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メガプテリギウス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
メガプテリギウス
生息年代: 後期白亜紀 72 Ma
生体復元図
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
: 有鱗目 Squamata
: モササウルス科 Mosasauridae
亜科 : モササウルス亜科 Mosasaurinae
: メガプテリギウス属 Megapterygius
学名
Megapterygius
Konishi et al.2023
タイプ種
Megapterygius wakayamaensis
Konishi et al.2023
和名
ワカヤマソウリュウ

メガプテリギウス学名: Megapterygius)は、約7200万年前にあたる後期白亜紀日本に生息していた、モササウルス科に属する絶滅した海棲爬虫類[1]化石は2006年に和歌山県有田川町で御前明洋が発見し[2]、その後2023年に小西卓哉らにより新属新種として記載・命名された[1]。タイプ種メガプテリギウス・ワカヤマエンシスMegapterygius wakayamaensis)の学名は「和歌山産の大きな翼」を意味する[2]M. wakayamaensisに対する日本での通称(和名)はワカヤマソウリュウ(和歌山滄竜)[2][3][4]

全長約6メートル[1][2][3]。化石は尾椎を除くほぼ全身が発見されている[3]。前肢の鰭が発達しており、ウミガメと同様に前肢で推進力を得ていたと推測されている[1][2][3]。また従来モササウルス類の背鰭は確認されていなかったが、本属は胴椎の形態から背鰭が存在した可能性が示唆されている[1][2][3]。他のモササウルス類同様に肉食性であったとされ、小型で華奢な頭骨や細い歯を持つ特徴から主に小魚を餌としていたと考えられる[4]

発見と命名

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化石は2006年2月に和歌山県有田郡有田川町にある鳥屋城山で当時京都大学大学院生であった御前明洋が発見した[5][6]。鳥屋城山を形成する外和泉層群鳥屋城層上部白亜系にあたり[6]、約7200万年前の地層とされる[7]。御前は当時白亜紀末の北太平洋域の調査のためアンモナイト二枚貝の化石を探していたところ、岩石の表面の観察中に海綿骨の構造を発見し、地層の年代と化石の大きさから海棲爬虫類の骨化石としてこれを同定した[6]。御前がこの発見を京都大学の松岡廣繁和歌山県立自然博物館の小原正顕に相談した後、共同調査で化石を含んだ複数個の岩石が発見され、これらはモササウルス類の後肢や椎骨として同定された[6]。特に後肢は関節した状態であった[8]

関節した後肢の発見から他の部位の骨も付近に保存されている可能性が高く見積もられ[9]、岩盤が固いことから重機を用いた追加発掘調査が2010年12月から開始された[8]。重機が通行可能な作業道の整備や岩盤を被覆する土砂の除去作業を行う必要があったため、本格的な調査が開始したのは同月下旬からであった[8][9]。岩盤が強固なため、現地でのクリーニングは不可能であった[8]。このため発掘ではまず岩盤を重機で崩して化石の有無を確認し、化石が発見された場合には化石の分布状況を整理して地層を露出させ、化石の分布範囲内と推定される岩石をすべて回収するという手法が取られた[8][9]。化石を含む層準の層理面に沿って亀裂が入っていたため層理面を露出させることは容易であった一方、岩盤には不規則な亀裂が発達し、また化石の周囲をはじめ脆い部分も存在したため、作業に伴って岩石や化石が粉々に崩れるケースもあった[8][9]。追加調査は2011年3月まで実施され、多くの部位が得られた[10]。作業道の造成も含め発掘には92日を要し、小原・御前・松岡および京都大学の学生の他に5人の作業員が参加した[9]

回収当時は母岩に被覆されていたため部位の特定が困難であったが、クリーニングの過程で特定可能な部位が多く現れることとなった[6]。クリーニングではダイヤモンドカッターやハンマーとタガネで母岩を可能な限り除去したのち、エアチゼルで骨の表面を露出させた[9]。5年を要したクリーニング作業の後[9]、ほぼ完全な下顎を含む頭骨、関節した椎骨、肋骨、前後の肢を含む全身の50%以上(約80%)の骨が発見されている[5][11][12][13]。特に頭蓋骨には脳幹や上顎骨の一部が含まれており[14]、また前肢と後肢の揃っての産出はアジア初である[14][5]

