利用者:風の竜王/第一作業室
シャチ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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シャチ Orcinus orca
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Orcinus Fitzinger, 1860 Orcinus orca (Linnaeus, 1758) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シャチ(鯱) サカマタ(逆叉、逆戟) オルカ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Killer Whale Orca | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シャチの生息域
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シャチ(鯱、学名: Orcinus orca)は、哺乳綱鯨偶蹄目マイルカ科シャチ属の海獣である。本種のみでシャチ属を形成する。
日本近海も含め、北極、南極の海から、赤道近辺まで、世界中の海に広く分布しており、地球上で最も広い範囲に生息する哺乳類の一つである。白と黒のツートンカラーから成る特徴的な体色をしており、体長は最大で9.8メートルにも達する、ハクジラ類の中でも大型の種である。海洋生態系における頂点に君臨する動物で、魚類、海獣類、海鳥類など、あらゆる生物を捕食し、「海のギャング」とも呼ばれる。
名称
[編集]学名は「Orcinus orca(冥界の魔物)」、英名は「Killer Whale(殺し屋クジラ)」または学名から属名(学名の前半分)を取った「Orca」である。このうち、後者をそのまま日本語読みした「オルカ」は日本でもしばしば使われている他、古代ローマでは「海の悪魔」という意味でオルカという呼び方がされていた[1][2]。日本では「シャチ」や上述した「オルカ」の他に、「サカマタ」という呼び名がある。由来として、中国の古い武器である「戟(げき)」を逆さに立てた形が、シャチが海面から背鰭を突き出している姿に似ていたことから、逆さになった戟という意味で「逆叉」や「逆戟」と呼ばれるようになったという説がある[1][3]。また司馬江漢の「江漢西遊日記」や、神田玄泉の「日東魚譜」ではシャチのことを「タカマツ」と表記しているほか、20世紀初頭の香川県でも同様の呼称がされた記録がある。この他にも「シャチクジラ」、「シャカマ」、「クロトンボ」、「サカマタクジラ」、「タカ」、「シャチホコ」、「クジラトウシ」などがの呼び名がある。これらの多くは所謂「漁師言葉」が起源であるとされており、かつての漁師はシャチやゴンドウなど黒い体色のハクジラを一纏めにして、これらの呼び名で呼んでいたものとされる[1]。
またアイヌ語には「海の神様」という意味を持つ「レプンカムイ」という呼び名がある[4]。これはシャチに追い立てられて浜に座礁したイルカやクジラを、アイヌ民族がシャチからの贈り物と考えたことに由来する。この他にも「カムイフンベ」、「イソヤンケクル」、「イコイキカムイ」、「アトゥイコロカムイ」、「トミンカルクル」などの呼び名があり、その多くに「神」にまつわる意味がある[5]。
分布
[編集]赤道付近の海域から極地の海まで、非常に広い範囲に分布しており、特に餌となる動物が多く生息する極地付近などの高緯度海域に多く生息している。その一方で、目撃例は少ないものの赤道近辺のような熱帯・亜熱帯海域や、アラビア海や地中海といった内海にも生息しており、鯨類のみならず、哺乳類としても最も広い範囲に生息する動物であるとされている[6]。沿岸からおよそ800[7]ないし1000[8]キロメートル以内での目撃例が多いが、沿岸から外洋まで広く生息する[7]。一般的に深海域を好むものの、浅い海域にも容易に進入し、海岸にいる獲物を襲ったり、入り江や河口に入り込んだり、時には獲物を求めて河川を遡上することもある[6][7]。
日本近海では春から夏にかけては根室海峡から知床沖などの北海道東岸やオホーツク海南部海域、冬季は紀伊半島沖などで多く目撃されている[9]。座礁した記録(ストランディングレコード)も含めると、最も座礁が多い北海道から、岩手県、千葉県、静岡県や、兵庫県、香川県、広島県といった瀬戸内海沿岸部、福岡県、五島列島、沖縄県といった九州沿岸部など、全国的に目撃・座礁がある。ただしこれらのほとんどは太平洋沿岸海域となっており、日本海側ではオホーツク海や東シナ海の接点付近での目撃例が数件ある程度で、ほとんど確認されていない。また東京湾や名古屋港、駿河湾などでも目撃されたことがあるが、いずれも定住型ではなく迷い込んだものとされている[6][10][11]。2007年時点で、日本近海におけるシャチの生息密度は北緯40度以北と以南で7倍もの差があり、北太平洋全域で見ても低緯度海域の生息密度は低くなっている[9]。
分類
[編集]「哺乳綱鯨偶蹄目マイルカ科シャチ属」には本種のみが属しており、シャチと呼ばれる生物は本種のみであるが、以下に解説するように、形態や食性などの面で違いが見られる個体群が複数存在しており、いくつかは新種である可能性が提唱されている。シャチは世界中の海に広く分布しているが、判明しているだけでも北東太平洋、北東大西洋、南極海でそれぞれ二つ以上、合計で十のエコタイプ(生態型)が存在する[12]。本項では複数のエコタイプの存在が確認されている三海域でのエコタイプの区分について解説する。
北東太平洋
