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「オーロラ」の版間の差分

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[[ファイル:Polarlicht 2.jpg|thumb|250px|[[アラスカ]]のオーロラ]]
[[ファイル:Polarlicht 2.jpg|thumb|250px|[[アラスカ]]のオーロラ]]
'''オーロラ'''(aurora)とは[[極域]]近辺に見られる[[大気]]の発光現象。北極近辺ではnorthern lights、南極近辺ではsouthern lightsとも呼ばれる。明るさは[[レイリー (単位)|レイリー]]で表され、通常は数キロ〜数十キロレイリー、明るいもので百キロレイリー以上になる。
[[ファイル:Red and green auror.JPG|thumb|250px|[[フェアバンクス]]のオーロラ]]
[[ファイル:Aurora 1 in Kiruna.JPG|thumb|250px|[[キルナ]]のオーロラ]]
'''オーロラ'''(aurora)とは[[極域]]近辺に見られる[[大気]]の発光現象。

== 概要 ==
名称は[[ローマ神話]]の暁の女神[[アウロラ]](Aurora)に由来する。北極近辺ではnorthern lights、南極近辺ではsouthern lightsとも呼ばれる。明るさは[[レイリー (単位)|レイリー]]で表され、通常は数キロ〜数十キロレイリー、明るいもので百キロレイリー以上になる。日本本土で見られる確率が非常に少ない現象であるが、日本語(和語)では古来「赤気(せっき)」と呼ばれてきた。[[北欧神話]]においてオーロラは、夜空を駆ける[[ワルキューレ]]たちの甲冑の輝きだとされる。


== 発生の原理 ==
== 発生の原理 ==
[[ファイル:Magnetosphere schematic.jpg|thumb|地球の夜側にプラズマシートが形成される]]
[[太陽]]に端を発する「[[太陽風]]」と呼ばれる[[プラズマ]]粒子の流れが[[地磁気|地球磁場]]と相互作用し、複雑な浸入過程を経て[[磁気圏|地球磁気圏]]内の夜側に広がる「[[プラズマシート]]」と呼ばれる領域にたまる。プラズマシート中のプラズマ粒子が地球[[大気]]([[電離層]])に向かって高速で降下し、大気中の粒子と衝突すると、大気粒子が一旦[[励起状態]]になり、それが元の状態に戻るときに[[発光]]する。これがオーロラの光である(発光の原理自体は[[蛍光]]灯と同じ)。
[[太陽]]からは「[[太陽風]]」と呼ばれる[[プラズマ]]の流れが常に吹きつけており、これにより[[磁気圏|地球の磁気圏]]は太陽とは反対方向、つまり地球の夜側へと吹き流されている。太陽から放出されたプラズマは[[地磁気|地球磁場]]と相互作用し、複雑な浸入過程を経て磁気圏内の夜側に広がる「[[プラズマシート]]」と呼ばれる領域を中心にたまる。このプラズマシート中のプラズマが何らかのきっかけで磁力線にそって加速し、地球[[大気]]([[電離層]])へ高速で降下することがある。大気中の粒子と衝突すると、大気粒子が一旦[[励起状態]]になり、それが元の状態に戻るときに[[発光]]する。これがオーロラである<ref>[[#神沼|神沼pp.144-145]]</ref><ref>[[#上出|上出pp.42-45]]</ref>発光の原理だけならばオーロラは、[[蛍光灯]]や[[ネオンサイン]]と同じである<ref>[[#上出|上出p.45]]</ref>。プラズマシートが地球の夜側に形成されるため、オーロラは基本的に夜間にのみ出現するものである。しかし昼間にもわずかながら出現することがある<ref>[[#上出|上出pp.44]]</ref>。なぜプラズマが地球の磁力圏に入り込むのか、なぜプラズマが特定の部分にたまるのか、なぜ加速するのか、なぜ磁力線にそって高速で極域へ向かって降下するのかなど、発生原理の肝要な部分については未だ統一した見解は出されていない<ref>[[#上出|上出pp.45-46]]</ref>。


オーロラの活動が活発になるには2つの原因がある。一つは太陽フレアという突発的な爆発現象、一つはコロナホールという高速の太陽風が噴出する場所が生成されることである。太陽フレアは黒点の数と関係があり、およそ11年ごとに活発になる。コロナホールは数ヶ月の間細く長く続く噴出箇所で、太陽の自転周期を計算するだけでオーロラの活動の予測ができる。また黒点周期の後半に多く生成される<ref>[[#上出|上出 pp.87-89]]</ref>。これらのことから各旅行社は黒点周期の11年ごとに「オーロラの当たり年」「オーロラ最盛期」などとしてオーロラツアーを組むことがよくある<ref>[http://skygate.weblogs.jp/blog/2012/02/111-431d.html 今年は11年に1度の当たり年 最高のオーロラと出会うイエローナイフの旅] スカイゲートスタッフ旅行記 2012年4月17日閲覧</ref><ref name="yusen">[http://www.ytk.co.jp/tabiyujin_hike/newinfo_aurora.html オーロラの誘い] 郵船トラベル 2012年4月17日閲覧</ref><ref>[[#上出|上出 p.85]]</ref>。確かにオーロラの活動と太陽の活動は連動しているものの、実際には11年ごとのピークを逃しても活発なオーロラが出現することがあり、たとえ黒点の数がゼロになっても太陽にコロナがある限り太陽風は吹き、オーロラは出現する<ref>[[#上出|上出 p.87]]</ref>。
オーロラは肉眼では白くぼんやりとしか見えないことが多いが、それは発光自身が暗いためでいくつかの色をもっている。本が読めるほどの明るいオーロラだと、はっきりとその色を識別できる。


