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四国西南地域

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
宇和海の真珠養殖施設

四国西南地域(しこくせいなんちいき)とは、四国西南部に位置する、愛媛県西南部(南予地方)と高知県西南部(幡多地方)にまたがる地域を指す呼称[1]。単に「四国西南」とも呼ばれる。

概要

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「四国西南地域」の範囲には伸縮があるが(#範囲節参照)、1950年代から「四国西南地域」を対象としたさまざまな産業開発や国土・環境保全の計画が立てられ、また事業として実施されてきた。

この地域は平地が乏しく[2]、地質が脆弱なうえ[2]、台風常襲地帯[2][3]・豪雨地帯[3]であるといった制約的な自然条件があり[2]、交通をはじめとするインフラ整備が遅れているとされる[2][注釈 1]。開発の進んだ地域との接続の難は、地域の産業の発展の遅れや人口流出による過疎化と関係しているとも指摘されてきた[2]。この地域の開発を求める運動には、産業や観光など地域経済の活性化といった目的が掲げられる。とくに交通インフラ整備の要請には、発生が見込まれる南海トラフ巨大地震・津波に対する備えとしての役割が訴えられている。

一方で、この地域は豊かな自然資源(水資源・森林資源・水産資源)や自然景観に恵まれており[2]、足摺岬周辺から宇和海にかけての沿岸部および滑床渓谷などの内陸部が足摺宇和海国立公園に指定されているほか、「日本最後の清流」と謳われる四万十川も知られている。「東京から最も遠い」[5][6]といった「秘境」性や、恵まれた自然景観[2]も、観光客や移住者にアピールする地域資源となっている。大規模開発に対しては、採算性などの問題も合わせて懸念が表明されたり、自然環境保護の観点から反対もある。

範囲

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地図
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Maps: terms of use
15 km
法華津峠
法華津峠
内子町
内子町
大洲市
大洲市
八幡浜市
八幡浜市
西予市
西予市
松野町
松野町
下ノ加江
鬼北町
愛南町
愛南町
宇和島市
宇和島市
黒潮町
黒潮町
三原村
三原村
大月町
大月町
四万十市
四万十市
土佐清水市
土佐清水市
宿毛市
宿毛市
赤は「四国西南10市町村」、これに橙を加えたものが「四国西南14市町村」の枠組み。

四国西南14市町村

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21世紀前半の現在、この地域においては自治体(市町村)の協議の枠組みとして「四国西南サミット」があり、愛媛県側で内子町大洲市八幡浜市西予市鬼北町松野町宇和島市愛南町、高知県側で四万十市土佐清水市宿毛市大月町三原村黒潮町の「四国西南14市町村」が加わっている[7]

「四国西南地域陸上競技大会」が、愛媛県南予地区および高知県幡多地区在住者を対象とする大会として開催されている[8][9]。「四国西南野球大会」は、四国西南サミット加入市町村を中心として開催されている[10][注釈 2]

四国西南10市町村

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「四国西南」の愛媛県側(南予側)に大洲市・八幡浜市などを含まず、宇和島市以南の「宇和島圏域」あるいは足摺宇和海国立公園関連地域のみとする枠組みもある。「四国西南地域観光連絡協議会」が制作したパンフレット「四国西南の旅」は、宇和島以南の愛媛県1市3町(宇和島市・愛南町・松野町・鬼北町)と高知県側「幡多広域観光協議会」参加の3市2町1村(四万十市・土佐清水市・宿毛市・大月町・三原村・黒潮町)からなる「四国西南10市町村」を扱っている[11]。「四国西南地域道路整備促進協議会」も「四国西南地域10市町村」によって構成されている[12]

愛媛県は「第五次愛媛県長期計画」(2011年)において「県際交流圏の形成」を掲げていた[13]。ここでは「宇和島圏域と高知県西南部を中心とする四国西南部エリア」を「四国西南県際交流圏」と設定していた[13]