[編集]主にアメリカ合衆国ワシントン州からカナダブリティッシュコロンビア州の沿岸部を中心とした太平洋の北東海域では「レジデント (resident)」、「トランジェント (transient)」、「オフショア (offshore)」という名で三種のエコタイプに区分されている。この海域では1970年代頃からシャチの生態調査、研究が行われており、他の海域と比べて最も歴史がある[2][13]。今現在、一般的に知られているシャチの生態のほとんどは、本海域の、特にレジデントにおける研究によって判明したものである[14]。
- レジデントに属するシャチは、所謂「オープンサドル」と呼ばれる、白色のサドルパッチの中に黒いパッチが入り込んだ特徴的な模様をしている[13][15]。レジデントはその名が示すとおり、あまり大きく移動することがなく、同じ海域で頻繁に姿を見せる「定住型」のエコタイプであり、単独で行動するか、平均12頭、最大で50頭ほどの「ポッド」と呼ばれる集団を作って生活している[13]。主に魚食性で、この海域に豊富に生息するサケ類やマスを主食とする[14]。サケが多い時期にはそれを狙って集まる本種の姿を見ることができ、採食中には賑やかな鳴音の鳴き交わしが行われるが、集団で現れても特に協力するわけでもなく、個々に狩りを行っている[13]。
- 本種はバンクーバー島を境とした南北で、またアラスカ南部沿岸の東南部と西部で、それぞれ一つずつ、合計で四つの個体群が存在する[16]。バンクーバー島周辺の個体群は、島の中ほどを北限または南限とし、それぞれカナダのジョンストン海峡とワシントン州のピュージェット湾で採餌、休息、社会行動などを好んで行う[14]。アラスカの個体群はアラスカ州南部のコディアック島付近を境に、東部から南部にかけての個体群と西部の個体群に分かれている[17]。
- トランジェントに属するシャチは、レジデントの研究が進められる中で、レジデントとは異なる生態を持つことから、その存在を知られることとなった[18]。他の2種と比べて背鰭の先端が尖った形状をしており、サドルパッチは白一色となっている[15]。レジデントと違い、特定の生息域を持たず、単独か多くても5頭ほどの小さなポッドを作って生活している[13]。イルカ類、クジラ類、アザラシ類といった海棲哺乳類や海鳥などを捕食し、これらの獲物に気づかれないようにするため、ほとんど鳴音を発せず、静かに行動している[19]。
- レジデントと同様、いくつかの個体群が存在することが判明しており、アラスカ東南部からカリフォルニア南部までの行動圏を持つ個体群(西海岸個体群)[注 1]、アラスカ湾からアラスカ半島沿岸部を行動圏とする個体群(アラスカ湾個体群)、アラスカのプリンス・ウィリアム湾および周辺のキナイフィヨルド沿岸を行動圏とする個体群(AT1グループ、またはチュガッチ・トランジェント)の存在が知られている[21][22]。このうちAT1グループは2014年の時点で7頭と、消滅の危機に瀕している(後述)[23]。
- また本種はDNA解析を基にした遺伝子調査によって、世界中で判明しているシャチのエコタイプのいずれとも、遺伝的に最も乖離した存在であること、即ちどのエコタイプよりも古い時代に枝分かれし、独自に進化を遂げてきたということがわかっている。このため本種をトランジェントというシャチの一つのエコタイプを示す名称ではなく、シャチの研究のパイオニアであるマイケル・ビッグ (Michael Bigg) に因み、「Bigg's Killer Whale」で呼ばれることも多い[24][25]。
- オフショアに属するシャチは、比較的丸みを帯びた背鰭と薄い白色のサドルパッチを持つ。背鰭に切れ込みの入った個体が比較的多い[13][15]。先に挙げた2タイプと比べて比較的、小さめの体をしている[26]。主に沖合で生活する外洋性で、50~100頭ほどの大規模な群れを作り、広い範囲を移動している。主に硬いサメ類を主食としているため、歯が歯肉付近まですり減った個体も多い[13]。判明していない事実は多いものの、複数の個体群は存在しないものとされており、カリフォルニアの沖合やベーリング海など、かなり広い範囲で目撃されている[27]。特に夏期はアラスカ周辺で、冬季はアメリカ西海岸での目撃例が多く、季節によって移動しているものとされている[26]。
これらのシャチは生息域が重なることも多いが、互いに交流を持つことは一切なく、遺伝子的にも隔絶されている[27][28]。また、異なるタイプとの接触を極力避けようとする傾向にある[18][注 2]。エコタイプの違いだけでなく、例えばバンクーバー島南北のレジデントや、トランジェントのアラスカ湾個体群とAT1グループなどは、同じエコタイプであっても、生殖の観点からも互いに交流をしないことがわかっている[25][29]。
北東大西洋
[編集]ノルウェー沖やアイスランド沿岸、イギリス近海などを初めとした大西洋の北東海域では、単純に「タイプ1」、「タイプ2」で区別される二種類のエコタイプがある[30]。北米沿岸部と比べるとあまり研究は進んでいない[31]。
- タイプ1は体長が最大でも6.6メートルほどと比較的小柄で、体軸に水平な形をしたアイパッチと鮮明なサドルパッチを持つ[15][31]。魚食性で、ニシンやサバなどの群集性の小型魚を捕食するが、歯が摩耗している個体が多いことからサメ類のような大型魚類やアザラシなどの海獣類を捕食している可能性も推察されている[31]。比較的沿岸部に集結する[30]。
- タイプ2は体長が最大8.4メートルと、タイプ1と比べて大柄な体格をしている。後方に向かってやや垂れ下がった形状のアイパッチと、薄い白色のサドルパッチを持つ[15][31]。主にミンククジラなどの海棲哺乳類などを捕食しているものと推察されている[31]。
この他に、ジブラルタル海峡周辺で主にマグロを捕食する個体群の存在も確認されており、これを「タイプT」として区別することもある[32]。
南極海
