容貌から縁起が悪いとそのまま船上で捨てられているらしいと、[[静岡県]][[清水市]](現・[[静岡市]][[清水区]])[[三保]]にできた[[東海大学]]海洋学部の[[研究者]]たちが聞きつけ、捕まえたものを捨てずに持ち帰ってもらうように依頼をすることで[[標本]]が集まるようになったという。 |
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人に危害を加えることはない。漁網にかかったものを引き揚げる際に咬まれることもある。 |
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== 捕獲例・展示 == |
=== 捕獲例・展示 === |
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[[画像:Chlamydoselachus anguineus NOOA.jpg|thumb|2004年8月26日、アメリカの[[ジョージア州]]沖の深海873メートル(2866フィート)で撮影されたラブカの写真。生きている状態で撮影された最初の写真である。]] |
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生体の展示は非常に稀で、あったとしてもごく短期間である。固定標本の展示は各所の水族館や博物館で行われている。 |
生体の展示は非常に稀で、あったとしてもごく短期間である。固定標本の展示は各所の水族館や博物館で行われている。 |
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[[神戸市立須磨海浜水族園]]では、[[1978年]]に[[千葉県]][[犬吠埼]]沖の水深780mで捕獲された個体の標本展示を行っている。 |
[[神戸市立須磨海浜水族園]]では、[[1978年]]に[[千葉県]][[犬吠埼]]沖の水深780mで捕獲された個体の標本展示を行っている。 |
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[[1997年]][[3月11日]] 静岡県[[熱海市]]沖の相模灘の、水深70 |
[[1997年]][[3月11日]] 静岡県[[熱海市]]沖の相模灘の、水深70-80mに仕掛けたヒラメ刺網に混獲。全長1806.0mmの雌の個体で、[[神奈川県立生命の星・地球博物館]]に保管されている。 |
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[[2007年]][[1月21日]] 静岡県[[沼津市]]の水族館[[淡島 (沼津市)|あわしまマリンパーク]]が全長1.6mの雌の個体を[[駿河湾|奥駿河湾]]の内浦湾で捕獲、生きている姿を撮影した。衰弱が激しく、捕獲後数時間で死亡した<ref>ロイター通信 「[http://today.reuters.co.jp/news/articlenews.aspx?type=entertainmentNews&storyID=2007-01-24T165735Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-244037-1.xml あわしまマリンパーク、珍しい深海ザメの撮影に成功」]</ref>。 |
[[2007年]][[1月21日]] 静岡県[[沼津市]]の水族館[[淡島 (沼津市)|あわしまマリンパーク]]が全長1.6mの雌の個体を[[駿河湾|奥駿河湾]]の内浦湾で捕獲、生きている姿を撮影した。衰弱が激しく、捕獲後数時間で死亡した<ref>ロイター通信 「[http://today.reuters.co.jp/news/articlenews.aspx?type=entertainmentNews&storyID=2007-01-24T165735Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-244037-1.xml あわしまマリンパーク、珍しい深海ザメの撮影に成功」]</ref><ref name="underwatertimes"/>。 |
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[[2008年]][[4月2日]]、[[神奈川県]][[横須賀市]][[長井漁港]]沖でヒラメ刺し網漁により全長1.5mの雌の個体が混獲され、翌三日、[[藤沢市]][[片瀬海岸]]の[[新江ノ島水族館]]で生体展示された。衰弱が予想され一日のみの公開となった<ref>{{cite web |
[[2008年]][[4月2日]]、[[神奈川県]][[横須賀市]][[長井漁港]]沖でヒラメ刺し網漁により全長1.5mの雌の個体が混獲され、翌三日、[[藤沢市]][[片瀬海岸]]の[[新江ノ島水族館]]で生体展示された。衰弱が予想され一日のみの公開となった<ref>{{cite web |
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2012年3月8日ならびに5月20日、[[沼津港深海水族館]]で生きた個体を展示。それぞれ別個体で、どちらも一晩で死亡<ref> |
