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利用者:野牧華/sandbox

格子なき図書館
Libraries Without Bars
脚本 吉見泰
製作 藤本修一郎
ナレーター 宮田輝
音楽 鈴木林蔵
撮影 柳武夫
製作会社 日本映画社
公開 日本の旗 1950年12月5日
アメリカ合衆国の旗 1951年
上映時間 22分
言語 日本語
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格子なき図書館(こうしなきとしょかん、英:Libraries without Bars[1])』(1950年公開)は、戦前の有料公開・閉架出納式の図書館を否定し、無料公開・自由に閲覧できる新しい図書館への転換を題材とした記録映画。CIE映画の一つである[1][2][3]

沿革

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明治期、図書館の単独法令として図書館令が公布される。同法7条では図書閲覧料の徴収を定めていた。そのため戦前の図書館は、有料公開、閉架出納式が一般的であった[4]。戦後も、閉架閲覧制で運営される図書館が多く、昭和30年代後半まで続いた[5]

1950年になり、図書館法が制定される。同法17条で無料の原則(無料公開)が打ち出された。小黒は図書館法の周知・徹底を目的に、映画が製作されたとして、映画のプロパガンダ性を指摘している[6]

内容

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映画は、2部構成である[2][7]。前半は、戦前に見られた有料公開・閉架閲覧制[4]の図書館に焦点を当てる。仕事で貿易について調べたい竹田さん[7]は、料金を払って図書館に入る。その図書館では、自分で本を棚から抜き取って読むことができない。カード目録を唯一の手掛に、目当ての本を探し出していく。竹田さんは1時間ほどかけて、ようやく4冊選び、図書館員に請求する。そこから職員が資料を探し始めるため、竹田さんは待たされる。ようやく実物を手にできたが、それは2冊だけだった。1冊は内容が古く、もう一方は肝心のページが破られ、どちらも使い物にはならなかった。徒労に終わった竹田さんは考え込んでしまう。そして、次の語りが入る。「書物の中へ自由にはいれて,読みたい本を探せるのだつたら,どんなに素晴らしいだろう。そういう気持ちのいい図書館はないものか[8]」。そこで幕は閉じる。後半は、陽気なBGMにつれて、図書館で誰もが自由に本を選び、閲覧する姿が映し出される。館内での上映会や、レコードの視聴・貸出など、新しい図書館の様子が紹介されている。紹介された図書館は、仙台図書館新潟県立図書館千葉県立図書館移動図書館車の3館である[6]

製作

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映画は、CIE映画の製作責任者にあたるF.B. ジャドソン (F.B. Judson) の発案による[9]。実際の製作は、日本映画社が担当している。脚本を吉見泰、演出を下村健二が務める。当映画はナレーターによる語りが中心となっている。その語りを宮田輝が担った[10]。映画製作の詳細な過程は、明らかにされていない[6]。撮影の舞台となった新潟県立新潟図書館の『50年史』によると、撮影は1950(昭和25)年4月8日から12日の5日間にかけて行われたとされる[11]。同年12月5日の発表会で、映画が公開された[12]

公開

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封切

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日本では、1950年12月5日に封切られた[13]。上映時間は22分[13]。アメリカ合衆国では、1951年に教育省より公教育を目的に公開された[14]

DVD

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映画は、DVD『映像でみる戦後日本図書館のあゆみ』(日本図書館協会、2014年10月)に収録されている。これは日本図書館協会主催の全国図書館大会が100回に達したことを記念して、DVD化したものである。同時収録に『図書館とこどもたち-ある市立図書館の児童奉仕』(1979年)がある[3]

シナリオ

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シナリオは、複数媒体に採録されている。まず、草稿段階のシナリオを綴った『格子なき図書館(仮題)』(日本映画社, 1950年)がある。これは新潟県立図書館に所蔵されている[6]。草稿版から発展したシナリオが、雑誌『読書相談』(日本図書館協会、1950年9月、2巻7号)にて「格子なき図書館」(2-13頁)として掲載されている[7][15]

図書館利用教育を目的に、2冊の国定国語教科書に採録されている。『新中学国語.2上』(能勢朝次編、大修館書店、1952年)と『総合新選国語二上』(坂本博司編、 中等教育研究会、 1956年)である[16][17][18]

評価

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戦前日本図書館の否定

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映画は、戦前日本の図書館を否定的な文脈で描く。よって、戦前から先進的な取り組みを行う図書館は、黙殺されている。図書館情報学を専門とする三浦は、戦前の先進的な事例に「山口県立山口図書館」と「東京市立図書館」を挙げている[19]。山口図書館は、1907(明治40)年に開架制の導入や巡回文庫の設置を行った[20]。当時の文部大臣小松原英太郎は視察に訪れ、その取り組みを高く評価した[21][22]。館では児童サービスの一環に児童閲覧室の提供も始めていた[19]。閲覧室も見学した小松原は、子どもたちが自由に読書に親しむ姿にも「強い関心を示した[22]」。東京市立図書館も、戦前から開架制や無料制の導入、児童サービスレファレンスサービス等を進めていた[23]

