ペーパーレス
ペーパーレス(英: paperless)またはペーパーレス化(ペーパーレスか)は、紙媒体を電子化してデータとして活用・保存すること。広義では、書籍やチケットの電子化、切符のICカード化なども含まれる。主に効率化やコスト削減、環境保護を目的とする。「ペーパレス」や「ペーパレス化」とも呼ばれる[1][2]。
日本
[編集]日本においては、1970年代、PCが会社で導入・実用化され始めたころ、OA機器会社がペーパーレスを打ち出したが、当時は技術も環境も整っておらず浸透しなかった[3]。
1990年代半ば、PCが普及し、社内ネットワークの導入が始まる。コストやエコの観点からオフィスにおける紙の大量消費が問題視され、再生紙の利用などとともにペーパーレス化の必要性が叫ばれるようになった。しかし、当時はスキャナやストレージも高額だったことやネットワークが未成熟だったこと、さらに制度の問題もあり、やはり広く普及しなかった[3]。
こうしたなかで、政府はペーパーレス化の推進のため、1998年に電子帳簿保存法を、2004年と2005年にe-文書法を制定。法律で保管が義務づけられている文書について、紙文書だけでなく電子化された文書ファイルでの保存が認められるようになった。また、2019年と2022年には衆議院規則などを改正し、紙の印刷物を議員に配る根拠となっていた規定を改めた。質問主意書とその答弁書、議事録、官報の紙での配布を取りやめることにより、あわせて年間約1億4300万円の経費削減が見込まれている[4][5]。
教育においては、文部科学省のGIGAスクール構想により、デジタル教科書や児童生徒1人1台コンピュータなどが推進されている[6]。
こうした取り組みもあって、1990年に年間約924万トン、2005年に約1199万トンあった「印刷・情報用紙」の内需量は、2022年には約611万トンに減少した[7]。
このほかにも、デジタルトランスフォーメーション(DX)やコロナ禍におけるテレワーク推進を受け、脱ハンコのための法律の制定、デジタル庁の発足など、ペーパーレス化や電子化の動きが強まっている[8]。
海外
[編集]米国
[編集]米国では、1999年と2000年に、電子署名による契約および電子記録の有効性・法的効力を保証する法律が制定され、州間および海外との貿易における電子記録・電子署名の利用を認められた。それと合わせるように大手IT企業のクラウドサービスやデバイス、ソーシャルメディアが普及し、文書管理のためのDropboxなどのクラウドストレージサービスやSlackなどのコミュニケーションツールなどによりペーパーレスが浸透。また、日本では2018年に実証実験が始まった電子レシートだが、米国では2014年にウォルマートが国内全店舗に展開している。米国における紙の使用量は、2010年では一人当たり約240kgだったのに対し、2016年では約209kgと、6年間で約30kg減少した[9]。
エストニア
[編集]エストニアでは、2002年にeIDカードが発行され[10]、15歳以上の国民は電子IDが義務化されている。エストニアの行政サービスのほぼ全ては電子認証と電子署名で完結する(紙での手続きが必要なのは、結婚・離婚・不動産売却のみとのこと)。これらはX-Roadというシステムを介して行われる。X-Roadには医療や社会保障、金融などの公的情報も蓄積され、自身で管理することもできる。政府文書も99%電子化されているほか、世界で初めて国政選挙にインターネット投票を導入したのもエストニアである[9]。
民間では、公共交通や銀行、医療、保健、旅券などあらゆるサービスが電子化されており、前述の電子IDによる認証・署名は、これらのサービスだけでなく、企業間の取引でも効力を持つ[9]。
環境負荷との関係
[編集]紙の生産には、原料となる森林を伐採する必要があり、紙の大量生産によって二酸化炭素 (CO2)を酸素に変える森林が減少しているほか、紙の生産・廃棄の過程でCO2が排出されることから、地球温暖化への影響が懸念されている。そのため、紙を節約するペーパーレス化は環境保全の取り組みとしても重要視されている[1]が、使用電力が増えることによるCO2排出量の増大や、タブレット機器の増加による資源消費の増加などの課題があり、これらの課題に対応する環境整備の取り組みの必要性も指摘されている。取り組みの代表例としては、エネルギーを再エネにする、タブレット機器はなるべく中古を購入したり、長く利用したりする、定期的に不要なファイルを削除するルールを決めるといったことが挙げられている[11]。
脚注
[編集]- ^ a b “ペーパーレス化とは?意味や取り組みのメリット、成功事例を紹介!”. ワークフロー総研 (2024年2月29日). 2024年3月21日閲覧。
- ^ “ペーパーレス化で業務改善・効率化!SDGsにもつながるペーパーレスについて徹底解説”. コラボスタイル (2021年8月31日). 2022年8月9日閲覧。
- ^ a b “なぜ今「ペーパーレス」が再注目されているのか?”. ITmedia (2018年8月28日). 2022年8月9日閲覧。
- ^ “質問主意書をペーパーレス化 衆院規則改正”. 日本経済新聞 (2019年5月30日). 2022年8月9日閲覧。
- ^ “衆院の議事録などをペーパーレス化 年間9700万円の削減”. テレ朝news (2022年4月7日). 2022年8月9日閲覧。
- ^ “GIGAスクール構想による1人1台端末環境の実現等について”. 文部科学省. 2024年3月21日閲覧。
- ^ “製紙産業の現状|紙・板紙”. 日本製紙連合会. 2022年8月9日閲覧。
- ^ “DXの入り口となるペーパーレス化。その重要性とメリットを解説”. 日本HP (2022年9月5日). 2024年3月21日閲覧。
- ^ a b c “究極のペーパレス国家 エストニア”. TECH+ (2018年8月6日). 2022年8月9日閲覧。
- ^ “エストニアIDカードの利用状況”. 総務省 (2007年2月1日). 2022年8月9日閲覧。
- ^ “環境負荷削減の観点におけるペーパーレス化。注意すべきことは?”. まもりの種(株式会社日本パープル) (2022年1月19日). 2022年8月9日閲覧。