[編集]南極海には「タイプA」、「タイプB」、「タイプC」、「タイプD」の四種類が存在し、さらにタイプBは大型のタイプである「B1」と小型のタイプである「B2」に分けられる[12][33]。
- タイプAは体長がオスで9メートル、メスでも7.7メートルに達する、南極海に生息するシャチの中でも大型の種である[12][33]。アイパッチは体軸に平行に伸びた形状をしている[12]。クロミンククジラやミナミゾウアザラシを中心とした鯨類・鰭足類を獲物としており[33]、多くは南極海周辺の、南極大陸から離れた氷のない海域に生息する[12]。南極海で最も広く分布するものと考えられている[34]。基本的には4~8頭程度の比較的小さな群れで、数百メートルの範囲に散開しながら移動するが、時には30頭近くにもなる群れを形成することもある[33]。
- 本タイプは現状1エコタイプとして扱われているが、さらに複数のエコタイプに分類される可能性があるため、南極海のシャチの中では唯一、特定の呼称がつけられていない[35]。
- タイプBはB1、B2の両タイプに共通して、背鰭付近ないしサドルパッチ付近にはっきりと縁取られた明瞭なケープ[注 3]が見られる[12][注 4]。頭部はタイプAよりもほっそりとしている[33]。主として南極大陸近辺の低水温海域で活動するため、血流が皮膚に行き渡らず、皮膚の更新が遅れている[37]。このため体は珪藻で覆われ、体色はやや黄色みがかった白色と濃い灰色をしている。本タイプはしばしば数千キロも離れた温暖な海域へ移動するが、これは温暖な海域で皮膚を更新し、体表の珪藻を除去するためだとされる[33]。
- 大型のタイプであるB1は体長が9メートルにも及び、タイプAと並んで大型の部類に位置する[12]。流氷の間に棲むことから「Pack Ice Killer Whale(流氷シャチ)」とも呼ばれる[35]。アイパッチもタイプAと同様に体軸に平行であるが、他のタイプと比べて最も大きい[12]。主に海氷上のアザラシ類(特にウェッデルアザラシ)を獲物としているほか、クロミンククジラを襲うこともある[38]。南極海周辺の、特に流氷域に多く生息する。群れは4~12頭ほどと小規模である[33]。
- 小型のタイプであるB2は矮小型とも呼ばれ、体長が大型のタイプより平均的におよそ1メートルほど小さい[12]。本タイプの目撃例が多い、南極半島西部のゲルラッシュ海峡に由来して「Gerlache Killer Whale(ゲルラッシュ海峡のシャチ)」とも呼ばれる[35]。主に魚類やイカを主食としていると考えられているが、ペンギンを食べる姿が目撃されたこともある[12]。南極半島周辺に生息し、20~100頭ほどの大規模な群れを形成する。B1と比べると性的二型はそれほど顕著には表れない[33]。
- タイプCは体長が最大でも6.1メートルとシャチ全体でも小型のタイプである[12]。生息する海域に因んで「Ross Sea Killer Whale(ロス海のシャチ)」とも呼ばれる[35]。アイパッチは目元に向かって、体軸から45度ほど斜めに傾いた細めの形状をしている[15]。タイプBと同様の理由で、体は珪藻で覆われ、黄色がかった白色と濃い灰色の体色をしている[33]。魚食性で、ライギョダマシのような大型の魚から、コオリイワシのような小魚からイカ類まで広く捕食する[39]。その名の示すとおり、南極海の一海域であるロス海が主たる生息域であり[12]、ロス海を中心に南極海東部の沿岸域や定着氷を縁取るように分布する。50~100頭にもなる群れで行動する[33]。
- タイプDは2000年に新たに分類分けされたタイプであり[40]、亜南極海域[12]に生息することから「Subantarctic Killer Whale(亜南極のシャチ)」とも呼ばれる[35]。特徴として、他種よりも前に突き出た、丸みを帯びた頭部と、反り返った背鰭、そして体軸に平行かつ極端に小さいアイパッチを持つ[12][15]。主として南太平洋、南大西洋、インド洋の南極前線以北の遠洋海域(亜南極海域)に生息し、15~50頭ほどの群れで行動する。魚食性とみられ、クロゼ諸島やチリ南西部では延縄の漁船から縄にかかった魚を強奪していく様子がよく目撃される[33]。
- 1955年のニュージーランドでの座礁が本タイプの初の発見例であるが、当初は遺伝子異常による突然変異であると考えられていた。これは以降の目撃例が極めて少なく、サンプルの入手も困難を極めたために、研究がほとんど進まなかったことが要因である。2013年にこの時の保管個体についてのDNA解析が行われ、本タイプの存在と、前述したAからCまでのタイプとの遺伝的な相違があることが確認された。本タイプがAからCのタイプと枝分かれした時期はおよそ40万年前であるという推測がなされている[12]。
その他の海域
[編集]オホーツク海やカムチャツカ半島、コマンドルスキー諸島周辺の海域には、サケ類やタラ類を主食とする魚食性のタイプと、鯨類や鰭脚類を主食とするタイプが存在する[41]。この特徴はそれぞれレジデント、トランジェントに似通っているが、それらとは遺伝的な差違が認められる[42]。また、オフショアに該当するタイプは確認されていない[43]。両者はサドルパッチの違いで見分けることができ、前者はレジデントと同じ「オープンサドル」というパターンであるのに対し、後者は黒い切れ込みのない「スムース」というパターンとなっている[41]。
形態
[編集]体長(メートル) | 体重(トン) | |
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オス(平均) | 6.7~8.0 | 4.0~6.3 |
オス(最大) | 9.8 | 10.5 |
メス(平均) | 5.7~6.6 | 2.6~3.8 |
メス(最大) | 8.5 | 7.4 |
