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鯨類

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
鯨類
生息年代: 53.0–0 Ma
保全状況評価[1]
ワシントン条約附属書II
地質時代
約5,300万年前 - 現世
新生代古第三紀始新世ヤプレシアン
- 第四紀完新世
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 偶蹄目/鯨偶蹄目 Artiodactyla/Cetartiodactyla
亜目 : Whippomorpha鯨河馬形類
下目 : 鯨下目 Cetacea
学名
Cetacea Brisson, 1762[2]
和名
鯨類[3]
英名
Cetaceans[3]
下位分類群

鯨類(げいるい、くじらるい、英名Cetaceans)は、偶蹄目または鯨偶蹄目鯨下目(げいかもく、Cetacea)に分類される分類群魚類体形の現生水生哺乳類と、その始原的祖先である陸棲哺乳類、および、系統的類縁にあたる全ての化石哺乳類を総括したグループを言う。新生代初期の水辺に棲息していた小獣を祖として海への適応進化を遂げ、世界中の海と一部の淡水域に広く分布するに至った動物群である。

構成種はクジラ(whale)、イルカ(dolphin)、ネズミイルカ(porpoise)と呼ばれる[3]。ただし、クジラとイルカは系統学的グループでも分類学的グループでもなく、ハクジラの一部の小型種がイルカとされることが一般的である。

かつては哺乳綱を構成するの一つであったが、新たな知見に基づいて偶蹄目と統合された結果、新目「鯨偶蹄目」の下位分類となった。もっとも、下位分類階級の「亜目」「下目」「小目」などで言い換えられることはまだ少なく、便宜上、従来と変わらず鯨目クジラ目が用いられることが多い(右の分類表、および、最下段の「哺乳類の現生目#廃止・希」を参照)。

呼称

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和名

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目階級とする分類における2018年時点の標準和名は「鯨目」であり[4]漢字をカタカナで表記した「クジラ目」とすることもある[5]。また、より上位の階級名の慣例として、音読みで「げいもく」とする。「くじらもく」と湯桶読みするようになったのは後世のことである。

偶蹄目に含めるなどして鯨目を認めない分類の場合、鯨類Cetaceaには鯨亜目[6]鯨下目[7]などの下位の階級が当てられている。

日本語の「クジラ」の語源については、大きな口を持つことから古来「口広(クチビロ)」と呼んでいたのが転訛して「クヂラ」となったとする説、体色が黒と白に色分けされていることから来る「黒白(クロシロ)」に由来するという説など、諸説がある。「イサナ」とも呼び、漢字で「勇魚(勇〈イサ〉魚〈ナ〉)」「不知魚」「伊佐魚」などと書き表してもいた。漢字表記の「鯨」は中国語に由来する。

学名・外国語名

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クジラの学名や星座名の Cetus は、「海獣、海の大魚、鯨」を意味するラテン語で、古代ギリシア語: κῆτος (kētos) からの借入語。 なお、ラテン語本来の発音は「ケートゥス」であり、また属名などの構成要素として使われる際の英語の発音は「シータス」である。「ケタス」「セタス」はいずれも日本語独自の慣習読み。

また、本来のラテン語でクジラを意味する balaenaホッキョククジラ属の属名ともなっている。イタリア語 balena、スペイン語 ballena、フランス語 baleine などいずれもこの語に由来する。また、英語で「クジラのひげ」を意味する baleen も同語源である。ちなみに、「ヒゲクジラ」のことを英語では baleen whale という。

英語 whale は、オランダ語の walvis、ドイツ語の Wal、スウェーデン語の val などとともに、ゲルマン祖語 *khwalaz からの発展形である[8]

現代中国語ではjīngと呼ぶ。漢字では「鯨」と書かれ、これは発音を表す「京」と意味を示す「魚」とから構成される形声文字である。発音表記に「京」ではなく「畺」を用いた「䲔」や、「勍」を用いた「⿰魚勍」といった文字もかつて使われた[9][10]。なお、「京」を京 (数)に見立てて「巨大な」が文字の由来と説明されることがある[11]が、これは民間俗説に過ぎず学術的には否定されている。