2012年3月8日ならびに5月20日、[[沼津港深海水族館]]で生きた個体を展示。それぞれ別個体で、どちらも一晩で死亡<ref> |
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| title = ラブカ:深海ザメ捕獲 沼津港の水族館、生きたまま展示 /静岡 |
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| date = 2012-05-20 |
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| accessdate = 2012-05-21 |
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| authorlink = 沼津港深海水族館・シーラカンスミュージアム公式ブログ |
| authorlink = 沼津港深海水族館・シーラカンスミュージアム公式ブログ |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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{{reflist|colwidth=30em|refs= |
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<references/> |
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<ref name="bright">{{cite book |title=The Private Life of Sharks: The Truth Behind the Myth |author=Bright, M. |publisher=Stackpole Books |year=2000 |isbn=0-8117-2875-7 |pages=210–213}}</ref> |
|||
<ref name="collett">{{cite journal |author=Collett, R. |year=1897 |title=On ''Chlamydoselacnus anguineus'' Garman. A remarkable shark found in Norway 1896 |journal=Christiania |volume=11 |pages=1–17}}</ref> |
|||
<ref name="compagno">{{cite book |author=Compagno, L.J.V. |year=1984 |title=Sharks of the World: An Annotated and Illustrated Catalogue of Shark Species Known to Date |publisher=Food and Agricultural Organization of the United Nations |isbn=92-5-101384-5 |pages=14–15}}</ref> |
|||
<ref name="compagno2">{{cite journal |author=Compagno, L.J.V. |title=Phyletic Relationships of Living Sharks and Rays |journal=American Zoologist |year=1977 |volume=17 |issue=2 |pages=303–322}}</ref> |
|||
<ref name="ebert">{{cite book |author=Ebert, D.A. |year=2003 |title=Sharks, Rays, and Chimaeras of California |publisher=University of California Press |isbn=0-520-23484-7 |pages=50–52 |url=http://books.google.com/?id=1SjtuAs702kC&pg=PA149}}</ref> |
|||
<ref name="ebert and compagno">{{cite journal |author=Ebert, D.A. and Compagno, L.J.V. |title=''Chlamydoselachus africana'', a new species of frilled shark from southern Africa (Chondrichthyes, Hexanchiformes, Chlamydoselachidae) |journal=Zootaxa |volume=2173 |year=2009 |pages=1–18 |url=http://www.mlml.calstate.edu/system/files/private/Ebert%2526Compagno%20C_africana%20sp%20n%202009.pdf}}</ref> |
