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キジノオシダ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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キジノオシダ属
分類PPG I 2016)
: 植物界 Plantae
: 維管束植物門 Tracheophyta
亜門 : 大葉植物亜門 Euphyllophytina
: 大葉シダ綱 Polypodiopsida
亜綱 : 薄嚢シダ亜綱 Polypodiidae
: ヘゴ目 Cyatheales
: キジノオシダ科
Plagiogyriaceae Bower (1926)
: キジノオシダ属 Plagiogyria
学名
Plagiogyria (Kunze) Mett. (1858)
タイプ種
Plagiogyria euphlebia (Kunze) Mett.
シノニム
本文参照

キジノオシダ属 Plagiogyria は、ヘゴ目に属する薄嚢シダ類の1である。単独でキジノオシダ科 Plagiogyriaceae を構成する[1][2]。単羽状複葉の葉には二形性が明瞭で、毛や鱗片を一切生じない[3]

特徴

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この類は形態的には共通点が多く、よくまとまっている。以下のような特徴を共有する[4]

胞子体

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中型の地上生シダ[4]多年生草本常緑性または夏緑性[4]

根茎は短く直立、または斜上するが、稀に短く匍匐茎を伸ばすものもある[4][3]の表面には古い葉の基部が残り、を多数付けて大きな株になる[4]螺旋状に配列する[3]。茎や葉柄など、植物体表面に鱗片などを全く生じない[4][3]。ただし、若い葉には粘液を出す多細胞の腺毛を持つ[4][3]網状中心柱を持ち、背腹性はない[3]

には栄養葉と胞子葉の二形があり、羽状中裂から単羽状複葉[4][3]。大きいものは 2 mメートルに達する[4]葉柄の基部は左右に広がって断面は三角形(または四角形)になる。葉柄断面の維管束は3本がU字またはV字型に並び、先端に近づくと癒合して1本になる[3]。葉柄腹面(葉の裏面側)の基部に通気孔がある[4][3]

単羽状の栄養葉の羽片全縁鋸歯縁で、深く切れ込むことはない[4]。葉脈は遊離脈である[4][3][注釈 1]。栄養葉では単条または1回分岐である[3]胞子葉では羽片は線形[4]。胞子葉の葉脈は末端で結合することがある[3]

胞子嚢は少し隆起した脈に沿って胞子嚢群をなし、包膜を欠く[4][3][注釈 2]。胞子嚢柄は長く、4–6列の細胞からなる[3]胞子嚢には環帯があるが、高等なシダでは胞子嚢を垂直に断ち切った方向に一周しているのに対して、この類では斜めの位置を一周している[5][3]

胞子はすべて同型で、胞子に葉緑体はなく、三稜性の四面体[4][3]。1胞子嚢当りの胞子数は64個[3]

Plagiogyria glauca の博物画。右上に柄を持つ胞子嚢が描かれる。

配偶体

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配偶体は地上生で葉緑体をもつ、普通の心臓形前葉体をなす[4][3]。少し伸びるものも知られる[4]。クッション部の細胞層はウラボシ目と比較してやや厚い[3]。無毛[3]

染色体と倍数性

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染色体基本数は x = 65, 66[3]。リュウキュウキジノオやヤマソテツは2倍体で、有性生殖を行う[6]。一方キジノオシダやオオキジノオは4倍体で、有性生殖を行う[3]

分布と種

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本属のタイプ種であるオオキジノオ Plagiogyria euphlebia の図版(当時はシシガシラ科Lomaria euphlebia とされていた。)

分布域は日本を含む東アジア東南アジア(ニューギニアを含む)、オセアニアと、中央アメリカから南アメリカ北部にかけてである[4]。種数は 岩槻 (1992) ではおおよそ50種ほどとされたが、海老原 (2016)PPG I (2016) では約15種が認められる。このうち、南北アメリカにはヤマソテツに似た1群のみを産する[4]。種数は1から9で諸説あるが、Hassler (2024) では、1種 Plagiogyria pectinata (Liebm.) Lellinger (1971) とされる。日本には6種2変種1雑種が知られる[3]

タイプ種オオキジノオ Plagiogyria euphlebiaレクトタイプ指定されている[1]。この種は初め、シシガシラ科Lomaria euphlebia Kunze として記載されたものである[1]

以下、Hassler (2024) によるリストに、海老原 (2016) による日本産の変種を加えた全種を示す。

また、何れも日本から、下記の雑種が知られる[7][6]

系統関係

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この属単独でキジノオシダ科 Plagiogyriaceae を構成し、ヘゴ目に置かれる[1][2]

