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朱成虎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
朱成虎
プロフィール
出生: 1952年1月
出身地: 中華人民共和国の旗 中国安徽省当塗県
職業: 軍人
各種表記
繁体字 朱成虎
簡体字 朱成虎
拼音 Zhū Chénghǔ
和名表記: しゅ せいこ
発音転記: ヂュー・チョンフー
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朱 成虎(しゅ せいこ、ヂュー・チョンフー、1952年1月 - )は、中華人民共和国中国人民解放軍の軍人、国防大学教授、中国人民解放軍少将。

経歴

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公式には1952年安徽省当塗県生まれ。旧姓は劉であり、中国建軍の父と呼ばれ一時国家元首格を有した朱徳元帥の4番目妻の外孫(朱徳は公式に6回結婚している)。成虎の命名は祖父朱徳で「人を食らう虎」の意。

4歳のころ祖父が政府最高首脳に列し、14歳の頃に文革が始まり攻撃を受け左遷させられている。

祖母に対して「性乱豪放女」との批判報道が存在する。国家の政治中枢に関与する家族の元で育ち、その特殊な環境と祖母らの性的スキャンダル攻撃が後の核恫喝に結び付いたとの報道がある[1]

朱徳がさらに降格させられた1969年に中国人民解放軍入隊。中国人民解放軍南京国際関係学院および軍事学院参謀班および国防大学を卒業。国防大学の戦略研究所副所長、外訓系主任(系は日本の学部に相当)、広州軍区空軍副参謀長などを歴任。1988年米国国家戦略研究所に半年間客員研究員として留学。1993〜1994年イギリスの東洋アフリカ研究学院に1年間客員研究員。

軍事教育と研究に30余年のキャリアを持ち、諸外国訪問しての講演等は20カ国を超え、中国国内でのメディア露出も多い。

2015年1月現在、国防大学の防務学院院長および教授。空軍少将の地位をもつ中国人民解放軍士官の教育指導者である[2]

核攻撃発言

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2005年7月14日、香港にて『ウォール・ストリート・ジャーナル』や『フィナンシャル・タイムズ』など各国の報道機関を前に、アメリカ台湾有事に介入した場合、中国は核戦争も辞さないと発言し、「弱い勢力は、最大の努力で強い勢力の相手を打ち破るべきである」との持論を展開し[3]、アメリカの数百の都市と引き換えに西安より東の都市すべてが壊滅することも厭わないと述べた[3]。また、「世界の人口は無制限に迅速に増加している。今世紀中に爆発的増加の極限に到達するはずだ。しかし地球上の資源は有限なのだから、核戦争こそ人口問題を解決するもっとも有効で速い方法である。(世界人口在无限制地迅速增长,在本世纪内就要达到爆炸的极限,而地球上的资源是有限的,核战争是解决人口问题最有效最快速的方法)」と核戦争を賛美する発言を行った[4]

朱成虎少将の発言は以下の通り。

「我々(中国)は核兵器の先制攻撃により中国以外の人口を減らすと共に自民族を温存させる事に力を注ぐべきで、この核戦争後に百年余りの屈辱に満ちた歴史を清算し未来永劫この地球を支配する様に成るだろう。世界の人口は無制限に迅速に増加している。今世紀中に爆発的増加の極限に到達するはずだ。しかし地球上の資源は有限なのだから、核戦争こそ人口問題を解決するもっとも有効で速い方法である。中国政府は全力で核兵器の開発に取り組んでおり、10年以内には地球上の半数以上の人口を消滅させるだけの核兵器を装備することが可能である。中国は西安以東の全都市が焦土となる事を覚悟している。米国も数百の都市が破壊される事を覚悟しなければならない」

「もしアメリカが中国と台湾との軍事紛争に介入し、ミサイルや誘導兵器を中国領土内の標的に向けて発射すれば、中国は核兵器で反撃する。現在の軍事バランスでは中国はアメリカに対する通常兵器での戦争を戦い抜く能力はないからだ」

