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ヘルクレス座イオタ星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヘルクレス座ι星
ι Herculis
星座 ヘルクレス座
見かけの等級 (mv) 3.80[1]
変光星型 ケフェウス座β型[2]
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  17h 39m 27.8860861s[3]
赤緯 (Dec, δ) +46° 00′ 22.800110″[3]
視線速度 (Rv) -18.9 km/s[3]
固有運動 (μ) 赤経: 7.48 ミリ秒/[3]
赤緯: 4.53 ミリ秒/年[3]
年周視差 (π) 7.17 ± 0.13ミリ秒[3]
(誤差1.8%)
距離 455 ± 8 光年[注 1]
(139 ± 3 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) -1.9[注 2]
ヘルクレス座のバイエル符号を示した図。ι星は図右下、ヘルクレスの足許に位置する。
ヘルクレス座のバイエル符号を示した図。ι星は図右下、ヘルクレスの足許に位置する。
物理的性質
半径 5.4 ± 0.2 R[4]
質量 6.7 ± 0.2 M[5]
表面重力 6.4 G[5][注 3]
自転速度 6 ± 1 km/s[5]
スペクトル分類 B3 IV[6]
光度 2,500 L[注 4]
表面温度 17,500 ± 200 K[5]
色指数 (B-V) -0.179[1]
色指数 (U-B) -0.702[1]
金属量[Fe/H] -0.47[7]
年齢 47.6 ± 5.6 ×106[8]
軌道要素と性質
軌道長半径 (a) 7.4 ± 0.8 ×106 km[9]
離心率 (e) 0.55 ± 0.04[9]
公転周期 (P) 112.825 [9]
他のカタログでの名称
ヘルクレス座85番星, BD+46 2349, FK5 663, HD 160762, HIP 86414, HR 6588, SAO 46872
Template (ノート 解説) ■Project

ヘルクレス座ι星(ヘルクレスざイオタせい、ι Herculis、ι Her)は、ヘルクレス座にある多重星で、少なくとも2つの恒星連星系を形成し、主星は脈動変光星である[10][5]ヒッパルコス衛星が測定した年周視差から計算された太陽系からの距離は、およそ455光年である[3]

外観

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ヘルクレス座ι星は見かけの等級が3.8と、肉眼でみることができる明るさである[1]。ヘルクレス座から、りゅう座の頭部へ向かう途上に位置しており、りゅう座の頭部の星々の方が、ヘルクレス座の主な恒星よりも見かけ上の関係としては近しい[11]

北極星

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天の北極が、歳差により長期的に移動する軌跡。ヘルクレス座ι星は、“-10000”の目盛り近くの星。

ヘルクレス座ι星は、地球歳差によって天の北極天球上を移動する軌跡に近い位置にあって、肉眼でみえる明るさの恒星なので、時代によっては北極星となりうる。おおよそ紀元前1万1千年頃には、ヘルクレス座ι星が北極星となっていたものと考えられる。ただし、現在の北極星であるポラリスが天の北極から1と離れていないが、ヘルクレス座ι星は天の北極からおよそ4.5度離れていた[12]

北極星
ベガ ∼15000 AD ヘルクレス座τ星

星系

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ヘルクレス座ι星は多重星で、ワシントン重星カタログでは、Aa、Ab、Bと3つの恒星が収録されている[10]ヘルクレス座ι星Bは、シャーバーン・バーナムが発見した12等星で、元々ヘルクレス座ι星とされていた4等星のAから北東におよそ116の位置にある。発見からこのかた、ヘルクレス座ι星Aとの相対位置はほとんど変わっておらず、固有運動を共有しているとする見方もある[10][11]。ヘルクレス座ι星Aは、1970年代にスペックル干渉法の観測によって、南北方向に離角が167ミリ秒の2星に分解したとされ、元のヘルクレス座ι星Aがヘルクレス座ι星Aa、新たに検出された方がヘルクレス座ι星Abとしてカタログに収録されたが、ヘルクレス座ι星Abが検出されたのはこの1度だけで、実在がはっきりしない[13][10]

一方で、ヘルクレス座ι星 (A) は視線速度の周期的な時間変化から、分光連星であることがわかっており、その公転周期は約113離心率は0.55と細長い楕円軌道で、軌道長半径の下限値は740万kmと推定されている[14][9]質量関数英語版から予想した伴星の質量は、太陽の4割以下と低く、白色矮星か、さもなければ赤色矮星ではないかとみられる[5]

特徴

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ヘルクレス座ι星は、での水素燃焼段階を終えたばかり、或いは間もなく終えるとみられるB型準巨星で、スペクトル型はB3 IVと分類される[11][6]。質量は太陽の6.7倍程度、半径太陽の5.4倍程度で、太陽に比べると大きい恒星である[5][4]有効温度は17,500K光度太陽の2500倍に及ぶとみられる[5]

ヘルクレス座ι星は、B型星としてはかなり自転速度が遅く、6 km/s以上と推定されている[5]。そのため、吸収線スペクトルも細く深くなっており、視線速度測定や元素同定に有用で、分光観測の標準星としてよく用いられている[4]

