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和英語林集成

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『和英語林集成』
Japanese-English Dictionary; with an English and Japanese Index
言語 日本語英語
類型 和英辞典
編者・監修者 James Curtis Hepburn
出版地 横浜(日本の旗 日本
最初の版 初版
最初の出版日 1867年 (157年前) (1867)
基になった辞書日葡辞書
『英和・和英語彙』
派生辞書言海
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『和英語林集成』(わえいごりんしゅうせい)は、ジェームス・カーティス・ヘボンが編纂した、幕末から明治日本語英語で説明した辞典。日本最初の本格的な和英辞典[1]、当時の日本語を知り得る記録としても重要とされる[2]

特徴

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ヘボンは辞書編纂のほか、聖書翻訳にも尽力し、医療の普及や近代教育の確立にも貢献した[3]

『和英語林集成』は「和英の部」と「英和の部」からなり、後続の宣教師などの日本語習得の負担軽減を目的に編纂された[4][5]。このことはヘボンが、1864年11月28日付の書簡の中で、「辞書または資料的な助けなくしては、日本語を学ぶことがどんなに難しいか、私はもちろん、当地の宣教師ども一同もよく知っているのです」と述べていることから知れる[6]。また、『和英語林集成』について「望んでいるのは外国人ばかりでなく、日本人も等しく求めているからです」として、完成に対する神の加護を祈っている[7]

ヘボンは日常生活の中で、伝道、施療、読書などを通して、日常語を中心に日本語を幅広く採集して書き留めた[5][8]。ほとんどが口語的な表現である[9]。見出し語はアルファベット順ローマ字で排列されているが、片仮名漢字も示されており、品詞語義、用例、類義語が英語やローマ字による日本語で記されている[5][10]。西洋の視点から当時の日本語を分析し、日本語を英語で解説して、英語に日本語を対応させているのである[11]

多くの文献を参照していると考えられるが、定かなのは序文に記されている『日葡辞書』と『英和・和英語彙』である[4][5]。また、『雅俗幼学新書』などを参照していることも指摘されている[4][5]

初版は横浜とロンドンで1867年慶応3年)に発売されたが、近代化する日本の様相を捉えるべく増補を繰り返した[4]。再版は1872年(明治5年)の新政府成立に伴う語彙を加えて和英・英和辞典とし、1886年(明治19年)の第3版は、漢語が著しく増加した近代国家成立時期の日本語を写し取っている。こうして日本語全体に意識を払った辞典として展開していったことにより、国語辞典としての側面が整備されていくことにもなったので、日本語の変容の様相を具体的に把握することができる[4]

著名な「ヘボン式ローマ字」はこの辞書から生まれ、第3版で確定した。より正確には、羅馬字会が提案した綴りを下敷きに修正を施したのである[12][13]。チをchi、ツをtsuと表記し、b・m・pの前の「ん」音は m と表記するなど、音声学的な異なりを反映している[13]

序説には「いろは」と「五十音図」を載せているが、第3版では「イ・ヰ」はともに i、「オ・ヲ」はともに o で、「エ」がア行・ワ行に置かれて e とするのに対し、「ヱ」はヤ行に置かれて ye になっており[2]、その前に置かれた仮名の字形表では逆に「エ」を ye、「ヱ」を e としている。

各版

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『和英語林集成』は九版まで刊行されているが、大幅な改訂が施されたのは再版と三版であり、それ以降は大幅に手を加えていない[14]。なお、語数については、復刻版『和英語林集成 第三版』(講談社、のち講談社学術文庫)校訂を担当した松村明解説に基づく。

初版(1867年)
邦題「和英語林集成」、英語の題は「Japanese-English Dictionary; with an English and Japanese Index」。
横浜で発行されたものは、上海美華書館で印刷された。
見出し語数は20,772語
岸田吟香が助手として参加している[5][15]
再版(1872年)
邦題「和英語林集成」、英語の題は「Japanese-English and English-Japanese Dictionary」。
初版と同じく上海の美華書館で印刷された。
初版以降増えた日本語の新語を追加。見出し語数は22,949語。
奥野昌綱が助手として参加している[5]
三版(1886年)
邦題「改訂増補 和英・英和語林集成」、英語の題は「Japanese-English and English-Japanese Dictionary」。
この版で羅馬字会方式の綴り方(いわゆるヘボン式ローマ字)を採用した。
日本橋の丸善商社から発行された[16]
再び増えた日本語の新語を大量に追加。見出し語数35,618語。
高橋五郎が助手として参加している[5]