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== 関連項目 == |
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* [[魚の一覧]] |
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== 外部リンク == |
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* [http://www.marinepark.jp/shark.html 生きた化石!ラブカの撮影に成功!(あわしまマリンパーク)] |
* [http://www.marinepark.jp/shark.html 生きた化石!ラブカの撮影に成功!(あわしまマリンパーク)] |
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2012年5月31日 (木) 12:58時点における版
ラブカ | |||||||||||||||||||||||||||
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ラブカ Chlamydoselachus anguineus
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保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||||||||
NEAR THREATENED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Chlamydoselachus anguineus Garman, 1884 | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Frilled shark | |||||||||||||||||||||||||||
ラブカの生息域
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ラブカ(羅鱶、Chlamydoselachus anguineus、英: Frilled shark)は、カグラザメ目ラブカ科に属するサメ。ラブカ科の現生種は2種のみ。外見からウナギザメ(鰻鮫)と呼ばれることもある。大西洋・太平洋の大陸斜面、水深500-1,000 mの海底で生活するが、駿河湾などでは浅海に上がってくる。原始的なサメの特徴が見られる事から生きている化石と呼ばれる。全長2mに達し、鰭は体後部に集中する。鰓弁は大きくヒダ状になり、英名の由来ともなっている。
蛇のように体を伸ばして獲物に食らいつく姿が観察されている。顎が大きいためかなり大きな獲物も飲み込むことができる。主に頭足類を食べる。無胎盤性胎生。繁殖期はなく、妊娠期間は3年半。稀に底曵き網や底延縄で混獲されるが、漁業の対象にはならない。IUCNは保全状況を準絶滅危惧としている。
分類
ドイツの魚類学者Ludwig Döderleinは1879-1881年に日本を訪れ、2個体の標本をウィーンに持ち帰った。だが、彼の手稿によるとこの標本は失われたようである。そのため、最初の記載は1884年、米国の動物学者Samuel GarmanがProceedings of the Essex Instituteで公表した"An Extraordinary Shark"と題した記載論文とされている。タイプ標本は相模湾産の1.5mの雌個体である[2][3]。Garmanは本種に科・属を新設し、古代ギリシア語chlamy(外套)、selachus(サメ)、ラテン語anguineus(ウナギ型)に由来するChlamydoselachus anguineusという学名を与えた[4]。英名はfrill shark・lizard shark・scaffold shark・silk sharkなど[1][5]。
多尖頭の歯、眼の後方で頭骨と直接関節する(両接型 amphistyly)顎、椎骨が不明瞭で脊索のような脊柱に基づいて、昔の専門家は本種を絶滅した板鰓類(サメ・エイとその祖先)の生き残りだと考えていた[6]。Garmanは古生代のデボン紀(416-359Ma)に栄えたクラドセラケと本種を同じグループ"cladodonts"に位置付けた。彼と同世代のテオドール・ギルとエドワード・ドリンカー・コープは中生代に栄えたヒボドゥス目との関連を指摘し、コープは本種を化石属のDidymodusに位置づけた[7][8]。
一方、最近の研究では、頭の骨格構造にツノザメ類に近い部分もあるとされ、この説に疑問を呈する声もある[9]が、クラドセラケと同様の歯形状と、鰓穴の数が6つあるという説明と解明まではされていない。