オーロラが突如として一気に広がる現象をブレイクアップという<ref>[[#上出|上出p.47]]</ref>。日本語ではオーロラ爆発とも訳される<ref>[http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2012032806&expand アラスカ北極圏でオーロラ爆発] ナショナルジオグラフィック ニュース 2012年4月16日閲覧</ref>。空から突然光が噴出し全天に広がり、色や形の変化が数分間続く。このブレイクアップに関しても、発生原因や発生過程などはあまり良くわかっていない<ref>[[#上出|上出pp.48-49]]</ref>。
肉眼で見られるオーロラの色はほとんどが[[電子]]の降り込みが原因で、発光が起こっている高度によって違う。上方の高度200 km以上では赤色(630nm)、200kmから100kmの低高度では緑色(557.7nm)、そして稀に100km以下の最下部にピンク色や紫色を見ることができる。赤と緑は[[酸素]][[原子]]によるもので、ピンク色(連続光)は[[窒素]][[分子]]、紫(427.8nm)は窒素分子イオン(N{{sub|2}}{{sup|+}})による。通常見られるのは緑色のオーロラである。これは大気の主組成の高度変化と関連しており、100km以上では窒素分子に比べ酸素原子が卓越していることを示す。また赤と緑の境は酸素原子の密度変化が影響している。降り込む電子のエネルギーが高くなると、平均的なオーロラの発光高度は低くなる。太陽活動現象に伴う[[磁気嵐]]により、たまに日本のような低緯度地方でも赤いオーロラが観測されることがある。これは[[磁気嵐]]によって磁力線が低緯度側にゆれることや、赤いオーロラが高高度であるために地平線に沈みにくいことと関係がある。


== オーロラの==
[[陽子|プロトン(陽子)]]オーロラの場合、励起され発光するのは降下してくるプロトン自身である。
[[ファイル:Red and green auror.JPG|thumb|250px|[[フェアバンクス]]のオーロラ。上部は赤、下のほうは緑になっている。]]
[[File:Virmalised ,aurora borealis.jpg|thumb|珍しい紫のオーロラ]]
オーロラの色は、宇宙からの粒子が大気に衝突する際に''何の成分''に当たったかだけではなく、どれくらいの''高度''で、どれくらいの''頻度''で、どれくらいの''時間をかけて''衝突し、どれくらいの''エネルギー''を与えられて励起し、''どの基底状態''に戻ったのか、など様々な要素が複雑にからみ合って決まる<ref>[[#上出|上出 p.113]]</ref>。更に、励起する際に原子軌道から跳ね飛ばされた電子(二次電子)が別の原子を励起して別の色を出すこともあれば<ref>[[#上出|上出 p.117]]</ref>、太陽光から特定の波長のみ吸収して(共鳴散乱)起きるオーロラがあるという説もある<ref>[[#上出|上出 p.116]]</ref>。


しかし実際には観測される色と出現する高度にはおおまかに相関関係がある<ref>[[#上出|上出 pp.114-117]]</ref><ref>[[#神沼|神沼 pp.146-147]]</ref>。
オーロラ領域から観測されるのは[[可視光]]だけではなく、[[紫外線]]や、「[[AKR]]」と呼ばれる[[キロメートル波|km帯の電波]]、さらには降り込み電子の[[制動輻射]]による[[X線]]など様々な波長の[[電磁波]]が存在する。
*高度およそ150から200キロメートル以上では大気の密度が低いため、エネルギーの小さい電子でも酸素原子を励起させることができる。酸素原子はすこし励起して波長630ナノメートルの光を出す。人の目には赤く見える。
*高度およそ100から150キロメートルでは大気の密度が高く、エネルギーの大きい電子でないと酸素原子を励起させられない。酸素原子は大いに励起してより波長の短い557.7ナノメートルの光を出す。人の目には緑色や緑白色に見える。高緯度地域ではたいていこの色のオーロラが見られる。
*高度およそ90から100キロメートルまで到達するにはよほどオーロラ活動が強くなくてはならない。この高度では酸素よりも窒素のほうが多いため、窒素原子が励起して585.4ナノメートルの光を出す。人の目には緑色のオーロラのカーテンの縁に、ピンクまたは赤紫のフリルが附属しているように見える。
*緑色のオーロラが出るくらいの高度にある窒素分子が、入射してきた電子によりイオン化され、励起・発光すると301.4ナノメートル近辺(青)と427.8ナノメートル近辺(紫)の光をだす。どちらもオーロラの色に幅がある。<ref>特に紫色のオーロラは、発光するためのシークエンスが複雑だったり、人間の目が不得手な波長だったりすることから、ミク癌で観測できることは非常に珍しい。上出 p.116</ref>
このように降り込む粒子のエネルギーが高いほど、平均的なオーロラの発光高度は低くなる。太陽活動現象に伴う[[磁気嵐]]により、たまに日本や中国、西欧のような低緯度地方でも赤いオーロラが観測されることがある。これは[[磁気嵐]]によって磁力線が低緯度側にふれることや、中低緯度地域になると地球の丸みのために上部の赤いオーロラしか見えないことなどと関係がある<ref name="kamide80">[[#上出|上出 p.80]]</ref>。

オーロラ領域から観測されるのは[[可視光]]だけではなく、[[紫外線]]や[[赤外線]]<ref>[[#上出|上出 p.110]]</ref>、「[[AKR]]」と呼ばれる[[キロメートル波|km帯の電波]]など様々な波長の[[電磁波]]が存在する<ref>AKRに関しては太陽の活動が強くなるほどAKRが弱くなるという相関関係があり、未だ原因が解明されていない[http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/wave/wave01/WAVE01-02.pdf オーロラキロメートル電波の太陽活動依存性] 熊本篤志、小野高幸(東北大理)、大家 寛(福井工大) 2012年4月15日閲覧 </ref>。

==オーロラの見られる場所==
{{multiple image
| image1 = Map auroral oval mostly canada.png
| width1 = 150
| caption1 = 北半球のオーロラオーバルは[[北磁極]]を中心とする楕円である。
| image2 = Aurora australis 20050911.jpg
| width2 = 150
| caption2 = 宇宙から見た南極付近のオーロラ(背景の地球は合成)
}}
[[File:Aurora Saturn.jpg|thumb|right|[[ハッブル宇宙望遠鏡]]が捉えた土星のオーロラ。地球以外の惑星でも、南北に同じ様なオーロラが現れる。オーロラの画像は紫外線、土星本体は可視光で撮影されている。]]
完全な極点近傍ではあまり発生せず、地磁気の[[緯度]]で言えば昼側でおよそ77度から78度、夜側でおよそ68度から70度のあたり、地球の[[磁極]]を取り巻くドーナツ状の領域に高頻度で発生し、この領域を「オーロラオーバル(オーロラベルト)と呼ぶ<ref>[[#神沼|神沼pp.147-148]]</ref>。オーロラがこの領域でよく発生するのは、オーロラ発光の原因である[[プラズマ]]粒子がほぼ[[磁力線]]に沿って動くという性質を持っていることと関係している。プラズマ粒子がその主要な供給源であるプラズマシートから地球電離層まで磁力線に沿って進入すると、このドーナツ上の領域にたどり着くため、そこでオーロラが発光しやすいのである<ref>[[#上出|上出p.119]]</ref>

