コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ブラジルカイマン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ブラジルカイマン
生息年代: 後期更新世現世, 0.1–0 Ma[1]
保全状況評価[2]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: ワニ目 Crocodilia
: アリゲーター科 Alligatoridae
: コビトカイマン属 Paleosuchus
: ブラジルカイマン P. trigonatus
学名
Paleosuchus trigonatus
(Schneider1801)
シノニム
  • Crocodilus (Alligator) trigonatus (Merrem, 1820)
  • Champsa trigonata (Wagler, 1830)
  • Alligator palpebrosus (Dumeril and Bibron, 1836)
  • Caiman trigonatus (Gray, 1844)
  • Caiman (Paleosuchus) trigonatus (Gray, 1862)
  • Jacaretinga trigonatus (Vaillant, 1898)
  • Paleosuchus niloticus (Muller, 1924)
  • Crocodylus niloticus (Werner, 1933)
英名
Smooth-fronted caiman
Schneider's dwarf caiman
Schneider's smooth-fronted caiman
分布

ブラジルカイマン(学名:Paleosuchus trigonatus)はコビトカイマン属に分類されるワニの一種。別名シュナイダームカシカイマン[4]南アメリカアマゾン川オリノコ川流域に分布する。アリゲーター科の中では同属のコビトカイマンに次いで小さい。成体は通常全長約1.2-1.6m、体重9-20kgである。大型の雄は全長2.3m、体重36kgに達する。

名称

[編集]

属名はギリシア語で「古代のワニ」を意味し、約3000万年前に他のカイマンから分岐した系統に属することに由来する[4]。種小名はギリシア語で「3つの角を持つ」を意味し、三角形の頭に由来する[5]

分類

[編集]

1801年にドイツ博物学者であるヨハン・ゴットロープ・テアエヌス・シュナイダーによって記載された。本種とコビトカイマンの2種でコビトカイマン属を構成する。同属は眼窩間の隆起が無く、前上顎部に4本の歯があり、他のカイマンでは5本である[5]。現生のカイマン亜科の関係は、分子系統学的研究に基づき、以下の系統樹で示される[6]

アリゲーター科
カイマン亜科

コビトカイマン

ブラジルカイマン

Jacarea

Caiman crocodilus メガネカイマン

Caiman yacare パラグアイカイマン

Caiman latirostris クチビロカイマン

クロカイマン

アリゲーター亜科

ヨウスコウアリゲーター

アメリカアリゲーター

形態

[編集]

頭部はメガネカイマンと似るが、目の間に隆起が無い。頸鱗板と尾の鱗板は大きく鋭い三角形で、背側と腹側の両面は頑丈な皮骨で覆われる。尾は比較的短く、基部は広く縦扁する。尾櫛は横に突出し、尾は比較的頑丈である。体は暗い灰褐色で、目は茶色である。頭部が黄褐色で、水中の落ち葉への擬態になると考えられている[7][8]。雄は全長約1.7-2.3mで、最大全長2.6mの記録がある。雌は1.4mを超えることは珍しい。体格の割に力強く、首を上に向けて頭を高く上げる傾向がある[5][9]

分布と生息地

[編集]

南米アマゾン川オリノコ川流域に分布し、ボリビアブラジルコロンビアエクアドルフランス領ギアナガイアナペルースリナムベネズエラから知られる[7][8][2]森林内の細流に生息する[7]。主に身を潜めた生活を送るため、自然下では日光浴を行わない[7][8][9][10]

生態と行動

[編集]
幼体

水中の巣穴や、水から100mほど離れた深い下草の中、丸太の中、倒木の下に身を潜めており、日中に観察されることは珍しい[8][9]。雄は縄張り意識が強く、雌の行動圏は狭い[10]。成体は半水生であり、主にヤマアラシパカヘビトカゲなどの動物を捕食し、軟体動物はほとんど食べない。幼体は孵化後数週間は主に昆虫やその他の節足動物を食べ、成長するにつれて小魚、鳥、爬虫類など、より大きな獲物を食べるようになる[9][11]。成体の死亡率は低いが、ジャガーなどの大型肉食動物に捕食されることもある[5]

