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利用者:Ks aka 98/cellpotency

えーと、少なくとも今日においては、

  1. totipotent:受精卵
  2. pluripotent:胚盤胞、ES細胞、iPS細胞/胎盤などを除き、すべての組織に分化できる
  3. multipotent:神経幹細胞、繊維芽、造血幹、原始腸管、生殖幹細胞/さまざまな細胞に分化できる
  4. unipotent:単一の細胞に分化

というのが一般的と言えそうです(八代嘉美『増補 iPS細胞』平凡社新書2011、Ute Bissels Ph.D., Dominik Eckardt Ph.D., Andreas Bosio Ph.D."Characterization and Classification of Stem Cells"Regenerative Medicine. 2013, pp 155-176.[1]、Alp Can'A concise review on the classification and nomenclature of stem cells'Turk J Hematol 2008; 25: 57-9. p.58、ほか[2][3][4][5])。

英語版では、enStem cell#Potency definitionで簡潔に、main articleはen:Cell potencyで、「Oligopotency」が加わっているほかは、上と同様の区分となっています。分化能は英語版の翻訳、幹細胞には「分化能力による分類」の説明があります。 Oligopotencyについては、ノート:分化能で訳語の問題として指摘があります。英語版で出典[6][7]に用いられているHans R. Scholer (2007). "The Potential of Stem Cells: An Inventory"は、収録されている本[8]が生物学メインのものではなさそうで、もうひとつのほうは[9]、項目としては存在せず、stem cell には記述がなく、検索ではファンドが足りないと出る。[10]。pubmedでは1件だけ、グーグルスカラーではそこそこ出てきました[11]

単能性は訳語の紛れがなさそうです。主にその他について訳語と説明を見て行きます。

新書の『iPS細胞』では
  • 万能性
  • 多能性
  • 多分化能

として、「多能性と多分化能は文献によって同一に扱われている」とされています。

丹羽仁史「幹細胞生物学の基本的概念」蛋白質核酸酵素 51 11 2006 1610-1617

[12]p.1614.

  • totipotent全能性・個体を構成するすべての種類の細胞に分化でき、かつ、自律的に個体に発生できる。/受精卵、4細胞期までの割球(マウス)
  • plulipotent多能性
    • 1)個体を構成するすべての種類の細胞に分化できるが自律的に個体に発生できない(totipotentとの区別)
    • 2)3胚葉すべてに分化できる(multipotentとの区別)
  • multipotent複能性(多能性)単一の胚葉/細胞系譜に属する2種類以上の細胞に分化できる

同論文では「実際には用語の混乱があり、」として

  • 歴史的経緯から血液幹細胞の分化能はしばしば多能性と表現される。
  • 一般的な日本語の訳語ではtotipotencyと:multipotentyは同じ「多能性」になってしまっており厳密性に欠ける。

T6n8さんも指摘していたと思いますが、歴史的には[13][14]のように、英語でもpluripotentとmultipotentが厳密に区別されていたとは言い難いところもありそうです。

「京都の大学院生改め一研究員」によるブログ(

「多能性」再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-2008-02-15 00:00:00[15])によれば、

  • 「複能性」は2008年ごろに「分かりやすくするためにmultipotencyを「複能性」と呼ぼうという提案もされています」
  • 「胚性幹細胞(ES細胞)が持つ分化能力のことを「多能性」(pluripotency)と呼びます。/ES細胞は前述のように、将来、胎児などの胚体組織をつくる細胞集団であるICMから樹立された細胞なので、当初は胎盤などの胚体外組織以外のすべての細胞になり得る能力として定義されました」。しかし、ヒトES細胞、マウスES細胞が胎盤などの胚体外組織へも分化できることが分かり、「、現在では「pluripotentcy」とは、それ自体では個体になり得ないが、すべての細胞・組織に分化できる能力とされています。」

ただし複能性については"複能性" 細胞 で似たページは除外して46件 [16]