カナダの[[イエローナイフ]]やユーコン準州の[[ドーソンシティ]]、アラスカの[[フェアバンクス]]、スウェーデンの[[キルナ]]がオーロラがよく見られる場所として有名で、多くの観光客や写真家が訪れる。南極の[[昭和基地]]でもオーロラがよく見られ、観測が行われている。

オーロラは地球の南北で同じような形態(色や形)で発生することが知られている。これは同一の磁力線に沿ってオーロラを起こす粒子が同時に降下するからである<ref>[[#神沼|神沼p.150]]</ref>。このように同じ磁力線で繋がっている地点を南北共役点という<ref>[[#上出|上出p.61]]</ref>。日本の昭和基地の南北共役点は[[アイスランド]]にあり、1980年代には[[アイスランド大学]]と協力して昭和基地とアイスランドでの同時観測を開始した。結果、同じような形態のオーロラを観測することもあったが、時には形態の異なるオーロラを観測することもあった。南北共役点でなぜ違うオーロラが発生することもあるのかについては、未だ解明されていない。<ref>[[#神沼|神p.150]]</ref>。

オーロラは地球に限らず、これまで[[火星]]<ref>[http://www.universetoday.com/am/publish/mars_express_aurorae.html?1722006]</ref>や[[木星]]、[[土星]]、[[天王星]]、[[海王星]]でも観測されており<ref name="kamide90">[[#上出|上出p.90]]</ref>、大気と固有磁場をもつ[[惑星]]ならばオーロラが出する可能性がある<ref name="kamide90" />

=== 日本国内での観測 ===
稀ではあるが日本でもオーロラを観測出来ることがある。太陽の活動が活発な時期には北海道や本州北部で、肉眼では観測しづらいほど弱光ながらも、赤いオーロラが出現する<ref>[http://stdb2.stelab.nagoya-u.ac.jp/div2/project.html#LL_AR 低緯度オーロラの研究] 名古屋大学太陽地球環境研究所電磁気圏環境部門 2012年4月15日閲覧</ref>。北の空を染める赤いオーロラを見た住民が山火事と勘違いして消防車が出動した記録もある<ref>[[#上出|上出p.79]]</ref>。[[1958年]][[2月11日]]には[[北陸]]から[[関東]]にかけて、さらに[[1770年]][[9月17日]]には[[長崎]]でも観測されたという記録が残っている<ref name="NAO News">[http://www.astroarts.co.jp/news/2003/10/30nao680/index-j.shtml 日本でも赤いオーロラが見られた!] NAOニュース 2012年4月15日閲覧</ref>。

見られる確率が非常に少ない現象ではあるが日本語(和語)では古来「赤気(せっき)」という名前がついていた<ref name="NAO News" />。最古の記述は[[日本書紀]]まで遡り、[[推古天皇]]統治時代の[[620年]]に、「天に赤気があり、その形は雉の雄に似ていた。長さは一丈(約3.8 m)あまりであった」という記録が残っている<ref name="kamide78">[[#上出|上出p.78]]</ref>。[[藤原定家]]の[[明月記]]にも、「北の空から赤気が迫ってきた。その中に白い箇所が5ヶ所ほどあり、筋も見られる。恐ろしいことだ。」と、オーロラに推定される記録が残されている<ref name="kamide78" />。

== 観測の歴史 ==
オーロラという名称は[[ローマ神話]]の暁の女神[[アウロラ]](Aurora)に由来する。名付け親はイタリアのガリレオ・ガリレイという説が有力である<ref>[[#上出|上出pp.27-28]]</ref><ref>[http://www.nationalgeographic.co.jp/special/aurora/ オーロラ特集] ナショナルジオグラフィック 2012年4月17日閲覧</ref>。[[北欧神話]]においてオーロラは、夜空を駆ける[[ワルキューレ]]たちの甲冑の輝きだとされる<ref>[http://www.mythbiblio.com/category/scandinavian_myth/valkyria/index.html ヴァルキューレ(ヴァルキリー)] 神話用語辞典 2012年4月17日閲覧</ref><ref name="yusen" />。

前述のとおり、中国や西欧ほどの緯度ではオーロラの活動が活発な時に赤いオーロラが見える。古代中国ではオーロラは天に住む赤い龍に見立てられ<ref name="kamide25">[[#上出|上出p.25]]</ref>、政治の大変革や不吉なことの前触れであると信じられていた。
この他にも古代中国には赤い蛇のような体を持ち、体長が千里におよぶとされる[[燭陰]]という神がいた<ref name="sengaikyo">{{Cite book|和書|author=高馬三良訳|title=[[山海経]] 中国古代の神話世界|year=1994|publisher=[[平凡社]]|series=平凡社ライブラリー|isbn=978-4-582-76034-7|pages=126頁}}</ref>。中国の神話学者・何新は、燭陰は大地の最北極に住み、[[オーロラ]]が神格化されたものが燭陰ではないかと論証している。その一方で中国の考古学者・徐明龍は燭陰を、[[中国神話]]の神である[[祝融]]と同一神であるとし、[[太陽神]]、[[火炎崇拝|火神]]ではないかと述べている<ref>{{Cite book|和書|author=[[多田克己]]|title=百鬼解読|year=2006|publisher=[[講談社]]|series=[[講談社文庫]]|isbn=978-4-06-275484-2|pages=237-243頁}}</ref>。

中世ヨーロッパでも、赤いオーロラから血を連想し、災害や戦争の前触れ、あるいは神の怒りであると解釈していた<ref name="kamide25" />。[[リヒャルト・ワーグナー]]の[[ニーベルングの指環]]の四作目[[神々の黄昏 (楽劇)|神々の黄昏]]のラストシーンの天上の炎上は赤いオーロラのことを表していると言われている<ref>[[#上出|上出p.26]]</ref>。北欧ではオーロラにより死者の世界と生者の世界が結びついている、と信じている人が未だにおり<ref>[[#上出|上出p.24]]</ref>、またエスキモーの伝説では、生前の行いが良かった人は死後、オーロラの国(実質的に天国のこと)へ旅立つということになっている<ref>[[#上出|上出p.27]]</ref>