「アメリカが中国の本土以外で中国軍の航空機や艦艇を通常兵器で攻撃する場合でも、中国側からのアメリカ本土核攻撃は正当化される。(アメリカによる攻撃の結果)、中国側は西安以東のすべての都市の破壊を覚悟せねばならない。しかしアメリカも数百の都市の中国側による破壊を覚悟せねばならない」

— 朱成虎、2005年7月14日[4][5]

朱成虎の会見に参加していた『ウォール・ストリート・ジャーナル』のダニー・ギティングス記者によると、朱将軍は流暢な英語で「(中国は一貫して)核兵器先制不使用」は軍事戦略の基本方針であり、非核の通常兵器による戦争になっても、先に核兵器は使用しないと宣言してきたが、「核兵器先制不使用」は「非核の国との戦争にのみ適用される原則だ」とか「この種の方針はよく変わる」などと明言した[5]

即座に7月15日アメリカでも一斉に報道され[6]ヨーロッパ台湾などでも物議をかもし新聞などで一斉に報道された[7]。7月15日、この朱成虎発言に対してアメリカ合衆国国務省スポークスマンショーン・マコーマックは「極めて無責任で、中国政府の立場を代表しないことを希望する。非常に遺憾」と非難した[7]中国政府は後に公式見解ではないと発表したが、同時に「中国は台湾の独立を絶対に容認しない、中国国家の分裂を促すあらゆる行動を許さない」と強調した[7]。これについて台湾高等政策研究協会執行長官楊念祖中国語版は、「核攻撃発言はアメリカと日本に向けられたものであり、中国政府はこの発言で、米日両国の反応を試し、両国の態度を探りたいのだろう」という見解を示した[7]。また、大陸委員会スポークスマンは、朱の発言は非常に不適当で、中国のタカ派の強硬な態度を示したとコメントした[7]

7月16日、『デイリー・テレグラフ』は社説「北京凶徒」で、朱の発言は、核戦争で世界の半分の人口は壊滅するが、その代償に帝国主義も消え去るという1957年毛沢東の発言を連想させると指摘し[3]、『アーカンソー・デモクラット・ガゼット英語版』は、朱少将の発言は中国政府高層部の許可を得たはずで、アメリカの反応をみており、アメリカは西太平洋の安全に更なる注意を払うべきだと警戒した[3]

7月17日の『ワシントン・タイムズ』の報道によると、アメリカ国防総省の高官は「朱成虎氏の発言は、おそらく事前に中国高層部の許可を得た、中国政府の見解を代表するものだろう。戦争計画の一部を無意識に漏らした可能性もある。この発言の意図は、アジア国家にアメリカの軍事力を恐れていないことをアピールするものだろう」と分析した[7]

産経新聞』ワシントン支局長などを務めた古森義久は、この発言を「衝撃的というか、驚愕というか、びっくり仰天し、そのあとに肌寒い恐怖に襲われる」と述べている[5]

クレーム研究所アジア研究センターのタンブ主任は、「朱成虎氏の核攻撃発言は、中国政府がアメリカに直言しにくい脅しを代弁しただけであり、中国政府による計画通りの行動で、新しい世界情勢に応対するための脅迫戦略である」と指摘した[3]

新華社に27年間勤務し、1989年天安門事件発生後に辞職し、定年までラジオ・フランス・アンテルナショナル中国語部門主任を担当した呉葆璋は「朱成虎氏の発言は、政変の予兆とも捉える」と指摘した[3]

民主運動家魏京生は、「中国共産党は、目的達成のために手段を選ばないという卑劣な一面がある。いま中国社会には、各種の不安定要素が隠されており、政権を延命するために国民の注意を転換させ、結束力を強化する必要がある。中国政府は、対台湾戦争がこれらの目的を達成させる一番よい手段と考えている可能性がある。情報筋によると、今中国の軍事産業は大量の武器製造の注文を受けている。近く戦争が起こるとの噂も流れている」と述べた[3]

