日本政治思想史研究
日本政治思想史研究 | ||
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著者 | 丸山眞男 | |
発行日 | 1952年 | |
発行元 | 東京大学出版会 | |
ジャンル | 学術書 | |
国 | 日本 | |
言語 | 日本語 | |
形態 | 上製本 | |
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『日本政治思想史研究』(にほんせいじしそうしけんきゅう)は、丸山眞男の初期著作にして代表作の一つ。1940年から1944年に発表した論文3篇の書籍化として[1]、1952年初版、1983年新装版が東京大学出版会から出版された。1953年毎日出版文化賞受賞[2]。複数言語に翻訳もされている[3]。日本政治思想史分野の記念碑的著作であり、21世紀現在でも影響力を持っている[3][4]。
内容
[編集]近世日本において、徳川政権の体制イデオロギー(官学)となった朱子学的思惟が徐々に解体されていく過程に、日本の思想面での近代化を見出す[4]。解体の担い手として、伊藤仁斎[5]、荻生徂徠[5]、本居宣長[5]、安藤昌益[5]、福澤諭吉[6]らを取り上げ、とくに荻生徂徠を最重要視する[7]。
以上を論じるにあたり、西洋哲学由来の「自然」と「作為」の対立をはじめ、「存在」(ザイン)と「当為」(ゾルレン)の対立[8]、自然法論、ヘーゲル、ボルケナウ、マンハイム[9]、テンニース[9]、シュミット[9]、マルクス主義歴史学[9]などを援用する。
刊行背景
[編集]1937年、東京帝国大学法学部を卒業した丸山は、南原繁の学士助手となる。当時の丸山は左翼学生であり、日本の伝統思想に興味がなく、西洋政治思想史を志していた[10]。しかし、新設予定の「東洋政治思想史」講座(1939年文部省が国体学のため新設するが、南原によって客観的研究のため運営される)に所属させることを南原が企図したため、丸山は不服ながら日本政治思想史を研究することになる[10]。
1940年、助教授になるための「助手論文」として「近世儒教の発展に於ける徂徠学の特質並にその国学との関連」を発表[10]。同論文は『国家学会雑誌』に掲載された[10]。助教授になると、同講座で講義しつつ「近世日本政治思想における「自然」と「作為」」、「国民主義理論の形成」(書籍では「国民主義の「前期的」形成」に改題)などの論文を同誌に発表する。「国民主義理論の形成」は、召集令状により出征する日の朝に、新宿駅で同僚の辻清明に原稿を手渡したとされる[1]。その後、過酷な従軍生活、広島での被爆、終戦、復員、教授就任を経て、1952年にこれら3篇を書籍にまとめ、東京大学出版会から刊行した。
本書の内容は、戦中の時局を暗に反映している[11]。例えば、本居宣長は戦中体制側に礼賛されていたが、丸山はその中であえて宣長の反体制(反幕府)的側面を強調した[11]。
1974年には英訳が刊行された[12]。1983年の新装版には、英訳への序文の日本語版が収録されている[12]。
晩年の丸山は、自身の業績のうち『現代政治の思想と行動』などの現代政治学を「夜店」と称し、本書などの思想史学を「本店」と称していた[13]。
受容・批判
[編集]本書は、刊行当時は若手研究者による先鋭的な著作だったが、有名になるにつれ、分野の教科書的・権威的な著作として読まれるようになった[14]。(似た例として、中国思想史学の島田虔次の李贄研究や、日本中世史学の黒田俊雄の権門体制・顕密体制論がある[14]。)
本書は様々な観点から批判されている[15]。なかでも、尾藤正英『日本封建思想史研究』(1961年)や、渡辺浩『近世日本社会と宋学』(1985年、新装版2010年)は、朱子学が官学化した時期は、丸山の言うような近世初期の林羅山以降ではなく、近世後期の寛政異学の禁以降である、という旨の批判をした[15][16][17]。このことは、津田左右吉が『文学に現はれたる我が国民思想の研究 武士文学の時代』(1917年)で丸山より前に既に論じていた[15][12]。丸山自身も1974年の英訳への序文で、官学化の時期について訂正している[12][17]。
書誌情報
[編集]- 『日本政治思想史研究』
- 初版: 『日本政治思想史研究』東京大学出版会、1952年。NDLJP:2981116
- 新装版:『日本政治思想史研究』東京大学出版会、1983年。NDLJP:11925054、ISBN 9784130300056
- 翻訳
- 英訳: Studies in the Intellectual History of Tokugawa Japan, trans. by Mikiso Hane, University of Tokyo Press, 1974. ISBN 9784130270083
- 繁体中国語訳: 《日本政治思想史研究》徐白; 包滄瀾訳, 台湾商務印書館、1980年
- 簡体中国語訳: 《日本政治思想史研究》王中江訳, 三聯書店, 2000年. ISBN 9787108013286
- その他、フランス語訳、韓国語訳がある[3]。
- 『丸山眞男集』第1-2巻、岩波書店、初版1996年、度々復刊。
参考文献
[編集]- 桂島宣弘『思想史研究との出会い』大学生協京都奈良地域センター読書カフェ、2009年 。
- 苅部直『丸山真男 リベラリストの肖像』岩波書店〈岩波新書〉、2006年。ISBN 9784004310129。
- 苅部直『日本思想史への道案内』NTT出版、2017年。ISBN 9784757143500。
- 苅部直 著「丸山眞男」、日本思想史事典編集委員会 編『日本思想史事典』丸善出版、2020年、666f頁。ISBN 978-4621304587。
- 河野有理「近代日本政治思想史にとって儒教とは何か : 儒学的「政体」論と歴史叙述」『日本儒教学会報』第1号、日本儒教学会、2017年。 NAID 40022241050 。
- 土田健次郎「日本における宋明思想研究の動向」『日本思想史学』第37号、日本思想史学会、2005年。 NAID 40007192203 。
- 土田健次郎『江戸の朱子学』筑摩書房〈筑摩選書〉、2014年。ISBN 978-4480015907。
関連文献
[編集]- 橘川俊忠『丸山眞男「日本政治思想史研究」を読む』日本評論社、2016年。ISBN 9784535586635。
脚注
[編集]- ^ a b “【70年を読む】丸山眞男『日本政治思想史研究』|〈解題〉宇野重規|東京大学出版会”. note(ノート) (2021年2月26日). 2023年7月5日閲覧。
- ^ 『日本政治思想史研究』 - コトバンク
- ^ a b c 桂島 2009, p. 2.
- ^ a b 土田 2014, p. 84.
- ^ a b c d 土田 2014, p. 85-87.
- ^ 苅部 2006, p. 99.
- ^ 苅部 2020, p. 666.
- ^ 土田 2014, p. 105.
- ^ a b c d 苅部 2006, p. 98ff.
- ^ a b c d 苅部 2006, p. 91-96.
- ^ a b 苅部 2006, p. 96.
- ^ a b c d 苅部 2017, p. 153.
- ^ “政治とは悪さ加減の選択―丸山眞男『政治の世界 他十篇』(岩波文庫):橋本五郎 | 政治的なるものとは~思索のための1冊 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト”. 新潮社 Foresight(フォーサイト). 2023年7月5日閲覧。
- ^ a b 土田 2005, p. 81;88.
- ^ a b c 河野 2017, p. 12.
- ^ 苅部 2017, p. 134.
- ^ a b 土田 2014, p. 88.