原始的な特徴を多く持つ群であるとされ[8]、形態形質に基づく系統上の位置については議論があった[3]。外形的な特徴からシシガシラ科ホウライシダ科イワガネゼンマイなどと結びつける説もあったが、これは特定の形質の類似だけに基づくものである。植物体に鱗片も持たないこと、葉柄の基部の構造、若芽が粘液を出すことなどはゼンマイ科と共通する特徴で、その類縁性を認める説も一定の支持を受けてきた[4]

分子系統解析が進み、ヘゴ科タカワラビ科との近縁性が示唆されるようになった[9]。これは現在でも正しいとされ、PPG I分類体系ではヘゴ目に位置付けられており[1]、中でもクルキタ科ロクソマ科ティルソプテリス科単系統群をなす[10]。特にクルキタ科とは姉妹群を形成する[3][10]。なお、Christenhusz & Chase (2014) ではヘゴ科にまとめられ[11][12]、そのうちの1亜科 Plagiogyrioideae Christenh. (2014) とされた[12][3]。しかし、海老原 (2016)PPG I (2016) などではこれは支持されず、ヘゴ目の1科としての分類が踏襲されている。

Korall et al. (2006), Korall et al. (2007), Lehtonen (2011), PPG I (2016) Nitta et al. (2022)
ヘゴ目

ティルソプテリス科 Thyrsopteridaceae

ロクソマ科 Loxsomataceae

クルキタ科 Culcitaceae

キジノオシダ科 Plagiogyriaceae

ヘゴ科 Cyatheaceae

タカワラビ科 Cibotiaceae

ディクソニア科 Dicksoniaceae

メタキシア科 Metaxyaceae

Cyatheales
ヘゴ目

ティルソプテリス科 Thyrsopteridaceae

ロクソマ科 Loxsomataceae

クルキタ科 Culcitaceae

キジノオシダ科 Plagiogyriaceae

メタキシア科 Metaxyaceae

タカワラビ科 Cibotiaceae

ディクソニア科 Dicksoniaceae

ヘゴ科 Cyatheaceae

Cyatheales

その他

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シダにおいて毛や鱗片がないというのはかなり珍しい特徴である。本科の外見的な特徴である『単羽状複葉で側羽片が細長く、葉に栄養葉と胞子葉の二形があり、胞子葉が非常に細くなっている』に当てはまるものとしては、他にシシガシラなどのシシガシラ科シシガシラ属のもの、オシダ科イヌガンソクコウヤワラビなど幾つかの群に跨って存在し、それらは本属のものに多少とも似ている。シシガシラなど、かなり似ているが、これらは茎や葉柄の基部に鱗片や毛を持っているので、その点を見ればすぐに判別できる。ただしゼンマイ科にもヤマドリゼンマイなどこの型のものがあり、これには当てはまらない。もっとも、ゼンマイ科のものは、葉には毛を持つ例がある。

この類は生きた株を掘ってきて栽培するのがとても難しい[4]。光田は「意外に難物」で何年も育て続けることを「いまのところ不可能」としている[13]

なお、沖縄にはオキナワキジノオ Bolbitis appendiculata というシダがあるが、これは本科ではなくオシダ科ヘツカシダ属のものである。

脚注

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注釈

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  1. ^ つまり先端でくっついて網状になることはない。
  2. ^ 岩槻 (1992) では側糸は持たないとされるが、海老原 (2016) では側糸を持つとされる[3]
  3. ^ Hassler (2024) ではこの変種を区別せずシノニムとしている。基準変種であるタカサゴキジノオとの雑種が報告されたこともあるが、両者の関係は要検討である[6]。下部数対の羽片が下向きになるものをコスギダニキジノオ Plagiogyria yakumonticola Nakaike として区別する説もある[6]
  4. ^ Hassler (2024) ではこの変種を区別せずシノニムとしている。

出典

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  1. ^ a b c d e PPG I 2016, p. 575.
  2. ^ a b Christenhusz et al. 2011, p. 12.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa 海老原 2016, p. 340.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 岩槻 1992, p. 75.
  5. ^ 田村 1999, p. 73.
  6. ^ a b c d 海老原 2016, p. 341.
  7. ^ Hassler 2024, 021.0001 "Genus Plagiogyria (Kunze) Mett.".
  8. ^ 田川 1959, p. 68.
  9. ^ 中池 1997, p. 77.
  10. ^ a b PPG I 2016, p. 567.
  11. ^ 海老原 2016, p. 26.
  12. ^ a b Christenhusz & Chase 2014, p. 588.
  13. ^ 光田 1986, p. 76.

参考文献

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外部リンク

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