四相
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仏教における四相(しそう, catvari laksama)とは、因果関係のうちに成立する現象[1](有為法)が、現在の一瞬間のうちに呈する生(jati)、住(sthiti)、異(jara)、滅(anityata)の4つの相状(有為相;saṅkhāra-laksama)であるという説一切有部の主張[2][3][4]。「生住異滅」ともいう[5]。生・住・異・滅のそれぞれが、説一切有部の五位七十五法の一要素である[6]。
律蔵などの経典では、生は必ず滅に至る、という生者必滅が説かれていた[7]。これに対し、アビダンマッタ・サンガハおよび阿含経は、時間的な継続を考慮に入れ、生と滅のあいだに住を挿入し、生・住・滅の三相(さんぞう)を説いた[8][7]。のちに説一切有部[3]を含む中期以降の仏教で、生・住・異・滅の四相に展開する[7]。
生・住・異・滅の経過は、一刹那(せつな、梵: kṣaṇa、クシャナ)の間に起こる[9]。刹那は、インド仏教の数える最小の時間単位で、0.0133……秒に相当する[9]。生・住・異・滅の方向は一方的であり、逆はあり得ない[7]。
「生住異滅」の語は、転じて「生老病死」と類義に、人間が生まれ、成長し、老いて死ぬ意、または事物が生成変化して消滅する意に用いられることもある[5]。
内容
[編集]- 生(jati, しょう) - 生起する
- 住(sthiti, じゅう) - 生起した状態を保つ
- 異(jara, い)- 老化,老いること[4][10]。その状態が変異する
- 滅(anityata, めつ) - 消滅する, 無常[4]
これら四相もまた有為法であるために、生・住・異・滅のそれぞれにも生・住・異・滅が起こる[4][2]。すなわち以下の四随相(anulaksana)である[4]。
- 生生(jatijati)- 生の生
- 住住(sthiti sthiti)- 住の住
- 異異(jara-jara)- 老の老
- 滅滅(anityatanityata) - 滅の滅
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ 総合仏教大辞典 1988, p. 上巻80.
- ^ a b 那須 良彦「四随相と無限遡及の過失」『印度學佛教學研究』第54巻第2,号、2006年、1067-1063,1345,、NAID 130004027960。
- ^ a b c 櫻部・上山 2006, p. 310~311.
- ^ a b c d e f 村上真完「無常説と刹那滅説の基礎概念」『論集』第28巻、印度学宗教学会、2001年、1-24頁、NAID 120006938705。
- ^ a b 岩波仏教辞典 1989, p. 427.
- ^ 櫻部・中村 2002, p. 96.
- ^ a b c d 中村・三枝 2009, p. 177.
- ^ 上杉 宣明「パーリ仏教にみられる有為相をめぐる論争について」『印度學佛教學研究』第31巻第1号、1982年、NAID 130004024560。
- ^ a b 中村・三枝 2009, p. 178.
- ^ Thomas William Rhys Davids; William Stede (1921). Pali-English Dictionary. Motilal Banarsidass. pp. 279. ISBN 978-81-208-1144-7; Quote: "old age, decay (in a disparaging sense), decrepitude, wretched, miserable"
参考文献
[編集]- 中村元他『岩波仏教辞典』岩波書店、1989年。ISBN 4-00-080072-8。
- 総合仏教大辞典編集委員会(編)『総合仏教大辞典』法蔵館、1988年。
- 櫻部建、上山春平『存在の分析<アビダルマ>―仏教の思想〈2〉』角川書店〈角川ソフィア文庫〉、2006年。ISBN 4-04-198502-1。(初出:『仏教の思想』第2巻 角川書店、1969年)
- 中村元『龍樹』講談社学術文庫、2002年。ISBN 4-06-159548-2。
- 中村元、三枝充悳『バウッダ(佛教)』講談社学術文庫、2009年。ISBN 978-4-06-291973-9。