焦国標(元北京大学助教授)は、中国共産党は全面崩壊を目前に、文明世界宣戦布告する危険性があると指摘した[3]

また、「中国は自由に見解を述べる国柄ではない、軍部の高官に対する言論規制はもっと厳しいものである、核兵器使用問題で、今まで、中国政府北朝鮮を利用して、国際社会を脅迫し続けてきたが、今回の朱成虎氏の発言は、決して個人的な見解ではなく、中国政府仮面を外して、赤裸々な大胆行動に出たと受け止めるべきである」という専門家の分析もある[3]

事態を重く見たアメリカ合衆国議会は即座に反発し、7月22日に発言に対し発言撤回と朱成虎の罷免を求める下院決議を採決し[3]、発起人の共和党下院議員のタンクレータは、「中国政府に、武力紛争ではなく平和方式で台湾問題を解決するとの保証を求めていくべきである」と批判した[3]。これを受けて、中国外交部は、朱の発言は中国政府の立場を表すものではないとのコメントを出し、中国人民解放軍は同年12月、朱に「行政記過」(過失を記録に残すの意)処分を下し、1年間の昇進停止としたが、これは2番目に軽い罰則と報じられている[8]アメリカ合衆国下院が求めた罷免は行われず、国防大学からも更迭は行わなかった為、その後も教鞭をとっている。

先制核攻撃論

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台湾独立運動の活動家の黄文雄によると1995年ごろから過激な発言を繰り返しており、先制核攻撃を主張したとしているが原文は発見されていない。

「国連の統計によれば、今世紀中葉ごろには世界人口は一五〇億人に達し、今世紀中には人口過剰の問題が爆発する。すでに中国、インド、東南アジア等が人口過剰問題を抱え特にインドは、人口、経済、パキスタンとの領土紛争をめぐり、核戦争をおこなう可能性はきわめて高い。そのドミノ現象で世界核戦争が起こる」

「だからこの未来の核大戦に対し、我々は受動的ではなく、主導的に出撃すべきだ」

「人口問題を解決するには、核がもっとも有効にして手っ取り早い方法だ」

「人口と資源の不均衡がもたらす危機は、これから五〇年以内に必ず起こる。それは早ければ早いほうがいい。なぜなら、遅くなればなるほど問題がいっそう複雑化し、解決ができなくなるからだ。しかも大量の人口は大量の資源を消費する。その資源のほとんどは再生不可能だ。さらに重要なのは、我々中国人はこの競争のなかで機先を制さなければならないということだ。なるべく他国の人口を減らし、自国の人口を多く生き残らせるべきだ。そうなれば生き残った人口が未来の人類の新しい進化の過程のなかで、有利な条件を得ることができる」

「もし我々が受動的ではなく主導的に出撃し、計画的に全面核戦争に出れば、情勢はきわめて有利である。なぜなら他の国と比べ、我々の人口の絶対多数は農村にあり、しかも我が国の国土、地形は非常に複雑で隠匿しやすい。だから政府が核大戦を用意周到に計画さえすれば、人口を広大な農村に移して絶大な優勢を保つことができる。しかも我々が先制攻撃をすれば、他国の人口を大きく減らし、我々が再建する場合には、人口的な優勢を保つことができる」

「我が国の目下の任務は経済発展であって軍拡でないと主張する人もいるが、経済発展はすでにピークに達し、人口を有効に制限できない状況下では、貧窮人口を増やし、一握りの富裕階層の生活を維持していくだけだ」

「だから政府はすべての幻想を捨て、あらゆる力を集中して核兵器を増やし、一〇年以内に地球人口の半分以上を消滅できるようにしなければならない。人口制限の愚策は早く捨て、人口をもっと増やし、そして計画的に周辺諸国に浸透させるべきだ。たとえば密入国や、シベリア、モンゴル、中央アジアなど人口の少ない地域への大量移民を行わせる。もし大量移住が阻止されたら、軍隊を派遣して先導させるべきだ。全面核戦争が起きたら、周辺諸国に疎開した人口の半分と、農村へ疎開した人口の半分があるから、他国に比べて多くが生き残ることができる」

