新生児敗血症
新生児敗血症(しんせいじはいけつしょう)とは、新生児に生じる敗血症のこと。未熟児や何らかの先天性疾患・基礎疾患を有していると罹患リスクが高くなる。
解説
[編集]新生児(小児を含む)の敗血症性ショックを含む急性臓器不全を伴う敗血症症状は重篤であり、新生児集中治療室(NICU)での集中治療管理を必要とする深刻な状態にあることが多い。1980年代日本での救命率は 20% 程度であったと報告されている[1]。急性腎不全を伴う症例では死亡率が上昇すると報告されている。
新生児敗血症は、菌血症または細菌性髄膜炎を呈するもので、早発型新生児敗血症 Early-onset sepsis (EOS) と遅発型新生児敗血症 Late-onset sepsis (LOS) の 2 つのカテゴリーに分けられる。早発型新生児敗血症は出生後 72時間以内または 7日以内の発症を指し、遅発型新生児敗血症はそれ以降の発症を指す[2]。
定義
[編集]成人の敗血症に関する診断基準は作成されている[3]が、小児に関する敗血症知見の蓄積が少なく2017年時点では統一された診断基準は作成されていない[4]。2005年にGoldsteinらが作成した「小児SIRS診断基準」が使用されている[4]。
齢 | 頻脈 | 徐脈 | 呼吸回数 | 白血球数 × 1000 | 収縮期血圧 |
---|---|---|---|---|---|
0日-1週 | > 180 | < 100 | > 50 | > 34 | < 65 |
1週-1月 | > 180 | < 100 | > 40 | > 19.5 or < 5 | < 75 |
1月-1歳 | > 180 | < 90 | > 34 | > 17.5 or < 5 | < 100 |
2-5歳 | > 140 | - | > 22 | > 15.5 or < 6 | < 94 |
6-12歳 | > 130 | - | > 18 | > 13.5 or < 4.5 | < 105 |
13-17歳 | > 110 | - | > 14 | > 11 or < 4.5 | < 117 |
なお、収縮期血圧はこの表の範囲に限らない場合もある。
- 心血管系
- 1時間で40ml/kg以上の輸液にもかかわらず、
のうちの2項目
- 呼吸器系
-
- P/F比 < 300
- PaCO2 > 65 Torr か基準値から20 Torr の増加
- SpO2 92%以上を維持するのに FIO2 > 0.5
- 気管挿管を伴う人工呼吸、あるいは非侵襲的陽圧呼吸が必要
- 神経系
-
- グラスゴー昏睡尺度 11以下
- 意識状態の急性の変化(グラスゴー昏睡尺度 3以上の減少)
- 凝固系
-
- 血小板数 8万未満か過去 3日間の最高値から 50%の減少
- PT-INR > 2
- 腎臓系
-
- 血清クレアチニンが年齢の正常上限の2倍以上か通常よりクレアチニンが2倍増加
- 肝臓系
-
- 総ビリルビンが4mg/dL以上
- ALTが年齢の正常上限より2倍
原因病原体
[編集]さまざまであるが、髄膜炎菌[6]やB群溶血性連鎖球菌、緑膿菌[1]、黄色ブドウ球菌[1]、大腸菌などである。細菌以外では、ウイルス、真菌、リケッチア、クラミジアなども病原体となる[7]。
感染経路
[編集]胎盤を経由した母体内での垂直感染や、分娩の際に新生児に感染し血中で増殖する。
症状
[編集]特徴的な症状は無く、急激な体温上昇、顔色、皮膚の色、哺乳力の異常、無呼吸[8]など。点状出血、電撃性紫斑などの敗血症の症状が現れる事もある。
治療
[編集]新生児における、細菌性髄膜炎の起炎菌未確定時の初期選択薬としては、アンピシリンとセフォタキシムの投与が推奨されている[9]。これは、起炎菌としてB群連鎖球菌(GBS)と大腸菌の頻度が高いこと、さらにまれではあるがリステリア菌がみられるためである。起炎菌判明後は、GBSに対してはアンピシリン、肺炎球菌(薬剤耐性化が進んでいる)に対してはパニペネム・ベタミプロン単剤またはバンコマイシンとの併用、ブドウ球菌に対しては薬剤耐性を考慮してバンコマイシン、大腸菌に対してはセフォタキシムまたはカルバペネム系抗菌薬(メロペネムまたはパニペネム・ベタミプロン)が推奨されている。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c 藤井良知、西村忠史、小児敗血症の現況 (1980~1984) 感染症学雑誌 60巻 (1986) 2号 p.167-175, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.60.167
- ^ Simonsen, Kari A (2014 Jan). “Early-onset neonatal sepsis”. Clinical microbiology reviews 27: 21-47. doi:10.1128/CMR.00031-13. PMID 24396135.
- ^ 日本版敗血症診療ガイドライン 2016 日本救急医学会 (PDF)
- ^ a b 日本版敗血症診療ガイドライン2016 CQ19 小児 (PDF) , doi:10.1002/jja2.S0022
- ^ 日本集中治療医学会小児集中治療委員会.日本での小児重症敗血症診療に関する合意意見.日集中医誌2014;21:67-88.
- ^ 髄膜炎菌性髄膜炎とは 国立感染症研究所
- ^ 日本集中治療医学会小児集中治療委員会、日本での小児重症敗血症診療に関する合意意見 日本集中治療医学会雑誌 21巻 (2014) 1号 p.67-88, doi:10.3918/jsicm.21.67
- ^ 岡崎実、和田靖之、若杉宏明 ほか、最近10年間に経験した小児敗血症56例の臨床的検討 感染症学雑誌 61巻 (1987) 11号 p.1276-1284 , doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.61.1276
- ^ “細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014”. 2021年8月10日閲覧。
- ^ 小児・新生児におけるエンドトキシン除去療法ガイドライン (PDF) 日本未熟児新生児学会雑誌 第22巻 第2号 73〜75頁(2010年)
外部リンク
[編集]- B群レンサ球菌(GBS)感染症について 横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課
- 砂川慶介、横田隆夫、新田靖子、未熟児・新生児感染症の中のMRSA 日本内科学会雑誌 81巻 (1992) 10号 p.1646-1651, doi:10.2169/naika.81.1646