ラブサリス
ラブサリス(rabsaris、rabe-sáris)はアッシリアやバビロニアの宮廷の要職である。アッカド語でrab ša rēš (šarri)、 シュメール語でLÚ.GAL.SAGと書き[1]、「(王の)使用人の長」を意味する。王に近侍する廷臣であり、政府の高官でもあった[2]。彼らは必ずしも宦官というわけではなかった[3]。
アッシリアとバビロニアのラブサリス
[編集]アッシリアの王宮には、サリス(šarēši、LÚ.SAG)という影響力のある一団の高官がいた[4]。これは通常「宦官」と訳されるが、一部のアッシリア学者は、サリスと呼ばれる高官全員が必ずしも宦官であるとは限らないとしている[4]。この一団の廷臣たちの最大の特徴は、ヒゲを剃っていることだった。サリスに関するほとんどすべての現存する円筒印章では、ヒゲのない人物が神または女神の前で祈る滑らかに剃られた姿で描かれている[4]。文書でも外観の違いについても言及されている。文中でサリスではない高官に言及するときは、「ヒゲのある廷臣」(šaziqni)と書かれている[4]。王に最も近く仕えるサリスたちは王の安全に責任があり、王令または王命を伝達する役も担った[5]。彼らはしばしば都市の管理者または州の総督にも任命された[6]。
サリスたちの監督は、アッシリア王の最重要な臣下の1人であるラブサリス(「宦官長」と訳されることも多い)の仕事だった[6]。現存する文書から、ラブサリスが宮廷の運営管理だけでなく、軍隊の指揮官達を監督するという軍事的な機能を果たしていたことも分かっている[1]。アッシリアの記録では、この役職はシャムシ・アダド5世(紀元前823年-紀元前811年)の年誌に初めて登場し、ナイリへの二度目の遠征がムタリス・アッシュルという名前のラブサリスに指揮されることになっていると書かれている[7]。 次に、新アッシリアの紀元前798年、アダド・ニラリ3世(紀元前810年-783年)の治世中にリンム(エポニム)を務めたムタッキル・マルドゥクという名のラブサリスが記録されている[8]。ナブ・サル・ウスルという名のラブサリスは、彼の忠勤に対する報酬として、アッシュルバニパル王(紀元前668年-紀元前627年?)から土地を授与されることになっていた[9]。ラブサリスのシン・シュム・リシルは、アッシュルバニパルの息子であるアッシュル・エティル・イラニの死後、おそらく紀元前627年に、数か月間アッシリアを支配していた[6]。
聖書とラブサリス
[編集]この言葉はヘブライ語聖書(旧約聖書)にも登場し(ヘブライ語רַבמָג; רַב־סָרִיס、rab-sārîs)、これらの大帝国に仕える高官の名前または肩書として、翻訳せずにそのまま書かれているように見える。
- ラブサリス(RabsarisまたはRabasaris[10])は、ユダ王国のヒゼキヤ王に降伏を勧告する際に、アッシリア王セナケリブがラキシュからエルサレムに派遣した3人の高官の一人[11] [12]。
- ラブサリスのネブシャズバン(Rabe-sáris Nabusazbã)[2]は、バビロン王ネブカドネザル2世の廷臣であり、エルサレム陥落後(バビロン捕囚の開始)に、預言者エレミヤを「監視の庭」(王宮内の牢)から連れ出すように命じられている[13]。
ダニエル書1:3では、アシペナズ(Aspenaz)が宮廷の「臣下の長」であると書かれており[14]、これはラブサリスに相当する[3]。
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ a b hasło rēšu, The Assyrian..., p. 289-290.
- ^ a b Wiseman, D. J. (1979). “Rabsaris”. In Bromiley (英語). The International Standard Bible Encyclopedia. Wm. B. Eerdmans Publishing. ISBN 978-0-8028-3784-4
- ^ a b Spiegelberg, Wilhelm (1971年). “Rab-Saris and Rab-Mag”. Encyclopaedia Judaica 16. 2020年2月23日閲覧。
- ^ a b c d Nissinen M., Relative masculinities ... , p. 231.
- ^ Joannes F., Historia Mezopotamii ... , p. 188.
- ^ a b c Nissinen M., Relative masculinities ... , p. 233.
- ^ Baker H.D., Šamšī-Adad V, w: Reallexikon der Assyriologie, tom XI (Prinz, Prinzessin - Samug), Walter de Gruyter, Berlin - New York 2006-2008, p. 637.
- ^ “The Neo Assyrian Eponyms” (英語). cdli.ox.ac.uk. 2019年10月25日閲覧。
- ^ Fales F.M., Prosopography of the Neo-Assyrian Empire, 2: The Many Faces of Nabû-šarru-usur, State Archives of Assyria Bulletin (SAAB) II/2 (1998), p. 116.
- ^ 4 (2) Reis 18:17. Douay-Rheims Bible and Vulgate, http://www.newadvent.org/bible/2ki018.htm
- ^ s:列王紀下(口語訳)#18:17
- ^ “Easton's Bible Dictionary (1897)/Rabsaris - Wikisource, the free online library”. en.m.wikisource.org. 2020年2月23日閲覧。
- ^ s:エレミヤ書(口語訳)#39:13
- ^ s:ダニエル書(口語訳)#1:3では「宦官の長」となっている。「新共同訳(1987年)」では「侍従長」と訳されている。
参考文献
[編集]- T. L. Fenton. (1971). "Saris, Rab-Saris". Encyclopaedia Biblica. 5. Jerusalém. p. 1126-1127.
- hasło rēšu, w: The Assyrian Dictionary, tom 14 (R), The Oriental Institute, Chicago 1999, p. 289-290.
- Joannes F., Historia Mezopotamii w I. tysiącleciu przed Chrystusem, Wydawnictwo Poznańskie, Poznań 2007.
- Mitchell T.C., Israel and Judah from the coming of Assyrian domination until the fall of Samaria, and the struggle for independence in Judah (c. 750—700 B.C.), w: The Cambridge Ancient History, tom 3, część 2 (The Assyrian and Babylonian Empires and other States of the Near East, from the Eighth to the Sixth Centuries B.C.), Cambridge University Press, 1970, p. 322-370.
- Mitchell T.C., Judah until the fall of Jerusalem (c. 700—586 B.C.), w: The Cambridge Ancient History, tom 3, część 2 (The Assyrian and Babylonian Empires and other States of the Near East, from the Eighth to the Sixth Centuries B.C.), Cambridge University Press, 1970, p. 371-409.
- Nissinen M., Relative masculinities in the Hebrew Bible/Old Testament, w: Zsolnay I. (red.), Being a Man: Negotiating Ancient Constructs of Masculinity, Routledge, 2016, p. 221-247.