近現代に両極を探検した人々がオーロラを記録に残し始めた。日本へは1934年に開始された南極海の捕鯨により、オーロラとして紹介され始めた<ref>[[#神沼|神沼p.141]]</ref>。


== オーロラの分類 ==
== オーロラの分類 ==
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また極冠域オーロラは、太陽風中の[[惑星間空間磁場]]の急激な変化によりプラズマシートの形状が変形して現れる。このようにプラズマ粒子の[[電磁流体力学]]的な振る舞いにより、極域オーロラの活動や活動域は地球磁気圏内の構造や物理過程と直結している。
また極冠域オーロラは、太陽風中の[[惑星間空間磁場]]の急激な変化によりプラズマシートの形状が変形して現れる。このようにプラズマ粒子の[[電磁流体力学]]的な振る舞いにより、極域オーロラの活動や活動域は地球磁気圏内の構造や物理過程と直結している。

==オーロラの見られる場所==
[[ファイル:Aurora australis 20050911.jpg|thumb|right|宇宙から見た南極付近のオーロラ(背景の地球は合成)]]
[[ファイル:Saturn.Aurora.HST.UV-Vis.jpg|thumb|right|土星のオーロラ。可視光で撮影した土星本体と、紫外線で撮影したオーロラを合成したもの。]]
オーロラは[[南極]]と[[北極]]においてほぼ対称的に発生する。また完全な極点近傍ではあまり発生せず、[[緯度]]が大体65度から80度の、地球の[[磁極]]を取り巻くドーナツ状の領域に高頻度で発生する。この領域を「オーロラオーバル(オーロラベルト)と呼ぶ。オーロラがこの領域でよく発生するのは、オーロラ発光の原因である[[プラズマ]]粒子がほぼ[[磁力線]]に沿って動くという性質を持っていることと関係している。プラズマ粒子がその主要な供給源であるプラズマシートから地球電離層まで磁力線に沿って進入すると、このドーナツ上の領域にたどり着くため、そこでオーロラが発光しやすいのである。

カナダの[[イエローナイフ]]やユーコン準州の[[ドーソンシティ]]、アラスカの[[フェアバンクス]]、スウェーデンの[[キルナ]]がオーロラがよく見られる場所として有名で、多くの観光客や写真家が訪れる。南極の[[昭和基地]]でもオーロラがよく見られ、観測が行われている。

また、稀ではあるが日本でもオーロラを観測出来ることがある。多くは[[北海道]]であるが、[[1958年]][[2月11日]]には[[北陸]]から[[関東]]にかけて、さらに[[1770年]][[9月17日]]には[[長崎]]でも観測されたという記録が残っている<ref>[http://www.astroarts.co.jp/news/2003/10/30nao680/index-j.shtml 日本でも赤いオーロラが見られた!(NAOニュース)]</ref>。最古の記述は[[日本書紀]]まで遡り、[[推古天皇]]統治時代の[[620年]]に、天に赤気が現れ長さは一丈(約3.8 m)あまり、雉の尾のようであったと記録が残る。以降[[藤原定家]]の[[明月記]]などにオーロラに推定される記録が十数件残されている。

オーロラは地球に限らず、これまで[[火星]]<ref>[http://www.universetoday.com/am/publish/mars_express_aurorae.html?1722006]</ref>や[[金星]]、[[木星]]、[[土星]]、[[天王星]]、[[海王星]]でも観測されていて、大気と[[固有磁場]]をもつ[[惑星]]の普遍的な現象であると言われている


== オーロラの音 ==
== オーロラの音 ==
[[ファイル:Aurora 1 in Kiruna.JPG|thumb|250px|[[キルナ]]のオーロラ]]
[[磁気嵐]]のときに現れるような強いオーロラがまれに音を発したという話が古くより数多く存在しており<ref name="Silverman1973">{{cite journal
[[磁気嵐]]のときに現れるような強いオーロラがまれに音を発したという話が古くより数多く存在しており<ref name="Silverman1973">{{cite journal
| first=S.M. | last=Silverman
| first=S.M. | last=Silverman
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| work=Auroral Sounds
| work=Auroral Sounds
| accessdate=2011-02-27
| accessdate=2011-02-27
}}</ref>、その実在をめぐって議論が行われている。 この'''オーロラの音''' (auroral sound) は聞こえるとしても非常にまれであり、強いオーロラが出ても何も聞こえないことも多い。 また同時に多くの人が聞いた例もあれば、隣同士にいて一方にしか聞こえなかった例もある。 多くの体験者はこの音がその眼に見えるオーロラの動きと同調して変化すると主張しており音波の伝播による時間遅れはほとんどみられない。 音は衣ずれにしばしば例えられる「シュー」といったノイズ音や、「パチパチ」といった断続音が代表的である。
}}</ref>、その実在をめぐって議論が行われている。 この'''オーロラの音''' (auroral sound) は聞こえるとしても非常にまれであり、強いオーロラが出ても何も聞こえないことも多い。 また同時に多くの人が聞いた例もあれば、隣同士にいて一方にしか聞こえなかった例もある。 多くの体験者はこの音がその眼に見えるオーロラの動きと同調して変化すると主張しており音波の伝播による時間遅れはほとんどみられない。 音は衣ずれにしばしば例えられる「シュー」といったノイズ音が代表的である<ref>[[#上出|上出p.84]]</ref>