ハクジラ類の中でも大型の部類に位置し、オスでは平均6.7メートルから最大では10メートル近くに達するものまでおり、子どもでも生まれた時点で体長が2.1~2.5メートルほど、体重は200キログラムほどある[44][45]。体長や、体重や背鰭の形状などに、はっきりとした性的二形が現れる[2]。全体的に紡錘形・流線型の形をしており、体はアイパッチ(後述)先端の上部付近にある呼吸孔の辺りでややくびれ、そこから背鰭に向かって太くなり、背鰭から尾部に向かって細くなる。吻はマイルカやハンドウイルカなどのように顕著に突出してはおらず、どちらかと言えばゴンドウクジラのそれに近い。口は横幅が非常に広く、口裂の長さは横から見ると体長の8~9パーセントにも及ぶ[46]。ハクジラ類に位置するため攝餌器官として歯を有しており、上顎、下顎ともに片側に10~12[47]または13本[44]、全体で40~50本ほどの歯が生えている。ヒトと違って、全て同じ円錐形の歯で、直径2.5センチ程度、長さ10~12[47]または13センチ[44]程度、歯冠は歯全体の3割程度、歯根長は萌出部の2倍以上となる、極めて強靱なものとなっている[44]。眼は黒い体色のためにわかりにくいが、口角からやや後ろの、アイパッチと下顎の白い部分に挟まれた位置にある[46]。糞便は緑色をしており、飼育下の個体はこの状態や成分を元に体調確認が行われている[48]。
体色
[編集]特徴的な、白(灰色)と黒の明瞭な体色をしている。体の上半分、すなわち頭部から背側を通って尾鰭の上側にかけては黒一色となっているが、唯一背鰭の後ろ側に、灰色に近い模様がある。これは「サドルパッチ」と呼ばれるもので、その模様や形などが個体によって異なるため、野生化においても個体を識別するための重要な手がかりとなっている。また眼の後方上部には白く大きな楕円形の模様があり、これは「アイパッチ」と呼ばれる。また体の下半分、すなわち下顎から腹部にかけてと、尾鰭の下側は白色の割合が多くなっている[49]。
シャチのこのような体色は周囲の明るさによって、ツートンカラーの体色が明暗に二分されることでその境界が曖昧になるという効果がある。これは分断効果と呼ばれ、シャチの場合は明るい場所では体の黒い部分が明瞭に見えるのに対し、暗い場所では白い部分が浮きだって見え、反対に黒い部分は見えにくくなる。このような体色のために暗い場所では体全体のシルエットがわかりにくくなり、獲物となる動物に察知されることなく近寄ることができると考えられている[50]。
また子どもの体色は褐色めいたクリーム色をしており、表皮の皮むけなどを繰り返して3~4年ほどで白色になる[45]。
白いシャチ
[編集]白黒のツートンカラーが特徴のシャチだが、一方で全身が真っ白のシャチが見つかったこともある。日本近海では1996年と1997年に太平洋の日本沿岸から東方にかけての北緯35度以北の調査で、15頭ほどの群れの中にその姿が確認されたことを皮切りに、2000年と2008年にはアラスカのアリューシャン列島で、2010年と2012年にはベーリング海のコマンドルスキー諸島にてそれぞれ存在が確認されている。このうちベーリング海で見つかった個体は、背鰭が2メートルにもなる大きなもので、ロシアの研究者たちによって「アイスバーグ」と名付けられている[51][52]。また2014年にはカムチャッカ半島南部や千島列島周辺の海域で子どもとみられる白い個体が見つかったほか、2015年には千島列島周辺で5~8頭もの白い個体が目撃され、その翌年にも同じ場所で白い個体の目撃があった。日本では2019年の5月と7月には羅臼沖で白い個体が相次いで目撃され、これが日本国内における白いシャチの初観測となっている。これらのシャチは背鰭や体長などからそれぞれ別の個体であるとみられている[52]。
これらのシャチはアルビノの特徴を持つものの、上述したアイスバーグは全体的な白さの中でサドルパッチに色の付いた部分が観察されていることから、白変種や白斑が拡大した個体である可能性があるほか、遺伝的な観点で考えた場合、これまで発見された白い個体は、いずれも数個体から十数個体の群れに混じって見つかっていることから、同系交配による遺伝的出現の可能性、さらには近親交配による出現の可能性が挙げられている[52]。
1970年にはブリティッシュコロンビア州沿岸でトランジェントに属する白いシャチが捕獲され、ビクトリアにある水族館で飼育された。判明している限り、世界で唯一の白いシャチの捕獲・飼育例となっている。このシャチはメスの個体で、捕獲から2年後にチェディアック・東症候群により死亡した。体の色もこの疾患に起因するものであるとされている[51]。
鰭
[編集]他の多くの鯨類と同様、シャチも胸鰭、背鰭、尾鰭を持つ[2]。胸鰭はオール状の形をした大きくて丸いもので、オスの方がメスのそれよりも大きく、主に泳ぐ際の方向転換やブレーキの役目を果たしている[53]。この胸鰭を海面に強かに打ち付ける光景はしばしば見られるものだが、胸鰭の大きな成熟したオスの個体ほど、爆ぜるような大きな音となる[2]。 尾鰭は分厚さと左右の幅の広さを持ち、最大では体長の4分の1ほどの大きさにまで成長する[53]。この尾鰭を上下に揺らして遊泳するための推進力を生み出しており、特に下から上に跳ね上げる時に強い力が発生している[54]。最も特徴的なのが背鰭で、シャチの場合、オスとメスで鰭の形状が異なることが知られている。オスもメスも、未成熟の段階では鎌形に後方に湾曲しているが、オスは12~13歳ごろから高く長く伸び始め、成体になると高い二等辺三角形のような形状をして、垂直にそびえ立つ。この時の長さは1.8~2メートルに達することもある。一方、メスは成熟しても形状は変わらず、高さもオスの半分ほどしかない[2]。背鰭には欠けが発生することもあり、その形状は個体の成長を経てもほとんど変化しないため[55]、サドルパッチと同様に、欠けの有無、大きさや位置をもとに個体の識別が行われる[53]。
