コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

利用者:Vio/ドラフト 1

タイムマシン (Time Machine) とは、時間空間と同じように航行し、未来や過去へ移動するための架空の乗り物や装置のことである。古くは「時間機械」あるいは「航時機」とも呼ばれたが、現在ではほとんど使われない。

機械的装置で時間を航行するタイムマシンという概念を作り出したのは小説家H・G・ウェルズで、名称は小説『タイム・マシン』に登場する機械に由来する。

時間旅行

[編集]

時間旅行を実現するタイムマシンの概念を最初に小説『タイム・マシン』で発表したのは、H・G・ウェルズである。しかし時間旅行タイムトラベル)の概念自体は、本作品の前に『アーサー王宮廷のヤンキー』(マーク・トゥエイン)など小説にも使われている。またそれ以前にも『リップ・ヴァン・ウィンクル』や『浦島太郎』などのおとぎ話にも魔法や不思議な現象として見ることができる。産業革命の影響を受けたウェルズは、時間も機械により移動可能な対象と解釈したことが本作品やタイムマシンが創出される背景となっている。この小説では未来への時間旅行を題材としたが、その後のSF作品では未来や過去への時間旅行を扱った作品が多く生み出されている。これらの作品にはタイムマシンを利用したもの以外に、超常現象によるタイムスリップのなどな意図しない時間旅行も含まれている。

作品の傾向として、未来への時間旅行は『タイムマシン』に代表されるような悲観的な未来社会が題材とされる場合が多い。これはウェルズの作品が当時のイギリスの階級問題や労働問題を未来社会に準えていたように、現代社会の問題点を未来に投影し描くことで現代に問題を提起する作家の意図が強いためである。

一方、過去へ時間旅行は現代と過去で繋がる問題や危機が頻繁に題材され、過去の改変により現代の事象も影響を受けるタイムパラドックスにより、歴史が書き換わった場合に訪れる危機や現代の悲観的状況を打開するドラマが多く描かれている。また不可逆的な時間を遡る現象の特性から、経験してきた時代をもう一度体験したい、生前の時代を垣間見たい、人生をやり直せたらとの読者の願望を反映したノスタルジックな内容の作品も少なくない。これらは歴史小説的側面を持つ作品もある。過去へ時間旅行は荒唐無稽になりがちな未来社会を扱った作品よりも、時代考証や史実によりリアルな描写が可能である事や、現代への影響が想像しやすく読者が感情移入しやすいため、未来への時間旅行を扱ったものよりも好まれる傾向にあり作品数も多い。

タイムパラドックス

[編集]

タイムパラドックス(Time Paradox / 時間の逆説)とはタイムマシンで時間旅行した場合に発生が想定される矛盾や変化のことである。具体的には時間旅行した過去で現代(相対的未来)に存在する事象を改変した場合、その事象における過去と現代の存在や状況、因果関係の不一致という逆説が生じる状態を示している。

SF作品の中においてタイムパラドックスは、歴史に関わる重大な出来事や危機、思考実験として頻繁に題材とされている。タイムパラドックスによる危機やその回避のサスペンス性、展開の意外性による面白さが時間を題材とするSFで多用される理由で、作品の醍醐味ともなっている。

タイムパラドックスの最も有名な例は親殺しのパラドックスと呼ばれるもので、過去へ遡った時間旅行者が自分の誕生前の両親を殺害した場合、本来生まれないはずの人間が親を殺害してしまう矛盾が生じるパラドックスである。現代に存在している事象の成立を過去で阻害するものとしては、過去に戻ってタイムマシンの発明を妨害する、過去の自分自身を殺すなどの類型がある。

矛盾が生じない場合でも、過去の改変が未来に与える影響を扱った作品も多い。これには些細な過去の改変がバタフライ効果的に連鎖しながら拡大波及し、未来の方向性を大きく変更してしまうとする立場と、些細な改変は一時的なゆらぎに過ぎず、その後は収束し未来の方向性に大きな影響を与えないとの立場がある。SF作家のポール・アンダースンは、歴史に大きく関わる人物の暗殺や史実の妨害など、未来社会に重大な影響を与える歴史の改変を防ぐための組織のアイデアを、オムニバス長編『タイムパトロール』(Gurdians of Time、1960年)で発表した。またこの小説では「歴史が改変可能であるならば、何をもって正しい歴史とするか」という疑問も提示されている。

