排水 (道路)
本項目では道路での排水(道路排水)について述べる。道路において排水は建設・維持管理の上で極めて重要な要素であり、降雨や地下水により道路の弱化・崩壊の防止や降雨後の滞水(水たまりなど)による走行性低下の防止のためには排水が欠かせない[1]。降雨や地下水のいずれにおいても、現地の自然や地形に応じて適切な調査・設計を行い排水を行わなければならない[1]。
種類
[編集]道路における排水は以下の種類がある。排水の種類に応じて、側溝など排水施設の工種選択や配置計画を行う[2]。いずれも水の自然流下を利用して排水を行う[3]。
- 表面排水 - 降雨や降雪で生じた路面や道路隣接地からの表面水の排除する[4]。
- 路面排水 - 降雨や降雪で生じる路面の滞水を防止する[4]。主に側溝や排水桝、マンホールなどを配置して排水する[5]。
- 法面排水 - 盛土や切土、自然斜面などを流下する水や、法面から湧出する水の排除する[4]。水により法面の浸食や安定性を低下するため、これを防ぐ[4]。法肩排水施設・縦排水施設・小段排水施設・法尻排水施設などの排水施設がある[5]。
- 道路横断排水 - 道路が水路や渓流などと交差する場合や、降雨や降雪で生じた道路隣接地からの表面水をカルバートなどの道路を横断する構造物により排除する[4]
- 地下排水 - 地下水位の低下させ、路面や法面などから浸透する水や路床から上昇してきた水を遮断・除去する[4]。
- 構造物の排水 - 構造物で発生した水を除去する。具体的には構造物(カルバートや橋台など)の裏込め部の湛水や構造物内部での漏水、降雨や降雪により生じた表面水などが除去の対象となる[4]。
目的
[編集]排水の目的は以下の3種類に大別される[6]。
- 降雨・融雪・地表水・地下水によって道路に流入する地表水・地下水を排除し、道路土工や舗装の弱化・崩壊を防止する。
- 路面に滞水することで交通の停滞や車両のスリップを抑止する。
- 施工時のトラフィカビリティの確保や盛土材の施工含水比の低下を促す。工事施工前の準備排水や施工中の仮設・応急的な排水工となることが多いため軽視される傾向がこれまであったが、施工時の環境保全や災害防止の観点で重要なものになりつつある[7]。
計画
[編集]いかなる降雨に対しても完全に排水できるようにすることは経済面で合理性があるとは言えず、実際の排水施設の能力を決定するにあたっては道路の種類・規格・交通量・沿道状況などから決定する[8]。確率雨量年や安全率の取り方によって設計の規模が大きく変わってくるため、費用や安全の面からバランスを取って計画・設計を行う[9]。路面冠水しやすい場所では必要に応じて余裕を持たせることが望ましく、特にアンダーパスでは冠水を知らせる警報装置を設置することを検討する[10]。特に地下水は施工時に初めて判明することがあるので、この場合は排水施設の追加や配置変更などを適宜行う[11]。
道路の排水を計画するにあたっては、集水域を含む原地形での地表水や地下水の流動を把握した上で、構造物や将来の開発による流況を考慮する[11]。その際、盛土・切土・トンネル・橋梁などをそれぞれ単体で考えるのではなく、路線上で一体として排水計画を行う[11]。また、林道では雨水のほか、土石・落葉・枝条・流木などの堆積物が流下も踏まえて計画を行う[12]。
1か所に多量の雨水を集中させず、また排水の流末となる河川・排水路・下水道などへの流入方法や受容容量なども考えなければならない[13]。受容容量が不足する場合や特定都市河川浸水被害対策法の定める条件によっては雨水貯留浸透施設を設置する必要がある[14]。適切な流末処理を行わないために市街地での浸水や山間部で斜面崩壊・土石流が引き起こされている事例が見られる[14]。
排水需要の推定
[編集]排水施設の計画でその能力を決定するにあたり雨水流出量を把握しなければならない[15]。雨水流出量を推定する場合は合理式(ラショナル式)より算出するのが望ましい[16]。
<Q:雨水の流出量(m3/s)、C:流出係数、I:流達時間内の降雨強度(mm/h)、a:集水面積(m2)>
ここで、C:流出係数は降雨や地域の特性により異なる値となるため一義的に定めにくく、機関などによって様々な値が用いられている[17]。ただし、一般に路面や法面に対しては0.7 - 1.0程度の値が用いられていることが多い[17]。