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胸鰭を上に向けて泳ぐシャチ
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尾鰭
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欠けのあるオスの背鰭
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メス(手前)と子ども(奥)の背鰭
骨格
[編集]シャチの骨格は多くのクジラ類と共通したものになっている。脊椎骨は50~54個あり、うち頸椎が7個、胸椎が11~13個、腰椎9~12個、尾椎21~25個となっている。このうち、頸椎の前半3~4個は癒合しているため、シャチは首を動かせない[注 5]。尾椎は尾鰭と一体化しており、付け根付近の脊髄骨の下部にある「V字骨」が筋肉を支えていることで、強力な推進力を生み出している。また肋骨は11~13対備わっているほか[注 6]、胸鰭には鯨類がかつて陸棲生物であったことの名残である、関節も備わった5本の指の骨がある[56]。
呼吸
[編集]潜水時間は通常3~5分[2]。呼吸時における一回換気量(一回の呼吸で入れ替わる空気量)は約46,200ccと非常に多く、一度の呼吸で肺の空気の80~90パーセントが交換されるため、呼吸頻度を一分間に平均1.1回程度に抑えることができる[注 7]。また吸入した酸素も、その多くが血液や筋肉中に貯蔵されるため、肺にとどまる酸素の量はヒトが平均34パーセントであるのに対し、シャチは平均9パーセント程度となる[57]。このため潜水時間は最大15分と、ヒトと比べてはるかに長い時間潜水し続けることができる[58]。
遊泳能力
[編集]シャチの体は、遊泳時における最も理想的な体型であるとされている。これは体長と、体の最も太い部分の直径(体直径)との商で求めることができ、水の抵抗を受けにくいとされる値の範囲が3~7、理想値は4.5となる。シャチの計算値は4~4.5と、理想値に非常に近い値となる。このためシャチは、流線型の体であることも相まって、非常に速いスピードで遊泳することができ、その速度は通常時でも時速40~45キロメートルと鯨類の時速10キロメートル前後を大幅に上回るほか、最高速度は時速65キロメートルと、イシイルカの時速55キロメートルやハシナガイルカの時速40キロメートルを上回る。シャチの場合、後述のように天敵がいない環境下に生きるため、最高速度に迫るようなスピードを出すのは獲物を捕らえる際と考えられており、この時の泳ぎにはサージという呼び名がある[54][59]。またシャチの潜水深度は最大で700メートルを超え、ハンドウイルカ(535メートル)やシロイルカ(647メートル)などを上回る。潜水時にはペダンクルアーチという、海面で背中をアーチ状に丸める姿勢を取る[58]。
生態
[編集]海洋における生態系の頂点に位置する動物で、武器を使うヒトを例外とすると、自然界に天敵といえる動物は存在しない[60]。肉食性で、マグロ、サケ、イワシなどの魚類や、魚類と並んで多いイカ類、イルカやヒゲクジラ、アザラシ、アシカ、ジュゴンなどの海獣類、そして海鳥やウミガメまで、あらゆる種類の海洋生物を捕食する。ただし前述のように海域によって様々なエコタイプが存在し、その違いによって餌としている動物が異なることがわかっており、その違いごとに見れば偏食の傾向があるといえる。海洋における上位捕食者である、ホホジロザメを初めとしたサメ類をもシャチは捕食対象としており、特に脂肪の多い肝臓を好んで食べることが知られている[61]。一日の摂食量は体重の2.5~5パーセント、平均4パーセントにもなるため、胃の大きさも膨大で、平均およそ70リットル、最大では150リットルほどの収容量となる。捕らえられたシャチの胃から、ネズミイルカとアザラシが14頭ずつ出てきたことや、別のシャチの胃からは60頭にも及ぶオットセイの幼獣が出てきたという事例がある[61]。
出産期は概ね10月から3月で、妊娠期間は12~15ヶ月ないし16~17ヶ月。ただしこれは北東太平洋におけるデータであり、飼育下では18ヶ月の妊娠期間を記録した例もある。また排卵周期は42日、出産間隔は2~12年、平均5.3年であることがわかっている[62]。飼育下の記録によれば、正常分娩の場合、妊娠した個体は出産の5日ほど前から徐々に体温が低下していき、さらに出産の直前には通常よりも約1℃ほど低下する。分娩に要する時間は破水が起きてから概ね2~3時間ほどで、尾鰭から生まれる「逆子」状態での出産が多い。授乳は生後1~4日目から始まり、期間は1.5~2年ないし2~2.5年であるがその傍ら、生後2ヶ月あたりから母親から餌を与えられるようになる。初めは母親によって噛みつぶされたものであるが、生後4~6ヶ月あたりからはそのままの小魚を飲み込むようになる[45]。性成熟はメスが10歳頃なのに対し、体の大きいオスはそれよりも長く、16歳頃である[63]。
平均寿命はオスは29歳、メスは50歳で、これまで見つかった最高齢はオスが50~60歳、メスが80~90歳[64]。メスは生涯にわたって5~6頭を出産すると考えられているほか、30~40歳あたりで閉経した後も、数十年以上にわたって群れに留まり続ける(後述)[65][66]。
母子の絆は極めて強い。イタリアのジェノヴァ港では2019年に、死んだ子どもに一週間にわたって寄り添い続けた母親の姿が観察され、現地の経済紙から母親が「喪に服している」と表現された[67]。
海上での行動
[編集]非常に活発な動物で、ジャンプして体を海面に叩き付ける「ブリーチング」や、浅い海底の小石に体をこすりつける「ラビング」、体を水面に垂直に突き出す「スパイホップ」などの行動を取る[68]。それぞれ以下に解説する。
