幼児バッカスをニンフに預けるメルクリウス
ロシア語: Меркурий передает Вакха нимфам на воспитание 英語: Mercury Takes Bacchus to be Brought up by Nymphs | |
作者 | ローラン・ド・ラ・イール |
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製作年 | 1638年 |
種類 | キャンバス、油彩 |
寸法 | 112.5 cm × 113 cm (44.3 in × 44 in) |
所蔵 | エルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク |
『幼児バッカスをニンフに預けるメルクリウス』(ようじバッカスをニンフにあずけるメルクリウス、露: Меркурий передает Вакха нимфам на воспитание、英: Mercury Takes Bacchus to be Brought up by Nymphs) は、17世紀のフランスの画家ローラン・ド・ラ・イールが1638年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である。主題は、オウィディウスの『変身物語』から採られている。元来、ピエール・クロザのコレクションにあった[1]が、1772年にロシアのエカチェリーナ2世に購入された[1]。現在、作品はサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に所蔵されている[1][2]。
作品
[編集]ローラン・ド・ラ・イールは同時代の主要なフランスの画家たちと異なり、生涯イタリアに行くことはなかった。しかし、当時フランスに流入していたヴェネツィア派の影響を受け、構図や光の扱い方を学んだ。ラ・イールの作品を特徴づけるのは、画面を満たす清澄な光および繊細極まりない線と色彩である[2]。彼は、古代建築のモティーフを風景の中に散りばめた神話画や宗教画を数多く残した。そのいずれにも、優しく女性的な画家の感受性がうかがわれるが、本作は画家のそうした特徴がはっきりと示された作品の1つである[2]。
この絵画は、17世紀に好んで採りあげられたオウィディウスの『変身物語』を出典としている。バッカスは、全能の神ユーピテルとテーベの女王セメレーの息子であった[1][2]。セメレーはユーピテルの真の姿を見たいと願ったため、彼は彼女のもとに稲妻として現れる。しかし、彼女は稲妻の炎で焼かれ、妊娠していた息子バッカスを早産してしまう。そこでユーピテルはバッカスを自身の太腿に縫い込み、やがて彼を産んだ[1]。ユーピテルは、メルクリウスにバッカスをニンフたちのもとへ連れていき、育ててもらうよう命じる[1][2]。画面に描かれているのは、メルクリウスがニンフたちを訪れる瞬間である[1]。
画面に見られる人物像の柔らかい造形、暖かい金色の光の描写、ベルベットのような陰はヴェネツィア派の影響を示唆する。しかし、同時に明快で均衡のとれた構図は、フランスの古典主義絵画にもはっきりと影響を受けている。かくして、ラ・イールは2つの流派の特質を結びつけ、個性的な様式を作り上げている[1]。
脚注
[編集]参考文献
[編集]- 五木寛之編著『NHK エルミタージュ美術館 2 ルネサンス・バロック・ロココ』、日本放送出版協会、1989年刊行 ISBN 4-14-008624-6