また、I:流達時間内の降雨強度を推定するにあたって一般に使用されているのは以下のタルボット式である[18]。
<I:流達時間内の降雨強度(mm/h)、a・b:対象とする地域によって異なる定数、t:降雨継続時間(min)>
aやbは既に自治体等の下水道部局で降雨強度式が作成されていることが多いのでその資料を活用してもよい[19]。
路面排水など流達時間が極めて短い場合で道路上の排水桝などを数多く設計しなければならない場合は標準降雨強度が用いることができる[20]。日本国内では60 - 130 mm/hの範囲で標準降雨強度が設定されている[21]。
計画中の排水施設が排水可能な量は平均流速と通水断面積の積から求められる[9]。
<Qmax:施設内最大流量(m3)、a:通水断面積(m2、V:排水施設を流れる水の平均流速(m/s)>
<V:平均流速、n:粗度係数、R:径深(m)、I:水面勾配>
この時、安全率fsがQmax/Q>1以上となるように排水施設を設計する[9]。
排水施設
[編集]路面排水
[編集]路面排水を行うための施設(路面排水工)は、一般に路面上の降雨や降雪で発生した水を路面上の勾配(横断勾配・縦断勾配)により路側の側溝に集水させてから、自然流下によって排水桝・取付管・排水管・マンホールを経由して下水管へ導く[22]。排水性舗装により水を舗装の排水機能層に浸透させ、不透水層上を流下させて側溝や導水管を経由して集水桝に集水させることもある[23]。排水性舗装を用いることで高速道路上ではハイドロプレーニング現象が起こりづらくなっている[24]。
路面上の水を側溝に導くための横断勾配は一般に道路構造令の下ではコンクリート舗装・アスファルト舗装では1.5 - 2.0 %、その他の路面では3 - 5 %が標準である[23]。なお、歩道では植樹帯が連続する場合はその植樹帯に水を流入させるなどして歩道に滞水しないようにする[25]。縦断勾配は急なほど水の下流への流達時間が短くなるが、急にしすぎると排水桝で処理できなくなるおそれがある[25]。素掘りの側溝は側面や底面が浸食されやすくなり排水施設や道路本体の損壊に繋がるおそれがあり[26]、工事中のみの仮の形態として用いることが多い[27]。恒常的に排水施設として側溝を用いる場合はコンクリート製の側溝が好ましく[26]、実際に日本国内ではコンクリート製側溝が最も広く使われている[27]。
法面排水
[編集]法面排水を行うための施設(法面排水工)は法面を流下する表面水や法面から浸出する浸透水を排除するための施設[28]で、前者には法肩排水溝・縦排水溝・小段排水溝などの法面排水工を設置し[29]、後者は蛇篭・地下排水溝・水平排水層・水平排水孔などを設置する[30]。
道路横断排水
[編集]渓流や沢地などを横断する盛土で、山腹側に土砂が不安定に堆積する場合は盛土の内部に横断排水路を設けることで水を下流に導き土砂が道路に流れ込まないようにしなければならない[31]。この時に道路横断排水路が用いられるが、ボックスカルバートの場合は下流側が流水で洗堀されやすいので適切な処置を施す必要がある[31]。
地下排水
[編集]原地盤で地下水位が高い場合は地盤からの浸透水や凍上によって路床・路盤の軟弱化や舗装の損傷が起こりえるため、これらを防ぐために流入してくる水を遮断・排除するための施設(地下排水工)が設置される[32]。地下排水のための排水施設は路側の地下排水溝や遮断排水層などがある[33]。地下排水溝は地下水の多い地域での路床や路盤を対象に行うもので、路面から1.0 - 2.0 m程度の深さに設置されることが多い[34]。地下水が特に多い地域では地下排水溝のみでは不十分なため、路床と路盤の内部や境界に水平な遮断排水層を設け、浸透流を地下排水溝に流す[33]。
構造物の排水
[編集]構造物の背面での雨水・地下水などの滞水や構造物の内部での漏水が起こると、構造物の安全性低下や破損に繋がる[35]。また、路面に滞水すると走行を害し美観上も好ましくないなどの弊害が生じる[35]。
橋梁
[編集]車両の走行安全性の確保をするために橋面の排水は避けなければならず、また維持管理する上でも腐食を防ぐために排水は重要である[36]。
橋面の横断勾配は1.5 - 2.0%を標準に設けられ、縦断勾配の関係で橋面に凹部ができる場合は滞水を防ぐため必ず排水桝を設けなければならない[36]。