クジラとイルカ

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日本語では、クジラの中でも成体で体長5m程度以下の比較的小型のハクジラの一部をイルカと呼ぶが、生物分類上はクジラとイルカの間に明確な境界は無い[12]。この曖昧さは日本語だけのものではなく、例えば英語では、ヒゲクジラの全てと大型ハクジラ類を Whale(クジラ)、小型のハクジラ類(概して日本語での「イルカ」)をさらに Dolphin(イルカ一般)と Porpoise(ネズミイルカ)の2つに分け、計3種類に区別して呼ばれるが、生物分類上は WhaleDolphin の境界は明確ではない[13]

生物的特徴

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祖先

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古生物学の世界では長い間、新生代暁新世から始新世にかけて生息した肉食性有蹄動物メソニクス目 Mesonychia がクジラ類の祖先にあたるとの見方が、伝統的かつ支配的であった。しかし、これに替わって2000年頃からは新たな知見に基づき、原始的な肉食性偶蹄類がそれであるとの見方が有力となっている[14](これに基づけばメソニクス目はクジラ及び偶蹄類と近縁ではあるが姉妹グループであり、クジラの祖先ではないとみなされている)。

始新世初期[15]に、水中生活への依存度を高めていた陸生偶蹄類の一群が、その環境への適応を一段と進めて分化(分岐して進化)していったものであるとの説である。この新たな知見とは、塩基配列の解析など進歩著しい分子系統学からのアプローチや、偶蹄類に近い特徴とクジラ類に固有の特徴を併せ持った距骨を具える四つ足の始原的クジラ類の化石発見からもたらされた形態学由来のものであった[16]。また、分子系統学からは、クジラ類はカバ科姉妹群であるとの指摘がなされている[17]。これを既知の知見と照合すれば、クジラとカバの系統的分化は少なくとも暁新世の後期以前に起こっていたことになる。しかし、その時代からの化石がまだもたらされていない今日では、約5,300万年前(始新世初頭)が実証可能な最古の時代であり、パキケトゥス科をもって最古としている。彼らの段階ではクジラ類はまだ、水に潜って餌を獲ることの多い体長2mほどの四つ足動物でしかなかった[18]。その後、アンブロケトゥス科レミングトノケトゥス科プロトケトゥス科 Protocetidaeと進化するにつれ徐々に水圏への適応能力を増大させていき、バシロサウルス科になると尾鰭を獲得して完全に水圏適応型となった。ただしこの時点では退化しているとはいえ後肢が残存しており、またいまだに外洋へ進出する能力は持たず、浅海に生息していたと考えられている[19]。その後、漸新世に入ると古鯨類はほぼ絶滅し、代わって現生のヒゲクジラ類とハクジラ類が繁栄するようになった[20]。系統分類についてさらに詳しくは鯨偶蹄目を、進化経緯については古鯨類を参照のこと。

生態

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クジラ類は全て水生であって主にに生息するが、カワイルカ類など一部のものは汽水域に生息する[21]。現生動物としては体長や体重が最大のグループを含み、特にシロナガスクジラは動物として史上最大の質量(体重約130t)を誇る。一方で、クジラ目の中で最も小さいのはコガシラネズミイルカであり、体長は約1.5m、体重は50kg程度に過ぎない。魚類イカ類などの頭足類を食べるハクジラ類と、オキアミなどのプランクトンや群集性小魚類を食べるヒゲクジラ類では食性が異なるが、全て広い意味での肉食性である。ハクジラ類は海の生態系の最上位のほか、高位の多くを占め、ヒゲクジラ類も低位消費者の最大種を含む一大グループとして多様な進化に成功したものである。

クジラ類のには耳殻は無く、単なる直径2mm程度の穴であり、耳垢がつまっている。ヒゲクジラでは耳垢の層を数えることにより、ある程度の年齢を推測することができる[22]。これに対し、ハクジラの年齢推測には歯が用いられる[22]。脂肪を蓄え、それによって水分を作ってすごす。汗腺は無い。頭部の背側に呼吸のための噴気孔を有す。噴気孔はヒゲクジラでは2個、ハクジラでは1個である。噴気孔は開閉が可能であり、頭部を水面上に出して噴気孔を開けて空気を吸い、それ以外の潜水する時などは噴気孔を閉じて水の浸入を防ぐ[23]いびきをかくこともある。は固形分が少なく液状に近い。哺乳類であるので恒温動物であり、体温は35-36℃で一定に保たれ[24](へそ)もある。乳首は2つあり、風邪もひく。泳ぐ速度は時速 3kmから50km程度。これまで知られている最高年齢としては、ナガスクジラで114歳、シロナガスクジラで110歳となっており、小型種になるにつれて最高年齢は低くなる傾向にある[25]