骨格や筋肉の特徴は明らかに現生のサメ(Neoselachii)のものであり、特にカグラザメと類似する。また、分類学者の白井滋は単型のラブカ目(Chlamydoselachiformes)を提唱している[6][8]。それでも本種は現生サメの中で最も古い系統の一つに属し、白亜紀後期(c. 95 Ma)、また、おそらくジュラ紀後期(c. 150 Ma)の化石が発見されている[10]。 原始的なサメの特徴をよく残している事から生きている化石と呼ばれる[3]。
分布・生息地
稀種ではあるが分布域は広く、大西洋・太平洋全域から散発的に記録がある。東大西洋ではノルウェー北方・スコットランド北方・アイルランド西方・フランスからモロッコ・マデイラ諸島・モーリタニア[11]。中央大西洋ではアゾレス諸島からブラジル南方のリオグランデ海膨までの大西洋中央海嶺上・西アフリカ沖のVavilov海嶺。西大西洋ではニューイングランド・ジョージア州・スリナム[12][13][14]。西太平洋では本州南東・台湾・ニューサウスウェールズ・タスマニア・ニュージーランド。中央・東太平洋ではハワイ・カリフォルニア・チリ北部[1][11]で確認されている。2009年、南アフリカ沖に生息する個体は別種C. africanaとされた[14]。日本では相模湾や駿河湾で比較的多く見られる。
大陸棚外縁と大陸斜面上-中部に生息し、湧昇流などの生物学的生産力の高い海域を好むようである[4]。最大で水深1570mから見つかっているが、通常1000m以深では見られない[1][5]。駿河湾では水深50-200mでよく見られるが、8-11月は100m以浅の水温が15℃を超えるため深場に移動する[15][16]。基本的には海底付近で生活し、小さな砂山の上を泳いでいる個体が観察されている[1][12]。だが、おそらく日周鉛直移動を行い、夜間には表層で摂餌すると考えられる[4][17]。大きさや繁殖状況に応じて棲み分けが行われている[16]。
形態
体型は細長い円筒型。頭部は幅広くて平たく、短く丸い吻がある。鼻孔は縦に裂け、前鼻弁で2つに区切られている。眼は比較的大きく楕円形で、瞬膜を欠く。非常に大きい口は普通のサメと異なって体前端に開く。口角に溝・褶はない。歯列は隙間を開けて並び、上顎で19-28・下顎で21-29列[2][14]。歯は合計で300本ほどで、歯は小さく、細い三尖頭をもち先は鋭くとがる。尖頭の間には小尖頭がある[4][17]。鰓裂は長く6対で、鰓弁の後部が伸びてヒダ状になる。第一鰓裂は喉で繋がって襟状となっている[2]。
胸鰭は短くて丸い。背鰭は1基で小さく、後縁は丸い。体後方の臀鰭上部に位置する。腹鰭・臀鰭は大きく、幅広くて丸く、体後方に位置する。尾鰭は非常に長く、下葉・欠刻がない。腹面には1対の厚い皮褶が走るが、その機能は不明である[2]。腹部は雄より雌の方が長く、腹鰭がより後方にある[17][18]。皮歯は小さく、鏨型である。尾鰭背面の皮歯は大きくて鋭い[2]。体色は全体的に暗褐色から灰色[4]。最大全長は雄で1.7m・雌で2.0m[4]。
近縁種
近縁種に南アフリカ産のC. africana (Ebert & Compagno, 2009) が知られている。この種は脊椎骨数が160-171でラブカの147より多く、腸の螺旋弁数が35-49でラブカの26-28より多い。また、頭部はより長く、鰓裂はより短い。これにより、現生のラブカ科はC. anguineusおよびC. africanaの2種で構成されることになる[14]。
生態
数が少なく、比較的海の深い所に生息する種であるため、観察が難しく、詳しい生態はほとんど分かっていない。
普段動きは緩慢で、ウナギのように体を波打たせて遊泳する。遊泳速度は速くない。
骨格の石灰化が弱く、低密度の脂質が詰まった大きな肝臓を持つ。これは体の密度を減らし、水中に浮かぶための適応である[17]。開いた側線を持つ数少ないサメの一つで、機械受容器の有毛細胞が外部に露出している。これはサメの基底クレードに見られる形質であるが、獲物の細かい動きを捉えることができると考えられる[17][19]。尾鰭の先端を欠損した個体がよく見つかるが、これは他種のサメに襲われたものと考えられる[16]。寄生虫としてMonorygma属の条虫、吸虫のOtodistomum veliporum[20]、旋尾線虫のMooleptus rabuka[21]が知られる。
摂餌
顎は柔軟で非常に大きく開くことができ、全長の半分を超える獲物を飲み込むことができる[4]。だが顎の長さと関節からすると、他のサメに比べあまり強く噛み付くことはできないようである[22]。ほとんどの捕獲個体には胃内容物がなく、消化速度が速いか摂餌間隔が長いことを意味すると考えられる[15]。自分よりも小柄なサメや硬骨魚類、頭足類などを捕食する[4]。銚子市で捕獲された1.6mの個体は590gのニホンヘラザメ(Apristurus japonicus)を飲み込んでいた[17]。駿河湾では餌の60%がイカであり、ユウレイイカ・クラゲイカのような動きの遅い種だけでなく、ツメイカ・トビイカ・スルメイカのような大型で高速遊泳する種も捕食していた[15]。
