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持効性注射剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
抗精神病薬の持効性注射剤であるリスパダール・コンスタ
筋注テストステロンデポのバイアル
筋注テストステロンの持効性注射剤のバイアル

持効性注射剤(じこうせいちゅうしゃざい、: long-acting injectable(LAI) 、: Depot injection、デポ剤)は、薬剤を徐放性に設計した注射製剤のこと[1]。持効性注射剤の導入により投薬の頻度を減らすことが可能となる。持効性注射剤は、特に薬を飲み忘れやすい患者の服薬アドヒアランスの向上や治療の一貫性を高める目的で設計されている。プロドラッグのように薬剤分子自体を改変する方法や、油性・脂質懸濁液などの投与方法を変更することで製剤化される。作用が1か月以上持続する場合があり、抗精神病薬ホルモン剤など多くの種類の薬剤で利用可能である[2]

目的

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持効性注射剤は、血液中に徐々に吸収されることによって薬剤の作用期間を延長する。通常、筋肉注射皮内注射、または皮下注射として投与される。投与された薬剤は、血流に徐々に放出される。この製剤は薬の飲み忘れが懸念される患者に使用されることがある。しかし、一部の医師や患者の間では、持効性注射剤の使用を強制投与とみなされる場合もあり、そのため使用に反対する意見もある[3]

メカニズム

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薬剤は、体内で徐々に活性化されるよう設計されるか、または徐々に吸収されるよう設計される。多くの場合、薬剤は有機油に溶解される。この場合、薬剤は脂溶性を持ち、デカン酸などの官能基を追加することで緩やかな作用を提供する[4]。油性基剤との組み合わせにより、薬剤の完全な放出が抑えられ、作用期間が2 - 4週間、またはそれ以上に延びる場合がある[4][5]

抗精神病薬の場合は、薬剤の薬物動態学(吸収および活性化)の改変は、副作用プロファイルを変更しないため、非定型抗精神病薬が依然として定型抗精神病薬よりも好まれる[5]

発見

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最初に開発された持効性注射剤は抗精神病薬フルフェナジンであり、1966年にエナント酸フルフェナジンが誕生し、1968年にはデカン酸フルフェナジンが登場した[4][6]。持効性注射剤の概念は1950年以前から登場し、当初は抗生物質の注射製剤として投与頻度を減らす目的で使用されていた[7]

薬物動態

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持効性注射座は、一般に2 - 4週間の作用期間を持つよう設計されるが[8]、製剤の種類により薬物動態は異なる場合がある。薬剤自体を改変(例:官能基の付加)するか、製剤を変更(例:油性またはマイクロスフィア調製)することで、吸収および代謝に影響を与えることができる[8]。持効性注射剤を繰り返し投与することで、薬剤の半減期が1か月以上になることがある(例:フルフェナジンの一部の製剤)。ただし、患者によって変動する場合がある[9]

ホルモンの持効性注射剤の例として、エストラジオールの作用期間は1週間から1か月以上に及ぶ場合がある[10]

利用

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持効性注射剤は多くの定型抗精神病薬および非定型抗精神病薬、一部のホルモン製剤やオピオイド使用障害治療薬として利用されている[11][12][13][3]。抗精神病薬の持効性注射剤は、統合失調症などの疾患を持つ患者の低い服薬アドヒアランスを改善するために使用される[11]。製品によっては医師や看護師が投与するものもあれば、患者が自己投与できるよう設計されているものもある[14]。自己投与可能な持効性注射剤は、特に発展途上国において、医療アクセスを拡大し、医師の受診頻度を減少させるために利用される[14]

インスリンも製剤によっては持効性注射剤とみなされる場合がある。例えば、インスリン グラルギンは注射後に沈殿し、通常インスリンよりも長期間にわたって体内に吸収されるよう設計されている[15]。持効性インスリンの研究では、体内の自然な基礎インスリン分泌を模倣するための技術開発が進められている[16]

用語

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日本神経精神薬理学会が編集している「統合失調症薬物治療ガイドライン」では持効性注射剤という用語が用いられている[1]。英語では以前は、デポ剤(Depot Injection)と呼ばれていた。初期のデポ剤は、主に油性基剤を用いた製剤が主流であったが、製剤技術が進化により、水性基剤やポリマーを利用した製剤も登場した。これに伴い、「デポ剤」という用語は、油性基剤を想起させることもあり、より包括的で技術の進化を反映したLAI(Long-Acting Injectable)という表現が主流となった。また、「デポ」という言葉が「貯め込む」というニュアンスを持つため、患者に不安感を与える可能性があることが指摘され、より中立的で柔らかい表現として「LAI」が使われるようになった[17]