「Research」理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 多能性幹細胞研究プロジェクト[17]
  • 全能性(totipotency:単独で個体に発生する能力)
  • 多能性(pluripotency:多数の種類の細胞に分化する能力)
  • 複能性(multipotent:少数の種類の細胞に分化する能力)
平成20年度バイオライフサイエンス委員会第2部会「幹細胞関連出願の審査に関する日米欧の三極比較」パテント2009.Vol62.No.8.[18]
  • 全能性(totipotent)(ただし注7参照)
  • 多能性幹細胞(pluripotent stem cell),成体を構成する全ての細胞に分化することができる幹細胞
  • 複能性幹細胞(multipotent stem cell)複数の細胞に分化することができる幹細胞

ほかに、解説や用例を見ていきます。

北里大獣医学部:2013年度 発生工学 (2Z)資料 (高岸)[19][20]
  • 全能性(totipotency) あらゆる組織に分化することができ、かつ自律的に単独で個体に発生することができる。受精卵、初期胚細胞。
  • 多能性(pluripotency) ほとんどすべての組織に分化することができるが、単独では個体に発生することができない。(胎盤形成ができない)。3 胚葉すべてに分化することができる。ES 細胞、EG 細胞、mGS 細胞など。
  • 多分化能(multipotency) 特定の組織に含まれる多種な細胞に分化することができるが、原則として胚葉を越えた他組織への分化はできない。一般の組織幹細胞。
  • 単一分化能(unipotency) 1種類の細胞のみに分化できる。筋幹細胞、色素幹細胞など。

このほか「幹細胞とは」として「自己複製能と分化能を有する未分化細胞」という説明の後に

  • (1) 多能性幹細胞(胚幹細胞) すべての臓器に分化することができる未分化な細胞
  • (2) 組織幹細胞(成体幹細胞)分化した臓器中に存在し、その組織の細胞に分化することができる(多分化能を持つ)未分化な細胞

辞典類では

生物:生物学辞典。東京化学同人/2010
  • 「全能性、分化全能性」(topipotency)全分化能とも。植物は多くの体細胞が分化してもなお分化全能性を保持しているとされる。
  • 「多能性」(multipotency, pluripotency)種々の細胞・組織に分化する能力をもっていること。全能性との区別は困難であるが、全能性をもつ細胞は実際には受精卵のみである。全能性をもつといわれるほとんどの細胞は、多能性細胞である。/「分化能が大きいときには多分化能をもつ」という。「分化能」/「多分化能」は「多能性」と「分化能」への参照。