分類と系統

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鯨類は、古鯨類(ムカシクジラ類)、ハクジラ類ヒゲクジラ類の3つの分類群に大別されるが、古鯨類に属する種は全て絶滅しており、現生はヒゲクジラ小目とハクジラ小目の2小目である。ハクジラ類とヒゲクジラ類は一時単系統性が疑われたこともあるが、単系統ということで決着が着いた。「ハクジラ類・ヒゲクジラ類以外の全て」という形の古鯨類は単系統ではないため[26]、廃したり、いくつかの科を除外したりすることも多い。

ハクジラ類は古鯨類と同様に獲物を捕えるための歯を持っている。また、ハクジラ類は、自分の出した音の反射を利用して獲物や障害物を探る反響定位(エコーロケーション)のための器官、すなわち、上眼窩突起、顔の筋肉、鼻の反響定位器官を発達させていることを特徴とする。イルカ、シャチイッカクなどもハクジラ類に属する。一方、ヒゲクジラ類は、口内にプランクトンやオキアミなどをこし取るための(くし)状の髭(ひげ)板を持つのが特徴で、歯は消失している[27]

鯨類の代表的な種
(1.3.6.7.はヒゲクジラ、2.4.5.8.はハクジラ)
1. ホッキョククジラ
2. シャチ
3. セミクジラ
4. マッコウクジラ
5. イッカク
6. シロナガスクジラ
7. ナガスクジラ
8. シロイルカ

分類

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鯨類を無肉歯類とともに亜目として類鯨目Ceteに置き、ハクジラ類とヒゲクジラ類を小目として正鯨下目Autocetaにまとめることもあったが、のちに分子系統推定によって鯨類と偶蹄類の類縁関係が認められるようになり、無肉歯類との類縁性は否定されている[6]。1999年に提唱されたクレードである鯨河馬形類を亜目階級に置き、鯨下目とカバ下目Ancodontaをその下位に含める分類も提案されている[28][29]

かつてはカワイルカを総括するカワイルカ上科 Platanistoidea を置くことがあったが、側系統であることが判明し、分割された。

系統

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現生鯨類の系統関係は次のとおり。現生ではカバ科(カバ下目、Ancodonta)が姉妹群であり、併せて単系統群鯨凹歯類(ケタンコドンタ、Cetancodonta もしくは Whippomorpha)をなす。ナガスクジラ科の単系統性は疑わしく、コククジラ科と併せて単系統をなす。

鯨凹歯類

カバ科

鯨類
ヒゲクジラ類

セミクジラ科

コセミクジラ科

ナガスクジラ科 + コククジラ科

ハクジラ類
マッコウクジラ上科

マッコウクジラ科

コマッコウ科

アカボウクジラ科

インドカワイルカ科

ヨウスコウカワイルカ科

アマゾンカワイルカ上科

アマゾンカワイルカ科

ラプラタカワイルカ科

マイルカ上科

マイルカ科

ネズミイルカ科

イッカク科

保護

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ホエールウォッチング, バルデス半島 (アルゼンチン)

国際的な鯨類の保護としては、IUCN(国際自然保護連合)が作成したレッドリストに多くの種が掲載されており、国際的な商取引を規制する絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)にもクジラ目の全種が附属書IあるいはIIに掲げられている。また、1946年には国際捕鯨取締条約が採択され、鯨類の資源管理・保存・利用が進められている。なお、国際捕鯨取締条約によって管理対象とされているのは大型鯨類17種であり、イルカなど小型鯨類の多くは捕鯨禁止対象となっていない[30]

