伝令RNA
分子生物学において、
mRNAはDNAから写し取られた遺伝情報に従い、タンパク質を合成する(詳しくは翻訳)。翻訳の役目を終えたmRNAは細胞に不要としてすぐに分解され、寿命が短く、分解しやすくするために1本鎖であるともいわれている。
古細菌および細菌では転写されたRNAはほぼそのままでmRNAとして機能する。一方真核生物では転写されたmRNA前駆体はいくつかの切断(スプライシング)、修飾といったプロセシングを受けたのちに成熟mRNAになる。
真核生物のmRNAはRNAポリメラーゼIIによって転写されたRNAに由来する。5'末端にはm7Gキャップがあり、3'末端は一般にポリアデニル化される(poly (A)鎖で終了している)。これらの構造やmRNAの塩基配列は翻訳活性やmRNAの分解を制御する機能も持っている。古細菌、細菌も3'末端に短いpoly (A)鎖を持つが、5'末端のキャップ構造は持たない。
poly (A)鎖はrRNAやtRNAには存在しないmRNAの特徴であるとされており、このことを利用してmRNAを特異的に精製することができる。また、mRNAを鋳型にしてDNAを逆転写酵素によって合成することができ、これはcDNAと呼ばれる。cDNAは遺伝子が働いていることの非常に信頼性の高い証拠であり、ゲノムプロジェクトによって得られた大量のシークエンスデータの中から遺伝子を探す作業を補助することができる。
伝令RNAの存在を最初に理論的に示唆したのは、1965年に揃ってノーベル生理学医学賞を受賞したフランスの生物学者ジャック・モノー(1910年〜1976年)とフランソワ・ジャコブ(1920年〜2013年)であった[1]。それに引き続いて1961年のうちに、フランソワ・ジャコブ自身や、南アフリカ連邦生まれの生物学者シドニー・ブレナー(1927年〜2019年。2002年のノーベル生理学医学賞受賞者)、アメリカ合衆国の遺伝学・分子生物学者マシュー・メセルソン(1930年〜)らによって、その存在が実証された[2]。
遺伝子発現とRNA
遺伝子発現のプロセスの一つ、転写は細胞核内にて行われる。DNAに刻まれた遺伝情報(遺伝子)は、RNA合成酵素によりmRNAに転写される。DNAがすべて転写されるのではなく、必要な分だけ転写される。遺伝情報はmRNAの塩基によってコドンの形式でコードされ、全20種類のアミノ酸に対応している。遺伝情報を受け継いだmRNAは核から細胞質へ出て、リボソームに付着する。ここでmRNAの遺伝情報に従い、特定のタンパク質が合成される。
RNA 中の翻訳領域
翻訳段階においてmRNA の情報は一部分しか解読されない。各mRNA のタンパク質翻訳領域はコーディング領域と呼ばれ、1つのコーディング領域は1つのタンパク質を指定している。翻訳は開始コドンから始まり、終止コドンで終了する。コーディング領域の両端がmRNA の両端に届くことはなく、開始コドン上流に5' 非翻訳領域(five prime untranslated region:5' UTR)があり、終止コドン下流に3' 非翻訳領域(three prime untranslated region:3' UTR)が存在する。
真核生物におけるmRNA の殆どはモノシストロン性のmRNA(monocistronic mRNA)で1つのタンパク質を翻訳する一方で、原核生物のmRNAの多くはポリシストロン性のmRNA(polycistronic mRNA)で幾つかのタンパク質を翻訳する。
また、近年ではpoly (A) 鎖や5' 末端のキャップ構造を持ちながら、コーディング領域を持たずにノンコーディングRNAとしてはたらくRNAも確認されている。
脚注
- ^ F. Jacob, J. Monod "Genetic regulatory mechanisms in the synthesis of proteins". Journal of Molecular Biology, 3 (1961), pp. 318-356.
- ^ Cobb, Matthew (29 June 2015). “Who discovered messenger RNA?”. Current Biology 25 (13): R526–R532. doi:10.1016/j.cub.2015.05.032. PMID 26126273 2 July 2020閲覧。.