コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

恋愛的指向

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

恋愛的指向(れんあいてきしこう、英語: romantic orientation)、あるいはロマンティック・オリエンテーションは、いずれの性別に対して恋愛感情をいだくか、に関する傾向のことである[注 1]

概要

[編集]

性的指向」という用語の替わりに使われることもあれば、並列的に使われることもある。たとえば、性自認性的指向は必ずしも同調しているわけではない。例えば、性自認が男性だとしても性的指向がガイネセクシュアルとは限らないし、性自認が女性だとしても性的指向がアンドロセクシュアルとは限らない。それと同じく、性的指向(性愛的指向)と恋愛的指向も必ずしも一致しているわけではない。例えば、性愛の対象は男性(アンドロセクシュアル)であるけれども、恋愛の対象はジェンダーを問わない(パンロマンティック)、ということがありうる。「恋愛的指向」とは、このようなことを表現するための概念である。後述するように、特に無性愛者にとって、恋愛的指向は性的指向よりも有用な指標である場合が多い[1][2]

種別

[編集]

恋愛感情に関するアイデンティティを表す当事者の間で用いられている用語としての詳細は、性的同一性と性自認の一覧#恋愛的指向(romantic orientation)に記述されている。

性的同一性と性自認の一覧#恋愛的指向(romantic orientation)にあるように、これらの語を組み合わせることで、別のあるいはより詳細な恋愛的指向性を表現することができる。例えば、デミアンドロロマンティックは、強く情緒的に結びついた男性に対してのみ恋愛感情をいだく指向性を指す。また、グレーバイロマンティックは、両性に対して恋愛感情をいだくが、その程度や頻度が高くない指向性を指す。

性的指向と同様、主体や客体の「性」をどのように定義するかによって、恋愛的指向を表す言葉の意味は影響を受ける。上記の例では、エイ・パン・グレー・デミ・リスロマンティックは主客の「性」に依存しない概念であるが、その他の語は主客の「性」に依存した概念であるから「性」の定義によって言葉の意味が変わる。セクシュアル・バリエーションも参照

使用例・組合せ

[編集]

無性愛者(Asexual)のなかにも、恋愛的に惹かれるという人はいる。このような人はロマンティック・アセクシュアル(romantic asexual)と呼ぶ。恋愛感情をいだかない無性愛者はアロマンティック・アセクシュアル(aromantic asexual)と呼ぶ。また、性的に惹かれることはあるが、恋愛的に惹かれることのない人もいる。この場合はアロマンティック・セクシュアル(aromantic sexual)と呼ぶ。また、性別を問わずあらゆる人に性的魅力を感じるが、恋愛的に惹かれるのは異性だけだという人は、ヘテロロマンティック・パンセクシュアル(Heteroromantic pansexual)と呼ぶ。

このように、個人の恋愛的指向と性的指向とを併記することができる。

性的指向とアセクシュアルの関係

[編集]

恋愛的指向と性的指向の区別の意味は完全には認識されておらず、広く研究されてこなかった[3]。文献で性的指向を説明する場合、性的魅力と恋愛的 (または恋愛と同等の) 魅力の両方の要素を含むものとして記述することはよくある[4][3]。性的指向と恋愛的指向の関係を調査した文献は限られているが、情報収集が困難となる原因は、研究調査の参加者が性的な魅力と恋愛的な魅力を特定したり区別することが困難であることにある[4][5][6]。アセクシュアルの個人は、他人にほとんどあるいは全く性的魅力を感じないが(グレーアセクシュアル)、それでも恋愛的魅力は経験することがある[7][8]Lisa M. Diamond英語版は、人の恋愛的指向は、その個人が誰に性的な魅力を感じるかとは異なる可能性があると述べている[9]。 個人における性的魅力と恋愛的魅力の不一致に関する研究は限られているが、魅力の感じ方には流動性や多様性がある可能性が、徐々に認識されてきている[10][11]。研究者のBulmerとIzumaは、アロマンティックと自認する人は恋愛的な関係により否定的な態度をとることが多いことを発見した。アセクシュアルを自認する人は人口の約1%であるが、そのうちの74%は何らかの形の恋愛的魅力を経験することが報告されている[12]