- ブリーチング (Breaching) はブリーチとも呼ばれ、海上にジャンプして体を躍らせながら、勢いよく海面に叩き付ける行動[69]。時には水面から3,4メートルの高さまでジャンプすることもある[68]。目的は若年個体と成熟個体で異なっているとされ、若年個体は遊びの一環であることが多いのに対し、成熟個体のそれは落ちるときの水音を利用して仲間に何かしらの合図を送っているものであると考えられている。またこの行動自体は他の鯨類でも見られる行動であるが、特に大型の鯨では古い皮膚や汚れなどをそぎ落とす目的が含まれていると考えられ、シャチの行動もその一環であるとされる[69]。
- ラビング (Rubbing) は浅い海底に転がる小石に体をしきりにこすりつける行動で[68]、特に沿岸部に生息する個体群によく見られる。目的として、体表の寄生虫や古い皮膚などの除去[70]、または単なる遊び[68]、などが考えられている。個体群によってはラビングを行う場所がおおよそ決まっており、例えばジョンストン海峡やプリンス・ウィリアム湾にはシャチが頻繁にラビングを行う、丸みのある小石が転がる浜が存在する[70]。
- スパイホップ (Spy-hop) は水面から体の前半分を突き出す行動で、ブリーチングと同様、他の鯨類でも見られる[68]。陸地の近辺や海藻の中を遊泳するとき、船舶が接近した際などに見せることが多い。ときには体の半分以上を突き出すこともあり[69]、この状態のままゆっくりと回転することもある。視覚を使い、周辺の様子を観察する意図があるものと考えられている[68]。
この他にも、尾鰭や胸鰭を海面に叩き付けて音を出したり、海を漂う海藻や流木を体や鰭に引っかけるなどの行動を取ることもある(前者は仲間に合図を送る目的で、後者は単なる遊びであると考えられている)[71]。
群れ
[編集]社会的な生活をし、母子を中心とした非常に強固な群れを形成する。この群れはポッドと呼ばれ、母子を中心としたいくつかの家族群(サブポッド)の集合体である[72][73]。哺乳類としては珍しく、生まれたオスが一生を母親のポッドで過ごすことが知られているが、長男がポッドにとどまる一方で、次男以下がポッドを離れ、母と同じ生活圏で単独生活を送る様子が観察されたこともある。またメスの場合は産んだ子どもと新たなサブポッドを形成することもある。個体数は海域やエコタイプによって異なり、20頭程度の場合もあれば、100頭以上にも成るポッドを形成することもある。また血縁関係のある複数のポッドの集合体をクラン、それらの集団をコミュニティーと呼ぶほか、コミュニティー内の複数のポッドが集合して100頭以上にもなる集団(スーパーポッド)を形成することもある。この集団は同じコミュニティーに属するポッド同士で形成され、異なるコミュニティーのポッドが集合することはない[73]。狩りを除く移動時には高密な隊列を組み、規模によっては数キロメートル四方に散らばることもある[47]。またこの中ではオス同士による性行動が観察されたこともあるが、その目的についてははっきりしていない[73]。
またシャチは海洋生物の中では珍しく、閉経した後もポッドに留まって数十年以上に渡って生き続ける動物であり、この特徴はシャチのほかにコビレゴンドウやオキゴンドウでしか確認されていない。閉経したメスは役割が産児から育児へと転換され、自分のポッドで子どもや孫の養育に携わる。こうした行動は「おばあさん効果」と呼ばれるものであるが、シャチはヒト以外でそのような習性が見つかった初めての例であり、実際に北東大平洋のポッドでは、祖母の死後、数年で孫世代の生存率が低下しており、閉経後の個体の存在が下の世代の生存率に寄与していることがわかっている[65]。また後述するバルデス半島での狩りの技術伝承をはじめ、群れの文化を若い個体に伝承するのもこうした年長のメスの役割である[74]。
ただしこうした生態が裏目に出ることがある。1958年と1977年には枝幸町でそれぞれ20頭と8頭が、2005年2月には羅臼町近海で9頭が流氷に閉じ込められて死亡した。これらは単体ならば逃げ出すことができたが、強い絆で結ばれているが故に、動けない個体を見捨てることができず、犠牲が増えたものであると考えられている[10]。
鳴音
[編集]他のイルカ類の例に漏れず、シャチも水中で鳴音を発し、それを巧みに利用している。シャチが使う鳴音にはクリックス、ホイッスル、コールの3種類があり、目的に応じて使い分けがされている。
- クリックスは0.8~2.5ミリ秒間隔(一秒間に数発から数十発程度)で発射されるパルス状の音で、人間の耳にはぎりぎりとドアが軋む音に類似した音となって聞こえる。周波数帯域が広く、エコーロケーションに利用される[75]。
- ホイッスルは周波数1.5~18キロヘルツ、帯域6~12キロヘルツ程度の、0.05~12秒くらいの継続時間を持った音で、人間の耳には口笛のように聞こえる。コンタクトコールに利用されていると考えられており、社会的な相互行動の際にしばしば観測される[75]。
- コール(またはパルスコール)は周波数25キロヘルツまでの広帯域を持つ、密に連続し合った短いパルス状の音で、ポッドによって様々なパターンを有していることから「方言」とも称されている。各ポッドでそれぞれ固有のコールが存在し、ポッドやクランを構成するメンバーによって共有され、特に血縁関係が近くなるほど多くのコールが共有される[75]。ポッドにもよるが共有されるコールの数は平均で11ある[72]。親から生まれた子へと代々継承されるため、ポッド内では10年以上に渡ってコールの形態がほとんど変化していないものと考えられている。海洋を広がっての遊泳時や狩りの際には頻繁に鳴き交わしが行われている。シャチの研究においては、コールの違いがポッドを識別する手段の一つとなる[75]。
狩り
