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マスターピース

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ケネス・クラークは著書『名画とは何か』(What is a Masterpiece?)でディエゴ・ベラスケスの《ラス・メニーナス》を取り上げた。この絵は「傑作」と名高く、1985年には『イラストレイテド・ロンドン・ニュース』の投票で、「世界最高の絵画」に選ばれている[1]

傑作(けっさく)は、非常に優れた作品のことで、中国語でも日本語でも、そういう意味で古来用いられた言葉である [2]。ただし、日本語ではそれから派生して、言動が突飛で滑稽な意味で用いることもある[3]

傑作は、名作や代表作などとともに、ヨーロッパのマスターピースの訳語として用いられる場合がある[4]。以下は、主にそうした面を書く。

マスターピース: masterpiece: chef d'œuvreドイツ語: Meisterwerk)とは、非常に批評的な価値が高いとみなされ、特にある人物のキャリアの中で最も優れていると考えられている創作物、または傑出した創造性や技術、出来栄えからなる作品のこと。歴史的には、ギルドアカデミーの会員資格を得るための、非常に高い水準を持った作品を指す。

語源

マスターピースという語は、オランダ語の「meesterstuk」あるいはドイツ語の「meisterstück」に由来する可能性が高い。英語またはスコットランド語において「masterstik」という語の形が最初に記録されているのは、1579年のアバディーンのギルドの規則の中である。一方、「masterpiece」という語の形が初めて見出せるのは、1605年のベン・ジョンソンの劇の中であり、この時すでにギルドとは関連のない文脈で用いられている[5]。英語においては、「Masterprize」という語も初期のバリエーションとして見出せる[6]

英語において、「マスターピース」という語は、様々な状況で並外れて良い創造的な作品を指す言葉として急速に浸透し、「使われ始めた頃には、神や自然の『マスターピース』としての人間を指す用例がしばしば見られた」[7]

歴史

花型のゴブレットのデザイン図( en:Georg Wechter作、1579年)
フランソワ・ブーシェの《リナルドとアルミーダ》。1734年、パリの王立絵画彫刻アカデミー に入るために制作されたレセプション・ピース[8]
ジョン・エヴァレット・ミレイのディプロマ・ワーク《ベラスケスの思い出》1868年[9]

本来、「マスターピース」という語は、ヨーロッパでかつて行われていたギルド制度において、親方になるために徒弟職人が製作した作品を指した。ギルドの会員としてふさわしい力量を持っているかどうかは、ある程度はマスターピースによって審査され、それが認められれば、その作品はギルドに保管された。それゆえに、菓子製造、絵画金細工刃物鍛冶工英語版など、その他どんな手工業者においても、素晴らしい作品を製作することに多大な注意が払われた。

一例として、1600年代のロンドン金細工師カンパニー英語: Worshipful Company of Goldsmithsでは、ゴールドスミスホール英語版の「仕事場(workhouse)」において、カンパニーの監督下でマスターピースを製作するよう、徒弟たちに課していた。この仕事場は、カンパニーが金細工技術のレベル低下を懸念するようになった結果、水準を維持する目的で設置されたものだった。1607年、金細工師カンパニーの幹事たちは次にように訴えた。「金細工の技と神秘に対する真の修練は、大いなる腐敗に至らんとするのみでなく、四方八方へ霧散してしまった。故に今や、多くの、あるいは幾人かの手助けなしに、一枚の金属板からあらゆる装飾やその部品を完璧に仕上げられる職人はほとんどいない……」。カンパニーは依然としてマスターピースの製作を課していたが、最早その監督下で製作されてはいなかったのだ[10][11][12]

ドイツのニュルンベルクでは、1531年から1572年にかけて、親方になりたい徒弟には、ギルドへの入会を承認される前に、花型のゴブレット(コロンバイン・カップ英語: Columbine cup)、鋼鉄製の印鑑金型宝石のついた指輪の製作が課されていた。ギルドへの入会が承認されなかった場合、他の金細工師の元で働くことはできたが、親方として働くことはできなかった。ギルドによっては、ギルドの会員権を完全に得るまで結婚が許されない場合もあった[13]

マスターピースを制作する慣行は、近代の芸術アカデミーでも受け継がれている例があり、今日では一般にそのような作品をレセプション・ピース英語版と呼んでいる。ロンドンロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでは「ディプロマ・ワーク(: diploma work)」と呼び、会員権の条件として受け取ったディプロマ・ワークの素晴らしいコレクションを獲得している。

現代における用いられ方

現代の英語では、マスターピースという語は、ある特定の創造性あふれる芸術家や職人の最高の一点を伝統的には意味するが[14]、優れた質を持った作品であれば、創造的でない作品[15]、様々な種類の高価または貴重なもの[16]、大量生産品までも含めてマスターピースと呼ぶようになってきている。マスターピースという語は、ロレックスの腕時計のランク、トランスフォーマーの玩具、マックスファクターの化粧品、シュタイフのぬいぐるみといった商品のブランド名として採用されている。

脚注

  1. ^ 『ヨーロッパ美術史』昭和堂、1997年、p.183
  2. ^ 傑作(百度百科)(中国語)
  3. ^ 傑作(コトバンク=デジタル大辞泉)
  4. ^ 『岩波西洋美術用語辞典』岩波書店、2005年、p.292
  5. ^ OED:"masterpiece". See also: Encarta. Archived 2009-11-01.
  6. ^ OED:"Masterprize"
  7. ^ OED, and examples
  8. ^ Levey, Michael. (1993) Painting and sculpture in France 1700-1789. New Haven: Yale University Press, p. 164. ISBN 0300064942
  9. ^ A Souvenir of Velazquez, 1868”. ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ. 2019年6月30日閲覧。
  10. ^ A History of the Goldsmiths' Company. The Goldsmiths' Company. Retrieved 30 December 2014.
  11. ^ Goldsmiths' Company Apprenticeship Programme. Archived 2014年12月30日, at Archive.is The Goldsmiths' Centre. Retrieved 30 December 2014.
  12. ^ リヴァリ・カンパニーに関する訳語は以下の文献に拠った。「workhouse」には便宜上「仕事場」の語を当てた。松本純『19世紀末ロンドンにおけるリヴァリ・カンパニーの技術教育振興策 : 王立委員会の分析を中心として』 14巻、3号、2002年、87–112頁https://matsuyama-u-r.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=1042&item_no=1&attribute_id=21&file_no=1&page_id=13&block_id=21&usg=AOvVaw2lKqntADWSx3DrPv2bo8hy 
  13. ^ Cup, Silver, room 69, case 25. ヴィクトリア&アルバート博物館 Retrieved 30 December 2014.
  14. ^ Encarta”. 2009年11月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年5月23日閲覧。
  15. ^ Historical Thesaurus is a masterpiece worth waiting 40 years for Henry Hitchings, The Telegraph, 23 October 2009. Retrieved 20 June 2014.
  16. ^ Champagne and celebrities hit Masterpiece London luxury fair David Brough, Reuters, 27 June 2013. Retrieved 20 June 2014.

関連項目

外部リンク