医学分野の辞書にも記載がありました。

医学:医学書院医学大辞典2009
  • 「全能性」(topipotency)全形成能。すべての成体組織での細胞へと文化しうる能力。受精卵は全能性を持つが・・・。クローン作りは、自然には少なくとも部分的に失われた全能性を、人為的にほぼ回復させることにより可能となった。/
  • 「多能性」項目なし
  • 「多能性幹細胞」「骨盤系幹細胞」へ
  • 「全能性造血幹細胞」「骨盤系造血幹細胞」へ
  • 「万能細胞」(英なし)無制限の自己増殖能と身体を構成する全ての細胞に分化しうる能力(分化全能性)をあわせ持つ細胞。哺乳類では厳密には~分化全能性ということもある。ES細胞を中心に再生医学への応用に向けて研究が展開したが・・・。
  • 「幹細胞」で以下の説明
    • 全能性幹細胞:厳密には哺乳類においては胎盤を含む受精卵に由来する全ての細胞種へ
    • 多能性幹細胞:二つ以上の細胞種へ
    • 胎盤を除く身体の全ての細胞種に分化しうる多能性幹細胞を、一般に全能性幹細胞と呼ぶ場合も多い
医学:最新医学大辞典。医歯薬出版2005
  • 「多能性幹細胞」多能性造血細胞(multipotential hematopoietic stem cell)へ
  • 「多能性細胞」(multipotential cell)動物の身体を構成する細胞はすべて受精卵から分化したものであるから、発生の初期にはすべての種類の体細胞に分化できる多能性細胞が存在することになる。本細胞はマウスでは株化されており、特定の遺伝子を破壊した突然変異マウスを人工的に作成するため用いられている。造血組織、皮下組織などの結合組織、消化管上皮などには、成長後も、種々の種類の細胞に分化できる細胞が存在する。
  • 「多分化能幹細胞」(multipotential stem cell)幹細胞のうち二つ以上の子孫を作りうるもの
医学:南山堂医学大辞典2006
  • 「全能性」は「全形成能」へ。
  • 全能性幹細胞(totipotent stem cell)自己増殖能を有し、個体を作るために必要なすべての細胞に分化する能力を持つ細胞の総称。未受精卵、受精卵、初期胚の細胞、胚性幹細胞が含まれるが、in vitroの系で培養されても個体になることはない。特殊な条件下(細胞の胚内移植など)で、増殖、分化を促すことにより初めて個体として完成し全能性が証明される。この理由から厳密にいえば、マウスES細胞の全能性は証明されているが、霊長類については多能性であるとはいえても、全能性であるとはいいきれない。
  • 多能性幹細胞(multipotent stem cell)いくつかの異なった細胞に分化する能力を持つ細胞群の総称である。この中に骨髄幹細胞、造血幹細胞、羊膜細胞、神経幹細胞、脂肪細胞、毛根細胞などが含まれる。正確には三胚葉細胞を含む胎生期の細胞で、分化が最終的に決定されていないすべての細胞も含まれると考えられるが、言及されることは少ない。一般には造血幹細胞や多分化能を持つ体性幹細胞に使われることが多い。ES細胞に使われる場合もある。これらの細胞の特徴は、分化能、増殖能がある程度限定されており、数が少なく、それぞれの組織環境で組織特有の細胞に分化するといわれている。なかには万能細胞も存在するという報告もあるが、組織を構成する細胞と融合しただけで完全に分化はしていないという意見もある。/「万能細胞」(英なし)「多能性幹細胞」へ
  • 「幹細胞」で全能性、多能性、単能性の説明。

「全能性」については、用例をCiniiで見ると、

  • 「ES細胞の最大の特徴でもある分化全能性」(寺村 岳士 , 安齋 政幸 , 三谷 匡 [他]「単為発生胚からのES細胞樹立と分化多能性の検討」近畿大学先端技術総合研究所紀要 (10), 69-75, 2005-03[21]
  • 「胚性幹細胞(ES)細胞は分化の全能性を有する細胞として知られており」

工藤 工「胚性幹細胞から成長ホルモン産生細胞への分化」 神戸大学医学部紀要 65(1/2/3/4), 25-34, 2005-03[22]

  • 阿部 訓也「マウス全能性胚性細胞における遺伝子発現 (特集 21世紀の再生医療最先端 1.感覚器・皮膚・粘膜,2.生殖器) -- (2.生殖器)」再生医療 2(3), 95-101,6, 2003-08[23]
  • 小出 寛 , 横田 崇「ES細胞における全能性の維持機構 (特集 幹細胞とクローン:分化の全能性に挑む)」細胞工学 21(8), 827-830, 2002-08[24]

など、totipotentではなくpluripotentを指している用例が見つかります。

「万能細胞」について、新書ですが、

  • 「このため慎重な研究者には、ES細胞は万能細胞とはいえず多能細胞とよぶべきだ、と主張する人もいるほどである」(大朏博善『ES細胞』文春新書.p.183)
  • 万能細胞は専門的な言葉では「多能性幹細胞」「多分化能を持つ細胞」と呼ばれます。受精卵にはあらゆる細胞になれる「全能性」(青野由利『生命科学の冒険』つくまプリマー新書2007)

とされています。

なお「multipotent stem cellに対応させる日本語は組織幹細胞」という意見がありましたが、「組織幹細胞」は「multipotent stem cell」だとはいえるものの、「multipotent stem cell」を「組織幹細胞」とするのは適切ではないと思います。