すでにローマ時代の[[タキトゥス]]の『[[ゲルマニア (書物)|ゲルマニア]]』にも、それを表しているともされる記述があるが<ref name="Rouse1881">{{cite journal
すでにローマ時代の[[タキトゥス]]の『[[ゲルマニア (書物)|ゲルマニア]]』にも、それを表しているともされる記述があるが<ref name="Rouse1881">{{cite journal
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| volume=84 | pages=373&nbsp;382
| volume=84 | pages=373&nbsp;382
| url=http://adsabs.harvard.edu/abs/1990JRASC..84..373K
| url=http://adsabs.harvard.edu/abs/1990JRASC..84..373K
}}</ref>。 この音に対しては、主観的現象であるとするものや外界の物理的実在であるとするもの、またオーロラが何らかの係わりをもつとするものや関係のない音とするものなど、さまざまな説が提出されてきた。 しかし現在でも原因ははっきりしておらず、装置で記録された明確な証拠も得られていない。
}}</ref>。 この音に対しては、主観的現象であるとするものや外界の物理的実在であるとするもの、またオーロラが何らかの係わりをもつとするものや関係のない音とするものなど、さまざまな説が提出されてきた。 しかし現在でも原因ははっきりしておらず、装置で記録された明確な証拠も得られていない<ref>[[#上出|上出 p.83]]</ref>


例えば、ヒトの耳ではいつでも小さな[[耳鳴り]]がしているが、静寂の中でこうした音に気づくだけだとする説が古くからある<ref name="Vaivads-Theories">{{cite web
例えば、ヒトの耳ではいつでも小さな[[耳鳴り]]がしているが、静寂の中でこうした音に気づくだけだとする説が古くからある<ref name="Vaivads-Theories">{{cite web
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== オーロラ写真撮影 ==
== オーロラ写真撮影 ==
撮影上の注意に関しての文献はこれが詳しい。<ref>http://yoshiokan.5.pro.tok2.com/aurora/au32.html on March 2, 2009</ref>冬季の撮影の場合、極めて寒い場所であり、なおかつ雪上からの撮影となるので、電池の性能が極端に落ちる(カメラに[[使い捨てカイロ]]使用が推奨されている)。[[デジタルカメラ]]での撮影では、色はホワイトバランスによる。露出に関しては、レンズの明るさや感度設定、さらにオーロラ自体の明るさも考慮に入れる必要がある。普通は5秒から1分の間での調整を行う。明るい広角レンズがお勧めである。三脚は必須であるが、冬季の取り扱いに際して、凍傷への注意が呼びかけられている<ref>パンフレット失敗しないオーロラの撮影方法</ref>。
冬季の撮影の場合、極めて寒い場所であり、なおかつ雪上からの撮影となるので、電池の性能が極端に落ちる(カメラに[[使い捨てカイロ]]使用が推奨されている)。[[デジタルカメラ]]での撮影では、色はホワイトバランスによる。露出に関しては、レンズの明るさや感度設定、さらにオーロラ自体の明るさも考慮に入れる必要がある。普通は5秒から1分の間での調整を行う。明るい広角レンズがお勧めである。三脚は必須であるが、冬季の取り扱いに際して、凍傷への注意が呼びかけられている<ref>パンフレット失敗しないオーロラの撮影方法</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|author=[[上出洋介]]|year=2010|title=人はなぜオーロラにひかれるのか オーロラの科学|publisher=誠文堂新光社|isbn=978-4416210253|ref=上出}}
{{節stub}}
*{{Cite book|和書|author=[[神沼克伊]]|year=2009|title=地球環境を映す鏡 南極の科学 氷に覆われた大陸のすべて|publisher=講談社|isbn=978-4062576598|ref=神沼}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commonscat|Aurora}}
{{Commonscat|Polar aurora}}
* [[太陽嵐]]
* [[太陽嵐]]
* [[ガンマ線バースト]]
* [[ガンマ線バースト]]
204行目: 234行目:
* [[クリスチャン・ビルケランド]]
* [[クリスチャン・ビルケランド]]
* [[蛍光]]
* [[蛍光]]
* [[オーロラソース]]
* [[高周波活性オーロラ調査プログラム]]
* [[高周波活性オーロラ調査プログラム]]
* [[オーロラソース]]
* [[道の駅オーロラタウン93りくべつ]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2012年4月17日 (火) 05:44時点における版

アラスカのオーロラ

オーロラ(aurora)とは極域近辺に見られる大気の発光現象。北極近辺ではnorthern lights、南極近辺ではsouthern lightsとも呼ばれる。明るさはレイリーで表され、通常は数キロ〜数十キロレイリー、明るいもので百キロレイリー以上になる。

発生の原理

地球の夜側にプラズマシートが形成される

太陽からは「太陽風」と呼ばれるプラズマの流れが常に吹きつけており、これにより地球の磁気圏は太陽とは反対方向、つまり地球の夜側へと吹き流されている。太陽から放出されたプラズマは地球磁場と相互作用し、複雑な浸入過程を経て磁気圏内の夜側に広がる「プラズマシート」と呼ばれる領域を中心にたまる。このプラズマシート中のプラズマが何らかのきっかけで磁力線にそって加速し、地球大気電離層)へ高速で降下することがある。大気中の粒子と衝突すると、大気粒子が一旦励起状態になり、それが元の状態に戻るときに発光する。これがオーロラである[1][2]発光の原理だけならばオーロラは、蛍光灯ネオンサインと同じである[3]。プラズマシートが地球の夜側に形成されるため、オーロラは基本的に夜間にのみ出現するものである。しかし昼間にもわずかながら出現することがある[4]。なぜプラズマが地球の磁力圏に入り込むのか、なぜプラズマが特定の部分にたまるのか、なぜ加速するのか、なぜ磁力線にそって高速で極域へ向かって降下するのかなど、発生原理の肝要な部分については未だ統一した見解は出されていない[5]

オーロラの活動が活発になるには2つの原因がある。一つは太陽フレアという突発的な爆発現象、一つはコロナホールという高速の太陽風が噴出する場所が生成されることである。太陽フレアは黒点の数と関係があり、およそ11年ごとに活発になる。コロナホールは数ヶ月の間細く長く続く噴出箇所で、太陽の自転周期を計算するだけでオーロラの活動の予測ができる。また黒点周期の後半に多く生成される[6]。これらのことから各旅行社は黒点周期の11年ごとに「オーロラの当たり年」「オーロラ最盛期」などとしてオーロラツアーを組むことがよくある[7][8][9]。確かにオーロラの活動と太陽の活動は連動しているものの、実際には11年ごとのピークを逃しても活発なオーロラが出現することがあり、たとえ黒点の数がゼロになっても太陽にコロナがある限り太陽風は吹き、オーロラは出現する[10]