「我々にとってもっとも敵対する隣国は、人口大国のインドと日本である。もし我々が彼らの人口を大量に消滅できない場合は、核大戦後は中国の人口が大量に減少し、日本とインドが我が国に大量移民することができるようになる」

「アメリカは強大な国力を保っているので、徹底的に消滅させないと、将来大患になる。アメリカに対しては、我が国が保有する核の一〇分の一で充分だ。台湾、日本、インド、東南アジアは人口密集の地域であり、人口消滅のための核攻撃の主要目標となる。モンゴル、ロシア、中央アジアは人口が少ないので、核攻撃よりも通常地上部隊の占領だけで十分だ」

「中国人がもし大量に移民し、ロシア人と共棲すれば、ロシアは我が国に核攻撃はできなくなる。そのためには五億人ぐらいがシベリアに移民するだけで充分だ」

「核の第一撃があれば、利害関係を持つ国家間で核攻撃が起こる。もし事前に計画と準備があれば、我々にとってはきわめて有利だ」

「以上のことは数年後、必ず起こる。なぜならば人口問題は、いかなる人間にも根本的な解決は不可能だからだ。歴史は必ず私の所説の正しさを証明してくれる」

「核大戦のなかで、我々は一〇〇余年来の重荷をおろし、世界のすべてが得られる。中華民族は必ず核大戦のなかで、本当の復興を得られる」

— 黄文雄、日本人が知らない中国「魔性国家」の正体、p43~46より引用[9]

著書

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「中米関係の発展変化及び趨勢」、「当代米国軍事」他多数。論文発表も200件を超える。

脚注

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  1. ^ “朱成虎外祖母是性乱豪放女”. 人民網. オリジナルの2014年11月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20141113073949/https://news.renminbao.com/019/822g.htm 
  2. ^ “朱成虎少将解析香格里拉对话会相关热点问题”. 人民日報. (2013年6月5日). オリジナルの2013年10月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131030083549/http://military.people.com.cn/GB/52578/52579/364744/index.html 
  3. ^ a b c d e f g h i j k “米議会、核攻撃発言の撤回と朱成虎少將の免職を求める”. 大紀元. (2005年7月22日). オリジナルの2021年1月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210126085611/http://www.epochtimes.jp/jp/2005/07/html/d53825.html 
  4. ^ a b “【中华论坛】中国人民解放军少将朱成虎对美国人的回应”. 中華網. (2014年6月1日). オリジナルの2015年1月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150123231945/http://club.china.com/data/thread/1011/2771/07/34/7_1.html 
  5. ^ a b c 古森義久 (2005年7月28日). “第3回「中国の軍事」を語ることをタブー視するな~日本の安全保障上“最大の脅威”が迫る~”. 日経BP. オリジナルの2007年10月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20071013194758/http://nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/03/ 
  6. ^ JOSEPH KAHN (2005年7月15日). “Chinese General Threatens Use of A-Bombs if U.S. Intrudes”. ニューヨーク・タイムズ. オリジナルの2015年1月24日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/8DqaQ 
  7. ^ a b c d e f “中国軍部高官の核攻撃発言で、国際社会に波紋”. 大紀元. (2005年7月18日). オリジナルの2005年12月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20051227212257/https://www.epochtimes.jp/jp/2005/07/html/d47136.html 
  8. ^ “中国解放軍、核攻撃発言の朱成虎少将を処分” (日本語). 大紀元. (2005年12月24日). http://www.epochtimes.jp/jp/2005/12/html/d15011.html 2013年8月24日閲覧。 
  9. ^ 黄文雄日本人が知らない中国「魔性国家」の正体成甲書房、2008年1月19日、43-46頁。ISBN 978-4880862262https://books.google.co.jp/books?id=qfjL9hMOyicC&pg=PA43 

関連項目

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外部リンク

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