タイムパラドックスの矛盾を説明するため、時間旅行者による歴史の改変で時間軸が分岐し元の世界と平行した世界が生まれるとするパラレルワールドの概念もある。またこの概念を発展させ、時間旅行者の介在がなくとも歴史上の重要なポイントで世界が枝分かれしていると解釈する立場もある。この概念を大幅に作品に取り入れた最初期の小説が、可能性として存在する二つの歴史ジョンバールとギロンチの抗争を描いた、ジャック・ウィリアムスンの『航時軍団』(The Legion of Time、1938年)である。

このパラレルワールドの発想に類似したものには、量子力学多世界解釈がある。これは物理的な相互作用が時間上にも及ぶとするもので、この理論に基づくと過去の改変が行われても、素粒子レベルで世界の再構成が行なわれるため結果としてタイムパラドックスは生じない。

こうしたタイムパラドックスを、「もし時間を逆行できるタイムマシンが存在するならば、あってはならない矛盾が想定される。したがってタイムマシンは存在しない」との背理法に基づき、時間は一方通行で流れ逆行できないとする立場もある。

また意図的にタイムパラドックスを起こそうと努力しても、その行動は必ず妨害されタイムパラドックスの成立が阻止されるとした作品もある。親殺しのパラドックスを例に取ると、過去に遡り親の殺害を試みても成功しないか、そもそも過去に移動できないとしている。ロバート・A・ハインラインの短編『時の門』(By His Bootstraps、1941年)など、タイム・パラドックスの論理性を追求した一群の作品の中では、「時間旅行者による歴史の改変自体が歴史に含まれており、タイムパラドックスは起こり得ない」との解釈がなされている。

またSF作家のラリー・ニーヴンは、『タイム・トラベルの理論と実際』(The Theory and Practice of Time Travel、1971年)と題したエッセイの中で、もし歴史の流れが一本道であり、時間旅行によって歴史が改変可能であるならば、幾度もの時間旅行者による歴史の改変を経た末に、最終的に人類の歴史は、「タイムマシンが存在せず、時間旅行者が決して現れない歴史」として安定するのではないかと述べている。

これらのような架空の理論や仮説に基づく過去や未来との因果関係の矛盾に着目したものとは別に、論理パズル的なタイムパラドックスもいくつか考案されている。これらは論理的には矛盾はないのに、あり得ないようなことが起こる事象を題材としたもので、その多くは現実の物理学や量子力学上の考察が必要な要素を含んでいる。

【例】『マイナス・ゼロ』(広瀬正)より

現代で買った新品のライターを持つ男がタイムトラベルし、過去へそのライターを忘れてくる。実はそのライターは第三者により時を経て現代に存在する忘れてきたライターと摩り替えられており、新品で買ったライターはタイムトラベルをせず現代に存在する。タイムトラベルをするライターは現代と過去を無限ループとして往来する存在であるが、現代に新品がある限りそのライターはどこで買ったものでもない。

このパラドックスではなぜこのようなライターが存在するか、またこのような存在となった時点でライターの分だけ宇宙の質量が増えたのではないのか、そして時を経ても永久に古くならず傷すらつかないのではないか、との問題が提起されている。1960年代に書かれたこの小説のパラドックスは小説『存在の環』(P・スカイラー・ミラー、1944年)で提示されたものの類型であるが、1990年代にスティーブン・ホーキング博士がこれに類似する概念を持つ閉時曲線と量子効果の仮説を示し、過去へのタイムトラベルを否定する論拠としている。小説では言及されていないが、このタイムパラドックスは摩り替えた人間の意志が、特異な物質の存在や状態を創出したという観測問題的側面も内包している。

時間旅行活劇

[編集]

時間旅行を扱った作品にはタイムバラドックスのような論理性や理詰めにはあまり拘らず、自由な発想で時間旅行やそれに伴う世界観を描いた活劇的内容の作品も多い。

シミュレーション的要素を重視し、もし歴史が変った場合に存在するかも知れない世界を描いた、SFで言うIf世界(仮定世界)的作品には『スーパー太平記』(手塚治虫)などがある。

