今日のフランスにおける社会主義と共産主義
『今日のフランスにおける社会主義と共産主義』(Der Socialismus und Communismus des heutigen Frankreiches)は19世紀ドイツの国家学者であるローレンツ・フォン・シュタイン(1815年‐1890年)の1842年の著作。社会主義や共産主義、プロレタリアートといった概念をドイツにおいて初めて学問的に紹介した書であり、パリに行く以前のカール・マルクスはこの書物から大きな影響を受け、共産主義に接近していくきっかけになった。
本書成立の経緯
[編集]ローレンツ・フォン・シュタインは1841年10月から1843年3月までパリに留学し、フランス法制史を学びつつ、エティエンヌ・カベ、ピエール・ジョゼフ・プルードン、ヴィクトル・コンシデラン等の社会主義者、共産主義者と交わり、そこで得た知識から本書を1842年に執筆・刊行する。
本書の構成
[編集]本書『今日のフランスにおける社会主義と共産主義』は以下のような構成になっている。
- 序文
- 第1部「平等の原理」
- 第2部「社会主義者たち」
- 第3部「併存する著述家たち」
- 第4部「共産主義」
- 結語
- 付録I「フーリエの体系補説」
- 付録II「カベーの共産主義『共産主義者の信条』ドイツ語訳」
本書の影響圏
[編集]カール・マルクスはこの著作を読み、決定的な影響を受けたことが知られている。マルクスはカール・グリューンの『フランスとベルギーにおける社会運動』(1845年)がシュタインの本書を下敷きにしていることを指摘。シュタインの著作の方を高く評価している。
またシュタインのこの著作の第1部第1章「プロレタリアート」には「(サン=シモン主義、フーリエ主義)この両者と並んで、共産主義という不気味で恐るべき幽霊が現れてくる」という一文があり、この文章はマルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって執筆された綱領文書『共産党宣言(共産主義者宣言)』(1848年)冒頭の一文と酷似している。
石塚正英は自身の研究から、『共産党宣言(共産主義者宣言)』(1848年)の内容にはマルクス、エンゲルスの思想とは別に、シュタインのこの著作に影響を受けた共産主義者同盟幹部の職人革命家たちの政治的見地や社会的意識が反映されているとしている。
邦訳
[編集]石川三義・柴田隆行・石塚正英訳『平等原理と社会主義 今日のフランスにおける社会主義と共産主義』(法政大学出版局)ISBN 9784588003035