関連する地域呼称

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宇和海に臨む遊子水荷浦の段畑(宇和島市)
南予地方
「四国西南サミット」に参加する愛媛県西南部の地域については、南予地方という表現がよく用いられる。「南予地方」については様々な枠組みがあるとされる。愛媛県を東予・中予・南予の3地域に分割する場合は、大洲市・内子町以南が「南予」とされる[14]
一方、宇和島市以南の1市3町(宇和島市、松野町、鬼北町、愛南町)の枠組があり、定住自立圏として「宇和島圏域定住自立圏」が構想されている[15]
幡多地方、高知県西南地域
「四国西南サミット」に参加する高知県西南部の地域は、幡多郡(およびそこから市制を施行した3市)の領域とおおむね重なり[注釈 3]、「幡多地方」「幡多地域」とも呼ばれる。幡多地域でも、宿毛市・四万十市を中心市とする「幡多地域定住自立圏」の構想がある[16]
高知県側については、同様に「西南」を含む「高知県西南地域」(あるいは「高知西南」「土佐西南」とも)という地域呼称がある。この概念も伸縮があり、狭義では幡多地域のみを指すが(国営農地開発事業における「高知西南地区」)[17]、広義では幡多地域に高岡郡西部も含んだ、四万十市、宿毛市、土佐清水市、中土佐町四万十町梼原町津野町、黒潮町、大月町、三原村が「高知県西南10市町村」の枠組みとなる[18][19]土佐西南大規模公園は佐賀地区・大方地区(いずれも黒潮町)、中村地区(四万十市)の3地区に分散して設置されている都市公園である[20]
渭南
県境をまたぐ南予・幡多一帯を指す地域呼称として、渭南(いなん)がある。渭南はもともと「以南」と書かれ、高知県南西端部の呼称であったが、1901年(明治34年)に高知県以南地域と愛媛県南予地域の教育関係者の団体が会合を開いた際に、両地域を合わせた呼称として「渭南」が提唱され、高知県の西南海岸と愛媛県の宇和海の海岸地域を指す呼称として受け入れられた[21]。1950年代に高知県・愛媛県において「渭南国立公園」の指定を求める運動が行われ、これが実現を見たものが足摺宇和海国立公園である。また、言語学(方言学)上、この地域で話される方言を「渭南方言」(「四国西南方言」とも)と分類する考え方がある。

歴史

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1951年(昭和26年)、開発後進地域を「特定地域」と指定する国土総合開発法によって、高知県南半部および愛媛県八幡浜宇和島の両市を中心とする地域が「四国西南地域」と指定され[1][22]、治水・治山や資源開発を目的として事業が行われた[1][22]四国西南特定地域総合開発計画[注釈 4])。この計画は1960年(昭和35年)に完成した[1]

同時期、自然保護ないしは観光開発を目指す動きも進められる。1951年、高知県知事は厚生大臣に「高知県幡多郡白田川村[注釈 5]より愛媛県北宇和郡日振島村に到る海岸一帯」を国立公園として指定するよう「渭南国立公園指定申請書」を提出した[21]。以後高知県と愛媛県による「渭南国立公園指定運動」が活発化し、1955年(昭和30年)には「足摺国定公園」が指定された[21]。その後、1964年に指定地域が拡張され、1972年に足摺宇和海国立公園となる。

交通

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本項での「四国西南地域」は、宇和島市以南の10市町村の枠組みとする。

道路

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一般国道

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国道56号の路線図
宿毛市内の国道56号
四万十インターチェンジ付近の中村宿毛道路

一般国道としては、高知県高知市と愛媛県松山市とを結ぶ国道56号が地域を貫いている。

急峻な地形を通行することや、台風常襲地帯・豪雨地帯であることから、自然災害による通行止めや通行規制もしばしば発生する[3]南海トラフ巨大地震が発生した場合の津波浸水予想区域に含まれる場所もあり、避難や救援に大きな影響が出ることも懸念されている[3]

高規格道路

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国土開発幹線自動車道(国幹道)として、徳島県を起点に高知市・四万十市・宇和島市などを経由して大洲市に至る「四国横断自動車道」の設定がなされており(高速道路ナンバリング E56)、高知自動車道松山自動車道として一部が開通している。高速道路(高速自動車国道)で四国を循環的に結ぶ「四国8の字ネットワーク」の整備が進められているが[3]、2022年時点で四国西南地域は高速ネットワークの空白地帯となっている[3]

E56とナンバリングされた高規格幹線道路は、高知市側から時計回りに以下のように供用されている(※印は「高速自動車国道に並行する一般国道自動車専用道路」)。県境区間にあたる、宿毛市の宿毛和田インターチェンジ中村宿毛道路)と宇和島市の内海インターチェンジ津島道路)の間のは構想段階であり、事業化がなされていない。

「四国西南地域道路整備促進協議会」が活動しており、産業や観光など地域経済の活性化とともに地域防災力向上を掲げて高規格道路の建設陳情などを行っている[23]

鉄道

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四万十川の河畔を走る予土線

県境をまたぐ鉄道路線としては、四国旅客鉄道(JR四国)の予土線がある。

域内を通る鉄道路線は以下の通り。

港湾

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宿毛フェリーターミナル

域内には重要港湾として宇和島港(宇和島市)・宿毛湾港(宿毛市・大月町)の2港がある。

地方港湾は、愛媛県側に玉津港・吉田港・岩松港(以上宇和島市)・御荘港(愛南町)、高知県側に佐賀港・上川口港(黒潮町)・下田港(四万十市)・下ノ加江港・以布利港・清水港・あしずり港・三崎港・下川口港(以上土佐清水市)がある。