異なる魅力の区別を考慮した指向の概念化に関する最初の記録は、Karl Heinrich Ulrichs英語版が1879年に出版した、非異性愛的な魅力に関する12冊の本である。これらの本の中で、Ulrichsは現代のLGBTのアイデンティティと非常によく似た複数の分類を提示した。作品の中で、彼は「konjunktiver Uranodioning英語版(conjunctive bisexuality)」と「disjunktiver Uranodioning(disjunctive bisexuality)」という概念について説明している。前者は男性と女性の両方に愛情と情熱を感じる人のことで、現代の「バイロマンティック・バイセクシュアル(biromantic bisexual)」に相当する。後者は、同じジェンダー/性別の人に愛情を感じるが、異なるジェンダー/性別の人々に「恋する」気持ちを感じる人のことで、現在の「ヘテロロマンティック・ホモセクシュアル(heteroromantic homosexual)」に相当する。しかし、Ulrichsのモデルは、その複雑さのために有名になることはなかった[13][14]

性的魅力と恋愛的魅力を区別する例としては、心理学者Dorothy Tennov英語版による1979年の著書『Love and Limerence – the Experience of Being in Love』の出版が挙げられる。Tennovはこの本で、リメレンス英語版を誰かへの片思い英語版として説明できる魅力の一種として記述している。Tennovはセックスをリメレンスの一部と見なしていたが、彼女はそれが主な焦点ではないことを認識していた[15]。 「ノンリメレント」という用語は、アロマンティックの前身と考えられることがある[16][17]

恋愛的指向の流動性

[編集]

恋愛的指向の流動性(英語: romantic orientation fluidity)は文字通り恋愛的指向が流動的に変化する(しうる)こと、あるいはそのような流動性を示す恋愛的指向を意味する。アロマンティックからロマンティックに変化したり、パンロマンティックからホモロマンティックに変化したりするとき、これらを前者の意味のフルイド(流動)と呼ぶ。ガイネロマンティックとアンドロロマンティックとの間で揺れ動くような恋愛的指向(これはしばしばバイロマンティックと同一視される)は後者の意味のフルイドの例である。性的流動性の項も参照。

関連項目

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ ただし、デミロマンティックやオートロマンティックのように、しばしば性別以外を客体の要件とする[要出典]概念も恋愛的指向として扱われる。また、アロマンティックやグレーロマンティックは、客体の性別ではなく、恋愛的惹かれの有無や強さ、頻度に関する概念である。さらに、リスロマンティックは、恋愛に関するより具体的な願望や選好の様態にまで踏み込んだ概念である。これらも恋愛的指向として扱われている。したがって、(広義の)恋愛的指向は必ずしも恋愛的惹かれの対象の性別に関する傾向性だけを意味するわけではない[要出典]