オーロラが突如として一気に広がる現象をブレイクアップという[11]。日本語ではオーロラ爆発とも訳される[12]。空から突然光が噴出し全天に広がり、色や形の変化が数分間続く。このブレイクアップに関しても、発生原因や発生過程などはあまり良くわかっていない[13]

オーロラの色

フェアバンクスのオーロラ。上部は赤、下のほうは緑になっている。
珍しい紫のオーロラ

オーロラの色は、宇宙からの粒子が大気に衝突する際に何の成分に当たったかだけではなく、どれくらいの高度で、どれくらいの頻度で、どれくらいの時間をかけて衝突し、どれくらいのエネルギーを与えられて励起し、どの基底状態に戻ったのか、など様々な要素が複雑にからみ合って決まる[14]。更に、励起する際に原子軌道から跳ね飛ばされた電子(二次電子)が別の原子を励起して別の色を出すこともあれば[15]、太陽光から特定の波長のみ吸収して(共鳴散乱)起きるオーロラがあるという説もある[16]

しかし実際には観測される色と出現する高度にはおおまかに相関関係がある[17][18]

  • 高度およそ150から200キロメートル以上では大気の密度が低いため、エネルギーの小さい電子でも酸素原子を励起させることができる。酸素原子はすこし励起して波長630ナノメートルの光を出す。人の目には赤く見える。
  • 高度およそ100から150キロメートルでは大気の密度が高く、エネルギーの大きい電子でないと酸素原子を励起させられない。酸素原子は大いに励起してより波長の短い557.7ナノメートルの光を出す。人の目には緑色や緑白色に見える。高緯度地域ではたいていこの色のオーロラが見られる。
  • 高度およそ90から100キロメートルまで到達するにはよほどオーロラ活動が強くなくてはならない。この高度では酸素よりも窒素のほうが多いため、窒素原子が励起して585.4ナノメートルの光を出す。人の目には緑色のオーロラのカーテンの縁に、ピンクまたは赤紫のフリルが附属しているように見える。
  • 緑色のオーロラが出るくらいの高度にある窒素分子が、入射してきた電子によりイオン化され、励起・発光すると301.4ナノメートル近辺(青)と427.8ナノメートル近辺(紫)の光をだす。どちらもオーロラの色に幅がある。[19]

このように降り込む粒子のエネルギーが高いほど、平均的なオーロラの発光高度は低くなる。太陽活動現象に伴う磁気嵐により、たまに日本や中国、西欧のような低緯度地方でも赤いオーロラが観測されることがある。これは磁気嵐によって磁力線が低緯度側にふれることや、中低緯度地域になると地球の丸みのために上部の赤いオーロラしか見えないことなどと関係がある[20]

オーロラ領域から観測されるのは可視光だけではなく、紫外線赤外線[21]、「AKR」と呼ばれるkm帯の電波など様々な波長の電磁波が存在する[22]

オーロラの見られる場所

北半球のオーロラオーバルは北磁極を中心とする楕円である。
宇宙から見た南極付近のオーロラ(背景の地球は合成)
ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた土星のオーロラ。地球以外の惑星でも、南北に同じ様なオーロラが現れる。オーロラの画像は紫外線、土星本体は可視光で撮影されている。

完全な両極点近傍ではあまり発生せず、地磁気の緯度で言えば昼側でおよそ77度から78度、夜側でおよそ68度から70度のあたり、地球の磁極を取り巻くドーナツ状の領域に高頻度で発生し、この領域を「オーロラオーバル」(オーロラベルト)と呼ぶ[23]。オーロラがこの領域でよく発生するのは、オーロラ発光の原因であるプラズマ粒子がほぼ磁力線に沿って動くという性質を持っていることと関係している。プラズマ粒子がその主要な供給源であるプラズマシートから地球電離層まで磁力線に沿って進入すると、このドーナツ上の領域にたどり着くため、そこでオーロラが発光しやすいのである[24]

カナダのイエローナイフやユーコン準州のドーソンシティ、アラスカのフェアバンクス、スウェーデンのキルナがオーロラがよく見られる場所として有名で、多くの観光客や写真家が訪れる。南極の昭和基地でもオーロラがよく見られ、観測が行われている。

オーロラは地球の南北で同じような形態(色や形)で発生することが知られている。これは同一の磁力線に沿ってオーロラを起こす粒子が同時に降下するからである[25]。このように同じ磁力線で繋がっている地点を南北共役点という[26]。日本の昭和基地の南北共役点はアイスランドにあり、1980年代にはアイスランド大学と協力して昭和基地とアイスランドでの同時観測を開始した。結果、同じような形態のオーロラを観測することもあったが、時には形態の異なるオーロラを観測することもあった。南北共役点でなぜ違うオーロラが発生することもあるのかについては、未だ解明されていない。[27]

オーロラは地球に限らず、これまで火星[28]木星土星天王星海王星でも観測されており[29]、大気と固有の磁場をもつ惑星ならばオーロラが出現する可能性がある[29]

日本国内での観測

稀ではあるが日本でもオーロラを観測出来ることがある。太陽の活動が活発な時期には北海道や本州北部で、肉眼では観測しづらいほど弱光ながらも、赤いオーロラが出現する[30]。北の空を染める赤いオーロラを見た住民が山火事と勘違いして消防車が出動した記録もある[31]1958年2月11日には北陸から関東にかけて、さらに1770年9月17日には長崎でも観測されたという記録が残っている[32]

見られる確率が非常に少ない現象ではあるが日本語(和語)では古来「赤気(せっき)」という名前がついていた[32]。最古の記述は日本書紀まで遡り、推古天皇統治時代の620年に、「天に赤気があり、その形は雉の雄に似ていた。長さは一丈(約3.8 m)あまりであった」という記録が残っている[33]藤原定家明月記にも、「北の空から赤気が迫ってきた。その中に白い箇所が5ヶ所ほどあり、筋も見られる。恐ろしいことだ。」と、オーロラに推定される記録が残されている[33]

観測の歴史

オーロラという名称はローマ神話の暁の女神アウロラ(Aurora)に由来する。名付け親はイタリアのガリレオ・ガリレイという説が有力である[34][35]北欧神話においてオーロラは、夜空を駆けるワルキューレたちの甲冑の輝きだとされる[36][8]