20世紀に入ると捕鯨法の効率化に伴って一部の鯨類の乱獲が問題となり、1982年には国際捕鯨委員会(IWC)によって商業捕鯨モラトリアムが決定された[30]。これに対し数カ国が異議申し立てを行い捕鯨を継続したものの、1987年には商業捕鯨はすべて停止された[31]。一方、鯨類資源の調査のため同年から日本は調査捕鯨を開始した[32]。その後、IWCでは日本など捕鯨国とアメリカなど反捕鯨国との間で膠着状態が続き、約束されていた商業捕鯨モラトリアムの見直しは行われず、また資源量の豊富な種における捕鯨禁止解除も行われなかった。こうしたことを受け、日本政府は2019年にIWCを脱退し、同年に商業捕鯨を再開した[30][33]

日本では環境省及び水産庁の法令等により保護・管理されている。環境省は哺乳類レッドリストでは対象外としているが、種の保存法に基づく国際希少野生動植物種にはクジラ目の種も指定している[34]。これは罰則規定がないワシントン条約の国内での実効的な運用を目的として設けられている。一方、水産庁は水産資源の持続的利用を目的として「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」という水生生物のレッドデータブックを発行しているが、その評価基準及びカテゴリーは最新のIUCNカテゴリーではなく、環境省の1991年版カテゴリー(IUCNカテゴリー ver.1)に準じており、また独自のカテゴリーも設けている[35]など、複数の専門家から問題点が指摘されている。たとえば、水産庁のレッドリストでは、生息数の変動が自然変動の範囲内である野生生物は「普通種」としてランクされる(例えば、10万頭が1万頭に激減しても、その後、大きな変動が無ければ「普通種」と評価される)[36]という点を日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)の羽山伸一助教授(当時)が指摘している。また、日本鯨類研究所では、捕鯨対象種の鯨種のうちシロナガスクジラとホッキョククジラ以外の資源は健全であると発表している[37]が、これは、全ての生息数を合算したものであり[38]、それに対して、元日本鯨類研究所の粕谷俊雄教授は、鯨の生息数は世界で均一ではなく、その地域の個体群ごとに資源の管理を行わなければいけないと指摘している[39]

IUCNレッドリスト

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下記にIUCN(国際自然保護連合)が作成した2006年版レッドリストに記載されている主な鯨類を示す。括弧内は分類された年で、「」内はIUCN日本委員会の訳語である。

「絶滅寸前」 (CR:Critically Endangered) 2種
「絶滅危機」 (EN:Endangered) 7種
「脆弱」 (VU:Vulnerable) 5種
「低リスク - 保全対策依存」 (LRcd:Lower Risk - Conservation Dependent) 14種
「低リスク - 準絶滅危惧」 (LRnt:Lower Risk - Near Threatened) 1種
「低リスク - 軽度懸念」 (LRlc:Lower Risk - Least Concern) 13種
「情報不足」 (DD:Data Deficient) 39種

ワシントン条約の附属書

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下記に絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の附属書に掲げられた鯨目の種を示す。

附属書I
附属書II
  • 附属書Iに掲げる種以外の鯨目全種

人類との関わり

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利用

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くじら弁当
(館山駅、2005年3月21日)

人類は古くから鯨類全般を食用としており、日本においてもすでに縄文時代前期に能登半島真脇遺跡において多数のイルカの骨が出土していることから、すでにイルカ漁が始まっていたと考えられている[40]。日本において捕獲された鯨類は鯨肉として消費されるのが基本であり、ほとんどすべての部位を食用とする[41]。鯨を食用とする地域は日本だけではなく、ノルウェーアイスランドで食用習慣があり、またアラスカやカナダのイヌイットカリブ海の数カ国でも鯨類の捕獲と食用は行われている[42]。一方ヨーロッパの多くの国やアメリカなどでは鯨類を食用とする習慣がなく、主に鯨油を目的として捕鯨を行っていた。鯨油はランプ用の燃料やろうそくの原料として需要が高く盛んに生産されたものの、20世紀に入ると石油の生産が盛んになるにつれて需要が落ち込み、ほとんど生産されなくなった[43]。また日本においては肉・油脂以外の部位も盛んに利用され、鯨ひげはゼンマイや傘の骨などの工芸材料として、鯨骨も工芸材料や肥料として利用されてきた[44]