[編集]高い知能を有し、群れで行動するシャチは仲間同士で協力し合い、高度な戦略を組み立てて狩りを行うことが知られている。例えばノルウェーのフィヨルドでは冬期にニシンの群来があり、それを狙ってシャチもやってくるが、遊泳速度の速いニシンを確実に捕らえるために、追い込みやすい規模にニシンの群れを分断するという戦略を立てている。これは密集した魚群の周りを旋回しながら追い込んでいく「カルーセルフィーディング」という方法で、シャチは自身の目立つ白い腹部をきらめかせたり、ニシンに向かって気泡を発するなどして威嚇しながら分断、また密集させ、海面に追いやって逃げ場を奪い、尾鰭を打ち付けて失神させ、捕食する。また尾鰭を水面に打ち付け、その音で岩陰に隠れた魚を追い出す光景も見られる[76]。
イルカやクジラの群れを襲う際も、複数頭で群れの周りを取り囲み、魚群と同様に密集させて、逃げ場を奪ってから一頭ずつ交代で群れに襲いかかる。大型のクジラであっても標的となり、単独行動してる個体や親子連れなどがよく襲われ、全身に噛みついて体力を消耗させてから仕留める方法や、上に乗り上げて水中に沈めて溺死させる方法などがある。氷上にいるアザラシ類を襲う際は、氷の下からの奇襲、氷上に乗り上げての追い立て、氷を傾けて滑り落とす、といった様々な戦略が取られる。またイルカやアザラシに対して尾鰭を打ち付ける攻撃もしばしば行われ、特にアザラシは海面高く(25メートルという例がある)打ち上げられることも多い[76][77]。
また飼育下のシャチが、近寄ってきた水鳥に襲いかかった例もある。この時シャチは飼育員から与えられた餌を口に入れたまま飲み込まず、それをプールサイドに放り出し、釣られてやってきたカモメなどの水鳥に襲いかかっている[78]。
浜辺に突進するシャチ
[編集]アルゼンチンのバルデス半島では毎年1~5月にかけて繁殖のためにオタリアが来遊し、それを狙うシャチが浜辺のオタリアに突進する姿が見られる。これは「ストランドフィーディング」と呼ばれる、背鰭が水面に見え隠れするぐらいの深度で潜水し、オタリアに気付かれないように浜辺に接近して、油断しているところを時速60キロメートルもの速さで突進して捕獲するというもので、シャチは前進時にできる波頭をレンズ代わりにして浜辺のオタリアを視認しているほか、海に戻るために適度な浜の傾斜を、また距離を測るため打ち寄せて返る波をも計算しているとされる。また一頭が奇襲を行い海へ逃げてきたオタリアをもう一頭が捕らえるという囮作戦のような戦略を取る個体や、水路で待ち伏せを行う個体も確認されており、狙われるのは多くが幼獣である[79]。この狩りは1970年代に「メル」と名付けられたオスの個体によって編み出され、やがて他の仲間も真似するようになり、後の世代へと継承されている[74][79]。
同様の行為はインド洋に浮かぶクロゼ諸島でも見られる。ここでは9月頃に浜で繁殖するゾウアザラシを狙ってシャチがビーチハンティングを行っており、海に出ようとした若い個体が多く狙われる。狩りの際は攻撃役の他に、監視役とみられる個体も観察されている。シャチはアザラシを音で判別でき、例えばヒトがわざと似せて立てた水音でも、それがアザラシでないと察知して近寄らない[80]。
こうした狩りは失敗すると座礁して、そのまま命を落とすリスクを秘めているが、シャチは狩りの前に別の浜で狩りの「練習」を行い、そのリスクを減らしている。練習は幼獣も行い、海に戻る技術を身につけるために成体に浜へ押し上げられる光景も見られる。この他に獲物を散々にいたぶりながら、捕食せずに岸に戻すという光景も観察されており、これも狩りの練習や技術の継承であると考えられている[79][80]。
クジラの抵抗
[編集]シャチの攻撃に対し、大型のクジラが防御もしくは妨害の行動を示すことがある。先述の通り、大型のクジラでよく狙われるのは親子連れであり、執拗に追い回して母親から引き離した幼獣を狙うが、母親の抵抗に負けて失敗することも多い。またマッコウクジラはシャチに対する防御策として、群れのメンバー全員で頭をシャチの方に向けて集結する、または幼獣を中心に、その周りを成体が頭を内側に向けて取り囲むという隊列を組むことがある。それぞれ「ヘッドアウトインフォメーション」「マーガレットフォーメーション」と呼ばれており、前者は大きめの集団で、後者は比較的小さめの集団でしばしば見られる。またザトウクジラがシャチに襲われたコククジラを守ろうとした例や、自身の体にアザラシを乗せてシャチの攻撃から守った例などがあり、こうした行動は判明しているだけでも100件以上に上る。全てのザトウクジラがそうした行動を取るわけではないことも踏まえ、かつてシャチに襲われた個体による、同じ海域に生息するシャチへの本能的な示威行為や、襲われたことで学んだ結果が妨害行動に結びついたとも考えられているが、実態ははっきりしていない[81]。
人間との関係
[編集]ホエールウォッチングの対象であり、北米西海岸やバルデス半島、カリブ海、欧州沿岸部、ニュージーランドなどで見ることができ、日本では北海道の羅臼沖でツアーが実施されている[82]。
前述の通り、自然界における天敵は存在しないが、地球全体で見れば唯一の天敵として人間が存在する。特に魚食性のタイプは餌である魚類を巡って人間と競合することも多く、漁業の阻害になるとして射殺されることもある。また長命であるが故に、海洋汚染による有害物質の蓄積も問題となっている[47]。
シャチと先住民族
[編集]北極海を囲むように広がる北アメリカ大陸やユーラシア大陸で暮らす北方先住民族は、魚類はもちろん、アシカやアザラシといった鰭脚類、イルカ類や大型のクジラ類も貴重な食糧として狩猟の対象としていた一方、シャチは特別な存在として扱い、時には神に等しい存在として崇拝していた[83][84]。