持効性注射剤

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出典

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  1. ^ a b 「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」P55-P57 医学書院 2022年6月13日発行 ISBN 978-4260049870
  2. ^ デポ剤(持効性注射剤)とは | 製薬業界 用語辞典 | Answers(アンサーズ)”. 製薬業界の転職サイト Answers(アンサーズ). 株式会社 クイック. 2024年11月21日閲覧。
  3. ^ a b Lindenmayer, Jean-Pierre; Glick, Ira D.; Talreja, Hiteshkumar; Underriner, Michael (July 2020). “Persistent Barriers to the Use of Long-Acting Injectable Antipsychotics for the Treatment of Schizophrenia”. Journal of Clinical Psychopharmacology 40 (4): 346–349. doi:10.1097/JCP.0000000000001225. PMID 32639287. 
  4. ^ a b c Kennedy, WK (2012). “When and how to use long-acting injectable antipsychotics” (英語). Current Psychiatry 11 (8): 40–43. https://www.mdedge.com/psychiatry/article/64796/schizophrenia-other-psychotic-disorders/when-and-how-use-long-acting. 
  5. ^ a b Carpenter, J; Wong, KK (2018). “Long-acting injectable antipsychotics: What to do about missed doses” (英語). Current Psychiatry 17 (7): 10–12, 14–19, 56. https://www.mdedge.com/psychiatry/article/168776/schizophrenia-other-psychotic-disorders/long-acting-injectable. 
  6. ^ 持効性注射剤の歴史を振り返る|CareNet.com”. CareNet.com. CareNet,Inc (2015年2月19日). 2024年11月21日閲覧。
  7. ^ PRIEST, WS; SMITH, JM (1949). “Depot penicillin in the treatment of bacterial endocarditis.”. Quarterly Bulletin. Northwestern University (Evanston, Ill.). Medical School 23 (1): 90–92. PMC 3802847. PMID 18109791. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3802847/. 
  8. ^ a b Wright, Jeremy C.; Burgess, Diane J. (29 January 2012). Long acting injections and implants. Springer. p. 114. ISBN 978-1-4614-0554-2 
  9. ^ Curry, SH; Whelpton, R; Schepper, PJ; Vranckx, S; Schiff, AA (April 1979). “Kinetics of fluphenazine after fluphenazine dihydrochloride, enanthate and decanoate administration to man.”. British Journal of Clinical Pharmacology 7 (4): 325–331. doi:10.1111/j.1365-2125.1979.tb00941.x. PMC 1429660. PMID 444352. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1429660/. 
  10. ^ Driowo, M.A.; Landgren, B.-M.; Stenström, B.; Diczfalusy, E. (April 1980). “A comparison of the pharmacokinetic properties of three estradiol esters”. Contraception 21 (4): 415–424. doi:10.1016/S0010-7824(80)80018-7. PMID 7389356. 
  11. ^ a b Meyer, Jonathan M. (19 January 2018). “Converting oral to long-acting injectable antipsychotics: a guide for the perplexed”. CNS Spectrums 22 (S1): 14–28. doi:10.1017/S1092852917000840. PMID 29350127. 
  12. ^ Burke, Holly M.; Chen, Mario; Packer, Catherine; Fuchs, Rachael; Ngwira, Bagrey (May 2020). “Young Women's Experiences With Subcutaneous Depot Medroxyprogesterone Acetate: A Secondary Analysis of a One-Year Randomized Trial in Malawi”. Journal of Adolescent Health 67 (5): 700–707. doi:10.1016/j.jadohealth.2020.03.038. PMID 32389457. 
  13. ^ Zhou, Jia; Walker, Jennifer; Ackermann, Rose; Olsen, Karl; Hong, Justin K. Y.; Wang, Yan; Schwendeman, Steven P. (19 February 2020). “Effect of Manufacturing Variables and Raw Materials on the Composition-Equivalent PLGA Microspheres for 1-Month Controlled Release of Leuprolide”. Molecular Pharmaceutics 17 (5): 1502–1515. doi:10.1021/acs.molpharmaceut.9b01188. PMID 32074448. 
  14. ^ a b Burke, Holly M.; Packer, Catherine; Buluzi, Mercy; Healy, Elise; Ngwira, Bagrey (November 2018). “Client and provider experiences with self-administration of subcutaneous depot medroxyprogesterone acetate (DMPA-SC) in Malawi”. Contraception 98 (5): 405–410. doi:10.1016/j.contraception.2018.02.011. PMID 29706227. 
  15. ^ Lindauer, Klaus; Becker, Reinhard (1 January 2019). “Insulin depot absorption modeling and pharmacokinetic simulation with insulin glargine 300 U/mL”. International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics 57 (1): 1–10. doi:10.5414/CP203269. PMC 6298133. PMID 30369394. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6298133/. 
  16. ^ Jain, Piyush K.; Karunakaran, Dipu; Friedman, Simon H. (28 January 2013). “Construction of a Photoactivated Insulin Depot”. Angewandte Chemie International Edition 52 (5): 1404–1409. doi:10.1002/anie.201207264. PMID 23208858. 
  17. ^ Bosnac, P., & Castle, D. (2015)."Why are long-acting injectable antipsychotics still underused?"BJPsych Advances, 21(2), 98–105.DOI: 10.1192/apt.bp.114.013045 Published by: Cambridge University Press on behalf of the Royal College of Psychiatrists.