ロイグ・マク・リアンガヴラ
ロイグ・マク・リアンガヴラ(アイルランド語: Loeg Mac Riangabra)は『アルスター伝説』に登場する男性。ライグ、レーグなどとも。ロイグという名前は「子牛」の意味を持つ[1]。 クー・フランの御者で、御者の王とも言われる[2]。
人物
[編集]ロイグの容姿については、物語「エウェルへの求婚」にて詳しく語られている。それによると、非常にスレンダーで、明るい赤毛を生やしたそばかすの男性であったという[3]。
アルスター物語群
[編集]ロイグは、クー・フランの愛馬「リアト・マハ(マハの灰色)」とドゥヴ・サングレン(サングレンの黒毛)の二頭立ての戦車を巧みに操る御者であった[4]。また超自然的な力も有しており、魔法をかけて戦車を見えなくすることが可能であったという[5]。ロイグはクー・フランの相棒として、友のピンチを幾度と無く救う。
ロイグの最期は物語「クー・フランの死」にて詳しく語られている。この物語では、無敵のクー・フランが彼を逆恨みする者達の企みと魔術で、ゲッシュを冒し命を落とす様が描かれている[4]。当時のアイルランドには、詩人に対して何物をも惜しまないというある種の掟があったが[6]、カリブレの息子エルク[注釈 1]はこの掟を逆手に取り、クー・フランの槍を奪うことに成功する[7]。そしてクー・ロイの息子ルガズは、「王はこの槍で落つる」と叫びながらクー・フランの戦車目掛け槍を投擲し、御者の王ロイグを貫く。ロイグは「傷を負った」と言い残し、クー・フランに看取られながら絶命した[8]。
その他の説話
[編集]アイルランド語による初期の散文に「クー・フランの幽霊戦車(シアヴルハルバド・コン・クリン)」という話がある。聖パトリックによって蘇ったクー・フランが、タラの上王ライガレ・マク・クリウサンをキリスト教に改宗させようとする話だが、この物語にはロイグも登場し、二人が死後も共にあることが窺える。ロイグが登場する部分の内容は以下の通り。
それは戦車の幻だった。そして灰色と黒色の馬が、足並みを揃えて戦車を曳いていた。その戦車の中には、有名な二人が乗っていた。すなわちクフーリンとその御者とが乗っていた。二人は、とても大きく見えた。巨人のように見えた。そして世にも稀な立派な武器をもって身を固めていた。
—八住利雄,『世界神話伝説大系〈41〉アイルランドの神話伝説』, P294~P295
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]参考文献
[編集]一次資料
- Meyer, Kuno. The Wooing of Emer by Cú Chulainn .
- 11世紀の写本に残る『エメルへの求婚』の現代英語訳。
- Hogan, Edmund. The Battle of Ross na Ríg .
- 12世紀の写本『レンスターの書』に残る物語「ロスナリーの戦い」の現代英語訳。
- Stokes, Whitley. Cuchulainn’s death .
- 12世紀の写本『レンスターの書』に残る物語「クー・フランの死」の現代英語訳。
- John O'Beirne, Crowe. Siabur-charpat Con Culaind .
- 12世紀の写本『赤牛の書』に残る物語「クー・フランの幽霊戦車」の現代英語訳。
- Meyer, Kuno. Síaburcharpat Conculaind .
- 12世紀の写本『赤牛の書』に残る物語「クー・フランの幽霊戦車」の原文。
二次資料
- 木村正俊, 松村賢一『ケルト文化事典』東京堂出版、2017年。ISBN 978-4490108903。
- キアラン・カーソン 著、栩木伸明 訳『トーイン クアルンゲの牛捕り』東京創元社、2011年。ISBN 978-4488016517。
- ミランダ・J・グリーン 著、井村君江, 渡辺充子, 大橋篤子, 北川佳奈 訳『ケルト神話・伝説辞典』東京書籍、2006年。ISBN 978-4487761722。
- 八住利雄『世界神話伝説大系〈41〉アイルランドの神話伝説』名著普及会、1981年。ISBN 9784895512916。