捕鯨

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鯨類は食料としても資源としても有用なため、鯨類の多く生息する海域では古くから捕鯨が行われてきた。初期の捕鯨は沿岸に流れ着いてきた個体を捕獲する程度のものだったと考えられているが、すでに縄文時代の真脇遺跡ではイルカの追い込み漁が行われていたと考えられている[45]。その後、ヨーロッパでは11世紀、日本では12世紀に捕鯨業が成立し、による突き取り式の漁法で捕鯨を行っていたが、日本では16世紀に網取り式捕鯨が考案されて主流となった[46]。20世紀に入ると捕鯨砲で銛を打ち込む近代捕鯨法が成立して全世界に広まったが[47]、効率化した捕鯨法は乱獲を生んでいくつかの鯨類の個体数が激減し、1982年には指定された種の商業捕鯨が禁止された[46]。一方で、先住民が生存目的で行う先住民生存捕鯨は商業捕鯨禁止後も操業が認められており、北極海沿岸のアメリカ・カナダ・ロシア・グリーンランドではイヌイットなどの先住民によって捕鯨が継続されているほか、インドネシアなどいくつかの地域でも捕鯨が行われている[48]

日本では古くから捕鯨は一大産業となっており、また漁村に多くの恵みをもたらす存在であったことから、祭礼伝統芸能、捕鯨施設などさまざまな捕鯨文化が現代に至るまで残されている[49]

水族館とホエールウォッチング

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小型の鯨類は水族館で飼育することも多く、また知能が高いイルカやシャチを訓練してイルカショーを行うところも多い[50]

1980年代後半以降、クジラの生態を観察するホエールウォッチングが世界各地で急速に人気を集めるようになり、エコツーリズムの観点からも、また多くの観光客が押し寄せることによる経済的・社会的観点からも期待され、経済的効果を上げている[51]。一方で、船を出し直接近くに寄って観察を行うことは鯨類に大きな負担をかける行為であり、短期的にも長期的にも影響が大きいため、法律や自主規制によってある程度のルールが形作られているところも存在する[52][53]