出典

[編集]
  1. ^ Richards, Christina; Barker, Meg (2013). Sexuality and Gender for Mental Health Professionals: A Practical Guide. SAGE. pp. 124–127. ISBN 1-4462-9313-0. Retrieved July 3, 2014.
  2. ^ Cerankowski, Karli June; Milks, Megan (2014). Asexualities: Feminist and Queer Perspectives. Routledge. pp. 89–93. ISBN 1-134-69253-6. Retrieved July 3, 2014.
  3. ^ a b Bogaert, Anthony F. (2012). Understanding Asexuality. Rowman & Littlefield Publishers, Inc.. p. 14. ISBN 978-1442200999. https://books.google.com/books?id=O3v27O00GEYC April 12, 2015閲覧。 
  4. ^ a b Houdenhove, Ellen Van; Gijs, Luk; T'Sjoen, Guy; Enzlin, Paul (April 21, 2014). “Asexuality: A Multidimensional Approach”. The Journal of Sex Research 52 (6): 669–678. doi:10.1080/00224499.2014.898015. ISSN 0022-4499. PMID 24750031. 
  5. ^ Savin-Williams, Ritch C.; Vrangalova, Zhana (2013). “Mostly heterosexual as a distinct sexual orientation group: A systematic review of the empirical evidence”. Developmental Review 33 (1): 58–88. doi:10.1016/j.dr.2013.01.001. ISSN 0273-2297. 
  6. ^ Priebe, Gisela; Svedin, Carl Göran (2013). “Operationalization of Three Dimensions of Sexual Orientation in a National Survey of Late Adolescents”. The Journal of Sex Research 50 (8): 727–738. doi:10.1080/00224499.2012.713147. ISSN 0022-4499. PMID 23136981. 
  7. ^ Hooking Up: The Psychology of Sex and Dating. ABC-CLIO. (2015). p. 32. ISBN 978-1610699518. https://books.google.com/books?id=O3K9CgAAQBAJ&pg=PA32 
  8. ^ Introducing the New Sexuality Studies. Routledge. (2016). p. 183. ISBN 978-1317449188. https://books.google.com/books?id=SEmTDAAAQBAJ&pg=PA183 
  9. ^ Diamond, Lisa M. (2003). “What does sexual orientation orient? A biobehavioral model distinguishing romantic love and sexual desire.”. Psychological Review 110 (1): 173–192. doi:10.1037/0033-295X.110.1.173. ISSN 1939-1471. PMID 12529061. 
  10. ^ Lund, Emily M.; Thomas, Katie B.; Sias, Christina M.; Bradley, April R. (2016-10-01). “Examining Concordant and Discordant Sexual and Romantic Attraction in American Adults: Implications for Counselors”. Journal of LGBT Issues in Counseling 10 (4): 211–226. doi:10.1080/15538605.2016.1233840. ISSN 1553-8605. 
  11. ^ Weinrich, James D.; Klein, Fritz; McCutchan, J. Allen; Grant, Igor; Group, The HNRC (2014-07-03). “Cluster Analysis of the Klein Sexual Orientation Grid in Clinical and Nonclinical Samples: When Bisexuality Is Not Bisexuality”. Journal of Bisexuality 14 (3–4): 349–372. doi:10.1080/15299716.2014.938398. ISSN 1529-9716. PMC 4267693. PMID 25530727. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4267693/. 
  12. ^ Antonsen, Amy N.; Zdaniuk, Bozena; Yule, Morag; Brotto, Lori A. (2020-07-01). “Ace and Aro: Understanding Differences in Romantic Attractions Among Persons Identifying as Asexual” (英語). Archives of Sexual Behavior 49 (5): 1615–1630. doi:10.1007/s10508-019-01600-1. ISSN 1573-2800. https://doi.org/10.1007/s10508-019-01600-1. 
  13. ^ Split Attraction Model (A Guide) | OptimistMinds” (英語) (2020年4月6日). 2022年8月1日閲覧。
  14. ^ Kennedy, Hubert (2013-01-11), “Karl Heinrich Ulrichs, First Theorist of Homosexuality”, Science and Homosexualities (Routledge): pp. 33–52, ISBN 978-0-203-39025-2, https://doi.org/10.4324/9780203390252-7 2022年8月1日閲覧。 
  15. ^ Case study: Is my current relationship bound to be unfulfilling because it is non-limerent? - Living with Limerence” (英語). livingwithlimerence.com (2018年3月12日). 2022年8月1日閲覧。
  16. ^ Love and Limerence: The Experience of Being in Love (Dorothy Tennov)”. dannyreviews.com. 2022年8月1日閲覧。
  17. ^ Elgie, Evelyn (2020). Being and doing : interrogating dominant narratives of asexual kinship in an amatonormative culture (Thesis). University of British Columbia.