前述のとおり、中国や西欧ほどの緯度ではオーロラの活動が活発な時に赤いオーロラが見える。古代中国ではオーロラは天に住む赤い龍に見立てられ[37]、政治の大変革や不吉なことの前触れであると信じられていた。 この他にも古代中国には赤い蛇のような体を持ち、体長が千里におよぶとされる燭陰という神がいた[38]。中国の神話学者・何新は、燭陰は大地の最北極に住み、オーロラが神格化されたものが燭陰ではないかと論証している。その一方で中国の考古学者・徐明龍は燭陰を、中国神話の神である祝融と同一神であるとし、太陽神火神ではないかと述べている[39]

中世ヨーロッパでも、赤いオーロラから血を連想し、災害や戦争の前触れ、あるいは神の怒りであると解釈していた[37]リヒャルト・ワーグナーニーベルングの指環の四作目神々の黄昏のラストシーンの天上の炎上は赤いオーロラのことを表していると言われている[40]。北欧ではオーロラにより死者の世界と生者の世界が結びついている、と信じている人が未だにおり[41]、またエスキモーの伝説では、生前の行いが良かった人は死後、オーロラの国(実質的に天国のこと)へ旅立つということになっている[42]

近現代に両極を探検した人々がオーロラを記録に残し始めた。日本へは1934年に開始された南極海の捕鯨により、オーロラとして紹介され始めた[43]

オーロラの分類

オーロラはその形態によって、カーテン状にはっきりと光る「ディスクリートオーロラ」、ぼんやりと光る「ディフューズ(拡散)オーロラ」、またオーロラオーバルの内部に太陽地球を結んだ方向へと発達する「極冠域オーロラ」に分けられる。

ディスクリートオーロラはプラズマシート中の電子サブストームのような地球磁気圏内の爆発的な過程から極域に流入し、オーロラ上空に存在する磁気圏夜側の電場構造により加速され、地球高層大気の電離層にまで一気に降り込んで大気中の酸素原子窒素分子と衝突して地球大気を光らせる現象である。ディスクリートオーロラを引き起こすオーロラ電子加速電場の成因には様々な説が提唱されているが、その完全な解明には未だ至ってはいない。

ディフューズオーロラはプラズマシートの電子や陽子が地球磁気圏内の波動によりピッチ角散乱を受け、降り込んでくるものである。ディフューズオーロラは、時に1秒から10秒程度の周期で光度を変えることがあり、脈動 (pulsating) オーロラと呼ばれることもある。

また極冠域オーロラは、太陽風中の惑星間空間磁場の急激な変化によりプラズマシートの形状が変形して現れる。このようにプラズマ粒子の電磁流体力学的な振る舞いにより、極域オーロラの活動や活動域は地球磁気圏内の構造や物理過程と直結している。

オーロラの音

キルナのオーロラ

磁気嵐のときに現れるような強いオーロラがまれに音を発したという話が古くより数多く存在しており[44][45]、その実在をめぐって議論が行われている。 このオーロラの音 (auroral sound) は聞こえるとしても非常にまれであり、強いオーロラが出ても何も聞こえないことも多い。 また同時に多くの人が聞いた例もあれば、隣同士にいて一方にしか聞こえなかった例もある。 多くの体験者はこの音がその眼に見えるオーロラの動きと同調して変化すると主張しており音波の伝播による時間遅れはほとんどみられない。 音は衣ずれにしばしば例えられる「シュー」といったノイズ音が代表的である[46]

すでにローマ時代のタキトゥスの『ゲルマニア』にも、それを表しているともされる記述があるが[47][48]、科学的な議論は19世紀末から活発になった[49]。 この音に対しては、主観的現象であるとするものや外界の物理的実在であるとするもの、またオーロラが何らかの係わりをもつとするものや関係のない音とするものなど、さまざまな説が提出されてきた。 しかし現在でも原因ははっきりしておらず、装置で記録された明確な証拠も得られていない[50]

例えば、ヒトの耳ではいつでも小さな耳鳴りがしているが、静寂の中でこうした音に気づくだけだとする説が古くからある[51][52]。 また外界の物理的な音ではあるがオーロラとは関係なく、−40℃ のような低温で呼気中の水分が凍って、氷の粒子が衝突することによる音であるとする主張もある[53]。 逆に、音はオーロラに関係するものの主観的なもので、オーロラが網膜の広い範囲を同期して刺激することで視覚情報が聴覚へと漏れだす一種の共感覚的現象ではないかともされる[54]。 ただし例えば、19世紀の探検家オギルヴィー (William Ogilvie) はオーロラの音が聞こえていた探検隊のメンバーを目隠ししても、オーロラが活発になったほぼすべての瞬間に対応して反応したとしており[55]、これらの説は必ずしも証言をうまく説明するものとはなっていない。

オーロラが、ヒトの耳に聞こえないような低い音波(可聴下音infrasound, 20 Hz 以下)を伝えていることは1960年代から知られており、これはオーロラから直接伝わってくる音波である[56]。 耳に聞こえる音もこうしたオーロラからの直接の音波ではないかともされる。 しかし、こうした音はオーロラから届くまでに数分の時間がかかり同調して変化するという証言に合わない上、1 Hz かそれ以下で顕著なものであり、いくらか高い周波数、例えば 40 Hz では地上に届くまでにエネルギーが 1/1000 にまで減衰してしまう[51]

カナダの天文学者クラレンス・チャントは20世紀の初めより学術雑誌上でオーロラの音に関する多くの情報を集め、1923年には音がブラシ放電によるコロナ音の可能性が最も高いと結論した[49][57]。 この考えは1970年代にこのオーロラの音を最も精力的に調査したシルヴァーマン (S. M. Silverman) らによっても支持されている[44]。 晴れた日の開けた地面には 1 m あたり 100 V の静電場があるが、オーロラがあるとこれはときに 10 000 V/m にまで上昇する[58]。 この説ではこのとき観察者のそばの木の梢など、とがって電場が強くなるところからの放電が音を発生させているとする。 こうしたブラシ放電の音は雷雲が接近した山中や、湿気が多い日の高圧送電線でも聞かれることがあるものである。 ただし、オーロラの音においてはセントエルモの火のような放電にともなう光は観察されておらず、またこの説は同じ場所にいた一部の人にだけ聞こえたという事例を説明できないという問題点が指摘されている[58]

