武漢ウイルス研究所
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中国科学院武漢ウイルス研究所 (中国科学院武漢病毒研究所) | |
---|---|
中国科学院武漢病毒研究所(2016年) | |
正式名称 |
中国科学院武汉病毒研究所 (中国科学院生物安全大科学研究中心) |
日本語名称 |
中国科学院武漢ウイルス研究所 (中国科学院武漢病毒研究所) |
英語名称 |
Wuhan Institute of Virology (Chinese Academy of Sciences) |
略称 | WIV |
組織形態 | 感染症研究所 |
所在地 |
中華人民共和国 湖北省武漢市武昌区小洪山中区44号 北緯30度22分28.0秒 東経114度15分58.4秒 / 北緯30.374444度 東経114.266222度座標: 北緯30度22分28.0秒 東経114度15分58.4秒 / 北緯30.374444度 東経114.266222度 |
所長 | 王延軼 |
活動領域 | 感染症・ウイルス学 |
設立年月日 | 1956年 (1958年) |
前身 |
武漢微生物学研究室 中国南方研究所 武漢微生物学研究所 湖北省微生物学研究所 |
設立者 |
高尚蔭, (陳華癸) |
上位組織 | 中国科学院 |
所管 | 中国科学院 |
保有施設 | 武漢国家生物安全実験室 |
公式サイト |
www |
中国科学院武漢ウイルス研究所[1](ちゅうごくかがくいんぶかんウイルスけんきゅうじょ、簡: 中国科学院武汉病毒研究所, 英: Wuhan Institute of Virology; WIV)は、中華人民共和国(中国)湖北省武漢にある、ウイルス学研究所である。1956年設立。中華人民共和国国家重点実験室に指定されている。中国科学院武漢病毒研究所(ちゅうごくかがくいんぶかんびょうどくけんきゅうじょ)とも表記される。
2016年12月現在、研究所には合計266人の研究員がおり、内訳は科学研究職189名、大学院生253名(博士課程124名と修士課程129名)などが在籍する[2]。
沿革
1956年、「中国科学院武漢微生物研究室」として設立。
同年6月5日、中国科学院が武漢大学と華中農業大学と協力して武漢に微生物学研究所を設立することを決定。
研究室の設立は、武漢大学学部長で微生物学の主任教員を務めていた高尚蔭を筆頭として行われた。 研究室は、各分野の研究のために次の4つのグループに分かれていた[3]。
研究分野 | 研究内容 | 指導者 |
---|---|---|
ウイルス学 | 動物および植物ウイルス、細菌ウイルス | 武漢大学学部長兼微生物教育研究主任 高尚蔭 |
土壤微生物学 | 土壌微生物の生命活動と植物および土壌との関係 | 華中農学院土壤農学研究主任 陳華癸 |
植物病理学 | 微生物を利用した植物病の抑制 | 華中農学院植物保護研究主任 楊新美 |
微生物変異学、遺伝学および育種学 | 細菌(放線菌を含む)およびそれらのファージ変異、遺伝学および選択 | 武漢大学微生物教育研究副主任 趙保国 |
1961年11月、「中国科学院中南微生物研究所」[4]、さらに1962年10月には「武漢微生物研究所」に改名され、1966年に中国科学院の地方分院が廃止されるとともに湖北省科学技術委員会の所管となり、「湖北微生物研究所」となった。1978年の科技大会の前に中国科学院の管轄に戻され、「中国科学院武漢病毒所」として改編された[5]。
付属施設
中国科学院武漢国家生物安全実験室(中国科学院武汉国家生物安全实验室、National Biosafety Laboratory (NBL), Wuhan[6])は、武漢P4ラボまたは地元では単にP4ラボとも呼ばれる、武漢市政府と共同で建設されたP4(バイオセーフティレベル4:BSL-4)研究所である。
フランスとの提携もあり[7]、2015年1月31日に完成し、2018年1月5日に正式な運営が開始された。
新型コロナウイルスの感染拡大が顕在化する以前は、実験施設を対外的にアピールしており、2017年2月23日には当時のフランス首相、ベルナール・カズヌーブが視察を行っているほか[8]、アメリカ国立衛生研究所からの経済援助を受けた米大学との共同研究も行われていた[7]。
研究機器
- 日立製作所 H-7000FA透過型電子顕微鏡
- Amray 1000B走査型電子顕微鏡
- ギルソン GIAPD多機能分析システム
- 島津製作所 GC-9Aガスクロマトグラフィーシステム
- 島津製作所 UV-300紫外可視近赤外分光光度計
- アジレント・テクノロジー Super NOVA 極薄スライサー[5]
歴代所長
# | 姓名 | 任期 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | 高尚蔭 | 1956年6月-1984年3月 | |
2 | 丁達明 | 1985年9月-1987年9月 | |
3 | 何添福 | 1994年4月-2000年10月 | |
4 | 胡志紅 | 2000年10月-2008年8月 | |
5 | 陳新文 | 2008年8月-2018年10月 | |
6 | 王延軼 | 2018年10月- |
歴代党委員会書記
