コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

レイシガイ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
レイシガイ属
生息年代: 更新世現世
イボニシと卵嚢
イボニシとその卵嚢
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
亜綱 : 新生腹足亜綱 Caenogastropoda
: 新腹足目 Neogastropoda
超科 : アッキガイ超科 Muricoidea
: アッキガイ科 Muricidae
亜科 : チリメンボラ亜科 Rapaninae
: レイシガイ属 Reishia
学名
Reishia
(Kuroda & Habe1971)[1]

レイシガイ属(茘枝貝属、Reishia)は、アッキガイ科 Muricidae に属する巻貝で、約2 - 3 cm程度の表面に凹凸がある貝殻をもち、潮間帯の磯で普通にみられるイボニシレイシガイを含む分類群である。和名の「レイシ」は、果樹レイシ(茘枝、ライチ、Litchi chinensis)に由来する。従来は Thais 属の Reishia 亜属として記されていたが[2]、近年では Thais 属とは分けて Reishia 属として分類されるようになった[1]

外観

[編集]

殻高 5 cm 以下の凹凸や突起が並んだやや太短い紡錘形で、殻口は比較的広く開く。螺層に細い螺溝がまかれるが、生時は藻類に覆われて殻表面が見えない場合がある。同種内での変異が多い[3]。角質の外核型の蓋を持ち、歯舌は尖舌型[4][5]

生態

[編集]

潮間帯の岩礁に棲み、フジツボや他の貝を捕食して生きる[6]。産卵は夏季で、管型の卵嚢を縦に林立するように潮間帯下部の岩上に多数産みつける[7][8]

分布

[編集]

日本から東南アジアにかけての西太平洋沿岸に分布[7]

下位分類

[編集]

本属はチリメンボラ亜科 Rapaninae に分類される[1]。本属と近縁のチリメンボラ亜科の分岐図を右に略記した[9]

Drupa イガレイシ類などを含むクレード

Thais nodosa:西アフリカ産

Neorapana ヒモマキアカニシ:中米太平洋岸[10]

Mancinella ウニレイシキナレイシインド洋~西太平洋

Pinaxia ミカンレイシ属:インド洋~西太平洋[11]

Vexilla ハタガイ:インド洋~西太平洋[12]

Purpura テツボラ属:インド洋~西太平洋[13]   

Agnewia豪州南東岸[14]

Dicathais:豪州~NZ[15]

Stramonita:大西洋産 (紫染料源の一種)

Thaisellaペルー

Concholepas ロコガイチリ

Acanthaisシラボシキバレイシ 中米産

Neothais:インド洋~西太平洋 (以下同じ)

Semiricinula

Rapana チリメンボラアカニシ

レイシガイ属]

R. bitubecularis豪州北部

イボニシ:日本~東南アジア

レイシガイ:日本~東南アジア

R. jubilaea台湾~シンガポール

R. luteostoma クリフレイシ

Reishia 

Indothais ヒシレイシ インド洋~西太平洋

    

 

Claremontら (2013)によるチリメンボラ亜科の分岐図のうち、レイシガイ属近縁の要約[9]

レイシガイ属 Reishia Kuroda & Habe, 1971 に属する貝として以下の種が知られている[1]

オーストラリア北部~東南アジア産。黒白の縦縞模様で突起が出る。殻口は黒白または白色。
貝殻に白いコブが並び、白色の石灰藻でおおわれる。日本から東南アジアにかけての潮間帯下に棲む。分子系統解析の結果、クリフレイシ Reishia luteostoma と同種であることが示唆されている[3]
台湾産。レイシガイと似る[18]
貝殻に先が黒色の突起が並ぶ。殻口内が橙色。
  • Reishia nakamurai (Makiyama) - “ナカムラレイシ”
前期更新世(2 Ma)の種[20][21]

化石

[編集]

“ナカムラレイシ”の化石が前期更新世(2 Ma)の静岡県掛川層群で見つかっている。R. luteostoma と似ているが、細い螺溝が明らか[21]。またイボニシの化石が愛知県渥美層群から見つかっている[23]

人との関係

[編集]

江戸時代後期の武蔵石壽による「目八譜」に、「茘枝(れいし) (雲法螺)」としてレイシガイ、「鐡茘枝」としてイボニシが紹介されているほか「痣辛螺(ほくろにし) 通称疣辛螺(いぼにし)」としてクリフレイシが図示され、「茘枝介ト大同小異ノ者也」と記されている[24][25][26]昭和時代から平成時代にかけての有機スズ化合物による海洋汚染の影響で、メスにペニス状突起が発現することが知られている[5][27]。食用になる一方で[28]、養殖牡蠣を食べることが懸念されている[8]