『闇よ落ちるなかれ』(L・スプレイグ・ディ・キャンプ)のように、現代の科学知識や兵器などを武器に過去で主人公が超人的活躍をする冒険活劇としてエンターティメント性を重視したものや、歴史上の謎である史実や事件について、時間旅行により解明するという趣向の作品も少なくない。

時間旅行の概念は、短編集『時との戦い』(カルペンティエール)などSF以外の文学的な作品においても題材や表現手法のひとつとしても使用されている。

タイムマシンの研究

[編集]

タイムマシンや時間旅行は、現実の学問としても理論的な実現の可能性が研究されている。その特性的相違から、過去と未来への時間旅行の実現方法や研究はそれぞれが大きく異なる。

未来への時間旅行は現代へ帰還しない、すなわち相対的過去への時間旅行を伴わない片道旅行であるならば、運動している物体の時間の遅れを利用した相対性理論における観測系ごとの相対的時間進行差により理論的には実現が可能とされている。具体的には光速に近い速度で飛行するロケット内部では外部より時間の進みが極めて遅くなるため、内部では1時間の飛行も外部では数年に相当するようなウラシマ効果が発生するが、これを利用することで搭乗者にとっては見かけ上1時間で数年先の未来へ時間旅行が実現するものである。ブラックホール近傍の高重力下でも時間の遅れが発生するが、これを利用する方法でも同様の効果が得られる。これらに対する検証実験でも、微少ではあるが理論値どおりの効果が確認されている。

過去への時間旅行の可能性として、数学者クルト・ゲーデル1949年に全宇宙がゆっくり回転しているなら、宇宙旅行によって過去への時間旅行を可能とするゲーデル解の見解を発表した。ただし我々の宇宙が回転している証拠は見つかっていない。テューレーン大学の数学者フラン・ティプラーは1974年に、超高密度の筒状の物質を超高速で回転させることで、過去と未来へ移動可能なティプラーの円筒(ティプラ-・マシン)のアイデアを発表した。ただしこの方式には円筒が作られるより前の過去へは移動出来ないという制限がある。またカリフォルニア工科大学キップ・ソーン1988年に、量子の泡から生まれるワームホールを広げる利用する時間旅行の概念を発表した。その他にもプリンストン大学の物理学者リチャード・ゴットによる2本の宇宙ひもを利用する方法、物理学者ヤキル・アハロノフによる巨大風船が及ぼす体積あたりの重力の増減を用いた方法がある。

これらの過去へ遡るアイデアは、基本的には相対性理論上の現象や制限を踏み越えない仮説の上に成立しているが、スティーブン・ホーキング博士は因果関係に基づく時間順序保護説や、過去へ繋がる閉時曲線が構成されそうになった場合は重力場の量子効果が大きくなり、過去への経路ができるのを阻害するとの仮説から、過去への時間旅行を否定する立場を取っている。

過去への時間旅行については実現に対する可能性の是非以外にも、ワームホールや宇宙ひもなどを利用した場合にも、その作動原理からタイムマシン建造以前の過去へ遡れるかという機能的制約面についての議論も続いている。


ワームホールを利用したタイムマシン

[編集]

 基本的な原理

[編集]

カリフォルニア工科大学キップ・ソーンは、時空の異なる2点を結ぶトンネルであるワームホールを利用するタイムマシンの仮説を発表している。この仮説の原理は、片方の穴を光速に近い速度で移動させると相対性理論により時間の進行が静止している穴よりも遅延する現象を利用している。(図1)

  1. 穴AとBはワームホールの出入り口で相互に接続されている。
  2. 0:00にAは静止した状態で、Bのみを光速に近い速度で移動させる。運動しているBの時間進行はAより遅れる。
  3. Aが3:00の時、Bの内部は2:30である。
  4. Bを光速に近い速度で戻す。Aが5:00の時、Bの内部は3:30である。
  5. Bはさらに光速で移動し、最終的にはAが6:00の時、Bの内部は4:00となった。
  6. 6:00にAから出発したロケット(X)が光速に近い速度でBへ向かい、1時間掛かけて到着した。
  7. Bからロケットはワームホールに入るが、Bの内部は5:00であり同じ時間のAと接続しているため、戻ってきたAの時刻は出発した時刻よりも過去の5:00であり過去への時間旅行が成立する。

 ホーキングの否定説

[編集]