# | 姓名 | 任期 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | 許 力 | 1958年3月-1959年2月 | |
2 | 劉 然 | 1961年3月-1979年12月 | |
3 | 曹 健 | 1980年1月-1984年7月 | |
4 | 湯吉梅 | 1987年9月-1992年4月 | |
5 | 何添福 | 1992年4月-1996年6月 | |
6 | 李興革 | 1996年6月-2004年8月 | |
7 | 袁志明 | 2004年8月-2013年8月 | |
8 | 肖庚富 | 2018年12月- |
コロナウイルス流出疑惑
2015年にアメリカ国立衛生研究所は研究の委託として370万ドルの資金援助を行うなど同研究所はコロナウイルスを積極的に研究している[9][10]。
2017年頃から、施設管理の面からウイルス漏洩の可能性が指摘されており、現在、武漢華南海鮮卸売市場とともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の発生源であるとの疑惑が上がっている[11]。
アメリカ合衆国のFOXニュースや『ワシントン・ポスト』では2018年にアメリカの外交官が同研究所を視察した際に「危険性」があると、研究所の安全面の不備についてアメリカ国務省に公電にて伝達していたとする報道があり[12][13]、これについて米政府も調査中である[14][15][16]。
ドナルド・トランプ米大統領は、ウイルス漏洩について「証拠を見たことがある」として武漢ウイルス研究所からのウイルス流出を主張[17][18]、国務長官のマイク・ポンペオも、「かなりの量の証拠がある」としたが[19][20]、のちに「確信はない」と付け加えた[21]。
これに対し、武漢ウイルス研究所の幹部は「ありえない」話だとして全否定[22][23][24]、中華人民共和国外交部も同研究所からウイルスが流出したとの説を否定した[25]。
さらに、世界保健機関(WHO)もウイルスは動物由来で、人工のものではないとしたうえで、「研究所から流出した可能性はないとみている」とした[26]。アメリカのインテリジェンス・コミュニティーを統括する国家情報長官室(ODNI)もウイルスは人工のものではないと発表し[27]、UKUSA協定に基づき英語圏5カ国の諜報当局が運営するファイブアイズも「研究所から流出した可能性は極めて低いとみている」と報じられた[28]。
2020年5月18日にテレビ会議形式で開かれたWHOの総会では、中国での新型コロナウイルスの発生源について国際的な独立調査を行うことで同意した[29][30][31]。
2021年2月3日、新型コロナウイルスの起源を調査する世界保健機関専門家チームが訪問、調査を開始した[32]。2月9日には、同研究所からのウイルス漏洩の可能性は低いとの見解を発表している[33][34]。
2021年3月30日、このWHO調査団が実施した実地調査報告書について、アメリカ合衆国、日本、イギリス、オーストラリア、カナダ、韓国、チェコ、デンマーク、エストニア、イスラエル、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スロベニアは「完全な元データや検体に実際に接していない」として、「共通の懸念」を示す共同声明を発表した[35][36]。声明では、中国が専門家に対して完全なアクセスを提供することを要請し、「こうした調査は、独立した客観的な提言と事実解明ができるような作業環境で実施されるべきだ」「国際専門家による調査の実施が大幅に遅れ、完全なオリジナルのデータおよび検体へのアクセスが欠如していた」「独立した専門家にとって、今回のパンデミックがいかにして発生したのかを判断するためには、関連する全てのヒト、動物、環境のデータ、研究、発生初期段階に関わった当事者に完全にアクセスできることが極めて重要である」と中国政府の対応を批判した[35][36]。ジェン・サキアメリカ合衆国国務省報道官も「中国は透明性のある対応を取らなかったし、基本的なデータも提供しなかった。協力と言えるようなことはしていない」と断じ、「独立した国際的な専門家」による第2次調査が必要だと指摘し、第2次調査では「自由なデータへのアクセスと、当時現場にいた人々に対する聴取ができるようにすべきだ」と批判した[36]。WHOのテドロス事務局長もWHO調査団が実施した実地調査では、手が加えられていないデータの入手が困難だったと批判した[35]。また、『読売新聞』社説は「報告書の共同執筆という形で中国の介入を許したことで、調査や分析の信頼性が損なわれたのは明らかである」「調査や報告書の作成は、当初から中国政府の強い影響を受けており、中国の主張に沿う結論が導き出されるのは予想されていた」「報告書は、WHOと中国の各17人の専門家が共同執筆したという。なぜ、WHOの独立した調査にできなかったのか。現地調査や報告書の公表は予定より大幅にずれ込んだ。中国に注文を付けられ、調整が難航したためだろう」「調査に参加した専門家は、中国は『感染拡大初期の患者の生データ提供を拒否した』と証言している」と批判した[37]。
