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パンセ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
人間は考える葦から転送)

パンセ』(: Pensées)は、晩年のブレーズ・パスカルが自らの書籍の出版に向けて、その準備段階で、思いついた事を書き留めた数多くの断片的な記述を、彼の死後に遺族などが編纂し刊行した遺著である。「パンセ(pensée)」はフランス語動詞 penser(考える)の過去分詞 pensé から生じた名詞で「考えられたこと」、「考え」、「思考」、「思想」の意味である[1][2]

出版と特徴

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『パンセ』初版の正式題名の和訳は、『宗教および他のいくつかの問題に関するパスカル氏の諸考察 — 氏の死後にその書類中より発見されたるもの』。初版であるポール・ロワイヤル版は1669年に印刷され、1670年に発刊された。編者により収録される断片に異同があるため数種の『パンセ』が存在し、断章番号はそれぞれで異なる。ブランシュヴィク版、パリ国立図書館蔵の自筆原稿集、第一写本、第二写本、ポール・ロワイヤル版、ラフュマ版などの各版があり、現在でも新たな編集の試みが続けられている。日本では、これまでに『瞑想録』『パスカル随想録』などの和訳題名により紹介された。

『パンセ』全体は様々なジャンルに属する、と人々から見なされてきた。哲学・神学、傑出した知性による思索の書、人生論、モラリスト文学、宗教書、等々。もともとパスカルの意図としては、護教書執筆の構想があり、それの材料となる断片を書きためていたらしいということが諸研究により次第に明らかになってきた[3]。もっとも、それを踏まえたとしても『パンセ』はその思索・思想の奥深さと、つきつけてくるテーマの多様性と鋭さなどにより、やはり護教書に留まるものではないと見なされている。人間の欲望の構造、個人と共同体の問題、他者の存在によって想像的な自我が生ずること、認識と視点・言語との関係、テキスト解釈暗号の問題、等々の重要で深遠なテーマが扱われており、特定の思想的・宗教的な立場を超えており、現代でもそのテーマの重要性は変わっていない。それゆえ現代でも世界中の人々によって読み継がれているのである。

箴言

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『パンセ』は箴言を多数含んでいることでも知られている。例えば「人間は考える葦である」という有名な言葉も『パンセ』の中にパスカルが残した言葉である[4]。より正確には、「人間は自然のうちで最もよわい一本の葦にすぎない。しかし、それは考へる葦である。津田穣訳)[5][注釈 1]である。「のように人間はひ弱なものであるが、思考を行う点で他の動物とは異なっている」という事を示す言葉と言われている。

また、「クレオパトラの鼻。それがもっと低かったなら、大地の全表面は変わっていただろう[7]」、1990年ベストセラーになった『7つの習慣』でも引用されている「心情は、理性の知らない、それ自身の理性を持っている[8]」も有名である。

評価

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田辺元は『懺悔道としての哲学』(1946年)において、『パンセ』で展開された思想は「高邁なる賢者の道」であって「愚者凡夫の道」ではないと述べつつも、「信仰の超理性的性格を明瞭にし、人間理性の限界に於ける慈悲恩寵の転換が、始めて人間を神の信仰に導くものなることを闡明にした点に於て、パスカルの如き深刻犀利なるものはない。」と評している[9]

主な訳書一覧

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  • 『パスカル冥想録 パンセ』由木康訳、白水社、1938年9月。 度々新装再刊
    • パンセ』由木康訳、白水社〈イデー選書〉、1990年11月。ISBN 978-4-560-01886-6http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=01886 
  • 『瞑想録』岳野慶作訳、中央出版社(現・サンパウロ)〈佛蘭西カトリック思想家選 1〉、1948年。 
  • 『パンセ』松浪信三郎訳、筑摩書房〈世界文学大系13「デカルト・パスカル」〉、1958年10月。 ブランシュヴィク版による。
    • 『パンセ』松浪信三郎訳、人文書院〈パスカル全集 第3巻〉、1959年。 新版1976年
    • 『パンセ』松浪信三郎訳、河出書房新社〈世界の大思想8「パスカル」〉、1965年。 
    • 『パンセ』松浪信三郎訳、河出書房新社〈新装版 世界の大思想22「パスカル」〉、1974年。 
    • 『定本パンセ(上)』松浪信三郎訳、講談社講談社文庫〉、1971年。 
    • 『定本パンセ(下)』松浪信三郎訳、講談社〈講談社文庫〉、1971年。 
  • 『パンセ』前田陽一由木康訳、中央公論社〈世界の名著24 パスカル〉、1966年11月。 ブランシュヴィク版による全訳、『小品集』も収録
  • 『パンセ-ルイ・ラフュマ版による』田辺保訳、新教出版社、1966年2月。 
  • 『パンセ』 塩川徹也訳・解説、岩波文庫(全3巻)、2015年8月-2016年7月。詳細な訳・注解

関連書籍

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  • Jean・Mesnard Les Pensées de Pascal, 1993.
    • 研究の訳書に、ジャン・メナール『パスカル』(安井源治訳、みすず書房、1971年、新版1992年)と、『パスカル 作家と人間叢書』(福居純訳、ヨルダン社、1974年)
    • メナール版『パスカル全集』(白水社)は、『パンセ』を含む原本が未刊行につき、訳注書は1・2巻のみ刊。
  • 塩川徹也 『パスカル「パンセ」を読む』、岩波書店〈セミナーブックス〉、2001年、新版2014年。ISBN 4000287850、メナール版全集の訳者のメンバー
  • 田辺元『懺悔道としての哲学』、『全集 第9巻』、pp1-269、筑摩書房、初刊1946年、全集1963年
  • 山上浩嗣『パスカル『パンセ』を楽しむ 名句案内40章』(講談社学術文庫、2016年)

脚注

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注釈

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  1. ^ 島崎藤村の訳では、「人は一つの葦に過ぎない。その性質に於て最も弱い葦だ。しかし彼は考へる葦だ。[6]」となっている。

出典

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  1. ^ 大橋尚泰. “フランス語原文でパスカル『パンセ』を読む - 北鎌フランス語講座 - 読解編”. lecture1.kitakama-france.com. 北鎌フランス語講座. 2020年7月1日閲覧。
  2. ^ PENSÉE : Définition de PENSÉE” (フランス語). www.cnrtl.fr. Centre national de ressources textuelles et lexicales. 2020年7月1日閲覧。
  3. ^ 塩川徹也『パスカル『パンセ』を読む』岩波書店
  4. ^ roseau pensant, ブランシュヴィク版断章No.347
  5. ^ ブレーズ・パスカル 著、津田穣 訳『パンセ』 上(未完のキリスト教弁証論)、世界文学社、1948年9月10日、209頁。全国書誌番号:46001922 NDLJP:1039145/110 
  6. ^ 『パスカルの言葉』:旧字旧仮名 - 青空文庫
  7. ^ ブランシュヴィク版 第2章162
  8. ^ ブランシュヴィク版 第4章277
  9. ^ 田辺(1963:183-185)

関連項目

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外部リンク

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