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ブルム (食品)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
板状の菓子であるブルム

ブルムBrem)は、インドネシア菓子および醸造酒。菓子はBrem cakeライスワインBrem wineとも呼ばれる[1]。なお、Bremはジャワ語などの雑穀を発酵させた液体を意味する[2]

菓子のブルム

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菓子のブルムは薄い板状、ないし円板状で白色を呈し、アルコールの微香がする[2]。やや酸味があり、口内に含むと速やかに溶けて爽やかな風味が広がる[2]ジャワ島の中部から東部にかけ、市場で山積みにして販売されている[2]を十分に糖化させた上で濃縮するため、成分のほとんどは糖質であり、60 - 70%をブドウ糖などの還元糖が占める[3]。また5 - 18%程度がデンプンであり、発酵によって生じたわずかな乳酸アルコールも含まれる[3]

産地

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マディウンウオノギリ英語版が有名な産地であり、それに応じてブルムマディウンブルムウオノギリとも呼ばれる[2][4]。前者は淡い黄褐色で矩形のものが多く、後者は白色で円板状のものが多い[4]。なお実際の産地は、マディウンから東北に30km離れたカルバンインドネシア語版やウオノギリの郊外であり、そのほかボヨラリ英語版などでも製造されている[4]

製法

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白粳米を原料とし、2 - 4時間かけて十分に浸水させてから1時間ほど蒸し煮する[4]。室温まで放冷した後、糖化のために粉末状に砕いたのラギを散布する[4][注釈 1]またはプラスチック製のに米飯を移し、バナナポリエチレンのシートで包み、毎日ほぐしながら3 - 5日かけて固体発酵させる[4]。水は加えないが、1日後には淡黄色の糖化液が底に貯まり始める[4]。この際、デンプンはSaccharomycopsisやクモノスカビケカビによって分解され、サッカロミケス属酵母によってアルコール発酵が進行する[3]

糖化が完了すると、甘酸っぱいのような香りを有するもろみが得られる[4]タペ・クタン[注釈 2])。もろみを圧搾し、淡い灰茶色の糖液が得られたら、大鍋に移して煮て濃縮させる[7]。適度な濃度になったら深い容器に移して撹拌して空気を取り込み、白くなったら熱いうちに型板の上に流し込む[3]。この際、板にはバナナの葉やポリエチレンのシートを敷いておき、状の糖液をへらで練りながら延ばす[3]。2日間乾燥させるとブルムが完成し、切って成形して包装する[3]。円板状にする場合は、型板に延ばす際に円形に整える[3]

醸造酒のブルム

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バリ島醸造酒のブルム

ライスワインのブルムはバリ島のものが有名であり、ブルムバリとも呼ばれる[1][8]。バリ島では観光客向けにサヌールの工場で生産され、ングラ・ライ国際空港や土産物屋などで販売されている[9]。また、農村部で流通しているブルムの大半はロンボク島で生産されているが、島内のカランガスム県などでも醸造が行われている[9]2010年の調査によれば、農村ではトゥアックなどとともに販売され、価格は500ml入りで13,000ルピア(当時の為替レートで約130)であった[10]

バリ・ヒンドゥーにおけるブルム

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ブルムはバリ・ヒンドゥーの儀式にも用いられ、アラックなどとともに地面に注がれる[8]。また、ピトラ・ヤドニャにおいては祖霊に捧げられる[8]赤米を原料としたブルムはアントシアニン系の色素によって赤色を呈し、ブラフマーを象徴するとされる[5][11]。また、白米を用いたブルムは黄色を呈する[11]ヒンドゥー教マジャパヒト王国時代はジャワ島でも盛んに飲まれていたが、イスラム教が優勢な近年では酒のブルムは飲まれなくなった[11]

製法

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ブルムの醸造は固体並行発酵によるものであり、中国酒淋飯酒などの製法と類似している[8]トーマス・ラッフルズ1817年に書いた『ジャワ史英語版』によれば、当時は以下のような製法が取られていた[8]もち米を大量に煮て、餅麹のラギを混合し、発酵が始まるまで蓋の開いたに入れておく[8]。続いて土器に入れて密封し、土の中に数か月間埋めてから、煮沸して濃縮する[8]。数年間貯蔵したものは、特に珍重される[8]

注釈

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  1. ^ ラギは9世紀に中国人がインドネシアに持ち込んだもので、製法は長い間中国人にのみ伝わる秘伝とされていた。[5]
  2. ^ タペ・ケタンとも[5]。ブルムはタペ・クタンの生産過程で得られる副生物である。[6]

脚注

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参考文献

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  • 山崎真之「インドネシア・バリ島の「密造酒」醸造にみる社会的コンテクストに関する研究 : バリ島東部農村地域の事例を中心として」『生活學論叢』第22巻、日本生活学会、2013年、3-16頁、NAID 110009611588 
  • 小崎道雄、飯野久和、クスワント・カプティ・ラハユ「ジャワ島の発酵糖菓子:ブルム」『昭和女子大学大学院生活機構研究科紀要』第6巻、昭和女子大学、1997年、101-106頁、NAID 110004727149 
  • 松山晃、永ノ尾信悟「古代ジャワの酒とインド・中国の影響」『日本醸造協会誌』第92巻第3号、日本醸造協会、1997年、195-202頁、doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.92.195 
  • 小崎道雄「インドネシアの特異な発酵食品」『日本醸造協会雑誌』第81巻第12号、日本醸造協会、1986年、824-829頁、doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.81.824 
  • Jenny K.D. SAONO、細野明義、友松篤信、加藤清昭、松山晃「インドネシアにおけるラギとその発酵食品への利用」『日本食品工業学会誌』第29巻第11号、日本食品科学工学会、1982年、685-692頁、doi:10.3136/nskkk1962.29.11_685 
  • 金子正徳「現代インドネシアにおける食の変化 : 伝統的発酵食品タペ(tape/tapai)の事例から」(PDF)『食生活科学・文化及び環境に関する研究助成研究紀要』第22巻、アサヒビール学術振興財団、2007年、75-87頁、NAID 40018869404