朝鮮労働党統一戦線部
朝鮮労働党統一戦線部(ちょうせんろうどうとうとういつせんせんぶ)は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の情報機関。通称は「トンジョンブ(統戦部)」であり、俗に他の党諜報機関とともに「三号庁舎」と呼ばれる。
概要
[編集]1977年、金日成の直接命令により新設される[1]。韓国内の民間団体や在日韓国・朝鮮人を含む海外同胞の包摂を担当する機関であり、南北対話と交流も指導している。過去、文化部と呼ばれていた。他の機関と比較して、公然の宣伝工作を行うことが特徴である。外交問題にも直接・間接に関与している。また、日本など海外[注釈 1]の親北朝鮮派の結集と組織の構築、反北朝鮮派の孤立化工作と情報宣伝も専門に行っている。最近まで、救国の声放送等の対南地下放送も運営していた[3]。1973年には統一戦線部幹部工作員木下陽子(洪寿恵)によって埼玉県在住の母子が拉致される2児拉致事件が引き起こされている。
2010年代においては、対南関係の業務に加えアメリカ合衆国との折衝も担うようになった。2019年に行われた米朝首脳会談に至るまでの調整過程では、アメリカ合衆国国務長官のカウンターパートとして統一戦線部長が対応した[4]。
朝鮮総聯
[編集]2013年以降は、統一戦線部の傘下機関の第225部(旧対外連絡部)が日本の朝鮮総聯を指導しており[5]、日本に対する情報活動の多くは、朝鮮総聯系の貿易会社を隠れ蓑にして行われる。さらに、韓国と北朝鮮の有事の際は、日本にある組織を使用して工作を行うと報道されており、一部には土台人疑惑もある。
また、朝鮮総聯や朝鮮学校から金正日への「忠誠の資金」という献金の形で、外貨の獲得をおこなっている。
米国在住の朝鮮人である在米僑胞の包摂も担当し、獲得したスパイを社会文化部に移設している[6][7]。
洛東江
[編集]「洛東江」は日本にある秘密工作機関で、大韓民国南部に流れる川(洛東江)の名前から命名され、社会文化部(当時)の直属組織である。「洛東江」の大物工作員曹延楽は文世光事件に係わったとされる[8][9]。また、張竜雲は、朝鮮総連活動家から「洛東江」にスカウトされた在日工作員であった(コードネームは「黒い蛇」)。彼は金日成・金正日父子のために、闇世界を通じて多額の不正資金をかき集めたが、祖国と朝鮮総連に裏切られたため、これを告発する書籍を著している。同書では、「洛東江」が田中実拉致事件の実行犯グループであることも暴露されている。
北朝鮮の「民間団体」
[編集]統一戦線部は、北朝鮮国内の「民間団体」を指揮している[注釈 2]。以下の社会団体は、朝鮮労働党の正体を隠すための隠れ蓑である[11]。
組織
[編集]『北朝鮮の最高機密』、『朝鮮総連工作員』、『北朝鮮のスパイ戦略』によれば、傘下に以下の組織をもつとされる。
- 南朝鮮研究所
日本で、韓国の情報を収集する。
歴代部長
[編集]- 金容淳( - 2001年、交通事故により死亡[12])
- 金養建(2007年 - 2015年、交通事故により死亡)
- 金英哲(2016年 - 2019年)
- 張金哲(2019年 - 2021年)朝鮮労働党朝鮮アジア太平洋平和委員会委員兼任[13]
- 金英哲(2021年 - 現任)[14]
有名な工作員・関係者
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 全(2002)p.217
- ^ a b c 青山(2002)pp.297-311
- ^ 安(2000)p.39
- ^ “北朝鮮、金英哲・統一戦線部長を解任 問責か”. ロイター (2019年4月24日). 2019年5月3日閲覧。
- ^ “総連、北朝鮮での発言力低下? 指導機関が別組織傘下に”. 朝日新聞. (2013年10月17日)
- ^ 康(1998)p.276
- ^ 康(1998)p.320
- ^ 張(1999)p.81
- ^ 張(1999)p.131
- ^ 清水(2004)pp.43-45
- ^ 康(1998)p.134
- ^ 全(2002)p.216
- ^ 北朝鮮 次はどの側近が「消える」?右田早希、ジョルダンスコラニュース、2019/4/26
- ^ 金正恩氏、父と同じ「総書記」に就任…権威高める狙いか 読売新聞 2021年1月11日
参考資料
[編集]- 青山健煕「外務省、拉致議連に提出した北朝鮮レポート(2) 朝鮮赤十字会」『北朝鮮 悪魔の正体』光文社、2002年12月。ISBN 4-334-97375-2。
- 安明進 著、金燦 訳『北朝鮮拉致工作員』徳間書店〈徳間文庫〉、2000年3月。ISBN 978-4198912857。
- 安明進 著、大刀川正樹 訳『新証言・拉致 横田めぐみを救出せよ!』廣済堂出版、2005年4月。ISBN 4-331-51088-3。
- 金賢姫 著、池田菊敏 訳『金賢姫全告白 いま、女として(上)』文藝春秋、1991年10月。ISBN 4-16-345640-6。
- 金賢姫 著、池田菊敏 訳『金賢姫全告白 いま、女として(下)』文藝春秋、1991年9月。ISBN 4-16-345650-3。
- 康明道 著、尹学準 訳『北朝鮮の最高機密』文藝春秋〈文春文庫〉、1998年11月(原著1995年)。ISBN 978-4167550165。
- 清水惇『北朝鮮情報機関の全貌―独裁政権を支える巨大組織の実態』光人社、2004年5月。ISBN 4-76-981196-9。
- 高沢皓司『宿命-「よど号」亡命者たちの秘密工作』新潮社〈新潮文庫〉、2000年7月(原著1998年)。ISBN 978-4101355313。
- 張龍雲『朝鮮総連工作員』小学館〈小学館文庫〉、1999年10月。ISBN 978-4094037111。
- 全富億『北朝鮮のスパイ戦略』講談社〈講談社プラスアルファ文庫〉、2002年10月(原著1999年)。ISBN 4-06-256679-6。
- 李友情(作・漫画)『マンガ金正日入門 拉致国家北朝鮮の真実』李英和(訳・監修)、飛鳥新社、2003年8月。ISBN 4-87031-575-0。
- 別冊宝島編集部 編『決定版! 北朝鮮ワールド』宝島社〈宝島社文庫〉、2003年12月。ISBN 978-4796638166。
- 『横田めぐみは生きている 安明進が暴いた日本人拉致の陰謀』講談社〈講談社MOOK〉、2003年4月。ISBN 4-06-179395-0。