脚注

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  1. ^ CITES, Appendices I, II and III valid from 22 June 2021, Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora, Accessed on 10 April 2022.
  2. ^ James G. Mead and Robert L. Brownell, Jr., “Order Cetacea,” In: Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 723-743.
  3. ^ a b c アンソニー・マーティン・吉岡基訳「クジラとは?」アンソニー・マーティン編著・粕谷俊雄監訳『クジラ・イルカ大図鑑』平凡社、1991年、10-11頁。
  4. ^ 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
  5. ^ 田隅本生哺乳類の日本語分類群名,特に目名の取扱いについて —文部省の“目安”にどう対応するか—」『哺乳類科学』第40巻 1号、日本哺乳類学会、2000年、83-99頁。
  6. ^ a b 日本哺乳類学会 種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会「哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について」『哺乳類科学』第43巻 2号、日本哺乳類学会、2003年、127-134頁。
  7. ^ 西村双葉・白形知佳・崎山直夫・鷲見みゆき・大津大・鈴木美和「神奈川県におけるサラワクイルカ座礁の初記録」『神奈川県立博物館研究報告(自然科学)』2024巻 53号、神奈川県立生命の星・地球博物館、2024年、103-112頁。
  8. ^ Indo-European Etymology Database
  9. ^ 説文解字』「䲔、从魚畺聲。鯨、䲔或從京。」
  10. ^ 劉志基 (2013), 中國漢字文物大系, 11, 鄭州: 大象出版社, p. 559, ISBN 978-7-5347-7728-8 
  11. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p109 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  12. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p2 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  13. ^ 「イルカ概論 日本近海産小型鯨類の生態と保全」p1 粕谷俊雄 東京大学出版会 2019年2月15日初版
  14. ^ 「シャチ学」p21-23 村山司 東海教育研究所 2021年7月30日第1版第1刷発行
  15. ^ この時期には既にクジラは古鯨類であった。よって、理論上はさらなる過去に始まりがあってもよい。そこに後述のカバの進化系統との分水嶺がある。
  16. ^ 平たく言えば、血筋の分析と、他には無い骨格的特徴の観察、それらを基にした見極めの結果である。
  17. ^ 「シャチ学」p21 村山司 東海教育研究所 2021年7月30日第1版第1刷発行
  18. ^ 「鯨類学」p23-25 村山司編著 東海大学出版会 2008年5月20日第1版第1刷発行
  19. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p3 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  20. ^ 「鯨類学」p35 村山司編著 東海大学出版会 2008年5月20日第1版第1刷発行
  21. ^ 「続 イルカ・クジラ学」p136-137 村山司・鈴木美和・吉岡基編著 東海大学出版部 2015年4月20日第1版第1刷発行
  22. ^ a b 「クジラ・イルカの疑問50」p68-71 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  23. ^ 「鯨類学」p110-111 村山司編著 東海大学出版会 2008年5月20日第1版第1刷発行
  24. ^ 「イルカ概論 日本近海産小型鯨類の生態と保全」p12 粕谷俊雄 東京大学出版会 2019年2月15日初版
  25. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p92-94 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  26. ^ 「鯨類学」p21-23 村山司編著 東海大学出版会 2008年5月20日第1版第1刷発行
  27. ^ 「イルカ概論 日本近海産小型鯨類の生態と保全」p3-6 粕谷俊雄 東京大学出版会 2019年2月15日初版
  28. ^ Erik R. Seiffert & Jonathan Kingdon, “Suborder Whippomorpha — Hippopotamuses, Cetaceans,” In: Jonathan Kingdon & Michael Hoffmann (eds.), Mammals of Africa: Volume VI. Hippopotamuses, Pigs, Deer, Giraffe and Bovids, Bloomsbury Publishing, 2013, Page 61.
  29. ^ Connor J. Burgin, Jane Widness & Nathan S. Upham, “Introduction,” In: Connor J. Burgin, Don E. Wilson, Russell A. Mittermeier, Anthony B. Rylands, Thomas E. Lacher & Wes Sechrest (eds.), Illustrated Checklist of the Mammals of the World, Volume 1, Lynx Edicions, 2020, Pages 23-40.
  30. ^ a b c https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/w_thinking/ 「捕鯨を取り巻く状況」日本国水産庁 2024年3月5日閲覧
  31. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p117-118 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  32. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p122 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  33. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/fsh/page25_001544.html 「捕鯨」日本国外務省 令和6年2月16日 2024年3月5日閲覧
  34. ^ 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令別表第二 国際希少野生動植物種
  35. ^ 水産庁編 『日本の希少な野生水生生物に関するデータブック』 財団法人自然環境研究センター、2000年、4頁。
  36. ^ マッコウクジラに関しては日本哺乳類学会では系統群ごとに評価しているにもかかわらず、水産庁では北太平洋全体で一つと認識されており、生息数もそれだけ大きく見積もられるような問題もある。
  37. ^ そうだったのか!池上彰の学べるニュース』2010年7月21日放送分
  38. ^ たとえば、健全とされたコククジラについては、北米側の系統群は保護の結果として増加が激しい反面、アジア側の系統群は僅か100頭程度である。また、ミンククジラクロミンククジラとよく似た別種であるにもかかわらず、両方を足して100万頭とされている。
  39. ^ ねこの目通信 研究室訪問 粕谷研究室
  40. ^ http://www.mawakiiseki.jp/dolphin.html 「イルカ漁のムラ」国指定遺跡真脇遺跡 2024年3月3日閲覧
  41. ^ 『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』p204-205 小学館 2003年3月20日初版第1刷
  42. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p130-132 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  43. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p133 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  44. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p133-134 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  45. ^ 「イルカ概論 日本近海産小型鯨類の生態と保全」p219 粕谷俊雄 東京大学出版会 2019年2月15日初版
  46. ^ a b 「クジラ・イルカの疑問50」p117 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  47. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p111-112 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  48. ^ 「クジラ・イルカの疑問50」p131 加藤秀弘・中村玄編著 成山堂書店 2018年6月28日初版発行
  49. ^ https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story032/ 「鯨とともに生きる」日本遺産ポータルサイト 日本国文化庁 2024年3月5日閲覧
  50. ^ 「シャチ学」p156-159 村山司 東海教育研究所 2021年7月30日第1版第1刷発行
  51. ^ 「鯨類学」p345-349 村山司編著 東海大学出版会 2008年5月20日第1版第1刷発行
  52. ^ 「鯨類学」p352-355 村山司編著 東海大学出版会 2008年5月20日第1版第1刷発行
  53. ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/042100199/ 「ホエールウォッチングについて今知っておきたいこと」ナショナルジオグラフィック 2023.04.22 2024年3月5日閲覧

関連項目

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参考文献、外部リンク

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