同年にドナルド・トランプから政権を引き継いだジョー・バイデン大統領は、5月末に情報機関へ改めて再調査を指示[38]、90日以内に報告するよう求めた[38]。一度は可能性は低いとしていた英国情報機関もこの問題を再検証し、現在では「可能性がある」とみていると報じられた[39]。これを受け、6月に米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が武漢ウイルス研究所からの流出の可能性について報じると[40][41][42][43][44]、一度は陰謀論とされたこの説も再燃することとなった。報道では、米ローレンス・リバモア国立研究所が新型コロナウイルスのゲノム解析を基に作成した報告書では、武漢ウイルス研究所からウイルスが流出し、パンデミックに至ったという仮説は妥当であると結論付けられ[40][41][42][43]、また、トランプ政権時代に作成された米情報機関の報告書では2019年11月に同研究所の研究員3名に新型コロナウイルス感染症ともインフルエンザともとれる症状が発現したと記載されたとしている[41][43]。同月にイギリスで開かれたG7コーンウォール・サミットでは対中議題の一つとして研究所流出説が取り上げられ[45][46][47]、WHOによる再調査を求めた[45][46][47]。3月の調査後に「極めて可能性は低い」としていたWHOのテドロス事務局長も同会議に出席し、「第2段階の調査」を示唆した[45]。
これらの報道に対して、中国外交部の趙立堅副報道局長は6月17日、米国側が言い立てているとして「デマ」だと反発した。また、武漢の研究者らの新型コロナ研究は「ノーベル医学生理学賞に値する」とも主張した[48]。
2021年7月16日には、WHOが再び中国における第2段階の調査と武漢ウイルス研究所の「監査」を提案している[49][50][51]。しかし、中国国家衛生健康委員会は「科学的でない」などとこれに反発[52][53]、8月12日にはWHOが声明で「政治的意図を持たない」ことを中国など各国に向けて呼びかけた[54][55]。これに対し、翌日13日には中国の馬朝旭外務次官が「『政治的調査』ではなく『科学的調査』を求める」として再調査への拒否感を示している[56]。
中国共産党系ニュースサイトである『中国網』や 同じく中国共産党の機関紙『人民日報』系の『人民網』、また中国の国際ラジオ放送である中国国際放送では、アメリカ軍の研究所であるフォート・デトリックからの流出説を唱え[57][58][59][60]、武漢ウイルス研究所からの流出説に反発、在大阪中華人民共和国総領事館のTwitter公式アカウント(中華人民共和国駐大阪総領事館)までもがそれを公然と主張する投稿を行っている[61][62][63]。
8月末には、5月のバイデン大統領の指示に基づき、調査を行ったアメリカの情報機関による調査結果が、合衆国国家情報長官が統括し、中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)や海軍情報局(ONI)など18機関からなるアメリカのインテリジェンス・コミュニティーから23日に大統領に報告され[64][65]、27日に報告書の要綱が公表された[66]。人為的にウイルスが開発された可能性は低いとしたものの、ウイルスの発生源については各機関ごとで意見が割れており、依然としてはっきりとした「結論」が出ないままとなっている[67][68][66][69]。インテリジェンス・コミュニティーの内、1つが研究所流出説を支持、またインテリジェンス・コミュニティーの4機関と国家情報会議(NIC)が動物媒介説を支持したとされる[66][70]。また、報告書では中国政府が国際調査や情報公開に対して取っている極めて後ろ向きな姿勢を指摘し、バイデン大統領も中国政府による「隠蔽」や「透明性の低さ」[71][66]、「非協力的」な姿勢を批判[70]、再び中国が反発を繰り返している[68][69][72][73]。
脚注
出典
- ^ 国立感染症研究所と中華人民共和国中国科学院武漢ウイルス研究所(WIV of CAS, China)との感染症協力に関する覚書の締結について, 国立感染症研究所, (2010年02月18日) 2020年2月18日閲覧。
- ^ “机构简介”. 中国科学院武汉病毒研究所. 2020年1月31日閲覧。
- ^ “科学院决定在武汉成立微生物研究室”. 人民日報. 新華社: p. 第3版. (1956年6月7日)
- ^ 武汉地方志编纂委员会, ed (1993年2月). 《武汉市志:科学志》. 武汉大学出版社. p. 第564页
- ^ a b “中国科学院武汉病毒研究所”. 中国科学院武汉文献情报中心. 2018年1月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月31日閲覧。
- ^ 中国国立武漢生物安全研究所。
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関連項目
- 中国科学院
- 武漢大学
- 国家重点実験室
- 石正麗
- 中国科学院武漢国家生物安全実験室
- 2019新型コロナウイルスに関する項目
- 2019新型コロナウイルス - 疾患の原因となるウイルス
- 2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患 - 上記項目のウイルスによって引き起こされる疾患
- 新型コロナウイルス感染症の流行 (2019年-) - 当疾患の流行状況
外部リンク
- 中国科学院武汉病毒研究所
- 中国科学院武汉病毒研究所研究生招生信息手册 - ウェイバックマシン(2017年7月21日アーカイブ分) (PDF)