2012年から研究に参加した小西を筆頭著者とし、回収された標本は2023年12月にメガプテリギウス・ワカヤマエンシスと命名された[1][2]。属名は大きな鰭に因み「大きな翼」の意[15][16]で、種小名は化石が産出し現在保管されている和歌山県に由来する[15]

特徴

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ヒトとの大きさの比較

頭骨長80センチ、推定全長6メートル[15]。2009年の記者発表時には全長8メートル以上とされたが、後に完全な歯骨が確認されたことで推定値が変更された[6]

頭部は比較的小さい[2]。顎の骨が細く、また歯も細い[4]。目は前を向き、両眼視が可能であった[2][16][注 1]。両眼視のできる目が報告されたのはモササウルス類で2例目[4][注 2]

本属はモササウルス類に背鰭が存在した可能性を示唆する点で重要である[4]。メガプテリギウスにおいて椎骨の神経棘は基本的に後側に傾斜するが、第17胴椎から第21胴椎の神経棘は前側へ屈曲しており、これは背鰭が存在した可能性を示唆する[4]。背鰭はまだ仮説的なものだが、神経棘の特徴は重心の後ろに背鰭をもつハクジラと類似する[15][16]。モササウルス類ではこれまで背鰭の証拠はなく、背鰭を持つ可能性が示唆されたのは初めてである[4]。なおこの他の胴部の特徴として、第13胸肋骨以降の胸肋骨が急速に短縮し、また前肢の運動を補助する背筋の付着する胴椎の神経棘が発達する[注 3][4]

属名の由来となった鰭は頭蓋骨より長く、また後肢の鰭が前肢の鰭よりも長大である[4]。また指骨の狭窄が顕著であり、上腕骨の近位端が広大な円状面積を示すドーム型をなしていて可動域が広い[4]。また巨大な鰭は水中での機敏な動きを可能にしており[20]、前肢は迅速な活動に、後肢は急な潜水や浮上に役立った[16]。推進には主に前肢が使われたと考えられている[2][注 4]

未発見部位だが、他のモササウルス類同様に尾鰭が存在していたと考えられる[16]。主に尾を使って泳いでいたと考えられる他のモササウルス類とは異なり、尾鰭の役割は高速遊泳や方向転換の際以外は舵取りの補助程度だったとみられる[4]

分類

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以下は記載論文でのクラドグラム[15]

ダラサウルス

プログナトドン・クリ

プログナトドン・ソルヴァリ

エレミアサウルス

プログナトドン・キアンダ

プログナトドン・ワイパラエンシス

クリダステス・モーレヴィレンシス

クリダステス・プロフィトン

クリダステス・リオドントゥス

グロビデンス・ダコタエンシス

グロビデンス・アラバマエンシス

プログナトドン・ラパクス

プログナトドン・オヴェルトニ

プログナトドン・サトゥラトル

プレシオティロサウルス

メガプテリギウス

モアナサウルス

リキサウルス

モササウルス・ミソウリエンシス

プロトサウルス

モササウルス・レモニエリ

モササウルス・ホフマニ

モササウルス・マキシムス

古環境

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鳥屋城山からはアンモナイト、二枚貝、巻貝などの軟体動物、ウニ、ヒトデ、ウミユリなどの棘皮動物、カニやサメが産出しており、メガプテリギウスもこれらの生物と共存していたと考えられる[6][21]。特に発掘調査中に発見されたアンモナイトのパキディスカス・アワジエンシスは生層序年代の特定に役立てられてた[8]。 また、ツノザメ目の脱落歯がメガプテリギウスの骨の周囲に集中していることから、死後ツノザメによる死骸漁りが行われたのではないかと考えられている[22]

日本を含む東アジア域のモササウルス類は北アメリカのモササウルス類との比較が望まれているが、東アジアでモササウルス類の化石が産出した地域は日本のみである[8]。メガプテリギウスの化石は日本産のモササウルス類の中でも特に保存部位が多く、研究価値が高いと目されている[8][14]

脚注

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注釈

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  1. ^ 両眼視を持つことで奥行き知覚を得ることができ、獲物との距離を測ることができるので捕食動物にとって有利な特徴である[17]。また、両眼視を持つと光の感度も上がる[18]
  2. ^ 以前両眼視が報告されていたのはフォスフォロサウルス[19]
  3. ^ 第1胴椎から第6胴椎までの神経棘の高さが15センチメートルを超過する[4]
  4. ^ ウミガメやペンギンのような遊泳様式[4]

