「マツ材線虫病」の版間の差分
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2007年4月8日 (日) 12:52時点における版
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マツクイムシとは、カミキリムシやキクイムシ等の枯れたマツから発見される穿孔虫類の総称である.かつては松枯れの原因はこれらの穿孔虫と考えられていたが、現在ではマツノザイセンチュウという線虫が原因とされている.マツノザイセンチュウはマツノマダラカミキリなどのカミキリムシに媒介されて木から木へ移動する。
松食い虫、松くい虫とも表記される。
感染メカニズム
マツノマダラカミキリの幼虫は、マツの幹の中に蛹室を作り、そこで蛹になる。マツノザイセンチュウは蛹室周辺に集合し、カミキリムシが羽化・脱出する際にその気門に入り込んで運ばれる。その後、センチュウを保持したカミキリムシがマツの若い枝をかじる際に、マツノザイセンチュウが媒介される。感染力は強力で、感染したマツは、かなりの確率で枯死する。衰弱あるいは枯死したマツは樹脂を分泌する能力を失い、このマツに産卵したマツノマダラカミキリの幼虫は非常に高い確率で成虫となることが出来、爆発的に増加する。 線虫によってマツが水を吸い上げる力を失い、枯れることがわかっているが、これは機械的な破壊ではなく、詳細は不明。ニセマツノザイセンチュウというよく似た線虫が寄生しても枯れることはない。マツノザイセンチュウをすりつぶして水に溶かした液でもマツが枯れることから、化学成分の関与が考えられている。
被害
- 感染するマツは、種別や生育場所を問わない。アカマツもクロマツも感染する。公園の立木はもちろんのこと、庭木や盆栽まで感染する。
- 海岸線の防風林や保安林のマツ林が全滅して、地域に二次被害を出すことがある。
- 被害木は。速やかに伐倒して切り分け、殺虫剤にて消毒する必要がある。しかし、マツが生育する雑木林は所有者が不明のことが多い上、高額の費用負担に難色を示されることが多いことから、なかなか処理が進まないうちに拡大してゆく状況にある。
日本における被害地
- 太平洋戦争以前は、西日本を中心に発生地点が点在していたが、戦後、瞬く間に拡大。現在は、青森北海道を除く地域に存在すると考えられている。
- そもそもは、輸入された北米産のマツ材から発生したものと考えられている。
- 北米や東南アジア、欧州でもポルトガルなどで、発生が確認されている。ただし、爆発的な被害は発生しておらず、日本の事例は特殊な例とされている。
対策
- 毎年、マツノマダラカミキリが羽化する時期に、マツの若葉に振りかけるように殺虫剤を撒く。面積によってはヘリコプターを使った散布が行われる。マツノマダラカミキリに特化した殺虫剤もあるが、スミチオンなどでも十分である。ただし、近年、殺虫剤の毒性が問題となっており、健康被害を懸念する住民の反対運動などにより、実施面積は縮小傾向である。文化的価値も重視される地域の松林を守るか、健康被害を防ぐか、それとも鳥や昆虫も含めた地域生態系の保全を重視するのか、環境分野の視点でとらえた場合には、答えの出ない問題である。
- 殺虫剤を樹幹注入する方法もあるが、3~5年おきに実施しなければならないこと、注入の際に開ける穴で樹勢が衰退傾向になる恐れがある、といった問題がある。また、1本数万円という高額な費用を要するため、生育本数の多い公園などでは利用が難しい。
- マツノザイセンチュウに耐性があるマツを選抜して増殖させているが、即効性はなく、長期戦が可能である地域に限られる。(マツノザイセンチュウ抵抗性育種事業)
防除対策への批判
松食い虫防除対策には、一定の批判がある。
まず、クロマツ、アカマツは、いずれも広葉樹の高木の生育が困難な厳しい環境条件下で局所的に安定した群落を維持することを除くと、広域で安定した森林を作らない。むしろ、植物遷移の上では、草原に進入する先駆者樹木であり、林内が暗く過湿になると枯死するものである。そのため、松林を維持するには常に林床を乾燥させる必要がある。かつて、松林の落葉落枝は広く燃料として利用され、そのために人里周辺では松林が維持されてきた。現在それが行われなくなったため、松林の減少するのは当然であり、マツクイムシは単にそれを加速したにすぎないという考えである。
この考えに立てば、松食い虫防除は、少なくとも自然植生の区域では行う必要がなく、むしろ農薬の広域散布による危険の方が大きい。しかも用いられている農薬が選択的にマツノマダラカミキリを殺すものではなく、森林の生物群集を構成する昆虫などの節足動物を非選択的に殺すものであるために、森林の生態系自体に対する破壊的行為であるという指摘もある。農薬の人体への健康被害の研究と比べても、地域生態系への影響評価の研究はまだ十分とは言えず、この観点からの防除対策の評価が必要である。また、枯死した松を切り倒す作業による周囲の攪乱によって、自然植生の回復が遅れたり、被害が広がったと思われる例もある。
関連項目
外部リンク
- マツノザイセンチュウ抵抗育種事業社団法人林木育種協会