北海道の先住民族であるアイヌ民族は先述の通り、シャチに追い立てられて浜に座礁した「寄りクジラ」と呼ばれるイルカやクジラを、シャチからの贈り物と捉え、十以上の神にまつわる意味を持つ呼び名で呼んで崇拝してきた。シャチは彼らの生活に深く浸透しており、武器の紋様に刻み込まれたり、ユーカラに歌い込まれたりしていた。また樺太東岸の先住民族であるウィルタはシャチを「海の主」の象徴と捉え、たばこなどを削掛に包んで海に投げ入れ、シャチへの捧げ物としていた。また樺太北部からユーラシア大陸のアムール川流域に暮らすニブフは、肉や脂肪を求めてシロイルカの狩猟を行っていた一方、シャチに対しては人間と同じであると捉えて狩猟の対象とせず、シャチに願掛けをすることでクジラやアザラシが贈られるものと考えていた[83]。
北アメリカ大陸の先住民族であるインディアンのうち、アラスカ南部からカナダ西岸とアメリカ・ワシントン州にかけて暮らす諸族(北西海岸インディアン)はイルカやクジラを初めとした幅広い種類の海獣類を狩猟してきたが、その中でシャチは、獲物を岸辺近くまで追い込んでくれる、有能なハンターとして特別視されていた。アイヌと同様、インディアンの生活にもシャチの存在は深く浸透しており、例えばトーテムポールや仮面、帽子、ブランケット、サケをたたく棒などの造形物に、シャチがモチーフとして取り入れられている。他に、家屋の正面をシャチの顔に見立てたり、ワシやオオカミと同様に一族の紋章として讃えたりもしていた。またシャチの背鰭には女性の霊が宿っているとも考えていた[84]。
これ以外に存在する多くの北方民族も、共通してシャチを狩りの対象とはしておらず、特別な存在として扱っていた。また北方民族だけでなく、例えばペルー南岸で栄えていたアンデス文明のうち、ナスカ文化の出土品や遺構には、シャチが描かれた種々の彩色土器や、シャチがナイフを手にした擬人的な造形物など、シャチをモチーフとしたものが数多く存在する。またナスカの地上絵には、シャチを模して描かれたとされるものもあるなど、シャチはナスカ文化の中でも特別な存在として扱われてきた[85]。
捕鯨
[編集]世界的に見ればシャチは狩りの対象から外れる傾向にあるが、日本ではかつて、水産業の一角としてシャチの捕獲が行われていた。1941年には15頭、1948年には48頭の水揚げの記録があり、1948年から1972年までの24年間で、1483~1516頭のシャチが捕獲された。しかし1973年以降は捕獲数が年間で多くとも3頭と激減し、1990年以降は学術目的以外での捕獲が禁止された[86]。
水族館での飼育
[編集]シャチは人間への懐きやすさと訓練に対する順応度の高さから、水族館でも飼育され、ショーにも利用される。シャチの飼育が初めて行われたのは1961年のアメリカ・バンクーバー水族館で、1977年にはロサンゼルスのマリンランドで初めて出産があったが間もなく死亡した。出産に加え、生まれた子の育成に成功したのは、1985年のフロリダ・シーワールドが初である。アメリカの水族館では1997年から2005年までの9年間で6度の妊娠と4度の正常な出産があったが、いずれも短命に終わっている[87][88]。
日本におけるシャチの飼育は、1970年9月にシアトルから千葉県の鴨川シーワールドに搬入された2頭がはじまりであり、翌月から展示が開始され、ショーも展開されたことで日本国内におけるシャチの知名度を引き上げる要因となった。2021年4月現在までで、鴨川シーワールド、和歌山県・アドベンチャーワールドと太地町立くじらの博物館、神奈川県・江ノ島水族館、静岡県・伊豆・三津シーパラダイス、愛知県・名古屋港水族館の計六館の水族館で飼育実績があり、このうち鴨川シーワールド、名古屋港水族館では現在でも飼育展示が行われている[87]。また日本における初出産は1982年の江ノ島水族館の「サッチー」という個体であるが、これは搬入時点ですでに妊娠していたもので、国内での飼育下の個体同士による初出産は1992年の鴨川シーワールドの「マギー」という個体であり、その5年後には「ステラ」という個体から生まれた「ラビー」が国内で初めて、死亡することなく順調な生育を果たしている[45]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ アラスカ東南部からワシントン州沿岸部までを行動圏とした個体群と、カナダ南端からカリフォルニア南部までの行動圏を持つ個体群とで区別することもある[20]。
- ^ 自分たちとは異なるタイプの存在に気づくと、不意に泳ぐ向きを変えて立ち去ったという様子が観察されることも多い[18]。
- ^ 背部の暗色の部分と、側部の淡色の部分とがはっきりとした境界を持つ場合の、背部の暗色の部分を指す[36]。
- ^ ドーサル・ケープ(背中の外套)という呼び名がある[33]。
- ^ この特徴も他のクジラ類と共通であり、例外的にシロイルカなどのイッカク科やカワゴンドウ、カワイルカなどは頸椎の癒合がないため、首を動かすことができる[56]。
- ^ 他種の例として、オキゴンドウは10~11対、ハンドウイルカは12~14対、スジイルカは14~16対[56]。
- ^ ヒトの一回換気量は約500cc、空気の交換率は約20パーセント、呼吸頻度は1分間に平均11回[57]。
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参考文献
[編集]※著者50音順
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- 村山司・笠松不二男、2007年3月15日初版第8刷発行、『ここまでわかったイルカとクジラ』、講談社 全国書誌番号:96044178 ISBN 4-06-257108-0
- 村山司・森阪匡通、2012年2月5日初版発行、『ケトスの知恵 イルカとクジラのサイエンス』、東海大学出版会 全国書誌番号:22055851 ISBN 978-4-486-01917-6
- 村山司・鈴木美和・吉岡基、2015年4月20日初版発行、『続イルカ・クジラ学』、東海大学出版部 全国書誌番号:22558953 ISBN 978-4-486-02047-9