変光

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分光観測に基づく時間変化は、連星の公転によるものだけでなく、1970年代以降吸収線輪郭の短時間周期での変動が報告されるようになった。そして、測光観測においても、それと同程度の短時間周期での変化が検出された。紫外域において、3時間前後の周期で振幅0.01等の変光が確認され、おおいぬ座β星との類似が指摘された[15]変光星総合カタログでも、おおいぬ座β星と同じケフェウス座β型変光星に分類されている[2]

その後、より詳しい変光の周期解析から1つだけ明確になった脈動周期は約3.5日で、これはケフェウス座β型よりもずっと長く、ヘルクレス座ι星がペルセウス座53番星英語版に代表されるゆっくり脈動するB型星(SPB)であることを示唆する。ケフェウス座β型に適合する周期も検出されているが、データによってみえたりみえなかったりであるため、ヘルクレス座ι星がSPBとケフェウス座β型の混合型で、ケフェウス座β型の脈動は突発的に現れる、という仮説も立てられている[9]

名称

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中国では、ヘルクレス座ι星は「天上の唐棹」を示す天棓拼音: Tiān Bàng)という星官を、りゅう座ξ星りゅう座ν星りゅう座β星りゅう座γ星と共に形成する。ヘルクレス座ι星自身は、天棓五拼音: Tiān Bàng wu)つまり天棓の5番星と呼ばれる[16]

脚注

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注釈

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  1. ^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
  2. ^ 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
  3. ^ 出典での表記は、
  4. ^ シュテファン=ボルツマンの法則により計算。

出典

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  1. ^ a b c d Mermilliod, J. C. (2006-05), “Homogeneous Means in the UBV System”, VizieR On-line Data Catalog: II/168, Bibcode2006yCat.2168....0M 
  2. ^ a b Samus, N. N.; et al. (2009-01), “General Catalogue of Variable Stars”, VizieR On-line Data Catalog: B/gcvs, Bibcode2009yCat....102025S 
  3. ^ a b c d e f g iot Her -- Variable Star of beta Cep type”. SIMBAD. CDS. 2020年5月24日閲覧。
  4. ^ a b c Wade, G. A.; et al. (2014-11), “A search for weak or complex magnetic fields in the B3V star ι Herculis”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 444 (3): 1993-2004, Bibcode2014MNRAS.444.1993W, doi:10.1093/mnras/stu1541 
  5. ^ a b c d e f g h i Nieva, M. -F.; Przybilla, N. (2012-03), “Present-day cosmic abundances. A comprehensive study of nearby early B-type stars and implications for stellar and Galactic evolution and interstellar dust models”, Astronomy & Astrophysics 539: A143, Bibcode2012A&A...539A.143N, doi:10.1093/mnras/stu1541 
  6. ^ a b Lesh, Janet Rountree (1968-12), “The Kinematics of the Gould Belt: an Expanding Group?”, Astrophysical Journal Supplement Series 17: 371-444, Bibcode1968ApJS...17..371L, doi:10.1086/190179 
  7. ^ Grigsby, James A.; Mulliss, Christopher L.; Baer, Gretchen M. (1996-11), “The Iron Abundance of ι Herculis”, Publications of the Astronomical Society of the Pacific 108 (729): 953-961, Bibcode1996PASP..108..953G, doi:10.1086/133819 
  8. ^ Lyubimkov, Leonid S.; et al. (2002-06), “Surface abundances of light elements for a large sample of early B-type stars - II. Basic parameters of 107 stars”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 333 (1): 9-26, Bibcode2002MNRAS.333....9L, doi:10.1046/j.1365-8711.2002.05341.x 
  9. ^ a b c d e Chapellier, E.; et al. (2000-10), “he observational status of the Slowly Pulsating B star ι Herculis”, Astronomy & Astrophysics 362: 189-198, Bibcode2000A&A...362..189C 
  10. ^ a b c d Mason, Brian D.; et al. (2019-10), “The Washington Visual Double Star Catalog”, VizieR On-line Data Catalog: B/wds, Bibcode2019yCat....102026M 
  11. ^ a b c Kaler, James B.. “IOTA HER (Iota Herculis)”. Stars. University of Illinois. 2020年6月24日閲覧。
  12. ^ Rappenglück, Michael A. (2000), “Ice age people find their ways by the stars: A rock picture in the Cueva di El Castillo (Spain) may represent the circumpolar constellation of the Northern Crown (CrB)”, Migration & Diffusion - an international journal 1 (2): 15-28, https://www.migration-diffusion.info/article.php?subject=astronomy&id=32 
  13. ^ Blazit, A.; et al. (1977-06), “The digital speckle interferometer: preliminary results on 59 stars and 3C 273”, Astrophysical Journal 214: L79-L84, Bibcode1977ApJ...214L..79B, doi:10.1086/182447 
  14. ^ Abt, Helmut A.; Levy, Saul G. (1978-02), “Binaries among B2-B5 IV, V absorption and emission stars”, Astrophysical Journal Supplement Series 36: 241-258, Bibcode1978ApJS...36..241A, doi:10.1086/190498 
  15. ^ Chapellier, E.; et al. (1987-04), “Short period variations in ι Herculis”, Astronomy & Astrophysics 176 (2): 255-261, Bibcode1987A&A...176..255C 
  16. ^ 陳, 久金 (2005) (中国語). 中國星座神話. 台灣書房出版有限公司. ISBN 978-986-7332-25-7 

関連項目

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外部リンク

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座標: 星図 17h 39m 27.8860861s, +46° 00′ 22.800110″