鋼構造などで作られた箱桁・ラーメン橋脚・トラスなどの閉断面では添接箇所で雨水が浸入して内部に滞水することがあるので、滞水による腐食が起きないように水抜き孔により完全に排水できるような構造にしなければならない[36]。
床版上面に浸入した雨水などが滞留することで防水層とアスファルト舗装下層のはく離、その他舗装や床版への悪影響を及ぼす[36]。そのため、滞水しやすい場所に排水桝を設けるほか、必要に応じて輪荷重の影響が小さい場所に水抜き孔を設けるなどして速やかに排水できるようにしなければならない[36]。そのほか、耐久性の高い防水層を新設することも橋梁の老朽化に対する有効な手段となっている[37]。
排水桝から排水箇所までは排水管で導水されている[38]。排水管は鋼製や塩化ビニル製が一般的である[38]。ごみの詰まりを防ぐため円形(内径150 mm以上)とし、急激な屈曲を設けないのが望ましい[36]。
トンネル
[編集]トンネルでの地山からの湧水、湧水からトンネル内部に漏出する漏水、外部からの持込水、洗浄水、消火水は排水しなければならない[39]。トンネルでの排水を行う施設(トンネル排水工)には裏面排水工・横断排水工・中央排水工・路側排水工がある[40]。
トンネルの吹き付けコンクリート面から湧水が多い場合は裏面排水工を設ける[41]。有孔の高密度ポリエチレン管のパイプや合成樹脂製のフィルターマットによる集水し、中央排水工に導水する[42]。
横断排水工は一般的に30 - 50 m間隔で設置するが、湧水量が多いと予想される場合は設置間隔を縮める[43]。材料としては有孔のポリエチレン管やヒューム管を用いるが、歩道部で上載荷重が小さい場合は塩化ビニル管と使い分けている例もある[43]。
中央排水工により湧水をトンネル外部に導くもので、トンネル完成後に予想される湧水量に応じて断面の大きさを決定する[43]。一般に供用開始後の清掃や点検が困難なため、余裕を十分に持たせた断面が望ましい[43]。中央排水工の材料は有孔の高密度ポリエチレン管やヒューム管を用いる[43]。トンネル下部にインバートを設ける場合は地山の膨圧による破損を防ぐためインバートより上部に設けるのが望ましい[43]。
路側排水工は一般的にU字側溝や円形側溝により行われるが、トンネル延長が短く漏水量が少ない場合はL型側溝のみで排水を行うこともある[43]。また、トンネル内にも排水桝を設け、清掃方法に応じて桝の間隔を調整する[43]。
都市部の道路トンネルは特に周囲の地形より低い位置に路面が設けられることが多く、強制排水を行う必要がある区間が大部分である[35]。明かり部の路面排水工に加え、ポンプも排水工として設置されるようになる[35]。トンネル出入口付近では雨水の吸込や車両の持込水などが集中するため排水桝の間隔は狭くなる[44]。ポンプ場は車道の外に設置することが望ましく、やむを得ず車道部に設置する場合もできる限り交通の支障にならない場所を選定する[45]。換気ダクトが設けられる場合はこれを利用し、設けられない場合は排水用ダクトを設置する[45]。
維持管理
[編集]路面や法面の破損は排水の不良に起因することが多いため、排水施設の維持管理は道路を正常に保つためには非常に重要である[46]。定期的に点検を行い、破損やその誘因となる事象を早期に発見し、支障があれば適切な補修・補強対策を行う必要がある[46]。
排水溝は土砂や落葉などで閉塞すると、排水不良によって越流を起こし、その水が法面や斜面などに浸透して安定性が失われる[46]。そのため、計画的に排水溝の点検や清掃を行う必要がある[46]。また、排水溝側壁の倒れや継目の隙間を見つけた場合は早急に補修する[46]。
法面の湿り、湧水、はらみ出しなどが確認された場合はその挙動を観測し、必要に応じて水抜き孔や蛇篭を設置するなどの対策を行う必要がある[46]。
橋梁
[編集]橋梁に設けられた排水管は橋本体と比べて材料的・構造的にも耐久性に劣ることが多く、定期的に点検する必要がある[47]。排水管が損傷したまま放置されることは橋面排水が適切に行われず橋桁や下部構造を劣化させる原因となるため、特に凍結防止剤を散布する寒冷地では速やかな補修が必要である[48]。
脚注
[編集]- ^ a b 日本道路協会 2009, p. 100.