吉田邦輔(図書館員、全日本図書館職員組合書記長)は、映画で映し出される新しい図書館の理想に共感を示す。一方、自由開架式を導入に関する課題や対処方法が、何ら言及がなされていないと不満を述べる。吉田は、特に自由閲覧式の導入によって生じる懸念点を、2点挙げている。まず利用ニーズが高まると予想されるレファレンスサービス、その整備や準備について。そして、閉架出納式に比べると、図書の紛失が増加するため、紛失時の予算的対応について。加えて自由閲覧式の導入は、小学校から大学までの学校図書館から始め、習慣づけの必要性を強調する。公共図書館においては、全国標準の目録分類法の整備が必要と語る[24]。最後に吉田は次のように述べている。

…等々,しなければならないこのと余りにも多いのに驚くであろう。が,これが日本の図書館の現状なのである。私はあの映画をみていて、何だか妙に悲しくなつて來たのである[24]

開架式の普及

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映画の製作公開による効果では、1953年7月時点で、全国270館の公共図書館が開架式を導入した[25]。開架普及の流れに合わせて、1953年度の全国公共図書館研究集会では、研究議論のテーマに「開架」があがった。紛失図書の増加に対する見解が出された[25]

脚注

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出典

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  1. ^ a b 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会 2020, p. 67.
  2. ^ a b 吉井潤 2022.
  3. ^ a b 書籍詳細(JLA出版物)「映像でみる戦後日本図書館のあゆみ」”. www.jla.or.jp. 2024年7月8日閲覧。
  4. ^ a b 三角啓介 (2007年3月26日). “公共図書館と指定管理者制度”. 学生法政論集 (九州大学法政学会). https://doi.org/10.15017/8286. 
  5. ^ BUILD Site - 図書館今昔3 : 閲覧制度”. repo.beppu-u.ac.jp. 2024年7月15日閲覧。
  6. ^ a b c d 『日本図書館文化史研究会』35号、日本図書館文化史研究会、2018年9月25日、166-167頁。ISBN 9784816927386 
  7. ^ a b c 日本図書館協会 1950.
  8. ^ 日本図書館協会 1950, p. 5.
  9. ^ 佐藤嘉市 (1974-09). “Mr.F.B.ジャドソンの憶い出”. 視聴覚教育 28 (9): 155. doi:10.11501/6068239. 
  10. ^ 日本図書館協会 1950, p. 2.
  11. ^ 『新潟県立新潟図書館50年史』新潟県立新潟図書館、1965年、45,240頁。doi:10.11501/2934109 
  12. ^ 新潟県教育百年史編さん委員会 編『新潟県教育百年史 昭和後期編』新潟県教育委員会、1976年、390頁。doi:10.11501/12116223 
  13. ^ a b 中村秀之, 電子映画学術誌『CineMagaziNet!』. “占領下米国教育映画についての覚書”. www.cmn.hs.h.kyoto-u.ac.jp. 2024年7月14日閲覧。
  14. ^ (English) National Union Catalog 1948 - 1952: Vol 24. Internet Archive. J W Edwards Publisher In. (1948 - 1952). http://archive.org/details/sim_national-union-catalog_1948-1952_24 
  15. ^ 格子なき図書館(シナリオ) | NDLサーチ | 国立国会図書館”. 国立国会図書館サーチ(NDLサーチ). 2024年7月8日閲覧。
  16. ^ 溝渕, 久美子、Mizobuchi, Kumiko「国語科教育の中の「映画」 : 1950年代を中心に」2010年1月1日、doi:10.18999/juncture.1.158 
  17. ^ 野中潤 (2023年10月5日). “占領政策で作られた映画のシナリオを収録した1950年代の国語教科書の目次”. note(ノート). 2024年7月16日閲覧。
  18. ^ 全国学校図書館協議会 (1956-03-10). 学校図書館 (3月): 20. doi:10.11501/10292657. 
  19. ^ a b 三浦太郎 2015.
  20. ^ 創立100年記念誌』山口県図書館協会、2009年10月3日、32-33頁https://library.pref.yamaguchi.lg.jp/sites/default/files/dwnld/YLA/yla100kinenshi.pdf 
  21. ^ 『図書館の近代 : 私論・図書館はこうして大きくなった』ポット出版、1999年3月5日、32頁。 
  22. ^ a b 『山口県立山口図書館100年のあゆみ』山口県立山口図書館、2004年3月31日、14頁。 
  23. ^ 日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会 編『図書館ハンドブック 第6版』日本図書館協会、2005年5月。 
  24. ^ a b 日本図書館協会 1950, p. 12-13.
  25. ^ a b 『日本近代教育百年史』国立教育研究所、1974年3月、952-953頁。doi:10.11501/12114699 

参考文献

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  • 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会(編)「格子なき図書館」『図書館情報学用語辞典 第5版』、丸善出版、2020年、67頁、ISBN 978-4-621-30534-8 
  • 吉井潤「1敗戦から映画『格子なき図書館』までの概況」『事例で学ぶ図書館サービス概論』、青弓社、2022年、ISBN 978-4-7872-0079-2 
  • 「「格子なき図書館」CIE映画 日本映画社製作 シナリオ」『読書相談』第2巻第7号、日本図書館協会、1950年、2-13頁。 
  • 三浦太郎「CIE映画「格子なき図書館」の成立に関する考察」『明治大学図書館情報学研究会紀要』第6巻、明治大学図書館情報学研究会、2015年、11-18頁。