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d Reishia Kuroda & Habe, 1971”. WoRMS. 2022年2月12日閲覧。
  2. ^ 波部忠重・小菅貞男 (1967/8/10). 標準原色図鑑全集 3 貝P28. 保育社 
  3. ^ a b c D Zhao, L-f Kong, T. Sasaki and Qi Li (2020). “Molecular Species Delimitation of the Genus Reishia (Mollusca: Gastropoda) along the Coasts of China and Korea”. Zoological Science (Zoological Society of Japan) 37 (4): 382-390. https://doi.org/10.2108/zs190153. 
  4. ^ 荒川好満 (1962). “日本産アクキガイ科の歯舌に関する研究 (1)”. Venus (日本貝類学会) 22 (1): 70-78 PL.5. 
  5. ^ a b 佐々木猛智 (2010). 貝類学. 東京大学出版会. ISBN 978-4130601900 
  6. ^ 阿部直哉 (1994). “飼育下でのイボニシ二型の成長と餌選択性”. Venus (日本貝類学会) 53 (2): 113-118. 
  7. ^ a b 奥谷喬司『奥谷喬司編 『改訂新版 世界文化生物大図鑑 貝類』 藤岡義三』世界文化社、2004年。ISBN 4-418-04904-5 
  8. ^ a b 岡野桂樹ら (2015). “レイシガイの摂餌行動,蝟集,卵嚢に関する基礎的研究”. 秋田県立大学ウェブジャーナルB (秋田県立大学) 2: 164-170. 
  9. ^ a b M. Claremont, G. Vermeij, S. Williams and D. Reid (2013). “Global phylogeny and new classification of the Rapaninae (Gastropoda: Muricidae), dominant molluscan predators on tropical rocky seashores.”. Molecular phylogenetics and evolution (National Library of Medicine) 66 (1): 91-102. doi:10.1016/j.ympev.2012.09.014. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23026810/. 
  10. ^ Neorapana muricata (Broderip, 1832)”. GBIF. 2022年3月3日閲覧。
  11. ^ カスリミカンレイシ Pinaxia versicolor (Gray, 1839)”. 微小貝データベース. 2022年3月3日閲覧。
  12. ^ Vexilla vexillum (Gmelin, 1791)”. GBIF. 2022年3月3日閲覧。
  13. ^ Purpura persica (Linnaeus, 1758)”. GBIF. 2022年3月3日閲覧。
  14. ^ Agnewia tritoniformis (Blainville, 1832)”. GBIF. 2022年3月3日閲覧。
  15. ^ ワダチレイシ Dicathais orbita (Gmelin, 1791)”. 微小貝データベース. 2022年3月3日閲覧。
  16. ^ a b 阿部直哉 (1985). “イボニシ Thais clavigera (Küster, 1860) の二型”. Venus (日本貝類学会) 44 (1-2): 15-26. 
  17. ^ 『中国北部湾潮間帯現生貝類図鑑』126 疣荔枝螺,王海艳,张涛,马培振,蔡蕾,张振,科学出版社 2016年 ISBN 9787030485571
  18. ^ K. S. Tan and L-L Liu (2002). “Description of a New Species of Thais (Mollusca: Neogastropoda: Muricidae) from Taiwan, Based on Morphological and Allozyme Analyses”. Zoological Science (Zoological Society of Japan) 18 (9): 1275-1289. https://doi.org/10.2108/zsj.18.1275. 
  19. ^ 『中国北部湾潮間帯現生貝類図鑑』127 黄口荔枝螺,王海艳,张涛,马培振,蔡蕾,张振,科学出版社 2016年 ISBN 9787030485571
  20. ^ 柴正博、石川智美、横山謙二、田辺積 (2012). “「田辺積氏化石コレクション」にみられる鮮新-更新統掛川層群産軟体動物化石群集と化石密集層の形成要因”. 東海自然誌(静岡県自然史研究報告) (東海大学自然史博物館) (5): 1-29. 
  21. ^ a b レイシア属のナカムライの化石”. kurif-blog. 2022年2月13日閲覧。
  22. ^ Steven van der Mije. “Catalog #: RMNH.MOL.132632 Taxon: Reishia problematica (Baker, 1891)”. STRI Marine Portal Detailed Collection Record Information. 2022年3月3日閲覧。
  23. ^ 中部更新統渥美層群の軟体動物化石 p.87 PL.12”. 瑞浪市化石博物館 川瀬ら. 2022年2月13日閲覧。
  24. ^ 武蔵石壽 (1843). “(五十)茘枝”. 『目八譜』 (第六巻). https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287301/44. 
  25. ^ 武蔵石壽 (1843). “(五十一)鐡茘枝”. 『目八譜』 (第六巻). https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287301/45. 
  26. ^ 武蔵石壽 (1843). “(五十二)痣辛螺”. 『目八譜』 (第六巻). https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287301/45. 
  27. ^ 中野大三郎、西脇三郎 (1992). “イボニシにおけるimposexの地方変異”. Venus (日本貝類学会) 51 (1-2): 97-98. 
  28. ^ 市場魚貝類図鑑 レイシガイ”. ぼうずコンニャク. 2022年2月13日閲覧。

外部リンク

[編集]