個人タクシー事件
最高裁判所判例 | |
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事件名 | 行政処分取消請求 |
事件番号 | 昭和40(行ツ)101 |
1971年(昭和46年)10月28日 | |
判例集 | 民集第25巻7号1037頁 |
裁判要旨 | |
道路運送法三条二項三号に定める一般乗用旅客自動車運送事業である一人一車制の個人タクシー事業の免許にあたり、多数の申請人のうちから少数特定の者を具体的個別的事実関係に基づき選択してその免許申請の許否を決しようとするときには、同法六条の規定の趣旨にそう具体的審査基準を設定してこれを公正かつ合理的に適用すべく、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するものである等の場合は、右基準の適用上必要とされる事項について聴聞その他適切な方法により申請人に対しその主張と証拠提出の機会を与えるべきであり、これに反する審査手続により免許申請を却下したときは、公正な手続によつて免許申請の許否につき判定を受けるべき申請人の法的利益を侵害したものとして、右却下処分は違法となるものと解すべきである。 | |
第一小法廷 | |
裁判長 | 岩田誠 |
陪席裁判官 | 大隅健一郎、藤林益三、下田武三、岸盛一 |
意見 | |
多数意見 | 全会一致 |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
道路運送法3条2項3号,道路運送法6条1項,道路運送法122条の2 |
個人タクシー事件(こじんタクシーじけん)は日本の判例[1]。個人タクシー訴訟とも呼ばれる[2]。
経緯
[編集]1959年8月に運輸省東京陸運局が当面の需要を満たすために983両の個人タクシーの増車を決定し、道路運送法に基づいて個人タクシー事業免許の申請希望者を募ったところ、6630人が申請した[1]。東京都在住の洋品店経営者Xは6630人の申請者の1人として個人タクシー事業の免許を申請した[1][2]。東京運輸局では聴聞担当者約20人が17項目の審査基準に絡んで免許申請者に聴聞を実施したが、審査基準は公示されておらず、その存在についても主だった聴聞官以外はほとんど知らなかった[1]。1960年7月に東京運輸局はXに対して聴聞の結果として17項目の審査基準のうち「他の商売を自営している場合、転業が困難でない事」「運転歴が7年以上であること」の2点に合わないとして申請を却下された[1][2]。しかし、Xは仮に申請が認められたら洋品店を廃業してタクシー業に専念する意思を有しており、また、軍隊時代も合わせると運転歴は7年を優に超えていたが、聴聞担当者もXも基準事項の存在すら知らなかったため、Xの申請の却下事由となったこれらの点(他業関係及び運転歴)については思い至らず、何の聴聞も行われなかった[1]。
Xは「東京運輸局は審査基準を一切公開せず、聴聞にあたって他の自営業の廃業の意思の確認や軍隊時代の運転歴については質問されず、こうした審査方法は極めて杜撰でその結果に基づいた却下処分は違法」として行政処分取消請求の訴えを起こした[2]。これについて、東京陸運局側は「審査基準を公表するかどうかは行政処理上の問題で、手続きに違法性はない」と争った[2]。
1963年9月18日に東京地裁は「公務員は勝手きままな審査をやったという疑いをもたれないよう配慮する責任があり、本件では聴聞担当者約20人のうち、審査基準を事前に知っていたのは7、8人で、他の担当者は直前に知らされるという状況で、申請者には知らされていなかったため、原告が弁明したり運転経歴等について証拠を出す機会がなかった。その点審査手続きに違法があり、原告の方益を侵害した。」として申請却下処分取消の判決を言い渡した[3][2]。
1965年9月16日に東京高裁は「東京陸運局は審査基準を一々公表したり申請人に告知する必要はないが、その基準を適用する上で必要な事項については申請者に告知し、主張・立証の機会を与えなければならないところ、却下事由となった2項目についてそのような聴聞をしなかったことは違法である」として一審判決を支持して控訴を棄却した[4]。東京陸運局は「道路運送法による自動車運送事業は公益特許事業であって警察許可事業ではなく、道路運送法が規定する聴聞も行政庁の裁量に属するものであり、公益判断の資料を得ることを主たる目的とした便宜・補充的な手段に過ぎず、聴聞の仕方について瑕疵が存在したとしても違法の問題は生じていない」として申請却下処分取消の破棄を求めて上告した[4]。
1971年10月28日に最高裁は「個人タクシー免許の許否は個人の職業選択の自由に関わりを持ち、特に本件のように多数の申請者の中から少数の者を選んで免許を与えようとする時は行政庁は独断的な認定をしたと疑われるような不公正な手続きをとってはならない。道路運送法は抽象的な基準を定めているだけなので、内部的にその趣旨を具現化した審査基準を設け、これを公正かつ合理的に適用するべきで、とくに基準の内容が微妙で高度の事実認定を必要とする場合には、申請者にその主張と証拠の提出の機会を与えなければならない。」とした上で、東京運輸局がXに対して転業の意思があるかどうかや軍隊時代の運転歴などについて聴聞していたら違った結論になったかもしれないことから「手続きに違法があった」とした一、二審判決を正当として上告を棄却し、申請却下処分取消の判決が確定した[2]。
脚注
[編集]参考文献
[編集]- 戸松秀典、初宿正典 編『憲法判例』(第8版)有斐閣、2018年4月。ASIN 4641227454。ISBN 978-4-641-22745-3。 NCID BB25884915。OCLC 1031119363。全国書誌番号:23035922。