雌は約11歳、雄は約20歳で性成熟する[10]。雌は乾季の終わりに落ち葉と土で大きな塚状の巣を作るが、既存の巣を使うこともある。古巣の上に新しく産卵巣を作ることで、古巣が地面との間で断熱材の効果をすると考えられている[8]。10-15個の卵を産み、上から植物で覆う。植物の腐敗によって熱が発生するため、巣内に熱を供給する。巣はシロアリ蟻塚の側面に作られることが多く、シロアリの熱によって巣内温度が31-32℃に保たれる[4][9]。抱卵期間は約115日で、雌は少なくとも抱卵期間の前半は巣の近くに留まり、捕食者から卵を守る。その間にシロアリの塚が拡大し、土が卵を固めてしまうことがある。そのため、孵化の際に幼体が巣から脱出できるように親の助けが必要である。孵化したばかりの幼体を運んだ後、雌は幼体が独立するまで数週間世話をする。雌が再び繁殖するまで数年かかることもある[4][9]

人との関わり

[編集]

皮は頑丈に骨化しており、革目的の狩猟の対象とならない。ガイアナではペット目的で捕獲されている。森林伐採と、金の採掘活動による環境汚染が脅威である。野生個体数は100万頭以上と推定されており[5]IUCNレッドリストでは低危険種とされている。乱獲を制限するため、ワシントン条約の付属書IIに掲載されている[2]

出典

[編集]
  1. ^ Rio, J. P. & Mannion, P. D. (2021). “Phylogenetic analysis of a new morphological dataset elucidates the evolutionary history of Crocodylia and resolves the long-standing gharial problem”. PeerJ 9: e12094. doi:10.7717/peerj.12094. PMC 8428266. PMID 34567843. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8428266/. 
  2. ^ a b c Campos, Z.; Magnusson, W.E.; Muniz, F. (2019). Paleosuchus trigonatus. IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T46588A3010035. doi:10.2305/IUCN.UK.2019-1.RLTS.T46588A3010035.en. https://www.iucnredlist.org/species/46588/3010035 2024年11月27日閲覧。. 
  3. ^ Appendices CITES”. cites.org. 2024年11月27日閲覧。
  4. ^ a b c d 中井穂瑞嶺『ディスカバリー 生き物再発見 ワニ大図鑑』誠文堂新光社、2023年4月15日、147頁。ISBN 978-4-416-52371-1 
  5. ^ a b c d e Britton, Adam (2009年1月1日). “Paleosuchus palpebrosus (Schneider, 1807)”. Crocodilian species list. 2023年1月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年11月4日閲覧。
  6. ^ Bittencourt, Pedro Senna; Campos, Zilca; Muniz, Fabio de Lima; Marioni, Boris; Souza, Bruno Campos; Da Silveira, Ronis; de Thoisy, Benoit; Hrbek, Tomas et al. (22 March 2019). “Evidence of cryptic lineages within a small South American crocodilian: the Schneider's dwarf caiman Paleosuchus trigonatus (Alligatoridae: Caimaninae)”. PeerJ 7: e6580. doi:10.7717/peerj.6580. PMC 6433001. PMID 30931177. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6433001/. 
  7. ^ a b c d 千石正一監修 長坂拓也編著 『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、154頁。
  8. ^ a b c d e 『動物たちの地球 101 両生類・爬虫類5 リクガメ・ワニほか』、朝日新聞社、1993年、141頁。
  9. ^ a b c d e f Ross, Charles A., ed (1992). Crocodiles and Alligators. Blitz. pp. 62, 121–124. ISBN 9781853910920 
  10. ^ a b c Magnusson, William E.; Lima, Albertina P. (1991). “The ecology of a cryptic predator, Paleosuchus tigonatus, in a tropical rainforest”. Journal of Herpetology 25 (1): 41–48. doi:10.2307/1564793. JSTOR 1564793. 
  11. ^ Paleosuchus trigonatus (Schneider's smooth-fronted caiman, Cachirre, Jacaré coroa.)”. Animal Diversity Web. 2024年11月28日閲覧。

外部リンク

[編集]

ウィキスピーシーズには、ブラジルカイマンに関する情報があります。

ウィキメディア・コモンズには、ブラジルカイマンに関するカテゴリがあります。