2022年現在、本土と離島部を結ぶ定期旅客航路はあるものの、域外とを結ぶ定期旅客航路はない[24](かつては宿毛フェリーなど、九州方面とを結ぶ航路があった)。

空港構想

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域内に「四国西南空港」を建設しようとする構想もある[13]

脚注

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注釈

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  1. ^ たとえば高知県土佐清水市は、県庁所在地である高知市まで自動車で2時間半程度、バスや鉄道などの公共交通手段で3時間程度かかる(2022年時点)[4]
  2. ^ 「四国西南サミット」域外の高知県須崎市や大分県別府市から参加するチームもある[10]
  3. ^ ただし、2006年に幡多郡大正町十和村が高岡郡窪川町と合併し、高岡郡四万十町となっている。大正町・十和村は合併前より高岡郡側との結びつきが強く、両郡の名から1字ずつをとった「高幡(こうばん)」という地域名称がある(高幡消防組合など)。
  4. ^ 河川総合開発事業に関連する記事が若干ある。
  5. ^ 現在の黒潮町の一部。「白田川」は旧村名からの合成地名。

出典

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  1. ^ a b c d 四国西南地域”. 精選版 日本国語大辞典. 2022年8月24日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 国土庁 1977, p. 100.
  3. ^ a b c d e f 2022年新春インタビュー② 四国地方整備局 「四国8の字ネットワーク」の整備に注力”. 道路構造物ジャーナルNET. 鋼構造出版 (2022年1月1日). 2022年7月12日閲覧。
  4. ^ 土佐清水市への交通アクセス”. 土佐清水市. 2022年9月2日閲覧。
  5. ^ 遠いだけのことはある!わざわざ住みたい!土佐清水!”. 土佐清水市. 2022年9月2日閲覧。
  6. ^ 大堂・柏島”. 大月町. 2022年8月24日閲覧。
  7. ^ 行事等のお知らせ(No.00024854)”. 記者配布資料(県政記者向け). 高知県 (2013年3月4日). 2022年7月12日閲覧。
  8. ^ 第64回四国西南地域陸上競技大会”. 愛媛新聞. 2022年9月25日閲覧。
  9. ^ ずっと現役!ただいま青春!宇和島陸協のブログ”. 宇和島陸協. 2022年9月25日閲覧。
  10. ^ a b 第7回四国西南野球大会(土佐清水大会)中学校の部”. 土佐清水市 (2009年9月29日). 2022年7月12日閲覧。
  11. ^ 「四国西南の旅」について”. 愛媛県. 2022年8月27日閲覧。
  12. ^ 予算確保で早期整備を 四国西南地域2団体が合同要望”. 全高速(全国高速道路建設協議会) (2015年12月15日). 2022年8月24日閲覧。
  13. ^ a b c 県際交流圏の形成”. 第五次愛媛県長期計画. 愛媛県. 2022年8月24日閲覧。
  14. ^ 競技会場および会場地市町”. 愛顔つなぐえひめ国体. 愛媛県. 2022年8月27日閲覧。
  15. ^ 定住自立圏構想”. 宇和島市. 2022年8月27日閲覧。
  16. ^ 定住自立圏構想について”. 宿毛市. 2022年8月27日閲覧。
  17. ^ 高知県西南地域における事業後の農業の展開状況”. 水土の礎. 一般社団法人農業農村整備情報総合センター. 2022年8月29日閲覧。
  18. ^ 四万十かいどう”. 四国風景街道協議会事務局. 2022年8月27日閲覧。
  19. ^ 高知県西南地域ってこんなトコ”. 国土交通省四国地方整備局中村下線国道事務所. 2022年8月27日閲覧。
  20. ^ 土佐西南大規模公園の都市計画公園区域の見直しに対する意見公募の結果について(意見公募期間:令和3年11月1日から令和3年11月30日まで 提出意見数 18名18件)”. 高知県 (2021年12月10日). 2022年8月27日閲覧。
  21. ^ a b c 渭南について”. 渭南エココミュニティー. 2022年7月12日閲覧。
  22. ^ a b 2 地域開発”. 愛媛県史 県 政(昭和63年11月30日発行). 2022年8月24日閲覧。
  23. ^ 宿毛~内海間の早期事業化 渡辺国交副大臣に要望 四国西南地域道路整備促進協議会・同「宿毛~内海間」整備促進部会”. 全高速(全国高速道路建設協議会). 2022年8月24日閲覧。
  24. ^ 航路案内”. 四国旅客船協会. 2022年8月31日閲覧。

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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