評価

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近代国語辞典の始まりは、1889年(明治22年)から1891年(明治24年)にかけて発行された大槻文彦の『言海』であるが[17]、『和英語林集成』はそれに先行する近代日本語辞書で、『言海』の語義記述に影響を与えている[18]。なお、金田一春彦は「『和英語林集成』はローマ字の見出しに片仮名表記と漢字表記を添え、品詞を明示し、英語による語釈を加えた上で、用例と同義語を記している。見出し語は二万あまり、当時の日本語を的確に語義記述している点で、国語辞典としても高く評価されている。これは広く受入れられて九版まで版を重ね、和独辞典や和仏辞典だけでなく、近代的国語辞典にも大きな影響を与えた」としている[19]

『和英語林集成』は明治のベストセラー辞書であった。このことは数年おきに刊行されていることが、その需要の高さを物語っているといえる[14]和英辞典として英語学習にも利用され、第三版の予約部数は18,000部であり、ポケット版も発行されて明治末まで使われた。なお、英語学習者用和英辞典の登場は1909年(明治42年)井上十吉『新訳和英辞典』(三省堂)である。[要出典]

複製・復刻

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  • 復刻版『和英語林集成 第三版』[注 1]松村明解説、講談社、1974年、新版1984年
  • 『美國平文先生編譯 和英語林集成』[注 2]丸善雄松堂、2013年。第一版の復刻版
  • 木村一・鈴木進編 『J.C.ヘボン和英語林集成手稿:翻字・索引・解題』 三省堂、2013年5月

脚注

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注釈

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  1. ^ 『和英語林集成 第三版 訳語総索引』(山口豊編、武蔵野書院、1997年)がある。
  2. ^ 『和英語林集成 初版 訳語総索引』(飛田良文・菊地悟編、笠間書院「笠間索引叢刊」、1996年)がある。

出典

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  1. ^ 日本辞書辞典 (1996), pp. 275–277.
  2. ^ a b 沖森卓也 (2023), pp. 158–159.
  3. ^ 木村一 (2016), p. 76.
  4. ^ a b c d e 木村一 (2015), p. 81.
  5. ^ a b c d e f g h 木村一 (2016), p. 78.
  6. ^ 山東功 (2013), pp. 176–177.
  7. ^ 山東功 (2013), p. 177.
  8. ^ 木村一 (2015), p. 80.
  9. ^ 木村一 (2015), p. 91.
  10. ^ 木村一 (2015), pp. 83–84.
  11. ^ 木村一 (2015), p. 88.
  12. ^ 木村一 (2015), p. 85.
  13. ^ a b 木村一 (2016), p. 79.
  14. ^ a b 木村一 (2015), p. 82.
  15. ^ 町田忍 (1997), p. 6.
  16. ^ 岩堀行宏 (1995), p. 285.
  17. ^ 湯浅茂雄 (2016), pp. 90–91.
  18. ^ 一関市博物館 (2011), p. 58(犬飼守薫「辞書作りにかけた生涯:大槻文彦の比類なき業績」)
  19. ^ 金田一春彦 (1996), pp. 19–21.

参考文献

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図書
  • 一関市博物館 編『ことばの海:国語学者大槻文彦の足跡』一関市博物館、2011年7月。 
  • 沖森卓也 編『図説日本の辞書100冊』武蔵野書院、2023年9月。ISBN 978-4-8386-0660-3 
  • 沖森卓也・倉島節尚・加藤知己・牧野武則 編『日本辞書辞典』おうふう、1996年5月。ISBN 4-273-02890-5 
  • 岩堀行宏『英和・和英辞典の誕生:日欧言語文化交流史』図書出版社、1995年4月。ISBN 4-8099-0517-9 
  • 山東功『日本語の観察者たち:宣教師からお雇い外国人まで』岩波書店〈そうだったんだ!日本語〉、2013年10月。ISBN 978-4-00-028628-2 
  • 町田忍『仁丹は、ナゼ苦い?:明治・大正期の藥品廣告圖版集』ボランティア情報ネットワーク、1997年3月。 
論文
  • 金田一春彦 著「国語辞典の歩み」、辞典協会 編『日本の辞書の歩み』辞典協会、1996年4月。ISBN 4-915216-35-7 
  • 湯浅茂雄「大槻文彦」『日本語学』第35巻第4号、明治書院、2016年4月、88-91頁。 
  • 木村一「J・C・ヘボン『和英語林集成』」『悠久』第143号、おうふう、2015年11月、79-93頁。 
  • 木村一「ヘボン」『日本語学』第35巻第4号、明治書院、2016年4月、76-79頁。 

関連文献

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外部リンク

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