ソーンの仮説に対しスティーブン・ホーキング博士は、このような仕組みを利用しても閉時曲線と量子効果により過去への経路が構成されるのを妨げるため、結果的に過去への時間旅行は不可能と否定する仮説を立てている。これは光を例にとり以下のように説明されている。

  1. Aから3:00に放たれた光(Y)がBに到着した時にBの内部が3:00となっている関係の場合、光をBからワームホールに入れてAに戻す。
  2. 光はAが3:00の時刻に戻ってくる。その光を再びBに向けて放つ。
  3. 1~2の経路は端がなく、光が止まることなく無限にこの経路を回りつづける。このため経路上にはエネルギーが際限なく蓄積される。
  4. この効果に伴い重力場の量子的ゆらぎが増大するが、それはこのような経路が構成されるのを阻害するようにはたらくため、実際にはこのような経路は作ることができない。
  5. ワームホールが利用できるのはこのような経路ができる以前の条件のみだが、この場合ロケット(Z)は出発時刻より未来の時刻にしかAに戻ってこれない。

ホーキングの否定説に対し、ソーンは量子的ゆらぎは無視できる範囲と反論しているが結論は出ていない。ワームホールを利用するタイムマシンを否定する仮設にはは、時間の遅れが発生するのは移動する穴の周縁部だけで穴の内部には効果が及ばないとする説や、移動した時に新しいワームホールができるために利用できないとする説などもある。

またこれらの議論以前の問題として、ワームホールの穴は素粒子より小さいと考えられているため、これを通過できるように広げることが可能か、それを安定した状態で維持で可能か、移動させるなど自由な制御が可能かなど多くの難問を抱えていることはソーンも認めており、装置の製作の実現性はかなり低いとする見解が多い。

宇宙ひもを利用したタイムマシン

[編集]

ゴットは宇宙の初期に作られた可能性のあるひも状のエネルギー体である宇宙ひもを2つ利用するタイムマシンの仮説を発表している。直線状に伸びた宇宙ひもの周囲は、その莫大な質量により空間が極端に歪みくさび状に切り取られたのと同じ効果が発生する。この空間を通過する場合、切り取られた分だけ空間が短くなっているために見かけ上光速を越えた運動が可能になるが、ゴットの仮説では、この性質加えて宇宙ひもが運動している場合に起こる時間の遅延を利用している。(図2)

  1. 2つの宇宙ひも(X)、(Y)はそれぞれBC間、EF間の空間を切り取っているため、この空間を通過すると360゚以下で周回することが可能である。
  2. (X)と(Y)が静止している場合、BC間、EF間の通過時間は0なのでBとC、EとFはそれぞれ同時刻である。
  3. この仮説では(X)と(Y)がそれぞれAとD方向に運動していることを前提としているため、この空間を通過すると相対性理論により時間が遅延するが、通過時間は0であるため通過時刻が突入時刻の過去になる現象が起きる。
  4. 3:00にA地点を出発したロケットはBに4:00に到着する。移動する宇宙ひもで切り取られた空間を通過するため、Cでの時刻は1:00である。
  5. D地点を経由しEに3:00に到着する。移動する宇宙ひもで切り取られた空間を通過するため、Fでの時刻は0:00である。
  6. ロケットで周回しA地点へ戻ってくるが時刻は出発した時刻より前の1:00であり、過去への時間旅行が成立する。

タイムマシンや時間旅行が登場する作品

[編集]

小説

[編集]

映画

[編集]

漫画

[編集]

アニメーション

[編集]

テレビドラマ

[編集]

音楽

[編集]

ゲーム

[編集]

参考文献

[編集]
  • クリフォード・A・ピックオーバー(著)、青木薫(翻訳)『2063年、時空の旅』(講談社、2000年)ISBN 4062572907
  • ポール・デイヴィス(著)、林一(翻訳)『タイムマシンをつくろう!』(草思社、2003年)ISBN 4794212232
  • 金子隆一『新世紀未来科学』(八幡書店、2001年)ISBN 4893503952
  • キップ・ソーン(著)、林一(翻訳)『ブラックホールと時空の歪み アインシュタインのとんでもない遺産』(白揚社、1997年)ISBN 4826900775
  • ラリー・ニーヴン(著)、山高昭(翻訳)「タイム・トラベルの理論と実際」(ハヤカワ文庫『無常の月』収録)ISBN 4-15-010327-5