泳ぎの遅い本種がどのように高速遊泳するイカを捕えるのかは不明であるが、傷ついた、または繁殖後で弱った個体を狙っている可能性はある[15]。体後方に鰭が集中した体型は瞬間的な突進に適しており、蛇のように体をくねらせて獲物に食らいつくことができる。さらに、鰓裂を閉じることで負圧を生み出し、獲物を吸い込んでいるとも考えられる[17]。鋭く小さい、内側に向いた歯は顎を突き出すことで外側に回転し、獲物を引っ掛けやすくなる。捕獲個体の観察からは口を開けたまま泳ぐことが分かっているが、これは白い歯と黒い口内の対比によって、疑似餌として機能するという仮説もある[14]。
生活史
無胎盤性胎生で、胎児は卵黄によって成長する。だが胎児間で体重が異なることがあり、母体からも何らかの形で栄養が供給されると考えられる。成体雌は2つの卵巣、1つの子宮(右側)が機能する。深海は季節の影響が少ないため、繁殖期はない[16]。おそらく繁殖のために、大西洋中央海嶺の海山に15匹の雄、19匹の雌が集まったことが記録されている[13]。産仔数は2-15だが、平均6[4]。雌は2週間おきに排卵するが、妊娠中は体腔に十分なスペースがないため、卵黄形成と卵巣卵の発達は停止する[16]。
受精卵は薄く楕円体で、茶色の卵鞘を持つ。3cmに達した胎児では顎の形成が始まり、外鰓・全ての鰭が出現する。6-8cmに達すると外鰓が完全に形成され、卵殻は脱ぎ捨てられて母体から排出される[16][23]。40cmに達するまで卵黄嚢の大きさはほぼ一定であるが、50cmに達するまでに急速に消失する。成長率は1.4cm/月であり、他のあらゆる脊椎動物より長い3.5年の妊娠期間を持つ[16][17]。出生時は全長40-60cmである。雄で全長97-117cm、雌で全長135-150cmで性成熟する[24]。
人との関わり
生体と人が遭遇することは少なく、人に危害を加えることはない。扱う際に鋭い歯で怪我をすることはある[11]。2004年8月27日、米国のブレーク海台でROVのJohnson Sea Link IIによって、初めて深海での姿が観察された[12]。多くの専門家は、シーサーペントの目撃報告の一部は本種によって説明できると考えている。本種はそれほど大きくないが、より大型の化石種が生き残っていると信じている未確認動物学者もいる[2][3]。
稀に底曵き網や底延縄で混獲されるが、漁業の対象にはならない[1]。駿河湾では鯛・ムツの刺網、サクラエビ漁の網にかかる事があるが、漁網を傷つけるため漁師からは嫌われる[16]。稀に肉や魚粉が流通する。繁殖力の低さと生息域での商業漁業の拡大により、IUCNは保全状況を準絶滅危惧としている[1]。
以前から地元の漁網にかかることがあったが、その容貌から縁起が悪いとそのまま船上で捨てられているらしいと、静岡県清水市(現・静岡市清水区)三保にできた東海大学海洋学部の研究者たちが聞きつけ、捕まえたものを捨てずに持ち帰ってもらうように依頼をすることで標本が集まるようになったという。
捕獲例・展示
生体の展示は非常に稀で、あったとしてもごく短期間である。固定標本の展示は各所の水族館や博物館で行われている。
神戸市立須磨海浜水族園では、1978年に千葉県犬吠埼沖の水深780mで捕獲された個体の標本展示を行っている。
1997年3月11日 静岡県熱海市沖の相模灘の、水深70-80mに仕掛けたヒラメ刺網に混獲。全長1806.0mmの雌の個体で、神奈川県立生命の星・地球博物館に保管されている。
2007年1月21日 静岡県沼津市の水族館あわしまマリンパークが全長1.6mの雌の個体を奥駿河湾の内浦湾で捕獲、生きている姿を撮影した。衰弱が激しく、捕獲後数時間で死亡した[25][26]。
2008年4月2日、神奈川県横須賀市長井漁港沖でヒラメ刺し網漁により全長1.5mの雌の個体が混獲され、翌三日、藤沢市片瀬海岸の新江ノ島水族館で生体展示された。衰弱が予想され一日のみの公開となった[27][28]。
2010年11月17日、長崎県野母崎沖の水深600 mで長崎大学水産学部の練習船「長崎丸」がビームトロールによって捕獲した。2011年9月より学部棟内に個体標本が展示されている。
2012年3月8日ならびに5月20日、沼津港深海水族館で生きた個体を展示。それぞれ別個体で、どちらも一晩で死亡[29][30]。
ギャラリー
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ラブカの歯と口。上の黒い穴は鼻。
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特徴的な歯と歯列
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神戸市立須磨海浜水族園での標本展示
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チャレンジャー号探検航海で発見されたラブカのスケッチ
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頭部の模型
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模型の全身
脚注
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