- ^ 日本道路協会 2009, pp. 101–102.
- ^ 巻上安爾 et al. 2002, p. 132.
- ^ a b c d e f g 日本道路協会 2009, p. 101.
- ^ a b 日本道路協会 2009, p. 103.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 107.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 110.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 110-111.
- ^ a b c d 鈴木保志 2021, p. 107.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 111.
- ^ a b c 日本道路協会 2009, p. 112.
- ^ 鈴木保志 2021, p. 106.
- ^ 日本道路協会 2009, pp. 112–113.
- ^ a b 日本道路協会 2009, p. 114.
- ^ 巻上安爾 et al. 2002, p. 134.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 135.
- ^ a b 日本道路協会 2009, p. 133.
- ^ 日本道路協会 2009, pp. 128–129.
- ^ 巻上安爾 et al. 2002, p. 135.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 129.
- ^ “路面排水工等に用いる標準降雨強度(3年確率10 分間降雨強度)”. 日本道路協会. 2024年10月5日閲覧。
- ^ 日本道路協会 2009, p. 137.
- ^ a b 日本道路協会 2009, p. 138.
- ^ 中日本高速道路 2019, p. 42.
- ^ a b 日本道路協会 2009, p. 139.
- ^ a b 鈴木保志 2021, p. 108.
- ^ a b 巻上安爾 et al. 2002, p. 138.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 161.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 162.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 163.
- ^ a b 土木工法事典編集委員会 2015, p. 149.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 164.
- ^ a b 巻上安爾 et al. 2002, p. 139.
- ^ 巻上安爾 et al. 2002, pp. 138–139.
- ^ a b c d 日本道路協会 2009, p. 167.
- ^ a b c d e f 日本道路協会 2017, p. 188.
- ^ 中日本高速道路 2019, p. 53.
- ^ a b 窪田陽一 et al. 2013, p. 136.
- ^ 日本道路協会 2003, p. 132.
- ^ 日本道路協会 2003, p. 134.
- ^ 日本道路協会 2003, p. 135.
- ^ 日本道路協会 2003, pp. 135–136.
- ^ a b c d e f g h 日本道路協会 2003, p. 136.
- ^ 日本道路協会 2009, p. 169.
- ^ a b 日本道路協会 2009, p. 168.
- ^ a b c d e f 窪田陽一 et al. 2013, p. 110.
- ^ 日本道路協会 2017, p. 189.
- ^ 窪田陽一 et al. 2013, pp. 136–137.
参考文献
[編集]- 日本道路協会『道路トンネル技術基準(構造編)・同解説』丸善出版、2003年12月。ISBN 978-4-88950-508-5。
- 巻上安爾、福本武明、荻野正嗣、塚口博司『道路工学』(5版)理工図書、2002年2月15日。ISBN 4-8446-0428-7。
- 日本道路協会『道路土工要綱』丸善出版、2009年6月30日。ISBN 978-4-88950-414-9。
- 窪田陽一、二木隆、松坂敏博、鈴木輝一、北本幸義、本間淳史、横澤圭一郎『道路保全が一番わかる』技術評論社〈しくみ図解シリーズ〉、2013年12月25日。ISBN 978-4-7741-6117-4。
- 土木工法事典編集委員会『土木工法事典』(第6版)ガイアブックス、2015年5月1日。ISBN 978-4-88282-947-8。
- 日本道路協会『道路橋示方書(I共通編)・同解説』丸善出版、2017年11月22日。ISBN 978-4-88950-279-4。
- 中日本高速道路『図鑑 わたしたちの高速道路』(初版)中日本高速道路、2019年11月25日。
- 鈴木保志『森林土木学』(第2版)朝倉書店、2021年4月5日。ISBN 978-4-254-47058-1。