出典

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  1. ^ a b c d e f 「ワカヤマソウリュウ」と命名 化石がモササウルス新種と判明”. 日本放送協会 (2023年12月13日). 2023年12月13日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j 和歌山のモササウルス化石は新種 「ワカヤマソウリュウ」と命名」『毎日新聞』2023年12月13日。2023年12月13日閲覧。
  3. ^ a b c d e 【速報】世界初の新種「ワカヤマソウリュウ」と命名 モササウルス類の新種の骨格保存”. MBSニュース. 2023年12月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月13日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m 有田川町産出のモササウルス類は新属新種!!−これまでの学説を覆す新たな発見−”. 和歌山県立自然博物館. 2023年12月13日閲覧。
  5. ^ a b c 日本一の骨格化石 和歌山 モササウルス”. LIVING和歌山 (2016年4月13日). 2023年12月13日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g 発見の経緯 | モササウルス発掘プロジェクト|和歌山県立自然博物館”. モササウルス発掘プロジェクト|和歌山県立自然博物館. 2023年12月13日閲覧。
  7. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年12月12日). “「海の王者」モササウルスの全身骨格展示 和歌山・海南”. 産経ニュース. 2023年12月13日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i 発掘調査! | モササウルス発掘プロジェクト|和歌山県立自然博物館”. モササウルス発掘プロジェクト|和歌山県立自然博物館. 2023年12月13日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g 小原正顕 著「日本の発掘コラム 和歌山モササウルス類」、坂田智佐子 編『恐竜博2019 THE DINOSAUR EXPO』真鍋真 監修、NHKNHKプロモーション朝日新聞社、2019年、134-137頁。 
  10. ^ わかやま新報:後肢に続き前肢発見 モササウルス類の化石/和歌山”. www.wakayamashimpo.co.jp (2011年10月19日). 2023年12月13日閲覧。
  11. ^ わかやま県政ニュース”. wave.pref.wakayama.lg.jp (2019年11月11日). 2023年12月13日閲覧。
  12. ^ 企画展「モササウルス復元プロジェクト」”. ニュース和歌山. 2023年12月13日閲覧。
  13. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2016年3月27日). “7500万年前の海生爬虫類モササウルス化石、和歌山自然博物館で展示”. 産経ニュース. 2023年12月13日閲覧。
  14. ^ a b c 今後の展望 | モササウルス発掘プロジェクト|和歌山県立自然博物館”. モササウルス発掘プロジェクト|和歌山県立自然博物館. 2023年12月13日閲覧。
  15. ^ a b c d e Konishi, Takuya; Ohara, Masaaki; Misaki, Akihiro; Matsuoka, Hiroshige; Street, Hallie P.; Caldwell, Michael W. (2023-01). “A new derived mosasaurine (Squamata: Mosasaurinae) from south-western Japan reveals unexpected postcranial diversity among hydropedal mosasaurs” (英語). Journal of Systematic Palaeontology 21 (1). doi:10.1080/14772019.2023.2277921. ISSN 1477-2019. https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14772019.2023.2277921. 
  16. ^ a b c d e Miller, Michael. “This Japanese 'dragon' terrorized ancient seas” (英語). phys.org. 2023年12月13日閲覧。
  17. ^ 2つの目、立体視の仕組み”. web2.chubu-gu.ac.jp. 2023年12月13日閲覧。
  18. ^ わかやま新報 » Blog Archive » モササウルス新種と判明 有田川町産出の化石”. 2023年12月14日閲覧。
  19. ^ 白亜紀の海の爬虫類・モササウルス類の新種に関する記載論文が国際誌『Journal of Systematic Palaeontology』電子版に掲載されました - 研究ニュース|研究|福岡大学”. 福岡大学 (2015年12月9日). 2023年12月13日閲覧。
  20. ^ Nelson, Dr Jessica (2023年12月12日). “New Species of Mosasaur Discovered in Japan: Megapterygius wakayamaensis” (英語). Medriva. 2023年12月13日閲覧。
  21. ^ モササウルスの泳ぐ海”. 和歌山県立自然博物館公式ホームページ. 2023年12月13日閲覧。
  22. ^ 正顕, 小原「博物館と発掘現場で体感する日本一のモササウルス化石」『地球科学』第75巻第2号、2021年、147–150頁、doi:10.15080/agcjchikyukagaku.75.2_147