対して、オーストラリアの天文学者コリン・ケイ (Colin Keay) は、オーロラの音は電磁波音ではないかとしている[59]。 ケイは、巨大な流星が流れるのと同時にまれに音を立てるといわれる現象に対し、1980年に可聴域周波数 (20 Hz – 20 kHz) の電波が何らかのトランスデューサーとなるものを介して音波になるというではないかとの説を唱えていた[60]。 こうした電磁波から音波への変換による音が電磁波音とよばれる。 ケイの実験ではピーク間 160 V/m の 4 kHz の電場の振動があれば、髪の毛やメガネなどを介して一部の人はこうした音を聞くことができるとする。 こうした極超長波超長波の電波は実際衛星や地上の測定で確認され、録音されている[51][61]。 一方でシルヴァーマンらはケイの議論で必要とされる電波は大き過ぎ、不合理であるとしている[62]

一方、オーロラの音波を直接録音しようとした試みははっきりとした成果をあげていない。 アラスカでは1960年代に録音が試みられたが、太陽の活動が不活発な時期にあたっていたこともあり成功していない[44]。 2000年からはフィンランドで、音声記録と低周波の電波の測定実験が行なわれている[63]。 2001年の1晩のデータだけからの解析では、オーロラの活動が活発なときに音波の変動が大きくなることが示され、また音響記録と地磁気の変動との間で時間遅れのない相関が見出されたとしている。 しかし、電場との相関はなく、記録された音がオーロラの音と同じものなら、局所的な電場あるいはその変動がオーロラの音の原因とは考えにくく[64][65]、これはブラシ放電や電磁波音という説明が成立しないことを示唆している。

オーロラ写真撮影

冬季の撮影の場合、極めて寒い場所であり、なおかつ雪上からの撮影となるので、電池の性能が極端に落ちる(カメラに使い捨てカイロ使用が推奨されている)。デジタルカメラでの撮影では、色はホワイトバランスによる。露出に関しては、レンズの明るさや感度設定、さらにオーロラ自体の明るさも考慮に入れる必要がある。普通は5秒から1分の間での調整を行う。明るい広角レンズがお勧めである。三脚は必須であるが、冬季の取り扱いに際して、凍傷への注意が呼びかけられている[66]

脚注

  1. ^ 神沼pp.144-145
  2. ^ 上出pp.42-45
  3. ^ 上出p.45
  4. ^ 上出pp.44
  5. ^ 上出pp.45-46
  6. ^ 上出 pp.87-89
  7. ^ 今年は11年に1度の当たり年 最高のオーロラと出会うイエローナイフの旅 スカイゲートスタッフ旅行記 2012年4月17日閲覧
  8. ^ a b オーロラの誘い 郵船トラベル 2012年4月17日閲覧
  9. ^ 上出 p.85
  10. ^ 上出 p.87
  11. ^ 上出p.47
  12. ^ アラスカ北極圏でオーロラ爆発 ナショナルジオグラフィック ニュース 2012年4月16日閲覧
  13. ^ 上出pp.48-49
  14. ^ 上出 p.113
  15. ^ 上出 p.117
  16. ^ 上出 p.116
  17. ^ 上出 pp.114-117
  18. ^ 神沼 pp.146-147
  19. ^ 特に紫色のオーロラは、発光するためのシークエンスが複雑だったり、人間の目が不得手な波長だったりすることから、ミク癌で観測できることは非常に珍しい。上出 p.116
  20. ^ 上出 p.80
  21. ^ 上出 p.110
  22. ^ AKRに関しては太陽の活動が強くなるほどAKRが弱くなるという相関関係があり、未だ原因が解明されていないオーロラキロメートル電波の太陽活動依存性 熊本篤志、小野高幸(東北大理)、大家 寛(福井工大) 2012年4月15日閲覧
  23. ^ 神沼pp.147-148
  24. ^ 上出p.119
  25. ^ 神沼p.150
  26. ^ 上出p.61
  27. ^ 神p.150
  28. ^ [1]
  29. ^ a b 上出p.90
  30. ^ 低緯度オーロラの研究 名古屋大学太陽地球環境研究所電磁気圏環境部門 2012年4月15日閲覧
  31. ^ 上出p.79
  32. ^ a b 日本でも赤いオーロラが見られた! NAOニュース 2012年4月15日閲覧
  33. ^ a b 上出p.78
  34. ^ 上出pp.27-28
  35. ^ オーロラ特集 ナショナルジオグラフィック 2012年4月17日閲覧
  36. ^ ヴァルキューレ(ヴァルキリー) 神話用語辞典 2012年4月17日閲覧
  37. ^ a b 上出p.25
  38. ^ 高馬三良訳『山海経 中国古代の神話世界』平凡社〈平凡社ライブラリー〉、1994年、126頁頁。ISBN 978-4-582-76034-7 
  39. ^ 多田克己『百鬼解読』講談社講談社文庫〉、2006年、237-243頁頁。ISBN 978-4-06-275484-2 
  40. ^ 上出p.26
  41. ^ 上出p.24
  42. ^ 上出p.27
  43. ^ 神沼p.141
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  45. ^ Vaivads, Andris. “The List of Auroral Sound Observations”. Auroral Sounds. 2011年2月27日閲覧。
  46. ^ 上出p.84
  47. ^ Rouse, M.L. (1881). “Letters to Editor — Tacitus on the Aurora”. Nature 23: 459. doi:10.1038/023459b0. 
  48. ^ タキトゥス『ゲルマニア』、45章頁。 「また音が聞こえるとも、神々の姿と頭から放たれる光線が見えるともいう」
  49. ^ a b Keay, Colin S.L. (1990). “Chant, C.A. and the Mystery of Auroral Sounds”. Journal of the Royal Astronomical Society of Canada 84: 373 382. http://adsabs.harvard.edu/abs/1990JRASC..84..373K. 
  50. ^ 上出 p.83
  51. ^ a b c Vaivads, Andris (2002年). “Most Popular Theories”. Auroral Sounds. 2011年2月27日閲覧。
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参考文献

関連項目

外部リンク

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